英雄伝説 閃の軌跡2.5 ~Trajectory of mavericks~   作:魔ギア

1 / 40
 皆さん、お久しぶりです。
 「英雄伝説 界の軌跡」発売まで一か月を切りました。
 それの祝福と生存報告にちなんで、先行で序章だけを水・土に投稿しようと思います。

 それでは、ご覧ください!


序章 新たなる風
第一話 入学


 七耀歴1205年3月31日

 エレボニア帝国の帝都ヘイムダル近郊にある小都市トリスタ。そこには新たな門出を迎えようと若き少年少女たちの姿が集まっていた。

 緑と白の同じデザインの制服を着た学生たち。その肩には《有角の獅子》の姿が描かれていた。彼らが向かっているのは、トリスタの中でも一際大きくそびえ立っている建物。

 

 トールズ士官学院。

 

 250年前の《獅子戦役》を終結させた皇帝、《獅子心皇帝》ドライケルス・ライゼ・アルノールが創設した歴史ある士官学校。元々は軍学校として設立されていたが、近年に入ると軍学だけでなく、芸術といった分野も科目として含まれるようになり、卒業生の中には軍人のほかに、記者、芸術家、商人になる人もいる。

 そして、今日は第216回の入学式が行われる日。学生たちの目は輝いており、誰もがこの日を待ち望んでいた。

 トールズは帝国では名門中の名門校だ。特に去年の冬。その名前は帝国東部では大きく広まった。

 白い制服を纏った貴族生徒も、緑の制服を纏った平民生徒も誰もが地に足がつかない様子だった。

 そんな中、トリスタ駅から多くの学生たちが出てくる中に、白でも緑の制服でもない()()制服を着た二人組の少女たちが彼らに混ざって駅舎から出てきた。

 

「着きましたね」

「はい。三週間ぶりになりますか」

 

 一人は細長いトランクケースを持った凛とした可憐な少女。風でさらさらと揺れる黒い髪を手で耳の後ろにかけた少女は、視界に入った花びらを目にして顔を上に上げる。

 

「ライノの花……。とても綺麗ですね」

 

 まるで彼女たちを祝うかのように満開に咲き誇る花々。華やかに広がるその姿に少女は自然と微笑みを浮かべて、隣に並び立つ少女に声をかける。だが、少女からの反応はなかった。

 太陽で光り輝く金髪をなびかせる少女は、遠くに佇む士官学院をじっと眺めていた。コンパクトなトランクケースを持った両手をぐっと強く握りしめていた。

 

「……()()

「あ、ご、ごめんなさい、()()()。どうかしたの?」

 

 声をかけられたことにようやく気づいた金髪の少女――アルフィンは慌てて、黒髪の少女――エリゼの方に振り向いた。エリゼはいまだに震えているアルフィンの手を包み込んで、顔を合わせる。

 

「エリゼ……」

「姫様、大丈夫です。私も一緒に付いていますから、どうか緊張なさらないでください」

「ふふ……、大丈夫よ、エリゼ。確かに緊張しているけど、同時に期待もしているのよ」

「期待……ですか?」

 

 アルフィンは包まれた手を外して、目を輝かせながら学院を見つめる。

 

「えぇ。お父様にお兄様。そして、昨年の内戦を終わらせてくれたあの人たちが通う学院に入れることが。そして、そんな偉大な先輩たちの後輩になれることが」

「姫様……、えぇ、そうですね」

 

 エリゼもアルフィンと同じく学院を眺める。その目に大きな期待と喜びを寄せて。

 

「ここでなら見つけられるかもしれませんね」

「そうね。……それに、愛しのお兄様と一緒にいられるしね♪」

「な、ひ、姫様!」

 

 エリゼは顔を真っ赤にしてアルフィンを睨みつける。しかし、アルフィンはクスクスと笑いながら、それを聞き流して、前に踏み出す。

 

「そんなことよりも、早く行きましょう。このままだと式に遅れてしまいますわよ」

「なっ、お、お待ちくださ……」

「それと!」

 

 アルフィンは振り向いてエリゼの唇に指を付ける。

 

「士官学院での立場は対等。"姫様"ではなく、"アルフィン"と呼ぶように」

「えぇっ!」

「それでは行きますわよ!」

 

 アルフィンは再び走り出し、エリゼは遅れないように彼女の後を慌てて付いて行くのだった。

 教会を通り過ぎ、長い道のりを進む二人は士官学院へとたどり着く。

 校門前には入学するであろう新入生たちが次々と中へと流れ込んでいた。アルフィンとエリゼもゆったりとした足取りで校門前に向かい、そびえ立つ学院を見上げる。

 

「何度も来たことはありますが、こうして入学するとなると、また違った感覚があるわね」

「そうですね」

 

 感慨深い声を漏らす二人。その時、校門前で立ち止まる彼女たちの前に一人の貴族生徒が近づいてきた。

 

「ご入学おめでとうございます」

 

 アルフィンたちの前に立って深々とお辞儀をする金髪の貴族生徒。その人物は二人にとって馴染みのある顔だった。

 

「パトリックさん」

「ごきげんよう、パトリックさん」

 

 パトリック・ハイアームズ。

 帝国南部に位置するサザーランド州を治める《四大名門》ハイアームズ侯爵家の三男。この学院に通う知り合いの話だと、彼は貴族クラスのリーダーであり、本年度、生徒会長に任命された男だ。

 

「おはようございます。アルフィン殿下、エリゼ君」

「おはようございます。わざわざお出迎えに来てくれたのですか?」

「もちろんです。お二方の門出ですから。その制服も大変よくお似合いでございます」

「まぁ、そうですか?」

 

 満面な笑みを浮かべるパトリックに対して、アルフィンは微笑みながら頬に手を添える。

 

「もちろんです。赤は我が帝国と皇族であるアルノール家の象徴とも言うべき色。その制服に身を包むお二人の姿は女神にも劣らないほどお美しい。あなた方と学院生活を共に過ごせること、帝国人として誇りに思います」

「そんな、大袈裟な……」

「いいや、大袈裟ではないぞ、エリゼ君! お二方、もしも何かありましたら、このパトリックがお力に……」

「パトリック、そこまでにしなさいな」

 

 はきはきとした声で熱弁するパトリックの背後から落ち着いた女性の声が割って入った。アルフィンたちはパトリックの後ろに視線を持っていくと、そこには彼と同じ白い制服を着た貴族生徒の女性が三人に近づいてきた。

 

「フェリス」

「少し落ち着きなさい。殿下たちが怖がって、少し引いているではありませんか」

 

 アルフィンたちの顔色を窺ったパトリックは、彼女たちが自分に見せる笑顔が若干引きずっていることにようやく気づいた。

 

「あ、も、申し訳ございません。帝国紳士としてみっともない姿をお見せしてしまいました」

「い、いえ。少し驚きましたが、パトリックさんの熱意は確かに伝わりました」

「はい。何かあったその時は、ぜひ相談させていただきますね」

「もったいなきお言葉、ありがとうございます。それと彼女を紹介いたします。彼女は……」

「パトリック。自分で挨拶いたしますわ」

 

 パトリックを押しのけてアルフィンたちの前に立つ女生徒。ウェーブがかかった薄紫色の髪を揺らしながら、二人にお辞儀をする。

 

「ご入学おめでとうございます。フロラルド伯爵家が長女、フェリス・フロラルドと申します」

「はい、覚えています。去年のカレル離宮、そして帝都奪還作戦の時に《カレイジャス》に乗っておりましたね。あの時はご協力いただきありがとうございます」

「アルフィン殿下に覚えられていて、とても光栄ですわ。それで、あなたは?」

「あ、はい。シュバルツァー男爵家が長女、エリゼ・シュバルツァーと申します」

「あら? もしかして、リィンさんの妹さんですの?」

「は、はい、そうですが……」

 

 エリゼは思わず、身体を強張らせる。フェリスはその表情に目を開いたが、何かを察したのか、フェリスはエリゼに向かって柔らかく微笑んだ。

 

「心配いりませんわ、エリゼさん。リィンさんは大切なご学友です。彼が養子だということは気にしていませんわ」

「え……」

「あの内戦で、私たちトールズは力を合わせて戦い抜きました。彼が貴族の血を引いていないなど関係ありません。私たち二年生は全員、リィンさんのことを認めています」

「あ……」

 

 声を漏らすと同時に、固くなっていた身体に力が抜けるのを感じるエリゼ。

 エリゼの兄にして、シュバルツァー男爵家の長子――リィン・シュバルツァー。父であるテオ・シュバルツァーが雪山で拾い、そのまま養子として迎えた子。

 だが、出自不明の浮浪児を貴族に入れたという理由で、シュバルツァー男爵家は多くの貴族から誹謗中傷を受け、孤立した過去を持っていた。

 そのことを父は気にしていなかったが、当事者であったリィンは気にしており、そんな兄をエリゼはひどく心配していたのだ。

 

「何より、彼をそんな風に見てしまったら、アリサに怒られてしまいますわ」

「アリサさんを御存じで?」

「えぇ。同じラクロス部の部活メンバーですのよ」

「ゴホンッ! それでフェリス、ここに来た要件は何だ?」

「あ、そうでしたわ。あなたの手伝いに来たのですよ、パトリック生徒会長」

「手伝いだと?」

「荷物持ちですわ。あなた一人で全員分を持つのは、さすがにきついでしょ。後で何人か来ますから、お二人の分は私が」

「そういうことか。お二人とも、入学の手続きに書いてあった物をお預かりします」

「あ、ここでお渡しすればいいのですか?」

「はい。後で返されますので、一旦、こちらでお預かりします」

 

 アルフィンたちは手に持っていたトランクケースをフェリスに手渡す。フェリスはアルフィンたちに一度、頭を下げ後、入学式がある大講堂とは逆の道に行くのだった。

 

「あの、パトリックさん」

「何かな、エリゼ君」

「兄様はいらっしゃらないのですか?」

 

 エリゼは辺りを見回して兄のリィンを探す。兄のことだから、パトリックのように出迎えると思っていたのだが、いまだに姿を現さない。それを察したパトリックは申し訳なさそうに顔を顰めるのだった。

 

「シュバルツァーはいません。今頃、バリアハート方面にいると思います」

「え?」

「政府からの要請でトリスタを離れています。本日の夕暮れくらいには帰って来るとのことです」

「そう、ですか……」

 

 兄の不在に落ち込むエリゼ。本来なら在学生であるリィンも学院にいるはずなのだが、今の彼はただの在学生という立場ではない。

 どう慰めたらいいかわからず、慌てふためくパトリックをよそにアルフィンが横から口を出す。

 

「エリゼ……」

「大丈夫です、姫様。兄様はこの国のためにお務めを果たしているのですから、わがままを言うわけにはいきません」

「それはそうですが……」

「それにいつまでも兄様に甘えるわけにはいきませんから」

 

 顔を上げるエリゼの顔には先程の気落ちした様子は消えてなくなっていた。

 

「そのために来たのですから。ですよね、姫様」

「! ……そうですね。そのために来たんですものね」

 

 互いに頷き合って顔を前に向ける二人。先程の重い空気はすでになくなっていた。

 

 

 ~~~~~

 

 

「昨年、この帝国で大きな争いが起きた」

 

 マイク越しに聞こえる威厳ある声は、席に座って壇上を見上げる新入生たちの気を引き締める。大講堂の壇上に立つ士官学院の学院長――ヴァンダイクは新入生たちを見渡しながら演説を続ける。

 

「後に《十月戦役》と呼ばれるようになった内戦をきっかけに、多くのことが変化した。新たに開発された機甲兵の導入に、東のクロスベル自治州との併合。そして、本年度からトールズは新たに『機甲兵教練』が組み込まれ、諸君らは機甲兵の操縦訓練を受けることになった」

 

 ヴァンダイクの演説に新入生一同がざわめく。「静粛に」とヴァンダイクの強い一声で鳴り止む。

 

「この教練はクロスベルが併合されたことで、隣国のカルバード共和国との緊張状態が一気に高まったことをきっかけに組み込まれた。諸君らなら、これがどういうことを示しているのか、漠然と理解できているであろう」

 

 アルフィンの顔に影がささる。彼女だけでなく、察しがいい者たちも同様に顔色を悪くして、落ち着かない様子だった。

 

「じゃが、そんな混迷する情勢の中であろうと、この学院を設立した彼の大帝が残した『ある言葉』だけは、今も学院の理念として息づいておる」

 

 ヴァンダイクは壇上の机に両手を置く。強い眼差しを生徒たちに向けて、ゆっくりと口を開いた。

 

 

「──『若者よ。世の礎たれ』」

 

 

 大きな声というわけでもないのに、放たれた言葉が大講堂全体に響き渡った。その場にいる新入生たちは、その言葉が自分たちの中に入ってくるような不思議な感覚に襲われる。

 

「『《世》という言葉を()()捉えるのか。何を持って《礎》たる()()を持つのか』。君たちの先輩たちはこの言葉を胸にして、去年の内戦を乗り越えて大きく成長した。これからの二年間で自分なりにその言葉の意味を考え、この時代をどう生きていくのか。かけがえのない仲間を作り、切磋琢磨しながら、その手がかりを掴んでほしい。儂の方からは以上である」

 

 今までとは違い、最後には柔らかな好々爺の笑みを見せて、ヴァンダイクは壇上を後にした。

 

「『世の礎たれ』ですか……」

 

 アルフィンは、誰にも聞き取れない声でぼそっと呟いた。

 

(私もあの人たちみたいに……)

 

 去年の冬に起きた《十月戦役》。帝国が争いを激化する中、リィン、パトリックを含めたトールズ士官学院生は『赤き翼』に乗り、内戦を終結させようと奮闘していた。どんな困難にも恐れずに立ち向かった、先輩たちの後ろ姿を思い出したアルフィンは手を強く握りしめるのだった。

 

「すごい演説でしたね」

 

 その時、隣に座っていた女子生徒がアルフィンに声をかけてきた。アルフィンは少し驚きながらも、声をかけた人物に振りかえる。

 自分と同じ赤い制服を着た少女。清らかな白い髪を揺らし、首には星の刺繡が入ったチョーカーが付けられていた。赤い瞳を向けてくる少女は、アルフィンの顔色を窺いながら彼女の返答を待っていた。

 

「えぇ、そうですね。さすがは《獅子心皇帝》のお言葉です。胸にスッと入るような感覚でした」

「私もです。あ、ごめんなさい、いきなり声をかけてしまって……」

「いえいえ。こちらは問題ありませんわ」

 

 アルフィンと白髪の少女が話し込む中、眼鏡にチョビ髭を生やした貴族風の男――ハインリッヒ教頭が壇上に上がってきた。

 

「以上で、トールズ士官学院、第216回入学式を終了します。以降は入学案内書に従い、指定されたクラスへ移動すること。学院のカリキュラムや規則の説明はその場で行います」

 

 それを合図に大講堂に集まっていた生徒たちが次々と外へ出て行った。残ったのはアルフィン、エリゼ、そして白髪の少女を含めた赤い制服を着た、計十人の男女。

 

「案内書にそんなことは書かれていなかったはずですが……」

「えぇ。いったい、どういうことなのかしら?」

 

 白髪の少女がそう呟くと、アルフィンもそれに同意する。

 

「赤い制服の生徒たち。こちらに注目してくれ」

 

 そこに一人の教官が残ったアルフィンたちに声をかける。彼女たちが着ている制服にも負けない真っ赤な髪と無数の傷が顔に付いた男性教官に全員の視線が集まる。

 

「君たちにはこれから《特別オリエンテーリング》を行ってもらう。全員、私の後に付いてきてくれ」

 

 教官はそう言い残して大講堂を出て行った。いきなりのことに戸惑う者もいたが、赤い制服を着た生徒たちは次々と大講堂を出て、彼の後を付いて行くのだった。

 

「姫様」

「あぁ、エリゼ。これはどういう……」

「さぁ、兄様は何もおっしゃりませんでしたが……」

「とりあえず行ってみましょう。あなたもご一緒に……」

 

 アルフィンは白髪の少女に声をかけるが、少女は大講堂を出た教官の姿を見て、ひどく狼狽していた。

 

「そんな……、どうしてあの人が?」

「あの……」

「あ、す、すみません! ご一緒させていただきます」

「えぇ、行きましょう。あ、そう言えば、まだ名乗っておりませんでしたね」

 

 アルフィンはスカートの袖を摘まんで腰を落とす。エリゼも彼女に続けて少女にお辞儀をする。

 

「アルフィン・ライゼ・アルノールと申します。おそらく、同じクラスになると思いますが、よろしくお願いしますね」

「エリゼ・シュバルツァーです。よろしくお願いいたします」

「……あぁ、あなたたちが……」

 

 どこか納得した素振りを見せる少女にアルフィンたちは首を傾げるが、少女はアルフィンたちに向かってお辞儀して返す。

 

「オランピア・エルピスと言います。私の方こそ、よろしくお願いします」




 今作の主人公は閃の軌跡の人気妹キャラ、アルフィンとエリゼです。
 前作のヒロイン、オランピアと共にどんな軌跡を描くのか、温かい目で見守ってください。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。