超昂大戦SS 翔び上がれルビー、復活の右脚! 悪夢の過去と敗北の涙を超えて 作:環 藍河
しゃああああ……っ…
(私…私は…!!)
自分の非力と意気地のなさ、サファイアへの背信、心の弱さ…
アカリは自室のシャワーをこれでもかと熱くして、打たれるように浴びる。
全てを流すように、情けない自分を罰するように。
かちゃっ…ぶおおおおお………!
(…ううっ…!!)
シャワーヘッドをドライヤーに持ち替え、ツーサイドアップで傷めた髪をさらになじる。
ちりちりに熱くなった毛先も、アカリの贖罪の代わりにはならなかった。
ビーーッ、ビーーッ、ビーーッ。「!!」
【敵出現。エリアB-8にフーマン小隊が出現。
戦闘スタッフは次の指示まで出動に備えてください。】
(あっ…!?)
いつもなら出撃準備を促す、常時携帯の通信機が、黙して動かない。
その雄弁が、アカリに戦士失格の烙印を刻む。
…
……
それでも、指をくわえて見ていたくはなかった。
アカリが着替え、足を向けたのは、出動中の戦士を観られるブリーフィングルーム。
《はああーーーっ!!》【ブーーーッ!!】
出撃中の戦士たちが、はじまりの日と同じくフーマンたちをなぎ倒していく。
(…やっぱり…。)
少しずつ陣容を厚くするダイビート戦闘スタッフの中でも、やっぱりアカリの目を捉えて放さないのは…
「エスカレイヤーさん…。」
あの日と変わらず、まぶしい真珠の翼はアカリの胸を熱くときめかせる。
街の平穏を踏みにじる理不尽に屈さず、正面から邪悪を打ち据える…
私の、憧れ。
だが、今はその鼓動の昂ぶりが、アカリ自らを失望と悔恨の業火に焦がす。
長官やユーノさん、レジェンドの期待を背負った私の名前…。
授かったコードネームに、エスカ・ルビーの名に顔向けできない。
名前負けの今の私は…何なんだろう。
…ずきんっ。
右脚よりも、胸が何より疼く。
「なーに、惚けてるのよ!」
ばんっ!!「げほっ!」
「お姉様に見とれる時間があったら、さっさと出撃すれば?」
「あっ…!」
腑ぬけて俯くアカリの背中を痛烈に戒める、深紫の平手。
「ななか、ちゃん…?」
「私なら、指令なんかなくても飛んでいくわ、悪の現場に。
ロボ子の奴がDDDメンテを長引かせてなければ、今だってお姉様と共闘してるわよっ!」
「あははっ…。」
出撃タイミングをエスカレイヤーとずらすため、マドカが意図的にメンテを入れているのだろう。
「…あんたは違うでしょ。ADDDもD2エナジーも十分。
出撃できるのに…どうして戦わないの?」
「えっ…?」
「『戦わなくちゃ、みんなの未来が無くなるから』…自分で言ったじゃない。
あんた、いつからトキサダの指示待ち人間になったのよ。」
「…でも…!」
「…お姉様みたいになりたい、もっと強くなってみんなを護りたい。
だったらアカリ、あんたに教えてあげる。お姉様の格好悪いところ。」
「…カッコ悪い、エスカレイヤーさん…?」
「お姉様は、強くなんかない。
私にも…FM77にも負けた、本当は弱くて脆い女の子。」
「えっ…負けた…?」
「私だけじゃない。エスカレイヤーはダイラスト…向こうの敵軍の将軍たちに、何度も負けている。
猛獣イガロにも、変態Dr.アルクにも、敵将ガレイズにも…。
そして辱められ、敗北の屈辱を文字通り、その身に刻まれたわ。
私のこのイチモツでも、お母様…将軍ミストレーヌからも、何度も、何度も。」
「そ…そんな…!」
「侵略者たちに手も足も出なくて、何度も追い詰められた。
それでも援軍なんか、いやしないから…。
負けるために出撃して、やっぱり負けて逃げ戻れるのは、まだ運の良い日。
逃げられない日は、ポンコツロボ子や私が救出するまで、敵の慰み者。
だから…夜は、何度もうなされていたわ。」
かちっ。
『あああ~~っ!! もう…もう、やめてえっ…!
立てないっ…もう…もう立てないんですっ…!
また…また負ける…負けて、捕まって、犯されて……!!
い…嫌っ…もう入れないでえっ…挿さないでえーーーっ!!』
「ひっ…!!」
「私のお姉様ASMRコレクション、漏れたらバイオハザードレベルの特級品よ。」
ななかが自ら収めた、真夜中にうなされる沙由香の叫び声は…壮絶で痛恨。
悪夢じゃない、現実。
正義のヒロインが、敗者の烙印をじかに刻まれ、その業火に悶え、恩赦を乞うて泣き叫ぶ。
その再来に怯える少女の狂気は…映像が無いからこそ、痛々しく伝わる。
「これがお姉様の…エスカレイヤー・高円寺沙由香のもう一つの姿。」
「…。」
スクリーンには今も、戦場を奔走する超昂天使の勇姿が映る。
だが、アカリが観るその姿は…決して、常勝無敗のスーパーヒロインではない。
「お姉様を貶めるために聴かせたわけじゃない。
アカリ…あんたなら、この惨めなお姉様の奥深くがちゃんと見えるはずよ。
上っ面の格好良さじゃない、お姉様の本当の素敵さ、素晴らしさを…!
そして、戦える。負ける恐怖も屈辱も飲み込んで、アルダークに立ち向かえる。
だってあんたは、私を差し置いてエスカレイヤーの名を抱く戦士なんだからっ!」
「ななかちゃん…!」
「なるほど、こんな音声データをお持ちでしたか。」
「『!!』」
「DDDメンテ終了のお知らせと、不逞の妹の折檻に来ました。」
さあああ……っ…!
「あ…あの、ロボ子…いや、これはアカリに活を入れるための…!」
かちっ。
『あああーーーーっっ!! あひいっ、ふぐうっ!
もう…もうやめてえっ、もう立たないのおおーーーっっ!!
また、また飛ぶうっ! もう出ないっ、もう空っぽなのにいっ!
や…やだっ、剥かないでっ、搾らないでええーーーっ!!』
「ぎ…ぎゃああああーーーっ!?」
「ななかさんは寝言まで沙由香さんリスペクトのようですね。」
「う…ウソよっ! あんたのAI生成でしょっ、コレえ!」
「そう思うかどうかは皆さん次第です。
ところで、こちらは没収・廃棄でよろしいですね?(Yes/ハイ)」
ぱきっ。
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ーーー~~~っ!!!
私のプレシャス・メモリーがああああっっ!!」
「あ、バックアップが電脳世界のどこにあろうと、高性能アンドロイドの前では無力です。
常に1677万7216体のbotで検索し、発見次第消去しますので。」
「お゛…お情けをおおお~~~っ!!!」
ばたばたばたばた…。ぽつん。
(な…何だったんだろう…?)
喧噪が止み、静寂にひとり残されたアカリが頭を整理する。
(ななかちゃん…背中を押してくれたんだ…)
うすうす察しながらも、知らずにいた。知ろうともしなかった。
レジェンドと讃えられる異界の救世主でさえ、凄惨な戦譜を刻んで今があるのだと。
そしてアカリは。
(でも…私は…。)
理性で悟った戦士の宿命に、心の芯がまだ背中を向けていた。
作者の環藍河です。
当作はpixiv様で1話先行公開し、ハーメルン様ではワンテンポ置いての投稿形態を取っています。
読者層の違いがあるのかも、と思って実験的に実施した投稿形態ですが、ぶっちゃけ大きな違いは今のところございません。もう次はサクッと2話同時投稿して追いつかせちゃおうか…迷っております。
リメイクのくせに難産し、この次の第3話がプロット不成立になりかけた(原作のルビーの勇敢さと矛盾するような行動を1話2話で取ってますからねぇ)ところを、1ヶ月頭をひねり、ALICEの館35に参戦して超昂大戦好き、ルビー推しすぎの真骨頂を思い出してリフレッシュして、何とか次話ができました。乞うご期待、です。