リィン・サンドロットの軌跡   作:影後

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リィン・サンドロットの軌跡4

リベール王都グランセル。王国軍兵士を下し、結社の作戦として数多の人形兵器と共に襲撃作戦を行っていた。レンとは作戦として別行動をとっていたが、そこで何故か、リィンとヴァルターは戦闘をしていた。

 

「貴様、ヴァルター!血迷ったか!」

 

「はん、珍しくお前が近くにいたんでな。コレも執行者の自由だろうよ」

 

「コレだから戦闘狂は嫌いなんだ」

 

リベリオンとヴァルターの拳がぶつかり地面が陥没する。

 

「どうした、その程度なのか」

 

「ふん…貴様程度、コレで十分だ」

(…無垢なる民を傷付けるつもりは)

 

リィンは向かってくる敵だろうと極力殺したくはない。

無意味な殺戮など、彼の願うものではない。

だからこそ、リベリオンを使うのだ。

 

「てめぇのその生温い覚悟、やってみせろや」

 

「ほぉ……良いだろう、なら、貴様と同じ立場で戦ってやろう」

 

リィンはリベリオンを納刀すると拳を構える。

 

「舐めてんのか?」

 

「ほぉ、お前は俺の実力すら見抜けんか」

 

「がぁ?!」

 

それは一瞬の出来事だった、数アージュは離れている筈だったリィンが瞬きが終わる間もなくヴァルターの懐に入り上段蹴りを食らわせたのだ。

 

「どうした、コレでもか?」

 

「くは…言い、蹴りじゃねぇか。剣だけじゃねえんだな」

 

「俺は万能なんだ」

 

ヴァルターの右拳とリィンの右拳がぶつかり合い、衝撃波を生み出す。本来、仲間同士であるにも関わらず強者との戦いを望むヴァルターに目をつけられたのが運の尽きだ。

 

「ハッ、滾ってるな!お前も!」

 

「Shut Up!」

 

リィンは回し蹴りをヴァルターの右頬に打ち込むが、ソレを受け止められ逆に壁へと投げられる。壁にぶつかる寸前に受け身を取り、壁に付きながらヴァルターを睨む。

 

「You're down!」

 

「何だと!」

 

それはあり得ない速度で繰り出される連続蹴り。

回避を選択する間もなく、受けに入る。

 

「ちぃ……俺の腕が」

 

「遊びは終わりだ、仕事に」

 

「ヴァルター!?それに、リィンまで」

 

「けっ…良いところだったのに」

 

「貴様は……どこまでも」

 

リィンは再び拳を構える、するとエステル達遊撃士が到着した。

作戦では既に王城へと突入している時間だ、ヴァルターの気紛れでここまで面倒な状況に陥った。

 

「……もういい」

 

「あん?」

 

その一言と共にヴァルターは殴り飛ばされ王城へと飛んでいく。

色々と怒りが募っていたリィンは忌々しそうに地面に一撃を入れた。それはまるで地震の様に重く、立っているのが困難な程である。

 

「ジン・ヴァセック……ヴァルターとは強者を見つければ仲間問わず喧嘩を売る馬鹿なのか」

 

「……あ〜そんな事は無かったと思うが」

 

「なら、俺は何だ?彼奴は作戦の意味も知らんのか?あの狼はあろう事か二人きりになった瞬間に狙ってきた。俺は…俺はもう疲れたぞ」

 

リィンはすでに色々と爆発戦前であり、エステル達は敵組織の一員とはいえ何処か同情してしまいそうになる。

 

「……何故、何故こう戦闘狂と言う奴等は!」

 

「あー……ねぇ、リィン。そこ通ってもいい?」

 

「エステル、別に良いぞ。この作戦、知ったことか。お前達が来たら止めろと言われたが知らん。ルシオラやレンと組ませる等の選択肢はあったろうに、白面、ブルブラン………」

 

「あっ…そうだ、あの、ありがとう。グロリアスで助けてくれて」

 

「助けていない、迷子になりやすいらしく偶然しまっていた地図を見つけられただけだ。……感謝は受け取る。約束は忘れるなよ」

 

「えぇ、リィン」

 

それはエステルとリィンの約束、それが果たされれば大きな借りがリィンにできる。その借りを少しでも返すために止めないのだ。

 

「……さて、少し休むか」

 

リィンとしても無手での戦闘は慣れていない。

なれない事は疲労が溜まる物だ、少し目を瞑るつもりでその端に腰掛けた。

 

「……なんだ」

 

それはマリオネットの様な存在だった。

禍々しく、自分と何処か同じ匂いのする存在。

 

「悪魔か貴様等が出てきたのなら、俺の仕事は決まった」

 

腰掛けていた場所から立ち上がり鋭い視線を悪魔に向ける。

そして、そこら中から聞こえてくる笑い声。人の悲鳴、殺戮音。

 

「この『魔王』に平伏せ。低級め」

 

リィンは閻魔刀を抜き、悪魔達を一瞬にして斬り裂いた。悪魔達はセピスを落とし、消えていく。だが、終わりではない。

 

「Come on, let's dance」

 

それは魔王による慈愛の微笑み、使われるだけの無様な悪魔に対する無価値な微笑み。

 

「DevilTrigger」

 

悪魔達の動きが止まった、目の前の存在を受け入れられないからだ。人間ではない、自分と同じ悪魔。しかし、上級の上澄みに等しい気配を感じている。

 

「Down you go!

ー頭が高いぞ!」

 

閻魔刀を抜き、現れ続ける悪魔をリィンは斬り続けた。

だが、まだまだ戦いは終わらないようだ。王城から声がした。

 

「人間如き…この私に敵わんと知るが良い」

 

人間の声ではない、より重く、より鋭く、より禍々しい声。

リィンは閻魔刀を腰に携え、背中にはリベリオンを。

そして、母からもらった青いコートに着換え髪を整える。

 

「……デビルハンターか、肩書が増えたな」

 

リィンはそのまま王城へと駆け出す、右手にリベリオンを。

左手には閻魔刀を構えながら、悪魔達を切り裂きながら進んで行く。

 

「遠距離武器があっても良いか」

 

普段、接近戦しかしない自分には遠距離武器は必要不可欠だ。

 

「くそ……」

 

「ヨシュア!」

 

「死ね、人間!!」

 

視線の先では10アージュはあろうかと言える3首の魔犬がヨシュアを捕食しようとしていた。

別の執行者達の姿は見えない。やはり、悪魔は専門外と言うべきか、それとも丁度よく押し付けたか。

ヴァルターなら意気揚々と戦いそうだが、あの時吹き飛ばしたのだ。傷ついていてもおかしくない。

 

「なっ?!」

 

誰も間に合って居ない、ヨシュアは死ぬ寸面だ。しかし、この場には魔王が居た。

 

「…貴様は」

 

「殺す前に貴様の名前を聞こうか……いや、要らないな」

 

「ほぉ、裏切者の血族か。既に死に絶えたと思っていたが」

 

「…つまり俺の悪魔の力のルーツは実の両親の何方かにあるという事か。まぁ良い、しかしお前達はケルベロスだろう。魔界の誇り高き一族が、まさか、老婆、無邪気な小娘、熊達を殺す為だけに来たと?」

 

「ほぉ、言うか裏切りの血族よ」

 

ケルベロスは一瞬にして周囲を氷河へと変えた。遊撃士は無事だが近衛など一部の兵士にも被害が出ている。しかし、ケルベロスの正面に居たというのにリィンには一切の被害がなかった。

 

「This barely even counts as a warm-up.

ーこの程度では、肩慣らしにもならんな」

 

 

一歩一歩歩く事に氷河は砕け、幻想的にリィンを輝かせる。

 

「Shall we dance?

ーさぁ、踊ろうか」

 

「ほざけ」

 

リィンはリベリオンをブーメランの様に投擲し、閻魔刀を構えてケルベロスの正面から迫った。巨大な爪が振り下ろされるが閻魔刀で受け止める。

 

「リィン!」

 

「なにが」

 

エステルの叫び声と共にケルベロスの背中が斬られどす黒く濁ったちがあたりに飛び散る。

 

「吹き飛べ!」

 

ジンの一撃で更に体勢が崩れたケルベロスは大きくのけぞり、リィンから離れる。

 

「貴様ら、悪魔と魔王の戦いに手を出すな」

 

「そうはいかん、遊撃士の仕事は市民の護衛や魔獣の討伐、悪人の逮捕だ。魔王、お前を逮捕しなくては行けないからな」

 

「レンちゃんのお兄さんを助けないなんておかしいです!」

 

「僕を助けてくれた借りは」

 

「そうよ、約束のために」

 

「……随分と俺を舐めているな」

 

その言葉は鋭く冷たい、再び振り下ろされたケルベロスの脚は一瞬にして斬り裂かれ、爪部がゴトリとリィンの隣に落ちる。

 

「ぁぁあああ!!!!」

 

「お前たちは市街へいけ、この状況。兵達だけでは無理だろう。聞こえないのか、終わりない戦いが」

 

「……魔王よ、君は本当に無差別な殺戮は」

 

「敵となるなら戦おう、だが俺の優先度は悪魔。その次に復讐、そして敵対者だ。俺の邪魔をする前に要救助者を連れて失せろ」

 

迫りくる氷河を地面ごと閻魔刀で斬り裂き、リィンは疾走する。

 

「行け!リベリオン!」

 

リベリオンをダガーの様に投擲し、ケルベロスの目を狙うが容易く弾かれる。無論、コレも捨て石である。

リィンの本懐は閻魔刀による斬殺、ケルベロスの肉体をそぎおとし、確実に息の根を止めるのだ。

 

「なに」

 

王城を足場に空へと消えようとするケルベロス、リィンも同じように壁を走りながら追いかける。

氷塊が飛んでくるが、そのたびにリベリオンを投擲し対応する。

王城の外観も破壊されていく、さすがにリィンも看過できない。

 

「逃げるな、犬め!」

 

そう叫んだ瞬間、ケルベロスは急反転しリィンの肉体を喰らわんと迫ってくる。さらに氷で強靭な鎧を作り、リベリオンを弾いた。

 

「想定外だな…だが」

 

リィンは左手に閻魔刀を、右手にリベリオンを構え連続して斬り続ける。回避をしながら、何度も、何度も、何度も、何度も、氷の鎧を砕くために斬り続ける。

 

「人間がぁぁぁぁ」

 

強靭な鎧からケルベロスの肉体が現れる。しかし、連撃は今だ終わらない。ケルベロスの脚、腹、背中、目と重要部位をリィンは切り刻む。そして、リベリオンをケルベロスの脳天に突き刺すと閻魔刀を抜いた。

 

「Now you meet your end.

ー死ぬがいい」

 

リィンは自身の最大の技、次元斬・絶によりケルベロスは息絶えた。

 

「……コレは」

 

それは3つの根がついたヌンチャク、何処かケルベロスを模した装飾が施され、あり得ない程の氷の力を感じることが出来た。

 

ー使え、この力を

 

リィンは舞をするかのようにケルベロスを振るった。氷の結晶がケルベロスを振るう度に散布され、幻想的な空間を作り出す。

 

「ケルベロス、使わせてもらうぞ」

 

当たりを見渡せば甚大な被害を受けていた。王城の一部は氷漬けになり、血が散乱している。都市は燃え、瓦礫が散乱し、見たくない記憶がフラッシュバックする。

 

「……俺は、あの時とは違う」

 

「…リィン、大丈夫?」

 

「レンか、ヴァルターと俺を同じ空間に置かないように白面に言え。今回の行動、悪魔以外はヴァルターが原因だ」

 

「その事だがね、君に対する罰はないよ」

 

「なに?」

 

転移をしながら白面が現れ、リィンに対する沙汰を決めた。

 

「ヴァルターが攻撃したのは知っている。それに、君の特異性も確認できた。さらに、魔具を所持するとは」

 

「魔具とはなんだ」

 

「今、君の持っている武器、そのヌンチャクと東洋で呼ばれる武器だ。上級悪魔がその実力を認めた者に、自身が武器となる事で力を貸している物。いやはや、ケルベロスを容易く仕留めただけではない。魔具にするその実力、やはり素晴らしい」

 

「それで、他にはないのか」

 

「君の血だよ、サンプルとして欲しいのさ」

 

リィンは迷うことなく自分の腕にリベリオンを突き刺す。

ドバドバと鮮血が垂れ、ソレを白面はビーカーの様な物で回収する。

 

「ふむ、その様な方法でなくとも注射器で」

 

「手っ取り早い」

 

リィンの傷口は瞬く間に回復し、傷跡すら残っていない。

不死に等しい回復能力だ、白面は嗤う。コレほど待てに素晴らしいサンプルは居ないのだから。

 

「いやはや、君がモルモットならどれ程良かったか」

 

「気色の悪い事を話すな、血が必要なら言え」

 

「そうさせて貰うよ、我等の『魔王』」

 

白面が消えると残るのはレンとリィンのみ、リィンの方は話したくもない相手との会話に表情と気配が悪くなり、レンは

「子供ねぇ」と呟いた。

 

「……レン、帰るぞ」

 

「そうね、エステル達は忙しそうだし」

 

「……この後もまた仕事だ。レン、パテル=マテルの用意を忘れるな」

 

「リィンは?」

 

「忘れたか、俺は飛べるだぞ」

 

 

 

エステル達は帝国との交渉を終え、アルセイユにてリベールの空を飛んでいる。目的地は『輝く輪』、そしてアルセイユを撃退せんとし、『朱の方舟グロリアス』と結社の戦闘艇が襲いかかる。

 

「最高速度なら結社の戦闘艇はアルセイユに及びません!突破してください!」

 

「全速力で、『輝く輪』へと向かう!総員、衝撃に備えろ!」

 

艦長たるユリアが叫ぶ、グロリアスの砲撃や戦闘艇の機銃をもろともせずアルセイユは加速する。

 

「レーダーに反応、コレは……コレは飛空艇ではありません!」

 

「なんだ!」

 

「サイズは人間だいで……もう、落ち着いて」

 

それは魔王の姿。閻魔刀をアルセイユの艦橋に向けて振り下ろそうとした、その時。

 

「裏切者がぁぁぁ!」

 

アルセイユよりも遥かに大きい鷹がリィンを吹き飛ばす。

 

「なんだあれ!レーダーにはなんの反応も」

 

「構うな!魔王の敵ならば利用しろ、我々は輝く輪へ!」

 

リィンは逃げていくアルセイユに怒りを覚える。しかし、それ以上に任務の邪魔をした悪魔が許せない。

 

「このまま貴様は」

 

「……尽く悪魔という奴等は俺の邪魔をする」

 

リィンはリベリオンでも、閻魔刀でもない。ケルベロスを構える。そして、巨大な鷹に向かって振り降ろした。

 

「Go to hell!」

 

リベール王国の大地に落ちていく、だが、悪魔はまだ死んでは居ない。

 

「貴様!このグリフォンを」

 

「喚くな、絵熊ならその実力を示せ」

 

グリフォンが顔を上げた瞬間、ケルベロスによる強打が左頬を襲う。左頬、右頬、下顎、頭蓋、連続される打撃に意識が飛びそうになるが、グリフォンは羽撃き雷撃の雨を降らせる。

しかし、その雷撃も氷の結晶に阻まれリィンに命中する事はない。リィンは怒っている。

 

「理不尽を嘆き、苦しみを受け入れよ」

 

連撃は止まらない、グリフォンが再び起き上がる事はない。

いたぶり、苦しめ、泣き叫ぶ姿をリィンはその目に焼きつける。

 

「悪魔も泣かせてみせよう」

 

「舐める」

 

「喚くな、低級」

 

リィンはその拳をグリフォンの目玉に突き刺す。

グチュグチュと中身を掻き乱し、悲鳴と雷撃が降り注ぐ。

だが、リィンの怒りは収まらない。

 

「ふん」

 

中身が共に溢れ出し、リィンの身体を赤く染め上げる。

そして、ケルベロスへと魔力を込めグリフォンの頭蓋に振り降ろした。頭から瞬間的に凍り付き、氷像となっていく。しかし、それでもリィンは許さない。

 

「Break」

 

ケルベロスを胴体にぶつければグリフォンは粉微塵となって消えた。

 

「ふん……翼か」

 

それはグリフォンの翼、金属で作られできるように見えるグリフォンの魔具であった。違いがあるとすればこの魔具にはグリフォンの魂はない。

 

「飛べるか」

 

悪魔の羽ではない、機械仕掛け翼。しかし、その状態でも自分の力を扱えた。

 

「DevilTrigger」

 

普段よりも数倍速く空が飛べる。それどころか、魔力の塊が翼より自分の意志で自由に発射できる。

 

「ふふっ……此奴は、良い代物だ」

 

だが、やはり自分自身の武器も欲しい。

其の手の事に詳しい知り合いは居る、普段より頼まれ事の方が多いのだ。稀には返してもらっても罰は当たらないだろう。

 

「…今は奴等だ」

 

リィンは速度をさらに上げ、『輝く輪』へと再突入を図った。

『輝く輪』内部には予想通り悪魔が存在していた。

コレは、リィンとしては考えている中で最悪であった物だ。

上級悪魔、ケルベロスとグリフォン、ソレだけではない。

王都を襲撃した低級悪魔、リィンの殺すべき相手は多すぎる。

だが、リィンは止まらない。任務の為にも、悪魔などに遅れを取る訳にはいかない。

 

「くそ…」

 

閻魔刀とリベリオンを二刀流しながら現れる悪魔を斬り裂き、前へ前へと進んでいく。

 

「スパーーーダァァァァァ!!!!」

 

「貴様は!」

 

ソレは自分よりも巨大な悪魔、左目がないソレは確かな憎しみと怒りをリィンへとぶつけてきた。

 

「くっ……」

 

「臭う!臭うぞ!スパーダの血族!!!!」

 

「どうやら裏切者の先祖の知り合いらしいな、だが…俺はスパーダではない!」

 

閻魔刀で斬り裂くが、その悪魔は一瞬のうちに距離をとる。

今までのケルベロスやグリフォンとは違う、この悪魔は先鋭だ。

 

「我が名はベオウルフ、魔帝ムンドゥス様につかえる」

 

「Shut Up!」

 

リィンはリベリオンをベオウルフへと投擲する。

リベリオンの刃はベオウルフの右脇に突き刺さり、肉をえぐっている。そのまま閻魔刀で胴体を一閃するつもりであったが、ベオウルフは迫ったリィンを拳一つで吹き飛ばす。

 

「がはっ…!」

 

背中をぶつけた壁が砕け散らばる。

もし、並の人間ならさっきの一撃で身体はグチャグチャになり壁に真赤なバラが広がっていた事だろう。

 

「ふん……スパーダの血族よ、今ここで裏切の対価を」

 

リベリオンを自ら抜き、逆に壁の前に倒れるリィンにベオウルフは突き刺した。

 

「Die!」

 

だが、身体を突き刺された程度でリィンは死なない。

閻魔刀を持ちながらリベリオンを無理矢理身体から出し、ベオウルフの右足を斬る。傷は回復し、突き刺されたリベリオンを左手に持つ。

 

「やってくれたな、ベオウルフ」

 

「やはり、その程度では死なんか。だが、ソレもここまでだ」

 

閻魔刀とベオウルフの右脚がぶつかり、周囲に衝撃波を伝える。

閻魔刀の刃が通らず、それどころかリィンが段々と押し返されていく。

 

「まだ、スパーダの力の一端しか目覚めていないか!だが、その程度なら」

 

力の一端、この悪魔ベオウルフはそう言ったのだ。

つまり、本来のスパーダと言う悪魔はもっと強かった。

自分よりも遥かに強かったのだろう、ならば変わらない。

 

「I need more Power!」

ーもっと力を

 

 

心の底からそれだけを願う、この悪魔はケルベロスやグリフォンよりも遥かに強い。ならば自分の奥底に眠る遥かな力を呼び出すしかない。

 

「もっとだ…もっと力を!!!!」

 

「そうか…スパーーーダ!!!!!」

 

リィンのデビルトリガーが変化する、より禍々しく。

より神々しい、まるで堕ちた天使の様に美しい悪魔がそこにいる。

 

「スパーーーダ!!!!」

 

「This is power of spada!!」

 

ソレはリィンの持てる最大の技次元斬・絶が連続して放たれる。

時間が止まったかの如く、静寂の中でリィンは閻魔刀を振るう。

 

「Jackpot.」 

 

閻魔刀の納刀と共にその時間が動き出す。

ベオウルフはリィンに襲いかかろうとするも動けない。

 

「スパー…ダ…」

 

肉体がバラバラになりながらもスパーダの名前を呼び続けた。

完全に霧散し、残ったのはベオウルフの両手と両足を模した篭手と具足だ。

 

「フッ!ハッ!セイァ!」

 

誰もいない中、正拳突き、上段蹴り、踵落としと慣れた手つきでベオウルフを扱う。

 

「誇り高き、悪魔ベオウルフ。その力、俺の為に役立って貰うぞ」

 

ベオウルフの意思は既に無い、魂すら次元斬によって斬られ消えた。だが、それでもその強さはリィンの心に深く斬り込まれ、刻まれた。グリフォンとベオウルフを同時に展開し、進む。遠距離攻撃から逃れた者はベオウルフの一撃によって砕かれ、砂となり消えていく。

 

「なんで……なんで……レンに家族は居ないの。もう、何処にも!もう……リィンしか……」

 

「そんな事ない!居ないなら、なってあげる!家族でも、友達でも、だから」

 

エステルは優しく涙ぐむレンを抱き締める、リィンとはまたちかう感覚に、何処か安らぎすら感じている。

 

「……そう……こう言うのも、嫌いじゃ無いわね」

 

「でしょう?私やヨシュアが家族になる。リィンに託されたから」

 

「リィンに?」

 

「俺ではレンを救えない、だからって…」

 

「なんで……なんで……!レンはリィンの家族なの!妹なの!なんで……なんで……リィンはソレを」

 

「否定するのか……か」

 

「……リィン」

 

そこに現れたのは普段とは違い、執行者として冷たく冷徹な瞳を向けるリィン。No.XVと数は下の方だが実力は執行者の中でも選りすぐりな存在だ。

 

「ソレは……こう言う事だ」

 

「よせ、リィン!」

 

リィンはレンへと閻魔刀を向けるとそのまま一閃した。

ドス黒い悪魔の血が当たりに飛び散り、レンやエステルの頬を濡らす。

 

「貴様は……スパーダの血族」

 

「やはり、魔界との門があるか。悪魔はレンを妹にしてから調べてきたが、流石にしつこい」

 

「黙れ、スパーダの血族!その娘の魂はいずれ、ムンドゥス様の」

 

「Shut Up!エステル、ヨシュア、レンを連れていけ」

 

「まさか……ずっと」

 

「悪魔が表に出てきた、恐らくは魔界に奴等の首領格がいる」

 

「どうするつもりや、リィン」

 

「……白面への義理は果たした。せめて、家族の平穏を守る事位はさせて欲しいものだな」

 

リィンとの距離が段々と遠くなっていく。悪魔達がひしめき合い、殺戮が広がる世界が皆の視界に写っていく。

 

「待って……リィン」

 

「そうか……アンタが伝説の魔剣士スパーダ何やな」  

 

「魔剣士スパーダの伝説とやらも調べたが、古すぎて判らん。どうやら俺はその血族らしい。ならその血の運命と言うべきだ」

 

リィンは歩いていく、悪魔を屠り血に塗れて前へ前へと進んでいく。

 

「まって……レンは……まだ…まだリィンを」

 

「Good Luck…レン」

 

「まって……お兄ちゃ」

 

「無理や……魔界に入ってら人間はもう、助からん」

 

「まって………まってよ!……リィン」

 

レンの叫びを聞きながらも、リィンは魔界を進んでいく。

悪魔を殺し、世界の平穏を取り戻す為に。

世界から悪魔を消し去るために。

 

「……随分とでかい図体をしている」

 

「ほぉ……スパーダではないが………」

 

「妹の為だ、魔帝ムンドゥス。此処で散れ」

 

その姿は神々しさすら感じさせる、だが漏れ出す気配には吐き気すら感じてくる。全ての悪の権現、リィンが対面しているのはそんな存在なのだ。

魔帝の攻撃を回避し、閻魔刀とリベリオンで斬りかかる。しかし、謎の結界に阻まれ近付くことは叶わなかった。

 

「DevilTrigger」

 

人間の力で突破できないのならば、悪魔の力を使うのみ。

リィンは再び閻魔刀とリベリオンでムンドゥスの結界の突破を試みた。

 

「無駄だ」

 

ムンドゥスからの攻撃に無防備にさらされ続ける、だが今この場を突破しない事にはムンドゥスを倒す手がない。

 

「もっと…もっと力を貸せ!スパーーーダ!!!!」

 

ソレは自身の身体を流れる裏切者の悪魔。そして、この力の源。

魔剣士スパーダの伝説など知らない、過去の話など今のリィンには必要ない。たった一つ、シンプルな答えは守りたい。

ただそれだけなのだ。

 

「なに…」

 

リィンの攻撃でムンドゥスの結界に少しずつ、ヒビが入っていく。そして、結晶が当たりに散りばめられるように霧散する。

 

「ムンドゥス!!!!」

 

「…愚かな」

 

だが、魔帝には届かなかった。リィンは魔帝の巨大な拳に掴まれると何かを流し込まれる。

 

「うあっ…俺が……俺が……消えてい……く」

 

だが、ソレを許容できる男ではない。

リィン・サンドロットは何よりも意地汚く、誰よりも前へと進む意志がある。そして、家族のもとに必ずや帰る。その為に、今此処にいる。

 

「ムンドゥス!!」

 

「何が」

 

リィンの肉体から凄まじい魔力を受けたムンドゥスは後ずさる。

その気配はかつて、自身の腹心にして裏切者であるスパーダと同じだ。

 

「You're finished! Here's the finale!」

 

ムンドゥスの右腕を閻魔刀が斬り裂き、その右腕をリベリオンが貫く。その場に残ることもなく、ムンドゥスの右腕は霧散する。

 

「ぐおぁぁぁぁ」

 

「ムンドゥス様!」

 

ムンドゥスの護衛のために悪魔達がリィンに迫る。

閻魔刀とリベリオンで倒していくが、数は増える一方だ。

 

「貴様……スパーダの血族!」

 

「いずれ…いずれ貴様を殺す。ムンドゥス!」

 

最後の力でリィンは次元斬を使い、魔界から脱出を図った。

ダメージは回復しておらず、疲労が激しい。

何処から落ちたのか背中も痛めていて、立ち上がるのも辛い。

 

「……」

 

「なぁ、アンタ。生きてるのか」

 

「小僧か……今すぐ離れろ」

 

「小僧じゃねぇ。ジンゴだ」

 

「…そうか、ならジンゴ。今すぐ」

 

「今すぐって、店番してる所に落ちてきやがって」

 

「そうか……悪いな、店は後で弁償しよう」

 

キャハッ…キャハハハ

ソレは3体の悪魔だ。

 

「なっ…なんだよコイツら!」

 

リィンは閻魔刀を杖がわりに立ち上がる。

 

「……ふっ……」

 

閻魔刀を刺したまま、リベリオンを構える。

しかし、その動きは直剣を使う動きではない。

悪魔の頭を掴み、リベリオンを直接突き刺し、リベリオンを投擲しそのままリベリオンに向かいキックを放つ。リベリオンは悪魔の肉体を貫通し、ジンゴの店の壁を破壊して戻って来る。

 

「うっ…家の店!!!」

 

「悪かったな、後で弁償は」

 

「弁償じゃねぇ!ママになんて言われるか!」

 

「とっくに居るぞ、ジンゴ」

 

「ママ!?」

 

ソレは表の人間の様に見せているが、気配は正に裏を知っているものだ。

 

「……へぇ、家の店を壊した奴の顔を拝みに来たんだけど中々良い面してるね」

 

「店の事は弁償しよう、代金は」

 

「修繕費、迷惑料込めて、軽く見積もっても1億ミラって所かな」

 

「わかった、すぐ」

 

「だが、そうだなぁ。用心棒をしてもらう」

 

「なに?」

 

「すぐに支払える財力があるなら、つまらんだろう」

 

リィンはそう言うものかと思いながら思考するが、続く言葉に唖然とする。

 

「半年以上前に死んだ筈の男が居るんだ。使わない手はない」

 

「半年?」

 

「あぁ、そうだよ。魔王、お前が消えてから半年だ。悪魔を殺す為に魔界に消えたとか、教会連中がほざいたが、まさか……マジだとは」

 

「生憎だな、相手の片腕奪っての帰還だ」

 

「ふむ……しかし、リィンと言う名はいかんしその姿もな」

 

リィンは少し悩みながら口を開く。

 

「なら、スパーダ。俺の名前はスパーダと名乗らせて貰う」

 

「ふん、良い名だ。ついでだ、お前武器は要るか?」

 

「遠距離武器、そうだな。ハンドガンが欲しい。それこそ、弾切れが絶対に無いような物だ」

 

そう言って女は笑う。

 

「コレも巡り合わせって奴か」

 

「なに?」

 

「良いかい、ジンゴ。お前にも言ってないママの裏ってのを教えてやる」

 

ジンゴの母親は2丁の拳銃をスパーダへと手渡す。

 

「コレは……」

 

「ルーチェとオンブラ、かの魔剣士スパーダが愛用した拳銃だ」

 

「…お前、武器職人〘ガンスミス〙か」

 

「正解だ、しかも……魔具関連のな。ソイツは先祖がスパーダに作り、別れた時に返された物だ。いずれ来る子孫に手渡すようにとな」

 

その言葉に変なきもちになりつつも、軽くルーチェとオンブラを持ってみる。魂から馴染むような武器に心が躍る。

 

「ソイツはどんなに手荒く使っても問題ない、弾薬はアンタの魔力をそのまま使う。魔力を込めれば込めるほど強い弾丸が出る仕組みさ」

 

「ガンスミス、お前の名前は?」

 

「アシュリーだ、よろしくな。スパーダ」

 

「……用心棒なら喜んでやらせてもらう」

 

リィン改め、スパーダはクロスベルの地にて新たな相棒に出会った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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