英雄伝説 閃の軌跡2.5 ~Trajectory of mavericks~   作:魔ギア

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第十四話 交易町ケルディック

 七耀歴1205年4月20日。特別実習一日目。

 朝を迎えたアルフィンたち二代目Ⅶ組は早速、実習地へと向かうためにトリスタ駅舎内へと集まっていた。

 

「では、B班の皆さんは一度、オルディスに降りるのですね」

 

 列車が来るのを待つ中、アルフィンはエリゼと一緒にこれからラクウェルへと向かうメイに話しかけていた。

 

「あそこには鉄道が通ってねぇからな。オルディスに降りて、車か馬で行くしかねぇ。そこらへんは先公が準備してんだろうよ」

「ラクウェルは猟兵たちもよく来ると聞く。夜は出歩かないように気を付けておけ」

 

 アルフィンたちの横でロドルフォがカグヤに朝食を入れたバケットを渡しながら、メイたちに注意を呼び掛ける。だが、それに対して、メイは鼻で笑うのだった。

 

「はっ……、そんなヘマをするかよ。あそこは俺の庭のようなもんだからな。それにこっちにはあいつがいるんだ。喧嘩を売るようなバカはいねぇだろう」

「……それもそうだな」

 

 ロドルフォとメイは、離れた場所でリアムと話すシャーリィを見る。

 大陸西部最強の猟兵団《赤い星座》の《血染め》。猟兵の世界で名を上げている彼女に喧嘩を売る猟兵など、まずいないだろう。

 そんなシャーリィだが、リアムに何かを吹き込んでおり、顔を真っ赤にするリアムをオスカーがかばっていた。

 

「……何をしているのでしょうか?」

「たぶん、大人の夜の話をしたんだろう。年相応でまだまだ初心だな」

 

 カグヤの疑問に対して、メイはリアムの様子に苦笑いしながら答えるのだった。 

 

「大人の……」

「夜の話……」

 

 そして、メイの話に何を想像したのか、アルフィンとエリゼが顔を赤くしていた。

 

「オランピアさん、大人の夜の話とはどういうことですか?」

「えぇ! えっと、それは……」

 

 アルフィンたちの話を立ち聞きしていたウィリアムは話の内容が理解できず、隣にいるオランピアに質問する。それに彼女はどう答えればいいのかわからず、アルフィンたちと同じく顔を赤くして、言葉を詰まらせていた。

 その時、駅舎内にアナウンスが鳴り響いた。

 

『まもなく二番ホームに帝都行き旅客列車が到着します。ご利用の方は、連絡階段を渡ったホームにてお待ちください』

 

「時間のようですね」

「チケットは俺の方で買う。カグヤ、あいつらを呼んでこい」

「わかりました。それではアルフィンさん、エリゼさん。お二人もお気をつけて」

「はい。カグヤさん、メイさんも。またトリスタで会いましょう」

「テメェらもな」

 

 カグヤたちは離れていたシャーリィたちを引き連れて、改札口を通るのだった。

 残ったアルフィンたちA班は一か所に集まる。

 

「俺たちもそろそろ行くか」

「そうですね。まずは駅員に乗車券を購入しに行きましょう」

 

 アルフィンは駅員の方に向かうが、ロドルフォがそれを制止する。

 

「それは俺がやっておく。お前たちはあいつの相手をしてやれ」

「あいつ?」

 

 首を傾げるエリゼにロドルフォは首で何かを指すように動かす。振り向くと、駅の入り口から一人の男が中に入ってきた。

 

「に、兄様!」

 

 エリゼの兄、リィン・シュバルツァーだった。彼はいつもの制服ではなく、私服姿で、彼女たちに近づいてきた。

 

「どうして兄様がこちらに?」

「エリゼたちを見送るために決まっているだろう。……B班はもう行ってしまったのか」

「えぇ、先程、出発いたしました。ひょっとして、何か伝言があったのか?」

「いや、特にないけど、せめて一言、声をかけたかったんだが……」

 

 手を頭の後ろに持っていき、寂しそうに呟くリィン。それを見たアルフィンは何やら含みのある笑みを浮かべて、リィンに近寄る。

 

「リィン先輩♪ エリゼに何か言う事はありませんか?」

「え?」

「……『エリゼ、お前が傍にいてくれないと夜も眠れないんだ。ケルディックなんか行かずに、俺の傍にいてくれ』とか♪」

「なっ! ひ、姫様!」

「あはは……」

 

 からかわれたエリゼは顔を真っ赤にしてアルフィンを睨みつける。だが、当のアルフィンはどこ吹く風と言う顔だった。そのやり取りを見たリィンはどこか懐かしむように微笑んでいた。

 

「殿下、エリゼ。どうか実りのある実習を。特別実習では学院では学べないことがたくさんあります」

「リィン先輩がそうだったようにですか?」

「はい。俺……、いや、俺たちはそうやって成長してきました」

 

 リィンの頭に過るのは昨月まであった喧騒な日常。時にはぶつかり合い、協力し合いながらも共に困難を乗り越えてきた仲間たちの姿を。

 

「皆、特別実習のことで俺から何かを教えることはできないが、少しだけアドバイスを送るよ」

 

 リィンは切符を買っているロドルフォを除いた四人に目を配る。

 

「入学して約一ヶ月。まだ、そこまで仲がいいというわけじゃないかもしれないが、君たちはもう同じクラス、同じⅦ組の仲間だ」

「仲間……」

「あぁ。この特別実習を成功するための仲間だ。特別実習は決して一人で片付けられるものじゃない。仲間と切磋琢磨して、問題と向き合い協力し合うんだ」

 

 実際、リィンたちもそうだった。誰か一人でも欠けていたら特別実習は成功していなかった。あの時、信頼できる仲間が隣にいたからこそ、彼らはどんな試練も乗り越えることができた。

 

「ただ課題をこなすんじゃなく、それを通して多くのことを学んでほしい。実習先で君たちの成功を祈っている」

『……はい!』

 

 アルフィンたち四人は力強く答える。そこに切符を買ったロドルフォが戻ってきた。

 

「時間だ。そろそろ行くぞ」

「わかりました。それではリィン先輩、行って参ります」

 

 アルフィンに続いて、エリゼたちもリィンに一礼をして改札口へと向かった。

 

「ロドルフォ」

 

 最後尾のロドルフォにリィンが声をかける。ロドルフォは首だけを後ろへと向ける。

 

「殿下とエリゼを頼む」

 

 真剣な眼差しを向けるリィンを黙って見つめるロドルフォは小さく頷いて、アルフィンたちの下へと向かうのだった。リィンは彼らの後ろ姿を見ながら、手を振って見送るのだった。

 

「お見送りはすみましたか?」

 

 すると、駅の入り口から一人の少女が入って来た。

 ウサギのような長い耳が付いた黒いフードを被った銀髪の少女。その顔は可愛らしく、精巧に作られた人形のようだった。

 

「あぁ。すまない、待たせたか?」

「いいえ。それほど待っていません」

 

 顔色を一つ変えない少女にリィンは苦笑いをする。彼は少女に近づいて、そっと頭を撫でるのだった。

 

「時間を作ってくれてありがとう。おかげでエリゼたちを見送れた」

「お気になさらず。……それと、いきなり頭を撫でないでください」

「あ……、す、すまない」

 

 すぐに彼女の頭から手を離すリィン。撫でられた頭に手を置きながら、少女は彼を見上げる。

 

「やはり不埒な方ですね」

「そ、それより、今日の要請(オーダー)は何なんだ?」

 

 無表情だった目つきが細くなり、軽蔑するような視線をリィンに送る少女。その視線に耐えいきれなかった彼は慌てて話を変える。

 

「バリアハート方面の地下水道で魔獣が大量発生したとのことです。今のところ被害は出ていません」

「そうか。だが、放置するわけにはいかないな」

 

 リィンは腰に添えた太刀に手をかけて、真剣な顔つきへと変える。

 

「行こう、アルティナ」

「了解しました」

 

 リィンは少女――アルティナを引き連れて駅を出るのだった。

 

 

 ~~~~~

 

 

 ゼムリア大陸の東西を横断する大陸横断鉄道。クロスベル方面行きの列車に乗ったアルフィンたちは、向かい合う形で座席に座り、ケルディックへと目指していた。

 

「ロドルフォさん、最後に兄様と何か話していましたか?」

 

 アルフィンを挟んで通路側の席に座るエリゼが、反対側の席で向き合う形で座るロドルフォに話しかける。腕を組んで目を瞑っていたロドルフォはゆっくりと目を開けた。

 

「大したことはじゃない。単にお前とアルフィンを頼むと言われただけだ」

「え、それだけなのですか?」

「あぁ。余程お前たちのことが心配なんだろうな。愛されててよかったな」

「あ、愛されているなんて……」

 

 半目でからかうロドルフォに顔を赤くするエリゼ。その様子を隣で見ていたアルフィンはニヤッと口角を上げる。

 

「ほんと、エリゼとリィン先輩は仲がいいわね。兄妹というより、どちらかというと恋人に見えてしまうわ♪」

「こっ……! ひ、姫様!」

「あはは……、でも兄妹仲がいいのは悪いことではないですよ。ちょっと懐かしく感じます」

「あら、もしかしてオランピアさんにもご兄妹が?」

 

 アルフィンの質問に対して、窓側に座っていたオランピアは頷く。

 

「はい、といっても義理の兄妹です。わんぱくな弟と物静かな妹。双子なのに性格も全然違って、最初は手を焼くことがいっぱいありました」

「わかりますわ。私の弟のセドリックも少し引っ込み思案なところがありますし、お兄様も羽目を外し過ぎるところがありますから」

「兄弟ってそういうものだと思うよ。エマ姉さんも無茶して、セリーヌやお義母さんに怒られていますから」

 

 兄弟の話に花を咲かせていたその時、アルフィンはふとあることに気づいた。

 

「そういえば、ここのメンバーは全員、兄弟姉妹がいますね」

「あぁ、そういえば、そうでしたね」

 

 エリゼも気づいたのか、同意の声を出す。一方でウィリアムは目を丸くする。

 

「えっと、エリゼにアルフィン、オランピアの三人は知っているけど、ロドルフォもそうなの?」

「あぁ。妹が一人な。今はユミルを離れてメイドになって働きに行っている」

「メ、メイドですか? それは初耳です。でも、どうして?」

「学費を稼ぐためらしい。男爵閣下のところだと、あの人が学費を払うと言い出しかねないからな」

 

 思わず聞き返してしまうエリゼにロドルフォは答える。その時、彼は何かを思い出したのか、話題を変える。

 

「男爵閣下といえば、内戦の時に重傷を負ったと聞いたが、本当なのか?」

「あ……、はい。ユミルに猟兵が来まして、その時に……」

「その猟兵というのは、《北の猟兵》か?」

「その通りですが……、あ、そういえば、ロドルフォさんは……」

 

 エリゼはロドルフォの出身地を思い出す。それに気づいた彼は首を横に振る。

 

「気にするな。ノーザンブリア(あそこ)には特に思い入れはない」

「ロドルフォさんは《北の猟兵》のことを……」

「あの国で知らない奴はいない。何せ英雄として称えられているからな」

「英雄、ですか?」

 

 英雄という言葉にアルフィンは思わず聞き返してしまう。

 彼女が真っ先に思い浮かぶのは、自分たち先輩であり、エリゼの兄であるリィンだった。

 だが、猟兵団が内戦でしてきた所業を思い出していたアルフィンは、彼らがリィンと同じように英雄として称えられていることに、どこか納得ができない様子だった。

 

「経済が非常に貧しい場所だ。たとえ血塗られたミラであろうと、自分たちを守り、養ってくれるあいつらを英雄と見ていてもおかしくないだろうさ。まぁ、それを知らないというだけかもしれないが」

「ロドルフォさんは《北の猟兵》の活動をどう思っているんですか?」

 

 静観していたオランピアがそう尋ねると、彼は目を伏せる。

 

「故郷を復興しようとする気持ちを否定するつもりはない。だが、それを大義名分にして略奪や虐殺をしていい理由にはならない」

「たしかに、その通りですね」

「それに英雄だと? 笑わせる」

「え……」

 

 ロドルフォの顔つきが変わる。その目には強い嫌悪が籠っていた。

 

「英雄という言葉に目が眩んで、誰もそいつのことを見ていない。そいつらが何のために戦って、本当はどう思っているかなど、民衆にはどうでもいいのさ」

「ど、どうでもいいって……」

「実際にそうだ。自分たちに都合のいいことをすれば褒め、逆に都合が悪いときは罵倒する。それが気に入らない奴なら特にな」

「ロドルフォさん?」

 

 苛立ちをこみ上げているロドルフォにエリゼとアルフィンは心配そうに見つめる。

 

「それはリィンも同じだ」

「兄様も?」

「あいつのことを知っている俺たちや二年の先輩たちは、あいつのことをリィン・シュバルツァーとして見ている。だが、一年のほとんどはあいつのことを《灰色の騎士》としてしか見ていない」

 

 彼の言葉にエリゼは黙ってしまう。

 一年生がリィンの話をしている姿はよく見かける。だが、エリゼはその話をあまり耳にしたくなかった。

 

(兄様の話なのに、誰も兄様を見ていない……)

 

 リィンの話のはずなのに、まるで他人の話を聞いているような違和感があった。

 どうしてなのかと疑問を抱いていたが、ロドルフォの話でその理由がようやくわかった。

 

「国を救った英雄として見られている今はいいが、もしも、あいつが国の方針に背くような行為をすれば、あいつは英雄から裏切り者に成り下がる」

「なっ、そのようなことは!」

「ありえるんだ。俺はその光景をこの目で見たことがある」

 

 遠い目をするロドルフォはそれ以降、口を開くことはなかった。すると、同時に列車のアナウンスが鳴った。

 

「到着したみたいですね」

 

 アルフィンたちは列車から降りて、駅を出る。

 降りた先に広がるのは、楽しそうな喧騒が広がる綺麗な町並み。

 新聞配達をしている少年や、買ったものを見せ合う女性たち。そして、駅正面にある商店が並んでいる広場に吸い込まれるように入って来る人々の姿があった。

 

 交易町ケルディック。広大な穀倉地帯の中心に位置する、各種交易が盛んな町。大陸横断鉄道の中継駅でもあり、毎週開かれる大市はかなりの賑わいとなっている。

 

「それでこれからどうするのですか?」

 

 町並みに興味を惹かれていたオランピアだったが、自分たちの目的を思い出して、アルフィンに尋ねた。

 

「たしか、グラン教官が事前に宿泊の予約をしてくれたようです。そこで実習の課題が用意されているようです」

「この町で宿泊できる場所といえば《風見亭》だな。早速、向かうぞ」

 

 ロドルフォが先陣を切って、宿酒場《風見亭》へと訪れる。まだ、昼前にもかかわらず、繁盛している店内。その様子をどこか嬉しそうにアルフィンは眺めていた。

 

「女将、久しぶりだな」

「ん? あら、ロドルフォじゃない! いつ、戻って来たんだい?」

 

 ロドルフォはカウンターの奥で働いている《風見亭》の女将――マゴットに声をかける。ロドルフォの姿に驚くマゴットはすぐに彼に近づいた。

 

「今年の一月に戻って来た。内戦があったと聞いたが、無事のようだな」

「あったりまえよ。あんたも妹二人で外国を渡り歩いていたみたいだけど、元気そうだね」

「あぁ。なかなかに充実した旅だった。おかげで料理のレパートリーが増えたよ」

「ふふふ、そうかい。……おや? あんたの服」

 

 マゴットはここでようやく、ロドルフォが着ている赤い制服に気がつく。

 

「もしかして、あんた、トールズに入ったんかい?」

「あぁ、今日から二日間、ここで実習をすることになった。話は聞いていると思うが」

「もちろん、聞いているよ。去年もやっていたからね。後ろにいるのがあんたの同級生たち……」

 

 マゴットはロドルフォの後ろで待機している残りのA班の皆に視線を向け、固まってしまう。その視線の先にいるのは、金色に輝く髪を下ろした可愛らしい少女。

 

「ア、アルフィン殿下!」

 

 素っ頓狂な女将の声が店内に響く。中にいた客たちがカウンターの方に顔を向けた。

 

「ほ、本物だっ!」

「皇女殿下だ!」

 

 アルフィンの姿を見た途端、驚きと喜びの声で広がった。それに対して、アルフィンは笑顔で手を振るのだった。

 

「……女将」

「あ、ご、ごめんなさいね。まさか、皇女殿下が来ているなんて思ってもいなかったから」

 

 さすがに人目が多いから場所を移動するアルフィンたち。彼女たちはマゴットの案内で予約された部屋に辿り着く。

 

「ひ、一部屋だけですか?!」

 

 辿り着いたエリゼは思わず、声を上げてしまう。部屋に入って最初に見たのは、五人分のベッド。エリゼたちA班のメンバーと同じ数だった。

 

「えぇ。教官の方に念のために聞いたんだけど、一つでかまわないって言ってたから」

「で、ですが、男女が同じ部屋というのは……」

 

 エリゼは顔を赤くして慌てふためく。アルフィンもエリゼほどではないが頬に少し赤みがさしていた。

 

「エリゼ、アルフィン。いろいろと言いたいかもしれないが、士官学院に入った以上、腹をくくれ」

 

 ロドルフォは厳しい口調で二人を嗜める。

 士官学院に通うアルフィンたちは言うなれば、軍人の卵なのだ。今でこそ、就職先が軍以外に広がっているが、そこは変わらない。

 そして、戦場に出れば男も女も関係ない。同じテントで寝床を共にすることもある。

 

「オ、オランピアさんはどう思っているのですか?」

 

 言い返せないエリゼはオランピアに助けを求める。しかし、

 

「私は大丈夫です。エドさんと旅をしていた時は、いつも同じ部屋で寝ていましたので」

「うぅ……、ウィリアムさんは?」

「僕も問題ないよ。実家で男は僕一人だったし、女性との同居は慣れているから」

 

 言葉を詰まらせるエリゼにアルフィンが近寄る。

 

「エリゼ、わがままを言ってはいけないわ」

「姫様……」

「これ以上、皆を困らせるわけにはいかないわ。それに、ロドルフォさんたちがそのようなことをしない紳士であることはわかっているでしょ? ……だから、エリゼ」

「……そう、ですね。わかりました」

「話は済んだかい? それじゃあ、あんたたちにこれをやるよ」

 

 一悶着を終えたアルフィンたちにマゴットは封筒を渡す。表紙にはトールズの校章が描かれていた。

 

「グラン教官が言っていた課題ですね」

「早速、拝見しましょう」

 

 アルフィンが封筒から一枚の紙を取り出し、エリゼたちは横から覗き込んだ。

 

 ―― ― ――

 

 荷物運搬の手伝い

 市場の見回り

 西ケルディック街道の手配魔獣討伐【必須】

 

 ―― ― ――

 

「これが課題ですか?」

「軍務というより、ボランティア活動だね」

 

 軍学校が出す課題とは思えない内容にエリゼとウィリアムは疑念を抱く。一方で、アルフィンは内容を見て、静かに何かを考え込む。

 

「もしかして……」

「姫様?」

 

 沈黙するアルフィンに声をかけるエリゼだったが反応がなかった。

 

「自由行動日のことを考えているのか?」

「え、えぇ。もしかしてと思いまして……」

 

 当たりだったのか、ロドルフォに頷くアルフィン。その様子に首を傾げるエリゼたちにアルフィンは説明する。

 

「自由行動日にパトリック会長に頼んで、生徒会のお手伝いをしていたんです。今回みたいに町の人たちからの依頼を引き受けていたんです」

 

 彼女の説明にウィリアムは首を傾げる。

 

「それが今回のと何の関係があるの? 確かに話を聞いた感じ、状況は似ているけど……」

「生徒会の手伝いをして、わかったことがあるんです。私は思っていた以上にトリスタのことを理解していなかったことです」

 

 事前に兄に聞いたり、自分で調べたりなどしてトリスタのことをある程度、理解していたが、それは氷山の一角だったのだと、生徒会の手伝いを通して理解した。

 そこに住む人々の暮らしや、習慣、地理など、自分の目で見なければわからないものが多くあった。

 

「このケルディックでも同じです。私は内戦時にケルディックを訪れましたが、あまり出歩けなかったので、ケルディックのことはほとんど知りません。今回、出されたこの課題を通して、ケルディックの事情を肌で感じて学ばせるのが、この特別実習の目的なのではないでしょうか?」

「なるほど。僕もエマ姉さんからケルディックのことは聞いているけど、まだピンとこないものがあるから、いい機会かもね」

 

 アルフィンの考えに同意するウィリアム。残りの三人も同意する。これで方針が定まった。

 

「それでは、早速、始めましょう!」

 

 Ⅶ組A班の特別実習が始まった。

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