黒月からDevil May Cryへと歩みを進めようとした矢先、
目の前に眼鏡にスーツの男が立ち塞がった。
その男はスパーダを睨み、スパーダも面倒臭いという顔だ。
「貴方は……」
「確か、捜査一課の……」
「1課のダドリーだ。……来い」
「……へ?」
「こんなところで悠長に話す馬鹿が何処にいる。
良いから来い」
ダドリーと名乗った捜査官は苛ついた雰囲気を
隠そうともせず、ロイド達へただ命令する。
「ロイド、今回は相手が悪い。
素直に聞き入れるべきだな」
「スパーダ」
「大丈夫だ、何か言われても抜け穴は俺が必ず作る。
安心しろ。俺はクロスベルで最も、
法の力で法から逃れている男だ。」
「……それ自慢じゃないよ」
スパーダの言葉に呆れながらも、
ロイド達はダドリーについて行く決断をした。
「……お前達は阿呆か。
……何のつもりか知らんが、ノコノコと乗り込んで。
しかも、遊撃士協会からもマークされている男まで一緒だと?
なんの冗談だ」
「……ちっ、
(彼奴らの頭斬り落としてやれば良かったぜ)」
スパーダが舌打ちするのをビクリとして、ティオが振り向く。
だが、それに気がついたのか普段の気の良いお兄さん、
スパーダとして飴を与える。
「…す、すみません」
「確かに少々、配慮が足りませんでした」
「確かになぁ……」
「……そうですね」
「悪かったよ、本当に悪かった。
だからそんな目で見るなよ」
心当たりがあり過ぎる特務支援課一同。
スパーダは大切な仲間達からそんな視線を受けて、
小さくなってしまう。
「――で?」
「――でっ、とは?」
「《イリヤ・プラティエ》と口走っていただろう。
それと、お前達が《黒月》を訪れた事に何の関係があるか…
洗い浚い話せと言っている」
「「「「!」」」」「ほーう」
ロイド達は驚いた表情を向けるが、スパーダはニヤける。
「黒月を訪れたのは俺の用件だ。
東方系の茶葉が足りなくなってな。
問題があるか?」
「嘘は止めろ。
その程度の事で誤魔化せると思うのか?」
「それとも何だ、クロスベルの勢力図。
黒月に肩入れする為に寄った、とでも言えば良いかな」
「……貴様」
スパーダの言葉にダドリーは汗を流す。
今のスパーダは理性的だ。
自分の力を理解しているからこそ、
それで行える最大の脅迫をダドリーにしている。
「良いだろう。
話さなければお前達を我々捜査一課の捜査妨害として」
「上に報告するか?
知ってるか、クロスベルでは金が全てらしいが……
金よりも情報だ。
例えば、Devil May Cry従業員に
対するストーカーが逮捕された。それが捜査官であり、
捜査一課かつ、違法捜査であった。
市民は今、クロスベル警察を信じているか?
マスコミを信じるか、なぁダドリー。
ここは手打ちにしないか、ある程度話す。
お前達の情報も話せ、そしてDevil May Cryから手を引け」
「お前…自分がクロスベルで何れ程の存在か」
「クロスベルの闇を全てぶち撒けても良いんだぞ」
「……わかった」
「流石、ダドリー捜査官だな。選択ができる男はモテるぞ」
「え……スパーダ、」
「さっきのミスを帳消しにするさ」
スパーダはそこからイリヤ・プラティエに送られた脅迫状。
そして、暗殺者《銀》について話した。
だが、詳しい事は敢えてはぐらかしダドリー自信、
それを理解しているので歯痒い顔をしている。
「っと、こんな所だ。さて、話してもらおうか。
捜査一課が何で《黒月》についてるのかを」
「……わかった」
ダドリーはゆっくりと口を開いた。
そこから話された言葉にロイドとティオは
納得できていない顔だ。
ダドリー達、捜査一課はクロスベルで特務支援課が解決した
案件を始から知っていたのだ。
少年達への襲撃、軍用魔獣の持ち込み。
それを知っていて、放置してきた。
「そんな、どうして」
「―我々捜査一課はお前達の様なボンクラとは違う。
この正義が守れない街で、一定以上の秩序を保ち続ける事。
殺人などの重犯罪を抑制し、犯罪組織や他国の諜報機関から
可能な限り人と社会を守ること……
さらにこの数年でクロスベルは魔都と言って相応しい
程に混迷を極めた。
不可能犯罪、行方不明者の増加、議員暗殺、
その中で我々は戦っていた、
その苦労がお前たちにわかるか!」
「!?」
「やはり……そうなんですね。
クロスベルの繁栄は薄皮1枚の上に成り立っている」
「ふん…市民の大半は気付いていないがな。
その薄皮も、既に破れ始めている。
それに待ったをかけたのが、そこの男だ。
アビゲイル事件において、警察は何もできなかった。
自治政府はあの事件を闇に葬った。ただの災害だとしてな。
あの一件以降、社員数名も我々の監視対象だ。
クロスベルを脅かす危険因子としてな。
《ルバーチェ》は《帝国派議員》、
《黒月》は《共和国派議員》と癒着し表立って規制は不可能。
それだけじゃない、スパイを取り締まれる法律が無いから
他国の諜報機関は入り放題だ。
その中で、どの勢力も敵に回し、
クロスベルで抑止力になっている男が《黒月》に、
共和国派に肩入れだと?大概にしろ」
「……なんつぅか、末期も末期。
スパーダ、お前そんな状態だったのかよ」
「いや、クロスベルのアンタッチャブルと
呼ばれているのは知っていたが、
警察組織と敵対者とかその程度の意味だと思っていた。
まさか……俺が抑止力とは」
「だが、そんな状況でも我々はやれる事をやるだけだ。
情報提供には感謝する。アルカンシェルの一件については、
こちらの目が行き着いて居なかった。
後は捜査一課が引き継ぐ」
「おい、なんでそうなる!」
「へぇ…警察の捜査は1課に移ると。
あと、俺の守る者達に手を出してるのは理解した。
……わかった、そうか」
スパーダの言葉にダドリーは顔を青ざめた。
「セルゲイ課長には連絡しておけよ。
スパーダ、私の権限とすべてにかけてお前達から手を引く。
何もするな」
ダドリーはそう話すと、
そそくさと導力車に乗り込み走り去る。
「クソ…言うだけ言ってとっとと消えやがった!
まぁ…最後はダサいが」
「でも専用車でというのがムカつきます……」
ティオとランディはキレているようだが、
ロイドは悲しげな顔を浮かべるのみ。
「でも…彼の言う事も一利ある」
「え?」
ロイドの言葉にそう呟いたのはエリィだ。
普段のロイドよりも気弱な発言に驚愕している。
「実際、
こちらで処理できる範疇を越えてきている気がする。
リーシャとイリヤさんには、
事情を説明して謝るしかないな…」
「ふぅ、それしかねぇか」
「しかた……ありませんよね」
「ちょ、ちょっと待って!」
「…え?」
それは普段声を荒げないエリィが出した声。
「ロイド…貴方が、貴方がそんな事を言うの!
《壁》を乗り越えるって、皆でなら乗り越えられるって…
そう、言ってくれたじゃない!…なのにどうして!」
「え…そんな事あぐっ……」
(スパーダさん、少し黙ってください)
(スパーダ、今は黙っとけ)
ティオにどつかれ、ランディにも呆れられた。
「え…エリィ?」
「おいおい、何もそこまで」
ランディの言葉に落ち着きを取り戻したエリィは、
視線をそらし皆に謝罪する。
「…ごめんなさい、ちょっと疲れているみたい」
「マフィアを2件も回ったんだ。無理もない。
一度、イリヤ・プラティエの所に帰るぞ。
そこで、そうだな。第二の選択を選んでくれれば……」
「第二の選択?」
「そこはその時のお楽しみだ。
悪いな、Devil May Cryに行くのはまた今度だ。
…といっても、案外今日中かもな。
エリィもそれで良いだろ?」
「…えぇ、そうね」
一呼吸し、落ち着いた顔のエリィ。
それを見たロイドは納得し、皆の顔を見ながら言う。
「それじゃ、アルカンシェルに向かおうか」
そしてアルカンシェルに報告に戻った矢先、
若い青年と老紳士に出会った。
「あっ…」「げっ…」
エリィとスパーダはそれぞれ真逆の反応を示す。
エリィは何処か申し訳なさそうに。
スパーダはなんで居るんだよと言いたげな表情だ。
「お祖父様…アーネストさん」
(え……)
(エリィさんの…おじいさん?)
「フフ、中々会えないが元気でやっているようだね。
仕事の方は頑張っているかな?」
親族として孫の事は心配なのだろう。
老紳士は優しい視線でエリィを見つめる。
「は、はい……
まだまだ新人で至らない所もありますが…
マクダエル家の名前に恥じぬよう、
精一杯、頑張らせてもらってます」
「はは……前にも言ったが家の事は気にすることは無い。
そちらの諸君は同僚の方々かな?」
「は、はい」
「――始めまして。
クロスベル警察・特務支援課、
ロイド・バニングスと言います」
「ティオ・プラトーです(ペコリ)」
「どーも、ランディ・オルランドです」
「スパーダ・リン」
「まったく、愛想のない……。
スパーダ、君とはよい縁を紡いできたと」
「弟子を騙して議員邸宅に侵入させた爺に言われたくねぇ」
「スパーダ、確かに私は依頼したが悪魔との契約者の家
に不法侵入して良いとは言ってないぞ。
君の教育問題だろうに……」
「不法侵入?何言ってんだ。
正規の手順踏んで取材したんだ。
勘違いするなよ、お前俺を特務支援課に叩き込んでも
依頼持ってきやがって」
スパーダは不満気な顔だが、けして嫌いではないのだろう。
溜息をつき、非情に疲れている。
「私の名前はヘンリー・マクダエルという。
どうやら孫娘が色々と世話になっているようだね」
「まっ、お嬢様には報告書とか
書類作りでもだいぶ助けられてます」
「ランディさんは自分でもやるべきです。
エリィさんと、スパーダさんに任せ過ぎです」
「適材適所だろ!てか、ティオ助は知らねぇんだ!
スパーダの手伝いになると、此奴書類に細かいんだよ!
行間やら、全体のバランスやら、グチグチ言われんだ!」
「……自分としても言い過ぎた感は否めないな。
だが、書類仕事は軽視してはいけない。
たった一文字、たった一つの打ち間違いでの失敗もあり得る。
頭の良い犯罪者は法律を読む。理由は一つ。
抜け穴を探す為だ。事務仕事もその一つだ。
何処かの国では、
点の位置のミスで果物類に
関税がかけられない年があったという」
「それ、聞いたことがあります。
何処だったかは忘れましたけど、
てか理由それで合ってましたか?」
「…正直自分も怪しい、だが書類ミスなのは確かだ。
これは政府組織のミスの一例であるし、
それに酷い言い方をするが特務支援課は窓際部署にも等しい。
俺やエリィが居るから無事かもしれんが、
難癖つけて潰す理由を探す奴も居るだろう」
「……わぁったよ。
覚える!覚えるから、それ以上そんな目で見るなよ」
呆れ顔のスパーダとティオ。
その視線に降参し、ランディは手を挙げた。
「フフ……充実した職場で何よりだ」
「しかし…お嬢さん。
たまには御実家のほうもお顔を出したほうが…」
「……す、すみません。
その……せっかく自立したのに頼るのもどうかと思いまして」
「……ですが……お嬢さん」
「良いんだ、アーネストくん。
それだけ、エリィの決意も固いと言う事。
お前が選んだ道だ…納得の行くまでやってみなさい。
最初で最後の公私混同になってしまうが、
優秀なメンバーも私の伝手で仲間に居ることだ。
それ以降、公私混同はしないが…できるだけ協力させて貰うよ」
公私混同、スパーダはその言葉に笑いながら思い出す。
あの時はマクダエルの依頼から特務支援課に参加した。
だが、今では掛け替えのない仲間である。
「はい、ありがとうございます」
「うむ、では行こうか。アーネスト君。
次は商工会との会合だったな」
「はい、5時からになります」
秘書にそう言われたマクダエルはそのままリムジンへ乗り込み、
市街地の方面へと消える。
「ヒューッ!すんげぇ車だな、オイ!」
「たしか、防弾ガラスに装甲も強化してあるはずだ。
しかし、ロールアウトしたんだな。要人護送用として」
それはスパーダが関わった依頼の一つ。
無論、スパーダは簡単に破壊できるが、
スパーダ以外ではまともに傷がつかなかった為、
問題なくロールアウトした。
ある意味で、スパーダの被害《車》である。
「マジかよ!そんな車に乗ってるって…
やっぱりお嬢の実家って、ものすんごい金持ちなのか?」
「え、えーと………その。」
ランディは気が付かなかったのか、純粋に質問していた。
クロスベルに住んでいるなら、聞いたことがある筈と言うか、
知っているべき名前である。
「あぁぁぁ!?」
「ロイドッ!!」
スパーダの真横で大声をあげるロイドに、
スパーダは初めて怒った気がした。
予想外の爆音に耳が純粋に痛み、変な涙が出る。
「あっ、ごめんスパーダ。って、
ヘンリー・マクダエル!!
このクロスベル市の市長さんの名前じゃないか!!」
「なっ…なにぃ?!」
「本当ですか!?――あ。確かに、
データベースにもそう記録されていたような」
「ちなみにあの食えない爺様の最初で最後の公私混同。
それはまぁ、俺の事だ。ちなみに1億ミラで、
前金で6000万ミラ残りの4000万ミラは俺が納得してから
貰う手筈だったが……なんつうか、
以外にもこの依頼が楽しくてな。Devil May Cryとは
また違った良さがあるし、新たな仲間も得た」
「じゃあ、残りの4000万ミラはどうすんだよ」
「無論、貰う。近いうちにな」
「…正直、今の今まで気づかれなかった事に驚きだけれど」
「い、いやだって……
最初に苗字を聞いた時に引っかかっては居たけど、
ランディ、スパーダ、ティオで色々と驚いたし、
その後のジオフロントも……
それで、流してたというか……」
「……そうね、ごめんなさい」
ロイドの言葉にエリィと何処か遠い目をしている。
流石に初日に猟奇殺人と悪魔、そしてデビルハンターは
しょうがない。
「他人事みたいに見てますけど、
大半はスパーダさんのせいですからね」
「……ティオ、飴なめるか」
「いただきます」
「おいおい、虫歯に気を付けろよ?」
「フフ…別に気にしてないわ。
祖父が何者であろうと、私には関係のない事だから…」
その言葉に皆が一瞬、顔を固まらせる。
クロスベル市長であり、クロスベル有数の資産家の令嬢。
それは彼女が一番よく知っている事のはず。
「それよりも、はやくイリヤさん達のところへ行きましょう。
面目ないけど…きちんと引継ぎのことを伝えないと」
「あ、あぁ。……そうだな」
「ところで、
そのお嬢のじー様が何でアルカンシェルに来てたんだ?」
「あぁ、そうね……
今回の新作は、市の創立記念祭と
合わせて公開されるそうだから……
その関係の打ち合わせにいらしたのかもしれないわね」
各々が感じた疑問に軽くエリィが答える。
だが結局、政治的立場から一線を退いている彼女には
現状、わからない事が多く深い話にはならなかった。
アルカンシェルに入ると、イリヤは舞台にいると聞き
一同はそのまま舞台の正面戸を開いて入る。
座席のライトアップはなく、舞台で2人の天使が舞っている。
光の反射が陰と陽を映し出し、事前に聞かせれていた太陽と月。
その2つが麗しく、そして芸術的な感動を思わせる。
「……ブルブラン、お前の言う『美』と『芸術』。
これを共に見て、評論してみたいものだ」
(ブルブラン?)
ロイドの知らない人物の名前。
時折、スパーダの過去について気になってしまう。
だが、あまり聞くものじゃない。
そう自分に言い聞かせ、2人の天使に視線を戻した。
「ふぅ……」
「はぁ……」
終わったのだろう、2人の天使が降りてくる。
それに続くように特務支援課の一同は拍手を行う。
たった数人しか居ないはずの拍手だが、
ステージに乾いた音で響き渡る。
「あら?」
「皆さん……」
天使の片割れ、月の姫たるリーシャ・マオが
こちらに気付き、声をかけてきた。
「ふぅうう!うほほ……最高ッスよ!!」
「…す…凄かった」
「…ジンとしました……」
「流石だな、太陽と月。2人の天使の舞。
見るものすべてを惹き込む魔性だな。
チケットはいくらで買える?
Devil May Cryのメンバーと母と姉3人と妹にも観せたい」
「……私に頼まない。予約して買いなさい」
「む…確かにな、卑怯な手を使っても、
皆喜びはしないだろうしな。
とは言うが使える伝手は使うべきか………
ちょうど良くアルカンシェルに行こうとする議員が居たな。
彼奴の汚職を揺すって」
「……スパーダ。
それは、俺が脅迫罪で逮捕しなくちゃいけないから
止めてくれ。」
ロイドの言葉に微笑み返し、ただ一言。
「(1割)冗談だ(証拠の残ることは)やらない」
「……嫌な予感がする」
スパーダにジト目を向けるロイド。
それをみて、イリヤは笑う。
「ふふ……ふふふふ……
スパーダ、なにそれ。随分と絆されてるじゃない」
「良い仲間で弟分だ、やらんぞ」
「良いわよ、私は弟くんのお姉ちゃんと友達で、
むぎゅ~ってできるから。リーシャの胸もね!」
「イリヤさんっ?!」
オヤジ臭い冗談をいれるイリヤに笑うスパーダ。
似た者とは言えないが、面白い人が増えたと言う印象だ。
「っとそれよりも……
どうしたの、何か進展でもあった?」
「あ…」
「……はい」
「少々残念な報告をしなくてはいけませんが…」
「え?」
「……そう、いいわ。
劇団長も呼んでくるからここで話を聞かせてちょうだい」
何があったのかを察したのか、イリヤはそれだけだった。
「《銀》……まさかそんな危険なヤツが……」
「そんな……本当にそんな人がこの街に?」
「へぇ~〜、面白いじゃない!
東方人街に伝説と謳われた影の如き不死身の暗殺者か……
うーん、良いわね〜!舞台向きのキャラだわ!」
「いや、たいして強くないぞ」
「スパーダさんは静かに!
人類のハズレ値が何言ってるんですか」
「…ティオ、俺に当たり強くないか?
………飴舐めるか?」
「舐めます」
「強い弱いはいいのよ!そうだ!
第三幕の白装束のイメージに使えるんじゃないかしら?!」
イリヤとスパーダに皆が呆れる。
「ふぅ……イリヤくん……」
「スパーダもって……実際勝ってるんだよね……」
「…まぁな」
「お二人とも、
そんな呑気な事を言ってる場合じゃないですよ……」
リーシャの言葉に皆が意識を改める。
「《黒月》が《銀》を雇っているのは確かなようです。
その《銀》がどうしてイリヤさんに脅迫罪を送ったのか。
少なくとも、《黒月》は違いました。
《ルバーチェ》も、そんな事はしていないと」
「マフィアが揃って個人を恐れて何もしてないとさ。
アホな話だよなぁ…」
「その原因が言いますかね」
ティオに発言を潰され、顔に手を当てるスパーダ。
自分自身も想定外すぎるのだ。
「…とにかく、
ただの悪戯であるという可能性は低くなってきたみたいです。
その、公演を中止するというのは―――」
ロイドがそう言い出した瞬間、
冷静ながら確かな迫力のある声でイリヤが話す。
「あり得ないわね。
たとえ劇場の爆破予告があったとしても、
アタシ達は舞台から降りたりしない。
そうでしょう、劇団長?」
確かな瞳を劇団長に向けるイリヤ。
それに頷く劇団長もこのまま続ける持ちようだ。
「まぁ、そうだね。
イリア君ほどではないにせよ、
私達は、多かれ少なかれ、
舞台という魔物に魅せられた人種だ。
おそらく、ただの一人として家のアーティスト達が
出場を辞退することは無いだろう」
「その……私も新米ですけど、同感です」
何処か、Devil May Cryと似たような気配を感じる。
舞台とは、スパーダにとっての悪魔なのだ。
ユウナも、グレイスも、あの一件以来、
危険と理解し、来るなと言ってもついてくることがある。
「……馬鹿ばかりだ」
「やれやれ……素晴らしきは舞台の亡者達か」
「となると、他の部署に警備などを
引き継ぐ事になっても構わないと……?」
ティオの言葉にイリアだけでなく、
周りの面々も顔をしかめる。
あからさまに鬱陶しいや、嫌だと言う雰囲気だ。
「ま、正直鬱陶しいけど背に腹は代えられないわね。
捜査一課だっけ?どんな人なの…そのひと」
「えっ…と……見るからに有能と言うか……
エリートと言った感じで……」
「家の店のアルバイト、嫁、家主達をストーキングして、
裏でコソコソ何かしてるクズの親玉って所だな」
「スパーダッ?!」
「なにそれ、そんな奴が警察に居るわけ?」
「ついでにいえばアルバイトは10代の少女で学生だ」
「ガチの変質者じゃない!どうやったら警察に居られるのよ!」
「おい……スパーダ」
「なんだ、(俺にとっての)事実だろうが」
「……それは……確かに………」
実際民間人を監視して居るのは事実で、
尾行等もしている可能性がある。
だからこそ、ここでスパーダが呟いた。
「なぁ、イリア。
実は此処に魔犬事件を解決した優秀なアルバイト。
ひーふーみーよー…4人雇っている会社がある」
「へぇ……」
「え?スパーダ?」
「マジかよ……盤外戦術すぎんだろ」
「でも、アリですね」
「……ふふ」
「他にも魔獣対峙や、探索。
色々なエキスパートも揃っている。
どうだ、そんな会社に依頼を出さないか?」
「……ふ〜ん、どんな名前なのかしら」
赤羅様に笑い始めたイリアにスパーダは確かに伝えた。
「Devil May Cryだ。悪魔対峙から要人警護まで。
依頼料は家の窓口担当と話してくれ。これが名刺だ」
「クロスベルタイムズの記者って出てるけど?」
「そうだ、本職は記者だな。
むしろ、便利屋が本職なぞ一人いれば十分だろうが」
Devil May Cryのメンバーにおいて、
デビルハンターが本職なのはスパーダ一人である。
ユウナは学生が本分であるし、グレイスは記者だ。
そもそも、遊撃士が居る中で便利屋など儲からない。
「オッケー、ストーカー警察より信用できるし、
そこの4人のアルバイト、弟くんも信用してるわよ!
劇団長、勇気ある4人の警察官に御礼できる?」
「4人?」
「少なくとも一人赤羅様じゃない、
必要ないでしょ?スパーダには」
「……ハブられると傷つくな」
「まったく……スパーダ君には別途で送らせて貰うよ。
記念祭のチケットは無理だが、来月の公演チケットだ。
一番良い席をね」
「マ、マジっスか!?
いやぁ…再来月分になるって諦めてたんだけどなぁ〜!」
「太っ腹です!」
「俺には無しかよ」
「君の場合、バックヤードから頼むと思うよ?
ファンレター送る人にも、怪しい人いるし」
「仕事でか………」
「まったく…スパーダ……ふふ……」
スパーダの台詞に皆が笑いを堪えれず吹き出す。
だが、エリィの顔に一瞬だけ影が出ていた。
会話が落ち着き、5人が帰る為にアルカンシェルを出る。
そこへ、着替えたばかりだろうリーシャが見送りのために
トコトコと小走りで表れた。
「皆さん、今日はありがとうございます。
その、警備の方は本当に……」
「劇団長次第だな、イリアに名刺を渡してある。
それで此方に依頼すればよし、拒否して警察に頼むもよし。
ランディには盤外戦術と言われたが、
此方も依頼が無ければ動けない。
不法侵入、警察の逮捕対象になっちまうからな。
俺だけなら良いが、家の嫁とバイトに苦労はさせられん」
「そうそう。
警察は元から無駄骨を繰り返してやる仕事だし、
気にする必要はないよ」
「まっ、スパーダが居てくれて良かったよな。
…まさかこれか?課長が言ってたグレーなやり方って」
「グレーと言うには、
捜査一課の人を酷く言っていた気がします。
具体的にはストーカーと」
「…事実だからしようがない。
警察の尾行なんてストーキングだろ?
つまりだ、警察=捜査官=ストーカーの図式も成り立つ」
「待ってくれ!それだと捜査官の俺もストーカーになる!」
「ふっ…ふふ……リーシャさん、大丈夫ですよ。
でも、念のためイリアさんと劇団長さんに
口添えお願いしますね」
「だからまぁ、リーシャちゃん!
俺達の事は今は気にしないで、プレ公演頑張ってくれ!」
「はい、ありがとうございます」
ランディがサムズアップしてみせると、
リーシャも笑顔を返した。
だが、ロイドとティオはキョトンとしている。
「プレ公演?」
「なんだ、知らないのか?
アルカンシェルは毎回、
新作の本公演の前に一度だけ
お披露目の舞台をやるんだよな?」
「あ、はい。
私も今回が初めてですけど、
国内外の関係者やマスコミの方々が
招待されるんだそうです。
公演を後押してくださっている偉い方々も
見に来るらしくて……」
「そうなのか……」
「ひょっとして……、
マクダエル市長も招待を?」
エリィが食い気味に確認を取る。
祖父だからなのか、他にも理由があるのか。
スパーダには分からなかった。
「はい、主賓としてお迎えするそうです。
記念祭と合わせて、
今回の公演を後押ししてくださっているらしくて。
今日も、お忙しい所に態々陣中見舞いに来て下さいました。」
「……そうですか」
何処か含みがあるように感じるが、
エリィは直ぐ様普段の優しい顔に戻る。
「――リーシャさん。プレ公演、頑張ってください。
リーシャさんなら、初めてでもきっと大丈夫だと思いますから」
「そうだな、練習をみる限り何の心配もいらなそうだったし」
「おう、絶対にいい舞台になるって!」
「……すごく楽しみです」
「もし、変な気を起こした奴がいたら連絡してくれ。
クロスベルだろうと、帝国だろうと、共和国だろうと、
必ず俺がぶっ飛ばしてやるからな」
「暴力は駄目です、スパーダさん」
「ティオ、飴なめ」
「いただきます」
言い終わる前に既に返事をするティオ。
このやり取りにも慣れてきたのか、皆苦笑い程度だ。
「あ、ありがとうございます。
その……とっても心強いです。
それでは、私稽古に戻りますね。
皆さん、本当にありがとうございました!」
ペコリと会釈し、
アルカンシェル中に戻るリーシャを見届けると
ちょうど良くスパーダのエニグマがけたたましく鳴り響く。
「はい、此方Devil May Cryじゃなくて、
特務支援課のスパーダ」
「ちょっとスパーダ!
アルカンシェルから護衛依頼来てるわよ?!
しかも合言葉付きよ?!何しでかしたの!」
「あ~~、それも含めて話がある。店で会おう」
スパーダはそれだけ告げるとエニグマの連絡を切った。
そして、4人に向かい合ういと笑顔で答える。
「Devil May Cryに行くぞ」
この日が、スパーダ以外のデビルハンターとの初邂逅となる。