『オルクセン王国史/二次創作』ラッカーズ・ボランティア   作:karkaroff

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反射鏡の先に

―――星暦八七六年四月十一日/ネブラス/アラン・ラッカー

 

 ネブラスにて総司令部や散っていた各人員と合流し、再編成を果たした義勇兵団は十一日の深夜に活動を再開した。仕事は単純明快だ。敵主力に対する嫌がらせである。

 

 総司令部が後方要員を動員して戦う準備を整えるまでの数時間、司令部に迫る敵主力を減速させるための機動防御戦闘をして可能な範囲で時間的猶予を作る。

 

 正確には嫌がらせをしてくる面倒な奴らが戦場の何処かに潜んでいると意識させて1%でも2%でも警戒行動による遅延を生じさせられたら御の字だからちょっとやるだけやらせてくれというのが一番大きなところだ。

 

 センチュリースター西部でキャラバン隊を襲うアウトローたちが護衛の疲労を蓄積させるためによくやってきた慣れた手口である。大抵はシフトをきっちり守って動き続ければ回避できる類のものだがあくまでそれは輸送隊の護衛の話だ。今まさに敵に襲い掛かろうという軍隊相手に繰り返されれば嫌でも足は遅くなるだろう。

 

 これに伴って俺たちは合流した一個中隊を二つに分割。正確にはローレンス・シューター狙撃銃で武装して士官や下士官などの優先目標を攻撃、部隊速度の低下を図る狙撃銃小隊を編成、これをアラン・ラッカーが指揮して機動力と射程距離を生かして動き回り、残りの3個小隊をキュスター少尉が率いてスピンセルとヘンリック式珪藻土爆薬(ダイナマイト)による威嚇や攪乱を主とした威嚇役として攻撃地点を転々としながら断続的に出血を強いるという形だ。これに伴いキュスターはやられた分やり返してやるとばかりに嬉々として部隊を率いて飛び出していったおかげで狙撃小隊は非常に仕事がしやすかったとも言える。

 

 俺たちの使う狙撃銃……正確には長距離射撃が可能な大口径の猟銃は主にセンチュリースター内戦で州兵の私兵に流行った準軍用といえるようなモデルで金持ちのビックゲームハンター向けに流行りの狙撃用拡大鏡が取り付けられる代物だった。キュスターに言わせれば命中精度に疑問のある不安定な照準装置っていう話だったがそれでも光学式の照準装置はこういった特殊用途には必要十分な効果を発揮してくれた。

 

 街道を中心に移動しやすい獣道や山道まで小隊規模で移動可能な道に待ち伏せては一斉射して誰かを仕留めて撤収。オークの奴らはあの赤い目の化け物じみたお嬢様方を怖がっていたが、俺たちからしてみれば魔術を使って赤く浮かび上がるあの目のお陰で目標を特定して嫌がらせが出来たのだからありがたいものだった。

 

 俺たちよりもよほど見えているのだろうが。魔術探査に頼った移動じゃ俺たちのような魔術のまの字も知らない泥臭い強盗狩りのガンスリンガーなんてそもそも想定もしていないだろうし、おかげで俺たちはほとんど犠牲を出さずに目標を達成する事が出来た。だが、忘れられない事もあった。

 

 センチュリースターよりも水気を含んだ空気、闇夜のこちらを飲み込むような不気味な雰囲気の中で狙撃鏡をのぞき込んだ先、あの闇の中に浮かぶ赤い眼光が光を失うその瞬間の事だ。力を失い崩れ落ちる瞬間に奴らの赤い目は一瞬何か別の輝きを残すのだ。

 

 あの何とも言えない白と青の混ざったような光を見た射手たちは俺を含め、皆あの瞬間に人の魂を見たと話す。魂か、はたまた魔術の残光か、あの光が何かは俺たちに分からなかったし知ろうとも思わなかった。だが、あれに囚われたものがいたのは紛れもない事実だった。

 

 後年、かつて義勇兵だった射手が一人自宅で自害した。その際に奇妙な遺言を残していた。

 

「あのエルフィンドの戦争で、俺は世界一美しく、おぞましい光を見た。鏡の中、反射鏡の光の先。鏡と鏡が重なるはるか先で、あの美しい輝きは今も俺をのぞき込んでくる。俺はあの光の主に遭いに行かなきゃいけない。」

 

 そう残し、彼は鏡の前で自らの口にあのライフルを突っこみ、引き金を引いた。俺は幸いにもあいつが見たおぞましい光とやらには囚われずに済んだが、それでも俺の心をむしばむ一つの要因であったことは確かだ。

 

 戦場では何が精神をむしばんでくるか分かったもんじゃない。だからこそ、俺はあの稼業で稼ぐしかなかったのかもしれない。

 

 なにはともあれ俺たちはあの日、ネブラスでグスタフ王の賭けに乗り、運よく勝ち馬に乗った。おかげでネブラスは耐え抜き、奴らは恒星限界を迎えた。それ以上でも、それ以下でもない戦場の一幕だった。

 

 

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