スパーダの話に返事が出せない。
「……まぁ、昔の話だ。気が向いたらもっと話してやる。
ーと…みろ、バスのお帰りだ」
「クロスベル市に戻るバスね……」
「アレに乗ったら此処まで歩いてきた意味がないってば」
「――一瞬、手を挙げて乗せてもらいそうになりました」
「…多分、ここから村まではもうそんなに歩かないと思う」
「えぇ、そうね」
「ふぅ――了解です」
「よし、もう少し休憩したら行こうか」
「はい」
そして5分ほど落ち着かせ、立ち上がる。
「さて、行こうか」
ロイドの優しい声に頷き、皆がゆっくりと歩き出した。
そして大体20分ほど歩いた所で目的地たるアルモリカ村に入った。
「ふう……。ここがアルモリカ村か」
「…ぁ…エリィ、ティオ。大丈夫か?」
「ええ……さっき休ませて貰ったし」
「……私も何とか。
それにしても……綺麗なところですね」
古戦場を見渡せ、村には咲き乱れる田園風景、清水と透き通った空気。クロスベル市街地とはまったくと言って良い程似ていない風景。ソレは心を落ち着かせ、自然の優しさを教えてくれているようだ。
「花咲き乱れる田園風景、こんなに綺麗なところだったのね」
エリィの言葉の裏でスパーダは一滴の水を流す。
此処に来た事は無かった。妹の言葉、クロスベルには行きたくない。だが、共に過ごしたかった。
「スパーダ、どうしたんだ?」
「……気にするなっと、今何の話してたって」
「蜂蜜です。
データベースによるとアルモリカ村の特産品らしく、
品質も極めて高い為、周辺国にも輸出されているとか」
「雑貨屋でもよく見かけるけどこんな」
スパーダはロイドの口を押さえ、少し厳しい口調で言う。
「ロイド、『こんな』なんて使うな。
気にしない人は気にしないが、人によっては不満を憶える」
「ごっ…ごめん。そうだな」
「でも、知識として知っているのと実際に見るのとでは大違いね」
そう言った後、エリィは少し言葉を濁す。
「エリィ……?」
「………ううん、なんでもない」
気になったロイドが話しかけたが、そう返される。
「それよりも……。
この平和そうな村が魔獣の被害に遭っているのよね?
ちょっと信じられないけど……」
そう、見たところ平和そのものであり魔獣を気にしている人も見当たらない様に見える。
「まーな、呑気そうな村に見えるが。」
「警備隊の調書によれば、
この村の村長から事情聴取を行ったそうですね」
「あぁ、先ずは俺達も村長さんから話を聞いてみよう」
「村長さんの家、どこにあるのかしら……」
「なら、此方にある」
「知ってるのか?スパーダ」
「……前は稀に来ていたからな。
紅茶に此処の蜂蜜が美味しいんだ」
ココアではない、紅茶だ。
それは妹に淹れ方を教わった物、自分が離してしまった。
失ってしまった大切な存在。
「……行こうか」
(なぁ……スパーダ、来てからおかしくないか?)
(さっき、目元を拭ってた様な)
(……何かあるのかしら)
(気にしておこう、スパーダ。あまり表に出さないから)
スパーダの案内のもと、村長の家の前につく。
軽くノックをすると小さな女の子がスパーダの前に現れた。
「あっ、スパーダお兄さん!」
「お爺さんはいるかな」
「うん、今ねしょーだんちゅーなの!
入ってまっててね!」
「ありがとう」
スパーダはクロスベル市外でも子供に人気なようで後から微笑ましい顔をした4人がついてくる。
「子供、好きなんですね」
「……あぁ、好きだ。あぁ…っ?!」
そして、スパーダが家に入ると見覚えのある紫髪の男性が立っている。ソレだけで理解した。クロスベルに居るという話は聞いたことがあった。だが、実際に会ってしまうと何とも言えない感情に包まれてしまう。自分も捨てた側だ。
それなのに、それなのに……苦しさが胸を裂きそうになる。
「まっ…ここが村長の家なのは確かみてぇだな」
周りの声が戻ってきたのはランディの声のおかげだ。
でなければ、今はまだ闇の中にいたことだろう。
「お前さん達は……?スパーダじゃないか。
蜂蜜がきれたのか?」
「いや、村長。それは………悪い」
そう言われ、少し離れた所でエニグマを開く。
「はい、此方デビル・メイ・クライだ」
「ジンゴ?なんで居るんだ」
「留守番だ、ユウナに頼まれた」
「わかった、お前さん。蜂蜜の場所判るか?」
「左から2番目の棚だな……ん?少ないぞ。
てか、1/3もない」
「ありがとうな、後でお土産やる。留守番頑張れよ」
「お土産?!絶対だぞ!」
そして切れる電話、その風景をまたもや温かい目で見ていた。
「瓶がもう1/3もないらしい。特製蜂蜜、後で買わせてもらう」
「うむ、わかった」
「特製蜂蜜ですか?」
「非売品だよ、卸すのではなく村の養蜂家と仲良くなりやっともらえる品さ。通常の蜂蜜よりも純度、味共に上なんだ」
「え?なんで売らないんですか??」
「高すぎるのさ。
つくるにしても大量生産はできない。
哀しいことに、ソレをするにしても設備がの。
だから、村の中で使っておる。
スパーダは前に此処を助けてくれての、
それから渡しているのだ。まぁ、いささか高すぎ」
「1万ミラでも安いぞ、村長」
「とまぁ、こんな感じでな」
「取り敢えず、今度お菓子もご馳走しよう。
手作りだが、余っている分の蜂蜜全放出だ。美味いぞ?」
「はわぁ……って、違います!
私達は魔獣被害を確かめるべく来たんですから!」
「そうだな、村長。話を聞かせてくれないか?」
「スパーダの仲間か…なら便利屋か?」
「いえ、俺達はクロスベル市警察のものです」
「スパーダ、御主あれ程警察を嫌って」
「あーー……、村長、良いから話してくれ」
「うっ…うむ」
奥に通された5人だが、村長から話された内容は調書に書かれていたものと同じだった。
被害総額10万ミラと言う話だったが、その負債も既に取り戻し、
アルモリカ村は黒字である為、別に気にしていない様子だ。
そして、村長から聞かされる『神狼』の昔話。
女神が使わせた神獣と言う話だが、クロスベル出身ではない
ランディとスパーダはわからない。
「神狼…クロスベル出身なら知ってるのか?」
「すみません、データベースにもその様な記述は」
「そうね……私も初耳で」
「俺は昔、図書館で見たことがあるけど……」
そう言うティオ、エリィ、ロイドに村長は苦しそうな声を出す。
「ふむ……やはりか……図書館と言う一区画。
となると、街自体ではこの話は伝わっておらんか。
何とも寂しい話じゃの」
「その………神狼とはいったい」
「その昔、クロスベルに棲んでいたと言われる獣達じゃ」
「ーソレって!」
「今回の事件を起こしたのと同じ……?」
「確証はない、――が、そうであっても不思議ではない」
そして村長の口から語られる伝承。
神狼とはただの魔獣ではなく、女神の遣わせた聖獣。
古の時代より、血で血を洗う戦場となっていたクロスベル。
そこで、人の愚かさを見守り、時に気紛れに手を貸しながら
無力な人を助ける。それが神狼と言う話だった。
「…じゃが、そんな神狼でも太刀打ちできない存在が現れた」
それは魔界と呼ばれた異界より現れた軍勢。
魔帝と呼ばれた悪魔による侵略と虐殺の日々。
人間は数でも、力でも敵わない日々、数だけを減らし、
ただ死にゆく者と言う時に、悪魔の軍勢から一人の英雄と
その仲間が現れた。
「魔剣士スパーダ、刑執行官アラストル。そして、神狼による
攻撃で悪魔は地に落ちた。その戦いでアラストルは討たれ、
スパーダと神狼は酷く嘆いたという」
「…それで、そのスパーダはどうなった」
「判らん、一説には何処かの国に渡った。
死んだ。と言う話もある」
「なぁ、スパーダ。アンタ、その魔剣士と繋がりがあるのか?」
「……俺の先祖だ」
「何と……スパーダは実在したのか?」
「ついでに言うが、悪魔も、魔帝も居るぞ。特に、俺は魔帝の片腕を斬り落としてな。奴は今回復待ちだ」
「……そうか」
スパーダと言う存在が大きすぎたのか、仲間達は驚き声が出ない。悪魔という存在は知っていたが、その血筋が悪魔の裏切り者だとは知らなかったのだ。
「…続きはこうじゃ。時間が経つに連れ、
人間は悪魔も、神狼も忘れ、再び血で血を洗う戦いを再開した。そして、神狼は何時しか消えたのだという」
「………」
「さしずめ、人間に愛想を尽かしたってところか?」
「だろうな、
悪魔と契約し無垢な命を奪いながら己の権力に縋る政治家。
欲望を満たす為なら人間はどんな手も使ってくる。
俺も……それはよく知っている」
スパーダは握り拳を作っていた。
どうする事もできない怒り、それが湧き出てきた。
「……ワシもそう思うよ。
ただ、この時代に姿を現したのなら、きっと人間に
『警鐘』を鳴らしに来たんじゃとな」
「警鐘……ですか?」
「こう言っては何だが……。
今のクロスベルの発展は些か急すぎる気がする。
たまにバスで街に出ると、
あまりの変わりように腰を抜かしてしまう。
誰もが現在に追い立てられ、
過去を振り返る余裕が無いような……」
「……返す言葉もございません」
エリィは村長の言う、クロスベルを急成長させた人間の孫だ。
何処か、思うところがあるのだろう。
「おっと……何も説教するつもりはないんじゃ。
じゃが、そう考えるとこの村の被害も彼等なりの警告……
そんな風にも捉えられるのではないかと思ってな」
「「………」」
皆が言葉を出せない。
人間の愚かさで絶滅した生物は数多く居る。
そして人類は人類同士で長い戦争に明け暮れもした。
女神の、その眷属からしたら見放すのも道理だろう。
「ふむ……どうやら真面目に捉えられてしまったようじゃの。
まぁ、年寄りの世迷い言じゃ。本気にせんほうがええじゃろ。
それに、もしかすると……おかえりなさいや、此処に居るぞ。
と言う意思表示かもしれんぞ?」
「……そうか、スパーダが魔剣士スパーダの子孫だから」
「ソレはないだろう、何百年と経っているのだ。
むしろ、人間に対する罰と言われたほうが納得できる」
「御主、せっかく場を温めてやろうと……」
「村長、他に情報はないのか?」
「うぅむ……皆が作業から戻ってくる時間じゃ。
話を聞いてみると良いかもしれんぞ」
「…感謝する」
スパーダはその場からスタスタと歩いて消えた。
ロイド達も挨拶し、スパーダを追うように歩く。
「スパーダ、さっきのは」
「……わかってるさ。自分でもおかしいと思っている。
だが……そうだな、謝罪してくる」
スパーダが屋内に戻る。
「…スパーダさん、なんで」
「思うところがあるんだろ。俺達はスパーダの過去を知らない。きっと、話したくない事の一つや2つがあって、それが地雷だったのかもな」
「ランディさん」
ティオはそう言うランディに納得した表情をした。
間もなく、扉が開き蜂蜜を抱えたスパーダが出てくる。
「おいおい……謝罪したんだよな」
「した、あと蜂蜜を忘れていたらしくてな。
その、皆にも済まなかった。場を悪くしてしまった」
「良いですよ、人にも色々ありますから」
「何かあれば相談してくれよ。俺達は仲間だから」
「……そうだな、ありがとう」
それは家族とは違う形の絆。
DevilMayCryとも違う、特務支援課の絆。
「さて、皆。『神狼』が本当に居るのかはわからない。
でも、容疑者の一つとして考えてもよさそうだ」
「そうね、足跡が残っていた以上。狼型魔獣が居たのは確。
そして……足跡一つ残さず消えてしまった」
「おかしいですね……
村に足跡が残っていたのなら、その痕跡も辿れそうですけど」
「確かに、それもそうだな。
警備隊の追跡調査も振り切ったという事か……」
「まっ、険しい獣道に入られても人間はお手上げだしな。
あんま深く考える必要はないと思うぜ?」
「…よし、それじゃあ早速聞き込みを始めよう。
あと、昼時だしランチも食べちゃおうか」
「なら、俺が奢ろう。安月給の公務員と研究職。
政治家見習のお嬢様よりも持っているんでな」
「おっ?!さすが法律もなんのその。ブラックだろうが何でも受ける便利屋さん?!よっ!太っ腹!!」
「……この人達」
「なら、お願いしましょうかしら?」
「おいおい……」
そして5人は笑いながら宿場まで向かった。
「ここの蜂蜜を使った料理は美味いんだ。
どんなメニューも良いが、個人的にカレーがオススメだ。
他にはデザートでハニーベリーサンデーが特に」
「おいおい……スパーダ。お前………」
「スパーダさん、結構子供っぽい所がありますね」
「ふ…子供のお前が言うな」
ワイワイ話しながら食事を食べる。
そこに居るのはまるでピクニックに来た5兄弟だ。
「ランディ、蜂蜜酒もあるぞ」
「おっ…マジカ!」
「お昼から酒は駄目だ!」
はっちゃける長男、遊び人の次男、真面目な三男。
ソレを微笑ましく見る長女、呆れ顔の次女。
「ふぅ……美味かった」
「ハニーベリーサンデーを2つも……カロリーが」
「子供がカロリー計算か?言うが、動けば問題ないぞ」
「あっ…スパーダだ!」
「スパーダ!!大変なの!!」
宿場で会計をしようとしていると
スパーダを見つけた子供達が現れる。
何やら大変な様子でスパーダの服の裾を引っ張る。
「まて……会計!会計してから……ロイド!
俺のサイフ預けるから!」
そして投げ渡されたサイフをロイドはキャッチする。
「中身全部は使うなよ?!」
「まってスパーダ!これは多すぎ……」
スパーダは子供達に引っ張られ、宿を出て行く。
「……追いかけよう」
「そうね」
そして連れて行かれたスパーダを追いかける特務支援課。
そこで見たのは気に猫が居る風景だった。
「……お前またか」
「知ってる猫か?」
「前に来た時もこのバカ猫、降りれなくなってんだ」
スパーダはジャンプすると猫の首を掴み降りてくる。
「おいバカ猫、飼い主達を困らすなよ」
「フシャ!!!!!」
「っぶな?!」
そのまま子供たちの中に猫は入っていく。
「スパーダ、ありがとう!」
「「ありがとう!!」」
子供達と戯れる猫、相変わらず毛が逆立っている。
「はぁ……」
「お疲れさん、動物には好かれないんだな」
「ほっとけ」
「それじゃあ、聞き込みを始めるか?」
「そうだな」
そして、子供、大人問わず聞き込みをしていると
温厚そうな男性とであった。スパーダの顔が一瞬強張るが、
ソレに気づけた仲間は居ない。
「おや。貴方方は……」
「あっ、さっきの」
「確か、クロスベル市で貿易商を営んでいる方ですよね?」
「はは、村長からお聞きになりましたか。
はじめまして。――ハロルド・ヘイワースと言います。
クロスベル市で小さな貿易商を営んでおりまして……
皆さんもひょっとして買い付けにいらしたんですか?」
ロイドを筆頭し、自己紹介しアルモリカ村の現状を話した。
「警察の……それに、DevilMayCryスパーダさんまで。
しかし……『特務支援課』ですか、何処かで……」
ハロルドは少し悩むと、あっとした顔で声に出す。
「そうだ、クロスベル・タイムズで」
「はぁ……やっぱり読まれて居ましたか」
「あのぉ…お恥ずかしい限りです」
「大丈夫だ、どうせ近い内に
『警察署の衛生管理は不十分!
ゴキブリの大量生産の原因は?!』
とか、そんな感じでニュースになる」
「あはは、スパーダさんと絡むと警察のスキャンダルが増えると言う話がありますけど」
「ハロルドさん、それは偶然です。俺は何も知らない」
「でも、設立されたばかりだというのに頑張っているらしいじゃないですか。あの記事も皮肉めいてましたけど、
『今の警察に一石を投じる存在となる』かもしれないと。
結構、好意的だと思いますよ?」
「そっ…そうですか?」
「しかし、狼型魔獣被害ですか。
医科大学でも耳にしましたが、少しばかり心配てすね……」
「ハロルドさんは医科大学の方でもお仕事が?」
「えぇ、病院で必要な備品を卸しています。
…アチラでは怪我人まで出ているとか。
それに、鉱山町でも被害が出ているんですよね?」
険しい顔のハロルド、そこに安心させるような顔でロイドが話す。
「えぇ、警備隊の方でも捜査が行われている様です」
「ふむ……そうですか。
そちらの方にも、近い内に挨拶に伺わないと……」
「そういえば……
随分と良心的な価格で特産品をお買い上げになったとか?」
「はは……村長から聞いたんですか?
まぁ、別に慈善活動とか…そんな訳では無いんです。
蜂蜜を始め、この村の特産品は評価が上がっています。
これを期に、村の方々の印象を良くしようという
…そんな考えです」
「商売は信用第一と言う訳ですか……」
「何で俺を見る?ティオ」
「何でもないです」
「ふふ、良い商売をされているんですね」
「いえ、私などまだまだ駆け出しです。
しかし、申し訳ないですね……もう少し皆さんのお役に立てる
情報があればよかったのですが」
「いや…そんな、気にしないで下さい。
すみませんでした。時間を取らせてしまって…」
「いえいえ、聞き込み。頑張って下さい」
そして、言って時間が経つ。
「コレで一通り終わりでしょうか」
「そうだな……しっかし、遠吠え一つすら無えのか」
「群で動くなら鳴き声ぐらい出るはずだ。
……調べれば調べる程不可思議な点が出てくる」
「そうね……」
「……うーん。
まぁ良い、この村で出来る捜査は終了だ。
次は医科大学、一度街に戻ろう」
「さすがに帰りは歩いて帰りたくないけど……」
「同感です…というか、面倒くさすぎです」
「はは、まぁ…しゃあねぇか」
「なら、バス停で時刻を確認しようか」
バス停に向かう一行。
そして、ロイドが時刻表を見た。
「次のバスは30分後か」
「まーた中途半端な時間だな。宿に戻って1杯やるにもな」
「それよりも、勤務中にお酒はどうかと……」
その時だ、何かの遠吠えの様なものがスパーダの耳に届いた。
「!」「?」
「スパーダ、ティオ、どうかし」
「少し静かにしていて下さい。アクセス」
ティオは導力杖を使い音を大きくし、
調べようとしたが反応がない。
スパーダも聞こえてくるのは川のせせらぎと風鳴りだけだ。
「……その対応、ティオも聞こえたか?」
「はい、狼の遠吠えの様な……」
「どうする、ロイド。調べるか?」
「2人が聞こえたと言ったし……」
「ティオ、そのセンサーの認識距離はどうだ」
「およそ、50セルジュです。でも、風に乗るとその倍も」
「ヒュー!そんなにあるのかよ!」
ランディがその性能を褒めるが、周りは険しい顔だ。
「そうなると、何処から聞こえたか特定は難しいわね」
「あの、私とスパーダさんがその……聞き間違えたとか」
「……俺はその悪魔も匂いで判る人外だからな。
俺とすれば、ティオは耳いいんだな」
「でも、私は普通の人に聞こえない音が」
「……ティオ、耳が良くて何が悪い?
俺なんて普通の人に見えない悪霊や亡霊、悪魔、他にも沢山の化け物を見てきた。ソレに比べればお前は人間だよ。
知ってるか?世の中には3人に分身してまったく別の攻撃をしてくる男も居るんだ。他にも、全身打撲してやったのに翌日にはケロッとしながら酒場で酒のんだり、鋼鉄をランスで容易く斬り裂く母親、なんか3人に分身する奴に憧れて2人に分身しだす姉。
………あれ、俺の身内は人外か?」
「ふっふふ………ティオちゃん。スパーダさんの……言う人に比べれば、ティオちゃんなんて……」
「そうだぞティオすけ。スパーダの知り合いに比べたら人間だ」
「そんな言い方もアレだけど……
それに、俺達が仲間の言葉に疑問を思う理由なんて無いと思うけどな?」
「なら、俺の言葉も信じるか?」
「あはは……スパーダのはちょっと現実味が」
「なんでだよ」
そんなやり取りを見ていたティオも吹き出す。
笑う様は年相応の女の子であり、ランディとスパーダはソレを
煽る。
「おっ…笑ってるのは年相応だな」
「あぁ、子供だな」
「うるさいです、オジさん」
「おま……オジさんじゃねぇ!」
「まだ20代だ!」
そんな事をしているとハロルドが姿を見せた。
「皆さんもお帰りですか?」
「えぇ…でもバスが30分後で」
「そうてすか……6にんか………」
それが聞こえたスパーダが端末を開く。
「げ……ロイド、悪いな。ちょっと所用ができた。バスまで間に合わないんだ。ウルスラ病院で合流しないか?」
「えと……スパーダ?所用って」
「コレだ」
スパーダは左手の薬指を見せる。
ソレだけで皆が納得してくれた。
「スパーダさんはご結婚なされて?」
「婚約です、まだ相手の両親に挨拶はしていない」
「そうですか……結婚は良いものですよ?
是非とも、式が有れば私に。オススメの式場を教えますよ」
「その時は是非とも、じゃあ俺は……」
スパーダはそのままアルモリカ村に戻る。
「あの感じ、顔も青くしてたし相当時間かかるぞ」
「……スパーダは先に行っててくれって言ってたけど」
「5人なら……うん。
皆さん、良ければ私とクロスベルまで帰りませんか?」
特務支援課はハロルドの提案にのり、
先にクロスベルへと戻った。
「……俺も丸くなったものだ」
「スパーダ、ほい。
お土産のハニーベリーサンデー10個。
おまちどうさま」
「ありがとう、また来る」
「お待ちしてますとも」
スパーダは街道の人気の無い場所に入ると閻魔刀を抜く。
「ふ…」
そして、次元斬を放ちDevilMayCryに入る。
「珍しいな、スパーダ。それで帰ってくるなんて」
「ジンゴ、お土産だ」
「お?コレってアルモリカ村のパフェじゃないか。
しかも1番高いし、でかいやつ」
「アシュリーとお前の分で2つ。
俺とグレイスの分も有るから全部食べるなよ」
「スパーダ、普通一つで満足するんだ」
ジンゴは冷蔵庫にハニーベリーサンデーを入れる。
「残りは?」
「ユウナたちの分だ」
「いってらーー」
スパーダは店を出ると真っ先にユウナに連絡を入れた。
「はい、ユウナです」
「ユウナか、お前の家にアルモリカ村のお土産がある。
帰ったら食べてくれ」
「へ?」
ブツリと電話を切るとユウナの家に向かう。
「あっ、スパーダ兄ちゃん!」
「スパーダお兄ちゃんだ!」
「あら、スパーダさん。こんにちは」
「リナさん、此方アルモリカ村のお土産です。
是非とも食べて下さい」
「え?あの、」
「では」
「帰っちゃうの?」
「仕事の合間でな、お土産のハニーベリーサンデーだ。
美味しいぞ?」
「「ありがとう!」」
ケンとナナを特別扱いしているわけではない。
ただ、アルバイトの家族のため必然的にお土産を渡す事になるのだ。
「さて……」
DevilMayCryで40分程休憩し、南口にあるバス停に向かう。
そこには居るはずのない立ち姿があった。
「お前達、なんでいるんだ?」
「なんで居るって言い方おかしいじゃない!」
「エステル…抑えて、抑えて……え?」
「いきなり何様よ!なんで居るとか……
あ…あ……あんですってぇぇぇぇぇ?!!!!」
騒ぐエステルにスパーダは耳を閉ざす。
「生きてたの?!」
「まあな、魔帝の片腕を奪った」
「あっ…貴方はデビルメイクライ!スパーダさん、お願いです!今、警察に特務支援課という方たちがバスを確認しに向かったんですけど」
「わかった、お前らも来い」
「な?!」
「あはは……行こう、エステル。話も聞きたいしね」
3人は歩きながらウルスラ街道を進む。
「それで、結社が何してるわけ?」
「今の俺はデビルハンター・スパーダだ。
執行者No.XV『魔王』なんて知らないな」
「ちゃっかり自己紹介しちゃって
……でも、生きててよかったわ」
「そうだね、レーヴェは」
「死んだか……噂は聞いていたが、
お前達から直接聞かせれるとは」
スパーダは今だけはリィンとしてそこに居た。
普段のおちゃらけ具合は一切なく、魔王の覇気が漂う。
「ねぇ、クロスベルにレンが居るらしいんだけど」
「あぁ……母さんから聞かされた。ヨシュアもそうだが、
レンの隠れん坊も中々のものでな、痕跡が何一つない。
と言うより、エステル・ブライト。俺は貴様にレンを託した。
何故逃げられた」
「それは」
「エステル、大丈夫。リィン、君は自分がおかしいと理解していないのかい?レンは君の妹だ。血の繋がりは無くとも、君の家族だろ。ソレを、僕達に」
「ならば、レンを常に側に置けと?お前達なら守れる。
お前達の隣にいればレンは普通の暮らしが出来る。
俺のような復讐鬼の隣に居るより遥かにマシだ」
「レンの気持ちを考えていないのか!」
「黙れッ!」
ヨシュアの胴体に閻魔刀が振るわれる。
「リィン!ヨシュアも!」
「……リィン、君だって離れたくないんだろ!
だから!僕の言葉に」
リィンは閻魔刀をヨシュアの首元まで近づけた。
回避も間に合わない、結社の最強格の抜刀。
刃に赤い液体が滴るがヨシュアはリィンを見つめる事を止めない。
「…興が削がれた」
血を払い納刀する。
「だが、ヨシュア・ブライト。
お前の言葉には一考の余地がある、エステル・ブライト。
お前達にレンを預けるという考えを変えるつもりはないが、
定期的にレンとは会うことにしよう」
「君、天邪鬼とか言われない?」
「もう………」
そして、3人が進んでいくとバスが魔獣に襲われていた。
「あれは……」
「エステル、行くよ!」
「ええ!ヨシュア!」
エステルとヨシュアは現れた魔獣を一瞬のうちに倒してしまう。
「皆、無事か?!」
「スパーダか、遅かったな」
「まぁな」
「ちょっとリィン、私達と対応違いすぎじゃない?」
「リィン?」
「ロイド、気にするな。俺のミドルネームだ。
彼女達はエステル・ブライト、ヨシュア・ブライト。
婚約者で遊撃士をしている変わり者だ」
「婚約者って言い方よせ!あと変人も!」
「なんだ、俺が知らぬ間に結婚式でも挙げたのか?」
「がぁぁぁおぉぉぉ!!!」
「エステル、リィンもエステルをあまり虐めないでよ」
「結婚式には呼ぶな、祝儀だけはくれてやる」
まるで警察幹部に対する様な口ぶりだとロイド達は思ったが、
スパーダの表情は所々皮肉めいた笑顔であり古い知り合いとしてのじゃれ合いなのだろう。
「そうだ、聞いてくれ。見ろ、この婚約指輪を」
「うそ!婚約指輪?!」
「あぁ、レンにも紹介したい。
母さんと姉さんには紹介したんだが………っと、
そうだった。バスだ、バス。済まないな、懐かしくてつい」
「ねぇ、リィン。それが素なの?」
「少なくとも、仕事中や嫌な奴とであった時とは違うな。
気を抜いている状態だ。おい、運転手。バスを見せてみろ」
「え…はい」
「導力回路が断絶しているな……この程度なら………」
「おい、スパーダ治せるのか?」
「ランディ、俺は年寄りでもなければオジさんでもない。
ましてや、時代に取り残された全世代的な男でもない」
「……スパーダさん、あの時の事が余程」
「ティオちゃん、駄目よ」
「エリィ、お前も小声で話せ。聞こえるんだよ」
「あはは……」
そしてスパーダは5分もせず、修理を完了させた。
「遊撃士のひ……」
「俺は遊撃士じゃない、間違えるな。警察だ」
「ひゃい?!」
「よし……治ったぞ。言うが応急処置だ。
一度、整備点検することを進める」
「え…はい、ありがとう御座います!」
「はぇ……そんな所が」
スパーダが修理を終えると仲が良さそうな特務支援課と遊撃士の二人組。どうやら治している間に親睦を深めたようだ。
「エステル・ブライト、ヨシュア・ブライト。依頼だ」
そう言いながら1万ミラをヨシュアに手渡す。
「市民及び、バスをクロスベル市内まで。
また、魔獣の撃退もだ」
「え?でも、こんな」
「正当な行動には正当な報酬だ。
俺達もやることがあるんだ、頼んだぞ」
話を切り上げ、バスの運転手からは感謝される。
「はぁ……」
だが、ロイドは何処か残念そうだ。
「遊撃士協会の新顔、エステルとヨシュアか……」
「気にするな!とは言えないのがこの部署か」
「私達と同い年ぐらいだけど、相当高位の遊撃士なのかしら?」
「高位と言うか、リベール事変の立役者だな」
「リベール事変の?」
「……スパーダ?」
スパーダは何処か苦虫を噛み潰したような顔だ。
嫌な思い出なのか、皆深くは聞こうとしなかった。
「って事は腕もあると」
「そうですね、私達が苦戦した魔獣をあっさりと」
「鍛えるか?なんて言わないさ、経験の差だ。
思い詰めるのはよせ。お前達はお前達で成長するんだ」
「ですね」「だな」「ええ」「はい」
特務支援課はスパーダにそれぞれ頷くと、
ウルスラ病院へと再び歩き出した。