懐かしくも、忌々しいと感じる者との再会。
そんなトラブルを乗り越え、目的地たる聖ウルスラ医科大学へ
到着した。
「ここが、医科大学か……
ふぅ、中々立派な施設だな」
「……『聖ウルスラ医科大学』
大陸有数の総合病院にして、医療機関としても有名ですね」
「そんなに有名だったのか!
確かにバスの本数が多いあたり、
1日の利用者数はかなり多そうだけれど……」
「元々は医療先進国であるレミフェリア公国の協力で
設立されたと聞いているわね。
周辺諸国からも重病人を受け入れているって聞いているわ」
「……確かに、でもその手の病院は倍率が高い。
結局、金持ちばかりさ。特に生産性のない老人、
若くて生産性のある青年は死ぬ事もある」
「あの……そんな言い方は」
「そうだな、不謹慎だった。少なくとも、ここは違うだろう。
皆、誇りを持っているように見える」
スパーダとティオがそんな話をしている間、
ランディは鼻の下を伸ばしていた。
「おっ…ナース服のお姉ちゃん達が居るじゃん!
いやぁ…眼福、眼福!なっ!スパーダ!」
「待て?!俺まで巻き込むな!」
「ランディは元気だな」
「だろ?」
ロイドの返答にそう答えるランディ。
そして、其れ等を笑いながらもエリィは素直な感想を話す。
「今までにも何度か車で訪れた事はあるけど……
やっぱり、徒歩で来ると結構な距離だったわね」
「……………」
「ティオ……?」
顔に陰りが見えたティオ、皆が心配し声を掛ける。
「流石に疲れちゃった?」
「……いえ、平気です。
アルモリカ村程、遠い距離ではなりませんでしたし…」
「それなら良いけど……あんまり無理はするなよ」
「えぇ、ご心配なく。
それよりも……ロイドさんは知り合いのお姉さんに
会わなくても良いんですか?」
「そうか、それもあったな!
ほらほら、ロイド!とっとと会いに行こうぜ!」
テンションが一気に上がったランディに肩を竦める。
「……なんでランディがテンション上げるんだよ。
まぁ良いか、セシル姉だったら話も通しやすそうだし……」
「ふふ、それじゃあ正面の病棟に入りましょうか」
整った病棟が静かに佇み、看護師も患者も笑顔だ。
「ようこそ、ウルスラ病院へ。
今日は外来ですか?それとも、お見舞いですか?」
「いえ、俺はクロスベル警察。特務支援課の
ロイド・バニングスと言います。今日は捜査任務のために、
此方に伺わせてもらいました」
「あっ…警察の方だったんですね。
捜査と言いますと……やはり例の魔獣騒ぎでしょうか」
「ええ……自分達でも調べるように警備隊から要請が
ありまして。関係者に一通り、話を聞かせていただければと」
「そうですね。病院長は留守ですし、
看護師長をお呼びしましょうか?」
「あの……個人的な知り合いが此方に勤務していまして、
その人がお忙しく無ければ、
案内してもらおうかと思いまして……」
(なんだか緊張してますね……)
(あー………そういうタイプか)
(そりゃあ!ナースのお姉さんで美人とくりゃ!
緊張もするだろ!)
(それは貴方だけでしょ……)
エリィの呆れ声に何とも言えなくなるスパーダ。
その時だ。場を優しそうな声が駆ける。
「――ロイド?」
「あ、」
「………………」
ロイドとナース服の女性が向かい合い、見つめ合う。
だが、此方はそれどころじゃない。
(なっ……)
(綺麗な人……)
(……グラマー……です……)
(…グレイスよりも……すげぇ)
(最低です)(最低ね)
(待って?!)
つい出てしまった言葉に女性陣からの視線が痛々しい。
「あら、セシルさん!丁度良かった、此方は警察の方だそうで」
「えっと…その……いきなりゴメン。
連絡すれば良かったかな」
「………っ………」
するとナース服の女性は場を考えずにロイドに抱き着いた。
驚きの光景に特務支援課だけでなく、来ていた病人や見舞客、
看護師も見ている。
「ちょ、セシル姉……!?」
「やっと…やっと…会えたわね。お帰りなさい、ロイド」
「う、うん……
会いに行けなくてゴメン。暫くずっと忙しくてさ……
そっ、それより、流石に恥ずかし過ぎるんだけど……」
「観念しろ、姉を心配させてんだ。そんな目にも遭うさ。
まだ、人前で大声で泣いてないだけマシだからな」
「……良いからこのままお姉ちゃんに抱きしめられてなさい」
「聞こえてねぇし」
何とも言えない空気になったスパーダは壁に寄りかかる。
「前に別れた時は私と同じくらいだったのに」
「そ、そりゃあ育ち盛りの3年間だったし……」
「あ、あの~……」
受付の人も流石に驚いて何も言えない。
聞きたいという気配はあるが、セシル姉と呼ばれた女性には
届いていない様に思える。
(な、何ていうか……)
(想像以上に甘々ですね……)
(おのれロイド………あんな素敵なお姉さんを……)
(………俺は最低でランディに反応無しかよ。
どうなってやがる)
一行はセシルに案内され、2階の休憩所に入った。
来客用のレストランも兼ねているのか、
人の数は少なからず居る。
「――はじめまして。セシル・ノイエスと言います。
ふふ、どちら様かと思ったけどロイドの同僚さんだったんですね」
「は、はい……エリィ・マクダエルです」
「どうも……ティオ・プラトーです」
「ランディ・オルランドっす!どうも、お見知り置きを!」
「ふふ、よろしくね。そして、その……」
苦笑いを向けられるスパーダ。
席の都合で1人だけ立っているためか、
余計に目立ってしまう。
「なぁ、スパーダ。やっぱりその重武装やめねぇか?」
「むっ…「いえ、大丈夫ですよ」
そうか……止めたほうが良いか」
子供達相手にも、受けが良いが腰に刀。
背中に剣、そして紅いコートに白いシャツに黒いスラックス。
「……失礼しました。Devil May Cry店主。
スパーダ・S・リンと言います。現在はロイドがリーダーを
努める特務支援課のメンバーを務めさせて頂いております」
「まぁ…あの、そんなに畏まらなくても」
スパーダの所作は何処かの騎士を思わせる様に、
一つ一つが洗礼されている。
「あの」
「ロイドは我々のリーダーとして、仲間との関係を深め、
絆を育む優秀な捜査官です。
私は……心より彼と出会えた事を嬉しく思います」
「ちょ…スパーダ」
馬鹿真面目、尚且つ真剣な眼差し。
ソレを受けてロイドも頰を赤らめるが、仲間達は違う。
「そうね、私達のリーダーとしても」
「はい、ロイドさんはランディさんとスパーダさんの
手綱を握ってくれていますし」
「「おい!」」
「ふっ……ふふ……ごめんなさい。その、面白くてつい」
支援課のやりとりでセシルは思わず笑ってしまう。
「はぁ……でも私ったら慌てん坊ね。
てっきりロイドが彼女を連れて遊びに来たのかと
思っちゃったわ」
「ちょ…何を言い出すのさ?!」
その言葉にロイドが慌てるが、スパーダはニコニコ笑うのみ。
唯一の恋人持ちなうえ、幸せな関係を築いているため、
歳下のロイドにも恋人の素晴らしさは伝えたいのだ。
「だって3年ぶりでしょ?彼女の1人や2人ぐらい作って
お姉ちゃんに紹介してくれるのかなぁ〜って。
はっ、ひょっとして本当にお付き合いしているけど、
仕事だから隠しているとか……
ごっ、ごめんなさい。悪いことをしちゃったわね……」
「あのねぇ……」
ロイドの呆れ顔につい笑みがでてしまう。
「それで……どっちと付き合ってるの?
エリィさん!ティオちゃん?!
それとも…二人いっぺんにとか!」
「だから違うってば!」
ロイドの怒号に他の人も顔を向ける。
だが、スパーダが居るからか即時に目を背けた。
(今だけはお前の装備に感謝するぜ)
(……ロイドめ、笑って誤魔化すぐらいにすれば)
「はっ……もしかして、男性二人のどちらかと?!
ううん、私もそう言うのには理解ある姉で居たいから…」
「そこは反対する所だから!
それにスパーダには婚約者居るよ!
変な噂立てたら申し訳ないよ!」
「…いや、変な噂なら腐る程あるから
男色家とか増えた所で俺は気にしないが」
「……スパーダ、流石に寛容すぎだろ」
ランディの呆れ顔に何とも言えない顔でかえす。
「……クスクス」
「何とも…ユニークなお姉さんですね」
「は〜、天然な所も素敵だぁ~」
「―コホン。
それで、セシル姉。魔獣騒ぎの事なんだけど」
「うん……そうだったわね。師長から許可を貰ったから
私が説明させて貰うけど…」
セシルの話し始めた内容を要約すると。
襲われた時期 1週間前
事件現場 病棟屋上 テラス
被害者 研修医
備考 奥に医者の詰めている研究棟がある
「……ざっと話をメモしたが」
「魔獣が出る場所とは…思えないっすね」
「……セシルさん、その翼の生えた犬や、
手が鎌になっている怪物などは」
「いえ、その狼型の何かに襲われたとしか」
「……(悪魔じゃないか)」
スパーダの言わんとした事が理解できたのだろう。
みな、一息ついている。
「それで…警備隊の人達も最終的に
狼型魔獣被害って決めたらしいの。
でもどこか納得出来なかったみたいね。
貴方達に調査をお願いしている所を考えると」
「い、いやぁ〜…どうかな。
正直、そんなに期待されていない気もするけど」
「ふふ……謙遜しないで。
クロスベル・タイムズを読んだけど凄い頑張ってる
みたいじゃない。その……氷で張り付けはやり過ぎかなって」
「あ……そうか、旧市街の。でも、」
「そうだよなぁ……スパーダが終わらせた様なもんだし」
「……スパーダ……あっ!100人斬りのスパーダさん?!」
「100人斬り?!スパーダ、お前何したんだ!」
「いえ…あの、一時期怖い顔の方が通院にいらして、
尽く……赤い二刀流にヤラれたって………皆トラウマで
赤い物をみると『彼奴が…彼奴が来たんだぁぁぁ』って」
「ねぇ、スパーダ。その何をしたか話してくれない?」
エリィは頭を抑えながらもスパーダを見つめる。
空気が話せと重くのしかかる。
「その、グレイスとデート中にマフィアがぶつかってきてな。
その……穏便に済ませてやろうと思ったらグレイスに手を出そうとしやがって………」
「おい、まさかそこから」
「途中、黒月の構成員が巻き込まれてたらしくてな。
クロスベルを巻き込んでその………」
「マフィア対1人の戦争かよ?!
アンタ、トラブルメーカーだな!しかも勝ったんだろ!
いやぁ……共和国の黒月本部まで行って
幹部連中に喧嘩を売って商売を尽くご破産にしてやったんだ。
んで…頭下げさして……んで、黒月は俺に関わらないと」
「………頭痛い」
時が経つに連れて判明していくスパーダの過去。
しかも、基本的に大きなトラブルしかない。
「まぁ……その、惚れた人を護りたかったんだ」
手で顔を隠しながらも頰を赤らめているスパーダ。
それを見たランディはニヤニヤ笑いながらも口笛を吹いた。
「ヒュー…お熱いねぇ」
「…ごめんなさい。私が話せるのは此処まで。
この先は襲われた本人に話を聞いた方が良いと思うわ」
「うん、できれば紹介してほしい。
あと、実際の現場を調べておきたいかな」
「わかった、何方も案内するから任せて」
「あっと……セシル姉は時間大丈夫?」
「ええ、丁度今は休憩時間だから。
それじゃあ、病院棟の2階に行きましょう」
「お供しまッス!」
「そこはエスコートします、だろ」
(……みんな、いきなりセシル姉に馴染んでるなぁ)
セシルに案内されたのは病室だった。
202号室と書かれたそこにスパーダは一瞬だが、
武器を向けようとしてしまった。
「…スパーダさん?」
「いや、気の所為だ」
常に嗅いだことのある匂いと気配、
それを一瞬だけだが感じることができた。
「スパーダ、本当に大丈夫か?顔色悪いぞ」
「あの、簡単な診察も出来ますから」
「……悪い、ちょっと休ませてもらう。薬の匂いか」
「えぇ、そうね。
スパーダさん、椅子はあそこのにありますから」
椅子に座り、病室の中から感じた気配と匂い。
それは確実にスパーダの怨敵にして、過去の因縁。
だが、片腕を落とし此方の世界への侵攻する力を削いだ筈だった。
「……今はない」
気の所為ではない、事、
悪魔においてスパーダを超える者は居ない。
悪魔だからわかるのだ。悪魔だから知っているのだ。
「……クロスベルに魔帝の手が来るか」
アビゲイルなんて比じゃない。
魔界を統べる皇帝が、スパーダへの復讐の為に動いている。
想像でしかない、だが悪魔は忘れない。
「……クロスベルから去って欲しいと思うのは、
俺の我儘だ。せめて、俺の手の届く所に入れば」
それはグレイスにも見せたことのないロケット。
中には母、姉達、妹、自分の家族写真が入っている。
自分から捨てたくせに何ともな言い分だ。
突き放したのに、未練がましく思っている。
「リィン?」
「レン?どうした、何か食べたいのか?」
「もう!エスコートしてくれる約束でしょ!
デートなら最低なレベルよ!恋人出来たら………」
「あぁ…」
「他にも、改善する所は………」
「あぁ………」
「ーダ?スパーダ」
「ん?…あっあぁ………ロイド」
「大丈夫か?」
「あぁ、少し寝て休めたからな」
「スパーダさん、顔色最悪ですよ」
「…スパーダ、お前何あったか覚えてるか?」
「は?」
ランディはスパーダに起きた事を話していた。
どうやら座って休んでいた筈のスパーダは通路に倒れており、
酷い熱を出していたとのこと。
解熱剤を投与され、軽く2時間は経過し既に夕方である事。
「スパーダさん、起きたんなら診察しますよ!」
「あっ…はい、ロイド。多分すぐ終わるからさ、」
「あぁ、帰りはバスだ。間に合うようにしろよ!」
ロイドの言葉に手を振り返す。
そして、病室に通された。
「うーん、健康体だ。どうなってるんだ」
「あの、俺の熱って何度で」
「50℃に行くほどの高温でした。普通なら死んでますよ。
なのに、今は健康体。人間辞めてますか?」
初老の医師だが言葉は選ばずはっきりと答える。
的を得ているため、苦笑いしか返せない。
「寝てる間に検査もしましたが、このとおりです。
一応、解熱剤は出します。1週間分、1日3回まで。
発熱時ですからね、普段から飲まないように!
無くなったら連絡を!必ず来てくださいね!」
時間もかからず、バス停に向かう。
「おっ、丁度だな」
「大丈夫でしたか?」
「……まぁ、大丈夫だ」
そのままバスにのる。
夕暮れ時という事もあるのだろうか、比較的空いていた。
「………」
「綺麗な夕暮れね……」
「はい……なんだか、目に痛いくらいです」
「は〜、しっかし導力車ってのは随分と楽ちんだよなぁ。
支援課でも専用の車が使えれば良かったんだが」
「まっ、無理だろうな。
他の捜査課では車が使われているみたいだけど」
「……確か、捜査一課では捜査員一人一人に
専用車が用意されているはずです」
「そういや、乗り回してたな」
「そっ!そうなのか!」
その事実を知らないロイド、エリィ、ランディは驚き、
スパーダは心当たりがあるのか嫌な顔をする。
「それは流石に優遇しすぎだと思うけど……」
「やれやれ……こう言う時に日陰者は辛いねぇ」
「まぁ…無い物ねだりしたって仕方がないし、
それに、街道を歩くのだって結構な鍛錬になると思うぞ?」
「不本意ですが、そうかもしれませんね……
でも、今日は流石にこれ以上の調査はしませんよね?」
「あぁ、残りは北の鉱山町だ。さっきも言った通り、
今日は帰ったら調書を纏めて、明日、改めて訪ねてみよう」
「ふぅ……了解です」
「ふふ…流石に疲れたものね」
「俺も……皆に迷惑をかけたな」
「気にするなよ、スパーダ。
しっかし、セシルさん良かったなぁ……
今度、合コンにかこつけて個人的にお近づきを……!」
大声で叫ぶため視線が集まる。
「見られてるぞ、俺等」
「ランディは元気だなぁ……」
その夜、支援課に戻った一同はその日の調書をまとめ始めた。
新たに判明した事実や証言、現場の不審点での推測などを
分かりやすくまとめていくうちに…
いつの間にか日付が変わっていた。
心身共に疲れ切っていた一同はそれぞれの部屋に戻り、
休むのだった。
翌朝、スパーダは慣れた手つきで珈琲を淹れる。
サイフォンでもなければ、特に有名な豆でもない。
至って普通のインスタントだ。
「……よぉ、起きてたのか」
「記事を見ていた。最高だな、笑える記事だ」
スパーダが契約し特務支援課に届けられる
クロスベルタイムズだ。
『警察またも不祥事?!衛生面に不安の声!!』
昨日、警察署内のピエール副署長の部屋で
ゴキブリの大量発生が起こった。
これに対し、クロスベル保健所は調査を結構。
ゴキブリだけでなくドブネズミのコロニーも発見され、
警察官の衛生面が心配されている。
これに対し、ピエール副署長は
「すぐに対処し、市民の方への不安を取り除く」
と発言しているが、その信頼を取り戻せるかは未知数である。
また定期的に訪れていた清掃業者〘ナイス・クリーン〙の
不正が調査により発覚し、〘ナイス・クリーン〙と
契約している店舗、個人宅等にも調査を実施する所存だ。
『ナイス・クリーンは詐欺集団!行われる作業の実態!』
ナイス・クリーンからの内部告発があり、
我々クロスベルタイムズは調査に乗り出した。
〘ゴキブリを放つ写真〙
〘ドブネズミのオスとメスを放つ写真〙
ナイス・クリーン。クロスベルでも有数の清掃業者だ。
仕事はトップクラスであり、
数多の契約者がいる事で有名である。
しかし、その実態は自作自演が蔓延る詐欺業者であった。
自らゴキブリやドブネズミを繁殖させ、
駆除や清掃に赴くというもの。
これには契約者からの…………
「……酷いな」
ピエール副署長を嘲笑うつもりで呼んでいたが、
まさか1日で此処まで調査が進むとは。と思えてしまう。
「二課の奴等は大忙しだ。
証拠を消される前に捕まえねぇと意味が無いからな。
此方は」
「そこは安心しろ、俺が頼んでる所を教えたろ?」
「あぁ、ドルネー・サービスだな。
個人経営の清掃業者だったな。詐欺しねぇよな?」
「しねぇよ。俺の個人的な友人だ。
しかし、警察に詐欺するとは……」
「おかげで保健所も大忙しだ。
……お前が原因じゃ無いよな?」
「動物操れたら使ってるぞ。
でもな、ゴキブリとドブネズミは御免だ。駆除対象だ!
ココと店もゴキブリが出ないようにしてるしな!」
ダンッ!と珈琲の入ったマグカップを叩きつける。
スパーダは個人的に綺麗好きだ。
「……おい、顔青いぞ」
「俺が殺したのは多分、アシダカ軍曹だ。
わかるだろ、ゴキブリ殺すアレだ。なんて酷い事を……
それに、あのピエールがグシャリと潰した瞬間を俺は………」
「あ〜〜、まぁ、気にすんな」
「忘れたいんだよ!」
そんな事を話しながら珈琲を飲む。
「もうすぐ客人が来る。彼奴等を起こしてやってくれ」
「わかった」
スパーダはロイド、ランディ、エリィ、ティオと起こしていく。
流石に部屋には入らず、ノック。
起きていればドア越しに会話、だめならエニグマに電話と
二段構えの戦法だ。
現在は朝の7時、クロスベル警察の始業時間は8時から17時。
朝食のために起きている者も居るだろうが、
ランディ辺りは正直ギリギリまで寝ていると思っていた。
「ロイド、起きてるか?」
「スパーダ?少し待ってくれ。今」
「いや、大丈夫だ。セルゲイから客人が来ると言われた。
準備でき次第、降りてきてくれ」
「セルゲイ課長が?わかった、すぐ行くよ」
ロイドは規則正しい生活をしているという想像だったが、
その通りであり何故か軽い笑みが出る。
「っと、スパーダじゃないか」
「速いな、元警備隊と言うべきか」
「聞こえてたぜ、客人だろ」
「わかれば良い、降りててくれ」
「了解だ」
エリィもロイドと同じくノックすれば起きているのが判る。
「エリィ、セルゲイから客人が来ると言わ」
「おはよう、スパーダ」
「準備は完璧か、丁度いい。ティオを起こしてあげてほしい。
モーニングコールは男よりも女のほうが良いはずだ」
「そんな言い方は……スパーダも良い声してるし」
「……そうか?なら」
そう言われノックするが反応はない。
「ティオ?お~い」
エニグマに連絡も入れるが、どうやら気付いて居ないようだ。
「頼む」
「えぇ、良いわよ」
エリィは少しするとティオと出てくる。
「あ~……寝巻きでか?」
「違います、少し待ってて欲しいんです」
「わかった、伝えておこう」
スパーダは先に降りる。
まだ客人は来ていないようで、
ロイド、ランディ、セルゲイの3人は珈琲を飲んでいる。
「スパーダ、お疲れさん。エリィとティオはどうした」
「女性は身支度に時間がかかるものだ」
「そうだな、あと……この記事」
「……セルゲイにも言われたが、ここは安心しろ。
大丈夫だ。俺の信頼できる奴が掃除してくれてる」
「あはは……」
数分後、エリィとティオが降りてきた。
「失礼するわね」
「丁度いいところだったな」
「ソーニャ副司令?」
「やっぱ、予想通りだな」
「ふふっ、おはよう」
前と同じ2人だ。
ロイド達は課長室に入り、
セルゲイから客人達の用件を聞かされた。
「訪ねに来ると連絡を受けてな」
「それは…随分と急な話ですね」
「それはね、此方の状況が少し変わってしまったの。
実は、昨日まで警備隊で鉱山町方面の警備及び巡回を
行っていたのだけれど、今朝をもって完全に引き上げる
事になったのよ」
「引き上げる?縮小でなくか?」
スパーダの疑問に皆同じ顔をした。
いくら成果が無いと言っても、事件が起こったのは3日前。
被害の事を考えれば、縮小はまだ判る。
しかし、完全撤退は予想できない。
「最低限でも1週間は行うべきだろ、
お前達それでも軍属か?」
「耳が痛いわね、スパーダの言うとおりよ。
警備隊司令からのお達しでね、これ以上無駄な事は
するなと言うね」
スパーダは今、デビルハンターであるが、
本来は黒騎士又は魔王であった。
自身を純粋な善人と考えはしなかったが、
民間人への被害を良しと出来るほどの男ではない。
「む、無駄な事って……」
「ちっ…あの腰巾着オヤジが」
「ランディ、知ってるのか?」
「一応は警備隊のトップだが、
帝国派議員のお偉いさんと深いパイプがあるらしくてな、
禄に仕事もしないで、接待ばかりしてる野郎だ」
「噂には聞いていたけど……まさかそんな人が本当に」
「……居るさ、議員とその取り巻きなんてそんな奴ばかりだ。
その中で、エリィ。お前の爺さんは良くやってる。
ただ一つ、俺を此処にブチ込んだのは許せない。
前の俺なら証拠を残さず、警備隊も、政治家も、悪魔も、
打ちのめせた筈なんだ」
「テメェがそう言う奴だから入れたんだ。馬鹿」
セルゲイの言葉に呆れ顔の皆。
だが、それても会話は続いていく。
「ですが…魔獣の被害を放っておくのは問題があるのでは?」
「えぇ、その通りよ。
局地的な被害なら最悪、遊撃士協会に任せるのもアリだった。
でも、今回の魔獣被害は範囲が大きすぎる。
警備隊としてもこれ以上は看過できないわ」
「――問題は3週間に渡り、
魔獣の正体が突き止められなかった事。
そして、魔獣の被害がそこまで大きく無かった事。
それを理由に、司令からストップがかかったんです」
「そうだったのか…」
ロイドが何やらスパーダを見た。
どうやら、使えるツテを使うらしい。
「ロイド。そんな目で見るな。
一応、その腰巾着司令を潰す方法もあるぞ?」
「おいおい、スパーダそれって」
「弱みは持ってるが……
まず、やる気は無いが最低な案がある。
此方も放置すること。
同じ魔獣で、しかも死傷者がでたりすれば撤退した警備隊。
そして、それを命じた警備隊司令の責任は免れない。
蜥蜴の尻尾切りをしたとしても、そこは俺の恋人の記事で
チョチョイのちょい。ついでに議員にも飛火させれば」
「クロスベル・タイムズが味方か…怖いねぇ」
「あそこの最大株主は俺だぞ?54.82%。
ある意味、好きな文章を掲示頼める。まぁ、悪魔のせいだが」
「……駄目だ。被害が出るのは」
「もう一つ、これが本命だ。俺達が終わらせるんだ。
事件を解決する、ただそれだけ。
危険に首を突っ込むのは俺達、警備隊は撤退してるから
どうしょうもない。
むしろ、警備隊が解決出来なかった事件を若き捜査官と
その仲間達が解決した。
問題は警備隊のメンツが潰れることだな。
まぁ、事前調査があったからとか言えば言いだけ」
「それりゃぁ良いな!」
「楽観的ですね」
「楽観的だが、やるしか無い」
「盛り上がって居る所悪いけれど、彼女の紹介を」
「あっ…あの、ノエル・シーカーです!
改めてよろしくおねがいします!
あと、お久しぶりです!スパーダ教官!」
「教官?スパーダが?!」
「……あー、スパーダ。話していいか?」
「嘘だろ、ランディ。お前も知ってたのか?」
「元警備隊だ。話には聞いてたさ。
警備隊時代に射撃が上手いやつ集めての撃ち合い。
その時、スパーダの奴はアサルトライフル型や
サブマシンガン型よりも速い連射でその……」
「わかった、ルーチェとオンブラを」
「はい!拳銃であそこまでの連射と
早撃ちに痺れた仲間は多いんです!ですから教官と!」
「……それヤメロ。」
「スパーダ、ごめんなさいね」
またしてもスパーダの知らない一面を見ることが出来た
ロイド。スパーダ本人は過去のヤラカシを知られて行き、
恥ずかしさから頬が赤くなっている。
「クールキャラがなくなってきましたね」
「ティオちゃん?」
「あはは……そう言えば、シーカーって」
「はい、妹がお世話になってるみたいですね」
「そうか…君がノエル曹長か。
聞いてるぜ、タングラム門の女性隊員で
期待のホープだってな。」
「ふふっ、自分の方もランディ先輩のお話は聞いています。
色々な伝説をお持ちのようで」
「ははっ、それは光栄だね」
「何故、俺はバラされて貴様はバラされんのだ」
「まぁ、社交辞令はおいおいよ。
現状は伝えた通り、ちょっと不味い状況よ。
正直、藁にも縋る思いで来たけれどスパーダのあの言葉。
きっと、何かあったのよね?」
「はい、報告します」
ロイドは新たな証言と情報を事細かに説明する。
「…………」
「なるほど、どうだソーニャ。うちの若いもんは」
「…スパーダ、貴方が手伝って居ると聞いていたけれど」
「生憎だが、俺はウルスラ病室で何もしていない。
色々あって高熱を出して、緊急で診察していたからな。
総て、ロイド、ランディ、エリィ、ティオが……
自分達の足で掴み、拾い上げた情報だ」
「……そう、期待以上よ。
どうかしら、ノエル」
「…やはり、驚きました。
やはり、本職の捜査官は目の付け所が違いますね」
「目の付け所というより、発想の転換ね。
……うん、決めたわ。貴方達には引き続き、鉱山町方面の
調査を依頼します。
この調子だと、本当に真実が見えてくるかもしれないわね」
「えぇ……俺達はそのつもりですが」
「それだと、例の司令殿の命令を無視する
形にならないッスか?」
「ふふ、
貴方達の要請まで取り下げろとは言われなかったもの。
魔獣の手掛かりが掴め次第、行動に移れるようにする―
それなら、問題ないわよね?」
「……良いのかい?俺等が解決するかもしれないぜ」
「はい、むしろ。その方が良いかもしれません」
「なに?」
「その、どうやら魔獣達に私達の動きが
バレている様なんです。
ですから少人数での捜索の方が相手も
隙を見せるかもしれません」
「そうですか…わかりました。
兎に角これから俺達は鉱山町の調査に向かいます。」
「何か分かったらタングラム門の副司令部までお願いね。
それと、セルゲイ。例の話はまた後日ね」
「わかった、あんま無理すんじゃねえぞ」
「えぇ、ノエル。行きましょうか」
ソーニャとノエルが急ぎ足で帰っていく。
「忙しそうだな」
「そうね……早朝に鉱山町から撤収したばかりみたいだし」
「まぁ、無能な上司に振り回された。
そのうえ、共和国方面の警戒もしなきゃいけねぇ……」
「…貧乏くじだな」
「そう言えば、セルゲイ課長。ソーニャ副司令と」
「あん、お前はなして」
「スパーダ、ラズベリーサンデー2つ」
「今のは忘れろ」
「うそ……ラズベリーサンデーで」
「……面白お兄ちゃんキャラです」
「兎に角だ。この手の先人の俺から言わせてもらう。
自分の足を使え、環境を理解し、策を練ろ。
ここは遊撃士を見習っても良い」
「自分の足?」
「そうだ、魔獣との戦闘然り、捜査然り。
結局は経験が物を言う。自分の足で経験するんだ。
そうすれば、自ずと道は開けるさ」
スパーダのちょっとした演説の後、
特務支援課は鉱山町方面の魔獣調査を開始した。