リィン・サンドロットの軌跡   作:影後

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スパーダ・リンの軌跡4

「食事はサンドイッチだな。

マインツには何があったか……」

 

「お土産ですか?」

 

「ティオ、俺の買い物に付き合わなくとも良いんだぞ?」

 

「いえ、準備は大切ですから」

 

一度、マインツへ向かおうとした際。

スパーダとティオは自らを呼ぶ様な遠吠えを聞いた。

今回、ロイド、ランディ、ティオも聴いている為、

一度準備に戻った。

そこで、ちょっとした観光ガイドを買おうとする

スパーダにティオは一緒に行くとついてきたのだ。

 

「なんでガイドなんて」

 

「観光ガイドは馬鹿にできんぞ。

外から来る者が書くため、

そこに住んでいる者が知らない視点から物を見る。

一種の視点だな」

 

マインツ付近の地図と観光マップらしき物を買い、

集合地点へ向かう。

 

「あの……スパーダさん。聞きたいことがあります」

 

歩いていると、ティオがそんな事を言ってきた。

別に聞かれれば話すスタイルな為、

酷い秘密以外はあまり隠していない。

 

「……ガイ・バニングスを知っていますか?」

 

「一度だけ、彼奴ほどの熱血漢は居ないさ」

 

「……私、見覚えがあるんです。

あの日……あの場所で……」

 

震える声で話をする姿にスパーダは思い出す。

執行者として、黒騎士として、リィン・サンドロットとして、

殺戮を行ったあの日を。

悪魔の力なく、ただ刀を振るっていた過去を。

 

「……黒い鎧を身に纏って、人を」

 

「……人を殺していた。此奴を使ってな」

 

それは小太刀、変わらず所持し続ける思い出の品。

 

「…やっぱり」

 

「何処で気付いた?」

 

「見覚えが…あったんです。一度だけ、貴方に救われた日。

私を打とうとした人を殺した、あの日見た立ち振舞と

刀を振るう姿が」

 

スパーダではなく、リィンとしてティオを振り向く。

 

「生きていてくれて良かった」

 

「言わせてください。あの…ありがとうございます。

貴方や、ガイさんのお陰で今があります」

 

「そうか」

 

撫でることはしない。

あの行為は、自分にとってただの過去でしか無い。

本当に救いたかった存在を突き離し、

彼女に傷を付けてしまった。

それなのに、自分は新たな幸せを教示しようとすらしている。

思い出したく無かった罪悪感。

リベールの2人と、

今ティオに言われたことで益々自分が惨めになる。

 

「……スパーダさん?」

 

「先に言っててくれ」

 

ティオが離れた事を理解すると、口から言葉が溢れた。

それは、自分に対しての本音。

リィン・サンドロットではなくスパーダ・リンとして

生きている今の自分に対しての言葉。

 

「…度し難いよな、こんなの」

 

マインツへの道を魔獣と戦闘し、経験を積みながら進む。

今までの戦闘を鑑みても、連携は整いスパーダのサポートも

必要なく、ロイドの陣頭指揮も的確なものになっている。

 

「……」

 

だが、甘い。

短い間だが、特務支援課の実力は大まかには把握できている。

ロイドは魔獣相手では一歩劣るが、並の警察官や暴徒なら簡単に制圧出来るだけの実力はある。無いのは経験だ。

エリィは競技射撃の経験者という事もあり、

射撃において一律の長はあるだろう。

ティオは導力魔法やその応用において、ずば抜けているが、

身体能力、そして土壇場の対応力という意味では低い。

そして、問題がランディだ。

秘密裏に調査をしていたが、スパーダの予想通りであった。

元々猟兵団〘赤い星座〙の団長である闘神の息子。

スパーダと何度か殺し合いもした関係でもある。

無論、実力で言えばスパーダ否、本気の魔王の足下にも

お呼べないがスパーダを抜いた特務支援課の中では、

対応力、経験、陣頭指揮、本来全てが高水準の筈だ。

だが、目の前の存在は今のスパーダと同じく牙を隠し、

警察官という立場で新たな生き方を模索している。

 

「……人生とは、何とも不思議だ」

 

マインツ参道を進んで行くと、分岐点にたどり着く。

 

「どうやらここが、山道の分岐点みたいだな……」

 

「ふむ、狼型魔獣ってのは見当たらなさそうだが…」

 

「警戒は怠るな、魔獣は此方に気付いてる可能性もある」

 

「それか、また別の場所に移動したのかもしれないわね」

 

皆が考えを深めている時、ふとエリィが告げる。

 

「左が鉱山町方面として…アチラには何があるのかしら?」

 

分かれ道の右、少し古い階段。

 

「…データベースにも該当する情報はありません」

 

「…地図にもない、どうなってる?」

 

「それは…一応、調べた方が良いかもしれませんね」

 

「あぁ、先に進む前に確かめてみよう」

 

古い階段を抜けていくと、

森の中に随分と雰囲気のある洋館が姿を見せる。

草木が生い茂るという事はなく、手入れも丁寧にされている。

 

「ここは……」

 

「随分、雰囲気のある建物ね。

廃墟という感じでも無いし、誰か住んで居そうだけど…」

 

「お?!そこに看板が出てるぜ?」

 

門の脇に大きく看板が出ていた。

洋館の雰囲気に飲まれ、今まで気付けなかった。

 

[ローゼンベルク工房]

ー関係者以外立ち入り禁止ー

 

スパーダは聞き覚えはなく、不思議がっていると

エリィが何か気付いたのか微笑む。

 

「あぁ、ここが……」

 

「エリィ、知ってるのか?」

 

「えぇ、その筋では有名な人形工房よ。

高価なアンティークドールを手掛ける天才人形氏が

居ると言われているの」

 

「へぇ…そんなのがあるのかよ」

 

(人形、レンなら……いや……)

 

「私も名前だけなら、聞いたことがあります……。

確か、オークションでも途方もない値段が付くとか」

 

「えぇ…いくつか見たことがあるけど。

どれも芸術品という感じだったわ。

クロスベルにあるとは聞いていたけど…

こんな人里離れた場所にあったのね」

 

「天才人形氏か……

看板の警告と言い気難しい雰囲気だけど、

話だけでも聞かせてもらえないかな?」

 

「――お爺さんなら留守よ」

 

皆が反応する中、

その声の主を理解したスパーダは動けなかった。

何処か、人に悪戯するような仔猫のような話し方。

自分が遠ざけた、その罪悪感を忘れようとしている少女。

 

「……リィン」

 

「………久し振りだな、レン」

 

「知り合…」

 

「今更、何を言うのかしら?

レンを放って、クロスベルで楽しく過ごしてたんでしょ?

結局、リィンも同じ」

 

「違う……俺は」

 

「違う?なら、なんでレンを捨てたの!

レンは、ただ家族で一緒に居たかっただけなのに!

リィンはレンを捨てて消えた!リベールで、あの時に!」

 

レン、紫髪の少女と再びリィンと呼ばれたスパーダ。

その関係をロイド達は理解できた。

 

「……なら、どうすれば良かった!

俺が守れば良いのか……お前を、この俺が?

血に塗れ、数多の敵を屠る刃を振るう手で!

言ったはずだ、俺はお前を幸せにはできない。

所詮、根幹にあるのは」

 

「何よ!レンの気持ちも…………

ママ達の気持ちも知らないで自分ばっかり!」

 

「なんの為に俺が死にに行ったと」

 

「知らないわよ!」

 

「スパーダ、落ち着いて!」

 

「あの…レンちゃんも………」

 

口論がヒートアップしていく中で、

ロイドとランディはスパーダを。

エリィとティオはレンの抑えに回った。

といっても、両者共に暴力を振るうことはしない。

共に育ちの良さと、傷つけたくないという気持ちの現れだ。

 

「……リィンのバカ!教養なし!」

 

「教養なし?!レン、それはさすがに」

 

「お花摘み!鷹を射る!知らなかったくせに!」

 

「ぐっ?!」

 

「他には…女誑しの人格下半身男!」

 

「誰がそんな事を!誰だ!誰に教わった?!」

 

だんだんと悪口ばかり言われるスパーダ。

途中から顔が悲しみに暮れているため、本格的に止めに入る。

 

「ふぅ…ふぅ…ふぅ……」

 

「レン、一体何処でそんな酷い言葉を」

 

「ふん……」

 

ついに言葉をかけても返事をしない様になってしまい、

スパーダは悲しそうな顔をする。

 

「……あ〜、スパーダとは兄妹で?」

 

「えぇ、私の名前はレンっていうの。

お兄さん、特務支援課の人でしょ?新聞で見たわ」

 

「なぁ、レンちゃん。

スパーダに声かけてくれねぇか?

なんつうか……あまりにも可哀想で」

 

「レンを置いて消えたお兄ちゃんなんて知らないっ!」

 

「……」

 

もう何も言っても聞き入れてくれないと感じたスパーダは

目尻に悲しみの涙を浮かべながら距離を取る。

 

「そうだ、そのお爺さんにこの辺りに住む魔獣について

話を聞こうと思って」

 

「お爺さんなら、

足を痛めてしまって夕方まで帰ってこないわ。

レンで良いなら話せるけど

……どんな魔獣について知りたいの?」

 

「その、狼の姿をした魔獣なの。

お爺さんから聞いたことがないかしら?」

 

エリィは優しく問い掛ける。

レンは少し悩んだ仕草をするが、心当たりがないのか首を振る。

 

「ううん……聞いたこと無いわ。

でも……そうね、さっき遠くの方から遠吠えが

聞こえたような気がしたけど……

もしかして、それの事かしら?」

 

 

「あぁ、そうなんだ。

お爺さんは留守って言ったね。

工房には他に誰も居ないのかい?」

 

「えぇそうよ。お爺さんも夕方には戻るって言ってたし。

でもまさか……こんなドッキリがあるなんて思わなかったわ」

 

「……レン、そのまた今度此処に」

 

「………ふん」

 

「なぁ、スパーダ。その、なんだ」

 

「いや……良いさ、遠ざけたのは俺だ。

それに、仔猫はまだ仔猫であって、レディで」 

 

「えいっ…」

 

「うっ……」

 

レンはいつの間にかスパーダの背後に回り脇腹を突いた。

スパーダはその場に力なく倒れ、危うく頭をぶつけそうになった。

 

「レン!危ないだろ」

 

「レディの事を、仔猫だなんて。

いくらリィンでも許さないわ」 

 

「……失礼しました。我等のレディ」

 

「……その態度に免じて、今は手を繋いであげる」

 

レンは決してスパーダに顔を向けないが、頰を赤らめていた。

他のメンバーには丸わかりだ。

決して、中の悪い兄妹ではない。

両者共に素直じゃないだけなのだ。

手を繋いだ状態から慣れているように肩車になる。

 

「仲直りか?」 

 

「赤髪のお兄さん。

コレはレンがスパーダの態度に免じて許しているの」

 

「スパーダ、何時にも増して笑顔だな」

 

「……レン、悪かった。

俺は、お前のことも、皆のことも考えた結果だった。

それがお前を傷つけてしまった。

俺は魔界で殺されかけた。

存在自体を奪われ、悪魔の尖兵にされる寸前だった。

その時、俺を戻してくれたのはレン、

母さん、アイネス、エンネア、デュバディ、家族の皆だ。

レン、俺は」

 

「……お爺さんにも言っておくわ。

レンもお義姉さんに会ってみたいし」

 

「……とびっきりのお土産を用意する。次はお茶会だ」

 

「家族……スパーダとレンちゃんを見てると

優しい人だってわかるな」

 

「ああ、優しい人だ」

 

レンを肩から降ろし、頭を撫でる。

 

「俺達はもう行く、

レン。歯磨きを忘れるべからず。

口内炎には気をつけろ。

好き嫌いは……しても良いが、野菜ジュースは飲め。

適度な運動と日光浴や兎に角」

 

「もう!過保護なの!リィンはお仕事に戻りなさい!」

 

「だが………」

 

「…お兄さん、リィンを連れて行って!

多分、ずっと話しちゃう!」

 

「スパーダ、行こう、そろそろ向かわないと」

 

「あぁ……だな。また来る、レン」

 

特務支援課の兄貴分の一人であるスパーダの新たな一面。

〘妹に過保護なお兄ちゃん〙

そんなスパーダの姿を思い出にしまい、マインツへと向かった。

 

「……レンちゃん、可愛いですね」

 

「あぁ……しかしお義姉さんに会わせろか」

 

「知られてたな」 

 

「……なんで俺の家族は耳が速いんだ」

 

右手で顔を覆いながら笑うスパーダ。

本来、ここらの魔獣らは脅威になるはずだが、

今の特務支援課の前では無力だ。

致命傷になりそうな時、スパーダのルーチェとオンブラが

魔獣に風穴を開け、疲労が見えてきたメンバーた交代すれば、

魔獣は視認した瞬間、まるで槍のようにリベリオンが突き刺さり、死んでいく。

 

「その……リベリオンだっけ、」

 

「魔剣リベリオン、見てろ」

 

適当に投げたリベリオンは必ずリィンの腕に戻ってくる。

閻魔刀と違い、どうやら意思がある様で主人たるスパーダに

必ず帰ってくるのだ。

まぁ、閻魔刀に関してはスパーダが失う訳が無いが。

 

「……どうなって」

 

「リベリオンには意思がある、勝手に俺の手へと戻るのさ」

 

リベリオンを背中に背負い、マインツへと向かう。

やはり、悪魔でもない存在にスパーダが負けるわけがない。

 

「トンネル道か……かなりしっかりした造りだな。

こんな山中にあるって事は、やっぱり七曜石の運搬の為か?」

 

ランディの質問に答えたのはロイドだ。

 

「あぁ、そのはずだよ。

確か、クロスベルが自治州として成立した前後に

建造されたんじゃなかったかな」

 

「そうすると……70年ほど前のものですか。

クロスベルと言えば、かつては七曜石の産地として

有名だったそうですね……?」

 

「えぇ、以前はそれを巡って帝国と共和国が争ったくらいよ。

今でも産出量は減っていないから、とても重要な資源でも

あるけど……採掘技術の向上で他国でも有効な鉱脈が

見つかったから、昔ほど重要視されていないみたい」

 

「それでも狙われる。

大国2つの国境があるとは実に面倒くさい。

軍事的にも重要拠点だから、余計に両者が取りに来る」

 

スパーダも何か思うところがあるのか、

そんな事を話す。クロスベルという緩衝地帯がなくなれば、

帝国と共和国は隣接するノルド平原の拠点ではなく、

真に軍事拠点を作れるのだ。しかも、経済力も高いとくれば、

狙わない道理がない。

 

「っ?!この遠吠えは」

 

歩みを始めようとした時、トンネル内に狼の遠吠えが響いた。

 

「くそ……スパーダ近いぞ」

 

「ランディ、悪いが……俺には判らん。

トンネルで反響して、俺の耳では……」

 

「ティオちゃん!」

 

「はい……!いきますッ!」

 

スパーダは広い地帯なら音を聞き分けられる耳を持つが、

この様な反響する場所では上手くわからない。

だが、導力でそこをカバーできるティオがいる。

 

「判りました。

トンネルを抜けた先の出口から聞こえた様です」

 

「わかった、行ってみよう!」

 

ロイドの言葉に従い、トンネル内の魔獣を倒しながら向かう。

そこにはかつて話された、神狼と似た姿の狼が居た。

 

「あっ!」「いた!」

 

「……グルルルル………」

 

狼は壁を軽やかに降りながら、支援課の前に降りる。

 

「くっ…!」

 

「白い毛並み、〘神狼〙の伝承の通りね」

 

「やっとお出ましか…此処で会ったが百年目!

とっとと成敗して__」

 

「__待ってください!」「__待て」

 

武器を構える支援課にティオとスパーダの2人が

待ったをかける。

 

「ティオ、スパーダ?」

 

「その子、敵意を向けていません。

その……ここは私達に任せてもらえませんか?」

 

「あぁ、ティオに任せ……私達?」

 

「はい、もし本当に神狼なら英雄スパーダの血族たる

スパーダさんも何か感じるものがあるのではと思いまして」

 

「……狼なら間に合ってるのに」

 

軽口を言いながら、スパーダとティオは狼の前に立つ。

 

「私達に会いに来てくれたみたいですが……

何か!伝えたい事があるんですか?」

 

「ウゥゥ……」

 

「そう……やっぱり………」

 

「ティ、ティオちゃん?!」

 

「言葉が――判るのか!」

 

「言ってることが、なんとなく分かる程度ですが……」

 

「…珍しいか?犬も猫も禿鷹や鷲も喋るぞ」

 

「スパーダ、お前の基準は悪魔だろ」

 

「ランディ、お前返し早いな」

 

「……ガルルル…」

 

「はいはい……真面目にやります」

 

スパーダが若干のお巫山戯を入れると、

唸り声が増す。

 

「……グルルルル………」

 

「え?……それって」

 

ティオに言葉を向けた後、スパーダの方を見る。

 

「……ガルルル…グルルルル」

 

「……嘘だろ………答えろ!何処で見た!」

 

「スパーダさんッ!?」

 

「待てよ……待てッ!!」

 

スパーダは人間離れした動きで神狼を追いかける。

誰が見ても緊迫した顔、しかもスパーダが我を忘れての行動だ。

何かある、しかもスパーダ案件。

悪魔関連だと、直ぐ様理解できた。

 

「取り敢えず、俺達はティオに話を聞こう」

 

「あぁ…スパーダのエニグマには俺が連絡を入れておく」

 

ランディがエニグマを操作している間に、

ロイドはティオに話かける。

 

「ティオ、彼は何を言ってたんだ?

確かに、俺達に何か伝えたいみたいだったけど」

 

「その……ニュアンスだけを伝えると

『最後の欠片はこの先に』……」

 

「最後の欠片……?!」

 

「ええ、そんなニュアンスでした。

信じるも信じないも、ロイドさん達次第です」

 

「つまり、一連の魔獣被害で不足していた最後の情報が

揃うって意味じゃないか……?」

 

「ちょっと待って!ティオちゃんの言っている事が

本当だとしても、あの狼の言葉をそのまま信じても良いの?」

 

「あぁ…各地を襲っていた張本人だ。

そう言う知能があるかはともかく、

そう簡単に信じて良いのかよ」

 

「いや、どうやらさっきの狼は各地を襲っていた

狼型魔獣とは別物の可能性が高そうだ」

 

「おいおい!どうしてそうなるんだよ!」

 

ランディの叫びにロイドは落ち着いた声で話す。

頭の中に答えは浮かんでいる。

それを言葉にして伝える、実に簡単なことだ。

 

「あぁ、それは……

村と病院の調査ではさっきの様な遠吠えが聞こえたと

言った話は無かっただろう?

それに、それに研修医のリットンさんの話によれば、

真っ黒な狼のような魔獣だったそうだ」

 

「確かに…結構違いがあるな」

 

「まぁ、だからといって完全に無関係とは言えないだろうけど。

それに、狼は本来群れで生活するだろ?あの狼が群れのボスで、配下に黒い狼がいてソレに襲わせていた可能性もある」

 

「群れで行動する以上、その可能性もありますね」

 

「でも、本当にに違うのなら考えを改める必要があるわね。

……狼型魔獣は2種類居て、

それぞれが別の目的で活動している」

 

「あぁ、そういう事だ。そのうち、さっきの彼も含めた

白い狼が伝承にある〘神狼〙で…」

 

「まだ尻尾を出していない黒い奴が、

各地で悪さしてた連中ってわけか」

 

「はい……私もそう思います」 

 

「最後の欠片はこの先に……

この先とはやっぱり鉱山町の事かしら」

 

「あぁ、俺もそう思うよ」

 

魔獣事件の見通しはだんだんとついてきた。

だが、ランディはもう一つの疑問を伝えた。

 

「…ティオすけ、スパーダが血相を変えてまで追いかける理由。

何を言ってたんだ」

 

「むっ………良いです。たしか

『魔帝の眷属は既に』と言ったニュアンスだったと思います」

 

「魔帝…ね」

 

「正直、また血塗れになるのはノーセンキューです」

 

「……でも、悪魔の存在は看過できない」

 

「……あの時の……まだ鮮明に覚えてるさ」

 

それはセルゲイによって見せられた被害者の写真。

食いかけで、判別できない死体もある。

身元不明で、何人も家族のもとへ帰れていない。

 

「そんな奴なんだろうさ_スパーダがあれだけ慌てるんだから」

 

 

同時刻、狼を追いかけ山に入ったスパーダだが匂いもなく

巻かれてしまう。

 

「……何処に行った。どうやって俺から」

 

そこにいるのはスパーダ・リンではない。

覇気を纏い、怒りに燃える『魔王リィン・サンドロット』の

姿だ。

 

「………」

 

魔帝の眷属が狙うのは決まっている。

贄に相応しい存在だ、ならば今このクロスベルで最も、

狙われるだろう存在は誰か?答えるまでもない。

 

「話すだけ話し………消えるか、犬め!」

 

「まだ、あの男程冷静では、居られぬか」

 

リベリオンでその一瞬の攻撃を防ぎ、蹴りを入れる。

だが、その蹴りは空を切りより不快感をリィンに与える。

 

「なんの真似だ……犬」

 

「犬ではない、狼だ」

 

「黙れ、話すだけ話し俺の前から消えたお前は犬で良い」

 

リベリオンを構え、何時でもスティンガーを行える様にする。

一瞬で距離を詰めるなら、スティンガーだ。

 

「まて、私はお前と敵対するつもりはない」

 

「………」

 

それを信じる程愚かでも無ければ、

無理矢理戦うほど馬鹿ではない。

スティンガーの構えを解く、しかし背負うことは無い。

 

「スパーダの血族よ、よく戻った」

 

「戻った?どういう意味だ」

 

「その血の運命に従い、お前は悪魔を狩り続けている。

今までの血族はその運命を忘れ、人間として生きていた」

 

「…使命に戻った、そう言いたいのか」

 

確かにそうだろうとは言える。

憎き生みの親二人のどちらかは悪魔狩りをしていたか?

そんな様子も無い、軍人と市民だった。

 

「お前の母親、カーシャの血だ。

何年も過ぎ、悪魔の血は薄れ過ぎたが――お前は戻った」

 

I need more power

(もっと、力を)

 

「お前は、戦わねばならない。

魔帝とその眷属、それがお前の運命だ」

 

「黙れ狼、悪魔は殺す。この世界に〘魔王〙は一人で良い。

王や帝など、二人も必要ない。俺の領地を攻めるのならば、

鏖にするだけだ」

 

「………それが答えか」

 

「そうだ、君臨すれども統治せず。

此方の世界に俺は『魔王』として君臨している。

その考えも、答えも変わらん。俺の邪魔をする者は殺す。

俺は王だ」

 

傲慢な言葉だったが、その芯には確かな正義がある。

魔王による正義、それがリィン・サンドロットの言葉だ。

 

「……」

 

「こんなくだらない話で、俺を引き止めたのはこれが理由か!」

 

リィンいや、スパーダの周囲に闇が広がる。

そして、悪魔達がケタケタと笑いながら姿を見せる。

 

「ちっ…苛ついているんだ。暴れさせてもらう!」

 

スパーダはリベリオンを近くの一体に向けて投擲すると、

顔のような部位に突き刺さり霧散する。

そしてルーチェ&オンブラを乱射しながらリベリオンを回収し、

そのままラウンドトリップを決めた。

 

「ケルベロス」

 

「……久し振りに呼ばれたな」

 

何処からともなくケルベロスが魔具となり現れる。

辺りに氷塊を作り出しながら、まるで踊るように悪魔と戦う。

ヌンチャクという超接近戦武装であるが、スパーダは

ブーメランのように振るい、返ってくるとキャッチする。

 

「リベリオンもそうだが、この使い方が好きなのか?

主よ」

 

「あぁ、使いやすい」

 

一通り氷に埋めたと感じると、

ケルベロスを元に戻し再び新たな魔具を使う。

 

「ネヴァン!」

 

「……」

 

「……死んじまってたか?」

 

「生きてるわよ、スパーダ」

 

「OK...Let’s Rock and roll」

 

ネヴァンを使い、蝙蝠と雷撃のメロディーを奏でるスパーダ。

荒々しく、人間なら魅了されるような曲。

周囲の森が雷で焼かれ、氷が破壊されていく。

悪魔は蝙蝠達に命を吸われ、無ずすべなく雷撃に焼かれていく。

 

「イーーーーハーーーーー!!!!

レッツダンシング!」

 

今までのストレスと怒りを悪魔にぶつけるように暴れ回る。

一通り、ネヴァンによる演奏と言う名の蹂躙が終われば、

続いて新たな魔具をと思った矢先、

悪夢の匂いがない事に気付く。

 

「……ちっ……もうイヤしねぇ」

 

「レディの扱いは上品になさい」

 

ネヴァンが消える時そんな事を言いながら消える。

女性と言うか、悪魔がそんな事を言うのか?という

のを心の奥底にしまいありもしない事を言う。

 

「Danke schön」

 

「森を破壊するつもりか」

 

「…悪魔狩りを優先しただけだ」

 

「この………」

 

神狼はなんとも言えない表情で遠吠えを行う。

それは森に安全を知らせているようにも見えた。

 

「あの者達のところへ戻」

 

「先にやることがある」

 

スパーダはその言葉を心に留めつつも、

とある存在の場所へと向かう。

閻魔刀を抜き、次元を切り裂き大切な存在の付近へと。

 

「……なんだこれは」

 

「………不法侵入って言葉知らないのかしら」

 

ローゼンベルク工房の前に出てきたはずだったが、

何を間違えたのか結社の基地のような場所に辿り着く。

 

「誰だ」

 

「……待てよ、まさか十三工房の一つなのか?」

 

「おい」

 

「少し黙れ、今此方は考え事を……」

 

「お爺さんに黙れは無いわよ、リィン」

 

「誰だ、俺をリィンと……よ…ぶ」

 

知識の海から戻ってくると、レンと手を繋ぐ老人が見える。

 

「誰だ貴様」

 

「此奴、話を聞かん」

 

「ローゼンベルク工房の主人よ。

お爺さんはパテル=マテルの修理をしてくれているの」

 

「やはり…十三工房か。と言う事は

ヨルグ・ローゼンベルク博士か」

 

「工房長だ、博士ではない」

 

スパーダはそれを聞くと、すぐさま謝罪する。

 

「失礼した。

私は見喰らう蛇が執行者『魔王』リィン・サンドロット。

此度の我が妹の保護、感謝する。ローゼンベルク工房長」

 

「かまわん、パテル=マテルを使ったのはワシじゃ。

だが、不法侵入は」

 

そう言われ、即座に次元斬を使い外に出る。

すると急にチャイムが鳴り響き、ローゼンベルク人形に

案内されたリィンが帰ってきた。

 

「律儀な奴だな」

 

「よく言われる」

 

「……もう、それで?リィンが慌てて来たって事は」

 

「レン、パテル=マテルの修理が終わり次第

母さ…第七柱に連絡を取れ。魔帝の手が延びている。

クロスベルから離れるんだ」

 

「いやよ!そう言ってまた消えるつもりでしょ!

そんなの許さない!」

 

「悪魔が恐ろしいのは、お前はよく知っている筈だ。

頼む、母さんと姉さんなら絶対に守れる。だから」

 

「そう!お兄ちゃんは出来ないと。

出来ないからママとお姉さん達に丸投げするのね」

 

それはリィンにとって煽りに等しいが、仕方がない。

 

「そうだ、出来ない」

 

それは弱音だった。

仲間やレンが襲われる想像をしただけで、

リィンの心は壊れそうになる。

魔帝はそれ程までに強かった。

 

「いいえ、出来るわ。リィンが知らなくても、

レンは知ってるもの。私の『魔王様』は敵に対して暴虐にも、

慈悲深い王にもなる。何年付き人してると思っているの?

レンはお兄ちゃんよりも、お兄ちゃんを知ってるんだから」

 

レンが抱き着いてくる。

そして、まるで歳下の弟をあやすように頭を撫でる。

 

「私のお兄ちゃんは最強よ。

レーヴェから一本でも取られた?

私の中で、お兄ちゃんは不敗なのよ」 

 

「あぁ……済まないな。取り乱していた。

そうだった、見極める必要も、手加減の必要もない。

悪魔を殺すのには、慈悲など必要無いものだ」

 

リィンの姿が変化する。

デビルトリガーが作動したのだろうか。

一対の羽が4枚に増えよりドラゴンを思わせるものへと

変化していく。それだけでなく、よりマッシブに。

より、威圧感が増えている。

 

「デビルトリガー……流石ね、リィン」

 

「あぁ、俺は負けん。それに、お前をまだ叔母ぐは…」

 

「それは'余計'なの!」

 

デビルトリガーを使っているからか、

容赦なく鎌で吹き飛ばされた。

 

「済まない、遊び過ぎた」

 

「支援課のお兄さん達も大変そうよ。手伝ってあげて」

 

「わかっているさ、また来る」

 

「今度はアポイントを取りなさいね」

 

デビルトリガーが解除され、再び次元斬で空間に穴が開く。

スパーダの目的地は一つ。穴に入り抜けた先はマインツだ。

 

「夕暮れか、悪魔狩りに、レンにも

……時間がかかりすぎたか?」

 

取り敢えず居るだろう、

宿に向かいスパーダとして再び歩き出した。

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