英雄伝説 閃の軌跡2.5 ~Trajectory of mavericks~   作:魔ギア

2 / 40
 界の軌跡の新たな情報が出ました!
 ラトーヤ博士、ユン老師、シズナ、そして星杯の守護騎士コンビ!
 彼らがどう物語に絡んでくるのか、楽しみです。
 特にセリス。OPでも思ったが、一体全体どういう経緯であんなことに……


第二話 特別オリエンテーリング

 お互いの自己紹介を終えたアルフィン、エリゼ、そしてオランピアの三人は赤髪の男性教官の後を追うため、大講堂を出る。本校の裏手へと回るアルフィンたちは、さらに奥にある森の中へと入っていった。

 

「どこに向かっているのでしょうか?」

 

 アルフィンたちと最後尾に立つオランピアは小さく呟く。彼女だけじゃない。おそらく前にいる他の赤い制服の生徒たちも同じことを思っているだろう。

 

「……エリゼ、この奥って」

「えぇ。間違いないと思います」

 

 一方で、アルフィンとエリゼは心当たりがあるのか、眉を潜ませるのだった。

 

「……着いたぞ」

 

 教官が立ち止まると、生徒たちも立ち止まり、顔を見上げる。

 

「……古い建物ですね」

 

 前に建っているのはかなり年季が入った古い校舎。あまり手入れされていないのか、本館とは違って表面は黒くなっており、苔もあちらこちらに付いていた。少なくとも何百年も前から建てられているというのは何となくわかった。

 

「ここは旧校舎です」

「エリゼさんはここを知っているのですか?」

「はい。少々、縁がありまして」

 

 曖昧な返答を返すエリゼ。そんな彼女たちが話し込んでいる中、教官は懐から鍵を取り出して旧校舎の扉を開ける。教官が中に入ると、それに続いてアルフィンたちも次々と中へ入っていった。

 最初に踏み込んだ場所は少し広めの端っこにある壇上と、奥に続く扉以外には何もない殺風景な部屋だった。

 

「全員、注目してくれ」

 

 壇上に上がった教官はその場にいるアルフィンたち十人に声をかける。全員がこちらを見ているのを確認した教官は頷き、自己紹介を始めた。

 

「本日より君たち()()の担任教官となったグラン・ダンバルトだ。前は遊撃士として活動していたが、今年からトールズの教官として勤めることになった。どうかよろしく頼む」

 

 赤髪の教官――グランの名に何人かが反応した。

 

「やっぱり……」

 

 一人目はオランピア。見知った顔によく似ていると思っていたが、彼の名前を聞いて、本人だったと確信した。

 

「へぇ~~、お兄さんのこと知ってるよ。『赤蛇』のグランなんだよね。四年前に重傷を負って二年も入院していたって聞いてたけど……」

 

 もう一人はグランと同じく赤い髪をショートにした少女。パッチリとした目で口角を上げるその姿は好奇心旺盛な猫のようだった。

 

「あぁ。そのグランで間違いない。俺も君のことは知っているよ。正直、ここに入学するとは思わなかったけど」

「ま、仕事兼成り行きってやつだよ」

「仕事か……。まぁ、この学院に危害を加えないのなら目を瞑ろう。あと、お兄さんではなく、ここでは教官と呼ぶように」

「は~い。グラン教官」

 

 気だるそうな声で手を頭の後ろに持っていった少女が後ろに下がると、今度は手をポケットに突っ込んだ長身の男が前に出た。

 

「それでグラン教官。俺たちをどうしてここへ連れてきた。先程、俺たちをⅦ組と呼んでいたが、この学院のパンフレットの内容では五クラスしかなかったはずだ。しかも、貴族と平民で分けられていると記載していたと思うが?」

 

 教官相手に傲岸不遜な態度を取る褐色髪にパーマがかかった男。その男の姿を見て、エリゼは目を大きく開いた。

 

「よく調べているな。さすが本年度の首席だ」

「調べれば誰でも知っている情報だ。首席など関係ない」

 

 素っ気ない男の態度に苦笑いするグランだったが、一度、咳払いして話を続ける。

 

「彼の言う通り、ここトールズはⅠ組からⅤ組まであり、それぞれが貴族クラスと平民クラスに分けられている。しかし、それはあくまで一昨年までの話だ」

 

 どういうことだと怪訝そうな顔を浮かべる者がちらほら見られるが、その実態を知っているアルフィンとエリゼは黙ってグランの話に耳を傾けていた。

 

「去年から発足した特別クラス。貴族と平民。身分に関係なく集まった異色のクラス。それがお前たち特科クラスⅦ組だ」

「あの、Ⅶ組ってまさか、去年の内戦で活躍したっていう?」

 

 首にペンダントを付けた金髪の少年の質問にグランは頷いた。

 

「突然のことで混乱している者もいるだろう。このクラスに参加するかどうかは、今から行う『特別オリエンテーリング』を終えた後、改めて確認を取らせてもらう」

 

 全員が沈黙する中、先程からグランの口から出てくる、ある言葉が気になった。

 

「あの『特別オリエンテーリング』とは?」

 

 代表して、アルフィンが質問をする。その質問にグランは意味深な笑みを浮かべて、壇上の柱に備え付けられたスイッチに指を付ける。

 

「それは、これから体験する。全員、足元に注意しろよ」

 

 ポチッとスイッチを押すグラン。すると、アルフィンたちの足元が急に消え去った。

 

「何っ!」

「っ!」

「きゃっ!」

 

 先程まで立っていた床が傾斜となり、アルフィンたちはそのまま下へと落ちていった。

 

「ほっ!」

「ふっ」

 

 しかし、赤髪の少女とパーマの男は高く跳躍して、壇上の上へと避難する。

 

「ま、お前たちに、こんな不意打ちは効かないか」

「甘い甘い。パパたちが仕掛ける物に比べたら、あくびが出ちゃうよ。それよりも……」

 

 少女は自分と同じく避難したパーマの男を興味深そうに見つめる。

 

「君、なかなかやるね。さっきの身のこなし、ただの一般人ってわけでもなさそうだけど」

「鍛えれば誰でもできる。そんなことよりも彼女たちは大丈夫だろうな?」

「心配ない。ここの床は比較的に柔らかいし、地下もそんなに深くない。それより、お前たちも参加してほしいから、地下に行きなさい」

「……いいだろう。知り合いもいるからな。教官の言う事に従おう」

 

 男はポケットに手を突っ込んだまま、傾斜を滑っていった。

 

「アハッ! それじゃあ、行ってきまーす!」

 

 それに続いて、少女も下へと降りて行った。

 

「まったく。まさか彼女が入学してくるとはな。彼女もそうだが、とんだ問題児たちを押し付けられたな」

 

 グランは頭をかいた後、顔を上げて東の方に向ける。校舎の壁、いや、それを通り越して、さらに東にある故郷に想いを寄せて、かつての同僚たちを思い浮かべるのだった。

 

「こっちでも頑張るから、お前たちも諦めるなよ」

 

 

 ~~~~~

 

 

 ところ変わって、旧校舎地下一階。

 グランによって落とされたアルフィンたちが次々と地下へとたどり着く。綺麗に着地する者や、ドンッと音を立てて着地する者、失敗して尻からいった者などさまざまだ。

 

「いたた……、エリゼ、怪我はな……」

 

 尻をさすって痛みを和らげるアルフィンは近くにいたエリゼに声をかけようとするが、言葉が止まってしまった。

 

「ううん……、何なんですか、いきなり……」

 

 エリゼは仰向けに倒れる白髪の男を下敷きにして、うつ伏せの状態で倒れていたのだ。

 だが、その体勢が非常にまずい。

 まるで抱きしめ合っているかのように倒れており、男の顔には彼女の慎ましくも柔らかな胸がダイレクトに当たっていた。だが、エリゼ本人はそれにまったく気づいていない。

 

「エ、エリゼ……」

「はい? 何ですか姫様」

「……おい」

「え?」

 

 ひどく苛立った低い声が下から聞こえて、エリゼはようやく男の存在に気づいた。そして、今の自分の体勢にも。

 

「っっ//!!」

 

 沸騰するかのようにエリゼの顔が急激に熱くなった。

 

「いいから退きやがれ」

 

 男が言い切る前にエリゼは胸を手で隠しながら慌ててその場から離れる。その後、男は乱暴な仕草で髪をかきながら、ゆっくりと起き上がった。

 

「ったく、あの先公。いい度胸してんじゃねぇかっ」

 

 エリゼの正面に立ち上がった男は、自分たちが滑って来た場所を睨みつける。

 そんな彼をよそに、あまりの恥ずかしさに我慢できなかったエリゼは男を睨みつけようと顔を上げるが、男の顔を見て息を止めてしまった。

 オランピアのものとは違う、まるで色素が抜けたかのような白縹(しろはなだ)の髪をオールバックにかきあげた男。眉間に皴が寄っており、睨んでいるかのように目が鋭かった。おまけに片目には黒い眼帯のようなものが付けており、大きな体格も相まってか、とても同い年の青年には見えない。

 

(ふ、不良っ!)

 

 エリゼがその姿を見た第一印象がまさにそれだった。不良風の男の面構えにエリゼは先程までの怒りが静まってしまい、子ウサギのように震えてしまう。

 

「……おい、女」

「は、はい!」

 

 見られていることに気づいた男はエリゼに声をかける。男に呼ばれて、エリゼは反射的に声を出してしまう。

 これはまずい。

 親友のピンチにアルフィンが二人の間に割って入る。

 

「あ、あの、彼女は決してわざとあなたを下敷きにしたわけではないんです。どうか彼女を許していただけませんか!」

 

 割り込んできたアルフィンを睨みつける男。彼が放つ凄まじい眼光にアルフィンも怯え腰になるが、親友を守るためにとその場に踏ん張る。怯えるアルフィンたちの姿を見て、男は大きく息を吐いた。

 

「勘違いすんな。別に怒ってねぇ」

「「……え?」」

「あの落とし穴なんか誰も予想できねぇだろうが。あぁなっちまったのは、ただの事故だ。別にテメェの責任じゃねぇだろう」

「そ、それは、そう、ですが……」

「それに、事故とはいえ、テメェを辱めちまったのは事実だ。……だから、ケジメはつけなきゃならねぇ」

 

 男はその場で胡坐をかいて、手を両膝に置く。

 

「一発やれ。それで今回の件はチャラだ」

「えぇ!」

 

 男の提案に驚きを隠せないエリゼ。殴られると思っていたのに、逆に殴れと言われたのだ。突然の事態にエリゼは混乱する。

 

「そ、そのようなことは……」

「言っただろう、俺自身のケジメだ。やってもらわなきゃ、俺が困る。……だから、やれ」

 

 脅しにも近い低い声でエリゼを睨みつける男。それにビクッと震えるエリゼは助けを求めようと親友に助けを求める。

 

「ひ、姫様……」

「エ、エリゼ。ここは、この殿方の要望通り一発、やって差し上げたら?」

 

 アルフィンもどう対応していいのかわからず、とりあえず男の提案を進めることにした。言葉を詰まらせるエリゼは周りにいる人たちに助けを求めようとするが、全員、特に介入しようとする気配はなく、黙って行く末を見守っていた。

 

「わ、わかりました。あなたがそうおっしゃるのなら……」

 

 エリゼは諦めて恐る恐ると男に近づく。ゆっくりと手を上げる姿を見た男はその場で目を閉じて、その時を待つ。

 

「そ、それでは、行きます!」

 

 

 ――パチンッ!!

 

 

 ~~~~~

 

 

 グランとの話を終えたパーマの男は綺麗に着地して地下一階へと辿り着いた。それに続けて赤髪の少女も降り立って、周りを見渡した。

 

「……何、この空気?」

 

 どこか微妙な空気が部屋を支配していた。パーマの男もそれを察して、その発生源であるエリゼと不良男に視線を向ける。

 

「見たところ、問題は解決しているみたいだな」

 

 頬に綺麗な赤いもみじマークがついた不良男は腕を組みながらそっぽ向いており、反対側にいるエリゼは顔を赤らめながら俯き、そんな彼女をアルフィンが慰めていた。

 どうすればいいのかと長く続いた沈黙の時間は、突如、鳴り響いた通信音によって壊された。全員が懐を漁ると、備品として配られた戦術オーブメントがけたたましい音を鳴らしていた。

 

『あーあー、こちらグラン・ダンバルト。全員、無事にたどり着いたか?』

 

 無事じゃない、とエリゼは思わず言いそうになったが、頬を赤らめて黙ってしまった。

 

「あのグラン教官。この戦術オーブメントは《ARCUS(アークス)》なんですか? 少し形状が違うような……」

 

 メガネをかけた茶髪の少年が、手に持っている戦術オーブメントについてグランに尋ねる。

 エレボニア帝国のラインフォルト社がエプスタイン財団と共同で開発した第5世代戦術オーブメント《ARCUS》。デザインは確かに似ているが、その形状は従来のものよりも少しコンパクトなものだった。

 

『それは現在、ラインフォルト社がエプスタイン財団と共同で改良している《ARCUS》の発展版。《ARCUSⅡ》のプロトタイプだ』

「《ARCUSⅡ》……」

 

 興味深そうにまじまじとオーブメントを眺めるアルフィンたちだが、それを知らないグランは話を進める。

 

『それがお前たちの新たな戦術オーブメントだ。それでは各自、台の上に校門前で預かったお前たちの武器と、マスタークオーツを用意した。《ARCUSⅡ》にクオーツをセットし終わったら、再度連絡する』

 

 通信が終わり、全員がその場に佇む。戸惑う者もいるが、各自、ちりぢりになって自分たちの武器が置かれた台へと向かった。アルフィンとエリゼも一度、お互いに顔を見合わせた後、それぞれの台へと足を運ぶ。

 

「ありました」

 

 アルフィンの前にある台の上にはフェリスに預けたトランクケースと小さな箱が置かれていた。

 

「これが私のマスタークオーツ」

 

 小さな箱を開くとそこには銀色に輝くマスタークオーツが収まっていた。アルフィンはそれを手に取って、自身の《ARCUSⅡ》に埋め込んだ。すると《ARCUSⅡ》は淡い光を発して、使用者であるアルフィンと同調する。

 

「姫様」

「あ、エリゼ」

 

 気づくと、エリゼがアルフィンの傍まで近づいていた。彼女の手にはアルフィンと同じ《ARCUSⅡ》と彼女の武器である細剣が握られていた。

 

「準備の方は整いましたか?」

「えぇ。よろしくてよ」

 

 アルフィンはトランクケースから自身の武器を取り出す。昨月に兄のコネで手にした自分用にカスタマイズされた魔導杖(オーバルスタッフ)。煌びやかな装飾品が付けられたその武器は皇女である彼女にふさわしいデザインをしていた。

 

『全員、準備はできたな』

 

 準備を終えたアルフィンたちが広間の中央へと集まった。

 

『それでは、これより士官学院・特科クラスⅦ組の特別オリエンテーリングを開始する』

 

 広間にあった唯一の扉が重い音を鳴らして、ゆっくりと開いた。

 

『その先はダンジョン区画となっている。魔獣も徘徊しているが、戦闘経験がない初心者でも倒せるレベルのものだ。単独で行くのもいいし、協力しあって行くのもよし。各自、最奥にある一階の階段に辿り着いたらゴール。特別オリエンテーリングは終了となる。それでは健闘を祈る』

 

 ガチャ、と音を鳴らして通信を切るグラン。一同はその場にしばらく立ち尽くすが、真っ先に動いたのは眼帯を付けた不良男。

 

「おい、貴様!」

 

 その不良男を呼び止めるのは青髪を逆立てた青年。手には磨きがかかった銀の槍が握られていた。

 

「なんだ?」

「『なんだ』ではない! 貴様、どこへ行こうとしている」

「んなもん、ダンジョン以外のどこがあるんだよ。バカか、お前は」

「バっ……! そういうことではない! 貴様、皇女殿下を放っておいて先に行くというのか! それでも貴様は帝国人か!」

「あぁ? 皇女殿下? どこにいるんだよ?」

 

 不良男は全員に一度、顔を合わせる。顔を背けられたエリゼを無視して、その隣にいるアルフィンに目がついた。

 

「……あぁ、お前か。確かにあの《放蕩皇子》に似ているな」

「『お前』っだと! 貴様、殿下に何という口を!」

「生憎とそういったものには縁がなかったからな。皇女だって言われてもピンとこねぇんだよ」

 

 面倒臭そうに不良男は頭をかいて、ダンジョンの入り口の方に振り返る。

 

「それに皇女様が実戦を経験しているのは見ればわかんだろう。あの先公は、初心者でも倒せるレベルの魔獣しか出ねぇって話じゃねぇか。わざわざ俺が守る必要があんのか?」

「なっ!」

「それに当の本人はやる気みてぇだぜ」

 

 不良男は青髪の男を無視して、アルフィンを横目で見る。見抜かれたことに少し目を開いたアルフィンだったが、すぐに顔つきを変えて強く頷いた。他の人が見てもやる気があるというのが十分に伝わってくる。

 

「そんじゃあ、俺は行くぜ。先公は単独で行くのもいいって言ってたからな」

「なら、俺も行かせてもらう」

 

 不良男に乗っかるようにパーマの男もダンジョンへと向かう。しかし、そんな彼を止める者が一人いた。

 

「ロ、ロドルフォさん!」

 

 エリゼだった。

 パーマの男――ロドルフォは立ち止まり、彼女に顔だけを向ける。

 

「……エリゼか。挨拶が遅れたな。元気にしてたか?」

「え、えぇ、おかげさまで……ではありません! いつ頃、お帰りになったのですか!?」

「帝国に戻ってきたのは、今年の一月だ。ユミルに戻ったのは一週間ぐらい前になる」

 

 ロドルフォは落ち着いた姿勢を崩さずにエリゼと話した後、再びダンジョンの方へと歩き出す。

 

「あ、あのロドルフォさん!」

「俺も先に行く。お前はそこのお姫様と一緒に後から付いてこればいい」

 

 そう言って、ロドルフォはダンジョンへ入り、不良男もそれに続いて奥へと消えていった。

 

「私たちも行きましょう」

 

 そこに今まで静観していた黒髪を白いリボンで一つに結んだ少女が赤髪の少女に声をかける。

 

「了解。でもいいの? 彼女たちと話したいんじゃないの?」

「これが最後というわけではありませんので、そう焦る必要はありません。それにさすがに人数が多いので、ここは分断した方がいいと思います」

「ま、お嬢さんがそう言うなら、別にいいけど」

「それでは皆さん、ここで失礼します」

 

 少女二人はそのままダンジョンへと向かい、姿を消した。

 

「え~と、これからどうしましょうか?」

「まずは自己紹介をしませんか?」

 

 残った者たちでどうしようかと考える中、オランピアが提案を出す。

 

「名前が知らないままというのも不便ですし、これから同じ学院に過ごしますので」

「そうですね! 私も皆さんのことが知りたいです」

 

 いいアイデアだと、オランピアを称賛するアルフィンは先陣を切って自己紹介を始める。

 

「まずは私から。エレボニア帝国皇女、アルフィン・ライゼ・アルノールと申します。この度、トールズ士官学院に入学いたしましたので、皆さんよろしくお願い致します」

「アルフィン殿下、あなたと同じクラスになれたことを光栄に思います」

 

 青髪の青年はアルフィンに深くお辞儀をして、挨拶を交わす。

 

「オスカー・シュライデンと申します。オスカーと気軽に呼んでください」

 

 青年――オスカーの姓名にエリゼが反応する。

 

「シュライデン……。もしかして、《シュライデン流》の?」

「その通りだ。槍術だから、あまり知られていないと思っていたが……」

「《シュライデン流》?」

 

 聞きなれない流派に首を傾げるオランピア。それにエリゼは補足する。

 

「《四大名門》ログナー侯爵家を守護するシュライデン伯爵家が修めている《シュライデン流槍術》のことです。歴史の長さで見れば、帝国の二大剣術よりも長いですね」

 

 帝国の二大剣術である《ヴァンダール流》と《アルゼイド流》。本家直系であるヴァンダール子爵家とアルゼイド子爵家は、皇族とは深い縁があることから、《シュライデン流》よりもその名が大きく広がっている。

 

「シュライデン伯爵家のことはログナー侯爵からお聞きしております。昨年の内戦、《貴族連合》に属さず、お兄様に助力してくださりありがとうございます」

「もったいなきお言葉。我々は帝国貴族として当然のことをしたまでです」

「ふふ……そうですか。それから私のことは殿下ではなく、アルフィンと呼んでください」

「えっ」

「対等の立場であることがこの学院の規則です。ですから気軽に呼んでください」

「い、いいえ、そんな! 皇女殿下をそのように呼ぶなど恐れ多い!」

 

 慌てるオスカーにイタズラな笑みを浮かべるアルフィン。そこを見かねたエリゼは彼女を止めようと割って入る。

 

「姫様。戯れはそのへんに」

「エリゼ、あなたもですよ。いい加減に名前で呼んでちょうだいな」

「そ、それは……、と、とにかく! オスカーさんが困っているのでそのへんに!」

「もう、エリゼも固いわね」

 

 子供のように拗ねてそっぽ向くアルフィンに呆れるエリゼ。そんな彼女を無視して、エリゼは前に出て、スカートを広げてお辞儀をする。

 

「ユミルを治めるシュバルツァー男爵家が長女、エリゼ・シュバルツァーと申します。どうか、よろしくお願いいたします」

 

 エリゼの姓名に、今度はオスカーの方が反応する。

 

「シュバルツァー? もしや、君は《灰色の騎士》の?」

「……はい。リィン・シュバルツァーは私の兄になります」

 

オスカーの問いにエリゼは小さく頷いた。

 

 《灰色の騎士》

 それはエリゼの兄であるリィンに与えられた二つ名。去年の《十月戦役》を終結させて、《貴族連合》によって制圧された帝都を解放した立役者。内戦後は帝国政府の要請で各地に赴き、そこに住む人々を救ってきた若き英雄の名前。

 今では《灰色の騎士》の名は帝国のみならず、各外国にも知られている。今の時世でもっとも注目されている人物と言ってもいいだろう。

 

「彼の《灰色の騎士》の妹ぎみと同じクラスになれるとは光栄だ」

「あ、ありがとうございます」

「次は私の番ですね」

 

 オランピアは手を胸に当てる。

 

「オランピア・エルピスです。去年まで大陸各地を渡り歩いてきた流浪の旅人です。どうぞ、よろしくお願いします」

「あ、あなたがオランピアさんですか!」

 

 名前を聞いた瞬間、金髪の少年が彼女に近づいた。彼の素顔を間近で見たオランピアは目を丸くして驚きの表情を見せる。

 

「あ、あなたは!」

「あら、お知り合いなのですか?」

「はい。といっても、こうしてお話しするのは初めてですが」

 

 恥ずかしそうに頭をかく金髪の少年は改めて、オランピアたちを一瞥する。

 

「ウィリアムです。ウィリアム・ミルスティンといいます」

「え? ミルスティンってたしかエマさんの……」

「はい。エマ・ミルスティンの弟です。よろしくお願いします」

 

 アルフィンとエリゼは目を丸くして金髪の少年――ウィリアムを凝視する。

 ウィリアムの姉、エマ・ミルスティン。リィンの同級生であり、同じⅦ組のクラスメイトだった女子だ。リィンを除いた初代Ⅶ組メンバーは一年早く卒業しており、エマは現在、トールズには在籍しておらず、故郷に戻っていた。

 

「まさか、エマさんに弟がいらっしゃったなんて……」

「あはは……、弟といっても義理の弟です。それに姉さん、あまり家庭の事情を話すタイプじゃないので」

 

 誤魔化すように笑うウィリアム。自己紹介も順当に回り、最後に残ったメガネをかけた茶髪の少年に注目が集まった。

 

「リアム・H・ルサージュと言います。レマン自治州の《エプスタイン財団》本部から留学しに来ました」

「《エプスタイン財団》から……。《ARCUSⅡ》に反応したのはそういうことだったのですか」

 

 一通り挨拶を終えたアルフィンたちは今後の方針を相談しあう。オスカーは六人全員で行動しようと提案するが、それに対してオランピアは別の提案を出す。

 

「ここは三人に分かれて行きましょう」

「それはどうしてでしょうか?」

 

 オランピアの提案にエリゼは聞き返す。

 

「入り口を見ましたが、ダンジョンはそこまで広くはありません。狭い場所での六人行動は逆に制限がかかってしまいます。それにまだお互いに素性をあまり知らない身ですから、いきなり連携を取るというのも難しいと思います。ここは三人に分かれて、まずは少人数で連携をとった方がいいと思います」

「いや、ここは六人全員で行って、殿下の安全を……」

「これからの士官学院生活は危険なことがたくさんあると思います。アルフィンさんもただ守られるだけというわけにはいきません。彼女にも戦う経験をしなくてはいけないと思います」

「だ、だが……」

「オスカーさん。私はオランピアさんの意見に賛成です」

 

 反論しようとするオスカーをアルフィンが止める。

 

「彼女の言う通り、私は守られるためにここに来たわけじゃありません」

「殿下……」

「臣下として、その心遣いは感謝いたします。ですが、こればかりは譲りたくありません」

「……御意」

 

 覚悟が灯ったアルフィンの強い視線にオスカーは何も言う事ができなくなった。彼はその場で一礼して後ろへと下がった。

 

「ふぅ……、ごめんなさい、オランピアさん」

「……いいえ。その気持ち、私にもわかります。それで、組み合わせなのですが……」

 

 その後、アルフィンたちは三人に分かれて、ダンジョンへと足を踏み入るのであった。




二代目Ⅶ組メンバー

男性陣
パーマの男……ロドルフォ
青髪の青年……オスカー・シュライデン
金髪の少年……ウィリアム・ミルスティン
眼鏡をかけた少年……リアム・H・ルサージュ
オールバックの不良男……???

女性陣
アルフィン・ライゼ・アルノール
エリゼ・シュバルツァー
オランピア・エルピス
黒髪の少女……???
赤髪の少女……???

これだけキャラが多いと口調で誰が話しているのか判断が難しいですね。書いてみて思いました。

次回の水曜日、また、お会いしましょう。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。