英雄伝説 閃の軌跡2.5 ~Trajectory of mavericks~   作:魔ギア

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第三十三話  勝負

 特別実習一日目。

 出発の朝を迎えた二代目Ⅶ組一同は先月と同じく、トリスタ駅舎内で時間を潰していた。

 

「ったく、またあいつらと行くことになんのかよ」

 

 そう言って、愛用のココアシガレットを咥えて、椅子に乱暴に座るメイは苛立ちを隠せない様子だった。

 

「あんな重っ苦しい空気を二度も味わうなんか死んでもゴメンだっつうに。あの先公、何を考えていやがる」

「まぁまぁ。そうならないように私たちでフォローをしましょう」

 

 愚痴をこぼすメイにカグヤが慰めの言葉をかけた。

 今回のチーム分けは先月のメンバーからエリゼとリアムが入れ替わっただけのものだった。つまり、今、Ⅶ組で問題視されているオスカーとシャーリィが、再び同じ班になってしまったのだ。

 

「二チームにしか分けられない以上、同じ人とまた組む事になってしまうのは仕方がありません。ここは割り切って、先月の分を取り返す気持ちで臨みましょう」

「けっ、どうだかな。あの先公、実はチーム分けが面倒くさくて、適当に入れ替えただけかもしれねぇぞ」

 

 不貞腐れるメイにカグヤは困ったような苦笑いを浮かべた。

 少し離れた場所ではオスカーが一人で静かに瞑想しており、シャーリィはまるで子どものように、まだかまだかと待ち切れない様子だった。

 

「エリゼ、今回は別々の班になるけど、お互い頑張っていきましょう」

「姫様、ご心配には及びません。今回の実習では、必ず良い成果を出してみせます」

 

 一方でエリゼは今回、別の班になったアルフィンと出発前に最後の話し合いをしていた。

 互いに激励を送り合う中、エリゼの今までにないやる気を感じ取り、アルフィンは首を傾げた。

 

「エリゼさん」

「オランピアさん? どうかしましたか」

 

 二人の間にオランピアが入り、彼女はエリゼの方に顔を向ける。

 

「これからそちらが向かうレグラムなんだけど」

「はい。何か懸念することが?」

「いいえ。向こうについたら、ヴィクターさんとラウラさん。後、いたらなのですが、遊撃士のトヴァルさんに自分はお元気だと伝言をお願いしたくて」

「オランピアさん、三人ともお知り合いなのですか?」

 

 聞き覚えのある名前にエリゼたちは目を丸くする。

 

「うん。帝国に来た時、レグラムに滞在していたの。ラウラさんたちとはその時に」

「そうだったのね。でも、確かにサラ教官とも顔見知りなら、トヴァルさんと知り合ってもおかしくはないわね」

「わかりました。三人には必ずお伝えしますね」

 

 そんなふうに話を続けていると、アナウンスが鳴り、列車の到着が知らされた。

 

「それじゃあ、これでお別れね」

「はい。姫様、オランピアさんも。どうか、女神のご加護を」

 

  アルフィンたちA班が先に出発し、駅舎内に残ったのはエリゼたちB班だけになった。

 

「ね―ね―。レグラム行きの列車って、後どんくらいで着く?」

「もうすぐだと思いますよ。シャーリィさん。すごく楽しそうですね」

「うん。レグラムには遊撃士協会があるからね」

 

 帝国は遊撃士協会の活動を禁じており、元々、帝国各地に存在していた支部は軒並み閉鎖されている。だが、レグラムの支部は領主ヴィクターの計らいにより、活動こそ禁止されているが、閉鎖は免れていた。

 

「先月はミスマッチしたからね。もしかしたら、《紫電》のお姉さんに会えるかもしれないからさ」

「《紫電》というと、サラ教官ですか?」

「うん。今は遊撃士をやってるみたいだけど、昔はシャーリィと同じ猟兵だったんだよ。知ってた?」

「あ、はい。ロドルフォさんから一通り聞いています。昔、サラ教官が率いていた部隊で活動していたみたいです」

 

 ちなみに、サラの好みのタイプであるイケてる叔父様趣味は、当時の部下たちは全員、知っており、彼女が結婚できるかどうか、密かに賭けをしていたのは、本人には内緒だ。

 そんな談笑を続けていると、駅のエントランスが開いて、外から誰かが来た。

 

「どうやら間に合ったみたいだな」

「兄様?!」

 

 兄リィンの登場にエリゼは驚いて声を上げてしまう。そんな彼女に気づいて、リィンはエリゼの元に近づいた。

 

「いったいどうしたのですか? もしや、兄様もラウラさんたちに伝言を?」

「いや、ラウラたちとは定期的に文通しているからそうじゃないよ」

「定期的に? ……私の時は全然、してくれませんでしたのに」

「うっ……。それは申し訳ないと思っている」

「冗談です。それでご要件は何でしょうか」

 

  罰悪そうに顔をしかめるリィンにエリゼはくすりと笑って受け流す。機嫌が直った事に一安心したリィンは改めてエリゼに話しかける。

 

「エリゼ。これから行く実習なんだが」

「ご心配には及びません。シュバルツァー男爵家の娘として、そして、兄様の妹として恥のない結果を出してみせます」

「……あまり無茶だけはするなよ」

 

 リィンはエリゼの頭に手を置いた。突然のことにエリゼは目を丸くした。

 

「何か迷いがあった時は、遠慮しずに周りを頼ればいい。一人で解決できなくても、皆がいればどんな困難も乗り越えることができる。……今のお前には手を貸してくれる仲間たちがいる。それを忘れないでくれ」

「兄様……」

 

 リィンはエリゼが何かを悩んでいることに気づいていた。本当ならば、兄として、色々と助けてあげたい気持ちはある。

 だが、今の彼女には共に歩み、支え合ってくれる仲間がいる。ならば、かつての自分と同じように、彼女の抱えているものは仲間たちと共に、乗り越えてもらおう。

 アナウンスがなり、もうすぐ列車が来る。エリゼたちはそれを合図にホームへと向かう。

 

「それでは兄様。行って参ります」

 

 力強く応えるエリゼは仲間たちと共に列車に乗る。リィンは手を振りながら、後輩たちの実習が成功するように女神に祈った。

 

 

 〜〜〜〜〜

 

 

 バリアハート方面の列車に乗り、レグラムへと目指すエリゼたちB班。男子と女子に分かれ、向かい合うように座るエリゼたちは、目的地に到着するまで談笑していた。

 

「エリゼのお兄さんって過保護だよね。あれが俗に言うシスコンってやつ?」

「まぁ、妹思いで素敵なお兄さんじゃありませんか」

 

 シャーリィとカグヤは駅でリィンがエリゼの頭を撫でる仕草を見てそんな印象を抱くのだった。

 

「そう? シャーリィには従兄がいるけど、ランディ兄があんな態度で来たら、ぶっちゃけキモくて、ちょっと引いちゃうな」

「同意見だな。兄弟姉妹なんかくっつきすぎない方がいい。うちの姉貴がそんな態度を取るなんか想像したくねぇ」

 

 嫌なものを想像したのか、メイは顔を苦く歪めた。

 

「まぁ、兄様が私に少し過保護だというのは否定できませんね。あんなふうに人前など関係なしに頭を撫でてきますので」

「しつこいとか思わないの?」

「人前でされるのはさすがに恥ずかしいですが、嫌だと感じたことはありません」

「仲のいい兄妹なのですね。少し羨ましいです」

 

 エリゼの兄妹仲の話で盛り上がっていると、今まで黙っていたオスカーが話を変えた。

 

「それよりもこれから向かうレグラムだが、誰か行ったことはあるのか?」

「申し訳ありませんが、私はありませんね。シャーリィさんはどうですか?」

「ないよ。仕事で来たこともないね」

 

 仕事という言葉にオスカーは顔をしかめた。それにいち早く気づいたエリゼが口を開く。

 

「えっと、私も行ったことはありませんが、レグラムにはⅦ組の先輩のラウラさんがいらっしゃいます」

「ラウラというと、もしやアルゼイド家の?」

「はい。ラウラ・S・アルゼイド。現当主のアルゼイド子爵のご息女ですね」

「そっちの方は知らないけど、当主様の方は知ってるよ。《光の剣匠》だっけ? 無茶苦茶強いって話じゃん」

「そうですね。帝国でも五本の指に入るほどの剣豪だと聞いています。私は去年の学院祭でお目にかかりましたが、とても凛々しい方でした。メイさんもそう思いますよね?」

「あぁ? 何で俺に振るんだ」

「え、お会いしたことがないのですか? オーレリア将軍は子爵閣下に師事されていたのですよね?」

 

 メイの姉、オーレリアは帝国二大剣術であるヴァンダール流とアルゼイド流を共に皆伝に至っており、アルゼイド家の当主ヴィクター・S・アルゼイドとは師弟関係にあるのだ。それ繋がりでメイはヴィクターと面識があるとエリゼは考えていた。

 

「生憎だが、俺はその剣匠ってやつには会ったことがねぇよ。興味もねぇしな」

「興味がない? 閣下は帝国、いや、ゼムリアでも名が知られた武人だぞ。武の道を進む者なら、一度でもいいから手合わせしたいと――」

「思わねぇな。別に武の道を極めたいなんて思ってねぇからな。俺はただ負けたくねぇだけだ。負けたくねぇから、俺は強くなるんだ」

 

 オスカーの言葉を遮ったメイは、荒い声と共に顔を険しくした。

 

「勝ちたいとか、一番になりたいとか、そんなものに興味はねぇんだよ。負けないためなら、卑怯と言われようが、どんな手段だって使う。俺はそうやって生きてきた」

「ま、そこは猟兵も似たようなものかな。命あってこその商売だからね。勝つことも大事だけど、何よりも自分が生き残らなきゃ意味がないからね。死んだら、その時点で負け。こっちも死なない為ならどんな手段だって使うからね」

 

 メイの意見に同調するシャーリィにオスカーの顔が険しくなる。場の空気が一気に悪くなり、エリゼは慌てて収めようと身を乗り出した。

 

「皆さん、その辺に――」

「でしたら、ここは一つ勝負をしたらどうですか?」

 

 エリゼが口を開く前に、カグヤは一つの話題を持ちかけた。突然のことに全員、彼女の方に視線を集める。

 

「しょ、勝負というと?」

「ルールは簡単です。この実習で成果を一番に上げた人を勝者とします」

「つまり、他の奴らよりも活躍しろってことか?」

「そこら辺はそれぞれのご判断にお任せします。どのみち、このまま言葉で言い争っても、水掛け論で終わってしまうでしょう。でしたら、ここは思い切って勝負をして、ケリをつけましょう。いかがでしょうか?」

 

 どこか挑発的な笑みを見せて、三人を見やるカグヤ。沈黙がしばらく続いたが、その勝負にメイが最初に乗り出した。

 

「いいぜ。それでこいつを黙らせれるなら、乗ってやるよ」

「シャーリィも賛成。いい加減、どっかでケリを付けたほうがいいと思ってたからね」

「私も異論はない。その勝負、受けて立つ!」

 

 三人はカグヤの話に身を乗り出した。エリゼがその様子をオロオロと見守るうちに、列車はいつの間にかレグラムに到着していた。

 

「それでは勝負開始です。頑張ってくださいね」

 

 カグヤは先に列車から降りて、エリゼは慌ててそれに続く。

 

「カ、カグヤさん! あんなので大丈夫なのですか?!」

「ああいったものは一度、何らかの形で決着をつけるべきです。さいわいにも皆さん、やる気になってくださいましたし」

「で、ですが、私たち二人で三人を抑えるのは……」

「大丈夫ですよ。その時は私が何とかします。こういった面倒事の収め方は、共和国の方でよく経験していましたから」

 

 笑顔を崩さずに言い切るカグヤ。彼女から放つ謎のプレッシャーにエリゼは口を閉ざしてしまう。

 

「それに、あの三人もしっかりと時と場所を弁えています。そんな頻繁に問題事を起こすことはないでしょう」

「そ、そうでしょうか……」

「はい。ですから、エリゼさんは気にせずに、自分の事をしっかりとやり遂げてください」

「あ……」

 

 どうやら気を引き締めるあまり、カグヤに気を遣わせてしまったようだ。 昨日から意気込んでいながらこのありさま。少しカグヤに申し訳なく思うエリゼだが、今回は彼女の言葉に甘えることにした。

 

「さて、ここがレグラムなのですね」

 

 駅を出て、カグヤたちが最初に目にしたのは、視界を覆う白い霧。まだ春にも関わらず、少し肌寒さを感じさせる空気。

 霧でぼんやりとしか見えないが、湖が霧で見通せないほど広大に広がっていた。

 

「ここが『霧と伝説の町』レグラムなのですね」

「『獅子戦役』終結に貢献した『槍の聖女』が誕生した地だな」

 

 エリゼたちが広がる景色の神秘さに目を奪われていると、町の方から二つの足音が近づいてくる。

 

「どうやら時間通りのようだな」

「うわっ。本当にいる」

 

 一人は青い髪を一つに結んで腰まで下ろした少女。背筋を伸ばした凛々しい佇まいで歩み寄り、期待した眼差しを向けている。

 一方で、もう一人は銀色の短髪が特徴の小柄な少女。眠たそうな気怠げな顔をしているが、シャーリィの姿を見るなり、驚きと若干の困惑で目を疑っている様子だった。

 

「ラウラさん、フィーさんも」

「あれがアルゼイド家の……」

「へぇ~、まさか、あの子も一緒だったんだ」

 

 気づいたエリゼは二人の名を呼ぶ。それに反応して、オスカーとシャーリィはラウラとフィーをそれぞれ見る。

 

「久しぶりだな、エリゼ。その他の者は初めましてになるだろう」

「私は一人違うけどね」

 

 ラウラたちはエリゼたちの下へと歩み寄る。

 緊張や興味などの視線を受けながらも、二人の少女は後輩たちに挨拶を送る。

 

「ラウラ・S・アルゼイド。この町の領主ヴィクター・S・アルゼイドの嫡女で、そなたたちトールズⅦ組の先輩でもあった者だ。見知りおき願おう、新たなⅦ組の後輩たち」

「フィー・クラウゼル。ラウラやリィンと同じ、元Ⅶ組の先輩。今は遊撃士を目指して勉強中。よろしく」

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