「……あの、どうしたんですか?」
特務支援課の長机。
皆が朝礼を行う為の場所となっている此処で、
スパーダは頭を抱えながら静かに震えていた。
「……母さん達への紹介は終わった」
「あぁ、そういやアンタと歩いてた美女が何人か居たよな?」
「金髪でロングの女性が母。
青のロング、赤のポニーテールは姉。
玉を作った髪型の俺より小さい女性も姉だ」
「お前、末っ子だったのか?!」
「まぁな、その……独り立ちしてから一切連絡を絶っていてな。話したか?」
「そんな話もされた気がしますけど、面白そうなので聞きたいです」
「ティオ、良い性格だな、まぁ、良いさ。
連絡してなかったのに、クロスベルで悪魔狩りしてるのを
知ったらしくてな、その……突撃して来た。
あと、結婚を前提にお付き合いして居る人も居ると話してから……」
「つまり、何処が好きなのか。根掘り葉掘り聞かれたと」
「エリィ、なんで……そんな目を輝かせる」
いつの間にか女性陣は目を輝かせスパーダの恋愛模様を聞いている。恋人は時に情報をもたらし、時にスパーダに振り回されている『グレイス・リン』だと誰目にも明らかだ。
「母さん達は帰ったが、その……結婚式には呼べと」
「そりゃそうだ、そん時は俺等も呼んでくれよ。スパーダ」
「当たり前だ、仲間だからな」
最初の関わりにくいと言う印象は既になく、メンバーの中では
ランディよりはおちゃらけては居ないが気楽に話せる大人と言う印象を受けていた。
「それにしても遅いな、課長。
そろそろ朝のミーティングを始めたいんだけど……」
「流石に課長抜きで始める訳にはいかないものね」
「ん~~、こんな事なら二度寝すれば良かったな。
んで、スパーダ連れてカジノ当たりに」
「すまん、彼処らへんのカジノ。勝ちすぎてな。
俺はプレイ禁止なんだ」
「んなことあるのかよ!」
「……何故かポーカーでも、ブラックジャックでもディーラーが泣きながら『ごめんなさい』とな。前にイカサマした奴の腕をへし折った事もあってか、客ではなく用心棒として来るならと……」
「イカサマ?」
「ティオ、子供が知ることじゃない」
そんな雑談に花が咲き始めた頃、声がした。
「……遅れたな」
「――課長、おはようございます」
「おはようございます。早速、ミーティングを始めますか?」
ロイドとエリィ、特務支援課の学級委員が流れをつくる。
「いや、その必要はない」
セルゲイから出たのは否定の言葉だった。
そこで、ランディとスパーダの顔付きが変わる。
ミーティング抜きでの仕事となれば、早急性のある可能性が高いからだ。
「先ほど、本部より連絡があった。
お前らには特別任務を引き受けてもらう」
「特別任務……?」
ロイドが驚きの声を上げると同時に、皆の顔が険しくなる。
「なんか胡散臭い響だな……」
「悪魔関係なら俺、ランディ、ロイドで行く。
流石に、レディと子供を血塗れにはできん」
「……思い出させないでください」
「もう…あんな思いは嫌です」
「……悪かったな」
悪魔の一件は皆にトラウマを植え付けていたようで、女性陣は顔を青くしロイド、ランディは苦笑いだ。
「生憎だが違う、悪魔に関してはお前さんとお仲間さんが頑張ってくれてるからな。今は特に行方不明者も居ない。まずは警察本部に行ってこい。お前等の客人が待っているはずだ」
スパーダは何処か嫌な顔をするが、ロイドの説得のもと
皆と共に特務支援課ビルから警察本部へ向けて歩く。
一言も喋ることはなく、警察署に入った瞬間に至っては不機嫌オーラを撒き散らし、警察官は即座に目を合わせないように逃げ、
挨拶するのは一部の友好的な警官だ。
そして3Fについた頃、見かねたランディが声を上げた。
「しかし、あの嫌味な副局長に呼び出されるとはね」
「うーん……客が待ってるって言ってたし、
ただ嫌味や小言を言うために呼び出したとは思えないけど。
それに……」
「…どのみち、嫌味は聞かされるとは思いますが。
まぁ、スパーダさんが居ますし」
「そうね…スパーダさんに面と向かって文句が言える人は少ないだろうし」
「……まぁ、いる時は守れるさ」
仲間達との会話で少しは機嫌を戻したスパーダが軽口を言う。
そして、副局長の部屋に着き代表としてロイドが扉を叩いた。
「――特務支援課、ロイド・バニングス以下5名。
参りました」
「フン……入りたまえ」
「失礼します」
「(あれ…あの制服は)」
「(警備隊…だったかしら)」
ロイドとエリィが小声で会話した後ろでランディの声が響く。
「げげっ……?!」
だが、叫んだのはランディだけではない。
「なんっ!」
ランディは警備隊の隊員を。副局長たるピエールはスパーダを見た瞬間小刻みに震え出す。
「Shut up pig!」
「スパーダさん……ピエール副局長が泣いてますよ」
「……ティオ、相手の上に立つなら相手の弱みを握れば良い。
もし、相手が自分の弱みを握ってるなら、より高い力で復讐して相手の弱みを奪い、尊厳を踏み躙り、嬲ればいい」
「……落ち着いてください」
スパーダの冗談を真に受けたピエールは泣き顔で懇願しているが知ったことではない。仲間には決して向けない無表情かつ氷の様な視線をピエールにじっと向ける。
「コホン……ランディ・オルランド。
何が「げげっ」なのかしら」
「いっいやぁ…………その、少し意表を突かれたと言うか」
「なんだ、知ってるのか?」
「ゴホン!君達、敬礼」
BANG
ピエールが口を出そうとした瞬間、スパーダがルーチェを抜いていた。
「でかいゴキブリが居てな。つい、撃ってしまった」
ピエールの真隣に弾痕と確かに死んでいるゴキブリ。
ロイドはあちゃぁ……といった顔をしつつ、ティオはニコニコしている。彼女も一々長い話はうんざりなのだ。
「貴方、前戦った時より恐ろしいわね」
「久し振りだな、ソーニャ2佐、いや副司令官殿。生憎だが、俺自身。警備隊と事を構えた事など一度もないぞ」
「……えぇ、確かに『一度もない』わね」
「含みがある言い方です」
「ティオちゃん、スパーダさんの事はスルーしましょう」
「(2佐、軍で言う中佐に相当するはずですが……)
(そんなに偉い人なんですか?)」
「(偉いも何も、スパーダも言ってたろ。副司令官殿って)
(警備隊のNo.2。まぁ、指揮官としてのカリスマはNo.1だが)」
ティオとランディの会話が聞こえていたのか、にこやかにソーニャは話し始める。
「ふふ……堅苦しくしないでちょうだい。
貴方達が特務支援課ね。スパーダさんが居るのは予想外だけど」
「あはは……。
本日は自分達特務支援課に何かお話があるとか……?」
「フンっ光栄に」BANG!「ひぃ……」
「悪いな、今度はでかい蜘蛛だ」
「………クロスベル警備隊の副司令。ソーニャ・ベルツよ。
まずは一通り話を聞いてくれないかしら?」
ピエールに起こった事をスルーし、会話を始めるソーニャ。
ランディは良い気味だと小声で笑い、ティオにどつかれている。
「魔獣の被害調査……?」
「その調査の手伝いを貴方達にお願いしたくてね」
この手の仕事は本来、遊撃士協会が行うべき事である。
『支える籠手』たる彼等の仕事は猫探しから魔獣討伐までと幅広く、スパーダの知る彼等も遊撃士協会所属だった。
つまり、警察組織よりも遊撃士協会の方が経験豊富なのである。
一応、クロスベルには『便利屋』と言う選択肢があるが……。
(魔獣調査ね……前回と同じ、ではないか)
スパーダとしても自分達に依頼が来ないことを考えると、通常の魔獣調査と言う訳ではないのだろう。
それにおそらくはコレもある程度、根回しされているはずだ。
「ちょっ、ちょっと待ってください!
クロスベル市内ではなく……。
市外での魔獣被害の調査ですか?」
ロイドの疑問も最もだ。
特務支援課に来ていた要請は基本的にクロスベル市内で終わる。
おそらく、これからの事を考えてクロスベル市外での仕事なのだろう。
「あら、不服かしら?」
「い、いえ……そんな事は」
ソーニャの鋭い眼光にロイドが怯む。
「その。警備隊の方でも既に調査はされているのですよね?
そのうえで、私達が手伝う余地があるのでしょうか?
それに、クロスベルには他に『便利屋』と言う選択肢もあります」
エリィがそう呟く。
ソーニャも理解していたのか、困った顔で話し始めた。
「うーん……ソレが大アリなのよ。
普通の魔獣被害という事にはどうも不可解なことが多過ぎてね。だから、別の視点を入れておきたいってところかしら」
「別の視点ですか?」
「そう、警備のプロとしてではなく捜査のプロとしての視点をね。それで言えば、『便利屋』の方は私達寄りで捜査のプロではないわ。それに、もう一つあるとすれば……報告書がオカルトになるのよ。流石に冗談じゃないわ。前に依頼した時、行動を共にした警備隊員から受けた報告書には
『高さ3m、全長15m程の蛇が一瞬でサイコロステーキになりました。もう、赤いのも、生々しいのも見たくないです』
といって、休暇とるほどで」
「まて……俺は助けたんだぞ!あの蛇に食われそうになってたから」
「………(ぽん)」
「何故だ」
呆れ顔を向けられ、ランディからは肩に手を乗せられる。
「……まぁ、その……捜査のプロという視点なら貴方たち支援課でなくとも良いのだけど。
例えば『エリートと名高い捜査一課とか』」
そう言いながらソーニャはピエールを睨んだ。
「い、いや……ハハ。
紹介したいのは山々なんですが。
何分、忙しい連中でして、ハイ」
「(使えない連中の間違いだろ)」
スパーダが毒を吐くが、ティオが小突く。
「――とまぁ、色々と事情がお有りのようだから貴方達を指名させてもらったの。迷惑だったかしら?」
「い、いえ……
――わかりました。そういう事情があるなら喜んで」
ロイドは直ぐ様仕事の顔、捜査官の顔になる。
「それで、魔獣被害の調査というと具体的に何をすれば良いんでしょう?」
「――ノエル、例のものを」
「はっ」
赤毛の女性がそう返事をし、所持していた書類の束をロイドに手渡す。
(あれ?…この人)
「? どうしました?」
キョトンとした顔をロイドに向ける。
子供っぽい仕草に何処か姉を思い出し、スパーダも微笑む。
「い、いえ…すみません」
(うーん……何処かで見たような気がしたけど)
『狼型魔獣事件調査書』
「これは……」
「警備隊の調査報告書ですね」
「此方の調査で判明した事は一通り、それに書かれているわ。
まずは、その調書だけを見て貴方達には調査に入ってもらいたいの。余計な先入観を与えない為にもね」
「なるほど……」
「そういう事であれば、後ほど拝見させて頂きます」
捜査官のロイドとこの手の事に慣れているエリィが主に受け答えする。スパーダ自身、 自分がやれば拗れると理解している。
「今後は支援課と直接やり取りするから、何か判ったら報告してちょうだい」
「了解しました」
「―副局長、どうもお邪魔しました」
「い、いえいえ。また、遠慮なくどうぞ」
ピエールの言葉の後、立ち去ろうとしたソーニャが止まりランディの方を向いた。
「ふふ……どうやら、結構馴染めてるようじゃない?」
「いやぁ……ハハ、
まぁ、国境監視や演習よりは楽しく過ごさせてもらってますよ」
「ソレは結構……私も紹介した甲斐があったわ」
「ノエル、いくわよ」
「ハイッ」『それでは失礼します!』
敬礼とハキハキとした声で挨拶をし、ソーニャとノエルは部屋から出る。すると、緊張が解けたのがランディが軽口を言った。
「は〜……やれやれだぜ」
「ひょっとして、警備隊ての上官だったのか?」
「いや、直接の上官じゃないけどな。
訓練や軍事演習で何度か指導を受けてるんだ。
美人なのに怒らせるとめちゃくちゃ怖いんだよなぁ」
「ランディさんの場合、生活態度が原因なのでは……?」
「ふふっ…そうね。なんだか女性問題でトラブルを起こしていたらしいし、」
「俺は一人を愛する。大人数と関係を持つというのは理解できん」
「ロマンチックです、女性なら嬉しいですよ」
そんな感想を言われている時、ふと思い出す。
「そうだった、お前達。ここはゴキブリが出る程に汚らしい部屋だ。きっと汚物もあるだろう、帰ってから話そう」
「なっ…スパーダきさ」
BANG
再び弾丸を放ち、部屋の隅にいた黒光りするソレを殺す。
するとティオとエリィ、スパーダの顔も青くなる。
「……なんだ!貴様、銃刀法違反で」
ピエールが立ち上がると『グシャリ』という音がした。
「出るぞ」
「……はい」「うわぁ」「まじかよ」「……気持ち悪いです」
特務支援課の皆が出た瞬間、ピエールが顔を白くして近寄ってくる。
「待て!お前達!待て!!!!」
「ゴキブリを部屋から出すな!」
だがスパーダは扉を塞ぎ、汚染を止める。
「………」
「スパーダさんも嫌いなものがあるんですね」
「……そういう問題じゃない」
その後、スパーダが事務の警官に『ゴキブリ』が大量発生している事を伝え外に出ると、女性警官の悲鳴や男性警官の悲鳴が飛び交う。
「……あの男、いったい部屋でなにしてたんだ」
「…………なぁ、俺等大丈夫だよな?」
「…念の為、駆除業者には連絡しておきます」
特務支援課ビルに戻り、机で会話をする。
「……保健所に連絡入れた」
「あの、スパーダさんが何かした訳では無いですよね?」
「俺だったら、ピエールを社会的に殺す」
「いや、もう既に社会的に死んでるかと」
「とっ…兎に角だ!この調書を見てみよう。あと、業者へは」
「俺の店と、アシュリーの店、ここの分の費用は実費で払う。
だから気にしないでくれ」
「ゴキブリはごめんです」
「そりゃそうだ」
そして、ロイドを中心にして調書を読み回す。
「これは……!」
「本当に各地で起きてるのね……
ほとんどニュースになっていないみたいだけど」
「ふむ…なるほどな。
どうやらただの魔獣被害じゃなさそうだぜ」
「悪魔じゃないな、行方不明いや…死人は出ていないか」
「狼型魔獣…クロスベルの固有種でしょうか」
「…ちょっとわからないな。
ただ、被害が出た場所でははっきりとした足跡なんかも残されているみたいだ。
そういう魔獣が居るのは確実だろう」
「でも、警備隊の捜索でも未だに確認されていないのよね?」
「あぁ…姿を隠してるんだから相当、狡賢い魔獣みたいだぜ。
こりゃ、凄腕の狩人かなんかを雇った方が良いんじゃないか?」
「私達が動いたとして、何か出来るとは思えませんが」
「だが、やるしか無い。」
あたえられた仕事も出来ないのかとピエールに言われる姿が想像できる。その場合、唯でさえ立場の悪い特務支援課は余計に酷くなる。
「ロイド、どうしたの?」
不意にエリィがロイドに問いかけた。
ロイドは制式な捜査官だ、何かわかったのかと皆が問う。
「なんだ、また何か閃いたのか?」
「閃いたってより、『捜査』という観点からこの魔獣被害を調べるなら、何が『ポイント』になるかと思ってさ」
「『捜査』の観点から……」
「魔獣被害を調べる……?」
「例えば、一連の魔獣被害を『事件』として捉えたら……
この場合、『犯人』は誰になる?」
「そりゃあ、報告にある狼型魔獣って奴だろ。
一匹じゃなくて、群れで行動してるみたいだが」
「…なら、おかしい。野生の魔獣や動物は本来、人里に降りてくることは無いはずだ。理由があるとすれば、餌の枯渇だ。
アルモリカ村の件なら理解できる。実際、野生動物や魔獣による作物や家畜の被害はある。だが、他2件はなんだ?」
「そうですね、だから『犯人』の『動機』と『プロフィール』が。『動機』がスパーダの言う通りなら、病院等の報告はおかしい。きっと襲った火理由を説明てきる『真実』が見えてくるはずだ」
「そうすると、捜査方針は決まったわね」
「うむ……あと、ロイド。気付いたか?お前、スパーダの事を呼び捨てしてたぜ?」
「え?あの…」
「なんだ?別に俺達はチームだ、てっきり、心を開いてくれたんだと思ったが……違うか?」
「…スパーダさん、いや、スパーダも宜しく」
「宜しくな」
「…兎に角、皆。被害に遭った場所で関係者から話を聞いてみよう。少なくとも、俺達のやり方でこの調書を最低限、補完することぐらいは出来るはずだ」
「そうね、
少しでも警備隊の役に立てれば無駄にはならないわね」
「は〜助かったぜ。
無闇に野山を駆け巡って魔獣狩りをする羽目にならなくてよ」
「それで、ロイドさん。聞き込みをするとして……
まずは何処から行くんですか?」
ロイドは少し考え、答えを出した。
「まずは最初に被害に遭ったアルモリカ村に行ってみよう。
一番被害が具体的だし……魔獣の特徴を少しでも掴んでおきたい」
「えっと、アルモリカ村は街の北東だったわよね?」
「あぁ、東口に出て導力バスに乗れば良い筈だ。
それと……今回は初めての市外活動だ。何があるか判らない。
準備をしてから出発しよう」
「あぁ」「だな」
「念の為、他の支援要請もチェックした方が良さそうですね」
そうして支援要請も終了させた特務支援課だったが、
クロスベル東口のバス停で事件は起きた。
「あっ……」
「おいおい、嘘だろ」
「なぁ、ロイド。
導力バスってのはどのくらい出ているんだ?」
「えと……何本かある筈だけど」
その時、ティオがてくてくと歩き時刻表を確認する。
「時刻表によると次の便は2時間後ですね」
「1日に数本しか走ってないって事かよ……」
「……困ったなぁ。
今日中に病院くらい迄は回っておきたいんたけど。
かといって、他の場所を先に回るのもなぁ……」
「そうね……。
捜査方針を立てたばかりだし」
悩むロイド、エリィ、ランディの3人。
そこでティオとスパーダは同じ事を思ったのか頷き話し始めた。
「「――だったら、歩いて行けば良いのでは?」」
「…ティオちゃんに……スパーダも」
「エリィもそう呼んでくれるのはありがたい」
「おいおい……まじかよ」
「地図で確認する限り、ここからアルモリカ村まで徒歩1時間半程かと。待ち時間も考えたら2時間半はかかるはずです。
歩いた方が効率的かと」
「なるほど……計算上ではそうね。
それに……確か、アルモリカ村の前には田園風景が広がる
石畳の道が通っているはずだし……」
「ハイキングがてら行ってみるのも良いかもしれないわね」
「あぁ…導力バスからではない。徒歩で見る景色も良いものだぞ」
(おいおい……
お嬢さんにスパーダ、あんな事言ってるぞ……
てか、スパーダの奴は知ってるだろ)
(エリィとティオはどう考えても街道を歩いたことがないって
雰囲気だよな……スパーダは本当になんでだ?)
「二人ともどうしたんだ」
「えっと……。
街道には魔獣も居るけど…その、二人とも大丈夫か?」
「うーん……。ソレを言われると……。
でも、今までジオフロントに何度も潜っている訳だし」
「ソレに、私は魔導杖のテストをする必要もあります。
多少の実戦でしたら、むしろ望むところですが……」
「一応言うが、俺は何もあの景色を見たい『だけ』ではない」
(見たいって言ってるんだよなぁ)
(あはは……)
「これから市外でも活動していく事になる。ロイド、ランディ、お前達はその反応だから歩き慣れては居ないだろうが、危険性と辛さは知ってるな?厳しいが、今のうちに体験して、慣れてもらう必要がある。わかってくれ」
「――わかった。そこまで言うなら行こうか」
「ええ、そうしましょう!
ふふ、ちょっとだけ楽しみね。
こんな事ならお弁当でも作ってこれば良かったかしら」
「…確かに。
まぁ、お昼前には村に到着出来るはずですから。
ランチは向こうで頂けば良いかと」
「ほら、飲み物。皆の分買ってきたぞ」
「いつの間に」
「スパーダ、やっぱお前楽しんでるだろ」
全員分の500mlのスポーツウォーター。
ソレを一人一人配って行く。
(……2人がへばったら俺達でフォローしよう)
(へいへい…しっかし、スパーダの奴。
なんつうか、面白いお兄さんだな)
(確かに)
ティオ、エリィと雑談するスパーダに微笑みを隠せない2人。
「じゃぁ、行こうか」
ロイドの声のもと、アルモリカ村に向けて歩く。
そして、中間地点たる別れ道に一行は辿り着いた。
「良い運動だ。悪魔もない、魔獣は出るが空気が良い。
嗚呼……幼少期の様に馬に跨り駆け巡りたい」
「……なんでそんな重武装で元気なんだよ」
「分岐点か……
確か、アルモリカ村はここから北に向かうんだよな?」
「あぁ、左に折れて北上すれば良い筈だぜ」
ヤケに元気なスパーダとソレに続くロイド、ランディ。
そして、疲労が見えるティオとエリィ。
「……これは……思った以上に大変だったわね」
「……ええ……少々、計算外でした……」
「魔獣も徘徊してたし、流石に疲れたみたいだな?」
「やれやれ、ちょっと休んでいくかよ」
「私は……なんとか大丈夫だと思うけど。
ティオちゃんの方はどう?」
「…一抜けたと言いたいところですけど……
提案者は私ですし、何とか頑張ってみようと思います」
「そうか……」
「まっ、我慢できなくなったらお兄さん達がおぶってやるよ。
それとも、肩車がいいか?なぁ、スパーダ」
「横抱きでも構わんぞ?」
「遠慮しておきます。そこまで子供ではないので。
……というより、スパーダさんは兎も角、
ランディさん的には嬉しくないのでは?」
「そうだな―俺としてはもっと
―ボン、キュッ、ボンとしたほうが――って
下心で言ってるわけじゃねぇよ!
てか、スパーダ兎も角ってなんだ!横抱きとかって」
「いえ、スパーダさんは婚約者のグレイスさんが居ますし、
何があれば報告すれば良いだけなので」
「……ティオ、やめてくれ」
「ふふ……」
「はは……。
まぁ、このまま先に進もうか」
「……了解です」
ティオに揶揄われたスパーダとランディは互いに顔を見合わせ、
不満げな顔をしながら再び歩き出した。
再び、景色を楽しみ、時折襲ってくる魔獣に対処しながら
アルモリカ村に向けて歩く。
「……」
「ティオ、大丈夫か?」
「………大丈夫です」
「子供は我儘を言え」
「―ちょっと!?」
スパーダはティオを有無を言わさず肩車する。
「妹にも良くやったものだ。もうすぐ休憩所もある。
悪いが、そこ迄は我慢してくれ」
「あらあら」
「末っ子かと思ったら兄かよ」
「長男だ。他は皆、女性だがな」
「……(ムッ)」
「あはは……」
十数分程歩き、スパーダの言った休憩所が見える。
「ついたぞ!」
「……休憩所?着いたの」
「エリィも辛そうだし、休んで行こう。スパーダは」
ロイドがティオを降ろすのを手伝おうかと言う前に、
スパーダはティオが降りやすい高さまでしゃがむ。
「あの……ありがとうございます」
「――子供は大人に甘えるものだ」
大人、スパーダからすればおかしな物だ。
書類上26、実際ソレぐらい社会は知っている。
裏側に居たからという事もあるが、子供では居られない。
ティオとエリィはペットボトルの中身を飲み干していた。
そのため、再びスパーダが備え付けの自販機から好きな飲み物と新しいペットボトルを奢る。
「おいおい、俺等の分もかよ」
「悪いか?歩くと言ったのは俺もだ。
ロイド、ランディはソレに付き合ってくれている。
その御礼も兼ねてな」
「良くできた先輩過ぎんだろ!
ゴチになります!」
「ありがとう、スパーダ」
「ご馳走様です」「ありがとうございます」
休憩所はそよ風が吹き、暖まった肉体を心地よく冷ましていく。
小川のせせらぎも心地よく、目蓋をおろせば寝てしまいそうだ。
「……良い風……。
ふう……やっと人心地ついた気分ね」
「……そうですね……
なんだかこのまま寝てしまいそうです……」
「はは、お疲れ様。
それにしても……綺麗な田園風景だな……
まるで御伽噺に出てきそうな風景って言うか」
「そういや……
古い建物跡みたいなのがあちこちに点在してるんだな。
ちょっと珍しい風景だぜ」
「朽ちた中世の建物跡がそのまま残されているみたいね。
確か……この辺りは昔戦場になったという話だけれど」
「ええ…エレボニアとカルバードとのね」
「エレボニアとカルバードか。
カルバードの裏社会相手なら大暴れしたが、
帝国ではまだだな」
「……野蛮です」
「スパーダ。ったくよぉ……。
しっかし、エリィの話は面白そうじゃねぇか。
折角だからちょっと行ってみるか?」
「俺は構わんが?」
「いや…ソレは流石に……」
「うーん……ちょっと遠慮したいわね」
「……ランディさん、少し空気を読んでください。
スパーダさんは頷かないでください」
「なんだなんだ、若いもんはだらしねぇな。
三十路手前のスパーダは元気だぞ」
「俺は『26』だ!
…それにしても、クロスベル育ちはそんなに市外に出ないのか?
皆、偶には街道ぐらい歩いたりするだろ。ランディ、お前は?」
「あぁ、俺も街道は歩いたぜ」
「いや…ソレがしないんだよ。
大抵のものは市内で揃っちゃうんだ」
「元々、交易都市だから自治州内で自給できなくても
成り立って来たのよね……。
それに、大抵の移動は鉄道か飛行船、最近は車やバスも有るから自分の足で此処まで歩いたの久し振りだわ」
「…私もクロスベル出身ではありませんが、
今までは財団の研究所に居たので此処まで歩いたのは
久し振りです」
「なるほどねぇ…いわゆる文明病か。
その割にロイドはあんまり疲れてるように見えないな?」
「俺は一応、警察学校でサバイバル訓練を受けてるから……
そういうランディこそ、流石警備隊だな。汗一つかいてない様に見えるけど……」
「ハハッ…歩き回るのは慣れてるからな。
まぁ、スパーダには負けるが」
「俺は………そうだな。
昔話だ、クロスベルに来る以前は用心棒をしていてな。
赤い星座、西風の旅団、北の猟兵。野盗、色んな奴とやりあった」
「……」
「高名な猟兵団とですか?!」
「昔の話だ。今はもっぱら、悪魔狩り。んで、お前達の仲間。
特務支援課の一人だ」