英雄伝説 閃の軌跡2.5 ~Trajectory of mavericks~   作:魔ギア

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第十六話 《北の英雄》

「今から二十七年前。当時、公国だったノーザンブリアは未曾有の災害に襲われた」

 

 レクターは語る。それはノーザンブリア公国の崩壊、そして《北の猟兵》の誕生の物語。

 

「《塩の杭》。突如、現れた《杭》は公国に落ち、触れたもの全てを塩に変えた」

 

 突き刺さった大地だけでなく、植物、建物、そしてそこに暮らす人々も瞬く間に塩へと変えてしまい、多くの者が命を落とした。

 

「大きな被害をくらったノーザンブリアは自国で経済を支えるのが難しいと判断し、外貨で経済を支えることを決定した。当時、ノーザンブリア公国の正規軍に所属していた兵士たちを外国に派遣し、そこで手に入れた報酬を自国の経済に回して、ノーザンブリアを支えた。これが《北の猟兵》の誕生だな」

「祖国に住む民たちのために戦う。自分たちの生活を支えてくれている《北の猟兵》は彼らにとっては英雄なのですね」

 

 ロドルフォとの会話を思い出したのか、アルフィンは複雑そうに顔を沈める。一方で、ユーシスは鼻を鳴らすのだった。

 

「だが、猟兵として活動している以上、略奪といった非道なこともしているはずだ。いくら祖国のためとはいえ、周りから相当恨まれていたのではないか?」

「あぁ、《北の猟兵》によって被害を受けた者は当然、恨んでいたさ。そんで一部の奴らがミラを出し合って、ノーザンブリアを攻め落とそうと考えたんだ」

「せ、攻め落とすって、一つの州を?!」

 

 目を見開くエリゼを尻目に見て、レクターは話を続ける。

 

「七年前、ノーザンブリア自治州を攻め落とそうと、そいつらは二つの猟兵団を雇った。《西風の旅団》と《赤い星座》。大陸西部において最強の座に君臨する二大猟兵団だ」

「《赤い星座》はシャーリィさんが所属しているところですね」

「《西風の旅団》はフィーがかつていた猟兵団だな」

 

 レクターの口から出てきた猟兵団にオランピアとユーシスはそれぞれ、同じⅦ組の仲間の姿を思い浮かべる。

 

「《猟兵王》と《闘神》を筆頭に《星座》からは《赤の戦鬼》と《赤い死神》、《閃撃》。《西風》からは《火喰い鳥》に《破壊獣》、《罠使い》など、名のある猟兵が参加し、ノーザンブリア自治州はもはやここまでかと思われた。だが――」

 

 レクターはロドルフォに視線を向ける。

 

「結果は惨敗。大陸最強と恐れられた《西風》と《星座》は撤退を余儀なくされた。たった一人の男によって」

「それがロドルフォさん?」

 

 全員がロドルフォに注目する。

 

「攻めてきた二大猟兵団の部隊長クラスを各個撃破。最後には《闘神》と《猟兵王》をも退けたことで《北の猟兵》は見事に勝利を収めた。圧倒的な力を持ってノーザンブリアを危機から救った《北の英雄》。それが《狼帝》ロドルフォ・ソレイユの正体だ」

 

 静かに風の音だけがその場を支配する。ロドルフォの凄まじい経歴に誰もが言葉を発することができなかった。

 

「……ルカさん、今の話は……」

 

 エリゼは何とか言葉を振り絞る。ロドルフォの妹であるルカは静かに頷いた。

 

「事実よ。兄さんはかつて《北の猟兵》に所属していた。ユーシス様の教官で、当時、部隊長だった《紫電》のバレスタインの部隊に所属していたわ」

「サラ教官の……」

 

 エリゼたちが驚く中、ラヴィたち《北の猟兵》たちも驚愕をあらわにしていた。

 

「噂で聞いたことあるけど、あの子、とんでもない子わね」

「し、しかし、それだけの功績を持っていながら、どうして彼の名がそこまで上がらなかったのですか?」

 

 イセリアは驚く中、タリオンは疑問を抱いた。

 《猟兵王》と《闘神》の名は猟兵の世界で知らない者などまずいない。そんな大物人物を倒したとなれば、有名になってもおかしくないはずだ。だが、実際には噂程度で留まっており、《北の猟兵》内でも伝説と言われてしまうほど、あやふやなものになっていた。

 

「理由はいくつもある。当時、その作戦に参加していたそいつの年齢は十歳。十歳のガキが最強の猟兵に勝つなんて、信じられるわけねぇだろう? それに、そいつが《北の猟兵》として作戦に参加したのはあれが最初で最後だった。それ以降、あいつが《北の猟兵》として活動したことはねぇ」

「そ、それはどうして?」

「そいつは……」

 

 マーティンは言葉を濁すが、レクターはその場で手を叩いて、場を沈める。

 

「ま、長話はこのくらいで、俺たちの目的はアンタら六人を帝都に連れていくことだ。悪いけど、付いてきてもらうぜ」

「六人って、まさか、ロドルフォさんたちも!」

 

 レクターが目的を口にして、エリゼはその内容に耳を疑う。一方で、ラヴィは別の言葉に反応する。

 

「……俺()()?」

「……ふっ、おい、もう出てきていいぞ!」

「あはは♪ やっと出番だね」

 

 その場に無邪気な声が響き渡る。全員がその声の方に振り向くと、水色髪の少女がにこやかに笑って手を振っていた。

 

「ミリアム!」

「やっほーー! ユーシス! 元気にしてた?」

 

 ミリアム・オライオン。リィンとユーシスの同級生で、彼らと同じ初代Ⅶ組の一人だった。

 

「数刻ぶりですね、ラヴィさん」

 

 今度は無機質な声が響く。ラヴィたちの背後からウサギのような耳がついた黒フードを被った少女――アルティナ・オライオンが現れる。

 

「ま、無駄な抵抗はしないことをお勧めするぜ。そんじゃあ、お前ら、こいつらを――」

「くだらない」

 

 ミリアムたちに指示を送ろうとするレクターだったが、そこに今まで沈黙を貫いていたロドルフォが口を開いた。その目はとても冷ややかなものになっており、レクターを捉えていた。

 

「そんなくだらないことのために俺たちを呼び止めたのか? だとしたら、帝国の情報局とやらもたいしたことがないようだな」

「何だと?」

「俺は《北の猟兵》にも、ノーザンブリアにも思い入れはない。そんなもののために俺が動くと思っているなど、お門違いにもほどがある。その様子だと、なぜ、俺が猟兵をやめて、ノーザンブリアを出て行ったのか、わかっていないようだな」

 

 ロドルフォの指摘にレクターは押し黙る。図星だった。

 

「だとしたら、これ以上は時間の無駄だ。俺たちは明日の実習も控えているんだ。手を出すというなら、容赦なく迎撃する。それが嫌なら俺たちには関わるな」

 

 そう言って、ロドルフォは宿の方へと歩いて行った。どうやら、彼は本気でレクターたちを無視するようだった。その姿に誰もが固まる中、アルティナが顔色を変えないで手を挙げる。

 

「残念ですが、あなたの要求は飲めません。ここで拘束させてもらいます。――《クラウ=ソラス》」

 

 アルティナの背後に巨大な黒い傀儡が現れる。

 

「あれって、実技テストで見た!」

「戦術殻、でしたか……」

 

 ウィリアムとオランピアはアルティナが呼んだ戦術殻に目を張る。ボディは黒に染まっており、サイズも実技テストの物よりも一回り大きい。性能が高いというのは一目でわかった。

 

「トランス・フォーム」

 

 アルティナはその場で跳躍すると共に《クラウ=ソラス》が光に包まれる。

 黒の戦術核は一本の剣となり、アルティナはその上に乗る。

 

「ロドルフォさん!」

 

 声を上げるアルフィン。迫りくるアルティナの進撃を前にロドルフォは立ち止まり、ゆっくりとアルティナの方に振り向く。

 

「忠告はしたぞ」

 

 ロドルフォはその場で跳躍。《クラウ=ソラス》の上を通り過ぎ、跳んだままアルティナに向かって手を伸ばした。

 

「あぁっ!」

 

 ロドルフォに首を掴まれて、アルティナは《クラウ=ソラス》から無理矢理、降ろされる。

 着地したロドルフォはアルティナを掴んだまま、彼女を自分の顔の近くへと持ち上げた。

 

「お前だな」

「なに……が……」

「内戦時にユミルを襲って、エリゼとアルフィンを連れ去ったという小娘は」

 

 ロドルフォの目からは殺気がにじみ出ており、アルティナは一瞬、呼吸が止まってしまう。

 

「そして、二度目の襲撃ではリィンを連れ去った」

「あ、あれは、任務で……」

「関係ないな。任務だろうが、何だろうが、お前はユミルを襲った奴らと加担した。俺にとってはそれが重要だ」

 

 ロドルフォは銃を取り出す。銃口をアルティナの額に付ける。

 

「無視しようと思ったが、予定変更だ。……ここで死ね」

「! ダメです! ロドルフォさん!」

 

 ロドルフォを止めようとするエリゼ。だが、彼はその声を無視して引き金に力を籠める。

 

「アーちゃんから、離れろーー!!」

 

 その時、ミリアムが白い戦術核《アガートラム》に乗って、ロドルフォに迫る。

 

「まだ子供だな」

 

 ロドルフォは銃を下ろして、アルティナをミリアムに向かって放り投げる。

 慌ててアルティナを受け止めるミリアム。ロドルフォはそれを一瞥した後、後ろに振り返る。

 すると、《クラウ=ソラス》が元の姿に戻り、腕を大きく振り上げていた。

 

「遅い」

 

 振り下ろした《クラウ=ソラス》の腕をロドルフォは両手を使って、軌道を逸らす。 

 そのまま腕を掴んだロドルフォは《クラウ=ソラス》を振り回して、ミリアムたちの方へ投げ捨てた。

 

「うわぁっ!」

「きゃっ!」

 

 《クラウ=ソラス》が《アガートラム》と激突。ミリアムたちは空中に投げ出されてしまい、看板前に倒れ込む。

 ロドルフォは、すかさず銃弾を放つ。看板をぶら下げていた紐に弾が命中し、看板はそのまま下に落ちる。

 

「「ふぎゃ!!」」

 

 落とされた看板の下敷きにされる二人。すぐに抜け出そうと足掻くが、看板の重さに身動きが取れずにいた。

 

「ちっ! マジかよ……」

 

 二人がすぐに動けないとわかりレクターは剣を抜こうとする。だが、その前にロドルフォが至近距離に詰めより、抜こうとした彼の剣を鞘に押し戻す。

 

「しまっ――」

 

 ――バンッ! バンッ! バンッ! バンッ!

 

 銃弾を四発。ゼロ距離からの発砲にレクターは避けることができなかった。

 

「……かはっ」

 

 その場で崩れ去るレクター。腹を抑えながら倒れ込む彼をロドルフォは足で踏みつける。

 

「安心しろ。ゴム弾だから殺傷能力はない。もっとも、骨は折れているだろうがな」

「くっ……そぉ……」

 

 口から血を吐き出すレクターは珍しく悔しそうにロドルフォを見上げるのだった。

 

「す、すごい……」

「一瞬で三人を……」

 

 ロドルフォの圧倒的な実力にその場で立ち尽くしてしまうアルフィンとエリゼ。

 

「さて、邪魔者はいなくなったから、このままかえ……、っ!?」

 

 ロドルフォはレクターをアルフィンに蹴り渡して、振り返ると同時に銃弾を放つ。

 キンッ、という音を何度も鳴らし、何かが地面に落ちる。

 

「ナイフ?!」

「いったい、どこから?!」

 

 地面に落ちた数本のナイフを目にして、全員が周囲を見渡す。

 

「……そこか」

 

 だが、ロドルフォだけはある一点を注視していた。

 駅の天井。そこから月をバックにこちらを見下ろしてくる者がいた。全身を分厚いコートで覆い、顔には無骨な仮面を被っていた。

 ロドルフォは迷わず仮面の者に向けて発砲。今度はゴム弾ではなく、実弾。銃口から飛び出た銃弾は仮面の者に向かうが、彼は高く跳んで、銃弾を躱しながら地面に降り立った。

 

「何者だ」

 

 ロドルフォは銃口を仮面の者に向ける。アルフィンたちも武器を取り、いつでも出られるように構える。

 

「俺の場所に気づくとはな。さすがは《北の英雄》だ」

「質問に答えろ。お前は何者だ」

「俺か? そうだな。《H》とでも名乗っておこうか」

「《H》?」

「ふん、《帝国解放戦線》の真似事か?」

 

 《H》と名乗る謎の人物にユーシスは不機嫌そうに鼻を鳴らす。

 

「俺に何の用だ?」

「このまま終わらせるとこちらも困るんだよ。少し介入させてもらうぜ」

「そうか」

 

 ロドルフォは頷くと、その場から姿を消した。

 

「死ね」

 

 すると、ロドルフォは《H》の懐に潜り込んでいた。彼はそのまま銃口を《H》の心臓へと向ける。

 

「――っ!」

 

 だが、すかさず、ロドルフォは発砲を止めて《H》から離れる。なぜ、撃たなかったのかと誰もが疑問に思う中、《H》は感心した声を漏らす。

 

「よくわかったな」

「……毒か」

「もう少し遅くなっていたら、死んでいたのはそちらだったな」

 

 《H》は懐から試験管のようなものを取り出した。中には血のように不気味な赤い液体が入っていた。

 それを見た一同は一斉に背筋を凍らせる。

 

「あれが……毒?!」

「くっ! 殿下! ミリアムたちを下がらせてください!」

「ユーシスさんは?!」

「ソレイユと共にあの毒を回収します!」

 

 アルフィンたちを後ろに下がらせて、ユーシスはロドルフォの隣に立つ。

 

「ロドルフォ!」

「待て、ラヴィ!」

 

 ラヴィがロドルフォの下に行こうとするが、マーティンが腕を掴んで止める。

 

「ここから離れるぞ。俺たちの任務を忘れたか!」

「っ……、了解」

 

 ラヴィは悔しそうにロドルフォを見つめた後、マーティンたちと共にその場から離れた。

 

「ぐっ……、待ちやがれ……」

「レクターさん! この場から離れますよ」

 

 レクターは遠くへと行くラヴィたちを睨みつけるが、動けない身体をオランピアとウィリアムに持ち上げられてその場から離れる。

 一方で看板の下敷きになっていたミリアムたちの所にはアルフィンとエリゼが駆け込んだ。

 

「エリゼ! どかしますよ!」

「わかりました!」

「っ……なぜ」

 

 アルティナは顔を上げて、アルフィンたちを見つめる。

 去年の内戦、アルティナは《貴族連合》の命令で二人を誘拐した。

 かつては敵対していた関係。助ける理由などないはずだ。

 そう目から訴える彼女の視線に気づいたアルフィンは一瞬だけ止まるが、すぐに手を動かした。

 

「今は関係ありません」

「え……」

「困っているあなたを見過ごすことはできませんので」

 

 看板をどかしたアルフィンたちはアルティナとミリアムを連れて、その場から離脱した。

 

「いい後輩を持ったな。ユーシス・アルバレア」

「貴様と話すことはない。その毒は回収させてもらう!」

 

 ユーシスが前に踏み込む。《H》は手の袖からナイフを取り出して、突き刺してくるサーベルを弾く。試験管を壊さないようにユーシスは突きを連続で打ち込む。

 

「ふっ……、慎重だな。それで俺を倒せるとでも」

「勘違いするな。お前の相手は俺だけじゃないぞ」

 

 不敵に笑うユーシスに《H》は眉を潜ませるが、後ろから迫る気配に気づく。

 

「獲った」

 

 《H》が最初に投げたナイフの一本を手に取り、背後から切りかかるロドルフォ。

 すると、《H》は持っていた試験管を上へと放り投げた。ユーシスの剣をナイフで捌きながら、空いた手をロドルフォの腕にぶつけてナイフを弾く。

 

「ソレイユ! 毒を!」

「わかっている!」

 

 《H》への追撃を止めて、上に飛び上がるロドルフォ。空中に舞う試験管を掴み、地面に着地する。

 

「ロドルフォさん!」

 

 避難を終えたアルフィンたちがロドルフォに近づく。

 

「お怪我は?!」

「問題ない。毒も回収した」

 

 試験管を懐にしまったロドルフォは銃に持ち替えた。

 

「さて、これで奴を――」

 

 

 ――パリンッ!

 

 

 ロドルフォたちが《H》を拘束しようとするが、ガラスが割れるような音が響いた。

 

「い、今の音は?」

「まさかっ!」

 

 ロドルフォは目を細くして注意深く地面を見渡す。すると、ガラスを黒で塗りつぶした試験管が地面で粉々になっていた。

 

「に、二本目?!」

「二本投げられていたか!?」

 

 黒に塗りつぶしたことで暗闇に紛れたもう一つの試験管は地面に落ちてしまった。

 砕け散り、中に入ってあった赤い液体は地面に広がる。その近くにいたのは――、

 

「っ!! ルカ!!」

 

 立ち尽くすルカの姿に血相を変えたロドルフォが駆け込む。すぐにその場から離れたロドルフォは放心するルカを揺らして、声をかける。

 

「ルカ……、ルカ! 俺の声が聞こえるか!」

「あ……、あぁ……」

 

 必死に呼びかけるロドルフォ。だが、ルカはどこか上の空の様子だった。そして――、

 

「あ、あ、あぁあぁあぁあアアアアアアアア!!!!」

 

 両手で頭を抱えて、その場にうずくまるルカ。人が発せれる音量を越えた絶叫がケルディックの町に広がる。

 

「っ……、今」

「ウィルさん、どうしたんですか?」

 

 顔を引き締めるウィリアムの様子に気づいたエリゼ。ウィリアムは街道に続く入り口に目を凝らす。

 

「今、獣の遠吠えが聞こえたような……」

「獣?」

 

 エリゼはウィリアムが見ている入り口に顔を向ける。

 暗闇で全く見えない街道の奥。すると、ギラついた赤い光が無数に現れる。

 

「魔獣?!」

 

 街道の方から狼の魔獣が群れとなって、町の中へと流れ込んできた。

 

「バカなっ! 魔獣避けの街灯は機能しているはずっ!」

 

 突然の事態に焦るユーシス。だが、その視線はすぐに《H》へと向ける。

 

「貴様っ、何をした?!」

「俺は何もしていないぜ。したとするのなら、そこで蹲る嬢ちゃんの方だろう」

「何っ?」

 

 《H》はルカを見ながら、話を続ける。

 

「あの毒は、お前さんらが知っているような毒じゃない。あるものにしか効果がない特殊な毒だ」

「特殊な毒?」

「あぁ。対象者にかかっている法術やアーツといったものに反応する毒。この毒を取り込んだら、どれだけ強力な術をかかっていようと打ち消すことができる」

 

 《H》がのんびりと話していると、魔獣たちはアルフィンたちに向かって一斉に襲いかかる。

 

「姫様!」

「総員、迎撃を始めてください! この町で再び悲劇を起こすわけには……」

 

 ――バン! バン! バン! バン!

 

 アルフィンが指示を送ろうとするが、連射する銃声がそれをかき消す。

 

「ロドルフォさんっ!」

 

 銃弾を放ったロドルフォに振り返ったエリゼは彼の姿に見て、息を詰める。

 ルカを抱えて、魔獣を睨みつけるロドルフォ。だが、その目には光がなく、とても据わっていた。

 

「エリゼ」

「は、はい?」

「……男爵閣下には『世話になった』と言っておいてくれ」

「え、それはどういう!」

 

 エリゼがロドルフォを問い詰めようとするが、彼はルカを抱えたまま、魔獣の群れへと突っ込んだ。

 

「邪魔だ」

 

 ロドルフォは魔獣とすれ違う際に発砲。ゼロ距離から放たれて、魔獣が次々と倒れる。

 彼に狙いを定めて、取り囲む魔獣たちだったが、彼の早撃ちを捉えることができず、次々と倒されていく。

 魔獣の姿はいつの間にか全て消えており、ロドルフォはルカと共に暗闇の中へと消えていった。

 

「ふむ。それでは俺も帰らせてもらおうか」

「させるか!」

 

 《H》がその場から離脱しようとするが、それに気づいたユーシスがサーベルを振り下ろす。《H》は落ち着いた様子でサーベルをナイフで受け止める。

 

「逃がさんぞ。例の魔獣といい、色々と聞かせてもらうぞ」

「そいつは無理な相談だな」

 

 《H》はユーシスを押し返して距離を取る。再び詰め寄ろうとするユーシスだったが、突然、その場で膝を着く。

 

「な、何だ? 身体が……」

 

  自分の身体が重くなっていることに気づいたユーシス。気づけば指一本も動かすことができず、額に汗を流す。

 

「安心しな、身体を少し動けなくさせる麻痺毒だ。しばらくは動けないだろうぜ」

「くっ!」

 

 ユーシスは苦し紛れに睨みつけるが《H》は気にする様子もなく、その場から離れようとする。

 

「それでは、俺はこのへんで」

「待ちなさい!」

 

 立ち去ろうとする《H》をアルフィンが呼び止める。驚いたのか《H》は足を止めて、彼女に振り向く。

 

「あなたの目的は何なのですか?! どうして、このようなことを……」

「目的? そうだな。ある人の言葉を借りるなら……、そっちの方が面白いから、かな?」

 

 《H》の言葉に唖然とするアルフィン。それを確認した《H》は深くお辞儀をする。

 

「それでは皇女殿下。そして、トールズⅦ組。いずれまた、どこかでお会いしましょう」

 

 その言葉を最後に《H》は暗闇の中へと消えていった。

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