英雄伝説 閃の軌跡2.5 ~Trajectory of mavericks~   作:魔ギア

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空の軌跡 the 1st 発売! おめでとうございます!


第三十話 成長

 昼が過ぎて、生徒会からの仕事を着実にこなしていくアルフィンたち。残った仕事は先月と同じ旧校舎の調査。三人は中に入ることはせずに、旧校舎前で立ち止まっていた。

 

「申し訳ありません、シェリルさん。さすがにシェリルさんを連れて行くことは……」

「い、いいえ、いいんです。私が行っても足を引っ張ってしまいますので」

 

 士官学院生とはいえ、魔獣との戦闘を経験したことがないシェリルを連れて行くのは危険すぎる。そう判断したアルフィンはシェリルに同行できないことを告げる。シェリル本人もそれがわかっているため、断ることはなかった。

 

「姫様。武器の方はどうしたのですか?」

 

 二人が話している間、エリゼは細剣の手入れをしていたが、アルフィンが武器である魔導杖を持っていないことに気づく。

 

「リアムさんに預かっているわ」

「リアムさんにですか?」

「えぇ。魔導杖のことでちょっとお願いしたいことがあったから」

 

 何をお願いしたのか気になりエリゼは首を傾げる。その時、学院の方から二人の男がやってきた。

 

「待たせたな」

「すみません! 遅くなりました!」

 

 ゆったりとした足取りで来るロドルフォと、その後を付いてくるリアム。二人の姿にアルフィンは大きく手を振る。

 

「お待ちしていました。お二人は一緒だったのですか?」

「あぁ。技術練で武器の手入れをしていてな。リアムも旧校舎に行くと聞いたから一緒に来た」

「武器の手入れですか?」

 

 ロドルフォは一度、頷くと懐から愛用の銃を取り出した。

 

「これからお前たちと戦うことが多くなるから、いろいろと調整していたんだ」

「ロドルフォさんの銃、分解するところを見たのですが、今まで見たことがない構造でした。少なくとも財団製のものではありませんでしたね」

「そうなのですか?」

「はい。どことなくシャーリィさんの《テスタ=ロッサ》に似ていました」

「元々はSウェポンという、どこかの工房製の武器らしい。それを全部、分解して一から作った」

「い、一から?! あんな複雑な構造をロドルフォ君が一人で?!」

「自分の命を預けるものだ。知らない他人が作ったものなど信用できない」

「す、すごい! そこのところをもう少し詳しく!」

 

 技術者としての血が騒いだのか、珍しく興奮する姿で語り出すリアム。その姿に全員が注目していることに気づいて、リアムは少し頬を赤くして一咳する。

 

「そ、それよりもアルフィンさん。頼まれた件ですが」

 

 リアムは慌てる様子でアルフィンに近づいて、彼女から預かった魔導杖を手渡した。

 

「要望した通りにできたと思います。今日の調査で早速、試してください」

「ありがとうございます。どのように使えばいいのでしょうか?」

「はい。まず……」

 

 リアムとアルフィンが話し合いをする中、銃を懐にしまったロドルフォがシェリルの方に視線を向ける。

 

「ところで、そっちの女は誰だ?」

「あ、はい。今日、姫様と一緒に生徒会の手伝いをしてくれたシェリルさんです」

「よ、よろしくお願いいたします」

「……まさかと思うが、彼女も来るのか?」

「シェリルさんは参加しません。さすがに危険すぎますので」

 

 エリゼがロドルフォに説明をしている時、シェリルは二人を見た後、アルフィンの方に視線を向ける。

 

「えっと、今日の調査は四人で行うのですか?」

「いいえ。もう一人、来る予定です。クラブは午前で終わると聞いているので、もうすぐ来るかと……」

「お待たせ~~」

 

 学院の方から陽気な声が近づいて来た。振り向くと、赤い髪を揺らして、チェーンソーを取り付けたライフル《テスタ=ロッサ》を背負ったシャーリィの姿があった。

 

「ありゃ、シャーリィが最後? もしかして待たせちゃった?」

「いいえ。時間ピッタリですから気にしなくても大丈夫ですよ」

 

 その後、アルフィンは皆に最終確認をするように言うと、最後にシェリルの方に振り向いた。

 

「シェリルさん。今日は一緒に手伝ってくれてありがとうございます」

「い、いいえ! 殿下のお力になることができて、こ、光栄です!」

「そんなにかしこまらないで。せっかく友達になってくれたんですもの」

「と、友達、ですか?」

「私はそう思っているけど、迷惑でしたか?」

「そ、そ、そ、そんなことはありません! 迷惑だなんて思っていませんから!」

 

 予想外の返事にシェリルはあわあわと両手を振りながら取り乱す。それが面白いのか、アルフィンはくすり小さく笑ってしまう。

 

「アルフィン。そろそろ行くぞ」

「あ、すみません。すぐに行きます。それではシェリルさん。また、いずれ」

「あ、は、はい! 今日はありがとうございました!」

 

 深々と頭を下げるシェリルに軽く手を振った後、アルフィンは先に入ったエリゼたちを追って旧校舎の中へと入っていくのだった。

 

「ここに来たのは二回目だけど。あいかわらず殺風景なところだね」

 

 シャーリィは一度、周辺を見渡した後、奥にある扉に目を向ける。

 

「話じゃ、部屋の構造が変わっていたっていう話だったよね」

「はい。奥には幻獣が待ち構えていました」

「そして、お前が大爆発を起こして全員、死にかけたな」

「うっ」

 

 ロドルフォの指摘にアルフィンは苦い顔を浮かべて目を逸らした。

 

「あれから一か月。どれだけ成長したか見せてもらうぞ」

「! はい」

「ちょっとちょっと、ロドルフォも戦うんだよね」

 

 見物するような物言いを口にするロドルフォにシャーリィは横から抗議する。彼女が今回の調査に参加したのは無論、ロドルフォの戦いを見るためだ。その彼が戦わないかもしれないことに文句をつける。

 だが、それを予想していたのか、彼はすぐに答えた。

 

「今回は俺も戦う予定だ。調整した銃の試し撃ちをしないといけないからな」

「あ、そうなの。安心した。ロドルフォの戦いが見れないと思ったよ」

「昔と違って、一人で戦うことが少なくなるからな。全員との連携も取れるようにしなくてはならないからな」

 

 猟兵時代、ロドルフォの実力に追いつける者が誰もいなかったため、彼は一人で戦うことがほとんどだった。だが、Ⅶ組として行動する以上、団体行動は避けられない。集団戦闘をすることが少ないロドルフォにとってはすぐにでも慣れる必要があった。

 

「それでは行きましょう」

 

 アルフィンが先頭に立って、奥の扉を開く。

 

「本当に構造が変わっていますね」

『はい。もはや物理法則をガン無視していますね』

 

 部屋を踏み入れたリアムは人工知能《TOP》を片手に辺りを見回す。それにシャーリィも同じ感想を抱く。

 

「ん? どうしたの、三人とも」

 

 シャーリィは沈黙するアルフィンたち三人に気づき、話しかける。三人は疑うかのように目を丸くして、部屋を見渡した。

 

「お、おかしいです。部屋の構造が先月のとはまったく違います!」

 

 口を開いたアルフィンの言葉に残った二人は同意するように頷いた。

 先月に訪れた時には下に続く階段とさらに奥に続く扉があった。だが、目の前に広がる光景には階段も扉もなかった。

 

「……あそこから下に行けるようだな」

 

 ロドルフォの視界に入ったは、中央に設置された円形型の昇降機。十人以上は軽く乗れそうなサイズのものだった。

 

「この場所は……」

 

 一方で、エリゼはこの場所に見覚えがあった。

 去年、リィンに会うためにトールズに訪れた際に、誤って旧校舎に入ってしまった時に見た場所と同じものだった。

 

「一か月で部屋がガラリと変わるとはな。もはやオカルトの領域だな」

「《TOP》に調べましたが、この部屋に何かしらのカラクリは存在しないみたいです」

 

 軽く部屋の調査を始める一同だが、特に怪しいものは見つからず、昇降機の前に集まった。

 

「残ったのはこれだけだな」

「下に行けば何かわかるかもね」

 

 残った昇降機に全員が注目する。するとアルフィンは四人の前に立って振り返った。

 

「この下に何があるかはわかりません。ですが、皆さんと一緒ならば、何も問題はありません」

「姫様……」

 

 絶対に大丈夫だと信じて疑わない目。そこには今までのような楽観的な姿はなかった。

 

「これより旧校舎の調査を開始します。皆さん、慎重に行きましょう!」

『はい!/おう!』

 

 アルフィンたちは昇降機に乗り込み、地下へと向かうのだった。

 

 

 ~~~~~

 

 

 アルフィンたちが旧校舎の地下へと向かう頃、シェリルは生徒会館で時間を潰していた。

 

「アルフィン殿下とエリゼ様。大丈夫かな……」

 

 彼女は一階にあるテーブルに着き、購入したミルクを口に付けながら物思いに耽っていた。

 本当ならば自分も向かうべきなのだろうが、今の自分では逆に足を引っ張ってしまう。そう自覚しているシェリルは旧校舎の調査を辞退したのだ。

 

「うぅ~~。でも、皇族を危険な場所に送って、自分は安全地帯で待機って、それもそれでマズいんじゃ……」

 

 だが、帝国人として、皇女殿下を危険な場所に行かせたままでよかったのか。このような話が《新生貴族連合》の耳に入れば、また、狙われてしまうと頭を抱えてうなされるのだった。

 

「君」

「は、はい!!」

「ふごっ!」

 

 声を掛けられて勢いよく立ち上がったシェリル。すると後頭部に何かが激突し、再びテーブルに着いてしまった。

 

「イテテ……、だ、大丈夫です――」

 

 か、と言おうしたが、床で蹲る男子生徒の姿を見て、シェリルは固まってしまった。

 

「いや、大丈夫だから、気にしないでくれ」

 

 少し赤くなった鼻を抑えながら、笑みを向ける黒髪の生徒。アルフィンと同じ赤い制服を着ていた。

 

「リ、リ、リ、リィン・シュバルツァー様!?」

 

 今をときめく帝国の英雄。《灰色の騎士》ことリィン・シュバルツァーがそこにいた。

 

「も、も、も、申し訳ありません! リィン様にとんだ無礼なことをっ!?」

「い、いや! 大丈夫だから、立ってくれ」

 

 その場で土下座しようとするシェリルをリィンは立ち上がらせて、テーブルに着かせる。

 

「近すぎた俺の不注意だから、本当に気にしないでくれ。君は悪くない」

「あ、ありがとうございます」

 

 優し気な笑みを向けるリィンを直視できず、シェリルは顔を真っ赤にして俯いてしまった。

 

「どうしたんだ? もしかして頭がまだ痛いのか?」

「い、いいえ、だ、大丈夫です! どこも問題ありません!」

「そ、そうか……」

「その、リィン様は私に何かご用でしょうか?」

 

 彼と接点を持っていない自分に何の用なのかとシェリルは不思議そうに思いながら遠慮気味に尋ねる。

 

「様はつけなくていいよ。用って言うのも大したことじゃない。さっき、殿下とエリゼの名前を口にしていたから」

「あ……」

 

 リィンは二人と同じⅦ組に所属する先輩。そして、エリゼはリィンの妹でもある。兄として気になってしまったのだろう。事実、彼はエリゼたちが心配だったため、昼くらいに帝都から戻って来たのだ。

 リィンと相席するシェリルは午前中にアルフィンとエリゼと一緒に生徒会の手伝いをしたことを伝える。そして、二人は仲間と共に旧校舎の調査へ向かったことも伝えた。

 

「そうだったのか。エリゼたちを手伝ってくれてありがとう」

「そ、そんな! 私の方こそ助けてくださいましたし、結局、旧校舎には一緒に行けませんでしたし」

「そんなに自分を責めなくていい。殿下は君が危険な目にあってほしくないからそうしたんだ」

「それはわかっているのですが、それでも後ろめたいところがあるんです」

 

 再び俯いてしまうシェリルにリィンはどうすればいいのかと頭を悩ませる。腕を組んだリィンはしばらく考えると、何かを思いついたのか目を丸くする。

 

「だったら――」

 

 リィンは思いついたことをシェリルに話して、彼女はその話を最後まで聞くのだった。

 

 

 ~~~~~

 

 

 旧校舎地下二階。先月までにはなかった新たな階層にたどり着いたアルフィンたちは調査を始めた。

 先月の調査にはいなかった新たな魔獣。しかも、強さも一段と強くなっており、調査は前回の時よりも危険なものになっていた。

 しかし、特別実習を乗り越えて成長したアルフィンたちは魔獣を相手に上手く立ち回っていた。

 

「シャーリィ!」

「オーケー!」

 

 グラディウスで魔獣を斬り裂き、後ろに下がるロドルフォ。それに合わせて、シャーリィが《テスタ=ロッサ》を構えて飛び込んだ。

 

「バラバラになっちゃえ!!」

 

 チェーンソーを激しく鳴らして、魔獣に向かって振り抜いた。魔獣は耐え切れずに、呆気なく身体を引き裂かれる。

 

「二時の方向! 敵の数は八体!」

 

 《TOP》の索敵で敵の場所をいち早く察知したリアムが全員に伝える。指摘通り、八体の魔獣が現れて、アルフィンたちに襲い掛かる。

 

「エリゼ! 行くわよ!」

 

 エリゼに声をかけたアルフィンは魔導杖を構えて、なんと前に出た。

 

「姫様!」

 

 後衛の彼女が前に出たことにエリゼは反応が遅れてしまう。

 アルフィンの接近に気づくと魔獣は半分に別れて彼女に襲い掛かる。

 

「行きます!」

 

 杖を構えると、杖先が光り出す。

 

「やぁ!」

 

 一体の魔獣に向かって杖を横に一薙ぎ。すると、飛び込んだ魔獣の身体が二つに分かれた。

 

「あれは……」

 

 エリゼはアルフィンの杖に目が行った。振るった杖の先に放っていた光が鋭い刃へと変化していた。

 

「エリゼ! 残りをお願い!」

「あ、は、はい!」

 

 アルフィンに促されてエリゼもようやく動き出す。身軽な動きで魔獣の攻撃を躱す二人。そこにリアムがフォローに入る。

 

「《TOP》! エリゼさんの方をお願い!」

『了解しました』

 

 リアムがアルフィンの方に向かって魔導杖を掲げる。

 

『ドライブ開始』

 

 すると、先端の球体を中心に魔法陣が作られた。

 

「ジャミングウェーブ!」

 

 そして、中央にはめ込まれた球体から赤い波を生み出す。アルフィンに襲い掛かっていた魔獣はその波を受けると、突然、動きを止めてしまった。

 

「アルフィンさん!」

「はい!」

 

 そこにアルフィンが飛び込む。魔獣を次々と斬っていき、その数を減らしていく。

 

『ダークマター』

 

 一方、エリゼの方に集まっていた魔獣は中心に現れた力場に引き寄せられる。

 

「そこです!」

 

 一か所に集まったところにエリゼは離れた場所から剣を振るう。

 ツバメのように飛んだ斬撃は魔獣を一気に斬り裂いた。

 

「エリゼ!」

「はい!」

 

 《戦術リンク》を繋げる。残った魔獣に無数の斬撃が繰り出される。

 

「戦闘終了、ですね」

 

 魔獣を全滅させて、姿がいないのを確認したエリゼは細剣を収めた。

 

「そっちも終わった?」

 

 二人の所にシャーリィがロドルフォを連れて戻って来た。

 

「そちらも終わったのですか?」

「お前たちよりも速くな。少し見物させてもらった」

 

 そう言うとロドルフォはリアムが持つ魔導杖に目を向く。

 

「入学式の時もそうだったが、その人工知能、自分の意思でアーツとクラフトを使えるのか」

 

 入学式にあった魔煌兵との戦いの際、リアムがアーツの準備をしている時に、《TOP》がクラフトを放って援護をしていた。そして、今回はアーツを使ってエリゼをフォローしていた。

 

「はい。《TOP》は僕たち人間と同じ思考能力を持っています。ですから、戦闘の時は自己の判断でアーツとクラフトを使い分けているんです」

『ちなみに使うアーツは《ENIGMAⅡ》で使用できるものです。《ARCUS》よりも扱えるアーツが多いのでどんな状況でもフォローできます』

 

 自慢げに答える《TOP》の声は機械とは思えない人間味を感じさせるものだった。

 

「それよりも姫様。先程のは……」

「あぁ。これのこと?」

 

 アルフィンは杖を前に出すと、再び光を放って刃を作り出した。

 

「リアムさんに頼んで魔導杖を改造してもらったのよ。近接に持ち込まれても困らないようにね」

「急に言われた時は驚きましたけど、財団にいた時に似たようなものを見たことがありましたので、そこまで苦労はしませんでした」

「似たような物ね……」

 

 リアムの言葉にシャーリィは去年に出会った水色髪の少女を思い出す。

 

「ロドルフォさん。私の動きはどうでしたか?」

「悪くはない。教えていたことがしっかり活かされていた。……だが、もっと視野を広くしろ。リアムのフォローがなかったら少し危うかった。それは感じていたな」

「……はい。そうですね」

「自覚しているならいい。次からは気を付けろ」

「はい! それでは皆さん、先を進みましょう」

 

 アルフィンは調査を続行して奥の方へと進んでいく。先月と比べて、堂々と歩く彼女の姿にエリゼはどこか遠い目で見つめるのであった。

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