リィン・サンドロットの軌跡   作:影後

13 / 16
スパーダ・リンの軌跡5

「誰も居ない」

 

夕食を食べていないからと、

マインツの酒場で食事をしたスパーダ。

疲れていたのか椅子に寄りかかって寝てしまい、

店員に起こされるというミスまで犯した。

恥ずかしさを持ちながらも宿の方へ向かったが、

ロイド達は既に出かけていたのだ。

まぁ、当たり前の事である。勝手に行動しているのだ。

噛み合わないのも無理はない。

 

「出るか」

 

既に暗い夜、探すのは簡単だ。

丁度というか、偶然というか、スパーダが宿から出た瞬間、

激しい爆発音と閃光が走った。

恐らくは、軍用のフラッシュバンだろう。

嫌な予感を覚えながらソチラへと進む。

犬の遠吠えのような声と殴るような音が響く。

 

「軍用魔獣か、コレで人を襲うか……黒月いや、

ルバーチェの奴等か」 

 

市民を護りながら戦い、戦闘を指揮する姿は流石にロイド。

特務支援課のリーダーだ。仲間として、歳上として誇らしい。

 

「ロイドッ!」

 

だが、ロイドも人間だ。2体同時になると厳しい。

 

BANG

 

一発の銃声と「キャイン」という軍用魔獣の悲鳴。

弾丸に押し出された軍用魔獣の身体はそれ、

地面に力なく落ちる。

地面には血が滲んでおり、よく見れば軍用魔獣の頭が

左から右に掛けて吹き飛んでいる。

 

「コイツラが犯人か」

 

「お前…どこ行ってたんだ!」

 

「容疑者の狼を追い掛けたら悪魔に襲われてな。

環境破壊しながら殲滅してきた」

 

淡々と環境破壊しましたと言うスパーダにランディは

思わず笑ってしまう。軍用魔獣という鍛えられた魔獣に、

やはり素人3人の引率は厳しい物だった為、余計に言葉が出る。

 

「まったく…最高のタイミングで来るな」

 

「こんな時、ヒーローは遅れてやって来る。

と、言うらしいな」

 

「…まったく、皆隊列を組み直す!

スパーダ中衛の防御陣形!」

 

「了解だ、サポートに入る!行くぞ、ネヴァン!」

 

エリィとティオの前に着地すると虚空からネヴァンを呼び出す。

 

(今日は人使いが荒いわね、気を付けなさいよ!)

 

「行くぜ!レッツダンシング!」

 

まるで演奏するようにネヴァンの弦を引く。

それだけで、ロイドとランディを守るように雷撃が襲う。

それだけでなく、皆の攻撃に合わせた演奏で蝙蝠の吸血、

雷撃、雷球の発射など多種多様な戦法をとる。

 

「ヒュー…お前、なんだよそれ」

 

「此奴か?此奴はネヴァン。

前に中華料理店で撃ちまくったろ?

その後、襲ってきた魔帝の眷族だ。俺の先祖、

スパーダに縁あるらしくてな、倒したら魔具と」

 

そのままネヴァンを優しく撫でる。

すると、魔具から悪魔の姿となったネヴァンが現れる。

 

「ちょっとその服装!」 

 

「なん?!」

 

「レディの扱いはもう少し優しくなさい」

 

ネヴァンが頰を赤らめてスパーダの頰を打つ。

 

「お前、お前が優しく扱えって言ったから優しくしたろ?

何で打つ?!」

 

そのままネヴァンは消えた、恐らくデビル・メイ・クライに

帰ったのだろう。

 

「おい!スパーダ、今のお姉さんは!!」

 

「惚れるのは別にいいが、悪魔だぞ。服に関してもだ。

悪魔のセンスはイカれてる」

 

質問は受け付けない!そんな態度のスパーダ。

 

「アハハ……皆、見てくれ!」

 

まだ息のあった一匹が逃げるように走る。

 

「あの先に…軍用魔獣を使ってる存在がいる。

追いかけるぞ!」

 

ロイドの掛け声を受け、スパーダも走る。

血を流している為、ポタポタと垂れた赤い液体を追い掛ける

だけの簡単な仕事だ。

 

「おい…なんだその傷!火傷に…一体どんな」

 

「クゥンクゥン」

 

「おい、不味いんじゃないのか?」

 

「俺に聞くなよ」

 

悲鳴に聞こえるそれを受け、調教者二人は顔を青くする。

魔獣か、それとも別のか。何より、軍用魔獣が怯えるなど、

普通はあり得ないのだ。軍用魔獣は品種改良され、

並の恐怖は感じない、だが傷だらけの一匹は心から怯え、

もう立ち上がる勇気すら無い。

 

「―――そこまでだ」

 

ロイドの張った声が闇夜に響く。

その声を聞いた調教師達は懐に隠していた導力拳銃を抜き、

構える。

 

「お前達は……!?」

 

「クロスベル警察、特務支援課の者だ!」

 

「なっ…警察がこんな街に」

 

「それだけじゃねぇ…特務支援課と言えば〜〜奴の!!!」

 

調教師達の顔が青褪めていく。

彼らの服装はマフィアのルバーチェ商会の物に等しい。

だからこそ理解する、ロイドとランディに隠れながらも

見えてしまうトレードマークの蒼いコート。

 

「…スパーダだ!?」「ヒィっ………」

 

「同じ反応しか出来ないのか」

 

この頃、スパーダを見れば怯えるか、隠れるか、問答無用で

襲ってくるかの3択だ。

3択目であればスパーダも問答無用で攻撃し、

ロイド経由で独房にぶち込めるだけでなく、

芋蔓式に上の奴等も殴り飛ばし今度こそマフィアを壊滅させる

事も可能なのだが、 

 

「ひっ……嫌だ……氷漬けだけは嫌だ!!」

 

「体が動かなくなるのを感じ続けるなんて拷問しやがって!

……お前は人間じゃねぇ!!!」

 

「は?」

 

「仲間の片腕が壊死したんだよ!

止めてくれ…俺は、そんな拷問は嫌だ!!」

 

そこまで行くと拷問だ。流石にケルベロスは不味かったか?

と思いつつも、どうせ潰す予定のマフィアだとも

思えてしまう。

 

「………どっちがマフィアだよ」

 

「スパーダ、後で話がある」

 

「ランディ、俺はデビルハンターだしグレーまでしかしてない。

ロイド、信じてくれ。俺が殺すのは悪魔だけだ」

 

「ざけんな!殺さねぇだけじゃねぇか!

俺のダチはてめぇに両手両足折られてんだぞ!」

 

「お前、少し黙ってろ!」

 

スパーダの被害者だったのか、泣き叫びながら助けを乞う姿。

ルーチェとオンブラを向けるが、ティオが守るように立ち塞がる。

 

「駄目です、可愛そうです」

 

「……わかったよ」

 

スパーダがルーチェとオンブラを収めると、

エリィが口を開いた。

 

「〘ルバーチェ商会〙の方々ですね。

器物損壊、及び傷害、傷害未遂の容疑で貴方方を拘束させて

いただきます」

 

エリィの言葉に我を取り戻したのか、

マフィア達は涙を流しながら立ち上がる。

 

「ざけんな!捕まってたまるかよ!!!」

 

「そうだ……、お前ら出てこ」

 

一人が何かを傷付いた軍用魔獣に投げ、

もう一人が近くにあるトラックの扉を開けようとする。

だが、ルーチェによるマシンガンよりも速すぎる連射によってトラックには風穴が開き、悲鳴と開いた扉から肉片が飛び出す。 げ物に関しては空中に飛んだ瞬間にオンブラに水滴すら残さず、

総てを撃ち抜かれる。

 

「………俺の……俺の育てた………魔獣が………」

 

トラックの扉からはドロドロと赤い血が流れ出ており、

それを見る一人は只管に放心する。

 

「はっ……ふざけんなよ………

なんなんだ!なんなんだよ!!

お前は………!!!!」

 

もう一人は、スパーダという不条理。

イレギュラーによる被害者、ただ叫ぶしかできなかった。

 

「ロイド、コイツラを捕まえちまおう」

 

「……俺達必要あったか?」

 

「あった、俺一人だったら少なくともマフィア50人は

再起不能で独房に沈んでた。そいつらを助けたと思えば良いさ」

 

「もう……スパーダ、少し野蛮よ」 

 

「少しというか、かなりというか」

 

「拘束は終わったよ、それでこの子どうする?」

 

「軍用魔獣じゃなぁ……」

 

それはスパーダによって尽く心を折られ、頂点捕食者を前にし

腹を見せている傷だらけの犬型軍用魔獣。

 

「殺すか」

 

「待ってくれ!証拠は」

 

「証拠ならそっちにあるだろ」

 

「アレは…お前の被害者ならぬ被害犬だろ」

 

ティオとエリィから視線を向けられるスパーダ。

流石に居た堪れないのか、軍用魔獣の前に座る。

 

「ケルベロス」

 

「なんだ主、にお前らか久し振りだな」

 

「そんなでも無いけどな」

 

「ケルベロスさん、どうして?」

 

そう、呼び出したのは魔界の番犬ケルベロス。

いくら大型犬程度になっているとは言え、その本質は悪魔。

軍用魔獣程度が生き残れる相手じゃない。

 

「此奴、家の店で飼うぞ」

 

「……ジンゴ…はまぁ良いか。アシュリーは」

 

「アシュリーの側付き位にはなるだろう、

どうせ死んで良いコマだ。此処で殺されるか、

いつ死ぬかの違いだ、言うが変な事はしないぞ。

ケルベロスに鍛え上げさせ、上下関係を完全にすり込み、

俺のガンスミスの護衛にする」

 

「了解だ」

 

 

 

 

 

「リィン、暴れ過ぎよ」

 

少し離れた丘の上、

そこにゴシック調の服装の少女が蒼いコートの男を

観察していた。

 

「……私が注意しに行った方が効果あるかしら。

支援課のお兄さん達……リィンに振り回されたり

してないかしら?」

 

心配そうに見つめる少女、

その声に反応するように一人の男が現れる。

スパーダと同じように刀を所持した剣士。

 

「俺は少なくとも2回は見たぞ。

一度は返り血まみれになり、放心状態。

2度目はマフィアの構成員が氷漬けにされていた。

……何とも」

 

「あら……」

 

スタスタと少女の隣に立つように歩く剣士。

 

「うふふ……貴方も来ていたのね。

さしずめ、彼等の手に余ったら出ていくつもりだったの

かしら」

 

笑顔が消え、魔王の側近としての顔を出す少女。

 

「〘風の剣聖〙アリオス・マクレイン。

私の〘魔王様〙を流石に見くびりすぎではなくて?」

 

「……君こそな。

結社《身喰らう蛇》の執行者。

――No.XV.――〘魔王サンドロット〙 その、腹心。

〘殲滅天使〙レン」

 

「クスクス、自己紹介するまでも無いわね。

あと、腹心じゃないわ。〘付き人〙よ。

腹心なら心酔とかでしょ?私は違うわ。

私は、少し抜けてるお兄ちゃんのお世話をしているんだから」

 

「〘魔王〙は何を……いや、君達の組織として言えば

今は『自由行動』の時間か」

 

「えぇ、私もリィンも……あら」

 

レンがふと先を見れば何故か蒼いコートの男がじっと

顔を向けている。

 

「ここで君に何かすれば、俺の命は無いか」

 

「当たり前よ。

リィンに掛かれば剣聖も雑兵と変わらないわ」

 

特務支援課と話しながらも、風の剣聖へと殺気を向ける。

この様な器用な事をしでかすのが、レンの知る魔王だ。

 

「……君の事を探している二人には」

 

「エステルとヨシュアね。

話しても良いわよ。私のお兄ちゃんが大変な事しでかすかも

だから……でも2人に余計な事は話さないでね」

 

「……あの2人も君を心配している。

それだけは覚えておいてくれ」

 

「うふふ…ありがとう」

 

レンが消える、だが殺気の主の怒りが消えることは無い。

 

「……まったく、それ程までに大切なら」

 

それ以上言葉を告げること無く、

アリオスは崖から立ち去った。

 

ー翌朝

 

「じっ……事件の真相を見抜いて………うぷ」 

 

「あ………うん、そうだよな」

 

証拠品として押収されたトラックの中身は酷い。

一晩、特に何もされること無く血だらけの魔獣には

ハエがたかり、血の匂いが風に乗り拡散している。

 

「……街の掃除は業者に頼んだ。

なんだ、今のところ人は誰一人死んでないぞ。

魔獣の死骸だ、見慣れてるだろ」

 

「だって…あんなグロテスクな」

 

「生娘か」

 

「スパーダ、少し離れてなさい!」

 

「…俺は朝のサンデーを食べてくる」

 

ソーニャにそう言われ、

スパーダはマインツ特製サンデーを食べるために

場所を離れる。

 

「えと……仕切り直して…ろその、

まさか事件の真相を見抜いて解決するなんて凄いです!

証拠品は……その、

できれば生きていてくれれば良かったです」

 

「はぁ………スパーダの事だから貴方達に危険が及ぶと

思ったのよね。彼、チームやパートナーを護るのは

本気でやるから。だからこそ……

こんな大立ち回りをする前に報告して欲しかったわ」

 

ソーニャは頭を痛めるが、ロイドの答えで真顔になる。

 

「その、警備隊司令からマフィアに情報が漏れることを」

 

「…それを言われたら仕方がないわね。

でも、貴方達。スパーダが居なかったら

どうするつもりだったの。話によれば、スパーダ。

途中、一人で活動していたらしいじゃない

しかも……悪魔関連で」

 

ソーニャは静かに怒る。

 

「セルゲイからなら、私に直接連絡が来るわ。

報告、連絡、相談。貴方達は警察官であるのだから、

必要な事よ。仲間を使い、二手三手先を読む。

リーダーなら、必須よ」

 

「でも、スパーダさんは」

 

「スパーダは規格外、イレギュラーよ。

二手三手読んだ所で、スパーダは十手先まで読んでくる。

それどころか、罠を張っても正面から潰すフィジカルも。

本当に……諦めなさい。スパーダを真似るのは駄目。

死人が出るわよ」

 

説教が終わると、優しい顔付きで言葉が入る。

 

「ですが……私達のかわりに事件の解決をしてくれた事、

感謝します。ありがとう」

 

「ところで副司令、

ロイドさん達を支援したという白い狼達は」

 

「気にすんな、彼奴等は神狼だ。

人間が馬鹿な事をしなければ敵対しないさ」

 

お土産を大量に持ちながら、スパーダが欠伸と共に現れた。

 

「貴方、今さらきても」

 

「お前等の上が腐ってるのが悪いんだろ。

それとも何だ、俺が風通し良くしてやろうか?」

 

機嫌が頗る悪い、

デザートを食べに行く前は元気だったのに

この数十分で何があったのだろうか。

 

「おいおい、スパーダ。何があ」

 

「荒くれ者の酔っぱらいが俺のサンデーを潰しやがった。

酔っぱらって喧嘩をふっかけてきてない。

ムカついたから、そこの崖に吊るしてきた」

 

「……何してんだよ」

 

「……後で救助します」

 

ソーニャの隣りにいる少女が青い顔をしているが、

スパーダは日課を台無しにされた事に激しい怒りを覚えている。

 

「兎に角だ、副司令。さっさと捕まえて消えろ。

お前にはやる事が沢山あるだろ」

 

「えっ……えぇ、そうね」

 

「っと、ロイド。

速く帰ろう、皆の分も」

 

そう言いながらマインツ特製サンデーを見せる。

 

「沢山ありますね」

 

「あぁ、特務支援課に、俺の身内の分だ」

 

「あはは………ありがとうございます」

 

ロイドの前ではデザートに目を輝かせるスパーダがいる。

スパーダはスイーツに目がないのではない、

サンデーに目がないのだ。

特にラズベリーサンデーを見れば買いたくなる。

 

「もう、……ノエル、出発の準備を」

 

「イエス・マム」

 

こうして、

笑顔のスパーダと特務支援課は警備隊の車両に乗り込み、

クロスベル市内へと戻った。

 

「ふぁぁぁぁ」

 

「流石に眠いわね……」

 

「もう、眠いです」

 

「なんだかんだ徹夜だったからな……

何でスパーダは元気なんだよ」

 

「車とかで軽く寝ろ、少し寝るだけで体力は回復する。

あと、俺の元気はサンデーで出来ている」

 

「……冗談に聞こえねぇよ」

 

「わりと眠い」

 

「深夜テンションかよ」

 

「兎に角皆、一度戻ったら一眠りしよう」

 

そう思いながらビル入り口に続く階段を下りる。

そこでは黄昏れるように一服するセルゲイの姿がある。

 

「よ、お疲れ様だったな」

 

「課長?!どうしたんですか」

 

「ハハッ、態々俺たちを待ってたのか?」

 

「んな、気持ちの悪い事はしねぇよ。

あと、ソーニャからの通信を聞いたぜ。

初の市街活動にしちゃ、良くやったんじゃないか?」

 

(……褒められているんだよな?)

 

褒めているのだろうが、何処か顔が寂しい。

 

「よ、セルゲイ。俺にも1本よこせ」

 

「ほらよ」

 

スパーダは投げられた煙草をオンブラで撃ち抜き、

火を付ける。そのまま口でキャッチし、ロイド達から離れ

セルゲイの近くに行く。

 

「……おいセルゲイ、お前が此処にいるの。

アレが理由か?」

 

「……お前関連か、スパーダ」

 

「違うな、ロイド達の方だ。」

 

見たくないものが見えた為か、

スパーダはそのまま一服に入る。

 

「中に入ればわかるさ」

 

ロイド達が入るのを促し、セルゲイと2人きりになる。

 

「……言えよ、悪い知らせがあるんだろ」

 

「アビゲイルの時、憶えてるか」

 

「忘れられるかよ、悪魔の存在を俺達も知っちまった。

沢山の死人が出た、それにあの日から不可解犯罪も多発。

ほぼ、半年以上前になるんだな」

 

「……アビゲイルより、ヤバい敵が来る」

 

「……おい、それは」

 

「その時、俺は戦うがクロスベルを

気にする余裕がないだろう。市民はお前等警察が守れ」

 

「……簡単に言ってくれるぜ」

 

セルゲイが中に入ったのを確認し再び黄昏る。

サンデーは出発前にケルベロスに無理言って氷を出してもらい、

当分安全だ。

 

「スパーダさん、ツァイトが呼んでます」

 

「ツァイト?」

 

心当たりのない名前に疑問を持ちながら入る。

すると、神狼が、吠えてくる。

 

「ウォフ…グルルルルル」

 

「……貴様」

 

「ティオちゃん、ツァイトはなんて?」

 

「その、もう少し仲間の事を考えろ。

群れというのは個で動くものではない。

突出した個は仲間との確執を招くと」

 

「……まぁ、確かに…急な単独行動は」

 

「……判った、もう良い。皆、サンデー食べるぞ」

 

「スパーダ、俺の分はあるのか」

 

「全員分ある」

 

その後、スパーダのサンデーがツァイトに奪われたり、

起こったスパーダが街にラズベリーサンデーを自棄食い

しに行くという事件が起きたが、無事に狼型魔獣事件は

解説したのだった。

 

 

 

 

 

数日後の昼

 

「………あっ、スパーダさんおかえりなさ」

 

「俺の手料理が不味いだと………」

 

「えと、大丈夫ですか?」

 

「昼食の食材を買ってきた、悪いが俺に作らせてくれ」

 

スパーダはありえないほど慎重な顔付きで料理を始める。

 

「え?スパーダ」

 

「なんだ、ティオだけでなくエリィも居たか。

ランチは俺が作る、全力でだ」

 

気付くと、テーブルにはティオとエリィだけでなく

ロイド、ランディ、ツァイトまで座っていた。

 

「できたぞ、サーモンのムニエルだ。

ポタージュ、ガーリックライス、飲み物は冷蔵庫に。

ツァイトも同じのだ。安心しろ、イヌ科の動物が

食べてはいけない類は抜いてある特製品だ」

 

「グルルル…ウォフ…」

 

「ありがとうって言ってますね。

でも、このごろ美味な食事ばかりで舌が肥えてしまいとも」

 

「確かにな、今日のランチに関して俺は全力、

全身全霊で挑んだ、あとで感想を頼む」

 

スパーダが自分の分を瞬時に食べ終え、食器を片付ける。

すると料理本を片手に部屋に戻っていく。

 

「何があったんだ?スパーダの奴、確か……

レストランの追加メンバーとして」

 

「はい、スパーダさんの料理の腕は知っていましたから。

ランチ前までの間のサポートとして、支援要請がありました。

ですが……」

 

「俺の料理が不味いだと?

みたいな話をしていたから、多分………」

 

「……彼奴、下手な料理作らないしな。まじでどうしてだ」

 

実際食べている料理はその手の店舗を利用経験のある

エリィからしても遜色なく、メンバーも舌鼓を打つほどだ。

それもそのはず、スパーダは愛する家族に振る舞うため、

数多の店舗に通い味とレシピを舌で盗み、

技術も上げていった。

そんなプライドの高いスパーダからしてみれば、

不味いと言われた事は、不味い料理を仲間や家族に

振る舞っていたという激しい自己嫌悪となってしまう。

 

「彼奴、変な所で真面目すぎるくらい真面目だから……

下手したら俺らに食べられたもんじゃない料理を

振る舞っていた。皆、それを優しい嘘で…とか」

 

「ランディ、それは流石……う~~ん」

 

「ありそうです」

 

その後、昼食を終えた支援課のメンバーは机に座り

それぞれの午前の活動を共有し合っていた。

 

「私達は簡単な書類仕事でしたけど、ロンドさん達は」

 

「あぁ、交通経理の手伝いだよ。

地方駐車してる導力者が多くて力任せで移動させたんだ」

 

「歓楽街の方が多かったな。

丁度公演前だから盛り上がってたぜ…っと、スパーダは」

 

「帝国貴族の餓鬼がこんな料理食えるか!

と騒いだあげく、市民に暴力を振るおうとしやがった。

詳しい事は聞くな。まぁ、特務支援にも、

クロスベル警察にも、被害は絶対にない。

俺のプライドと、尊厳と、帝国への怒りが増した程度だ」

 

「……因みにその帝国貴族は」

 

「聞くなと言ったろ、まぁその程度なら良いか。

俺の顔を見た瞬間、腰を抜かして漏らした。

それなりの階級が来る店だ、共和国側の人間に嘲笑われ、

恥をかいていた」

 

「どんな顔で」

 

「なんだ」

 

「あ〜〜〜、そりゃあビビるわ」

 

殺気と怒りと強面のスパーダ。

並の子供なら泣いてしまうほどに怖いだろう、

ティオもツァイトに隠れるようにしている。

 

「……怖いのか」

 

「……怖いです」

 

「……………そうか」

 

ティオに怖いと言われたスパーダは何処かしょんぼりしている。

子供好きというか、世話好きというか、そんな性格のスパーダ

が、ティオにそう言われるのは堪えるものがあるのだろう。

 

「……こんな所を見てると怖いとは思えないんだけどな」

 

「そうね、スパーダはどちらかと言えば面白い人?」

 

「そうですね、サンデーに目がないですし。

子供の意見もちゃんと聞いてくれる大人です」

 

「ほら、スパーダ。元気出せって」

 

「……あぁ」

 

皆に慰められ、最後にはツァイトに頬を舐められた。

最初は嫌っていたツァイトもスパーダの中では既に仲間だ。

 

「……悪いな、皆」

「それにしても……アルカンシェルね」

 

先程とは変わり、スパーダは何とも言えない顔になる。

観光地である事も含めると、

警察業務が忙しくなるのは当たり前。

むしろ、今のところが少ないとも言える。

 

「来月ね、アルカンシェルの新演目」

 

「金の太陽、銀の月だな。俺もチケット取りたかったんだが、

生憎来月分が全部完売でよ〜。再来月の公演B席がやっと取れたぐらいだぜ」

 

「……あれ、そんなに人気だったのか」

 

「ん、おいスパーダ。お前まさか」

 

「………A席だったか、家の店のアルバイトとその家族と、

嫁へのプレゼントで」

 

「なんで俺達の分はないんだ!」

 

「俺が興味無いから」

 

「はぁ?!この……興味無いだと?!」

 

「よせ……ランディ……揺・ら・す・な!」

 

ランディとスパーダが遊び始めた中で、

ティオは話し始める。

 

「アルカンシェルはそんなに有名なんですか。

……確かに、看板スターのイリヤ・プラティエと言えば、

長のつくほどの有名人ですけど」

 

「そう言えばアルカンシェルの演目は見たことがあるんだけど、

イリヤ・プラティエの演目は見たことが無いんだよな」

 

「やれやれ不憫な事だねぇ」

 

スパーダが目を回した為に解放したランディが話す。

犠牲者はツァイトの毛皮の中に埋もれている。

 

「この世には2つの人間が居る。

イリヤ・プラティエの舞台を観たものと、

そうでない物だ――byランディ・オルランド」

 

良い声で大袈裟なことを話すランディに笑みを零すロイド。

 

「そんな大袈裟な」

 

「ふふ、でも確かに凄いわよ。何ていうか……

一度、演技を目にしてしまったら魂を

鷲掴みにされてしまう様な……

この世に《天才》がいるとすれば彼女は間違いなく

その一人でしょうね」

 

「……へぇ」

 

「………少し、興味が湧いてきました。

しかし、最近回ってくる仕事が多いと思いましたが……

それも要因の一つでしょうか?」

 

「まぁ、クロスベルの創立記念祭と

アルカンシェルの新作のお披露目が丁度、

重なってしまったから……

例年よりも、警察業務が忙しくなっているんでしょうね」

 

「……そのかわりに俺の本職はからっきしだ」

 

ツァイトの背中に埋もれながらスパーダが話す。

 

「こいつ、気持ちいいな

……ケルベロスとは違った良さがある。

マックスの奴はここまでモフモフしてねぇし。

あの駄犬、ジンゴ達のオモリしかしねぇ」

 

マックスとはスパーダが生かした軍用魔獣だ。

スパーダとケルベロスに上下を叩き込まれた挙句、

心を砕かれ今ではデビル・メイ・クライの駄犬である。

ジンゴやユウナ達に餌を貰い、遊ぶ。

既に軍用魔獣だった姿は無い。

 

「……ウォフぅ…」

 

「スパーダさん、ツァイトが嫌がってます」

 

「トリミングや生活環境整えてやってんだ。

せめて目が回ってるのを治るまでは気分良くさせてくれ」

 

「……クゥン」

 

苦笑いするロイドと彼等に助けを求めるツァイト。

本当に始めの頃のスパーダとは違い過ぎる。

 

「まぁ、そんな問題ある仕事はねぇし実際、

来るのは雑用ばっかだけどな」

 

ランディはそんな事を言うが、ロイドはそれを否定する。

 

「それでも、

最初に比べれば責任のある仕事が来るしさ。

クロスベルタイムズでも皮肉っぽく書かかれなくなったし」

 

「そりゃあスパーダが」

 

「俺は何もしてないぞ、お前達の結果だ」

 

「……スパーダさん、格好つけてもさっきのでダイナシです」

 

先程までツァイトの毛に埋もれていた男とは思えないほど、

凛々しくなったスパーダ。ストレスで壊れていたとはいえ、

先程を見ていると何にも言えなくなる。

 

「それに、話を戻しますが遊撃士とは比較されます。

特に、エステルさん達と……」

 

ティオの言葉にスパーダ以外がため息を吐く。

スパーダは『魔王』として二人どころか、

リベールの遊撃士達を相手にたった一人で勝てる実力者だ。

だが、彼等の実力は知っている為比較するだけ無駄だ

言いたいが、それでは納得しないだろう。

 

「はぁ、そうなんだよな。アッチは二人なのに、

何であんなに動けるんだ?」

 

「他の遊撃士と連携しているから効率的に動けているのかも…

私達は4人だけど、他の課のバックアップは無いし…」

 

「いや、見たところ鍵はあのヨシュアって野郎だな。

正解だろ、試験官様」

 

「試験官か、懐かしいな。

そうだな、試験官として答え合わせだ。

ランディの言葉は正解だ。

エステル・ブライトは無鉄砲で目的地まで一直線で向かう。

ヨシュア・ブライトはそんな無鉄砲な恋人をナビゲートする。

あの二人は幼少期からの幼馴染で家族だ。

阿吽の呼吸と言えば良いのか、エステルにヨシュアは完璧に

合わせる事が出来る」

 

「……随分と知ってるんだな」

 

「…俺を相手に生き残って見せた敵だ。

そうだな、特別視もしたくなるものさ」

 

スパーダは普段見せない顔をする。

生き残ってみせた敵、その言い方をすれば過去に

何をしていたかとなる。

特務支援課は改めて、スパーダの過去という存在に

疑問を持ったのだった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。