英雄伝説 閃の軌跡2.5 ~Trajectory of mavericks~   作:魔ギア

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初の☆1評価をもらっちゃいました。
少し気落ちしましたが、評価をしていただきありがとうございます。


第三十一話 怪物

 旧校舎の調査は思っていたよりも順調に進んだ。

 校舎内をくまなく歩き、襲い掛かってくる魔獣を撃退し、仕掛けられたギミックを解いていく。

 先月に訪れた時よりも成長していると実感するアルフィンの顔は軽い笑みが浮かんでいた。

 

「シャーリィさんはいつから猟兵になったのですか?」

 

 余裕が生まれたアルフィンは言葉で仲間との交流を深めようと試みる。突然の質問にシャーリィは目を丸くする。

 

「どうしたの? 急にそんな質問して」

「い、いえ。シャーリィさん、私たちとそんなに年が変わらないのに、どうして猟兵になったのか、少し気になりまして」

 

 シャーリィの実力は非常に高い。それこそⅦ組の中でも上位に食い込むほどのものだ。だが、十七歳の少女として考えると、その実力は逸脱していた。

 猟兵として活動していると聞いてはいたが、彼女がいつ、どのような形で猟兵の道を進んでいったのか。アルフィンは彼女の事をまだ何も知らないのだ。

 

「どうしてって、シャーリィは最初っから猟兵だったよ」

「最初から?」

 

 どういうことかと首を傾げるアルフィンに、隣で聞いていたロドルフォが代わりに答える。

 

「言葉通りの意味だ。生まれた時からそいつは猟兵になることを定められたんだ」

「生まれた時から?」

「そいつの実家は全員、猟兵だ。親父が当時、団の副団長で、叔父が団長を務めていた」

「さっすが《狼帝》。シャーリィたちのこと、調べてたんだね」

「《赤い星座(お前たち)》とは一度、交戦したからな。それにオルランドの名は猟兵の世界では有名だ」

 

 ロドルフォはアルフィンたちにシャーリィが所属している猟兵団のことを説明する。

 

 《赤い星座》。

 双璧をなしていた《西風の旅団》が解散した今、西ゼムリア最強として恐れられている猟兵団。

 その誕生は古く、中世にまで遡る。

 団を率いているオルランド家は「狂戦士(ベルゼルガー)」の系譜に連なっており、まだ団が存在していない暗黒時代でも、その名は恐れられていたと言われている。

 

「猟兵になることを定められた、というのはそういう意味だったんですか。……その、不躾な質問だと思いますが、抜けようとは考えなかったのですか?」

「ないね。パパたちが猟兵だったというのもあるけど、シャーリィは自分の意思で今も猟兵を続けたいって思ってるよ」

 

 即答するシャーリィの顔に迷いは一切なかった。

 

「初めて戦場に行った時、痛くて、苦しくて、つらいって思ったよ。普通なら逃げ出したって文句は言えないと思うよ。でもね、シャーリィはどっちかっていうと、すっごくワクワクしたんだ」

「わ、ワクワク?」

「うん。殺るか殺られるかの瀬戸際でお互いに全力をぶつけあって殺し合う。そんなギリギリの状態で感じる緊張感。殺されるかもしれないっていう危機感。そして、殺った時に感じる快感。それがすごくドキドキして、ワクワクするんだよ」

「で、でもそれで死んでしまっては意味がないじゃないですか」

「死んだら、そこまでだったってだけだよ。それで死んだとしてもシャーリィは絶対に後悔なんてしないね」

 

 エリゼだけでなく、アルフィンとリアムも言葉を失ってしまう。

 平穏な日常を暮らしていた三人には想像ができない価値観。そのあまりにもかけ離れた倫理観を口にするシャーリィに思わず怖気づいてしまった。

 会話が途絶えて、空気が重苦しくなる。そこにロドルフォが口を開いた。

 

「俺からもいいか? シャーリィ、お前はなぜ学院に来たんだ?」

「なぜって、仕事だよ」

「お前の所は別に人手が足りないというわけではないだろう。俺が知っている限り、護衛ならば《閃撃》の奴が一番の適任者だ。さっきの話を聞いた感じ、お前の楽しみは戦場にしかない。そして、それはお前自身も理解している」

「……」

「そんなお前は今、戦場とは無縁な場所にいる。お前の事を理解している《赤の戦鬼》が命令をしたとは思えない。……お前は自分の意思で戦場から離れて、ここに来た。違うか?」

「アハハ……、そこまで見抜いちゃうんだ」

 

 恐るべき洞察力を前にシャーリィもお手上げだと笑うしかなかった。

 

「ま、ロドルフォの言っていることは間違っていないよ。カグヤの護衛はシャーリィが自分から立候補したんだ。パパたちもすっごく驚いてたよ」

「どうして、護衛の依頼を引き受けたのですか?」

 

 ロドルフォの推察を耳にして、同じように疑問を抱くアルフィン。

 戦場にしか目を向けなかった彼女がいったい何に興味を抱いたのか、と。

 

「ん~、ちょっと、気になることができちゃったってだけだよ」

「気になること?」

 

 シャーリィは珍しく言葉を濁して、眉を潜める。

 

「去年のクロスベルでいろいろあってね。彼が言っていたことの意味を確かめに来たんだよ」

「彼?」

 

 シャーリィは誰かを思い出して物思いに耽った顔をする。それに首を傾げる三人だったが、それを見かねたロドルフォがその場で手を叩いた。

 

「積もる話はそのくらいにしろ。もうそろそろ奥に着く」

「あ、そうですね。皆さん、気を引き締めて行きましょう!」

 

 まとめてくれたロドルフォに内心、感謝しつつ、アルフィンは奥の部屋へと進む。

 部屋は先月に訪れた最奥部と同じ構造。ポールが並び立つドーム状の大きな部屋だった。

 

「何もないですね」

「油断をなさらずに。前回も最初は何もありませんでしたが、すぐに異変が起きました」

 

 エリゼがリアムに注意を呼び掛けると、すぐに異変が起きた。

 前回と同様、部屋の中央が歪んだ。

 

「来ましたね」

「前はカメレオンみたいな幻獣だったって話だけど、今回は何の魔獣だと思う?」

「さぁな。案外、似たような魔獣かもしれん」

 

 猟兵ペアが吞気に話していると空間の歪みがさらに広がり、そこから何かが出てきた。

 それは滑る音と共に地面を高速で這う。一瞬にしてアルフィンたちの背後へと回り、身体を起き上がらせて、すぐさま彼女たちに襲い掛かる。

 

「見えているぞ」

 

 しかし、奇襲は失敗に終わる。ロドルフォがいち早く反応して、前を向いたまま、後ろに銃弾を放った。

 肉を裂く音と一緒に甲高い悲鳴が部屋に響き渡る。

 

「アルフィン!」

「ファイアボルト!」

 

 ロドルフォの掛け声にアルフィンは後ろに振り向く。同時に駆動状態だった杖を突きだして炎を放つ。

 直撃。黒煙が広がり、焦げ臭いが充満する。アルフィンたちはすぐさま距離を取って、煙の中を睨みつける。

 

「やりましたか?」

「《TOP》。反応は?」

『熱源反応あり。まだ、生きています』

 

 黒煙が霧散し、輪郭があらわになる。

 最初に見えたのは顔。金色の鋭い眼光と口から伸びる長い舌。口内からこぼれる紫の唾液が床を溶かす。首から下は一本の長い尾となっており、強い光沢を出しながら地面を何度も叩く。

 その姿はまさしく、

 

「カメレオンの次はヘビか」

「爬虫類仲間ときましたね」

 

 アルフィンたちを見下ろす巨大なヘビ型の幻獣が舌を鳴らす。不気味な紫色の唾液を付けた牙を見せて威嚇する姿にエリゼとリアムは息を呑んで竦んでしまう。そんな二人を庇うようにロドルフォが前に立つ。

 

「アッハハ! イイね、久々に楽しめそうだ!」

「シャーリィさん!」

 

 エリゼの呼び声を無視してシャーリィが一人で突進。《テスタ=ロッサ》に取り付いたチェーンソーを唸らせながら、幻獣に飛び込んだ。

 

「エリゼ! シャーリィさんの後に続いて!」

「は、はい!」

「ロドルフォさん、エリゼたちを……」

「援護だな。了解した」

 

 アルフィンの指示にロドルフォはすかさずに銃弾を連射。エリゼはシャーリィに追いつき、二人で幻獣と接敵する。

 

「リアムさん、私たちはアーツで援護をします」

「わかりました。《TOP》、解析をお願い」

『わかりました』

 

 二人は《ARCUSⅡ》を起動させて周囲に青いサークルを形成する。

 

「ほらほら、こっち!」

 

 噛みつこうとする幻獣をシャーリィは軽快に躱しながら懐に潜り込む。

 

「せーの!」

 

《テスタ=ロッサ》で一撃が直撃。硬い皮膚で火花が飛び散るが、回転する小さな刃が傷口を徐々に広げていく。

 

「エリゼ!」

 

 後ろに下がると、すれ違いにエリゼが飛び込む。シャーリィによって作られた傷口に剣を突く。

 剣は硬い皮膚を貫き、血が飛び散った。

 痛みに悲鳴を上げる幻獣。すぐさま、自分を傷つけたエリゼを捉えて口を開く。

 しかし、今度は目玉から血が噴き出した。

 

「離脱しろ」

 

 離れた場所からロドルフォが援護射撃。エリゼは剣を抜いてその場から離脱。シャーリィは飛び込まずに《テスタ=ロッサ》を構えて、銃撃を繰り出す。

 視覚を奪われた幻獣はその場に蹲って身を固める。ロドルフォとシャーリィが隙を与えないように撃ち続ける。

 

「メネシスアロー!」

「クリスタルエッジ!」

 

 アーツが放たれる。

 雷の矢がもう一つの眼球を貫き、氷の刃が皮膚の鱗を斬り裂く。

 激痛に悶える幻獣は地面を勢いよく這う。追撃をするシャーリィたちだったが、追いつけずに距離を取られてしまう。

 

「っ! ポールの上に!」

 

 幻獣は細長い身体を利用してポールに巻き付いて上に避難する。上からアルフィンたちを見下ろしてくる幻獣は口を閉じると大きく膨らませた。

 

「物陰に隠れろ!」

 

 ロドルフォの指示にアルフィンたちはすぐにポールの後ろへと隠れる。そこに幻獣が紫の液体を吐き出した。

 液体がポールにべったりと付くと、そこから焼ける音と共にポールの一部が抉られるように消滅していく。

 

「と、溶けた……」

「毒だ。不用意に近づくのは危険だ」

「で、ですが、目を潰したので、こちらの位置はわからないはずです」

 

 エリゼの疑問に同じ場所で隠れていたロドルフォが首を横に振る。

 

「ヘビは嗅覚を頼りに周囲を把握している。目を潰した程度ではどうにもならない」

「ではどうすれば……」

「決まっている。当たらないように接近して、奴を落とす」

「む、無理ですよ!」

 

 無謀な作戦を出すロドルフォに思わず反論するエリゼ。だが、ロドルフォは銃に弾丸を装填しており、いつでも飛び込む勢いだった。

 

「どうやら、あいつも同じ考えのようだな」

 

 彼の視線の先で、シャーリィがポールの陰から出てきて、幻獣に向かって突進していた。

 彼女の姿を捉えた幻獣は再び、毒を吐き出した。

 

「甘い甘い! こんなんでシャーリィを止められると思ってんの!?」

 

 降り注ぐ毒液を恐れずにシャーリィは前に進む。毒液は彼女を後ろに付着して地面を溶かす。

 距離を縮めていき、最後に力強く跳躍をして幻獣との距離を一気に詰める。

 

「いただきぃ!!」

 

 《テスタ=ロッサ》を脳天目掛けて振り下ろす。

 決まった、と誰もが思った次の瞬間、ポールに隠れていた幻獣の尻尾がシャーリィを地面に叩き落とした。

 

「シャーリィさん!」

「出るな、エリゼ!」

 

 シャーリィに駆け寄ろうとエリゼがポールの陰から出てしまう。

 

「きゃあ!」

 

 すると、幻獣の尻尾が下から襲い掛かりエリゼに巻き付く。捕まったエリゼはそのまま持ち上げられる。

 

「エリゼ!」

『捕食するつもりです』

「わかっている! けど……」

 

 アルフィンとリアムがエリゼを助けようと魔導杖を向ける。だが、間にエリゼを挟まれて、盾にされてしまう。

 抵抗するエリゼだったが、締め付けが強まりは剣を地面に落としてしまう。幻獣は彼女を自分の下まで近づけてとゆっくりと口を開いた。

 

「い、いや……」

 

 近づく死の恐怖に顔が真っ青に染まる。逃げようと足掻くエリゼだったが、幻獣に威嚇されて息を止めてしまう。

 

(兄様……)

 

 最後に兄の姿を思い浮かべて目を閉じるエリゼ。次の瞬間、

 

 ――斬ッッ!!

 

 エリゼを捕まえていた尻尾が切断される。空中に投げ飛ばされるエリゼだったが、ロドルフォがすぐさま走って彼女を抱える。

 

「あ、ありがとうございます。ロドルフォさん」

「礼はいい。それよりもここから離れる」

「ど、どうしてです、か……」

 

 幻獣の方を向きエリゼは言葉を止めてしまう。

 切断された尻尾の近くでシャーリィがポツリと立っていた。だが、顔は下を向いており、近寄りがたい威圧感が彼女から放たれていた。

 

「あ~~、ヤバ。まさか、あれを躱せられなかったなんて」

 

 シャーリィは手で顔を覆いつくしながら天井を見上げる。よく見ると、手の隙間から血が流れていた。ぶつぶつと独り言を呟いていると、彼女の身体から赤いオーラのようなものが漏れ出す。

 

「パパに見られたら幻滅されるなぁ。ランディ兄のこと言えなくなっちゃうじゃん」

 

 強烈な寒気が幻獣に襲い掛かる。今すぐに逃げろと本能が叫ぶ。

 そうしている間に赤く光るシャーリィの目が幻獣の姿を捉えた。

 

「…………ぶっ潰す」

 

 瞬間、赤いオーラが一気に爆発した。彼女を中心に風が吹き荒れて、アルフィンたちはその場で膝を着いてしまう。

 その光景にアルフィンは見覚えがあった。先月の実習でロドルフォが見せた猟兵が放つ戦技《戦士の叫び》だ。

 だが、ロドルフォが放ったものとはまるで違う。戦士というより、怪物のような叫びにアルフィンは身体を萎縮してしまう。

 

 《鬼の叫び(オーガクライ)

 

 シャーリィたちオルランドの一族のみが放つことができる戦技。

 《赤い星座》の猟兵。《血染めのシャーリィ》が牙を剥く。

 

「そのうっざい尻尾。斬り落として上げるよ」

 

 獣の眼光が幻獣を睨みつける。それに幻獣は身震いして、すぐさま毒液を吐こうとする。

 

「遅い!」

 

 しかし、地面を蹴るとともにシャーリィの姿が消えた。瞬間、幻獣の身体から赤い鮮血が噴き出した。

 

「シャァアアアア!!」

 

 獣の咆哮を上げて、シャーリィは《テスタ=ロッサ》を振り下ろす。傷つけるのが精一杯だった幻獣の硬い皮膚は呆気なく斬り裂かれる。

 

「舐めんなぁああ!」

 

 オーラがさらに膨れ上がる。チェーンソーの刃が牙のように皮膚を喰い破り、尻尾を切り落としていく。

 

「す、すごい……」

 

 シャーリィの実力に動きを止めてしまうアルフィン。そんな彼女を置き去りにして、シャーリィの猛攻が続く。

 身体を半分も失った幻獣は地面に落とされる。起き上がった、幻獣はシャーリィを睨みつけて、雄叫びを上げた。

 怒りが恐怖を上回り、絶対に殺すと今まで以上の殺気をシャーリィにぶつける。

 

「いいよ! とことん殺し合おうか!」

 

 そこから繰り広げられたのは怪物と怪物の戦いだった。

 幻獣がその巨大にそぐわない俊敏な動きでシャーリィを追い詰めていき、一方でシャーリィは幻獣の身体を何度も何度も切り裂く。傷口から噴き出る血を全身で受け止めながらも、彼女は攻撃の手を緩めることはなかった。

 

「ハハ、アハハハハハハハハ!!!!」

 

 シャーリィは笑っていた。どこまでも純粋に、どこまでも狂おしく。ただ目の前に立ちはだかる敵との殺し合いを楽しんでいた。

 どこまで追い詰められても、彼女は自分の命を顧みずに反撃を繰り返す。そして――

 

「はぁ……、はぁ……」

 

 《テスタ=ロッサ》を地面に突き刺して、シャーリィは荒くなった息を整える。そんなことをしていたら幻獣に狙わるが、もうそれに心配する必要はない。

 

「か、勝った……」

 

 シャーリィと殺し合った蛇の幻獣は彼女の前で息絶えていた。身体をバラバラにされて、そこから溢れんばかりの血を流しながら、物言わぬ骸へと化していたのだ。

 

「は、ハハ。悪くなかったかな」

 

 もはや赤くないところが少ないほど、彼女の身体は赤い血で染まっていた。

 

 《血染めのシャーリィ》。

 その由来を垣間見たアルフィンたちは彼女の姿を見て口を開くことができなかった。




1stをプレイしましたが、神リメイクと言われるくらい最高でした。
声優が変わっていなければ、もっと良かったんだがなぁ……。
でも、最高でした。
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