リィン・サンドロットの軌跡   作:影後

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リィン・サンドロットの軌跡3

「びっくりした……エステル、大丈夫?」

 

「……エステル・ブライト。水でも飲むか?」

 

「レンに、リィン…ありがとう。ちょっと…ううん、とっても最悪な夢を見ただけよ」

 

エステルの言葉を聞いたリィンは持って来ていたポットからティーカップにココアを注ぐ。

 

「悪夢には、このココアが合う。レンのお墨付きだ」

 

「えぇ、リィンのココアは美味しいんだから」

 

エステルは促されるまま、ココアを飲む。

仄かなミルクの香りに甘さが口いっぱいに広がるソレははじめての体験だった。

 

「美味しい……でも、今回の夢だってあんな人形が出てくるから変な夢を―」

 

そういった瞬間、エステルはまるで驚いた猫の様にベッドの端へと移動する。器用にもティーカップからココアは一滴も落ちてはいない。

 

「どうして、レンとリィンがこんな所にいるのよっ!?」

 

「エステル、リィンのココアを飲んでから言う台詞じゃないわ」

 

「…俺のココアは口に合わないのか」

 

「そこじゃない!」

 

「うふふ…エステルってら驚くタイミングがズレているわよ」

 

リィンはそんなレンの頭を撫でながら、ココアのおかわりを持つ。

 

「どうだ、まずかったか?」

 

「美味しいけど…そうじゃなくて!」

 

「ここが何処か、何故、自分が生きているか…か?」

 

リィンはコーヒーの様な物を注ぐとそれをゆっくりと飲む。

 

「…苦いな、ミルクと砂糖は」

 

「リィン、レンには紅茶を頂戴」

 

「俺が淹れるより、レン。お前の方が旨く作れるだろうに」

 

「作ってもらうのが良いの」

 

マイペースにしている2人をみると、エステルも毒気を抜かれてしまう。変わらないのだ、自分が知っている二人と。

 

「ねぇ、私の質問の答えって」

 

「窓を見ろ」

 

「……うそ」

 

エステルが促されるままに窓をみると、遥か上空であった。

雲の上を飛んでいるのか、巨大な影が見えている。

 

「紅の方舟、グロリアス。結社の所持する巨大導力飛空艇にして、戦闘空母だ。エステル、君は今その、一室。俺の部屋にいる」

 

「そうよ、でも安心して。エステルが寝てる間に色々とされそうだったから私もリィンで保護したの!身体は問題ないわよね?」

 

「えっ…えぇ」

 

話を聞く限りでは、エステルを倒したのはリィンだが連れ去られた後で何かされようとした。しかし、ソレを防いだのがレンとリィンという事だろう。

 

「…守ってくれてありがとう」

 

「……レンをさがしてくれた恩があるからな」

 

「迷子になったのはリィンのクセに」

 

そう変えされればバツの悪い顔をする。

 

「ねぇ、リィンとレンは何で結社に」

 

「そうだな、話そう。俺の過去を」

 

リィンは帝国の現宰相、ギリアス・オズボーンの息子である事。

ギリアス・オズボーンの敵対者に殺されかけたこと、実の母カーシャに探してすら貰えなかった事、叫んでも、叫んでも届かない声、潰される感覚、そして、今の母親に出会った話を聞いた。

 

「俺にはもう、家族しかいないんだ」

 

「……ごめんなさい」

 

「良い、復讐するは我にあり。必ず父と弟は殺す、俺を捨てのうのうと生きている彼奴等は」

 

「…レンは」

 

「言うが、レンは俺よりも激しい絶望の中に居た。無論、ヨシュアもだ。俺が話したのは前菜だ」

 

「…うそ」

 

「結社にいる奴等は俺程度の闇なら持ってる、聞くなら聞くなりの覚悟をしろ」

 

リィンはエステルにそう告げると部屋を出る、目的は一つ。

不法侵入をしようとする不埒者から2人を守る事だ。

 

「あら、貴方が護っているのね」

 

「……エステルと話すか?お前はエステルの姉貴分だったらしいな」

 

「良いわよ、それはシェラザードに任せてるし。それに、話すなら私よりも」

 

「…剣帝か、ヨシュア関係だ。お前は入れ」

 

「まったく、本当に抜き身の刃の様な男だ」

 

「……白面に付け狙われている時点で守護対象に違いない。俺はあくまでも盟主様の命令で此処にいる。白面の指示を聞く必要も、理由もない」

 

「そうか」

 

「それに……俺は貴様も許せない。何故、レンを鍛えた。お前は母さんとのパイプがあった。少なくとも、今のレンは居なかったはすだ」

 

「……お前が言うか、子供を救うのではなく怒りに任せ、リベリオンを振るっいたお前が」

 

レオンハルトはケルンバイターを、リィンは魔王ではなく黒騎士となりリベリオンを構えている。

 

「止めなさい、グロリアスが落ちれば私達がどうなるか。

ソレを理解していない訳ではないでしょう」

 

「………クソっ」

 

リィンはリベリオンを納刀するとレオンハルトを一瞥する。

そして、話すこと無く扉の隣に避けた。

 

「感謝する」

 

「………」

 

「…まったく、大きな子供ねぇ」

 

リィンはレオンハルトが部屋に入ったのを確認すると、壁に寄りかかり目を閉じる。

 

「私は行くわよ、寝るなら自分のベッドになさい」

 

右手を軽く上げ返事をすると簡単な眠りにつく。

 

「ん……ん?」

 

「あら、寝ているなんて駄目な衛兵さんね」

 

「人が動けば判る、レン…そうか、聖堂へ連れて行くか」

 

「そう、教授が呼んでたから」

 

エステルの隣に立つレンに何処か不満そうな顔をするリィン。

そして、口を開いた。

 

「教授の言葉に耳を傾けるな、その先は闇しかない」

 

「もう、リィンったらそんなに言うことないじゃない」

 

レンに怒られるが、リィンは再び目を閉じる。

よほど疲れていたのか、すぐさま寝息が聞こえてくる。

 

「寝ちゃった……うそ、コレ狸寝入りとかじゃなくて本当に」

 

「リィンったら、働き過ぎなのよね。エステルも駄目よ、リィンみたいに仕事が恋人とか」

 

「失礼ね!私は」

 

ヨシュアが……と続けたかったが、ヨシュアは今いない。

エステルの心に小さな罅が入る。レオンハルトから伝えられたハーメルの悲劇、ソレだけですでに一杯一杯なのにと。

エステルが白面との話を追え、部屋に戻されると変わらずリィンは眠っていた。事前にレオンハルトとレンから逃げようと思うなと言われてたし、リィンの実力も知っている。

 

「……でも、もしかしたら」

 

リィンなら話を聞いてくれるのではと感じてしまう。

遊撃士よりも速く人を助け、レンの為に慌てている。

その時だ、扉の外から声が聞こえてくる。

 

「ん?んん、なんという事だ。硝子が割られている。エステル・ブライトが落ちたかもしれん。……あっと、グロリアスの地図を机の引き出しに入れていたが、まぁ良いだろう。なれた道だ、警報機まで迷うことはない」

 

淡々と感情なく、だがエステルに聞こえるように話している。

それにクスリと笑ってしまう。

 

「エステル、ヨシュアを……レンを救ってやってくれ」

 

「まって…り」

 

エステルの言葉を遮るようにリィンは続ける。

 

「レンは……レンは普通に生きるべきだ。もう、闇の中ではなく光で」

 

足音が遠くなる、ソレをエステルはずっと聞いていた。

 

「ありがとう……リィン」

 

どんな顔をしていたか、それは判らない。だが、きっと悲しそうにしていたのだろう。

 

「机の引き出しよね……確か」

 

エステル引き出しからグロリアスのマップを受け取る。

手書きだろう、簡単な場所と通路のみ描かれた物だ。

リィンが用意してくれたのだと容易に理解できる。

なぐり書きな事と警備が厳しい事を除けば、動くことはできた。

しかし、ある程度回避しながらな為甲板に出てしまう。

 

「まずったなぁ…甲板に出ちゃうなんて。それにしてもとんでもない高さね……脱出するにはパラシュートか、飛行艇、えと格納庫か倉庫よね」

 

「いたぞ!」

 

下に向かおうとした矢先に、結社の強化猟兵が現れる。前方から大剣を所持した2人、だがその程度ならエステルには敵ではない。

 

「こっちだ!」

 

「うそ…囲まれた?!」

 

後方からも大剣を所持した強化猟兵が現れる。

コレで人数は4人、エステルの実力でも厳しい数だ。

 

「こんな状況で脱出とは恐れ入る」

 

「大人しく捕まるべきだ、リィン様がキレたら死ぬぞ!」

 

「そのリィンが助けてくれたの」とは口が裂けても言えない。

ソレぐらいの良識はあるのだ。棒を構え臨戦態勢に入ると、さらに一人増えた。

 

「ははっ…無様だな。エステル・ブライト」

 

何処かで聞いたことのあるような、ないような声だ。

はっきり言えば覚えていない。武装はライフルを所持しており、サポート役なのかなと思う。

 

「フッ、その状態では僕のことが判らないようだな」

 

フルフェイスヘルメットを外し、その顔をエステルに見せる。

 

「へ?」

 

「フッ…こんな所で僕に会えるとは思わなかったようだね」

 

そう言われても、エステルは記憶がない。なんとなく見覚えのあるような気もするが、正直小物なら何度もあっているから記憶が薄い。

 

「えと……どちらさま?」

 

「ダルモア市長の元秘書、ギルバートだ!」

 

「?」

 

「まさか、本気で忘れ……」

 

エステルは記憶の隅から目の前の男を思い出す努力をする。

 

「あ………あ?えっ?!王国軍に引き渡されたはすじゃ」

 

「クーデターのさい、隙をついて脱走したのさ!その時、結社に僕の才能を見出されこうして強化猟兵へと」

 

「……戦えるの!」

 

「うるさい!僕はもともと文武両道で」

 

「でも、灯台で特務兵とかに撃たれて怯えてたじゃない。戦いとかに向いてないと思うわよ」

 

バッサリと切って捨てるエステルにギルバートは一言しか言えなくなる。

 

「うっ…うるさい!」

 

周りの強化猟兵達も信用ならないのか顔を合わせている。

 

「結社に加わってから!僕はあらゆる強化プログラムを受け、戦闘技能は一級品だ!身体能力も格段に上昇した!もういい!その体で覚えろ!」

 

「……はぁ、嘘だろ」

 

「何でだよ……こんな奴と」

 

「やるしかないんだよなぁ」

 

「仕方ない…付き合うか」

 

5人の強化猟兵は実力者とは言えないが、強化とつくだけに名ばかりの存在では無かった。エステル一人でも攻めきれず、エステルが打撃を行えば仲間を庇うように別の猟兵がカバーに入り、ギルバートが射撃を行う。しかし、正直ギルバートの射撃は甘く脅威ではない。むしろ、周りの強化猟兵の方が脅威だ。

即席での連携、結社の一員として訓練された実力は偽りではないのだろう。だが、それでもエステルは喰らいついていく。

 

「くっ……強い」

 

「舐めるな、僕達は強くある為に鍛え、肉体強化されたんだ。いくら君が強いと言ってもね」

 

エステルの棒術は一流とは言えないが、それでも猟兵ぐらいは倒せる。しかし、今の強化猟兵は数も多く約一名を除き先鋭と呼べる実力者であった。

 

「はぁ……はぁ……」

 

「息が上がってきたか。このまま拘束するぞ」

 

「くっ……」

 

「手こずっているようだな」

 

「新手?!」

 

エステルの背後からさらに強化猟兵が現れる。

既に息が上がり、危険な状態だ。増援に抵抗する体力は残っていない。

 

「大丈夫さ、君はそこで見ていたまえ!この脱走者が捕まる瞬間を!」

 

そう、ギルバートが高らかに叫んだ。しかし、

 

「君に言ったんじゃないよ」

 

新たに現れた強化猟兵は双剣で一瞬のうちに4人を倒し、ギルバートを殴り飛ばした。

 

「へ?』

 

「まったく、リィンの言う通りだなんて。グロリアスで、一体何をするつもりだったんだ」

 

ヘルメットを外し、振り向く姿はエステルが探し続けていた存在だった。

 

数分前、リィンは一人で機関部にいた。

見覚えのある振る舞いをする強化猟兵を目撃し、その正体を即座に見抜いたのだ。ヨシュアはそもそもどうあがいてもリィンには勝てない。リィンは既に結社でも3本の指に入る程の実力者であり、ヨシュアはその身で良く知っている。

 

「エステル・ブライトには借りがある。ソレをお前に返すのも良いか」

 

リィンはそう述べるとエステルが脱出したこと、何故か甲板の方に向かっていた事を伝えた。

 

「なんで」

 

「……俺はどうやら方向音痴らしい。お前がこのまま行っても簡単に見失うな。おっと、脱走者はどこだ?」

 

「なにを!」

 

「とっとと行け、剣帝に捕まれば逃げられないぞ」

 

リィンの行動は裏切りにも等しいが、相手が白面であるからだ。

もしコレが母や別の使徒であれば、きちんと従うだろう。

『破戒』は少し思うところがあるが、毎回毎回ねっとりとした実験体に向ける視線を向けてこないのだから、従うに値する。

 

「……なに?」

 

そして、本当に偶然だった。

 

「切り捨てておくべきだったか」

 

リィンの足元が爆発し、それに巻き込まれるエンジンの破片が刺さるが、仕方ない。

 

「……くそ、爆発物の解除の訓練は受けたが」

 

そんなこんなしていると何故か剣帝が現れる。

 

「手こずっているのか?」

 

「サボタージュは俺の任務ではない!貴様の弟は一体幾つ仕掛けた!」

 

「先程の爆発から生体センサーの類もあるか?」

 

「知らん、エンジン一つ一つに違う爆弾だ。やってくれる」

 

「……解除は」

 

「お前となら何分かはわからん。タイマーは見ていないが存在すると仮定したほうが良いだろう。しかし、カンパネルラが手伝ってくれれば5分もかからんのに」

 

そう言いながらもリィンは爆弾の解除を行っていく。

空間端末を使用し、一つ一つの爆弾を調べ解除する。

地道ながら、必要な作業であり鍛えてくれた『道化師カンパネルラ』には感謝しかない。

 

「……終ったか」

 

「あぁ」

 

「やぁ、リィン。レーヴェもお疲れ」

 

「カンパネルラ、今まで何処に?」

 

「色々とね、そうだ。いくら嫌いだからと言ってもエステル逃がすのはいただけないな」

 

カンパネルラは笑いながらも凍った目をリィンに向けている。

 

「しかし、コレでヨシュアの位置は固定されました。話してみて理解できました。アレは太陽だ、ヨシュアはそれに羽根を焼かれたイカルス。しかし、太陽自身が手を伸ばす。イカルスは太陽の守護者となる、今までの鴉ではなく」

 

「へぇ……君なりに考えていたと」

 

「エステル・ブライトへの借りは返し終わりました。ここからは、『魔王』として、盟主様への忠誠。果たさせてもらいます」

 

「うんうん…盟主様が君を使徒候補にするのも判るね。そうだ、今回の一件、僕も誰も起こってないよ。執行者の自由さ」

 

「感謝します、カンパネルラ」

 

「君、僕と話す時リアンヌみたいだよ」

 

「お褒めに預かり至極光栄」

 

その後簡単な会話を済ませ、リィンは次元斬による転移で消えた。まだ、次の作戦まで時間がある。仮拠点に戻ると、リィンはベッドで横になった。夢で見るのは家族との生活のみ、大好きな母、厳しい姉、甘えさせてくれる姉、何処か抜けている姉、救いたい妹、皆の笑顔をリィンは守りたい。

 

「リィン、リィンったら!」

 

「レンか……寝るか?」

 

「もう、次のフェイズなの!行くわよ」

 

「……四輪の塔だったか」

 

「えぇ、その一つ琥珀の塔。行くわよ、リィン」

 

「わかった」

 

眠気を正し、次元斬にて琥珀の塔へと向かう。

 

「貴様ら…結社の」

 

「うふふ…お兄さん達、覚悟しなさい。今の『魔王』は恐ろしいわよ」

 

「Die」

 

リィンは縮地から一瞬にして閻魔刀を抜いた。ソレと同時に王国軍兵の左腕が宙を舞う。正に一瞬、瞬きよりも速くリィンは閻魔刀を抜き、斬ったのだ。

 

「撃て!撃てぇぇぇ!!!」

 

激しい銃撃、戦車の砲撃に晒されるがリィンはその中を掻い潜り王国軍に迫る。戦車は一刀両断され、兵士達は身体の一部を失っていく。まだ、死人は出ていないがもうすぐ出血多量で死ぬ者も居るだろう。

 

「どうした、救助を攻撃する気はない。速く救え」

 

「巫山戯るな、仲間の仇だ!」

 

「愚か者め。良いだろう。貴様らを楽にしてやる」

 

空間から斬撃が現れ兵士達を襲う。

逃れる事は叶わず、身体が切り刻まれていく。

リィンは数を数え続けている。

1、2、3

兵士達は殺されないと思っていたのか、リィンの警告に従っていれば生きていられたのに。

4、5、6、7

リィンは一度まるでチャージするかのように閻魔刀を構える。

そして、一瞬にして次元斬を放った。まるで、時が止まったかのように見えたが、閻魔刀を納刀すると空間が斬られたかのように、兵士達の骸が転がっていた。

 

「…リィン、さすがね」

 

「見ているのだろう…遊撃士共に伝えろ。魔王は此処にあり、とな」

 

リィンは先に腕などを斬り落としていた兵士達に処置を施し、琥珀の塔の中へと入った

 

 

 

 

 

アルセイユにてエステル達は報告を聞いていた。

 

「襲撃者は刀を持った男性、既に王国軍一個小隊が壊滅している」

 

王国軍兵士の骸が積み重なる凄惨な映像がアルセイユに流れる。

ティータが見ないよう艦橋から一度だしたが、残っている兵士や面々も吐き気を覚えてしまう。

 

「……酷い」

 

「今回は、魔王も本気っちゅう訳か」

 

ケビンは映された映像をみて静かに睨む、しかし、壊滅と言いつつ生き残りがいることに不信感もある。

 

「血の海はこのさいええ、何であんな負傷者が多いんや?」

 

「負傷者……いや、そうだな。報告が上がっていた、魔王は救助活動を邪魔する気は無かったようだ。しかし、他の分隊は救助活動よりも魔王の討伐を優先し」

 

「……判らんな、魔王の逆鱗が」

 

先に攻撃した者達は腕や脚を失いながらも生きている。

しかし、魔王への攻撃を優先した者は皆、身体はバラバラになり誰の指かも判別できない程に斬り刻まれた。

 

「昔、話した事がある。魔王は意味のない殺しは極力したくないと。それに、自分なりの正義があると。仲間を見捨てる事はしない、無意味に傷付けるのも許せない。自分の力は、家族の為、盟主様の為に振るわれるだって」

 

「武人……いや、独自の感性」

 

「……ねぇ、ヨシュア。リィンと話した時、言われたの。ヨシュアを、レンを救ってくれって」

 

「……君なら出来るさ、きっとね」

 

 

 

琥珀の塔最上階、その男は椅子に座って待っていた。

出会った時のような威圧ではない、目の前にいるのはまるで頂点捕食者、人間ではない怪物。閻魔刀を抱えながら、大胆不敵に眠っている。

 

「あら、悪い子のエステルじゃない。酷いわよ、レンがいない間に方舟から逃げちゃうなんて……それに、その赤髪の遊撃士。貴方がアガットね、リィンから聞いたわよ。顔は怖いけど優秀な遊撃士、何か有れば頼れる人だって」

 

「へ…ソイツは良いな。まぁ、本人はそこにいるだろ?」

 

「うーん、ごめんなさいね。リィンはね、今寝ちゃってるの。でも安心して多分直ぐに起きるわ」

 

リィンの魔王の実力をその身で受けた方からしたら好機だが、足が動かない。

 

「レ…レンちゃん」

 

「ティータも遊びに来てくれたの?ごめんなさい!リィンが起きてたらお菓子やジュースめ出せたのだけれど。そして……やっと姿を見せてくれたわね」

 

エステル、アガット、ティータと視線を移したレン。最後に見るのは勿論、彼だ。

 

「会いたかったわ、ヨシュア」

 

「…こんな所で君と再開すると思わなかったよ。大きくなったね、レン」

 

「えぇ、もう11歳だもの。それに、新しいお母さんと、お姉ちゃん達、そしてお兄ちゃんがきちんと食べさせてくれるもの。ね?リィン」

 

そう、レンが呟くと今まで眠っていた存在がゆっくりと動き出す。その目は全てを射殺さんとする程に鋭く、その立ち振舞は王の様に尊大である。

 

「家族の為だ、そして……敵を殺す刃でもある」

 

「え…でも、エステル達は」

 

「レン、この場にいる時点で敵なのだよ。悪いがお前の気に入っているヨシュアは裏切者だ。方舟ではエステルへの借りがあったかれ見逃した。しかし、今の俺は魔王として此処にいる」

 

「待って……ヨシュアも、エステル、ティータは」

 

「……レン、敵をどうするか。判るだろうに」

 

ソレは普段のリィンではない、レンには決して見せなかった仕事の姿。レンを愛し、兄として、家族として過ごしてくれた姿ではない。

 

「……レン、戦えないなら後ろに下がりなさい」

 

「でも」

 

「…殲滅天使。お前の役割はあくまでも俺の補佐だ」

 

「っ……はい、『魔王』」

 

レンが消えたのを確認し、静かに立ち上がる。

魔力による結界が琥珀の塔に成され、悪夢が起き上がる。

 

「……あの、レンちゃんは」

 

「ティータ君。その言葉は必要なのか?」

 

「まって…レンは……レンは貴方の大切な妹何でしょう!なんでそんな冷たい」

 

「エステル!」

 

エステルの正面でヨシュアとリィンが鍔迫り合いをしていた。いや、手を抜いているのが一目でわかる。

 

「……生き残ってみせろ。戦いの中で、言葉を入れてやる」

 

エステル達は全力以上を出した。手加減されている、ティータを狙っていないのは温情なのだろうか。閻魔刀を鞘に入れた状態でただ、打撃での攻撃を主体でしている。

 

「ティータ君、君には感謝している。レンのはじめての友人になってくれたことを」

 

「よそ見かよ!」

 

アガットの重剣が振り下ろされるが、ソレまでに閻魔刀で打たれ蹴りを入れられ地面に打ち付けられる。

 

「……俺はあの子を闇から救えるつもりでいた。俺のように、新しい家族、新しい愛が有れば、生きていけると」

 

「なら、どうして」

 

「エステル!行くよ!」「ヨシュア!」

 

「俺には出来なかった」

 

エステルとヨシュアの攻撃を同時に弾き、カウンターを行う。

刀を振る速度、腕力、そもそもの速度など、ありとあらゆる物が人間を超えている。

 

「……レンは常に泣いている。夜、助けてと。俺が大丈夫だと伝えても、その涙は止まらない。ソレなのに、毎朝笑顔で居てくれる」

 

それは魔王の愛故の慟哭。

 

「……お前、ならなんでさっき」

 

「大切だから突き放すのだ、大切だからこそ別れなければならないのだ」

 

「そんなの……君の持論じゃないか!」

 

「よく言う、ヨシュア。貴様も同じだろう」

 

アガット、ヨシュアの連撃を容易くいなす。

 

「だから……私なの」

 

「そうだ、エステル。お前なら、お前ならヨシュアと同じ様にレンを救えるだろう」

 

「……そんなの…そんなの…レンちゃんが」

 

「ティータ君、間違っていても、止められないのさ」

 

「!」

 

「……ここからだ、生き残ってみせろ」

 

リィンはそれでも閻魔刀は抜かなかった。そのかわりにリベリオンを構え、攻撃する。

 

「なんで剣がブーメランになるんだよ!」

 

「しらん、出来たからしているだけだ」

 

エステル達の身体は段々と赤く染みていく。

それに対して、リィンは一切傷がない。攻撃はまともに当たらず、カウンターされるばかり、だが時間は着実に過ぎていく。

 

「塔が……解放された」

 

「よく生き残ったな」

 

「よく言うぜ……手加減してるくせに」

 

「手加減はしていたが、死んでも良いと考えていたぞ。そう卑下するな。生き残ったのはお前たちの実力だ」

 

「まってください!レンちゃんは」

 

「今回、この会話を聞かせない為にレンを離した。だが、次はレンがお前達と対峙する事になるだろう。その時は…頼んだぞ」

 

その後、リィンは次元斬によって転移し消えた。

無論、場所は仮拠点である。

 

「……リィン」

 

「悪かったな、しかし面白い。奴等は生きている」

 

「…そうなの」

 

レンは命の尊さ、大切さを新しい家族に教えられている。

それでも、任務とあれば人を殺してきた。極力、リィンが行っているが、レンが殺した数は決して少なくはない。

 

「ねぇ、リィンは今日…沢山、殺したけど」

 

「レン、俺のようにはなるな。無意味な殺しに価値はない。今日の事も本来なら必要なかったものだ」

 

「なら、どうして」

 

「言えないさ、でもコレだけは言えるんだ。俺のようにはなってはいけない。レンは、レンのままでいなさい」

 

「どういうこと?」

 

「優しさを忘れず、物でも人でもいい。大切な存在の為に自分の命すら投げ出せる勇気を持つ人になってくれ。勿論、自分の命も大切だから、捨てたりするなよ」

 

「うん……リィン」

 

先刻の冷徹な目ではない、レンの知る優しい目で頭を撫でられる。レンは、この日常は変わることがない。そう、思い続けているのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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