とある<マスター>のデンドロ記録   作:貴司崎

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最強だった理論(下)

 □レジェンダリア東部・<魔獣の森>

 

 獣戦士氏族の里へと続く獣道、そこに10人の人間がそれぞれ側にモンスターの様な犬・鳥・蠍・猪・蛇・ゴーレムなどを従えて、何やら殺気だった雰囲気で獣戦士氏族の里を目指して進んでいた。

 

「……この先か。NPC如きが超級職の転職条件を秘匿するなんて絶対に許さねぇ……!」

「俺のデンドロプレイ時間一年以上が全部無駄になった責任を取らせてやる……!」

「俺が、俺こそが最も【獣王(キング・オブ・ビースト)】に相応しかった筈なんだ……!」

「デンドロを辞める前に俺を舐め腐った事を後悔させてやる……!」

 

 彼等は総じてガードナー獣戦士理論を実践していた<マスター>であり側の獣達も彼等自身の<エンブリオ>であり、その物騒な発言から分かる通り【獣王】が自らのモノにならなかった事を獣戦士(ジャガーマン)氏族の所為にして報復しようとしている一団であった。

 まともな視点から見ればこんな事をしても【獣王】の座はもう手に入らないし、ティアンを襲うなどすれば高確率で指名手配されて今後の<Infinite Dendrogram>内での活動に大きな支障を来たすのは明白であり、実際転職条件を秘匿していた獣戦士氏族に不満を持った<マスター>は入れど襲撃まで行おうと考える者は少数に留まる。

 ……だが、此処にいる者達はゲーマーとしてガードナー獣戦士理論で“最強”となるべく心血を注いで来たからこその道が閉ざされて憎悪に燃える者、或いは先着一名様な超級職を取られて“最強”となる道が閉ざされた事でヤケになる程度の思慮を持つ者であり、そこに獣戦士氏族が転職条件を秘匿していた事を知らされて怒りを抱きこの様な行動を起こしたのだ。

 

「どうせこんなクソゲー辞めちまうんだから最後に好き勝手しても良いだろ」

「超級職ガードナー先着一名だけとかマジでクソ。運営はもっとゲームバランス考えろよ」

「ユニーク要素だらけのクソゲーなんてめちゃくちゃにしてやる……!」

「……そういうのは他所でやって貰えないもんかね。とりあえずそこで止まれ」

「「「ッ⁉︎ 誰だ!!!」」」

 

 そんな考えで異様な雰囲気を出しながら歩みを進める八つ当たり組を静止する声が獣道の先から突然響き、そちらを見ると【拡声の指輪】を使っている男性の<マスター>と狼を従えている女性の<マスター>、そしてその背後に巨大な円盤の様な物体が鎮座しているのが見えた。

 勿論その正体は八つ当たり組が近付いてきている事を知って“交渉”に来たプリンスとレフィー達である。実はモンスターが多数住んでいる森に住居を構えているだけあって獣戦士氏族は防衛用に里の周りに敵襲を感知できるマジックアイテムを多数配置しており、特に里へ繋がる獣道には盗聴・看破・鑑定眼・遠視などの効果を持つマジックアイテムを配置して“客人”の詳細を把握出来るようにしていたのだ。

 

「あ! コイツは例の情報にあったモノノケ・プリンスとか言う<マスター>! 獣戦士氏族に取り入って俺達に【獣王】の情報が回らない様にしたクソ野郎だ!!!」

「お前のせいで俺達へ【獣王】に就けなかったんだぞ!」

「……自己紹介の必要はなさそうだな。それでこの先は獣戦士氏族の里なんだがそんな物々しい雰囲気で一体何の様だ?」

「んなもん決まってるだろ! 俺達から【獣王】の座を奪ったお前とクソNPC共をブチ殺してやるんだよ! 散々<マスター>は歓迎するとか言っておきながら裏でコソコソしやがって!」

 

 そんな予想通り過ぎる逆恨み組の発言に内心でため息を吐くプリンスだったが実際超級職の条件を秘匿した上、とある<UBM(ユニーク・ボス・モンスター)>との戦いで戦力が減っていた獣戦士氏族の里を守る為に訪れた<マスター>達を長時間滞在させて上手く動かしていた側面もあったりしたのでどう答えるべきかと思案する。

 

「まあ落ち着けお前達、既に【獣王】の座が別の<マスター>の手に渡った以上はどれだけティアンを殺しても超級職が手に入る訳じゃないし、そんな事をしても監獄行きになるだけでそっちにメリットはないだろう? そもそも俺や獣戦士氏族も【獣王】には就けずに実際に就いたのはレジェンダリアに全く関係ないドライフの<マスター>だったんだから……」

「うるせぇ! そもそもお前らが転職条件秘匿したんだから先を越されたんだろうが! お前じゃなくて俺ならもっと早く条件を満たせてたんだ!」

「どうせこんなクソゲー辞めるんだから最後に邪魔をしたお前達を皆殺しにするんだよぉ!」

「そうか分かった、じゃあ殺す(PKする)か。《目覚めよ、神喰らいし大魔竜(ミドガルズオルム)》」

 

 そうして説得しようとしたプリンスだったが八つ当たり連中に話が通じないと判断した瞬間、自身にとって大切な仲間である獣戦士氏族を守る為に最善の手段──何をして来るか分からない<マスター>達を早急に抹殺するべく速攻で自らの()()()()()を行使した。

 

「な! いきなり必殺スキ『……GOAAAAAAAAAAAAAAAA!!!』

 

 必殺スキルの宣言と同時にプリンスの背後にあった円盤上の巨大な何か──トグロを巻きながらずっと眠っていた巨大な蛇型のドラゴンたるプリンスの<エンブリオ>【呪苦睡竜 ミドガルズオルム】が目覚めて大きく咆哮しながらその巨体を起き上がらせた。

 それを見た八つ当たり組は会話途中にいきなりの必殺スキル発動に驚くもすぐに自らのガードナーと共に戦闘態勢へと入るが、その一瞬の驚愕の隙に動いたミドガルズオルムが口から禍々しい色合いの瘴気を吐き出して八つ当たり組どころか周辺一体に数メートル先が見えなくなる程に濃度で蔓延させる。

 

「ゴホッ! これは煙幕……?」

「じゃねぇよ!【衰弱】と【泥酔】の状態異常を齎す瘴気の類いだ!」

「落ち着け! 奴のガードナーが病毒系スキルを使うのは聞いた情報にあっただろ!【快癒万能霊薬(エリクシル)】を使え!」

「分かってる! でも手が震えて……!」

 

 その瘴気の正体は吸った者に【衰弱】と【泥酔】の複合病毒系状態異常を齎す《混濁の瘴気》と言うミドガルズオルムのスキルだったが、例え襲撃理由が八つ当たりであってもデンドロでは相応の経験を積んでいる上級<マスター>である彼等は、それらの情報も部分的に得ていた事もあって【泥酔】でふらつきながらも直ぐに準備していた【快癒万能薬】を使って状態異常を治していく。

 ……しかし、そんな悠長な事をしている間に攻撃態勢に入ったミドガルズオルムが瘴気の中にいる敵の一人を《熱源感知》により狙いを定めて、その巨体からは想像出来ない()()()()()で数十メートルの蛇体を伸長させて八つ当たり組の<マスター>の一人に鋭い牙で喰らいついた。

 

「ガハッ!? コイツいきなり……!」

『GUUUUUU……』

 

 その<マスター>も【獣戦鬼(ビースト・オーガ)】の《獣心憑依》LV10によって純竜級ガーディアンのステータスの6割を加算されている筈なのだが、それを遥かに超えるミドガルズオルムのSTRによって噛み付かれているので脱出しようとしても出来なかった。

 そこから咬合による物理ダメージと突き立った牙から生物・無生物問わず溶かす強力な【溶解毒】を生成・付与する《蛇竜の壊毒》の効果による継続ダメージが発生、それにより装備していた【救命のブローチ】が破壊されたその<マスター>は肉体と装備を毒で溶かされてから噛み砕かれて光の塵となる。

 ……自分達もガードナー獣戦士理論による上級ガードナー上手く従えている八つ当たり組は、だからこそミドガルズオルムの上級ガードナーとは思えない異常なステータスに気付き、恐らく必殺スキルがガードナーのステータス上昇によるモノだと推測するが実際はこれが“ミドガルズオルムの基礎ステータス”であるのだ。

 

 

 ◇

 

 

 モノノケ・プリンスの【呪苦睡竜 ミドガルズオルム】は第六形態現在でも全長数十メートルになる蛇型ドラゴンなTYPE:ガーディアンの<エンブリオ>であり、加えてそのステータスはおよそHP40万、STR・END1万5千、AGI1万を誇る。

 更にモチーフ元である北欧神話に於ける毒持つ大蛇『ヨルムンガンド(ミドガルズオルム)』にちなんでか非常に強力な病毒系スキルを兼ね備えており、それこそ伝説級<UBM>最上位にすら匹敵する総合能力を有する上級ガードナーとしては有り得ない程の性能になっている。

 

 ただし上級止まりの<エンブリオ>でそれだけの能力を有する以上は重いデメリットがあり、まずガードナーにリソースの全てを費やしている故にステータス補正がオールGで、更に第1形態から存在するスキル《睡夢の巨竜》の効果でミドガルズオルムは常時解除不可能な【睡眠】状態となっているのだ。

 それ故にマスターを守るガードナーでありながら呼び出されても眠っているだけなので、その身に有する絶大なステータスも強力なスキルも機能しない置き物にしかならないのがミドガルズオルムであり、普段は眠ったまま呼び出されてそのステータスの一部を《獣心憑依》でプリンスに齎す事しか出来ない。

 

 だが、単なるバフスキル用の置き物でしかないなら強力なスキルが生える訳がなく、当然と言うか制限を解除出来る方法として“1日に五分間だけミドガルズオルムの【睡眠】を解除して行動させる事が出来る”必殺スキル《目覚めよ、神喰らいし大魔竜(ミドガルズオルム)》を有してもいる。

 総じて必殺スキルを使ってようやく僅かな間だけ通常行動が出来ると言うお世辞にも使い勝手が良いとは言えないガードナーではあるが、だからこそ必殺スキルを使っている五分間だけは伝説級<UBM>レベルのガーディアンと《獣心憑依》によりその6割──戦闘系超級職に匹敵するステータスを得たマスターとのツープラトンにより絶大な戦闘能力を発揮するのだ。

 

 

 ◇

 

 

『GOGAAAAAAAAAA!!!』

「クソッ! なんだこのバケモノは!」

「装備が溶けた! コイツ身体にも毒を……!」

 

 瞬時に敵の<マスター>を屠ったミドガルズオルムはそのまま他の八つ当たり組を殲滅しようと動き出すが、それでも相手はベテランの<マスター>故に一人がやられている隙に自身とガードナーに【快癒万能霊薬】を服用させて【衰弱】と【泥酔】を無効化しながらミドガルズオルムに攻撃を仕掛けていた。

 だが、ガードナー獣戦士理論によって純竜クラスのステータスを得ている彼等のアクティブスキルを絡めた攻撃であっても、伝説級モンスタークラスのステータスを持つミドガルズオルムには多少のダメージにしかならず、更に相手は全身の毒腺から《蛇竜の壊毒》を分泌して強度は落ちているものの【溶解毒】を纏っているので、肉体を溶かされるのは【快癒万能薬】でレジスト出来ても攻撃に使った装備品は毒によって溶ける有り様だった。

 

「落ち着け! 確かに強いが戦えないレベルじゃない! こっちも奥義か必殺スキルで……」

「……ミドにばかり集中してこっちを忘れるなよ。《アーマー・カッティング》!」

 

 それを見て時間を掛けても不利にしかならないと判断した全身鎧を纏う八つ当たり組の1人が切り札による一斉攻撃で早急に始末する判断を下すが、そこに瘴気に紛れながらプリンスが接近する。彼はミドガルズオルムとの連携を前提に瘴気を吸い込まない様に消毒機能付き酸素ボンベ能力を持つマスク型マジックアイテムに、瘴気を見通せる程度の《透視》スキルがあるアクセサリーを装備中だ。

 そして彼は《獣心憑依》によって得た1万に迫るSTRと装備品の強度を無為とする【鉈剣士(マチェット・ソードマン)】の奥義で歪な形状をした鉈を突き込こんで鎧を貫きダメージを与えたが、END重視のガードナーと同じくEND寄りのサブジョブによる耐久型だった全身鎧の男には大したダメージではなかった。

 

「チッ、だがこの程度のダメージなら問題ねぇ! それにマスターのお前を倒せばあの化け物も消えるだろ!」

「いやもう終わってる」

「なに……ゴハァ!?」

 

 逆にプリンスを倒そうと自らのゴーレム型ガードナーと共に攻撃を仕掛けようとする八つ当たり組だったが、プリンスが“既に詰んだ相手を見る様な”冷たい視線をしながらそう言った次の瞬間【快癒万能霊薬】の効果時間中にも関わらず“二十近い病毒系状態異常”に罹患して崩れ落ちた。

 これが彼の持つ伝説級特典武具【薬攻反剣 アドバース】が有する《良薬は毒に変じる(ドラッグ・デトネーション)》の『ダメージを与えた相手を600秒間ポーションの効果を反転させて病毒系効果に変える状態とする』効果。つまり効果適応中に回復ポーションを使えば病毒系ダメージを受け、解毒薬を使えば【猛毒】となり、凡ゆる病毒系状態異常を治す【快癒万能霊薬】の効果を受けていれば逆に10以上の病毒系状態異常に罹患する事となる。

 ……特典武具としては限定的な効果ではあるが、病毒を撒き散らすミドガルズオルムによって【快癒万能霊薬】を使わされた八つ当たり組には恐るべき脅威となっていた。

 

「な……何が……!」

『GOOO!』

「手の内を言う訳がないだろ。まあ流石にゴーレムに毒は効かないか。《ストーンカット》」

『……GAOOOAAAAAAA!!!』

 

 毒に侵されたマスターを助けようと襲い来るゴーレムに対してプリンスはオブジェクトや装備の破壊に長けた【鉈剣士】の鉱物特攻の剣技で迎え撃ち、一万近いSTRもあって純竜級ゴーレムを容易く斬り裂きつつ蹴り飛ばしながら距離を取ると、その直後にゴーレムと病毒で倒れる<マスター>をミドガルズオルムがその巨体で纏めて引き潰して始末した。

 獣戦士氏族により『獣戦士として従魔と共に戦う技術』を磨いて来たプリンスとミドガルズオルムであれば、<エンブリオ>側の意思疎通能力だけではない絆と技術によって互いの行動を完全に把握して状況に応じた最適な連携する事を可能としており、そこに《獣心憑依》の高ステータスと相性の良い特典武具を合わせた戦闘能力は数で勝る筈の八つ当たり組を圧倒する結果となっていた。

 ……そうして“獣戦士氏族最強の【獣戦士】とそのパートナー”に圧倒されている八つ当たり組だったが、そこに加えてもう一組の“獣戦士とその従魔”のコンビも動き出そうとしていた。

 

「おー派手に暴れてるなー。じゃあ私達も行こっかパスカル」

『バウ(承知しました)』

 

 無双しているプリンス達を見て『私達要らなかったかなー』と少し思ったレフィーだったが、流石に序盤の瘴気撒き散らしによる視界不良からの奇襲が決まって一時的に押してる様に見えてるだけで、残った八つ当たり組が態勢を整えれば少なくともミドガルズオルムの制限時間以内に倒しきれないだろうと見たので自らも参戦することにした。

 彼女は事前にプリンスから戦術を聞いていたので【快癒万能霊薬】は服用済み且つ《透視》効果のアクセサリーを貰っており、パスカルの方は視界不良でも問題なく敵を把握出来る感知スキル持ちなので瘴気の中を澱みなく超音速機動で駆け抜けて八つ当たり組に襲い掛かる。

 

「それじゃあ一人目。《パラレル・ブレード》!」

『ガウッ!(《セイクリッド・バースト》!)』

「なっ! もう一人!」

 

 まず手始めに猪っぽいガーディアンを連れた<マスター>がプリンス達に仕掛けようとしていたので横合いから襲いかかり、レフィーは<マスター>に【隻剣聖(シンギュラー・ソードマスター)】の奥義である斬撃の後に別方向から同威力・同速度の光の斬撃を発生させる連続攻撃を見舞いブローチを砕きつつダメージを与える。

 更にパスカルが聖属性・炎属性複合ブレスを猪の方に浴びせ掛けるが流石に耐久重視の純竜級ガーディアンはその程度では落ちず、逆にマスターを襲うレフィー目掛けて直進限定だが超音速まで加速するスキルを持って突撃を仕掛けた……が、その突撃が彼女に当たったと思った瞬間、まるで幻影の如く擦り抜けてしまう。

 

『BUMO!?』

「ッ!? そっちか!《ワールウィンド》!」

「残念、こっちも残像だよ。《クレセントスラッシュ》」

 

 それを見て幻術の類いと思った八つ当たり組が手持ちの両手斧で気配がした方向に居たレフィーを薙ぎ払ったが、そちらも同じ様に幻影の様に擦り抜けていつの間にか背後にいた彼女が振るった一閃によって首を断ち切られて絶命した。

 ……この現象の原因は彼女の失った右腕の代わりに装備された真紅のマント──古代伝説級特典武具【幻刃血套 エルマタドール】の装備スキル《イルシオン・カポーテ》であり、その効果は“極短時間だけ自分の姿と気配を持つ幻影を形成しつつ、同じ時間だけ自身の姿を光学迷彩で消しながら気配を遮断する”と言うものである。

 古代伝説級特典武具にしては大した事ない装備スキルと思うかもしれないが、超音速機動が可能なレフィーが使えば幻影を囮にして攻撃を回避しながら敵の背後に回り込むなど瞬間移動にも見える挙動や残像じみた動きによる撹乱が行えて、クールタイムも僅かなので継続してMPを払い続ければ連続的に使う事も出来る回避行動に有用なスキルなのだ。

 

「質量を持った残像だとでも言うのかぁ!?」

「元となった<UBM>と違って寝ぼけた分身しか出来ないけどね……おっと」

 

 そうして特典武具及びパスカルとの連携を駆使して八つ当たり組を翻弄しながらプリンスを援護していたレフィーだったが、突然周囲を囲む様に氷塊混じりに猛吹雪が発生したので動きを止めてしまう。

 その正体は氷のエレメンタルのガーディアンが使った自らの肉体を分解して猛吹雪を引き起こすスキルであり、それで敵を囲んだ上でマスターが【ジェムー《ホワイト・フィールド》】を使って諸共攻撃しつつ氷結属性吸収能力のあるガーディアンを強化すると言う必殺のコンボ攻撃であった。

 

「ふぅん成る程。……パスカル」

『バウッ!(承知、《グランドクロス》!)』

 

 だが、それに対してレフィーは即座に<エンブリオ>による念わを介してパスカルに“自分ごと”広範囲攻撃で氷のガーディアンを薙ぎ払う様に指示、それを受けてパスカルも一切の迷いなく嘗てアルター王国の近衛騎士団が使っているのを見て模倣した【聖騎士(パラディン)】の奥義を繰り出した。

 その地面から噴き出す十字の聖なるオーラは伝説級モンスター並のステータスを有するパスカルが使用した事もあり、ティアンの【聖騎士】のそれと比べて数倍する破壊力と熱量を持って氷のガーディアンを焼き尽くし、そのマスター組投げたジェムによる凍結の魔法を相殺してのける。

 

「なにっ!? だが自分ごと巻き込んで自爆するなんて……」

「……残念、自爆じゃないんだなコレが」

 

 そんな極大の聖属性のオーラと冷気の中から“冷気によるダメージのみ負った”レフィーが飛び出して、怯んでいる氷のガーディアンの<マスター>を超音速で斬り刻んでしまった。

 それを見てまた幻覚か残像かと思った八つ当たり組だったが、これに関してはレフィーやパスカルが脅威的なステータスを得ているのと同じ原因──つまりは彼女の<エンブリオ>【双護頸約 テュール】によるものである。

 

 

 ◇

 

 

 レフィーの【双護頸約 テュール】は一対の黒い首輪(チョーカー)型アクセサリー装備のTYPE:アドバンス・アームズの<エンブリオ>であり、自分と従魔一体に装備させて“契約”を結ばせる《敬約の双輪(コントラクト・チョーカー)》と言う基本スキルを起点に様々な恩恵を契約対象の従魔に与える事が出来る。

 ただし、契約出来るモンスターは一体のみで一度契約を結べば基本的に解除する事は出来ず、【テュール】そのものも肉体と半ば融合して装備解除不可能状態となって【テュール】へのダメージ不可能全て装備者に及びので破壊不可。そして契約した従魔が死亡した時はマスター側も問答無用でデスペナルティ(自害と同判定)になる制限やデメリットが課せられる。

 

 だがその分だけ恩恵も大きく、最も大きなモノは契約した従魔に『従属キャパシティゼロ』『紋章への収納可能』『部位欠損すらも時間経過で治る再生能力』『マスターとの念話』『死亡してもマスターと共に72時間で復活する蘇生能力』といった特性を与える……つまりモンスターを擬似的な“ガードナー系<エンブリオ>”に変えるパッシブスキル《責腕の誓約(ワンアーム・オース)》である。

 これによって嘗て片足を失っていたパスカルは五体満足でペットロスは楽しくないから嫌いなレフィーが普通にデンドロ出来ていると言えるが、多様な恩恵を齎す強力なスキル故にスキル適応時にマスターの右腕が永続的に【部位欠損】状態となるコスト件デメリットがある。これは従魔を<エンブリオ>の様に扱える様に肉体の一部を捧げて“従魔はマスターの半身である”と判定させる処理の為でもあり、実際に死亡時の蘇生は《敬約の双輪》の効果で一緒に死んだマスターのアバターの再構成に従魔を巻き込んでいる形になっている。

 

 更に“マスターの半身”という特徴を反映させたスキルとしてステータス補正を契約した従魔にも与える《協有の補正(シェアリング・ステータス)》や、<マスター>の万能の適正や才能を一部反映させて契約した従魔の潜在能力・成長性・スキルの取得などにプラスの補正を掛ける《天醒の資質(アウェイキング・タレント)》と言ったスキルも有する。

 これらのスキルにより元々特にスキル習得に高い才能を持っていた事もあってパスカルは上位純竜クラスまで至った上で強力なスキルを多数取得してしており、本来ならスキル重視でステータス自体はMPこそ20万を超えているがHPは十万、STR5000、AGI7000、END2500程度と同レベル帯の上位純竜級としてはやや低めの基礎ステータスが補正により倍近く上がり伝説級クラスまで引き上げられている。

 

 そんな“パートナーと共に過ごせて様々な楽しい事を共有したい”と言うレフィーのパーソナルから生まれた必殺スキル《真頼の盟約(テュール)》は、お互いが常に共に有りたいと言う願いより『互いの信頼関係が一定以上である場合、お互いへの攻撃や悪影響を完全に透過・無効化する』と言う互いが互いを傷付けない連携戦闘を補助するパッシブスキルとして発現した。

 必殺スキルとしては地味ではあるが先の様にパスカルの範囲攻撃内でレフィーは無傷であったり、近接戦で同士打ちを考慮せずに全力戦闘しながら連携するなど有用性は高く、伝説級クラスに基礎ステータスが上昇したパスカルとそのステータスを《獣心憑依》で上乗せして超級職並みの能力があるレフィーが特典武具などを絡めて連携してくる事もあって総じて非常に強力なコンビネーションとなっているのだ。

 

 

 ◇

 

 

「残り半分ぐらいかな。流石にカンストの<マスター>達は強いね」

「ミドの残り活動時間は2分程だ。それまでに決めたい」

「了解、こっちの準備も出来たし仕掛けるかな」

 

 同じガードナー獣戦士理論であってもその最大の長所である“ステータス”で上回っている事を中心に最初の奇襲や撹乱戦術で優位に戦っていたレフィーとプリンスだったが、流石に相手も歴戦の<マスター>達であるので時間が経つと態勢を建て直され連携されて少し手間取り始める。

 それでも5人の<マスター>を撃破して残りにも相応の損耗を与えているのでこの前押し切ろうとするレフィーとプリンスだったが、このまま負けてなるものか八つ当たり組も全力で反撃しようとする。

 

「……ヨシ! 必殺スキルの準備は整った! 俺があっちの女をやるからお前達はあの化け物を止めろ! あんな出鱈目なら時間制限がある筈だ!《半人半蠍の魔獣神(キルタブリル)》!」

「おっと、流石に対応して来るか」

 

 そして八つ当たり組のリーダー格が自らの蠍のガーディアンと融合して人間の身体をベースに肩から蠍の鋏を生やし、足は鳥の様な鉤爪で蛇の頭部が付いた蠍の尾を持つ異形と化してレフィーに襲い掛かった。

 その必殺スキルはマスターとガーディアンの合体直前のステータスを足し合わせるものだったので、その<マスター>は《獣心憑依》の効果と合わせて純竜級に倍する──伝説級モンスターに匹敵する力を得て、更に両腕に持った武器に鋏や尻尾に蹴りまで駆使した手数の多さで襲い来るので流石のレフィーでも回避に専念せざるを得なかった。

 

「チィ! 幻術が鬱陶しい!」

「AGIでは上回ってても手数で劣ってるから攻撃を挟む暇が無いね。……こんだけ実力があるのに何でこんなつまんない事するのさ。【獣王】手に入らなくても普通にビルド練り直そうよ」

「うるせぇ! このクソゲーではいつもユニークに恵まれた一握りのバケモノだけが上に行くんだ! だから俺達みたいに凡人がどれだけやり込んでも意味ないんだよ!」

「……まあデンドロに規格外な人達(着ぐるみとかスライムとか)がいるのは否定しないし、そういう人達に追いつけないと思うのは仕方ないかもね。でもだからと言って八つ当たりは“つまらない”でしょ。……パスカル」

 

<マスター>としては上位勢で上を目指していたが故に“規格外”を知って折れたリーダー格に一定の理解を示すレフィーだったが、それはそれとして彼等がやってる事は認められないので先の様にパスカルに指示を出して自分諸共《グランドクロス》を使わせる。

 それにより地面から光の奔流が迸って相手の動きを一時的に押し込めるものの合体で上昇したENDもあって致命傷にはならなかったが、その光を目眩しとして彼女は接近して非常に高い防御力を持っている筈の相手の腕の一本を“血の様に赤く輝くサーベル”であっさりと斬り飛ばした。

 

「なっ!? 俺の防御力は1万近い筈なのに!?」

「だから“10回ぐらい回避するまで攻撃しなかった”んだけどね。《パラレル・ブレード》」

 

 そのカラクリは【エルマタドール】の“自身のAGI×対象の攻撃を回避した回数×20%”の数値だけ刀剣で攻撃した相手の防御力・強度を下げる第二スキル《ムエルテ・エスパーダ》の効果であり、既に10回以上相手の攻撃を回避したレフィーの剣攻撃は防御力を二万以上減算する。

 一応この減算で防御力がゼロ以下にはならないが、それでも文字通り耐久型超級職すら紙切れの様に切断する剣閃を上級職の奥義と特典武具による幻惑を絡めて振るい、装備してるだろう【ブローチ】への警戒もあって蠍人間の手足を2本纏めて斬り飛ばして【アネスーカ】による【睡魔】も合わせて戦闘能力を奪っていく。

 

「クソクソクソ! お前達だって【獣王】になれなかった負け犬のクセに何でこんな……!」

「別に超級職を取れなくなっても私達が弱くなる訳じゃないからね。……貴方もヤケにならず冷静に戦ってればここまで圧倒される事はなかったと思うよ。《スラッシュウェイブ》」

 

 そうして手足を斬り落として相手の戦闘能力を奪ったレフィーは距離を取りながら赤い斬撃波を“【ブローチ】対策に即死しないが致命傷になる”機動で放って、嘆きの表情を浮かべる蠍人間を真っ二つに両断してその後の【出血】と傷痍系状態異常によるダメージで始末したのだった。

 ……その後、八つ当たり組の中でも最強格だった蠍人間が倒された事もあり、元々ヤケになっていた部分が多かった彼らは圧倒的に不利になった事で明確に戦意を失って行き、ガードナーも倒された最後の一人は諦めの表情すら浮かべていた。

 

「……はぁ、負けたか。同じガードナー獣戦士理論を選んだ敗北者なのにどうしてここまでの差が出るかね。やっぱこのゲームは不公平なクソゲーだわ」

「ふん、確かに【獣王】こそ取れなかったが俺がこれまで獣戦士氏族と共に過ごして培って来た経験が消える訳では無い。“ガードナー獣戦士理論”と言うカテゴリではない磨いて来た経験の差だ」

「まあ特典武具とかの要素を抜かせば単純にビルドと<エンブリオ>のシナジー具合の差かな。特に同じ理論なら相性が良い方が強くなるし」

 

 確かに『ガードナー獣戦士理論』は強力な理論だがメインジョブを獣戦士系統にする以上、サブの戦闘系ジョブは基本的に汎用武器スキルに長けたものにせざるを得ず、獲得した高いステータスを使って物理攻撃系スキルを振るう事しか出来ない故に単純にステータスで上回られると不利となってしまう。

 だからこそステータスで上回るガードナーや従魔を有するレフィー・プリンス組が数で劣っていても敵に搦手ガードナー少ない事で正面戦闘に持ち込めば比較的優位に戦えたのであり、最強の物理ステータスを持つガードナーを有する現【獣王】が誕生した時点で誰もガードナー獣戦士理論で“最強”にはなれないとされたのだが。

 ……そんな問答によって最後の一人が項垂れた所デレフィーに首を落とされて光に塵になり、その直後に必殺スキルの制限時間が来たミドガルズオルムが再び眠りに付いた事で獣戦士氏族の里を狙った<マスター>達との戦いは終わったのだった。

 

「とりあえず片付いたかな。……死亡してから蘇ったり影の中に隠れてたり実はスライムで液状化して逃走してたりしないよね?」

「俺が言うのも何だが容赦ないな。きっちり<マスター>全員光の塵になる所を確認したから大丈夫だと思うが」

「じゃあ里に帰って勝利報告だね。じゃあ明日にも私達は旅立つから、地図もちゃんと貰ったし」

「本当に自由なヤツだな。……今回は本当に助かった、ありがとう」

 

 事が済んだらあっさり旅立つとか言うレフィーに少し呆れるプリンスだったが、数日間の付き合いで彼女達は良くも悪くもこの世界を“自由”に旅をして楽しんでるだけと分かっていたので余り気にはせずに礼を言う。

 ……こうして<Infinite Dendrogram>の世界を巡るレフィーとパスカルが遭遇した様々な事件の一つである『最強だった理論』に纏わる一件は終わりを告げた。規格外な<マスター>が起こす様な事件と違って特に有名になる様な騒動にはならなかったものの、此処で出会った<マスター>やティアン人達との交流は彼女の旅の思い出の一つってして残り続けるのであった。




あとがき・各種設定解説

【双護頸約 テュール】
<マスター>:レフィー
TYPE:アドバンス・アームズ
到達形態:Ⅵ
紋章:“片手の人と共にいる狼”
能力特性:契約&共有
スキル:《敬約の双輪(コントラクト・チョーカー)》《責腕の誓約(ワンアーム・オース)》《協有の補正(シェアリング・ステータス)》《天醒の資質(アウェイキング・タレント)
必殺スキル:《真頼の盟約(テュール)
モチーフ:北欧神話においてフェンリルに片腕を食いちぎられた軍神“テュール”
・ステータス補正はHP・STR・END・AGIの物理ステータスががC程度で残りがD〜Fと言う感じで、配分はMPも高かったりとパスカルの側のステータスに合わせて調整されている部分もある。
・<エンブリオ>である首輪は装備者に融合・癒着する性質の他にもある程度はサイズを変更する事も出来て、これによりパスカルが《小型化》しても自動で祝勝して外れる事はない。
・《天醒の資質》は契約従魔の潜在能力を全体的に上昇させるがパスカル自身が元から伝説級(ハイエンド)モンスターレベルに至れる資質持ちだったので、成長限界強化は最低限で得意とするスキル取得を強化する為にスキル枠増加とかの強化がメイン。
・必殺スキルは互いに向かう攻撃は透過・無効に出来るが自分で自分を傷付ける自傷ダメージは範囲外であり、戦闘中に相手の身体を擦り抜けて動く事も出来るが任意でオフにも出来るので非戦闘時で悪影響でないなら普通に触れ合えると言った調整。

【幻刃血套 エルマタドール】:古代伝説級特典武具
・装備としてはそこそこ高い装備防御力とAGIに+50%の装備補正が掛かり、装備スキルはどちらもMP消費のアクティブスキルだが《獣心憑依》でパスカルの30万近いMPを6割を獲得しているレフィーにとっては大した消費ではない。
・元の【血闘魔人 エルマタドール】は三強時代の【闘牛王】の成れの果てであるスケルトン系アンデッドの<UBM>で、アルター王国の辺境にあるとある村に定期的な生贄によって封印されていたが主に悪いスライムの活躍で解放された。
・能力は特典武具の装備スキルとなった幻術と防御貫通剣の上位互換スキルに加えて、闘牛士系統由来の攻撃回避時全能力上昇と遠距離攻撃のベクトル変更による防御、そしてアンデッド特有の不死性に由来する回復スキルに生前の【闘牛王】の技術の一部を備えた多重技巧型<UBM>。
・その実力は最初に挑んだ【処刑王】率いるPKKクランを返り討ちにして封印を管理していた村が窮地に陥ったが、村に訪れたレフィーとパスカルが強力なアンデッド特攻の聖属性スキルを中心に戦いつつ生き残っていた他の<マスター>と協力してどうにか討伐出来た。

【呪苦睡竜 ミドガルズオルム】
<マスター>:モノノケ・プリンス
TYPE:ガーディアン
到達形態:Ⅵ
紋章:“トグロを巻く蛇竜”
能力特性:活動時間限定&高ステータス・高性能スキル
スキル:《睡夢の巨竜》《病毒無効》《熱源感知》《蛇竜の壊毒》《混濁の瘴気》
必殺スキル:《目覚めよ、神喰らいし大魔竜(ミドガルズオルム)
モチーフ:北欧神話において人間界を取り巻く毒持つ大蛇“ミドガルズオルム”
・蛇の様な見た目でピット器官による《熱源感知》なども出来るが種族はドラゴンであり、陸上だけでなく水中でも生存・活動可能な水陸両用型ガードナー。
・実は眠っている状態でも<エンブリオ>としてある程度はマスターの意思を感知出来て、睡眠中の行動も戦闘こそ出来ないが寝ながらゆっくり身じろぎしたりご飯を要求したりご飯を食べたりするぐらいは出来る。
・巨体故に一度に食べる食事の量は結構なモノだがずっと寝ているせいか頻度自体は少なめで、大体必殺スキル使用後に要求する感じなので食費はマスターの普段の稼ぎで十分賄える分な模様。
・必殺スキルは1日の内で3分間のみ活動可能にするスキルでスキル使用回数が1日の初めにリセットさせる仕様であり、このスキルを第四形態になって覚える前の下級時代はずっと眠っていて戦力にならなかったガードナー。

【薬攻反剣 アドバース】:伝説級特典武具
・装備スキルは《良薬は毒に変じる》のみだがパッシブスキルであり特殊な効果なのでレジストは困難で、装備攻撃力が3000程度あって頑丈なので武器としても非常に優秀。
・主にミドガルズオルムの病毒スキルで相手に【快癒万能薬】を使わせてから毒化させるが、プリンスが単独で戦う時には水属性魔法機能付きの水鉄砲で敵にポーションをかけて薬効を発生させる事もある。
・元の【薬樹毒獣 アドバース】は植物と大蜥蜴が融合型した薬で自己回復しながら薬を反転させた毒をばら撒く耐久型<UBM>で、更に一定範囲内の薬効を自在に反転させるので病毒対策に【快癒万能薬】を使ったら逆に数十の状態異常になる厄介なモンスターだった。
・特に『病毒には【快癒万能薬】』と言う対応に慣れた熟練のティアンや<マスター>には強力な初見殺しとして機能し、単に病毒を撒くモンスターだと誤認させられたキムとレラの両親を含む獣戦士氏族のベテラン戦士達を多数殺害した。
・ただし反転出来るのはポーション系のみで回復魔法には効果を発揮せず、再戦時には回復魔法【ジェム】を多数仕入れた上で回復魔法が使える従魔を連れて《病毒無効》のミドガルズオルムを中心としてどうにか討伐出来た模様。


読了ありがとうございます。
最強ならざるガードナー獣戦士理論を書いた話でした。レフィーとプリンスはそれぞれ別のギミックで高いステータスを持つ従魔をキャパシティに入れてる系<マスター>です。
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