英雄伝説 閃の軌跡2.5 ~Trajectory of mavericks~   作:魔ギア

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 頑張りました。続編どうぞ。


第十一話 旧校舎調査②

 地下で幻獣が現れたちょうどその時、

 

「これでいいですか?」

「うん、バッチリ♪ あんがとねー」

 

 技術棟の奥にある格納庫。そこに設置されてあったデスクで《ARCUSⅡ》をいじっていたリアムが持ち主であるシャーリィに返していた。

 

「さっすが財団所属。こういった機械いじりは専門に任せるのが一番だね」

「あはは……。でも、僕もまだ《ARCUSⅡ》の全部を理解できていませんから、あまり自信はありませんが……」

「こっちのオーダー通りに改良してくれたじゃん。腕がいいんだから、自信持ちなよ」

「ありがとう、シャーリィさん」

 

 無邪気に笑うシャーリィにつられて、リアムも笑みを浮かべるのだった。

 

「それにしても、話には聞いてたけど、すっごいね」

 

 シャーリィはリアムから離れて、ある場所を見上げる。

 シャーリィの前に立つのは入学式で戦った魔煌兵にも負けない巨大な機械人形。去年の内戦で《貴族連合》が密かに開発した新型兵器《機甲兵》だ。

 

「人間の動きを再現することに特化した新型兵器。武人の多い帝国人にとっては、ありがたい発明ですね」

「そうだね。帝国と共和国のパワーバランスがこれの登場で崩れちゃったからね」

「はい。でも、僕たちの動きを完全に再現することは、できないみたいですね」

「そうなの?」

「機械はあくまで僕たちが動かしているものですから、機械自身が自分で微細な動きを調整することができないんです。再現するには機械自身にも意思みたいなものがないと難しいですね」

「ふ~ん。となると……」

 

 シャーリィは《機甲兵》の横で膝を着いた状態で待機している灰色の騎士人形を見る。

 

「この《灰の騎神》がまさにそれってことだね」

「うん。《TOP》と同じように意思を持った機械兵器。彼じゃなければできないよ」

『フむ。誉メ言葉トしてもラってオこう』

 

 膝を着いていた騎士人形――ヴァリマールが反応する。リアムの魔導杖である《TOP》に比べるとまだ言葉は流暢ではないようだ。

 

「あ、ごめん。起こしちゃった?」

『イヤ。先程、地下かラ微弱なエネルギー反応ヲ感知シた。恐らク、幻獣が現レたかもシれなイ』

「幻獣……。クロスベルでも現れたあれか……。魔煌兵ほどじゃないけど、手配魔獣より厄介な奴だね」

「えぇ! たしか、今ってアルフィンさんたちが探索していましたよね!」

「そうだけど、問題ないんじゃない」

「ど、どうしてそう思うんですか?」

 

 シャーリィは吞気そうに《ARCUSⅡ》をいじり、助けに行こうとしない姿にリアムは戸惑いを見せる。

 

「確か、ロドルフォも行ってるんでしょ? だったら、アルフィンたちは無事だよ」

「ロドルフォ君が? 確かに魔煌兵の時も臆せずに戦っていましたけど」

「まぁ、これは猟兵としての勘だけど……」

 

 

 

 

 たぶん彼、シャーリィやリィン先輩よりも強いよ。

 

 

 ~~~~~

 

 

 ポタッ、と赤い血が地面に落ちる。誰かに押されて尻もちをついたアルフィンは、呆然とした顔で自分を押した人物を見上げる。

 

「ろ、ロドルフォさん……」

 

 そこには幻獣を睨みつけるロドルフォの姿があった。幻獣が伸ばした舌はアルフィンたちの後ろにある壁まで貫いていた。ギリギリだったのか、ロドルフォの頬には切られた傷があり、そこから血が流れ落ちていた。

 

「す、すみません。私をかばって……」

 

 謝罪をするアルフィンだったが、その前にロドルフォが動き出す。手に取った銃を幻獣に向かって発砲。銃弾は幻獣の顔に直撃するが、甲高い音を鳴らして、弾き返されてしまった。

 

「硬いな……。アルフィン、お前はエリゼと一緒に下がれ」

「え?」

「お前たちは後ろから援護しろ。俺とオランピアが前に立つ」

「い、いえ、私も一緒に!」

「お前たちが今、前に出ても足手纏いだ。奴の攻撃に反応できた俺とオランピアが受け持つ」

 

 よく見ると、エリゼの前にはオランピアが立っており、舌に対応できるように太刀を構えていた。

 

「で、ですが……」

「言ったはずだ。戦況を見極めて、味方に指示を送るのも役割だと」

 

 オランピアたちがロドルフォたちに近づく中、彼はアルフィンに話し続ける。

 

「俺たちの戦いを観察しろ。そこから矛盾点や不審点を見つけて、奴の弱点を探れ」

「弱点を?」

「そうだ。今のあいつは硬い。あの硬さをどうにかしなければ、俺たちに勝利はない。どうやって、あれを突破するのか。それをお前とエリゼで考えるんだ」

 

 話が終わり、ロドルフォと向かい合う。彼に続いて、後ろからオランピアが続く。

 

「俺たちの役割は時間稼ぎだ。《戦術リンク》を繋げ」

「わかりました」

 

 二人の足元に金色の円陣が出現し、一本の線が結ばれる。

 

「行きます!」

 

 先に仕掛けたのはオランピア。狙いが定まらないように右左と動きながら、幻獣に接近する。

 一方で幻獣は舌をまるで鞭のように伸ばして、オランピアに叩きつける。

 

「法剣に少し似ていますね。……ですが」

 

 舌の動きを冷静に捉えていたオランピアはその場を跳びはねて回避。軽快なステップを踏みながら、徐々に近づいていくオランピア。幻獣は懸命に舌を振り回すが、一撃も当たらない。

 

「その動きは嫌と言うほど見てきているのでっ!」

 

 距離が半分になったところで、一気に加速。幻獣の懐へと潜り込んだ。

 

「ハァッ!」

 

 ガラ空きになっていた顎に目掛けて、オランピアが気合いの一閃。

 

 ――ガキンッ!

 

 しかし、甲高い音を鳴らすだけで、剣は弾かれてしまう。

 

「でしたら!」

 

 一歩引いたオランピアは力強く地面を蹴る。後ろに下がったオランピアに舌を放つ幻獣だったが、彼女は上に跳んでいき、後ろに回り込まれる。

 

「やぁああ!!」

 

 今度は連続の斬撃。持ち前の身軽さを活かしたオランピアは、幻獣の周囲を動き回って、幾度なく斬撃を叩きつける。

 だが、幻獣の皮膚は思っていたよりも硬かった。まるで鉄に叩きつけているように、高い音を響かせるだけで、幻獣には傷一つ付けることができなかった。

 

「《フォルテ》」

 

 その様子を傍観していたロドルフォは自身に補助アーツをかける。一時的に身体能力を上げた彼は銃をホルスターにしまい、走り出す。

 

「! 正面からは危険です!」

 

 ロドルフォの行動にオランピアが制止を呼びかける。彼は彼女とは違い、幻獣の正面を

一直線に突き進んでいく。

 オランピアを狙っていた幻獣は標的を変えて、一番狙いやすいロドルフォに目掛けて、舌を射出する。

 

「遅い」

 

 正面から来た攻撃をロドルフォは難なく躱す。横には跳ばず、身体を反らすなど、最小限の動きで舌を躱し続けながら、彼は幻獣との距離を一気に縮めていく。

 

「――シッ!」

 

 そして、距離がゼロになった瞬間、ロドルフォの拳が幻獣の額を捉える。

 ゴキッと鈍い音がドームに響く。

 

「ちっ……」

 

 ロドルフォは一歩下がる。顔を殴られた幻獣は首を振るだけでたいしたダメージを受けていなかった。

 

「ふん!」

 

 それを見たロドルフォは再び、幻獣の正面へ。今度は拳だけでなく、蹴りも加える。隙のない乱撃が幻獣の顔に打ち込まれる。

 

「ダメです。まったく怯んでいません!」

 

 離れたところで見ていたエリゼは顔を歪ませる。ロドルフォの攻撃は命中しているにもかかわらず、幻獣はただ首を傾げるだけだった。すると、幻獣は彼に向かって口を開く。

 

「! 避け……」

 

 アルフィンが言う前に幻獣の舌が射出。ロドルフォの距離はほぼゼロ。刃のように尖った舌は超至近距離から放たれ、ロドルフォの腹を貫こうとする。

 

「遅いと言っている」

 

 だが、その攻撃もロドルフォは身体を横にずらして躱す。

 その光景にアルフィンだけでなく、その場にいる一同が目を丸くする。

 避けることなど不可能と思っていた一撃を、ロドルフォは完璧に躱して見せたのだ。

 

「ふん!」

 

 ロドルフォは両腕を幻獣の首に回す。補助アーツによって強化された腕力を使い、幻獣を持ち上げる。

 

「だぁああああ!!」

 

 そのまま幻獣を放り投げるロドルフォ。壁に激突した幻獣は苦しい声を上げて倒れる。

 

「す、すごい……」

「オランピアさんもですが、ロドルフォさんもここまで……」

 

 リィンの姪弟子とでも言うべきオランピアの実力にも目を見張るものはある。だが、それよりもロドルフォがここまでの強さを持っていたことにエリゼは驚きを隠せずにいた。

 

「ですが、ダメージはまだ通っていないわ」

 

 アルフィンの指摘にエリゼは現実に戻される。

 オランピアとロドルフォを捉えきれず、斬られ、打たれ続けている幻獣だが、その身体にはいまだに傷が付いていない。一見、優勢のように見られる戦況は、実のところ、こちらの方が不利だったのだ。

 

「ロドルフォさんの言う通り、あの硬い身体をどうにかしない限り、こっちに勝機はないわ」

「で、ですが、どうしたら……」

 

 自分たちが加わったところでダメージが通らなければ、意味がない。手が詰まってしまったエリゼは、どうすればいいのかと、苦しい声を上げる。

 

「殿下、エリゼ。二人の戦いをよく見るんだ」

 

 すると、そこに後ろで戦いを見守っていたリィンが口を開く。

 

「よく見ると言われましても、どこを見れば……」

「気づかないか? ロドルフォの立ち位置をよく見るんだ」

 

 戸惑うエリゼたちだったが、リィンの助言に従い、ロドルフォを観察する。

 

「シャァ!!」

 

 幻獣の顔面にストレートの拳を放つ。だが、攻撃が通じない幻獣は尻尾を上げて、ロドルフォに向けて振り払う。

 

「させません!」

 

 そこにオランピアが尻尾を剣で弾く。オランピアを見た幻獣はそちらに振り向くが、ロドルフォが回り込んで、幻獣と向かい合う。

 

「……あら?」

「姫様、何かわかったのですか?」

「えっと、わかったってことじゃないけど。どうしてロドルフォさん、わざわざ正面に移動するのかと思いまして……」

 

 アルフィンの言葉にエリゼはロドルフォの戦いを注目する。

 幻獣がオランピアに攻撃を仕掛けようと方向転換すると、ロドルフォは必ず正面に立つように回り込んでいるのだ。

 本来、二対一で戦う場合は挟み撃ちなどして、同時に対応できないように動くのが普通だ。さらに幻獣の攻撃は舌か、尻尾の二択だけだ。舌の攻撃範囲である正面にわざわざ立つなど、普通に考えれば自殺行為だ。そして、アルフィンたちに戦いの助言を送ったロドルフォがそれに気づかないはずがない。

 

「幻獣の正面。つまり、顔に何か秘密が?」

 

 二人はロドルフォが殴り続ける幻獣の顔を集中して観察する。

 

「……あ! 額の方!」

 

 アルフィンは何かに気づいて、指を差す。幻獣の額。そこには、うっすらと亀裂のような傷跡があった。

 

「あの傷って、いつから?」

「……ひょっとして、最初の時の?」

 

 ドームに入った直後、自分たちに向かって発砲したロドルフォの銃弾が幻獣の身体を貫いて、血を流していた。

 

(あの時は攻撃が通じた?)

 

 その時と今の違い。それに気づいたアルフィンは懐の中を探る。

 

(もしも、私の考えが正しいのなら、()()が必ず必要になる! 今、私の手持ちにあるのは……?!)

 

 アルフィンはポケットから何かを取りだす。その後、エリゼに駆け寄り、彼女の耳元で何かを囁いた後、取りだしたものを託す。

 

「気づいたみたいだな……。オランピア、陽動を続けるぞ」

「はい!」

 

 横目でアルフィンたちのやり取りを見たロドルフォはオランピアに指示を送る。

 ロドルフォは正面から迎え撃つスタンスをやめて、距離を取って銃を構える。

 

「挟み撃ちにして、注意を引きつける」

 

 銃弾を放って、幻獣の意識を向けるロドルフォ。銃弾は幻獣の身体に弾き返されるが、ロドルフォは撃ち続ける。

 

「やぁあ!」

 

 一方、オランピアは幻獣に一太刀を与えた後、一歩引いてもう一度切り込む。

 《戦術リンク》を使い、お互いの行動を把握する二人は高度な連携で幻獣を引きつける。

 

「そこです!」

 

 幻獣の意識がロドルフォたちに向いた瞬間、死角から忍び寄ってきたエリゼが幻獣に向かって茶色い袋を投げつける。袋が幻獣とぶつかると中に入っていた白い粉が幻獣の周りに飛び散る。

 

「離れてください!」

 

 エリゼが下がると同時にオランピアとロドルフォも幻獣から距離を取る。幻獣は全員が遠くへと離れていくのに気づくと、身体を少しずつ透かしていき、景色に溶け込んだ。

 

「残念ですが、見えていましてよ!」

 

 アルフィンは幻獣が消えた場所に魔導杖を向ける。そこには先程投げた白い粉の一部が上下左右と不規則に動いていた。

 

「あくまで透明にできるのは身体だけ。身体に付着している血や粉までは透明できないようですね!」

 

 幻獣が現れる前に見た光景を思い出したアルフィンは、自分の予想が的中して笑みを浮かべる。

 

「《エアストライク》!」

 

 そして、駆動をすでに終えたアーツを幻獣に放つ。圧縮された風の塊が空気を貫く。そして、白い粉が舞う場所に辿り着くと何かに激突して、大きな悲鳴が上がる。

 

「やっぱり、ステルス状態の時は防御力が落ちるようですね!」

 

 ロドルフォの最初の銃撃の時、幻獣の身体はステルスで見えなくなっていた。その時に当たった銃弾は幻獣の身体を貫き、姿を現した時の頑丈さはまるでなかった。

 ロドルフォが正面からぶつかって気づかせてくれた、唯一の傷跡からアルフィンは幻獣の弱点を見破ることができた。

 

「皆さん! このまま一気に畳みかけます!」

 

 アルフィンの声にエリゼが跳び込む。引き抜いた細剣を水平に構えて、連続の刺突を放つ。

 

「そこです!」

 

 一歩引いて、鋭い斬撃を幻獣にぶつける。ステルスとなって姿が見えない幻獣は悲鳴を上げて、血を吹き出す。

 

「輝け」

 

 オランピアは黄金の太刀に手を添えて、金色の光が灯す。そして、幻獣に一気に近づく。

 

「光嵐!」

 

 連続で三つの斬撃を放ち、最後は螺旋を描くように身体を捻った強烈な一撃を放つ。

 怯む幻獣にロドルフォが走る。幻獣はふらつきながらも、彼に向かって舌を射出する。

 

「狙いが雑になっているぞ」

 

 しかし、その一撃は簡単に躱され、ロドルフォはその舌を掴み取った。

 

「エリゼ、剣を!」

「はい!」

 

 エリゼは自身の細剣をロドルフォに投げる。ロドルフォは細剣を掴み取り、舌を頼りに幻獣の正面まで移動する。

 

「外は確かに硬くできるかもしれないが、中までは硬くできないだろう」

 

 幻獣の口をと手と足を使って大きく開かせたロドルフォは、細剣を構える。

 

「柔らかい舌を伸ばすことができなくなるからな」

 

 そして、剣を持った手を幻獣の口の中へと突き刺した。腕を引き、もう一度入れる。そこから、何度も何度も口の中へと細剣を突き刺していき、幻獣の血がロドルフォに飛び散っていく。

 

「おまけだ」

 

 離れると同時に掴んでいた舌を細剣で引き裂く。エリゼの隣に立ったロドルフォは血でドッペりと付いた細剣をエリゼに返す。

 

「エリゼ。アルフィンからもらったあの粉は何だ?」

 

 嫌そうな顔で細剣を手に持ったエリゼはロドルフォに粉の正体を教える。

 

「あれは小麦粉です。生徒会の手伝いの時にもらったと聞いています」

 

 ロドルフォはその話に心当たりがあった。今日の午前中にアルフィンと一緒に手伝った食材の配達。それを終えて、学生食堂のラムゼイから手伝ってくれた報酬として受け取ったものだ。

 粉の正体が小麦粉だと知り、ロドルフォは嫌な予感に眉を潜ませる。

 

「さぁ、これで終わりにしますよ!」

 

 そして、その嫌な予感は大いに的中した。

 

「このままウェルダンにしてあげますわ!」

「なっ! バカ、やめろ!」

 

 アルフィンの言葉にすぐに制止を呼びかけるロドルフォ。しかし、気分が高まっていたアルフィンには届かず、アーツを放つ準備を整えてしまう。

 

「くっ! リィン! 皆を連れて、ここを離脱しろ!」

「何だって?」

「このままだと、全員丸焼きだ! 急いで、部屋を出ろ!」

 

 鬼気迫るロドルフォの勢いに押されえ、リィンはすぐにエリゼとオランピアを連れて部屋を出る。そして、ロドルフォはアーツを放とうとするアルフィンの方へ全力で走り込む。

 

「喰らいなさい! 《ゼルエル・カノン》!」

 

 幻獣の頭上に赤い球体が現れる。球体から高温の熱が収束し、小麦粉が宙を舞っている中で佇む幻獣に向かって炎が放たれた。

 瞬間、強い光と共に部屋が大爆発した。




 久しぶりに投降したけど、お気に入りの人数が減ってしまって少し落ち込んでしまいました。
 ですが、諦めずに頑張っていきます!
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