英雄伝説 閃の軌跡2.5 ~Trajectory of mavericks~   作:魔ギア

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第二十三話 《狼帝》

 生まれたその時から、俺は一人だった。

 血の繋がった家族から力を押し付けられ、俺は普通の生活を送ることができなかった。

 子供には不相応な力。五つの時に銃や剣の使い方を完璧にマスターした。七つに時には大人相手にも負けない実力を手にしてしまった。

 そんな力を前に誰もが俺を恐れた。俺をそんなふうにした祖父と両親(あいつら)も同じ反応だった。

 

 ふざけるな。そんな反応するくらいなら元に戻せ。

 

 腫れ物のように距離を取られて、近づこうとすれば逃げるように俺から離れていった。

 そんな俺に唯一近づき、傍で支えてくれたのは、後から生まれた妹のルカだけだった。

 彼女も俺と同じように力を植え付けられた。だが、俺とは違い、あの子は自分の力を制御することができなかった。

 使えないと判断したあいつらは妹を処分しようと近衛隊を送ってきたが、俺が全て返り討ちにした。

 それを知ったあいつらは突然、ルカの処分を取りやめた。そして、あいつらはあの子を人質にとった。

 自分たちでは手を付けられない俺が唯一見せた弱点。それがルカだと知って俺を従わせようと考えたのだろう。

 事実、その通りだ。孤独だった俺にとってルカが全てだった。あの子を失えば、俺はまた一人になる。

 妹を助けるために俺は仕方なくあいつらに従った。

 次々と来るあいつらからの要請。後ろ暗いこともしたし、この手を汚したこともあった。

 黙々と要請を完璧に遂行する姿を見て、周りはますます俺たちから離れていった。誰も俺たちを助けようとする者はいなかった。

 あの男、ヴラド・ウィンスレットを除いては。

 

『知り合いに教会の神父がいる。彼ならば何とかできるかもしれない』

 

 《北の猟兵》の内部情報を探るために近づいた男。だが、彼は俺がバルムント大公からのスパイであることを一発で見抜いた。

 だが、彼は俺たちを捕まえようとはせずにある人物を紹介してくれた。

 《咆天獅子》グンター・バルクホルン。

 かつてノーザンブリアを襲った《塩の杭》を回収してノーザンブリアを救った七耀教会の巡回神父。

 ヴラドは俺たちの事情を神父に話し、それを知った神父はすぐに俺たちの下へと駆けつけてくれた。

 

『なぜ、俺たちを助ける』

 

 神父が法術を使ってルカの力を封印しようとしている中、俺は神父に問いかけた。

 見ず知らずの、怪物じみた力を持った俺たちをなぜ助けようとするのか。なぜ、俺から逃げようと思わなかったのか。今まで見たことがない人種に俺は疑問が絶えなかった。

 

『ヴラド殿から主らの話を聞いた時、他人事ではないと思ったのだ』

 

 神父が言うには彼の一番弟子の孫が俺たちと同じく血の繋がった家族から怪物の力を植え付けられたらしい。

 

『そいつは今、どうしている?』

『良き母に、良き師に、そして、良き友たちに囲まれておる。喜びを知り、感動を知り、そして愛を知って、あやつはたくましく成長した。……いつか、主らにも会わせてやりたいものだ。あやつの良き友になってくれるだろう』

『友……』

 

 その言葉が俺の頭の中を何度も繰り返した。

 その後、神父のおかげでルカは人間としての生活を手に入れた。潜入先で出会ったヴラドの孫であるラヴィと村の子どもたちと一緒に楽しく遊んでいた。妹の姿はとても生き生きとしていて、心から楽しそうにしているのがわかった。

 その様子を俺はただ遠くから見ることしかできなかった。

 怪物の力を封じられ、人間として日常を手に入れた妹。

 一方で、俺は力を封じることができず、再び孤独の道へと進んだ。

 あの子が俺から離れて、楽しく過ごす姿がとても眩しく、羨ましいと感じてしまった。

 あの時、俺は生まれて初めてルカのことを妬ましいと思ってしまった。

 いつか俺にも友と呼べるような人たちとあんなふうになりたいと強く願うようになった。

 だが、怪物の俺にはルカのように過ごすことはできない。人外の力を持つ俺がいられる場所があるとするなら、それは血と硝煙が漂う戦場しかなかった。

 そう考えた俺は《北の猟兵》に入ることを決意した。

 あいつらの命令で元々入る予定だったが、ルカが助かった以上、奴らの言うことを聞く義理はなかった。

 本来ならば入団する必要はなかったが、少しでも妹の日常が伸びるように、あえて従うふりをして猟兵団に入った。そうして俺はあいつらに嘘の情報を流しながら、そこで自分の居場所を探し求めた。

 それから時が過ぎ、俺はいつの間にか《北の英雄》と呼ばれるようになった。

 民衆は英雄と称えて俺の周りに集まり、共に戦った者たちからは期待の眼差しを向けられるようになった。

 居場所ができた。ここが俺の居場所だと、あの時の俺はそう信じていた。

 だが、それは幻想なのだとすぐに思い知らされた。

 俺が大公の孫と知ると周りの奴らは一瞬で手のひらを返した。

 英雄から裏切り者へ。仲間から怨敵に変わった。

 その時に俺は悟った。

 人は自分たちが信じているものしか信じようとしないということを。

 やれ英雄、やれ仲間と期待を寄せていながら、それに応えなければ裏切り者だと罵ってくる。

 俺が追い求めていたものはただの幻想でしかなかったのだ。

 失望した俺はノーザンブリアで手に入れたものを全て捨てて、ルカと一緒にノーザンブリアを出ていった。

 

 

 ~~~~~

 

 

 見下ろしてくる魔人たちの前に立つロドルフォ。彼の身体からは青黒いオーラのようなものが発していた。

 

「あれは煌魔城で《西風の旅団》が見せた……」

「うん。高位猟兵のみが放つことができる戦技《戦場の叫び(ウォークライ)》だね。でも、何だか……」

 

 ミリアムはロドルフォが放つ《戦場の叫び》に違和感を持つ。

 煌魔城の時に見たものは、数多の戦場を駆け抜けてきた歴戦の戦士としての威圧感がヒシヒシと感じ取れた。

 だが、ロドルフォの放つものにはそれがない。まるで今にも消えそうな炎のように小さく弱々しいものだった。

 

「あれはあいつが自分で編み出したものだ」

「マーティンさん!?」

 

 魔人に吹き飛ばされたマーティンが腹に手を抑えながら戻ってきた。

 傷だらけの彼にタリオンは駆け寄るが、問題ないと手で制する。

 

「普段はああやって抑えているが……」

 

 マーティンがロドルフォの後ろ姿を見守り続けると、佇んでいた彼は前のめりに倒れてそのまま走り出す。

 魔人たちは自分たちに向かってくるロドルフォを見る。一番近くにいた魔人は彼を潰そうと剛腕を持ち上げて、一気に振り下ろした。

 

「ふっ!」

 

 跳躍。地面を叩きつける腕を躱して魔人の正面へ。

 

「牙を剥いた瞬間、一気に爆発する」

 

 ボンッと青黒いオーラが一気に膨れ上がる。強烈な殺気と威圧に魔人は動きを止める。

 

「吹き飛べ」

 

 瞬間、魔人の頭が吹き飛ぶ。オーラを足に集中したロドルフォの蹴りが魔人の頭を蹴り飛ばした。

 首から上を失い、仰向けにゆっくりと倒れようとする魔人の身体をロドルフォは駆け上がり、再び足にオーラを溜めて、高く跳躍する。

 

「ガンナックル」

 

 魔人の顔を銃で殴りつける。同時に銃口から火が吹き、ゼロ距離から魔人の頭を貫いた。

 

「ロドルフォさん、後ろ!」

 

 迫ってくる魔人。彼は銃をしまって後ろに跳ぶ。

 魔人の上を飛び越えて背後を取る。

 振り返ろうとする魔人。そこに《狼帝》の牙が襲う。

 

「餓狼連閃」

 

 キンッという音と共にロドルフォと魔人たちがすれ違う。

 ブシッと血が飛び散り、魔人たちの頭が宙を舞う。

 

「け、剣!」

 

 ロドルフォの両手には、いつの間にか二振りの剣が握られていた。刃渡りが長剣よりも少し短い、グラディウスと呼ばれるショートソードだった。

 ロドルフォは銃をしまうと同時に、懐に隠し持っていたグラディウスを抜き取り、すれ違う瞬間に魔人の首を斬り落としたのだ。

 

「二振りの剣と二丁の拳銃。状況に応じて二種類の武器を使い分けて戦う。それがロドルフォの本来のスタイルだ」

「わざわざ至近距離で銃を撃ったのはなぜですか? 接近戦なら剣の方がいいのでは?」

「銃は距離が近ければその威力も増す。あいつは敢えてゼロ距離で撃ち込んで、強力な打撃武器として使っているんだ」

 

 タリオンの疑問にマーティンが説明している間に、戦況が動く。

 頭を斬り落とされて、そこから大量の血が噴き出す魔人たち。すると、首から大量の触手が生え、束ねて形を取る。

 

「再生能力か」

 

 束ねた触手は頭となって、首と繋がった。

 ロドルフォを完全に脅威とみなした魔人たちはアルフィンたちを無視して彼に襲い掛かる。

 地面を鳴らしながら、進撃してくる魔人の群れ。見ただけで恐怖してしまう光景を目の前にしても、最強の猟兵はまったく動じなかった。

 

「……クロックアップ」

 

 魔人たちの視界からロドルフォが姿を消す。足を止める魔人たち。すると魔人の首が再び飛んだ。

 

「またっ!?」

 

 ウィリアムが驚くのをよそに惨劇が続く。

 魔人たちの肩に跳びはねる黒い残像。肩に着くと同時に魔人の首が吹き飛ぶ。

 

「速いっ!」

「もしかして、フィー、ううん、サラ教官より速くない?」

 

 着地と同時に首をグラディウスで斬り落とすロドルフォ。

 その姿をかすかに捉えたユーシスとミリアムは、自分たちが知る最速の二人よりも速い彼の動きに目を丸くする。

 

「あれは導力魔法の《クロックアップ》だ」

「それって導力魔法の? でもあれって第四世代のものよ? っていうか、あんなに速くはならないでしょ」

 

 イセリアの言う通り、第四世代の戦術オーブメントで使われる補助アーツ《クロックアップ》は第五世代の《クロノドライブ》と同じで対象者の速度を少し速くするだけで、ロドルフォのように姿が消えるほどの速度は出ない。

 

「第四世代の戦術オーブメントをあいつは自分で改造して、《クロックアップ》の出力を爆発的に上げるようにいじったんだ。十秒っていう時間制限はあるが、発動した時のあいつの速度は通常の十倍だ」

「じゅ、十倍っ!?」

 

 驚異的な数値に全員が唖然とする。

 

「強靭な肉体と素早い判断力。そして二種類の武器を巧みに扱う技量。あらゆる分野であいつは一流の猟兵を超えている。……あいつは間違いなく、史上最強の猟兵だ」

 

 《クロックアップ》の制限時間が終わるとロドルフォは魔人たちに突っ込む。

 魔人の剛腕を難なく躱して、すれ違いざまに手首を斬り落とす。

 高い跳躍で肩に降りると頸動脈に銃を押し付けて連射。

 誘導して魔人を一か所に集めると手榴弾を投げて爆撃。

 魔人たちの攻撃は一発も当たらず、たった一人の男に完全に翻弄されていた。

  

「す、すごすぎる……」

「でも、いくら攻撃しても相手には再生能力があるわ」

 

 タリオンはロドルフォの圧倒的な力を目の当たりにして語彙力を失いかけていた。一方でイセリアは再生を繰り返す魔人たちの姿に顔色を曇らせる。

 

「こいつはどうだ」

 

 再びロドルフォが姿を消す。すると、魔人たちの身体から大量の切り傷が生まれて血が噴き出す。

 しかし、切り傷は生えた触手によって塞がれていき、何事もなかったかのように魔人たちが動き出す。

 

「ダメです、ロドルフォさん! いくら攻撃しても再生されます! 一度、この場から離脱を……」

「待ってください。魔人たちの様子が……」

 

 ロドルフォを呼び戻そうと叫ぶアルフィンだったが、オランピアが魔人たちの異変に気づく。

 平衡感覚を失っているのか、頭をゆらゆらとしており動きがおぼついていない。

 勢いよく振るっていた腕も、もはや持ち上げることができずにだらんとぶら下がっていた。

 

「ようやくか」

 

 ロドルフォは武器をしまって魔人たちの様子を静かに見守る。

 鈍足になって動きが徐々に遅くなっていく魔人はとうとう動きを止めた。

 しばらくすると身体が風船のようにしぼんでいき、徐々に小さくなる。

 

「元に……戻っている?」

 

 魔人たちの身体がさらに小さくなってき、やがて元の人間の姿へと戻っていく。

 一人、また、一人と戻っていき、《新生貴族連合》のメンバーは地面に倒れて気を失った。

 

「いったい何をしたのですか?」

 

 何が起きたのか、まったくわからないアルフィンは今の状況をロドルフォに聞く。

 彼は倒れた《新生貴族連合》の男たちに近づき、異常がないのかを調べる。

 

「《魔人化》は俺とルカの身体を改造したとある教団が作り出した特殊な薬を服用することでなる現象だ。逆に言えば、薬の効力が消えれば《魔人化》は解かれる」

「それはそうなのですが、どうやって薬の効力を消したのですか?」

「血を抜いたんだ」

 

 ロドルフォの解答にアルフィンたち二代目Ⅶ組一同は首を傾げる。一方でそれ以外の者たちはその答えに納得するのだった。

 

「ソレイユの攻撃は首や手首。致命傷になる場所を集中して攻撃していたな」

「そうだね。でも再生能力を持っているから、どれだけ攻撃しても傷は塞がっちゃうから、即死することはないね」

「ですが、傷は治っても噴き出した血までは戻りません。抜いた血は再生能力で補充することはできますが、血に溶けていた薬の濃度までは回復しません」

「薬物による強化っていうなら、血中にある薬分濃度がある一定値を下回れば効果は失う。つまり、《魔人化》は解けるってわけだな」

 

 ユーシス、ミリアム、アルティナ、マーティンという順で話が続き、それを聞いてアルフィンたちは納得する。その様子を見たロドルフォは小さくため息を吐いた。

 

「ベアトリクス教官の授業で習っただろう。普通なら気づくと思うが?」

「「「「うっ……」」」」

 

 トールズの教官の一人であるベアトリクスは医学を担当している。

 救急処置や薬の扱い方など、彼女の授業内容を思い出して、アルフィンたちは顔を逸らしてしまう。

 

「いや~、まさか、本当に一人で倒しちまうとはな」

 

 曇った声が響く。全員が声がした方に振り返ると、そこには仮面を付けた見覚えのある男が立っていた。

 

「《H》!」

 

 アルフィンたちが一斉に武器を取った。大人数に囲まれていながらも《H》は余裕を崩さなかった。

 

「せっかく、いろいろと手を貸したってのに無駄骨になっちまったな」

「なぜこのタイミングで出てきた? 見た感じ、仲間というわけではなさそうだが」

「あぁ。ただの協力者だよ。俺個人は別にこいつらがどうなろうとどうでもいいんだが、一応、上からの指示なんでね」

 

 パチッと《H》は指を鳴らす。すると、獣の遠吠えが森を揺らす。

 

「今の声は?!」

「来るぞ!」

 

 全員が構えると、《H》の後ろに何かが降りてきた。

 かなり大きく、降りた衝撃で大量の砂塵が舞い上がる。その中から現れる巨大な黒い影。そして、二つの赤い光。

 見覚えのあるシルエットにアルフィンは緊張感を走らせる。

 黒い影は咆哮を上げて砂塵を吹き飛ばして姿を現した。

 

「あの時の巨大魔獣!」

 

 公園の道中で襲撃してきた巨大魔獣――グルノージャが赤い目を光らせて、アルフィンたちを睨みつける。

 

「それじゃあ、第二ラウンドってことで。頑張れよ、諸君」

「! 待て!」

 

 立ち去ろうとする《H》を追おうとするユーシスだったが、魔獣が通せんぼをする。

 

「ロドルフォさん。もしかしてこの魔獣も」

「あぁ、同じ薬で強化されてるな」

 

 魔獣から何かを感じ取ったのか、ウィリアムがロドルフォに確認していると、魔獣がその場で高く跳躍。空中に跳んだ魔獣は身体を丸めると、そのまま地面へと落ちてくる。

 

「っ! 散れ!」

 

 ロドルフォの呼び声に全員がその場から離れようとするが、超重量の巨体が地面に激突した。

 

「キャアーーーーーー!!」

 

 強烈な爆風が襲い掛かる。それを受けたアルフィンたちは散り散りに吹き飛ばされてしまう。

 地面に何度も叩きつけられて転がるアルフィン。積まれていた木箱が壁となって止まるが、身体中に伝わる激痛にその場で蹲ってしまう。

 

「くっぅ…………、み、皆さんは……」

 

 しかし、その痛みを我慢しながらアルフィンは立ち上がる。服はボロボロで、顔は土や砂でひどいものになっていた。

 皆の安否を確認しようと首を回すが、先程の衝撃で砂塵が大量に舞い上がっていて、周りが見えない。だが、遠くから大きな音が今も鳴り続いていた。

 アルフィンは導力杖を支えにしながら音がする方へと向かった。

 

「ロドルフォさん!」

 

 魔獣によって作られた巨大クレーター。その中心でロドルフォが一人で魔獣と応戦していた。

 彼もアルフィン同様、服は汚れており、動きがいつもよりぎこちなかった。

 魔獣が放つ強烈な一撃をロドルフォはギリギリで躱す。時折、銃弾を放つが、威力が弱いのか、あまり効果がない。

 

「何とか……しないと……」

 

 彼だけに戦わせるわけにはいかない。だが、今、出向いたとしても、おそらく彼の邪魔になるだけだ。

 この状況を逆転させる起死回生の一手。

 アルフィンは周囲に目を通す。

 衝撃で木箱が倒れて、中にあった武器や食物が散らばっていた。

 ショットガン、マシンガン、手榴弾とあったが、どれも使ったことがなく、仮に扱えたとしてもあの魔獣には効かないだろう。

 

「あ……」

 

 考えあくねて顔を上げるとアルフィンはふとある物に目が止まった。静かに佇む彼女だったが、意を決して、それに近づいた。

 

「くっ!」

 

 振り下ろされる魔獣の一撃をロドルフォはギリギリで躱す。すぐに体勢を立て直すが、その場で膝を着いてしまう。

 本来の実力ならば、目の前の魔獣如き遅れをとることはない。

 だが、先程の衝撃でルカを庇ったロドルフォは受け身を取ることができず、かなりのダメージを受けてしまった。

 

「だからといって、引くわけにはいかない」

 

 先程の衝撃でアルフィンたちと逸れてしまった。ここで食い止めなければ、魔獣は散り散りになった彼女たちを一人ずつ始末していくだろう。

 

「ふっ……、随分と絆されているな」

 

 ノーザンブリアを出てから妹のために生きてきた。そんな彼が妹以外の誰かを案じるなど考えもしなかった。

 かつて抱いていた願いは幻想へと消えて、宛てもなくさ迷い続けた彼らは、気づいたらユミルに行き着いていた。

 そこで出会ったのは、兄妹と同じ怪物じみた力を持った男と、それを知りながら家族と温かく受け入れる家族だった。

 ある時、男爵閣下に問いただしたことがあった。なぜ、あいつを受け入れたのかと。

 男爵は一瞬、目を丸くするが、小さく笑みをこぼした。

 

『リィンのことをエリゼから聞いた時、確かに私も驚いた。だが、怖いとは思わなかった』

『なぜ?』

『エリゼを守ってくれたからだ』

 

 迷いなくそう断言した。

 

『力に呑み込まれ、正気を失いながらも、あの子はエリゼを傷つけずに守ってくれた。もちろん、ただの偶然かもしれない。だが、私にとってはそれが全てなのだ』

『それだけで、あんたは信じたのか?』

『信じるとも。私たちは家族なのだから』

『血が繋がっていないのにか?』

 

 血の繋がった家族から道具としか扱われていなかった彼としては、男爵の言葉はとてもじゃないが信じられなかった。

 

『血縁など関係ない。私があの子を息子と思い、あの子が私を父と呼んでくれる限り、私たちは家族なのだ。それは友や仲間も同じことが言える』

 

 男爵は静かに微笑む。

 

『一方的な信頼関係では成り立たない。お互いがお互いを大切にして支えあう存在。それが仲間だと私は思っている』

『お互いが支えあう……』

『そうだ。いつか、君にもそういう者たちに会える。君のために戦ってくれる仲間と呼べる存在に』

 

 その言葉を聞いて彼は思い出した。

 ノーザンブリアを出る時に最後に会話したある英雄との会話を。

 

『いつか、君たちのために戦ってくれる仲間が必ず現れる。この世界は君が思っている以上に広く、暖かいものが多くある』

 

「俺は倒れるわけにはいかない!」

 

 自分たちを助けるためにここまで来てくれた同級生たち。忌まわしき過去を知りながらも、彼女は仲間だと言ってくれた。

 自分を支えるにはあまりに弱い存在。だが、それでも必死に支えようとしてくれている。

 ならば、自分もまた、彼女たちを支えよう。

 

「それが……仲間だからな」

 

 弾を切らしたロドルフォは銃をしまい剣を取る。

 身体は満身創痍で足がまだふらつく。武器はグラディウスが二本だが、魔獣を倒すには心もとない。

 だが、不思議とロドルフォは負ける気がしなかった。

 

『そうです! 私たちは仲間です!』

 

 少女の声が響き渡る。そして、同時に聞こえるのは大きなモーター音。

 その音に耳を疑うロドルフォだったが、その正体はすぐに現れた。

 

『だぁああああ!!』

 

 巨大な影が猛烈な速度で魔獣に体当たり。直撃した魔獣は吹き飛ばされた。

 

「これは……機甲兵」

 

 ロドルフォは顔を上に見上げる。そこには《新生貴族連合》が保管していた機甲兵《ドラッケン》が立っていた。

 

『ロドルフォさん! 無事ですか!』

「乗っているのは……アルフィンか!」

 

 アルフィンはコックピットに備え付けられたモニターに映るロドルフォを見て、笑みをこぼす。

 アルフィンは偶然、近くに鎮座していた機甲兵を見つけて搭乗したのだ。

 

「見つけました!」

 

 すると、今度は別方向から声が近づいてきた。

 エリゼ、オランピア、ウィリアムの三人が二人と同じくボロボロの姿になりながらも合流する。

 

「ロドルフォさん、お怪我は?!」

「というか、誰が機甲兵を?」

「アルフィンだ」

「ひ、姫様ですか?!」

 

 下からこちらを見上げてくるエリゼたちを見て、笑みをより深くする。

 

『これで全員揃いましたね』

 

 アルフィンは機甲兵を操作して魔獣の前に立つ。

 吹き飛ばされた魔獣は起き上がり、自分を吹き飛ばした機甲兵に向けて咆哮を上げる。

 

『皆さん、ここからが正念場です! ここを退いて皆で帰りましょう!』

 

 アルフィンの激励に全員が目を丸くする。だが、すぐに頷いて魔獣を向き合う。

 

「そうですね。ロドルフォさんとルカさんと一緒に!」

 

 エリゼは細剣を水平にして、手を添える。

 

「ここで見捨てたら、あの人に合わせる顔がありません!」

 

 オランピアは太刀を正面に正眼の構えを取る。

 

「一緒に乗り越えよう、五人で!」

 

 ウィリアムは法剣を片手にボウガンを魔獣に向ける。

 そんな彼女たちの様子を見て、ロドルフォは眩しいものを見るように目を細める。

 

「……相手は巨大だ。アルフィンを中心にして動く。アルフィン、お前はお前が思った通りに動け。俺たち四人でお前をフォローする」

 

 双剣を構えるロドルフォはエリゼたちの横に並ぶ。それをモニター越しで見たアルフィンは強く頷いた。

 

『士官学院Ⅶ組A班、全力で目標を撃破します!』

「「「「おおっ!!」」」」

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