クロスベル歓楽街、
それはスパーダにとって懐かしい記憶のあるホテル。
家族と共に泊まった部屋も思い出の一つ。
「……」
「スパーダ?」
「このホテル、どうかしたんですか?
スパーダさん」
「ここのホテル、子供の頃に宿泊した事がある。
クロスベルに店を持つ前だ、家族と共にな。
懐かしい…と思ってな」
「え?スパーダってボンボンなのか?」
ランディの問いに微妙な顔をする。
確かに仲間に対しては過去を話していないと思いながらも、
自分の出生について再び考える。
ボンボンという言い方は好きではない、
だが殺したいほど憎んでいるあの男、
ギリアス・オズボーンは現帝国宰相というだけではなく、
元帝国軍准将、家もそれなりに大きく安定していた。
まぁ、見捨てたのだから関係ない。
そして、愛する母親は〘リアンヌ・サンドロッド〙。
スパーダに、リィンにとって親はリアンヌ以外に居ない。
「……申し訳ないことをした」
「何したんだよ」
「夜中、一人で抜け出してな。
武器を持ってたのもあって慢心し、
魔獣と戦となった。俺自身も怪我をして出血。
それと返り血で汚れてな、歳の近い姉には泣かれるし、
離れた姉達には叱られる。
母さんには諭された。
それ以来俺は家族に秘密を作らなかったが……」
「最後の秘密がクロスベルで何でも屋、
んでそれに突撃されてこの前、焦ってたのか」
「誰でも急に親が来るのは焦るだろ。
しかも、半年程音信不通だったんだ。
まさか……クロスベルに居るのもバレるとは」
「の割に妹さんとは仲いいよな」
「過保護過ぎてウザいと言われた」
「……悪い」
もう面白お兄さんとしか思えないと、
赤羅様に暗い顔のスパーダに対してティオは思う。
この側面を知っているため、あの戦いの時のスパーダとの
ギャップに驚くのだ。
「ついたぞ」
「改めて見ると……けっこう立派な建物ですね。
新しそうに見えますけど」
「築、20年になるかしら。
市庁舎等に比べると、そこまで古い建物ではないわね」
エリィの雑学に聞き入るスパーダとティオ。
両者ともに学ぶ事が好きなタイプであるため、
個人的な質問をしていく。
(アルカンシェルか……
小さい頃、兄貴とセシル姉に連れられて
何度か来たことはあるけど……)
だが、ロイドは何処か物悲しそうな雰囲気で
アルカンシェルを見つめていた。
「なんだ、どうした?」
それにいち早く気付いたのはランディだ。
軽く心配している様子でロイドに声を掛ける。
「いや、何でもない。
早速、お邪魔しようか」
普段のロイドの顔つきに戻り、
皆を引率してアルカンシェルの扉を開いた。
入口を抜け、客席の扉を開けて中に入る。
薄暗い客席の中で、ステージに明かりが灯っている。
(これは……)
(……凄い)
興味の無かったスパーダでさえ、言葉が出なかった。
美しさ、華やかさ、煌びやかさ、全てを持った女性が、
ステージの上で舞っている。
邪魔をするのも烏滸がましいと、魂が訴えかけ、
ただその舞を食い入るように見つめるしかない。
「ふぅ…」
舞が止まり、明かりが灯る。
それが終わりを告げロイド達は心からの拍手を贈った。
スパーダも優しい目となり、拍手を贈る。
「あっ、皆さん!」
ロイド達に気付いたリーシャが話す。
だが、それよりも先にイリヤ・プラティエが
スパーダに話しかけた。
「あら、スパーダじゃない」
「イリヤ・プラティエ、素晴らしい舞だった。
何時ぞや、君に言われたとおりだ。拍手は勝手に出る。
心は、常に魅力されるとな」
「クロスベルの顔の貴方に言われるのは良いわね。
それで?また悪魔関係の仕事かしら?」
「違う、今の俺はクロスベル警察だ。
そして、メインは此方だ」
「す、すみません。お邪魔してしまって……
その…何と言ったら良いか……」
「…あっ、あの………
ふぅ………凄かったです……!」
「はは…ちょっと魂抜かれてたぜ」
「……素晴らしい物を見せていただきました」
ロイド達も各々に感じた気持ちを素直に伝える。
本番でもないのに、この様に素晴らしい物が見れるなど、
ある意味では約得だと思えてしまう。
「ふふっ…ありがとう」
ステージから飛び降りたイリヤはそのまま驚きの言葉を
発してきた。
「まぁ、完成と言うには程遠い状態なんだけどね」
「えぇ?!」
「まだ上があるんですか?!」
ロイドとティオの叫び。
それに、支援課のメンバーは全面的に同意する。
これが完成でないなら、完成版は何処まで素晴らしいのか。
未完成で拍手が無意識に出てしまうのだ。
完成版は心も一瞬にして奪われるに違いない。
「あったりまえじゃない!
このシーンはあくまでも、
冒頭の《太陽の姫》だけのシーン。
これに《月の姫》が加わることで何倍にも相乗効果が
生まれる……。
最後のクライマックスシーンは今の数十倍も
凄いと思うわよ〜?」
「……ごく」
その言葉にロイドは生唾をのみ、
「すっ…凄いっすね………」
「想像すらできません」
ランディとエリィはもはや、想像もできていない。
「それで…リーシャ?彼等がさっき言ってた」
「はい――特務支援課の方々です」
「ふ~ん……でもねぇ、事情聴取とかするんでしょ?
たかがイタズラ如きにそこまで付き合いたく無いわよね」
「皆心配しているんだ、少しくらい良いじゃないか」
白髪の老人アバン劇団長にそう言われると
イリヤは少し悩む。
「ウ~ン、そうは言っても公演前にテンションの
下がる事はしない主義だし……
そうね、リーシャが胸を揉ませてくれたら
少しは考えて上げても良いけど〜」
「お前、相変わらずだな」
スパーダは知っていたのか、ヤレヤレと言った様子だ。
「揉ませません!」
「まったく…君と言ったら……」
「お前そのうちセクハラで捕まるんじゃねぇのか」
「大丈夫よ、弁えてるもの。そうだ!
スパーダ、貴方ナイスバディな愛人が居るんでしょ?
その人を見せてくれたりなんて」
「……イリヤ、その噂誰からだ」
スパーダの雰囲気が一瞬にして悪くなるが、
続く一言で頭を抱えることになる。
「貴方のお・よ・め・さ・ん」
「……最悪だ、怒ってるだろ。くそ……」
(なっ…なんか…舞台の上とのギャップが……)
(微妙に、おじさんっぽいです…)
(うーん…女傑らしいのは知っていたけど)
(いやぁ……強烈な人だよなぁ……
ってか、スパーダの愛人?!)
(いや……俺達とほぼ生活してるのに愛人は無いだろ)
(しかもリンさんが噂の出処とは……)
(えぇ、悪戯でしょうけど)
支援課の前ではイリヤに笑われながら、
愛人の事で頭を抱えるスパーダがいる。
止めてあげたいが、本題の方が重要だ。
「なんとか説得してみますから、
ロイドさん達は控え室にでも……」
「え?ロイド」
リーシャがロイドの名前を口にした瞬間、
イリヤがロイドの顔にキスでもするのかと言う位に近づく。
「君、名前は?」
(近い…近い………)
「えっと………ロイド、バニングスです……」
「やっぱり!!」
「!!!????」
イリヤの高揚した声と共にロイドは
その豊満な肉体に一瞬にして包まれた。
男の力で逃れようとするも、
イリヤに視点を抱き締められているため逃げられない。
それどころか、下手に動けば当たってはイケナイものを
触りかねない。
「え?!」
「……?!」
「おいおいおい………!」
「イ、イリヤさんッ…?!」
ほぼ連続して驚きの声や悲鳴が上がる。
そこにアバン劇団長が止める具合の声で質問した。
「な、何をしているのかね?!」
「いやぁ~!世間は狭いわねぇ!!!
まさか、噂の弟くんとこうして会えるなんて!
そう言えば、警察に入ったって聞いたことがあったっけ、
ふふっ…聞いてたイメージとそっくりじゃないの!?」
「え……あの…イリヤさん、ひょっとして、
セシル姉の知り合いだったり……?」
「セシルは私の親友よ!
日曜学校以来だから、もう10年以上になるわね」
「な、なるほど……」
テンションが上がったのか早口になりながらも、
だんだんと落ち着いてくる。
抱き締めていたロイドを手放し、
再び支援課達の前に立つ。
「ふふ…改めて自己紹介するわね。
イリヤ・プラティエ。劇団アルカンシェルの看板を
背負って立たせて貰っているわ。
よろしくね、弟くんたち!」
数分後、着替えたイリヤ。
そしてリーシャとアバン劇団長に連れられ、
支援課は控え室に通された。
「まったく…イリヤさんったら!
いきなり抱き着くなんて、ロイドさんに失礼じゃないですか!」
「俺は浮気を疑われたんだが?!」
何方かと言えばスパーダの方が被害者なのだが、
リーシャは苦笑いするのみだ。
「それは……スパーダさんがリンさん一筋なのは
知っているので」
「……覚えておく」
「まぁまぁ硬いことは言いっこなしよ。
それにロイド君、お姉さんに抱き着かれてちょっとは
嬉しかったでしょ?」
「…………(ジーーーーー)」
(セシルさんに続いて……)
(これがヒエラルキー……
弟至上主義という奴か!この弟貴族!
弟ブルジョワジーが!)
(うん…まぁ、俺も判る。
が……女に刺されるのは止めろよ)
スパーダも姉がおり、
母親や姉達から似たような事をされている。
しかも全員血の繋がりもない為、
何か言えた義理もないのだが、
そんな言葉が出てしまった。
「あはは………
それで……その、脅迫状の件なんですけど」
「あぁ、そうだったわね。弟君の頼みなら仕方ない。
ちゃんと手紙は持ってきたわよ。はい、これ」
「その…ありがとうございます。
(頼まれたのは…此方なんだけどなぁ)えっと……」
ロイドはそう言いながらも、脅迫状を開く
_新作ノ公演ヲ中心セヨ。
サモナクバ炎ノ舞姫ニ
悲劇ガ訪レルだろう_《銀》
「イリヤ、また面倒なのに目をつけられたな」
「これは……」
「新作の公演を中止せよ。
さもなくば炎の舞姫に悲劇が訪れるだろう。《銀》」
「確かに脅迫文っぽいな。てか、スパーダ知ってるのか?」
「……まぁ、そうだな」
「おい、何した。言ってみろ」
ランディにそう言われ、恥ずかしながらスパーダは話す。
「《銀》ってのは共和国、東方人街に伝わる魔人いや暗殺者だ。
黒月とルバーチェの抗争に巻き込まれた俺は、
ルバーチェの幹部を潰した後にクロスベルの黒月を襲撃した。
構成員を片っ端から潰し、共和国に乗り込んで黒月の
上澄みを何匹か再起不能にした時にな、
《銀》とか言う雑魚が襲ってきたんだ。
とりあえず返り討ち。しかも所構わず襲ってくるもんだから、
面倒くさくなってな。
銀の使ってたデカい大剣を奪って、ソイツを持って
黒月の長老の家に喧嘩ふっかけた。」
「嫌な予感がするんだが」
「まぁ…なんだかんだあって長老に気に入られたんだ。
魔人を下し、黒月を単独でほぼ再起不能になるまで陥れた。
その腕を買われたんだ、まぁそんな話は蹴ったし、
馬鹿言った奴は身ぐるみ剥いで……
世間的に殺してしてやったが」
「……その、隠したところは聞きたくないな」
「兎に角だ、ルゥ家とか言う奴が俺に頭を下げた。
んで、黒月と俺個人の抗争は俺の勝ちだ。
ちなみに、ルバーチェの方は
全治3ヶ月で遊撃士に捕まった」
「何してんだよ」
「なんだ?俺が暴れたから風通しが良くなったんだぞ?
じゃなければ、もうとっくに島争いで死人が出ているさ」
実際、スパーダのおかげでクロスベルの裏の方面は
比較的マシになった。
そして、完全なアンタッチャブルとしてスパーダと、
その一派の名前が常に浮かんでいるのだ。
「だから解せん、彼奴。
クロスベルで黒月を潰したいのか?」
「いや、そもそもスパーダが
この件に関わるなんて思わなかったからじゃないか?
俺だったら、二度とそんな悪夢みたいな相手と
戦いたくない」
「ロイド、言うようになったな」
スパーダの理不尽的強さを知っている面子からすると、
ロイドの言葉は頷くしかない。
ゲームで言う裏ボスだ、それが何時でも近くにいて、
エンカウントするかは予測不能。
「まぁ……良いじゃないか。それで?
銀に依頼されるまで恨まれてるのか?」
「んなの心当たりないわよ!
あっ………」
「ほらある。俺みたいにあり過ぎて、
心当たりが逆にないわけじゃないんだ。話してみろ」
「……スパーダさん、それ駄目なやつです」
ティオにため息混じりにそう言われながら、
スパーダは話を促す。
「《ルバーチェ商会》っていうゴロツキを使う
ハゲオヤジのマルコーニ。
貴賓席ばかりの羽振りの良いセクハラオヤジよ。
私のことも体目当てねあれ」
「またルバーチェかよ」
ランディの辟易とした言葉にイリヤは驚く。
「あら、意外な反応」
「あの……この頃スパーダ関連でルバーチェ商会とその…
色々とありまして………」
「俺が悪いのか?」
「構成員を氷漬け、
襲ってきた軍用魔獣をハンドガンで虐殺」
「人聞き悪いぞ!」
「……それで、そのハゲオヤジには何を」
「(ニコッ)勿論ビンタと蹴り入れてあげたわ!
私のことを接待女だと思ったあの変態!
どうせなら『玉』潰してやればよかったわ」
「イリヤさん…笑顔が怖いですよ」
「あっ…リーシャごめんなさいね」
まさに女傑、そしてまぁビンタに蹴りを入れられ
プライドがズタズタにされただろうハゲオヤジ。
それがイリヤを恨まない訳が無い。
「あの時は本当にびっくりして、
急いでイリヤさんを止めたんです」
「私は気絶寸前だったよ」
リーシャとアバン劇団長は共に何かを思い出したのか、
疲れた顔をする。
「その顔やめてくれ、嫁とバイトが俺によくする顔だ」
「……イリヤさんも、スパーダさんも、似た者同士です」
「ティオ、飴舐めるか?」
「いただきます」
スティックキャンディをティオに渡し、
心にくる顔をやめさせる。
「それで、イリヤさん。この脅迫状、お預かりしても」
「そうね…スパーダはもちろんだし、弟君も信用できる。
それに、リーシャとアバン劇団長に心配かけ過ぎるのも
悪いわよねぇ」
「俺の顔みて言うな、お前……リンから何聞いた。
おい!」
「……貴方のご家族の事もよ」
「………………ロイド。
俺は今回お前達から離れるぞ」
「それは」
「ルバーチェのビルにも行くんだろ?
だとしたら、俺が出向いた瞬間に面倒事だ。
黒月の方はそうはならんが、
ルバーチェは完璧に面子を潰したからな。
最悪、市街地戦になる。それは避けるべきだ」
「……スパーダ、お前警察かよ」
「……今は警察だ、お前だってそうだろ。
多分、俺の前職とお前の前職」
「あ……、だな。多分知り合いだわ」
スパーダが話す前職とは警備隊で無いことを、
ランディは即座に理解した。
過去に蓋をして忘れていたが、確かに見たことがあるのだ。
漆黒のスーツに身を包み、刀一本で銃弾を弾く男を。
「……いや、やはり変装にする。
彼奴にも言われたんだ。スタンドプレイは止す。
少し待っててくれ」
スパーダは5分ほど離れると、
あり得ない姿となって戻ってきた。
それは漆黒の兜と鎧、純黒のマントを身に纏い、
背にはリベリオンを携えている。
「えっと……スパーダだよね?」
「………」(コクリ)
その佇まいはあまりにも様になっていた。
普段の面白お兄さんではなく、一人の騎士である。
ティオは何処か懐かしそうにしているが、
それ以上に困惑している仲間達。
「あの…その姿で行くんですか?」
「…」(コクリ)
「喋ったりは」
「……最低限だ」
それは普段とは違うくぐもった声。
「うーん…ねぇ、スパーダ。今度演目に出なさいよ。
騎士役とか、そう言うのきっと」
黒騎士は首を横に振り、一同に退室を促した。
これ以上、変に関わるのは面倒事を巻き込みかねない。
そしてアルカンシェルのエントランスホールで、
特務支援課とリーシャが向き合う。
「イリヤさんも納得してくれたし、
相談して本当に良かったです!」
「あはは……これからですよ。
どうやら、一筋縄では行かなくなりそうですし」
「………あの、どうかそんな丁寧に話しかけないで
もらえますか?」
「え?」
「その…私まだ新米ですし
ロイドさんやエリィさんよりも
ちょっと年下だと思いますし……
そんな丁寧に話しかけられると、
なんだか申し訳なくなって」
「そ…そうですか?
――それじゃあ、ちょっと砕けさせて貰うよ」
「は、はい!どうもありがとうございます!」
リーシャが微笑むと、奥からイリヤの声が響く。
「リーシャ?ミーティング始めるわよ〜!」
「は~い!それでは、皆さん、よろしくお願いしますね!」
リーシャはそのまま駆けていく。
練習以外でも、このようにして時間を使うことで最高の
演目が出来上がるのだろう。
「流石に忙しそうだな……」
「まっ、公演まで数百回は稽古を重ねるらしいからな。
脅迫状を気にかけている時間が勿体のも、判るぜ」
「なるほど……納得です」
「………きっと良い演目になるのだろう」
黒騎士から出てくる言葉にエリィはクスッと笑ってしまう。
中身はやはりスパーダなのだ。
「ふふっ、新作の成功の為にも何とか解決できると良いわね」
「あぁ、そうだな」
ロイドの言葉の後、皆が頷き合いアルカンシェルを出た。
そして完全に出たところで、
ランディが神妙な顔で話し始める。
「それで?どうするんだ。
手掛かりは今の所《ルバーチェ》だけだか」
「一応、《銀》という名前も手掛かりになりそうですが……」
「……そうだな」
ロイドは悩んだ後、決意の籠もった目をする。
「――なぁ皆、一度《ルバーチェ商会》を訪ねてみないか?」
「え?!」「マジかッ!」「自殺行為だ」
エリィ、ランディ、黒騎士が声を出す。
脅迫状の捜査対象に探りを入れるにしても影からだ。
正面から行くなど考えられる筈がない。
「別に、警察の捜査の一環として事情聴取するだけさ。
脅迫状を出したのがルバーチェの
会長かどうかはまだ判らないけれど……
面倒ヲ避けているだけじゃ、真実には辿り着けないと思う」
「……一理あると思います」
ティオは賛同するが、黒騎士は顔を横に振る。
危険すぎるのだ。黒騎士は守るつもりでいるが、
何時不意を突かれるか気が気でない場所に行くなど、
言語道断である。
「それに、いい機会だと思うんだ。
あれだけの事をしても捕まらず、
大手を振って歩いている連中……
どんな実態なのかを掴めるきっかけになるかもしれない」
「へッ……なるほどな」
「……それならば、従うのみ。必ずや護ろう」
「キャラ変わり過ぎです?!」
ランディが笑い、黒騎士が頷く、
普段の面白お兄さんではない黒騎士に激しいギャップを
覚えるティオ。
だが、エリィが少し考える素振りを見せる。
「えっと、やっぱり心配か?
なんだったら、俺とランディとスパ……黒騎士だけでも」
「ロイドさん……?」
ティオのここで除け者にするのかという視線に
ロイドは慌てながら返す。
「別にそう言う意味じゃなくて!」
「ううん……別に心配していないわ。
少なくとも、クロスベルのアンタッチャブルも居るし。
それに、訪ねるだけならばそこまで危険はないと思う。
この街のマフィアというがどういう存在なのか……
知るには良い機会でしょうね」
「あ、あぁ……?」
「なんだよ、御嬢。随分と思わせ振りだな?」
「ふふっ、気の所為よ。
脅迫状に関しても、瓢箪から駒という事もあり得るし、
早速、訪ねてみましょう!」
「あぁ……!」
やけにやる気のあるエリィ。
正直、民間人からすればマフィアなんて危険な相手、
普通は怯えるものだと黒騎士は悩むが、
皆が乗り気ならば仕方がない。
その時は、ルバーチェ商会を跡形もなく消し去るのみだ。
「えっと、データベースの情報によると……」
ティオが端末を開く。
その仕草がどうしても小さい妹を彷彿とさせるため、
黒騎士からすれば微笑ましい。
「何ですか、今凄い不本意な視線を感じました」
「……なんでもないぞ」
「……そうですか。《ルバーチェ商会》のビルは
そこの裏通りの途中から路地の奥に入った先にありますね」
「へっ、あの怪しげな一角か。
連中の姿を見かけると思ったらマフィアの本拠地
だった訳だな。そりゃあ、スパーダ連れてくと皆
怯えて隠れるわけだ」
「兎に角行こう、あと黒騎士は危なくなったら頼む」
黒騎士が頷いたのを見たロイド達は、
ルバーチェ商会のビルに向けて歩き出したのだ。
途中、柄の悪そうな者達が喧嘩を吹っ掛けて来たりもしたが、
黒騎士基、何故か直ぐにスパーダとバレると
蜘蛛の子が散るようにして逃げていく。
「……何してんだよ本当」
「…知らん」
半グレ擬きにも怯えられているのは想定外だ。
ましてや、黒騎士が何故バレたのか。
「たぶん、リベリオンのせいじゃ無いかしら。
そんな禍々しい剣を持ってる人、一人しか居ないわよ?」
「……何故、俺の心が」
「なんとなく、スパーダ。兜をつけてもわかりやすいわよ」
「その、見た目はあれだけど仕草とか、
そういうのはスパーダだなって」
「はい…正直似合ってますけど、
スパーダさんってまるわか……そういうところですよ」
ティオがトドメを刺そうとしたところに、
スパーダはキャンディを手渡した。
子供扱いと、マフィア達に対する圧。
むしろ、黒騎士となってより鋭い眼光が光るせいで
ますます凶悪になっている。
そして、目的地のビルへと辿り着く。
(ここが、《ルバーチェ商会》……)
(随分と怪しい路地だとは思っていたけど……)
小声で話すロイドとエリィ、
そこにルバーチェ商会ビルの前で話していた黒服が、
探りを入れてきた。
「なんだ…お前ら?」
「お前らみたいなガキど………ヒィィィ」
赤羅様に喧嘩を売りに来たのだろうが、
一人、何故かロイド達を観た瞬間地面に倒れ込み、
唇を青くしている。
「何ビビって」
「例の警察のガキどもだよ!
旧市街の仕込みの邪魔したなぁ!
巫山戯んなよ!俺は今回何もしてねぇ!いやだ!
相棒みたく……相棒みたく氷漬けで……嫌だぁぁ!!」
「……黙れ」
怯える黒服に黒騎士はリベリオンを突き付ける。
正直、どちらがマフィアか分かったもんじゃない。
「なっ…テメェ!スパー」
リベリオンを構えながら、
ルーチェをもう一人の口中に突っ込むスパーダ。
「えっと……黒騎士。その、やり過ぎは」
「……悪事しかせんゴミめ。
俺達の話をするか、ここで死ぬか……2つに一つ」
「おうす(とおす)!おうすはら(通すから)!」
口からルーチェを引き抜くと、
さっさと行くように指示する。
「…スパーダ、流石に可哀想じゃないか?」
「教えてやる、犯罪者に人権はあるが……
俺には関係ない、ぶっ飛ばすだけだ」
「え~~」
ロイドの呆れ声とランディの笑い声。
変装も瞬時に意味をなくしたスパーダは諦めて、
胸にルーチェとオンブラを入れるホルダーを掛け、
リベリオンを背負う。
「何しに来やがった、スパーダ」
それは赤羅様な苛つきではなく、
何処か笑いが感じられる声で扉から現れた。
「《若頭》、お前の所の部下に話を聞きにな」
(あのヴァルドって人も大きいですけど……)
(あぁ、随分とデケェ)
「ククッ…お前等が警察のガキ共か。
聞いてるぜ、あのスパーダを巻き込んで大暴れしてる、
警察の部署があるってな。話には聞いてたが…
予想以上に若いじゃねぇか」
「大暴れって……」
「全部スパーダさんのせいです」
「…特務支援課のロイド・バニングスです。
……貴方は?」
「ガルシア・ロッシ。
《ルバーチェ商会》の営業本部長を務めている。
ククク……まぁ、若頭と呼ばれる方が多いがな」
「ルバーチェの中で俺が気に入ってる奴だ。
元は猟兵で、実力者でもある。まぁ、俺には敵わないがな」
「……ちっ…ここで殺してやろうか」
「やれるもんなら、
その時は……俺も問答無用でルバーチェを灰にできる」
「っ…たく、前任者のせいで要らねぇもんまで」
「良いじゃねぇか、部下の尻拭いは上の務めだろ?」
「……もういい、お前らも入れ。話は中で聞く」
ガルシアは溜息をつきながらも、皆を受け入れる。
「…おい、本当に何したんだよ」
「ガルシアは姑息な奴じゃない。胃も痛める立場のやつさ。
わかんだろ、俺に喧嘩を売ったのは、彼奴に席を取られた奴。
彼奴の下に付いちまったと思った実力のない馬鹿だ。
ソイツが……その、悪魔を呼んでサバト。仲間を贄にして、
強大な悪魔を呼ぼうとしたんだ。んで、邪魔な奴を消そうと。
そん時に、ガルシアと縁が出来てな。
ルバーチェ達マフィアとの仲は最悪だ、でもまぁ……
ガルシア・ロッシとは腐れ縁てところか……」
「交友関係広いんですね」
「悪魔はな、正義も悪も、裏も表も関係なく殺す。
俺はデビルハンターだからな。悪魔を狩る、
それが………仕事だ」
スパーダはそう言い切るとルバーチェ商会の中へと入る。
ロイドたちもそれぞれが頷くと、スパーダの後を追うのだった。