英雄伝説 閃の軌跡2.5 ~Trajectory of mavericks~   作:魔ギア

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お久しぶりです。
だいぶ、まとまってきたので再開しようと思います。


第二章 正邪の流儀 ~青と赤の戦人~
第二十六話 それぞれの変化


 エベル湖の湖畔に位置する霧と伝説の町、レグラム。

 年中、霧に覆われているその町に唯一存在する《遊撃士協会》レグラム支部。

 帝国政府により活動が停止されているその場所で、一人の少女が机に突っ伏していた。

 

「……zzz」

 

 短い銀髪を揺らす少女の周りには大量の資料が散らばっているが、彼女はそれに気にする様子もなく、気持ちよさそうに眠っていた。

 そんな時、支部のドアが開いた。

 入って来たのは凛とした佇まいで、青い長髪をポニーテールでまとめた少女。彼女は支部内を一通り見渡すと、眠っている銀髪の少女を発見する。

 

「やはりこうなっていたか」

 

 青髪の少女はこの状況がわかっていたのか、驚いている様子はなかった。むしろ見慣れた光景に苦笑い浮かべていた。眠っている銀髪の少女の方へと歩いて行き、彼女の肩を優しく揺する。

 

「フィー、起きるのだ」

「ん……」

 

 ゆっくり瞼を開ける銀髪の少女――フィー・クラウゼルは机から身体を持ち上げて、ゆっくりと身体を上に伸ばす。

 

「はぁ~~……。あ、ラウラ、おはよう」

 

 青髪の少女――ラウラ・S・アルゼイドがいることに気づくと、フィーは何事もなかったかのように挨拶を交わす。

 

「もう昼だぞ。せっかくだから一緒にお昼でもと誘いに来たのだが」

「そうなの? じゃあ、行こうか」

「行こうか、じゃねぇよ」

 

 フィーが外に出ようとすると、ちょうど白いコートを着た金髪の青年がドアから入ってきて、前に立ち塞がった。

 

「また、寝ていやがったのか? 今日の分がまだ終わってねぇだろう」

「む、トヴァル」

 

 青年――トヴァル・ランドナーが机の上にあるプリントを見て、出ていこうとするフィーの首根っこを掴まえる。

 

「お前さんの今までの経験を考えると実力的には問題はねぇが、遊撃士は実力だけじゃなれねぇんだ。最低限の知識も必要なんだよ」

「ちょっとした休憩。それに外でも学べるものはある」

「もう何回もこの町を見てんだろう! サボりの口実に使ってんな!?」

 

 彼に観念したのか、フィーは不貞腐れながら机に戻って行った。説教を終えたトヴァルはため息を吐き、申し訳なさそうにラウラに頭を下げた。

 

「悪いな、ラウラお嬢さん。せっかく、お昼を誘ってくれたのによ」

「その心配は無用だ。こんなこともあろうと昼餉はすでにこちらで用意してある。トヴァル殿も一緒に召し上がってはどうだ」

「さすがラウラ。ナイス」

 

 ラウラの手にあるバスケットを目にして、上機嫌となって中にあるサンドイッチに手を伸ばすフィー。その姿にもう一度、説教をしようか考えたトヴァルだったが、結局、根負けして一緒に昼食を取ることとなった。

 

「そういえば、サラの奴、もうすぐ帰ってくるらしいぜ」

「半月前にケルディックに行ってから音沙汰なかったけど、連絡が付いたの?」

「あぁ。ケルディックの騒動の後、一度、ノーザンブリアに向かって、色々と調べてたらしい」

「ケルディックと言えば、アルフィン殿下たちもその件に関わっていたと聞いたが」

 

 三人が話題に上げるのは半月前にケルディックで起きた魔獣騒動。そこに関わっていたラウラとフィーの後輩たちの話だ。

 

「よもや、アルフィン殿下がトールズに、しかも我らⅦ組の後輩になるとは夢にも思わなかったな」

「そうだね。それにリィンの妹もいるみたいだし。……まぁ、私はどちらかというと、彼女が入っていることには驚きかな」

「あぁ。それは俺も同意見だな。まさか、あのシャーリィ・オルランドがトールズに入るとはね……」

 

 フィーとトヴァルは重苦しそうに息を吐く。

 

「《赤い星座》だったか? たしか、フィーが所属していた《西風の猟兵》と双璧をなす猟兵団だという」

「うん。《血染めのシャーリィ(ブラッディ・シャーリィ)》。副団長だった《赤の戦鬼(オーガ・ロッソ)》の一人娘。私たちと年はあまり変わらないけど、実力はゼノたちと同じ部隊長クラス。団にいた時、何度か交戦したけど一度も勝った事がない」

「《闘神》が亡くなったことで親父さんは団長になり、今じゃ、あいつは《赤い星座》の副団長だ。……ま、それ以上にヤバい奴がⅦ組にいるみたいだがな」

「《狼帝》だったか? 猟兵の世界では伝説と呼ばれる者のようだが」

「団長と《闘神》を倒して、たった一人で《西風》と《星座》を退けた最強の猟兵だね。ゼノたちからよく聞かされていたよ」

 

 フィーの育ての親にして、《西風の旅団》の団長、ルトガー・クラウゼル。《猟兵王》とまで呼ばれた自分たちの団長が負けたことを最初に聞いた時は、フィーはその話を到底、信じることができなかった。だが、途轍もなく苦い顔を浮かべる団の仲間(家族)の姿を見て、本当の事なのだと、納得するしかなかった。

 

「今年のⅦ組も我ら同様、個性的なメンバーが多いな。聞けば、エマの弟も入っていると聞く。それから彼女も所属しているのだったな」

「あぁ。懐かしいね。あれから四年も経つのか」

 

 ラウラとトヴァルが懐かしそうに顔を緩める。二人が思い浮かべる人物にフィーは心当たりがあった。

 

「《剣聖》と一緒にいた女の子だっけ。私もすれ違いだったけど会ったことはあるよ」

「そうだったのか。よもやフィーの猟兵団とも繋がりがあったとはな」

「俺もその場にいたけどな。あの嬢ちゃんは色んな所に接点を持ってるぜ」

「奇しくもここにいる全員が彼女と顔見知りということか。これも女神の巡り合わせというものだろうな」

「まぁ、当の《剣聖》本人も大変な目にあっているみたいだし、あの嬢ちゃんがトールズに入ったのもそこら辺が関係しているかもな」

 

 トヴァルは一咳するとフィーの方に向いて話題を変える。

 

「フィー。話が少し変わるが、勉強は一旦、中止にしてもいいか?」

「? どうしたの急に」

 

 勉強漬けだったフィーにとってはありがたいことだったが、突然の中止に疑いの目を向ける。

 

「最近、この町の周辺で不穏な動きがあってな。おそらく猟兵が絡んでいると思う。元猟兵のお前さんの力を借りたい」

「私や道場の皆も協力する手筈になっている。フィー、そなたの力を貸してくれるか」

「別にいいよ。この町にはいろいろと世話になっているからね。……終わったら、報酬として勉強はなしに――」

「それはダメだ」

「ケチ」

 

 そっぽ向くフィーにラウラは笑みを浮かべて、トヴァルは呆れてしまうのだった。

 

「そういえば、殿下たちの次の実習先が決まったぜ」

「む、このタイミングでその話ということは……」

 

 目を丸くするラウラにトヴァルはすぐに頷いた。

 

「後輩との対面だ。しっかりやれよ、先輩方」

「ふふ……、無論、そのつもりだ」

「ま、手厚く歓迎するよ」

 

 トヴァルの激励に初代Ⅶ組の先輩たちは自信満々に答えるのであった。

 

 

 ~~~~~

 

 

  五月。ライノの花は完全に落ちて、代わりに緑の葉が生え変わった頃。先月の特別実習を無事に終わらせたアルフィンたちは元の学院生活に戻っていた。

 心機一転としてアルフィンが髪を切ったことは学院内で少し話題になり、ショートヘアになった彼女を見るために、わざわざⅦ組の教室に訪れる者もいた。

 そして、そんな話題の中心となっているアルフィンは学院生活に慣れ始めたのを機会に放課後、あることに取り組んでいた。

 

「はっ……、はっ……、はっ……!」

 

 トリスタの外。少し離れた場所にある森の中でアルフィンは懸命に走っていた。

 手には木剣のようなものを持ち、時々、後ろを振り向きながら走り続ける。すると、上から音が聞こえて、すぐに顔を上げる。

 

「きゃっ!」

 

 慌てて近くの木の陰に跳び込むアルフィン。すると、先程いた場所に石礫が降りかかってきた。

 地面を強く弾いてコロコロと転がる石。少し遅れれば当たっていたと、アルフィンはほっと一息するのだった。

 

「安心している場合か」

 

 しかし、背後から声にアルフィンは肩を震わせる。だが、すぐに振り向いて、同時に木剣を振り抜く。

 

 ――ガンッ!

 

 振った木剣は背後に立っていたロドルフォが持つ木剣に衝突する。

 涼しい顔で受け止めたロドルフォは彼女の木剣を弾いて、再び彼女に向けて振るう。

 迫ってくる木剣に対して、アルフィンは前かがみとなって、何とロドルフォの方に向かって飛び込んでいった。

 受けに入らないことに微かに目を張るロドルフォ。木剣は彼女の髪をすれすれに掠めて通り過ぎる。彼の脇下へと飛び込んだアルフィンは潜るように転がりながら、彼の後ろへと回り込む。

 

「やぁ!」

 

 そして、そのまま後頭部に目掛けて木剣を振り下ろす。しかし、それがわかっていたのか、ロドルフォは振っていた木剣の軌道を止めずに、そのまま半回転して彼女の木剣を受け止めた。

 受け止められたことにアルフィンは思わず目を丸くして止まってしまった。

 

「いちいち驚くな」

 

 ガラ空きとなった彼女の腹にロドルフォは蹴りが飛ぶ。防ぐのが間に合わず、息を吐き出しながらアルフィンは後ろに吹き飛ばされた。

 地面に打たれた勢いで彼女は木剣を落とす。転がり続けた彼女は仰向けになって倒れてしまった。

 

「くっ……」

 

 痛みを堪えて、何とか立ち上がろうとするアルフィンだったが、その前にロドルフォが上に跨り、木剣を高く振り上げる。

 

「終わりだ」

 

 容赦なく振り下ろされる木剣。迫って来る凶器にアルフィンは目を瞑るのだった。

 

 ……………………

 

 いつまで経っても襲ってこない衝撃。アルフィンは恐る恐るとゆっくり目を開けて確認する。

 

「たわけ」

「あいたっ!」

 

頭の上でピタリと止まっていた木剣は彼女が目を開けると同時に、脳天を叩いた。不意打ちの衝撃にアルフィンは地面に転がって悶える。

 

「目を瞑るなと教えたはずだ。思考を止めるな」

「うっ……、すみません」

 

 頭にできたたんこぶを抑えながら、涙目で見上げるアルフィン。それに対して、ロドルフォはため息を吐きながら、彼女に手を伸ばして立ち上がらせる。

 

「戦いの中で思考を止めることはそのまま死に直結する。常に頭を働かせて、打開策をその場で作れるようにしろ」

「む、難しいです」

「そのために毎日、模擬戦闘をしているんだ。こういったものは経験は重ねることが大事だ」

 

 アルフィンが落とした木剣を拾いながら、ロドルフォは先程までの戦いに対する彼女の評価を口にする。アルフィンは放課後になると、クラブ活動を終わらせたロドルフォとこうしてほぼ毎日、模擬戦闘を行っていたのだ。

 先月の実習で自身の未熟さを痛感したアルフィンは今のままではいけないと感じ、鍛錬に取り組もうと考えていた。だが、士官学院に入る前まで、そういったものに縁がなかったアルフィンは具体的にどのようにすればいいのかわからずに手をこまねいていた。

 そんな彼女が真っ先に思い浮かんだのは、先月の実習で友好を強く深めたロドルフォだった。

 元《北の猟兵》にして、最強の猟兵として君臨した《狼帝》。その事実に実習でラクウェルに行っていたⅦ組B班の反応は驚愕の一言だった。特に現役の猟兵であるシャーリィは興奮を隠せずに目を輝かせていた。

 そんな最強の元猟兵に教えを請えば、強くなれると思ったアルフィンは彼に指導のお願いをしたのだ。

 実習での恩があったロドルフォはこれを了承。クラブ活動を終えた後はこうして彼女を指導して、容赦なくしばいていた。

 

「今日の訓練は終わりだ。撤収するぞ」

「はい。それにしても、この服はいいですね。動きやすいですし、汗を吸い取ってくれますから」

 

 アルフィンは顔を下に向けて、自分が今、着ている服を目にする。彼女は今、いつもの紅い学生服を着ておらず、代わりに半袖の無地の服を着てきた。

 

「体操服という。隣国のカルバードの学校では、運動用の服として支給されているようだ」

 

 訓練で汚れるとわかっていたロドルフォはアルフィンのためにトリスタにある質屋《ミヒュト》で購入したものだ。ちなみに、ロドルフォは今、紅色のジャージに身を纏っていた。

 

「ですが、やっぱり下の方は少し恥ずかしいですね」

 

 アルフィンは顔を少し赤くして下半身を手で隠す。藍色のズボンのようなものを履いているが、そのデザインが問題だ。

 健康的なアルフィンの生足を太腿まで大胆に露出したズボン。ロドルフォ曰く、ブルマーと呼ばれているものだ。

 

「改めて聞きますが、これ以外には本当に売ってなかったのですか?」

「短パンの方を買おうとしたが、今の情勢で共和国の品を入手するのは難しいらしい。帝国の裏商売で余り物を探してくれたそうだが、これしか見つからなかったそうだ」

 

 質屋のミヒュトが言うには、どこぞのマニアックな帝国貴族がとある目的のために購入した代物だったそうだ。だが、鉄道憲兵隊によって、その貴族は逮捕されて、結局、一度も使用されることなく新品のまま売られてしまったという。ちなみに逮捕された貴族の罪状は強制わいせつ罪だ。

 

「まぁ、私だけじゃなくて、エリゼたちにも贈ったのでそこまで恥ずかしくはありませんが」

「兄妹そろって、反論してきたがな」

 

 体操服一式はアルフィンとロドルフォだけではない。二代目Ⅶ組全員に配られていた。

 ブルマーのデザインに顔を真っ赤にして抗議するエリゼだったが、最後には自分の部屋へと持って帰った。

 一方で、リィンは妹にハレンチ極まりない服を贈ったミヒュトを亡き者にしようと、太刀を手にして質屋に突撃しそうになったが、男子陣全員によって未遂に終わった。

 

「それよりも急いで戻るぞ。他の奴らもそろそろ来ているだろうしな」

「あ、そうですね。それでは行きましょうか」

 

 アルフィンはロドルフォと共に森を抜けて、第三学生寮へと戻って行った。

 彼女の特訓はまだ終わっていない。むしろ、ここからが彼女にとっては本番だった。

 

 

 〜〜〜〜〜

 

 

 夕方。夕飯にするにはまだ少し早い時間。

 第三学生寮内にある広場は多くの木々が密集しており、利用できる状態ではなかった。

 しかし、その木々の大半は切り落とされており、そこにはアルフィンたち二代目Ⅶ組一同が何やら作業をしていた。

 

「ロドルフォさん。この木材はここでいいのですか?」

「あぁ。そろそろ、オランピアたちの方が切れるはずだ。メイのところに行って、新しいのを運んでくれ」

「わかりました。エリゼ、行くわよ」

 

 ロドルフォは地面に胡坐をかきながら、鍬と金槌を使って工作活動をしていた。彼の前には椅子のようなものが置かれており、彼はそれを工具を使って削っていた。

 ロドルフォの指示でアルフィンはエリゼと共に、メイのところへと向かう。

 

「ふふふ……」

「姫様、何がそんなに面白いのですか?」

「いえ、こうやって皆さんと何かを作るというのは楽しいと思いまして。女学院にいた頃は皆さん、私に遠慮していましたから」

「そもそも、姫様がこんなことをすること自体、問題だと思います」

「そんなこと言わないで。風呂を作るなんて滅多にない経験だし、完成したら楽しみじゃない」

 

 アルフィンたちは現在、伐採してスペースが空いた広場に風呂場を作ろうと取り組んでいた。

 第三学生寮にはシャワー室が一つしかなく、それをリィンとグランを含めて十二人で共有するのは、あまりに不便だと感じていていた一同。

 士官学院に入った以上、我慢するべきだと思うが不便なのは不便なのだ。

 特にアルフィンに関してはロドルフォとの訓練もあって疲れがかなり溜まっている。ちゃんと疲れをとるためという意味でも、やはり風呂の作成は急務だった。

 そこで、あらゆる分野を完璧にこなせるロドルフォと、温泉郷出身のリィンとエリゼをリーダーとして、第三学生寮のお風呂場作りが始まったのだ。

 

「はぁ……、はぁ……、ど、どのくらい掘れた?」

「これ、明らかにボク向きじゃないですよ」

「二人とも、もう少しで休憩に入る。あと一息だ」

 

 庭の中央ではウィリアム、リアム、リィンの三人が湯船作成のために、スコップを使って地面に穴を掘っていた。

 かなりの肉体労働のため、日頃から鍛えいているリィン以外の二人はすでにふらふらだった。

 

「ほらほら、グズグズしていると日が暮れるよ。頑張れ、男の子!」

 

 穴の外から三人を見下ろすシャーリィは片手に愛用の武器である《テスタ=ロッサ》を持ちながら、もう片方の手で切り落とした木を引っ張っていた。

 シャーリィの役割は広場にある木を《テスタ=ロッサ》を使って切り落とし、メイの所に運ぶことだった。

 彼女の性格を考えると、本来はこういった面倒くさいことはやりたがらないのだが、

 

「とっとと終わらせて、温泉が完成すれば、ロドルフォと戦えるからね!」

 

 ロドルフォの対戦。それが理由だった。

 彼がアルフィンと特訓をしていることを耳にしたシャーリィは彼女たちの特訓に参加しようとするが、到着する時には彼女たちの訓練はすでに終わっていたのだ。

 その原因はアルフィンの体力不足だ。

 去年まで女学院にいた彼女はⅦ組女性陣の中では体力が一番低く、戦闘を続ける体力がまだ身に付けていない状態だった。そこでロドルフォは訓練時間を削って、体力作りという意味もかねてアルフィンに風呂作りを手伝わせていたのだ。

 だが、風呂作りが終われば、訓練時間が延び、クラブ活動を終えてからでも参加することができると知ったシャーリィは積極的に風呂作りに参加していた。

 父や亡くなった叔父をも超える最強の元猟兵と一戦交えるなど、彼女にとっては願ってもないことだったのだ。

 

「シャーリィさん、早くこちらに来てください」

「はいはーい。それじゃあ、頑張ってね~」

 

 遠くからオランピアと共に風呂場の木壁を作成しているカグヤがシャーリィを呼びかける。返事をしたシャーリィはリィンたちに一言告げた後、その場から立ち去って行った。

 

「シャーリィ、すごく楽しんでるね」

「クラブ活動も何だかんだ続けているみたいですしね」

「はは……、ん?」

 

 シャーリィの後ろ姿を見送って談笑する後輩たちを見守るリィンだったが、ふと視界に入った光景に目が止まる。

 

「メイさん、木壁用の木材ですが……」

「……そこに置いてある。勝手に持っていけ」

 

 シャーリィが伐採した木を加工していたメイはエリゼたちに視線を向けると、隣で綺麗に積まれていた木の平板に指を指した。

 積まれていた木壁の板を見てアルフィンたちはそれを持ち運ぼうとすると、メイは手を止めて二人の方をじっと見つめてきた。

 

「メイさん?」

「えっと、どうかしたのですか?」

 

 見られていることに気づいたアルフィンたちはメイに問いかけるが、彼は無言のままだった。

 

「あの……、あまり見ないでいただきたいのですが……」

 

 エリゼは顔をほんのりと赤くして、服の裾を下に引っ張る。

 現在、アルフィンたちは作業で汚れることを考えて、全員、体操着に着替えていた。当然、女性陣はブルマーを着用していた。

 下が大胆に露出している格好を異性にまじまじと見られて、恥じらいを感じてしまうエリゼ。

 それに対して、メイはため息を吐いて、着ていたジャージを脱ぎ出した。

 

「髪が乱れているぞ。作業中はヘアゴムとかで結んでおけ」

「え、は、はい」

「それと……」

 

 脱いだジャージをエリゼに投げるメイ。慌ててキャッチしたエリゼは目を丸くする。

 

「そいつを腰に巻いとけ。少しは隠せるだろう」

「あ、ありがとうございます」

 

 メイの紳士的な行動にエリゼは戸惑いながらも感謝しつつ、彼のジャージを腰に巻きつけて作業を再開するのだった。

 

「ふぅ……、何もなくてよかった」

 

 目をギラつかせてスコップを太刀のように持ち替えていたリィンが構えを解いた。

 尋常ならざる殺気を放っていた先輩の姿にウィリアムたちはドン引きしていた。一歩間違えれば、メイの頭が赤く染まっていたに違いない。

 

「そういえば、オスカーはどこに?」

「オスカーさんなら、今」

「ただいま戻りました」

 

 ウィリアムがオスカーの居場所をリアムに聞くと、タイミングよく彼が戻って来た。

 

「トリスタの外で要望通りの品を持ってきました」

 

 オスカーは荷台を引きずり、中には両手で抱えるサイズの岩が積まれていた。

 

「今は使わないから隅の方に置いてくれ。リィンたちと一緒に穴を掘ってくれ」

「……承知した」

 

 複雑そうな表情を浮かべてロドルフォの指示に従うオスカー。彼は寮内からスコップを持ち出して穴の方に向かうと、途中でシャーリィと目が合った。

 

「さっさと作業に行きなよ。早く、温泉を完成させたいからね」

「貴様に言われる筋合いはない!」

 

 急に怒鳴り声を上げたオスカーは大股で穴へと向かい、黙々と作業に取り掛かった。その姿を見たアルフィンたちは頭を悩ませるのだった。

 一回目の実習が終わり、新たな日常が始まった。だが、同時にⅦ組内で新たな問題が生まれたのだった。




週一でこの時間に出せるように頑張ります。
感想、評価等もお待ちしております。
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