英雄伝説 閃の軌跡2.5 ~Trajectory of mavericks~   作:魔ギア

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第二十一話 襲撃

 銃声の音が鳴り響く。

 一同がその音に固まる中、ルカを抱えていたロドルフォはアルフィンに押し倒されて、一緒に地面に倒れる。

 

「! 姫様!」

 

 いきなりのことに全員が放心していたが、すぐに正気に戻ったエリゼがアルフィンに駆け寄る。

 起き上がったアルフィンは腕を抑えながらゆっくりと起き上がる。

 

「だ、大丈夫です。ロドルフォさん、お怪我は?」

「俺よりも自分の心配をしろ」

 

 ロドルフォはアルフィンの腕を掴む。彼女の制服の袖が切られていた。切り口からおびただしい血が流れ、制服をさらに赤く染める。顔を見ると少し青ざめており、額に汗が流れていた。

 

「姫様!」

「銃弾はかすっただけだ。エリゼ、すぐに手当てをしろ」

「ロドルフォさんは?」

「俺は問題ない。それよりも……」

 

 ロドルフォはルカをエリゼたちに預けて、拳銃を森の奥へと向ける。しばらくすると、茂みから導力銃を構えた五人の男たちが一斉に出てきた。

 

「あの制服は……」

 

 男の制服にアルティナは眉を潜める。

 突然、現れた集団に警戒する中、一人の男が前に出た。

 

「ロドルフォ・ソレイユだな」

「何者だ?」

「帝国軍情報局のものだ。アランドール大尉からの要請により、アルフィン殿下救出の応援に来た」

「救出?」

 

 男の言葉にラヴィアンは怪しげに見つめる。それに対して、男はロドルフォとラヴィアンを睨みつける。

 

「ロドルフォ・ソレイユ、ラヴィアン・ウィンスレット。お前たち二人をアルフィン殿下の誘拐容疑で拘束する」

「お、お待ちになってください!」

 

 治療中にアルフィンは痛みに耐えながらも情報局の男たちに抗議する。

 

「それは何かの間違いです! 私はロドルフォさんの捜索のためにここに来ました。ラヴィさんもここでたまたま会っただけでしかありません! 誘拐容疑などはありません!」

 

 アルフィンはロドルフォたちの無実を必死に主張するが、情報局の男たちは聞く耳を持たなかった。

 

「ロドルフォ・ソレイユ。アルフィン殿下を人質にし、あまつさえ盾にした所業! ただで済むと思うな!?」

「ま、待ってください、それは……!」

「アルフィン殿下を保護! それ以外の者は拘束しろ! 場合によっては射殺も構わん!」

『イエス・サー!!』

 

 アルフィンの説得を無視して、男たちは一斉に銃を構えた。

 

「下がれ!」

 

 もはや話し合う余地はなかった。

 ロドルフォはアルフィンたちを下がらせて、男たちに銃を向ける。

 

「撃て!」

 

 男たちが一斉に発砲。それよりも早くロドルフォが連射する。

 ガキンッ! という音が何度も鳴り響き、ロドルフォたちと情報局たちの間で火花が何度も飛び散った。

 

「な、何が起きた?!」

 

 撃ったはずなのに誰も倒れていない。銃弾が一つも命中していないことに男たちは何が起きたのか把握できずに狼狽する。

 一方で、アルフィンたちも目の前で起きた現象がわからず目を丸くしていた。しかし、ラヴィアンだけが何が起きたのか理解していた。

 

「……弾いたんだ」

「弾いた?」

「ロドルフォが撃った銃弾が、奴らが撃った銃弾を全て弾き返したんだ」

「そ、そんなことができるのですか?!」

 

 ロドルフォがなした神業にエリゼだけでなく、アルフィンも度肝を抜いてしまう。

 そして、ラヴィアンの話を聞いて、男たちは呆然と立ち尽くしてしまう。それをロドルフォは見逃さなかった。

 

「ラヴィ!」

「っ! 了解!」

 

 ロドルフォの合図にラヴィアンが彼と共に前に出る。呆けていた男たちは接近する二人に気づいて、銃を再び構える。

 

「っ!! う、撃……」

「遅い」

 

 指示を出そうとした男の前に現れるロドルフォ。男の腕を掴み、捻りながら彼の後ろへと回った。

 銃を取りこぼした男を盾にして、ロドルフォは残った男たちに向かって歩を進める。

 

「と、止まれ!」

「がら空きだ」

 

 近づいてくるロドルフォに気を取られている男たちの後ろにラヴィアンが回り込む。

 一人だけ彼女に振り向こうとしたが、それよりも早く彼女は男の首に腕を回して、一瞬で意識を刈り取った。

 

「返す」

 

 ロドルフォは盾にしていた男を前に蹴り、男たちに押し付ける。男二人が慌てて受け止めるが、ロドルフォは蹴り飛ばした男の後ろに隠れながら近づいていた。

 

「がっ!」

「ぎゃっ!」

「ぐあっ!」

 

 そして、瞬く間に三人を制圧する。地面に倒れて気を失った男たちを一瞥した後、ロドルフォは残った最後の一人に目を向ける。

 

「ヒッ!! く、来るな!」

 

 仲間が一斉にやられてしまい、悲鳴を上げる男。急いでロドルフォに銃口を向けるが、ラヴィアンが銃を蹴り飛ばす。

 蹴り飛ばされた銃を目で追う男だったが、その隙にラヴィアンは彼の腕を後ろに回して、すぐさま拘束する。

 

「ラヴィ、そのまま捕まえていろ。色々と聞き出す」

「了解」

 

 ロドルフォは先に倒した四人を集めて木に縛り付ける。

 その間にエリゼはアルフィンの治療に取り掛かり、終わるとアルフィンとアルティナを連れてラヴィアンと拘束している男のところに集まる。

 

「これって私たち、とても不味いことをしているのでは……」

 

 両膝を付いて蹲る男を見て、エリゼは顔を青くしながら頭を抱える。

 誤認逮捕を防ぐためとはいえ、任務中の軍人を制圧してしまった。明らかに軍法会議ものだ。しかも、外国も絡んでいる案件だから、下手すると国家反逆罪になりかねない。

 悪い方向へと考えが向かって行き、エリゼはこの場にいない兄や両親に謝り倒していた。

 

「エリゼ。その心配はない」

 

 拘束を終えたロドルフォはラヴィアンが拘束している男の髪を掴んで、乱暴に顔を掴み上げる。

 

「き、貴様ら、こんなことをして……」

「その前に一つ聞かせろ。この小娘に見覚えがあるか?」

 

 ロドルフォは男をアルティナの前に突き出す。

 

「し、知るわけないだろう! こんなガキのこと!」

「! それはおかしいです! 彼女は情報局の人間ですよ!」

「な、こんなガキがっ!」

 

 アルフィンが即座に否定すると、男は信じられないと目を大きく開いた。

 

「情報局に変装した偽物か」

「あぁ。もし本物ならば小娘に命令すれば、挟み撃ちにできたはずだったからな

 

 ラヴィアンに説明したロドルフォは男を一睨みして、乱暴に頭から手を離す。

 

「いつから気づいていたのですか?」

「最初からだ。俺たちを捕まえるために正規軍を呼んでいるにもかかわらず、そいつらを連れて来ていなかったからな」

「確かに。《狼帝》を相手にするには明らかに戦力不足ですね」

 

 アルフィンの質問に答えるロドルフォにアルティナは納得する。

 

「では、彼らは何者なのですか?」

「それを知るためにもエリゼ、アルフィンと一緒にこいつらの所持品を調べろ」

「ロドルフォさんは?」

「ラヴィと小娘と一緒にこいつを尋問する。気になるものがあったら、すぐに報告しろ」

「わかりました。姫様、大丈夫ですか?」

「えぇ、心配ないわ」

 

 治療のおかげで痛みがだいぶ和らいだアルフィンはエリゼと共に情報局に変装した男たちの所持品を調べる。

 荷物を漁り、拳銃、ナイフ、睡眠薬と危険物が徐々に出てくる。だが、彼らの身分を証明するようなものはまだ見つからない。

 

「っ! これは……」

「何か見つかりましたか?」

 

 カバンの一つを漁っていたアルフィンは手に取ったものに目が止まる。彼女の手にあったのは、どこかで見た覚えがある黒い腕章だった。

 

「その腕章はいったい?」

「これは……《新生貴族連合》の腕章です」

 

 自由行動日前日にパトリックから聞いた《貴族連合》の残存勢力。そのシンボルである黒の腕章が出たことにアルフィンは声を震わせる。

 

「つまり彼らは《新生貴族連合》の人間? なぜ、情報局に変装を……」

「姫様、ロドルフォさんに報告しましょう」

 

 二人で考えても結論が出ないと思ったエリゼはアルフィンを連れて、ロドルフォたちの下に戻る。

 一方、尋問をしていたロドルフォたちは寝そべって気を失ってしまっている男を見下ろしながら、何かを考え込んでいた。どうやら尋問はすでに終わっているようだ。

 

「何か掴んだか?」

「はい。じつは……」

 

 エリゼは黒い腕章をロドルフォに渡して、説明する。

 

「《新生貴族連合》か」

「間違いありません。情報局でも彼らの事はマークしています。この腕章は彼らの構成員が付けているものと一致しています」

「その《新生貴族連合》という連中は、なぜ情報局の人間に化けていんだ?」

 

 アルティナがロドルフォから手渡された腕章を確認していると、ラヴィアンはアルフィンと同じ疑問を抱いた。

 

「《新生貴族連合》は去年の内戦で敗北した《貴族連合》の残党だ。鉄血の手駒でもある情報局に成りすます理由など、だいたい見当がつく」

「そちらの方は何かわかりましたか?」

「こいつらには協力者がいた。昨日現れた仮面の男だ」

「! それって、《H》と名乗っていた?」

 

 アルフィンは覆面を被った毒使いを思い出す。

 

「さらに言うと、俺たちの目的地でもある公園の奥に奴らの拠点があるそうだ」

「ということは……」

「衝突は避けられそうにないな」

 

 ルカを助けるために公園の奥へと目指していたアルフィンたち。その後にロドルフォたち二人の無実を証明しなければならないのに、ここに来て新たな障害が発生した。

 

「関係ありません」

 

 しかし、アルフィンはめげなかった。

 

「私たちはロドルフォさんたちを助けに来たんです。魔獣が襲ってくることも、帝国軍が邪魔をすることも覚悟で私たちはここに来ました。今更、別の障害が増えたところで私たちのやることは変わりません」

 

 顔を上げたアルフィンの目はロドルフォとルカに視線を送る。

 

「ロドルフォさんは私たちとⅦ組の大切な仲間です。この先、ロドルフォさんを見捨てて学院生活を送るなんて、私は想像もしたくありません。……だから、絶対に助けます」

 

 ロドルフォとの学院生活はまだ一ヶ月も経っていない。

 他者を寄せ付けない性格も相まって、まともに会話できたのは自由行動日の日が初めてだ。

 まだ、そこまで親しい間柄ではない。自分の将来を賭けてまで助けるほど友情を深めたわけでもない。

 だが、助けたくないと聞かれれば、それは違う。

 勉学や実技の時、厳しくも的確なアドバイスを毎回、送ってくれた。

 毎日、皆のために料理を作り、それを食している自分たちを見て満足そうに笑うところもあった。

 不器用ながらも彼の言動や行動には優しさが籠っていた。

 彼にはたくさんの恩をもらったのだ。だから、今度は自分たちが彼を助ける番なのだ。

 

「覚悟はあるんだな?」

「だから、ここに来たんです」

 

 確認するロドルフォにアルフィンは即答する。

 

「ならば、行くぞ。俺はルカを背負って行く」

「わかりました。私たち四人でロドルフォたちをお守りします。よろしいですね、皆さん」

 

 一同は目的を再確認して、森の奥へと向かう。

 ラヴィアンが先頭を歩き、その後ろにエリゼとアルフィンがロドルフォたちを挟んで横に広がる。そして、その後ろをアルティナが《クラウ=ソラス》に乗って付いて行く。

 

「アルフィン、怪我の方は大丈夫なのか?」

 

 ロドルフォは周りを警戒するアルフィンに声をかける。

 いきなり、声を掛けられて目を丸くするアルフィンだったが、すぐに笑みを浮かべた。

 

「はい。エリゼとアルティナさんのおかげでだいぶ楽になりました。ふふっ、あの時と逆ですね」

「逆?」

「旧校舎の時のことです。あの時はロドルフォさんが助けてくれましたよね」

 

 幻獣の不意打ちにアルフィンを庇ったのを思い出したロドルフォは「あぁ」と声を漏らす。

 

「お前のように無鉄砲ではないがな。当たり所が悪ければ、死んでたぞ」

「うっ……、そ、そうですね」

「自分の命は大切にしておけ。人助けしたがそのせいで自分が死んだら元目もないからな」

「……やっぱり、ロドルフォさんはお優しい人ですね」

 

 こんな状況でも自分よりも他人の心配をするあたり、やはり彼は根が良い人なのだと、アルフィンは確信するのだった。

 

「絶対に帰りましょう、皆で」

「無茶だけはするなよ」

 

 二人は小さく笑みを浮かべるのだった。

 

 

 ~~~~~

 

 

 アルフィンと合流しようと行動を開始したユーシスたちは、彼女たちと同じく、情報局に変装した《新生貴族連合》と遭遇した。

 

「まったく、手間をかけさせる」

 

 だが、あっという間に制圧してしまい、全員で拘束された《新生貴族連合》を取り囲んでいた。

 

「えっと……、よろしかったのですか? 拘束してしまって」

「かまわん。こいつらは偽物だからな。遠慮する必要はない」

 

 心配そうにするオランピアだったが、ユーシスの言葉に安心する。

 

「その場の流れで自分たちも手伝ってしまいましたね」

「仕方ないでしょ。狙われていたの、私たちみたいだったし」

 

 ユーシスたちと共に《新生貴族連合》を制圧したタリオンとイセリアがそう呟いていると、離れたところでアルティナと通信していたミリアムが戻って来た。

 

「今、あーちゃんから連絡があったけど、あっちでも襲撃があったみたい」

「殿下たちは?」

「無事みたいだよ。ちょうど合流したロドルフォが制圧したって」

「そうか」

「後、こいつらの正体もわかったみたいだよ。《新生貴族連合》のメンバーだって」

「何だと?」

 

 ユーシスは眉を潜めて、捕まえた男たちを睨みつける。聞き慣れ単語にオランピアが質問する。

 

「あの、《新生貴族連合》って何ですか?」

「去年の内戦を引き起こした《貴族連合》の残党どもだ。トップのカイエン公が捕まってもなお、密かに活動を続けている。俺やハイアームズ侯も目を光らせていた」

「情報局の方でも捕捉はしているけど、どのくらい残っているかわかんなくてね。ノーザンブリアの件もあって、あまり進展がないんだ」

「俺たちの前でよく言えるな」

 

 明らかに話してはならないような内容をペラペラと話すミリアムにマーティンは顔を引きつる。

 

「今、《新生貴族連合》を統括しているのはカイエン公と深く繋がりがあったテルドール伯爵家だ。噂ではカイエン公を取り戻そうとしていると聞いているが、その辺りはどうなんだ、ミリアム」

「本当だと思うよ。オジサンの話だと、今、カイエン公が収容されている《ジュノー海上要塞》で《新生貴族連合》のメンバーが時々、現れているからね」

「あの要塞は今、オーレリア将軍が籠城していたな。彼女も《貴族連合》に所属していたが、《新生貴族連合》には所属していないようだな」

「だね。もし所属していたら、カイエン公はとっくに逃げてるだろうし」

 

 ユーシスとミリアムが情報を共有しているのをよそにオランピアはウィリアムに話しかける。

 

「今、話に出てきたオーレリア将軍というのは、メイさんのお姉さんですよね」

「うん。ルグィン伯爵家の現当主で、凄腕の剣士だって話だったね」

 

 二人は同じⅦ組の眼帯をした不良面の男のことを思い出していた。

 

「いずれにせよ。殿下が狙われていると知った以上、こいつらを放置するわけにはいかんな」

「一応、魔獣に襲われないように別の場所に隠しとこうか。今、軍を呼ぶのはまずいからね」

 

 ミリアムは《アガートラム》を呼んで、拘束した男たちを木の上にぶら下げる。

 

「あーちゃんの話だと、あいつらの拠点も公園の奥にあるみたい。殿下たちはロドルフォたちと一緒にそこに向かうみたいだよ」

「そうか。ならば、俺たちもそこへ向かう。お前たちもいいな?」

「俺たちに拒否権はねぇよ。うちの仲間もそこに向かってんだからな」

 

 ユーシスたちはアルフィンたちと合流するため、公園の奥へと目指すのだった。

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