英雄伝説 閃の軌跡2.5 ~Trajectory of mavericks~   作:魔ギア

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第三十四話 新旧の邂逅

 レグラムに到着し、Ⅶ組の先輩であるラウラとフィーに迎えられたエリゼたち。

 彼女たちは早速、ラウラたちの案内の下、実習地の責任者であるヴィクターがいるアルゼイド邸へと向かうと思っていたが、ラウラたちは遊撃士協会の方へと足を進めた。

 

「すまない。父上は今、帝都の方へと赴いていて留守をしているのだ」

「だから、一日目は私たちが対応することになった」

 

 二人はエリゼたちを協会支部へと案内する。帝国政府によって活動は休止されており、掲示板には依頼書が貼られておらず、人もまったくいなかった。

 

「よぉ。早速、来たな」

 

 そんな中、受付のカウンター席でエリゼたちに声を掛ける一人の男がいた。白いコートを着た金髪の男性――トヴァル・ランドナーが待ち構えていたのだ。

 

「お前さんらが新しいⅦ組のメンバーか。エリゼ嬢さんは旧校舎以来だな」

「はい。トヴァルさんもお元気そうですね」

「へへ。遊撃士たるもの、いつでも動けるように体調は万全にしないとな」

「な~に言ってんのよ。昨日まで徹夜で書類と睨めっこしていたじゃない」

 

 二階から聞き覚えのある声が届き、エリゼは顔を上げる。階段から赤みがかった紫髪の女性があくびをしながら降りてきた。

 

「サラ教官!」

「ハーイ。ケルディック以来ね、エリゼ。他のメンツに関しては初めまして………げぇっ!?」

 

 エリゼ以外のメンバーを見るサラだったが、シャーリィの顔を見ると、嫌そうに顔をしかめた。それに気づいたシャーリィは、満面な笑みで手を振ってきた。

 

「ヤッホー、《紫電》のお姉さん。随分とお久だね」

「話には聞いていたけど、こうして見ると違和感しかないわね」

「うん。それは同意見かな」

 

 シャーリィの制服姿に違和感を覚えるサラの感想にフィーも同意見だった。

 

「そっちは二年ぶりになるのかな? 大きくなったね、《西風の妖精(シルフィード)》」

「《血染めのシャーリィ》。トールズに入学したって聞いた時は耳を疑ったけど、まさか、Ⅶ組に入っているなんてね」

「アハハ。これも女神の巡り合わせってやつじゃない? よろしくね、フィー先輩♪」

 

 先輩と呼ばれて、サラと同じく嫌そうに顔を顰めるフィー。

 そのやり取りを眺めていたエリゼ以外の二代目Ⅶ組メンバーは状況についていけず、事情を知るエリゼに尋ねた。

 

「エリゼ殿。あの二人は顔見知りなのか?」

「見た感じそうだと思います。フィーさんも猟兵団に所属していたと兄様から聞いたことがあります」

「そうだよ。シャーリィは《赤い星座》。《西風の妖精》は《西風の旅団》に所属していたんだよ。ちなみに《紫電》のお姉さんは《北の猟兵》だね」

「ま、いろいろあって、猟兵から足洗って、今は遊撃士をやってるわ」

「私は団が解散した後、サラに拾われて、そのまま士官学院に入学した」

 

 猟兵だった過去を簡単に話す二人に、オスカーは戸惑いを隠せないでいた。特にフィーに対しては、自分よりも小柄な少女が猟兵だったことが信じられず、どう接すればいいのかと戸惑っていた。

 

「では、まずは私から。共和国から留学して参りましたカグヤ・アトソンと申します。異国の地ゆえ、まだ不慣れなところはありますが、よろしくお願いします」

「メイ・ルグィン。ラマール州から来た」

「シュライデン伯爵家長男、オスカー・シュライデンと申します。以後、お見知りおきを」

 

 二代目Ⅶ組のメンバーを聞き、ラウラたちはそれぞれの反応を見せた。

 

「今の時期に共和国から留学とは珍しいな」

「ま、《赤い星座》に護衛の依頼をしているから、かなり複雑な事情なんでしょう」

「その質問に関してはお答えできませんので、お許しください」

「いやいや、詮索はしないから気にすんな。遊撃士を長く続けるとワケありな人間なんていくらでも会うからな。いちいち聞き出したら、キリがねぇからよ」

「ま、私たちもそのワケありに当てはまるんだけどね」

 

 大人組はカグヤの複雑な事情に興味を持つが、踏み込むような野暮はしなかった。

 

「ゼシカ殿はご壮健か?」

「! 妹をご存じなのですか?」

「無論。女の身で私と同じく武の道を進んだ者。今でもたまに文通をしている」

「そうだったのですか……」

「彼女から兄であるそなたのことは聞いている。その若さで《シュライデン流槍術》を中伝まで至った身。一度でもよいから手合わせを願いたいものだ」

「それはこちらも同じ気持ちです。《アルゼイド流》を中伝まで極め、今は奥伝の修行をしていると聞き及んでいます。ぜひ、機会があれば、私の槍と一戦交えていただきたい」

「うむ。機会があればな。叶うことなら、そなたとも戦いたいものだ」

「あぁ?」

 

 オスカーに話し込んでいたラウラは、ココアシガレットを咥えようとしたメイに視線を送る。

 

「オーレリア将軍に弟がいたとは、私も初耳だ。閣下から相当しごかれたと見えるな」

「いきなり無人島に放り投げられて、サバイバル生活を余儀なくされたよ」

「聞いた感じ、何も持たせてくれなかった?」

「あぁ。おかげで野生の熊と素手でやり合う羽目になった。ったく、あの時は死ぬかと思ったぜ」

「そういえば、昔、それをやってのけた人が団にいたって団長が言ってたような……」

「《熊殺し(キリングベア)》だっけ? 今はクロスベルで捕まってるみたいだけど」

 

 ラウラたちの話にフィーとシャーリィも加わり、話がさらに盛り上がった。

 

「あ、ラウラさん。それとトヴァルさんも。オランピアさんから自分はお元気だと伝言を預かっています」

「お、そうなのか? サラから聞いてはいたが、元気そうで何よりだな」

「うむ。彼女と再び出会えるのが楽しみだ」

「サラ教官もそうでしたが、お三方はオランピアさんとどのようなご関係なのですか?」

 

 同級生の人脈の広さに疑問を持つエリゼは、知り合いの三人に事情を尋ねる。

 

「そんな大した関係じゃねぇよ。ただ同じ事件で協力し合った仲だ」

「懐かしいわね。あの時は彼も一緒だったわね」

「彼……。ひょっとして、エドワードさんですか?」

 

 先月の旧校舎でオランピアの口から出た彼女の師のことを思い出す。

 

「あぁ。今もあいつのことは覚えてるぜ。子爵閣下と一戦交えたことがあってな。その時に練武場の屋根を吹き飛ばしたそうなんだよ」

「え?」

「うむ。私はその立ち合いの場にいたから、この目で確かに見たぞ。気づいた時には天井が青空になっていたのは今でも鮮明に覚えている」

「え……え?」

「私の場合、敵と交戦した時に知り合ったわ。地面を真っ二つにするわ、《古代遺物》をぶった斬るわで、驚きの連続だったわ」

「……そこらの魔獣よりも怪物だな」

 

 聞きしに勝る《黒金の剣聖》の武勇伝を聞き、メイはボソッと感想を述べる。彼だけでなく、他の二代目Ⅶ組メンバーもかなり引いていた。

 

「《八葉一刀流》は遊撃士とはかなり縁があってな。驚きはするけど、やれて納得しちまうところがあるんだよな」

「遊撃士を引退したカシウスさんやクロスベルにいるアリオスさんも似たような事をしたって話は聞いたことがあるしね」

「……ひょっとして、リィン先輩も同じことができるの?」

「ど、どうなのでしょう」

 

 話題に上がる名立たる剣聖たちの弟弟子であるリィンもその枠組みに入っているのか。妹のエリゼは不安を隠しきれなかった。

 

「実を言うと、私がトールズに入るきっかけをくれたのがエドワード殿でな。彼からリィンの事を聞かされて、入ろうと決めたのだ」

「そうだったんですが?」

「うむ。《剣仙》の最後の弟子が帝国にいて、私と同い年くらいだと教えてくれてな。もしかしたら、トールズに入ってくるかもしれないと教えてくださったのだ」

 

 当時のことを思い出すラウラはあの時、彼の話に乗って良かったと心からそう感じていた。

 

「で、いつまで思い出話を続けるんだよ」

「おっと、そうだった。そういえば、実習のことがあったな」

 

 メイの進言でようやく本題に入る一同。トヴァルはカウンターの引き出しから封筒を取り出して、エリゼたちに渡す。

 

「こいつが今日、お前たちにやってもらう依頼だ」

 

 受け取ったエリゼは封筒から紙を取り出して、内容を確認する。

 内容は先月のケルディックの時と大して変わったものはなかった。

 

「今日を含めて、実習期間は二日。期限は特に決まってねぇが、夕方までには終わらせるようにしろよ」

「実習期間は我がアルゼイド邸で泊まる手はずになっている。朝と夕方の食事はこちらで用意をしておくから、安心するとよい」

 

 エリゼたちが内容を確認している間にトヴァルたちが補足説明をすると、サラが真剣な顔になって話を入る。

 

「それとこっちの方で対処するけど、もしも、猟兵に関する情報を耳にしたら、私たちに知らせてくれないかしら?」

「猟兵ですか?」

「何? どっかの団がこの近くで動いてんの?」

 

 エリゼたちの疑問に対して、トヴァルたちは表情を引き締めた。

 

「ここ最近、レグラムを中心に猟兵団の姿が何回か目撃されてな。俺たちの方でも調査を進めてんだが……」

「目撃情報がバラバラすぎて、どの団なのか絞り込めなくて、行き詰まってる感じ」

 

 猟兵出身のサラとフィーの手も借りて調査をしているようだが、いまだに有益な情報を手に入れることができていなかった。

 

「複数の猟兵団が動いているということは考えられませんか?」

「それはないんじゃない。そもそも今の帝国で猟兵団を動かすのも難しいんじゃないの?」

「あぁ。内戦の時、《貴族連合》が猟兵団を雇って、町に被害を与えた話があってな。そいつのせいで、今、帝国は猟兵団の出入りをかなり厳しくしているんだ」

「先月の《北の猟兵》の一件もそれがあったから、すぐに彼らを見つけることができたのよ」

 

 カグヤとシャーリィの質問にトヴァルたちが答える中、オスカーが顔を険しくして、力強く拳を握り締めていた。

 

「また罪のない民たちを狙うのか……。卑劣な奴らめっ……!」

「と、とにかく、お話はわかりました。猟兵団の情報については、何かわかりましたら、連絡させていただきます」

「おう。そいつは助かるぜ。今、遊撃士は活動休止で人手不足だから、猫の手も借りたかったんだよ。お前さんらの手も借りられて感謝だぜ」

「軍の方は動いてねぇのか? 姉貴から聞いたが、子爵家は中立の位置に立っているから、政府とはいがみ合っていねぇんだろう?」

 

 メイの言う通り、アルゼイド家は貴族ではあるが、《貴族派》に所属してはおらず、《革新派》が多い帝国政府とは対立していないのだ。

 

「軍は今、宰相閣下の指示で手が空いていないらしくてな。核心のない情報じゃあ動かせないって話だ」

「ま、どちらかというと、オリヴァルト殿下に協力しているから手を貸したくない、というのが本音でしょうけどね」

「な、何ですかそれは?! 政府はオリヴァルト殿下を、自国の皇族を敵視しているというのですか?!」

 

 帝国人として忠誠を尽くすべき皇族をないがしろにしている政府の実態にオスカーは信じられない様子だった。

 

「今の帝国は《鉄血宰相》が舵取りをしているからな。皇族よりも宰相の方を信頼しているからな」

「内戦時は死を偽装して、秘密裏に《貴族連合》の参謀だったルーファス・アルバレアと協力して、内戦を終結。その後にクロスベルを無血占領したりと数多く実績を叩き出しているからね」

 

 サラの言葉にラウラとフィーは複雑そうに顔を歪ませて沈黙するのだった。

 

「それでは父上は何の為に……」

「オスカーさん?」

 

 小声で何かを悔やんであるオスカーを心配そうにエリゼが見つめていると、トヴァルがラウラとフィーの方に顔を向ける。

 

「フィー、ラウラ嬢さんも。よかったら、後輩たちと一緒に行動したらどうだ?」

「トヴァル殿?」

 

 突然の提案にラウラたちも疑問を浮かべたが、トヴァルがチラッとオスカーとシャーリィに視線を向ける。

 

「実習だから手を貸すわけにはいかねぇけど、先輩として、色々とアドバイスはできるだろう? それに猟兵の件もあるしな。万が一のこともある」

 

 トヴァルの言い分に違和感を覚える二人だったが、彼が向いている視線に気づいて事情を察したのか、二人は快く承諾した。

 

「うむ。そういうことならば、仕方あるまい」

「こっちも別にいいよ。エリゼたちがいいっていうなら」

 

 先輩二人の視線を受けて、エリゼはどうしようかと悩んでいると、こっそりとカグヤが助言する。

 

「ここは一緒に来てもらった方がいいと思います。ひょっとしたら、オスカーさんたちの件で何かいい案が思いつくかもしれません」

「そう……ですね。それではよろしくお願いします」

 

 方針が決まり、エリゼたちはラウラとフィーを連れて、協会支部はから出ていった。それを見送ったトヴァルにサラが肘をつく。

 

「もっともらしい事、言っちゃって。《血染め》がいるんだから、別に護衛の心配なんてないでしょう」

「まぁな。あいつらを送ったのは別の理由だ。お前さんも勘付いているだろう、元教官殿?」

「……まぁね」

 

 トヴァルだけでなく、サラもオスカーとシャーリィの確執については薄々、気づいていた。そして、ラウラとフィーがその問題解決にもっとも適任であるということも。

 

「ま、先輩としてどうやって後輩たちを導いていくのか、お手並み拝見といくわよ」

「猟兵の件もあるからな。上手くいくことを祈りますかね」

 

 そう言ってエリゼたちの事をラウラたちに任せて、サラたちは自分たちの仕事に行動を移すのだった。

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