英雄伝説 閃の軌跡2.5 ~Trajectory of mavericks~   作:魔ギア

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第十八話 ルナリア自然公園

 西ケルディック街道の先にあるルナリア自然公園。そこにロドルフォとルカがいるという情報を手に入れたアルフィンたちは早速、現場へと向かう。

 

「……口がまだ痛いです」

「ヒリヒリする……」

 

 つい数分前に食した、想像を絶する激辛料理を口にしたエリゼはうっすらと口が腫れていた。淑女としてあるまじき姿を見せてたくないのか、エリゼは口を押さえながら涙目で歩いていた。

 一方で彼女と同じく、激辛料理に撃沈されたウィリアムとオランピアも彼女と同じように口を押さえていた。

 

「皆さん、大丈夫ですか?」

「それはこっちのセリフだよ。アルフィンの方は何ともないの?」

 

 そして、彼女たちと同じく激辛料理を食べながらも平然としているアルフィンの姿に、信じられないとウィリアムは目を疑う。

 アルフィンが完食した後、気を失っていたエリゼたちはアルフィンの必死な呼び声に何とか目を覚ました。その後、まだ残っている料理と必死に格闘して、何とか完食することに成功した。

 だが、ラーメンの辛さはまだ口の中に残っており、三人の顔はいまだに赤い。

 

「確かに辛かったですが、結構、癖になる味でしたよ」

「辛いってレベルではないと思います」

 

 オランピアがすかさずに突っ込むが、アルフィンは幸せそうに笑みを浮かべる。

 

「あのような料理がこの世にあったなんて思いもしませんでした。もう一度、食べてみたいですね」

「あ、あのラーメンをですか?」

 

 アルフィンの発言にエリゼは戦慄が走る。

 あのラーメンの味はまだ覚えている。というより、忘れることができない。

 まるで辛さを一点に凝縮して、口に入れた瞬間、一気に爆発するような感覚。もはや痛いというレベルの強烈な辛さ。しかも、店主の話ではあれで一番低い辛さだという。

 

(あれよりも辛いって、いったいどんな……)

 

 思わず、そんなことを想像してしまったエリゼの赤かった顔は青く染まる。

 そんなことを考えている間に、アルフィンたちは目的地へとたどり着いた。

 

「扉が開いています」

 

 そこには柵でできた大きな扉が開いてあり、奥には深い森が広がっていた。

 

「誰もいないね」

「ここは普段、管理人の方が見張っているという話でしたが……」

 

 周辺を探し、それらしい人物がいないことを確認するウィリアム。それを不審に思ったエリゼたちはその場で足を止めてしまう。

 

「自力で辿り着いたか」

「アハハ! 四人ともすごいね!」

 

 すると、彼女たちの背後から聞き覚えのある声が届いた。

 

「ユ、ユーシス先輩!」

「ミリアムさんも……」

 

 振り返り、そこに立っていたのは、アルフィンたちの先輩である初代Ⅶ組のユーシスとミリアムだった。

 

「私もいます」

「あなたは……」

 

 そして、顔色一つ変えずに、ユーシスたちの後ろからひょっこり現れるアルティナの姿があった。

 

「どうして、先輩たちがこちらに?」

「殿下たちが西ケルディック街道を出たと住民たちから聞きまして、後を追ってきたのです」

「トリスタ方面にいる鉄道憲兵隊に確認したら、誰も通っていないって聞いたから、この公園に潜伏してると思ったんだ」

「確認を取ったのはミリアムさんじゃなく、私ですが……」

 

 アルフィンの問いかけにユーシス、ミリアム、アルティナの順番に答える。

 

「もしかして、ユーシス先輩もロドルフォさんを探しに?」

「ルカは家で雇った使用人です。シュバルツァー男爵閣下から預かった身として、彼女を見捨てるわけにはまいりません。この公園の調査もしなくてはなりませんから」

「もしかして、管理人がいないことと何か関係が?」

 

 ウィリアムの疑問にユーシスは頷くと、扉の前まで行き、辺りを見渡す。

 

「ここの管理人の連絡が途絶えたという話があってな。それと同時に身に覚えのない人物がこの公園に向かっているところを何度も目撃しているという情報も入ってな。予定通りなら、ミリアムと合流して調査をするつもりだったのだ」

「ちょうど、こっちで情報局の仕事があったからね。ならば、一緒に解決しちゃおうって思ったんだ」

「そうなのですか。……ところでミリアムさんはどうしてこちらに?」

「ふえ?」

「ミリアムさんは情報局の方ですよね。でしたら、ユーシスさんと一緒に行動するのは少し変なのでは?」

 

 ユーシスはアルフィンたちと同様にロドルフォたちを保護するために動いている。そして、その行為は彼らを拘束しようとしている情報局にとっては妨害行為にも等しいものだ。

 彼女がユーシスと共に行動する理由がわからないオランピアは彼女に質問するが、それに対して彼女はすぐに答えた。

 

「君の言う通り、情報局員の一人としてボクはあの二人を捕まえなきゃいけない。正直言うと、あーちゃんを傷つけようとした彼を助けたくないって思う所はあるよ。……でも、エリゼたちは彼がスパイじゃないって信じてるんだよね?」

「それはもちろんです」

 

 アルフィンが即答すると、それにミリアムは満面な笑みを見せる。

 

「うん! なら、助けるよ! 情報局の人間である前に、ボクもⅦ組の一人だからね。先輩として、後輩の君たちを信じるし、同じく後輩の彼を助けるよ!」

 

 何の躊躇いもなくそう言い切ったミリアム。その姿にアルフィンたちは唖然として、ユーシスは微笑するのだった。

 

「あーちゃんはどうなの? レクターのところに戻っても良かったんだよ?」

「そういうわけにはいきません。彼の容疑が晴れていない以上、情報局として彼を捕まえなければいけません」

 

 淡々と答えるアルティナにアルフィンたちは身構えてしまうが、そこにミリアムがアルティナの頭を撫で始める。

 

「っ?! いきなり何を……」

「素直になりなよ。それだけが理由じゃないでしょ?」

「何を言っているんですか。それ以外に理由は……」

「レクターには何も言ってこなかったんでしょ? 普段のあーちゃんなら、ここに来る前に報告すると思うけど?」

 

 ミリアムの追及にアルティナは黙ってしまう。

 それを不思議そうに見守るアルフィンたち。しばらくすると、アルティナはアルフィンたちの方に視線を向ける。

 

「少し……興味があったからです」

「興味?」

「あの人が今も大事にしているⅦ組という枠組みがどういうものなのかを……」

「あの人?」

 

 首を傾げるエリゼたち。一方、ユーシスとミリアムは誰の事なのか、すぐに察した。

 

「まったく、あの朴念仁が」

「アハハ……、リィンも手が早いね……」

「え……、もしかして兄様のことですか?!」

 

 思いがけない人物の名前が挙がり、瞠目してしまうエリゼ。慌ててアルティナの方に振り向くが、アルティナはそっと目を逸らした。

 

「そろそろ行きましょう。タイムリミットの夕暮れまでもう時間がありません」

「そうですね。ロドルフォさんとルカさんを連れ戻しに」

 

 オランピアに促されて、アルフィンも強く意気込む。

 

「ユーシスと組むのは久しぶりだね♪」

「背中は任せるぞ、ミリアム」

 

 ハイタッチを求めるミリアムにユーシスは仕方ないと手を合わせる。

 

「……兄様、帰ったら、絶対に聞き出しますから」

「ひっ……」

「私、何か変なことを言いましたか?」

 

 エリゼの低い声にウィリアムは思わず悲鳴を上げてしまう。エリゼの変わりようにアルティナは理解できていないのか、首を傾げるだけだった。

 

 

 ~~~~~

 

 

 ルナリア自然公園に流れる川の縁。そこで焚火をしていたロドルフォは、燃え続ける炎をじっと見つめていた。

 

「ん……、兄さん」

 

 彼の膝には妹のルカが心地よさそうに眠っていた。それを見たロドルフォは彼女を起こさないように優しく頭を撫でる。

 

「これからどうするか……」

 

 ロドルフォは今後のことを考える。

 情報局があの場に現れたのは、間違いなく自分を捕まえるためだ。ならば、妹であるルカも捕縛対象になっているのは間違いない。

 

「《かかし男》レクター・アランドールか……」

 

 ロドルフォは昨日会った赤髪の軍人を思い出す。

 《鉄血宰相》ギリアス・オズボーンが帝国各地から拾ってきた特異な能力を兼ね備えた子供たち――《鉄血の子供たち》の一人。

 

「噂通りなら、すでに軍が俺たちを探しているだろうな」

 

 そう考えたロドルフォはどうやってこの場から離れるか考えるが、時々、あることが脳裏に過る。

 

(あいつらは今……)

 

 一瞬、アルフィンたちのことを考えるがすぐにやめた。そんなことを考えている暇はない。なにより今の自分たちを彼女たちが受け入れてくれるとは思えない。

 悪い方向に考えが持っていかれる中、離れていた茂みが揺れた。

 

「……しつこい奴らだ」

 

 茂みから出てきたのは魔獣だった。だが、その数は多く、軽く二十は超えていた。

 

「ルカ、少し硬いが我慢してくれ」

 

 ロドルフォはルカの頭を膝から降ろして、ゆっくりと地面に置く。立ち上がった彼は二丁の拳銃を取り出して、魔獣の群れの前に立つ。

 

「悪いが、あまり騒がせたくない。一分で終わらせる」

 

 地面を蹴る音と共に、銃声の音が鳴り響くのだった。

 

 

 ~~~~~

 

 

 一方、自然公園へと入ったアルフィンたちは、

 

「エアストライク!」

 

 アルフィンは《ARCUSⅡ》を駆動して風のアーツを放つ。

 アーツが正面から迫って来る魔獣に命中する。風に押し返されて怯んだ魔獣。そこにエリゼが跳びかかる。

 

「やっ!」

 

 細剣の一突きが魔獣を貫いた。魔獣が消滅するのと、今度は別方向から複数の魔獣が彼女に襲い掛かる。

 

「ガーちゃん!」

 

 飛び掛かった魔獣は《アガートラム》のボディに牙を突き立てる。だが、《アガートラム》はビクともせず、剛腕を振るうことで魔獣たちを吹き飛ばした。

 

「エリゼ、大丈夫?」

「は、はい。助かりました、ミリアムさん」

「ブリューナク起動」

 

 話し込む二人に再び、魔獣が襲い掛かる。しかし、今度は頭上から放たれた熱戦によって消滅するのだった。

 

「ミリアムさん、余所見をしないでください」

「ありがとうね、あーちゃん!」

「あ、ありがとうございます」

「いえ、別に……」

 

 《クラウ=ソラス》の腕に乗って、エリゼたちの近くに降りてくるアルティナ。正面からお礼を言われたからか、頬を少し赤くしてそっぽ向いてしまった。

 

「お前たち、気を緩めるな!」

 

 ユーシスがエリゼたちに声を飛ばす。余裕がなく切羽詰まった声だった。

 

「いったい、どれだけいるんだ?!」

 

 ユーシスに背中を預けて、法剣を振るうウィリアムは森の奥を見る。そこから魔獣が次々と顔を出し、途切れる様子がない。戦闘が始まって、もう五分は経っている。

 

「この公園はこんなにも頻繁に魔獣が出て来るのですか?!」

「そんなわけがなかろう! この数はあまりにも異常だ!」

 

 魔獣を斬り裂くオランピアの質問に、魔獣を刺突するユーシスが荒々しく答える。

 

「このままでは囲まれます! まずは、この場をどうにか切り抜けましょう!」

「切り抜けるって言っても、どうやって……」

 

 退路を確保しようと奮闘するオランピアだったが、数の圧ですぐに押されてしまう。ウィリアムが後ろから彼女をフォローするが、あまり効果はなかった。

 

「やむを得ん。……ミリアム!」

「りょーかい!」

 

 ユーシスの合図にミリアムは《アガートラム》の腕に乗って、空へ向かう。

 

「いっくよ、ガーちゃん! トランス・フォー―ム!!」

 

 《アガートラム》が眩い光を放って姿を変える。白い戦術殻は巨大なハンマーへと変形する。

 

「全員、退避しろ!」

 

 ユーシスの切羽詰まった声にアルフィンたちはその場から急いで離れる。ミリアムはハンマーに変形した《アガートラム》を両手で持ち、大きく振り上げて、地面に向かって叩きつける。

 

「ギガント・ブレーーーーイク!!」

 

 激震。

 ハンマーに叩かれた場所を起点に地割れが起こる。割れた大地を盛り上がり、群がる魔獣たちを次々と巻き込む。

 大量の砂塵が宙を舞い、アルフィンたちの視界を塞ぐ。時間が経つと徐々に砂塵が晴れていく。

 

「ニシシ、どんなもんだ!」

 

 砂塵が腫れた先には、ミリアムがこちらに振り向いてピースサインを向けていた。彼女の後ろは荒れ果てて、崩壊した大地。大量に出てきた魔獣の姿はどこにもなく、全滅していた。

 

「姉さんから聞いてはいたけど、ミリアム先輩、すごい」

「これが、トールズ初代Ⅶ組……」

 

 リィンもすごかったが、彼にも負けない活躍を見せる自分たちの先輩にウィリアムとオランピアは感心した声を漏らす

 

「先程の魔獣……、いったい何だったのですか?」

 

 ひとまず脅威を退けたアルフィンは、先程の魔獣の数に疑念を抱く。その疑念にウィリアムも頷いた。

 

「魔獣があれだけ出るなんて、普通に考えてもおかしいよ。何らかの力が働いていると考えていいかも」

「ユーシス、何か知らない?」

 

 ミリアムはユーシスに訪ねるが、彼は首を横に振る。

 

「ここに出入りしているであろう不審人物が有力候補になるが、昨日までこれほどの魔獣が大量に現れたという話は聞いていない」

「では、異変は今、起きたという事になりますね」

 

 アルティナはそう結論付けて、話を続ける。

 

「昨日の夜。魔獣除けの街道灯がありながら、町に魔獣たちが侵入してきました。そして、その時、《H》という謎の人物が介入してきました」

「まさか、今回の騒動は《H》が何かしたというのですか?」

 

 エリゼがそう推察するが、アルティナは首を横に振る。

 

「どちらかと言えば、引き金を引いただけです。魔獣を呼びつけたのはおそらく彼女だと思います」

「彼女と言うと、まさか……」

 

 エリゼだけでなく、その場にいる全員が一人の少女を思い浮かべる。

 

「ルカ・ソレイユ。彼女が突然、苦しみ出した直後、今回のように大量の魔獣たちが押し寄せてきました。状況から見ても、彼女が魔獣を呼び寄せたとしか考えられません」

「ま、まさか、ルカさんがそのようなことをするはずがありません! ユミルにいた時、そのような事態は一度も起きてはいませんでした」

「《H》が使った毒薬が原因だと思います」

 

 エリゼは慌てて否定するが、アルティナは顔色を変えずに彼女の顔を見る。

 

「あの毒薬はアーツや法術の効力を無効化するものだと《H》は言っていました。彼女が魔獣を引き寄せる力を、何らかの手段で押さえていたと考えればどうでしょう」

「あの毒薬を吸ってしまったことで、その手段を壊されてしまった、ということか」

 

 新たな問題の発生にユーシスは深刻そうに顔を顰める。そこにウィリアムはハッと目を開く。

 

「もしかして、ロドルフォはそれを知ってここに避難したんじゃ」

「たしかに。魔獣を引き寄せているのがルカさんだとしたら、彼女を町から離せば、町は襲われなくなります」

「それを知るためにも、早くロドルフォさんと会う必要がありますね」

 

 アルフィンたちは捜索を再開しようと森の奥へと歩き出す。

 

 

 ――ウォオオオオオオオオオオ!!!!

 

 

「い、今のは?!」

 

 森全体が揺れる咆哮。

 アルフィンたちは咄嗟に武器を手に取り、辺りを見渡す。

 

「いったいどこから……」

 

 声の主を探そうとしたアルフィン。だが、辺りが突然、暗くなり、言葉を止める。

 オランピアは何かに気づいて、頭上を見上げる。

 

「っ! 避けてください!」

 

 彼女の声に全員がその場から離れる。すると、アルフィンたちがいた場所に巨大な影が落ちてきた。

 

「こ、こいつは……」

 

 ユーシスは顔を上げて、影の正体を見る。

 機甲兵にも負けない巨大な身体。大木を簡単に持ち上げてしまいそうな太い腕。口を開いて見せつけてくる強靭な牙。

 

「この森の主か! だが、これは……」

 

 ゴリラ型の巨大魔獣――グルノージャだと気づくユーシスだったが、どこか様子が違う事にも気づく。

 目は赤く充血しており、荒々しく息を吐いていた。

 

 

 ――グゥオオオオオオオオオオオ!!!!

 

 

 咆哮を上げる魔獣は大きく腕を振り上げた。

 

「っ! 皆さん、逃げ――」

 

 アルフィンが言い切る前に魔獣の剛腕が大地を貫いた。ミリアムによって脆くなっていた地面はさらにひび割れして、崩壊する。

 

「きゃっ!」

「姫様!」

 

 アルフィンの足元が崩れる。バランスを崩してしまった彼女を助けようとエリゼが手を伸ばした。

 

「「キャーーーーーーーー!!」」

「殿下っ!!」

「エリゼさん!!」

 

 アルフィンとエリゼは崖から落ちる。ユーシスとオランピアが救出しようとするが、彼女たちは川に落ちて、その姿を見失ってしまうのであった。

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