英雄伝説 閃の軌跡2.5 ~Trajectory of mavericks~   作:魔ギア

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 プライベートが忙しくなり、遅くなってしまいました。
 申し訳ありません。
 それでは、ご覧ください


第二十二話 愚か者の野望

「な、何ですか、これは?」

 

 最奥部に辿り着いたアルフィンの前には目を疑うような光景が広がっていた。

 最奥部に広がる平地。本来ならば何も整備されていない空地だったのだが、周囲を見渡すと大量の木箱が積まれていた。箱を覗き込むと中には食糧だけでなく、銃器や爆弾といった武器なども入っていた。

 

「どうやら貯蔵庫として使われているみたいですね」

「《新生貴族連合》が密かに蓄えていたというのですか? いったい何の目的で?」

「少なくともロクでもないことなのは確かだな」

「誰か潜んでいないか調べてくれ」

 

 ロドルフォは歩を進める。ルカの治療が成功しやすいように霊力が高い場所を探し始め。アルフィンたちは彼に従って一度、散らばって辺りを探索する。

 ラヴィアンはアルティナと《クラウ=ソラス》に乗って空へ飛ぶ。アルフィンはエリゼと共に周辺に積まれた木箱を一つ一つ確認する。

 そんな中、身を屈めて木箱の中にある物を取り出していたエリゼは、ふと離れた場所で木材が大量に積まれている場所を目にする。

 

「いくら何でもこれは詰め過ぎなのでは……」

 

 およそ三アージュくらいは積まれているだろう。それが壁のように横にざっと並び積まれていた。これでは一人で一番上の木材を取り出すことができない。

 エリゼは木材に近づき、木材の山で隠れていた裏側に回り込む。

 

「皆さん、来てください!」

 

 目を丸くしたエリゼが全員を呼び出す。アルフィンたちは裏側に回り込んでそれを目にする。

 

「機甲兵?!」

 

 木材の壁で上手く隠れていた巨大な人型人形――機甲兵が鎮座していた。予想外の代物にアルフィンは思わず声を上げてしまう。

 

「こんなものまで手に入れていたなんて……」

「内戦終結後に《貴族連合》は資産を大量に没収されていましたが、まだこれだけの物を購入できる資産を残しているようですね」

 

 入手経路や隠し財産など、後で軍に報告する内容をまとめるアルティナ。一方で機甲兵一瞥し終えたロドルフォはその場から立ち去る。

 

「詮索は後回しだ。今はルカの方を優先するぞ」

「そ、そうですね。ロドルフォさん、何か手伝えることは?」

「必要ない。場所も特定し、やり方も神父から教わっている。お前たちはこのまま周囲の警戒を……」

「貴様ら! ここで何をしている?!」

 

 ロドルフォが準備に取り掛かろうと移動しようとすると、男の大声が響いた。

 アルフィンたちは木材の裏側から飛び出して待ち構える。しばらくすると木々の奥から情報局の制服を着た男たちがわらわらと現れた。

 

「ア、アルフィン殿下!」

 

 男の一人がアルフィンの姿を見て声を上げる。

 男たちが《新生貴族連合》だとわかり、アルフィンたちはすぐさま武器を手に取った。

 

「殿下!」

 

 両者が睨みあっていると、そこにユーシスたちが奥地に辿り着いた。

 

「殿下、ご無事ですか?」

「はい。ユーシスさんたちもご無事で何よりです」

 

 アルフィンたちと合流して無事を確認したユーシスは彼女を守るように、前に立つ。

 

「ラヴィ!」

 

 そして、ユーシスと共に行動していたマーティンたち《北の猟兵》はラヴィアンの下に集まる。

 

「こんな物をここに集めていたとはな。ここの管理人がいないのも貴様らの仕業か?」

 

 周りの木箱とその中にある武器を目にしたユーシスは男たちを睨みつける。すると男の一人がユーシスに向かって銃を構えた。

 

 ――バンッ!

 

 突然の発砲。しかし、放たれた銃弾はユーシスに当たることなく弾かれた。

 

「ニシシ♪ ユーシス、大丈夫?」

 

 全員がその場で固まる中、《アガートラム》がユーシスの前に立っていた。事前に察知したミリアムが《アガートラム》を呼び出して、凶弾からユーシスを守ったのだ。

 

「ちっ! 鉄血の狗が!」

 

 発砲した男はミリアムを見て舌打ちをする。邪魔されたことに苛立ちを隠そうともしなかった。

 

「有無を言わさずに発砲など、いったいどういうつもりですか?!」

 

 目の前で起きた凶行にアルフィンは顔を険しくして声を荒げる。一歩間違えればユーシスは凶弾に倒れていたのだから。

 

「そこの男に話すことがないというだけですよ。裏切り者であるその男には」

「裏切り者?」

「そうだ。ユーシス・アルバレア。貴様らアルバレア家が我らにした仕打ちを忘れたとは言わせないぞ!」

 

 今にも襲い掛かりそうな男の咆哮を前にユーシスは何かに気づいた。

 

「貴様……、まさかと思うがクロイツェン領邦軍にいた元兵士か?」

「ああ! 黒竜関でエリオットのお姉さんを人質にしていた人だ!」

 

 男の顔に指を指してミリアムは見覚えのある顔に驚愕する。

 

「それに他の奴らも元クロイツェン領邦軍の者か。先程、俺の事を裏切り者と言っていたが、それはどういう意味だ?」

「言葉通りの意味だ!? 貴様の父、ヘルムート・アルバレア公はケルディックを燃やし、我ら貴族の汚点を作った。あれのせいで平民共の俺たちに向ける視線が険しくなったのだ!」

「その町を燃やしたのは、他でもなく君たちじゃないか」

 

 自分のことを棚に上げる男にミリアムは思わずツッコんだ。

 

「そして、お前の兄、ルーファス・アルバレアはカイエン公から絶大な信頼を寄せられながら、あの憎き鉄血に寝返って我らを裏切った! 貴様の兄が裏切らなければ、我ら《貴族連合》はあの内戦に勝利していたのだ!」

 

 怨嗟の声が森に響き渡る。それに対してユーシス、ミリアム、アルティナの三人は憐れむような視線を送っていた。

 話を聞いた感じ、どうやら彼らは知らないようだ。彼らが話に上げた件の男が最初から《鉄血宰相》と繋がっていることを。

 

「あの戦いの後、帝国政府によって我らの中には財を失って路頭に迷う者も出てしまった。全てはあの間違った内戦のせいだ!」

「だから、我々が正すのだ! 偽りの勝利に酔う政府共を皆殺しにして、我ら《新生貴族連合》が真の勝者だと知らしめるのだ!」

「そのために、また内戦を引き起こそうとしているのですか」

 

 アルフィンはここに集まっている貯蔵庫の意味を理解した。次の内戦を起こすために用意された物資なのだ。

 《新生貴族連合》の目的に不快感を隠せないアルフィンだったが、一つだけ気になることがあった。

 

「……あなた方の目的は理解しました。ですが、それが私を捕まえようとすることと何の関係があるのですか? わざわざ情報局の人に変装してまで」

 

 男たちがアルフィンを誘拐する目的。内戦を起こすことと彼女を連れ去ることがどうしても結びつかない。

 

「口実だろう」

「口実?」

 

 ロドルフォの発言に全員が彼を見る。

 

「先の内戦を引き起こしたこいつらがいきなり戦争を起こせば、全ての帝国民が敵に回る。仮に帝国政府を打ち倒しても、こいつらに付いて行こうと考える者はいない。それでは国として成立しない」

 

 国として成り立つには領土、主権、そして国民の三つが必要になる。

 土地があり、そこで国を治めたとしても、それに従う民がいなければ国は成立しない。

 ゆえに《新生貴族連合》には大義が必要なのだ。自分たちの戦いが正当なものであると民たちが納得する大義が。

 

「帝国政府の命令でアルフィンを誘拐しようとした情報局員を《新生貴族連合》が救出。捕らえた情報局員の証言から《鉄血宰相》が皇族を監禁し、変わって帝国の統治を目論んでいると判明。それを知ったアルフィンが《新生貴族連合》と協力して、帝国政府を打ち倒す。……それがこいつらが考えているシナリオだろう」

「なっ、そのようなこと、私は絶対に従いません!」

 

 ロドルフォの推測にアルフィンは全力で拒絶する。だが、それを見ても男たちの態度はとても冷ややかなものだった。

 

「あなたの意思などどうでもいいのですよ。ただ、私たちの下に来ていただければいいのです」

「え……?」

「貴様、殿下をお飾りの象徴にするつもりか?」

「それに何の問題がある? 《紅い翼》に乗っていたというが、殿下は何もせずにただ引き籠っていただけではないか」

「っ、それは……」

「あなた自身には何の力もないのですよ。あなたは我ら《新生貴族連合》の旗頭として我々と一緒に来てもらう」

「そんな事をさせると思っているのか?」

 

 剣を男たちに向けてユーシスが睨みつける。

 

「ふん。貴様にそんなことができるのか? 父を止めることができず、ケルディックの民を守れなかった貴様に」

「っ……」

「貴様とてアルフィン殿下と同じだ。平民の血を引き、本来なら貴族の名乗る資格のない小僧。兄と違って、アルバレアの名に守られているだけの貴様には何の力もない」

 

 かつて仕えていた主に向けての言葉ではない。血走った目でユーシスを睨みつけて、銃の引き金に指をかける。

 

「だから死ね。貴様のような半端者に生きる資格など――」

「いっけーー! ガーちゃん!」

 

 銃弾が再びユーシスに放たれようとした瞬間、《アガートラム》の拳が男へと向かった。

 

「たばらっ?!」

 

 変な声を上げて吹き飛ばされた男は後ろに立つ木に激突する。顔は《アガートラム》によって陥没し、鼻血を流しながら失神した。

 

「なっ、き、貴様!」

「うるさーーーーい!! ユーシスのことを悪く言うな!」

 

 仲間がやられて男たちが声を上げるが、それ以上の少女の怒声がそれを打ち消す。

 

「ユーシスがどんな想いで自分のお父さんを捕まえたのか、ルーファスとどう向き合おうとしているのか。何も知らないくせにそんなことを言うな!」

「ミリアム……」

 

 学院生活でも見たことがないミリアムの怒る姿にユーシスだけでなく、アルティナも目を見開いていた。

 

「ボクには血の繋がったお父さんはいないけど、代わりになっている人はいるよ。もし、オジサンを捕まえなきゃいけないことになったら、ボク、すごく嫌だよ」

 

 辛そうな顔つきでミリアムが下を向く。

 

「レクターたちとすれ違って、戦うことになったらなんて考えたくもないよ」

 

 ある光景が思い浮かぶ。

 兄、姉のように笑顔を向けてくれる二人と、離れたところでその姿を静かに微笑む男。

 

「想像するだけでも嫌なのに、それを経験したユーシスが苦しんでいないはずがないもん! 変な言いがかりでユーシスをいじめるな! これ以上ユーシスを追い詰めるっていうなら、ボクは絶対に許さないんだから」

 

 ミリアムに呼応するように彼女の背中で《アガートラム》が胸を張って、男たちを威圧する。

 

「姫様?」

 

 そこにアルフィンがミリアムの隣に並ぶ。

 

「あなた方の言う通り、私には何の力もありません。弟を助けることもできず、皆さんのことをただ後ろから見守ることしかできませんでした。……だからこそ、私はここに立っているのです」

 

 魔導杖を向けてくる姿に男たちは息を吞む。そこには後ろで隠れる臆病者の姿はなかった。

 

「リィン先輩やユーシスさん、そして、ミリアムさんが立っている場所に私も立ちたい。ただ後ろで守られるだけの存在にはなりたくないんです。申し訳ありませんが、あなた方の誘いに乗るつもりはありません。そんなことにかまけている暇などありませんので」

「な、何だとっ!」

「私たちは今、仲間とその家族を助けるためにここに来ているんです。あなたたちとこうして対立している時間も今の私たちにはないんです!」

「その通りですね」

 

 アルフィンの後ろからエリゼ、オランピア、ウィリアムの三人がやってくる。三人とも戦意を高揚させてアルフィンたちの横に並ぶ。

 

「まったく……、ここまでⅦ組(俺たち)に似ているとはな」

 

 彼女たちの姿にユーシスは懐かしさを感じていた。

 

「ユーシス、大丈夫?」

「奴らの戯言など、気にしていない。それに後輩たちが啖呵を切ったのだ。俺が前に出ないわけにはいかないだろう」

「気にしてないわりには、ちょっと、顔色が悪かったと思うけど?」

「見間違いだ」

 

 素っ気ない返事をするが、ミリアムはそれに無邪気な笑顔で返すのだった。

 

「ロドルフォさん、ここは私たちで食い止めますので、ルカさんを」

「……わかった」

 

 エリゼに促され、ロドルフォはその場から離れる。

 

「ラヴィさん、ロドルフォさんを守ってください!」

「……わかった」

「おい、ラヴィ!」

 

 ラヴィアンがロドルフォの後を追おうとするとマーティンが彼女の肩を掴む。

 

「合流した以上、ここに長居は無用だ。離脱するぞ!」

「……ごめん、もう少しだけいさせてほしい」

「捕まりたいのか?!」

「そんなヘマはしない。だから、いさせて」

「ラヴィ、お前……」

「知りたいんだ。ロドルフォの仲間が、リィンの仲間がどういう奴らなのか」

 

 マーティンの必死な説得を無視して、ラヴィアンは走りながらアルフィンたちをじっと見つめるのだった。

 

「……いいだろう。そういうことなら、皇女殿下以外はここで死んでもらう!」

 

 号令を上げると男たちは一斉に銃をアルフィンたちに向ける。

 

「させないよ! いっけぇーー! ガーちゃん!」

 

 しかし、撃たれる前に《アガートラム》が頭から光線を放つ。

 地面を溶かす熱線に男たちは慌ててその場から離れてビームを躱す。

 

「二手に分かれます! 総員、各個撃破してください!」

 

 アルフィンが即座に指示を出す。ユーシスとミリアムは二人でペアを組んで、アルフィンたちと別れる。

 

「ひー、ふー、みー……、あっちは五人で、こっちは二人か」

「何だ、怖気づいたのか?」

「まっさか! ボクたち二人なら、絶対に負けないよ!」

「ふっ……、では行くぞ!」

 

 ユーシスたちが男たちに突っ込む。一方で、アルフィンたちの方はすでに戦いを始めていた。

 

「ベノムフレイム!」

 

 魔導杖が眩い光を放つ。すると地面から瘴気に穢れた炎が噴き出し、男たちを襲う。

 

「くっ! 一箇所に集まるな! 散開しろ!」

 

 男たちはその場から分散して炎から離れる。

 さらに分断された男たちは合流しようとするが、そこにウィリアムが割り込む。

 

「白き刃よ、()えろ!」

 

 刃を分裂させた法剣を下から振り上げる。

 地面を削りながら白い斬撃が男たちに向かう。男たちはすぐにその場から離れようとするが、蛇のように地面を這える斬撃は彼らを追いかける。

 

「そこです!」

 

 斬撃から逃げようとする男たちに向かってエリゼが飛び込む。死角から襲撃に男たちは防御が間に合わずに斬られる。

 エリゼはすぐにその場から離れると、追いかけてきた斬撃が男たちを飲み込んだ。

 

「このガキ!」

「エリゼ!」

 

 その時、斬撃から追われずに離れた場所に避難していた男がエリゼに向かって銃を向ける。ウィリアムが声を上げるがすでに照準はエリゼを定めていた。

 

「死ね、ガぎゃあ!」

 

 男が引き金を引こうとするが、上から何かに押し潰されてしまった。

 

「世話が焼けますね」

「アルティナさん!」

 

 男を制圧したのは漆黒の戦術殻《クラウ=ソラス》に乗ったアルティナだった。彼女はエリゼの近くに降りながら呆れた目線を向けていた。

 

「あの人に似て無茶をしますね。兄妹とはそういうものなのですか?」

「うっ、す、すみません」

「謝罪は不要です。《クラウ=ソラス》」

 

 《クラウ=ソラス》の頭が光る。瞬間、光線が男たちに直撃した。

 

「私が援護をします。残りのメンバーを……」

 

 アルティナが残ったメンバーに視線を向けると言葉を止める。

 

「その必要はなさそうですね」

「え?」

 

 アルティナが向いている方にエリゼも顔を向ける。そこには白髪の少女がたった一人で残りのメンバーを翻弄していた。

 

「クソ! ちょこまかと!」

 

 銃弾を放つが空を切る。他のメンバーも撃ち続けるが、オランピアは踊るようにステップを繰り返しながら躱し続ける。

 

「よく狙え!」

「何で当たらねぇんだ!」

 

 全く当たらないことに男たちはやけになってそのまま撃ち続ける。その様子にオランピアはあることを思い出していた。

 

 

『くっそぉ~~、何で当たんねぇんだよ!?』

 

 それは"あの人"と旅をしていた頃。彼が双子の兄妹に稽古をつけていた時の話だ。

 

『何で躱せんだよ?! 普通、銃弾なんて躱せねぇだろ?!』

『それに斬ったりもしていたし。……もしかして、"目"を使ったの?』

 

 妹にフォローされながら、兄は愛用のライフルで何度も彼を狙ったが、全て躱したり、斬ったりなどされて一発も当てることができなかった。

 

『あんなもん銃口の向きと引き金を引く瞬間を見極めれば簡単に対処できる。お前らもコツを掴めばできるようになる』

『できるかっ!?』

 

 あまりの常識外の発言に兄は素早くツッコみを入れる。隣にいた妹はドン引きしていた。

 オランピアも同意見だった。素の状態で銃弾を躱すなんて普通はできない。

 

「ですが、補助アーツをかければ私でもできます」

 

 補助アーツ"シャイニング"を自身にかけて動体視力を上げる。さらに男たちの周りを縦横無尽に動き回ることで狙いを定めないようにしていた。

 

「ロドルフォさんのアドバイスでだいぶ太刀での動きが掴めました。……今度はこちらから行きます」

 

 オランピアが動きを止めて太刀を水平に構える。

 

「あの構えは……」

 

 その姿にエリゼとアルティナは一人の男と重なる。それは彼女たちがよく知る彼が使う八葉一刀流の一つ「疾風」の構えだ。

 

「止まったぞ! ハチの巣にしろ!」

 

 最大の好機を見逃さずに男たちは一斉に銃を構える。しかし、撃とうとした瞬間、彼女がその場から姿を消した。

 

「ど、どこだ?!」

「「こっちです」」

 

 反響する声に、男たちは辺りを見渡す。すると()()のオランピアが地面を蹴る。

 

「「双翼疾風!」」

 

 挟み込んだ男たちに向かって疾走。

 同じ動きで交差を繰り返して、男たちが持つ銃を切り刻んだ。

 

「今です!」

「光よ! 闇を照らして!」

 

 待機していたアルフィンが魔導杖を掲げる。

 男たちの頭上に光が現れ、地面に落ちると同時に強い光を放つ。

 

「め、目がぁ!?」

 

 光を直視してしまった男たちは、両手で目を押さえて蹲ってしまった。

 

「姉さん直伝。(ほどばし)れ炎よ!」

 

 そこにウィリアムがボウガンを向ける。矢の先端に青い炎が灯り、球体となってその形を大きくする。

 

「アステルフレア!」

 

 炎を纏った矢が放たれ、男たちの足元に突き刺さると同時に爆発するのだった。

 

 

 ~~~~~

 

 

 ルナリア自然公園の最奥部が見える高台では、

 

「あーあー。もう終わっちまったのかよ」

 

 アルフィンたちの戦いを見物していた《H》はあっさりやられた《新生貴族連合》を見て、落胆していた。

 

「あっちの方も終わっちまってるし、もう少し粘れねぇものかね」

 

 ユーシスたちの戦いを見物しようとするが、彼らが相手をしてた《新生貴族連合》たちはすでに制圧されており、ミリアムが跳びはねている姿が見える。

 

「こうなっちまうと用意していた保険を使わねぇとだな」

 

 懐から試験管を取り出す《H》。輝く青色の液体を覗いて、仮面越しに笑みをこぼす。

 

「ま、いい実験にはなるだろうから、楽しませてくれよ」

 

 

 ~~~~~

 

 

 アルフィンたちが《新生貴族連合》と戦っている間、ルカに法術をかけていたロドルフォは深く息を吐いた。

 

「終わった……」

 

 方陣が消えて、その中心で寝かされていたルカは苦しそうだった顔つきが変わり、今は静かに吐息を漏らしながら安らかな顔で眠っていた。

 

「こっちの方も終わったみたいだぞ」

「そうか」

 

 集中していたあまり、周りの様子に気づいていなかったようだ。

 ロドルフォはルカを優しく抱きかかえて、戦いを終えたアルフィンたちの下へと向かう。

 

「ロドルフォさん、ルカさんは?」

 

 接近に気づいたエリゼは心配そうにルカの様子を覗う。それにロドルフォは軽く頷くと、上手くいったとわかり、安堵するのだった。

 

「ち、ちくしょう……っ!」

 

 一方で、ユーシスたちによって一か所に集められていた《新生貴族連合》のメンバーは自分たちの敗北を受け入れられずに、顔を俯かせていた。

 

「ミリアム、こいつらの事はどうする?」

「ん~~、情報局の立場としては全員、連れて行きたいけど。それはユーシスの方も同じだよね?」

「こちらも《新生貴族連合》の情報はほしいからな。全員ではなく、半分こちらに寄越してもらえるか?」

「その提案は受け入れられません。いまだ《貴族派》に属しているアルバレア家に明け渡せば、我々が見ない所で解放する恐れがあります」

 

 ユーシスの提案にアルティナが横槍を入れる。軽く睨むユーシスだったが、そこにミリアムがアルティナの後ろに回って彼女に抱き着く。

 

「まぁまぁ。心配いらないよ、あーちゃん。ユーシスはそんなこと絶対にしないから」

「いきなり抱きつかないでください」

 

 鬱陶しそうに目を細めるアルティナ。その光景にやれやれとユーシスは肩を落とすのだった。

 

「今のうちだ。引くぞ」

 

 誰も自分たちを見ていないとわかり、マーティンはラヴィアンたちに撤退の指示を出す。

 

「! マーティン!」

 

 ラヴィアンの大声にマーティンは首を傾げる。すると、巨大な影が彼を覆った。

 振り向くマーティンだったが、強い衝撃を身体に受けて吹き飛ばされてしまう。

 

「マーティンさん!」

「な、何なのこいつ!」

 

 騒がしいことに気づいて、アルフィンたちは一斉に振り返った。

 

「か、怪物?」

 

 三アージュはある人型の魔物が立っていた。赤紫色の筋肉が大胆に露出しており、充血した目はアルフィンたちを見下ろしていた。

 

「! 皆、気を付けて!」

「強大な熱源反応が近づいてきます。入り口からです」

 

 《アガートラム》と《クラウ=ソラス》が光を発して何かを訴えてきた。

 入り口の方に振り返ると、同じ人型の魔物が群れとなって走りながら近づいて来た。

 

 だが、それだけで終わりではなかった。

 

「アッ!」

「ギャビッ!」

 

 先程、ユーシスたちが捉えた《新生貴族連合》の男たちが奇声を上げる。

 顔を引き攣らせて、白目を剥き出すと、その体が徐々に肥大化する。

 

「こ、こいつは!」

 

 変化が終わると、そこにいたのは同じ人型の魔物。魔物は唸り声を上げながら、アルフィンたちを取り囲む。

 

「ひ、人が、怪物に……っ!」

「これはまさか……《魔人化》!」

 

 怯えるエリゼとは対称的にオランピアはその現象に見覚えがあった。オランピアの言葉にアルティナが口を開く。

 

「情報局のデータベースで見たことがあります。ですが、あれは《グノーシス》という特殊な薬を服用しなければなれないのでは?」

「っ! 《グノーシス》だと?」

 

 ロドルフォの顔つきが険しくなる。

 そうしている間に一体の魔物が肥大化した腕を振り上げて、アルフィンたちに襲い掛かる。

 

「がーちゃん!」

「《クラウ=ソラス》!」

 

 二体の戦術殻がシールドを展開。巨人の拳がぶつかると爆音を鳴らして、衝撃波を生み出す。

 

「くっ! これは不味い!」

 

 圧倒的に状況が不利になったとユーシスは顔を顰める。

 先程まで戦った《新生貴族連合》とは力が格段に跳ね上がっている。一体ならまだ何とかなるかもしれないが、相手する数は十体以上。無謀としか言いようがない絶望的な差だ。

 

「エリゼ。ルカを頼む」

「ロドルフォさん?」

 

 すると、ロドルフォが抱いていたルカをエリゼ託す。彼は愛用の二丁拳銃を取り出して、魔物たちを睨みつける。

 

「ここは俺一人でやる。お前たちはじっとしていろ」

「なっ……」

 

 ロドルフォの発言に全員が言葉を失う。だが、アルフィンがすぐに我に返って彼を止める。

 

「む、無茶です! ロドルフォさん一人で――」

「大丈夫だ」

 

 ロドルフォはアルフィンの静止を無視して前に踏み出す。

 彼が纏う雰囲気にアルフィンは口を止めてしまう。

 

「お前たちに見せてやる。俺の本気……、《狼帝》の全力をな」

 

 二丁拳銃を魔物たちに向けて、青黒いオーラを放つ。

 二大猟兵を超える史上最強の猟兵がついに動き出した。

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