英雄伝説 閃の軌跡2.5 ~Trajectory of mavericks~   作:魔ギア

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第十三話 機甲兵教練

 実技テスト当日。

 青い空には晴天が昇っており、絶好の実技テスト日和だった。

 アルフィンたちは学院のグラウンドに集まり、実技テストに取り組んでいた。

 

「よし、実技テストはこれで終了だ」

 

 テストを一通り終えたグランは腕を組んで、アルフィンたちは《Ⅶ組》を眺めていた。

 

「はぁ……、はぁ……」

「結構……、きつかった……」

 

 アルフィンとリアムは手を膝に着けていた。《Ⅶ組》の中でも一際、体力が少ない二人は必死に息を整えていた。

 

「う~~ん。ちょっと呆気なかったかな?」

「同感だな。もうちょっと骨のあるもんを期待していたんだがな」

 

 手を頭の後ろで組んでいるシャーリィはつまらなさそうに愚痴をこぼし、メイはポケットから取り出したココアシガレットを咥えて、鼻を鳴らす。

 

 実技テストの内容は、学院が用意した機械人形――戦術殻との模擬戦だった。

 とはいうものの、単純な戦力を計るためのテストではなく、戦いの中でアルフィンたちがどのように動くのかを評価対象となっている。

 特に《戦術リンク》を重点に評価しており、戦いにまだ慣れていないアルフィンやリアムでも高い点数をとれるような内容だ。

 逆に戦いなれているシャーリィたちにとっては物足りなかったようだ。

 

「開始早々に戦術殻をぶち壊す奴がいるか。まさか、二つもダメになるとはな」

「あれでシャーリィを何とかできるなんて、甘すぎじゃない」

「そもそも、実力を計るためのテストじゃない! はぁ、後で始末書だな」

 

 深くため息を吐くグランに同情の眼差しが集まる。壊した張本人であるシャーリィとメイは、どこ吹く風と言う顔だ

 

「まぁ、過ぎたものを気にしても仕方がない。このまま次の授業を始めるぞ。アルフィン、リアム。休憩もそのくらいにいしろ」

「は、はい……」

「わかりました」

 

 膝から手を放して、全員が自分の方を見ているのを確認したグランは顔つきを険しくする。

 

「それでは、これより《機甲兵教練》を始める」

 

 今年から始まる新たな授業。アルフィンたちの緊張感が高まる中、グラウンドの端に新たに建設された格納庫の扉が開いた。

 

「おでましか」

 

 ロドルフォは格納庫から出たそれを見上げる。

 汎用型機甲兵『ドラッケン』。その体躯に合ったブレードと盾を両手に装備して、足に搭載されたローラーを転がしながら、二体のドラッケンがアルフィンたちの前で停止する。

 機甲兵は膝を着いてコックピットを開く。そこから二人の男が降りてきた。

 

「ナイトハルト教官だ」

 

 教官の一人を見てウィリアムが呟く。

 帝国軍第四機甲師団所属にして、学院では軍事学を教えている金髪碧眼の男――ナイトハルト教官。そして、もう一人は、

 

「え、うそっ!」

 

 アルフィンは出てきたもう一人男の姿を見て声を上げる。

 眉間に皴を寄せて険しい表情を浮かべる、ナイトハルトにも負けない身体をした茶髪の男性。

 

「ミュ、ミュラーさん!」

 

 ヴァンダール子爵家、長男――ミュラー・ヴァンダールがナイトハルトの隣に立った。

 

「お久しぶりです、アルフィン殿下。本日は『機甲兵教練』の臨時教官として、こちらに参りました」

「ど、どうしてミュラーさんが! お兄様の護衛はどうなさったのですか!」

 

 ヴァンダール家は代々、皇族を守護する武の一門として有名であり、ミュラーはアルフィンの兄である帝国の第一皇子――オリヴァルト・ライゼ・アルノールの専属護衛なのである。

 そんな彼が護衛対象から離れて、なぜここにいるのか。

 

「姉貴から聞いていたが、本当の話だったか」

「メイさん、何か知っているのですか?」

 

 アルフィンに続いて、全員がメイに視線を集める。視線に気づいたメイは咥えていたココアシガレットを噛み砕いた。

 

「帝国中央議会でヴァンダール家を皇族の守護職から解任するっていう話が上がったそうだぜ」

「そ、それは本当なのですかっ!」

 

 アルフィンは振り向いて、ミュラーに問い詰める。彼はは一言も喋らずに、ただ頷くだけだった。

 

「ど、どうして、そのような……」

「さぁな。まだ、案が出ただけでまだ決まってねぇみてぇだが、あんたがここにいるってことは、そういうことなんだろう」

「君は……、まさか、あの時の……」

 

 ミュラーはメイの姿をじっと見つめて、目を見開く。

 

「久しぶりだな。《放蕩皇子》は元気にしてんのか?」

「あぁ。相変わらずのお調子ぶりに頭を抱えるばかりだ」

「はっ、やっぱ、その程度じゃ折れねぇか」

「メイさん。入学式でも思ったのですが、お兄様とミュラーさんとお知り合いなのですか?」

 

 入学式の特別オリエンテーリングで、メイはオリヴァルトの通り名である《放蕩皇子》の言葉を口にしながら、どこか知っているようなセリフを吐いていたことを思い出す。

 

「内戦の時にオルディスで出会ってな。手を組んで《貴族連合》のバカ共を黙らせたんだよ」

「ちょっと待て、メイ。オーレリア将軍は《貴族連合》に所属していたんだぞ。将軍の弟である貴殿が《貴族連合》と対立しているのは、おかしくないか?」

 

 内戦の時に《貴族連合》と対抗していたオスカーはメイの話に疑問を抱く。

 

「姉貴がカイエンのジジィの所に行っている間、俺が領邦軍を指揮してたんだよ。姉貴からは『お前の好きにするがいい』なんて言ってたからな。あいつらのやり方が気に入らなかったから、反逆してやったんだよ」

「は、反逆って……、大丈夫だったのですか?」

「姉貴が帰って来た時は、高笑いするだけで終わったよ」

 

 恐る恐る聞いたエリゼの質問にメイはしれっと答える。その答えに全員が顔を引きつっていた。

 その様子に苦笑いするミュラーはメイから視線を外して、一人の少女に目を向ける。

 

「それと、君の方も久しぶりだな」

「はい。お久しぶりです」

 

 オランピアはミュラーに向かって軽く会釈する。彼女もミュラーのことを知っていることにアルフィンは目を開くのだった。

 

「ゴホンッ!」

 

 すると、そこにナイトハルトがわざとらしく咳をする。

 

「ミュラー、積もる話は後にしろ」

「そうだな。初めて会う者もいるから、自己紹介をさせてもらう」

 

 ミュラーは《Ⅶ組》メンバーの前に出る。

 

「帝国軍第七機甲師団所属のミュラー・ヴァンダール中佐だ。この度は『機甲兵教練』の臨時教官として、ナイトハルト教官と共に操縦訓練の指導に携わる。よろしくお願いする」

「それではこれより、『機甲兵教練』を開始する。まずは半分に分かれて班を作れ。私とミュラー教官がそれぞれの班に指導を行う」

 

 ミュラーの方には、アルフィン、オランピア、メイ、ウィリアム、カグヤが行き、残った、エリゼ、シャーリィ、リアム、オスカー、ロドルフォはナイトハルトが指導することになった。

 班が決まり、早速、訓練が始まる。まずはウィリアムとエリゼが、それぞれに用意されたドラッケンに搭乗する。

 

「シュバルツァー! 常に体勢を維持しろ! 少しでもずれれば、そのまま横転するぞ!」

『は、はい!』

 

 ドラッケンを見上げながら 咤するナイトハルト。エリゼは機甲兵を必死に動かすが、思った通りに動けず、重心が揺れていた。

 

「ミルスティン。足元を見ずに前を見ろ。蛇行していて、真っ直ぐに進んでおらんぞ」

『そう、言われましてもっ』

 

 離れたところでミュラーが機甲兵に乗っているウィリアムに声をかける。ウィリアムは一歩前に踏み出すが、重心がずれて横に行ってしまう。

 訓練の内容は歩行訓練。五百アージュの距離を真っ直ぐ進めばクリアという内容だった。

 しかし、初の搭乗である二人はまだ操縦に悪戦苦闘しており、知らずに方向転換してしまうことが何度も起きていた。だが、ナイトハルトたちは決して妥協はせずに彼女たちを徹底的に指導していた。

 

「交代だ! シュライデン、出ろ!」

「こちらも交代する。アトソン、次は君が出るんだ」

 

 五百アージュの距離を何とかクリアしたエリゼたちはドラッケンを膝立ちにさせて、コックピットから降りてきた。操縦して十分くらいしか経っていないにもかかわらず、二人の額からは大量の汗が流れていた。

 

「つ、疲れました」

「エリゼ、お疲れ様」

 

 身体を前屈みにするエリゼにアルフィンは用意した二つあるタオルの一つを渡す。交代で乗ったオスカーとカグヤが教官たちに指導している中、残ったメンバーはエリゼたちの下に集まる。

 

「ウィルさんもお疲れ様です。機甲兵の操縦はどうでしたか?」

 

 アルフィンはもう一つのタオルをウィリアムに渡す。彼は受け取ったタオルを顔に押し付けて、汗を拭う。

 

「そうだね。思ったよりも体力を使ったよ。エリゼの方はどうだった?」

「私も同じですね。一応、操縦方法は予習をしていたのですが、実践だとかなり違いますね」

「そりゃあそうだよ。シャーリィたち猟兵だって、武器を使いこなすのに相当な訓練を積むんだから。もし、最初の段階でマスターできる人がいるなら、もう天才だよ」

 

 シャーリィは振り向いて訓練の様子を見る。オスカーたち二人はエリゼたちに比べると、動きは良かったが、まだぎこちなさが残っていた。

 

「エルピス、次は君だ」

「オルランド、前に出ろ!」

「お! やっと、シャーリィの出番か!」

 

 好奇心旺盛の猫のように機甲兵に駆け込むシャーリィ。オランピアは一度、深呼吸をして後に続いた。

 

「それじゃあ、行っくよーー!」

 

 シャーリィは最初の四人と比べると重心にブレがなかった。機甲兵の操縦を難なくこなし、スムーズに五百アージュを進んで課題をクリアしてしまった。

 

「さすが、シャーリィさんですね」

「うん。僕たちよりも機甲兵を乗りこなしている」

「猟兵としての経験からでしょうね」

「くっ……」

 

 見学していたエリゼ、ウィリアム、カグヤはシャーリィの腕前に声を漏らすのに対して、オスカーは悔しそうに顔を顰めていた。

 

「ふぅ……、何とかいけました」

「オランピア、お疲れ~」

 

 ちょうどその頃、オランピアも課題をクリアし、シャーリィからタオルを渡されていた。

 

「最初にしては上手くいったね」

「はい。エリゼさんたちに事前にアドバイスをもらいましたので」

 

 オランピアはシャーリィほどではなかったが、何とかバランスを保ちながら五百アージュを歩くことができた。

 次にメイとロドルフォの番になった。黙々とコックピットに乗った二人は驚くことにシャーリィよりも早く、課題をクリアしてしまった。

 どうして、早くできたのか二人に問い詰めると、

 

「ここに来る前に姉貴に操作方法を叩きこまれたんだよ。何度も地面に叩きつけられて、何度も吐きそうになったぜ」

 

 普段、弱気の所を見せないメイが珍しくゲッソリした顔をしていた。姉オーレリアとの訓練を思い出してしまったのだろう。そして、ロドルフォはというと、

 

「あんなもの、誰でもできるだろう」

 

 顔色一つ変えずにそんなことを言い切るのだった。天才がここにいた。

 

「最後! ルサージュ、早く入れ!」

「は、はい!」

 

 ナイトハルトの呼びかけにリアムがドラッケンに乗り込む。

 

「アルフィン殿下。あなたが最後です」

「わかりました」

 

 ミュラーに呼ばれ、アルフィンもドラッケンに乗り込むのだった。

 

「ここが機甲兵のコックピット。思っていた以上に複雑じゃなさそうですね」

 

 リアムは席に座り、周辺にある装置を一つ一つ調べる。

 だが、それも当然かとリアムは一人で納得する。あまりに複雑だと操縦が難しくなり、動きがワンテンポ遅れてしまう。実践になればそれが命取りになってしまう。

 

『ルサージュ。準備はいいか?』

「はい。問題ありません」

 

 初の操縦だが、動かし方は事前に予習しており、頭の中に入っている。先に操縦した八人の動きもしっかりと観察しており、注意点もだいたいは掴んでいた。

 

「行きます!」

 

 リアムのドラッケンが動き出す。淀みなく真っ直ぐと進んでいき、その動きはロドルフォたちよりも速い。

 

「ほぉ……」

「へっ、やるじゃねぇか」

 

 ロドルフォとメイがリアムの動きに感嘆の声をもらす。自分たちよりも速く、精練された動きに皆が釘付けだった。

 気づいたら、500アージュを完走していた。

 

「どうでしたか、ナイトハルト教官」

 

 集中が切れて、息を整えるリアムはこちらを見上げてくるナイトハルトをモニター越しに見る。ナイトハルトは目を開いていたが、すぐに満足そうに頷いた。

 

『文句なしの合格だ。やるな、ルサージュ』

「はは。上手くやれて良かったです」

『お疲れ様です。リアムさん』

 

 新たなモニターが映し出される。そこにはミュラーに指導してもらっているアルフィンの姿が映し出されていた。

 

「アルフィンさんもお疲れ様です。今、着いたんですか?」

『いえ、リアムさんよりも先に到着して、待っていました』

「……え?」

 

 アルフィンの発言に思わず声を漏らしてしまうリアム。自分が発進する時、アルフィンはまだ準備をしている段階だった。にもかかわらず、アルフィンは自分よりも速く五百アージュを完走した。それはつまり……

 

「先に行っていた僕を追い越したってことですか?!」

 

 操縦に集中していて気づかなかった。いや、そういう問題ではない。

 財団所属のリアムは機械関連にはとても強く、本人も今回の訓練にはかなりの自信があった。それこそ主席のロドルフォよりも高い成績を叩き出せるほどに。だが、アルフィンはそれ以上の成績を叩き出したのだ。

 

『最初は少し手をこまねきましたが、何となくコツが掴めましたので、今はご覧の通り』

 

 アルフィンがドラッケンを動かす。

 ローラーを使った走行。突然の急カーブ。跳躍して、見事な着地。その動きに躊躇いがない。無駄がなく、自分やロドルフォよりも遥かに精練された動きだった。

 

「うっそ。ロドルフォ以上の天才がいた」

「完全にマスターしてやがるな。ウォレスの旦那よりも筋がいいぞ」

 

 アルフィンの動きにシャーリィとメイが脱帽する。二人だけでなく、他のⅦ組メンバーも言葉を失っていた。

 

「まさか、アルフィン殿にこのような才能があるとは」

「人は見かけによりませんね」

 

 オスカーは驚きながらも尊敬した眼差しを見せ、カグヤはニコニコと微笑んでいた。

 

『アルフィン殿下、お戯れはそのくらいに。そろそろ訓練が終わります』

『あ、はい。わかりました』

 

 その後、アルフィンとリアムがドラッケンに乗ったまま格納庫へと片付ける。ミュラーたちが立ち去ったのを確認したグランは自分たちの前に集まったⅦ組一同を確認して、話に入る。

 

「それでは、これより今週末に行われるⅦ組ならではのカリキュラム《特別実習》の内容を発表する。エリゼ、皆に資料を渡してくれ」

「はい」

 

 エリゼはグランから渡された資料を全員に配り、アルフィンたちは資料に書かれている内容を確認する。

 

 ―――――

 

【4月特別実習】

 A班:アルフィン、エリゼ、オランピア、ウィリアム、ロドルフォ

   (実習地:交易地ケルディック)

 

 B班:カグヤ、シャーリィ、メイ、オスカー、リアム

   (実習地:歓楽都市ラクウェル)

 

 ―――――

 

「ケルディック……」

「姫様、大丈夫ですか?」

「え、えぇ。大丈夫よ」

「姉さんから聞いたことがあるけど、去年の内戦のことを思い出していた?」

「はい……」

 

 実習先を見たアルフィンは顔を強張らせる。それをエリゼとウィリアムが心配そうに見つめるのだった。

 

「ケルディックはロドルフォがよく行っているという場所ですよね? 交易地ということは、商売が盛んなのですか?」

「あぁ、交通の要所だから大抵の物はここに集まる。実習ついでにいろいろと買い込むか」

 

 いつぞやのホームルームでのやり取りを思い出したオランピアはロドルフォに問いかける。彼は彼女の質問に答えながら、ケルディックで買う食材などを頭の中でリストアップしていた。

 

「ラクウェルといえば、オルディス近くの歓楽都市だったな」

「オルディスというと、確かメイさんのご実家があるところですよね?」

「まぁな。さっそく帰郷することになるなんてな」

 

 一方、B班ではオスカーの呟きにリアムが隣にいるメイに問いかけると、彼は嫌そうな顔を浮かべるのだった。

 

「ラクウェルか……。そういえば、あの店があったね」

「シャーリィさん、行ったことがあるのですか?」

「まぁね。(赤い星座)《うち》が経営している店があるんだよ。メイは知ってるでしょ?

 

  カグヤに質問されたシャーリィは肯定しながら、メイの方に振り向く。それにメイは心当たりがあったのか、頷いた。

 

「あの店か……。カイエンのジジィや、バラッドのオッサンがよく足を運んでいたな」

「お前たち、話はまだ終わってないぞ」

 

 グランは話を中断させて、こちらを見るように呼び掛ける。

 

「実習期間は二日。鉄道を使って現地に赴き、そこで与えられた課題をやってもらう」

 

 グランの話にエリゼが質問する。

 

「課題と言うのは、具体的にどういったものが?」

「その地域ならではの内容だ。課題の内容を見て、それをやるかやらないか。お前たちの裁量で判断しろ」

「課題を……やらない?」

 

 そんな選択肢があるのかと全員が疑問を浮かべる中、グランは話を閉める。

 

「課題を通して今の帝国を自分たちの目で見極めろ。実りのある実習になることを祈っている。以上だ」

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