英雄伝説 閃の軌跡2.5 ~Trajectory of mavericks~ 作:魔ギア
アルフィンの後を追う形で遅れて出発するエリゼ。彼女はオランピアとリアムの二人を引き連れて、ダンジョンの奥へと進んでいった。
「分かれ道ですね」
そして、三人は最初の分かれ道に辿り着いた。
「どちらに向かいます?」
「手掛かりがないので、一つずつ潰すしかないかと」
エリゼとオランピアがどちらに向かおうかと相談しあう。そんな中、二人の後ろにいたリアムがいつの間にか魔導杖を取り出して、ぶつぶつと何かを呟いていた。
「……うん、わかった」
「リアムさん?」
リアムの様子に気づいたエリゼが声をかける。リアムは魔導杖をしまって右の方に指を指した。
「こちらに向かいましょう」
「え、どうしてですか?」
「先程調べて、こちらの方から風が来ているみたいです」
「そんなことがわかるのですか?」
驚いた目でオランピアはリアムを見る。特に風が吹いた音はなく、肌を撫でた感覚もなかった。
「オランピアさん、ここはリアムさんを信じましょう」
「……そうですね。リアムさん、お願いできますか?」
「わかりました。あ、それとボクのことはリアムでいいです」
リアムが先陣を切り、三人は右の道へと進んでいった。
「姫様はこの先に行っているのでしょうか……」
「もしかしたら、反対側の方に行っているかもしれませんね」
オランピアたち二人がそんな話をしていると、腰に付けていたリアムの魔導杖が淡く光り出す。
「! 二人とも、敵が来ます」
「え……、そんな姿はどこにも……」
エリゼが不思議そうに周辺を見渡すと、上の方から翼を生やした猫型魔獣――飛び猫が降りてきた。
「っ、本当にいた!」
「仕掛けます!」
驚くエリゼに対してオランピアは魔獣に向かって跳び出す。彼女は腰に収めた
一体目を切り裂き、オランピアは魔獣の群れの中心に着地した。魔獣たちが彼女を捉えると包囲しようと取り囲む。
「壱の型……」
魔獣たちが一斉に襲い掛かった瞬間、オランピアは腰に添えた太刀を振り抜いた。
「螺旋撃!」
炎を纏った太刀は渦を描き、飛び猫は炎の竜巻に巻き込まれ、切り刻まれる。
「あの技は……」
エリゼはオランピアが使った技に目を開く。それは自分の兄が修めている剣術《八葉一刀流》の技だった。
「エリゼさん、ボクたちも!」
「っ、えぇ! 参りましょう」
リアムに呼ばれて、我に返ったエリゼは細剣を抜いて前に出る。リアムはその場で魔導杖を掲げる。
「《ARCUS》駆動!」
リアムを囲うように青い陣が現れる。アーツを放つ準備を整えている間、エリゼは魔獣たちを細剣で払い、オランピアの下へと駆け寄る。
「オランピアさん!」
「エリゼさん、背中をお願いします!」
「はい!」
辿り着いたエリゼはオランピアの背中に自分の背中を合わせる。お互いに正面から迫って来る魔獣を受け持ちながら、お互いの後ろを守り合う。
「避けて!」
準備を終えたリアムの合図に二人は魔獣の包囲網を抜ける。一か所に集まる魔獣の群れに向けて、リアムはアーツを放つ。
「ネメシスアロー!」
魔導杖の先端から雷がほとばしり、光線となって魔獣たちを飲み込んだ。
「ふぅ……、何とかなりました」
消滅を確認して一戦を終えたとわかったエリゼは緊張が取れたのか、その場で息を吐く。オランピアは軽く辺りを見回して敵がいないとわかると太刀を収めた。
「お見事です。エリゼさん」
「ありがとうございます。あの、オランピアさんが出した先程の技。もしかして《八葉一刀流》ですか?」
「はい。よく知っていますね」
「兄が《八葉一刀流》を修めているのです。もしかして、オランピアさんもユン老師から?」
「……いいえ。私はそのお弟子さんから習いました。元々は小太刀を使っていたのですが、成長して大きくなったので、太刀に変えたんです」
ほんの一瞬、目を伏せて太刀に手を添えるオランピア。だが、エリゼはその様子に気づくことなく、彼女の話に耳を傾けていた。そこに離れていたリアムが歩み寄る。
「二人とも、怪我はありませんか?」
「はい。援護ありがとうございます」
「助かりました。それにしても、変わった魔導杖ですね」
エリゼは不思議そうな顔でリアムが持つ魔導杖に視線を向ける。
本来、魔導杖はアーツを放つ球体が一つ取り付いているのだが、リアムの魔導杖は先端部分と中央部分に備え付けられており、球体が二つ存在していた。
エリゼが今まで魔導杖を何度も見てきたが、ここまで異質な形状をしたものは初めてだった。
「これはボクが作った魔導杖です」
「え……、作った?」
「はい。財団に入ってから、ボク一人で考案して空いた時間に組み上げた魔導杖です。名前は《TOP》と言います」
「「《TOP》?」」
首を傾げるエリゼたちは魔導杖を見つめる。すると、中央の球体が光り出す。
『はじめまして。《TOP》と言います』
「しゃ、しゃべった?!」
突如、魔導杖から幼い女性の声が響いた。流暢に発せられた言葉に反応して、エリゼは思わず声を上げてしまう。
「こ、これは何ですか?」
「人工知能。簡単に言うと導力ネットを使ったプログラムで作られた人格です。《TOP》は周囲の光や音から情報を集めて、思考し、そこから最適な答えを導き出すことができるんです」
「それって、人と同じように考えられるということですか?」
オランピアの問いにリアムは頷いた。
人工的に人格を作り出すリアムの技術力。先月まで《エプスタイン財団》にいたという話は聞いていたが、ここまでの腕を持っていることに驚きを隠せない様子だった。
「悪くない戦いだったな」
その時、後ろから悠々と歩いてくる長身パーマの男が歩いてきた。その姿に真っ先に反応したのは、やはりエリゼだった。
「ロドルフォさん!」
ロドルフォはエリゼに一度、視線を向ける。
「エリゼ。見たところ、怪我はなさそうだな」
「え、えぇ。ロドルフォさんもご無事だったのですね」
「あの程度の魔獣に遅れは取らん」
「その態度もお変わりないようで」
素っ気ない態度を見せるロドルフォの姿に苦笑いをするエリゼだった。
「二人はお知り合いなのですか」
「は、はい。私の父が治めているユミルで暮らしている……」
「ロドルフォ・ソレイユだ」
オランピアの質問にエリゼは彼の紹介も含めて説明しようとしたが、ロドルフォが彼女よりも先に名乗ってしまう。出鼻をくじかれてしまい、その場で固まってしまったエリゼはヒクヒクと頬を動かしていた。
「え、えっと、オランピア・エルピスと言います」
「リアム・H・ルサージュです。よろしく、ロドルフォさん」
「あぁ。それより、お前の魔導杖」
「え、何ですか?」
「人工知能と言ったか。先程の索敵機能や、最初の風の感知もそいつがやったのか?」
「あ、はい。《TOP》は周囲の熱源を探知して、周囲の魔獣を索敵することができるんです。微弱な風にも感知できるようにプログラミングされているんです」
「それを一から作ったとはな。よほど機械に強いんだな」
「はい、先月まで《エプスタイン財団》にいましたので」
「ちょっと待ってください」
ロドルフォとリアムの会話が弾む中、エリゼが聞き捨てならない内容を耳にして、会話に割り込む。
「ロドルフォさん。もしかして、最初から見ていたんですか? リアムさんの魔導杖……《TOP》さんの機能を知っていたみたいですけど」
「あぁ」
「しかも、私たちがリアムさんを頼りにこの道を進んだことも知っていましたね。先程、私たちが歩いてきた方から来ましたし、どこから見ていたんですか?」
「最初の分かれ道だ。奥に辿り着いた後、来た道を戻って来たんだ。それから左の道の方でお前たちが来るのをずっと待っていた。やばくなったら介入しようと思ったが、必要なかったみたいだな」
「必要なかったじゃありません! 少しは手伝おうとは思わなかったのですか?!」
「俺の実力は知っているだろう? 俺が加われば、お前たちのためにならないと思って自重したのだが……」
「それとこれとは……」
「ま、まぁまぁ。もう終わったんですから、そのへんで」
興奮するエリゼを抑えるオランピア。対して、ロドルフォはあいかわらず毅然とした態度でその場に立っていた。
「あの、ロドルフォさん。ここにアルフィンさんたちとは会っていませんか?」
オランピアがアルフィンたちの行方を先に奥へと進んでいたロドルフォに尋ねる。
「いや、見ていない。戻る際にあの不良みたいな男なら見たが」
「あ、あの人ですか……」
入り口でのことを思い出してしまい、エリゼは恥ずかしそうに頬を赤らめる。
「その人は今どこに?」
「この奥だ。俺が戻っていた時は魔獣の群れに囲まれていたな」
「な、大変じゃないですか! 今すぐに助けに行きましょう!」
焦った顔でエリゼは奥へと突き進み、それにリアムとオランピアが慌てて付いて行く。ロドルフォは肩を下ろして、三人の後を追うのだった。
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爆音を遠くから耳にしたエリゼたち。戦いが激化していると理解したエリゼたちは、さらに足を速くして奥へと進む。
広間に辿り着き、そこで見たのは、
「オラァ!」
ドンッ、という音と共に不良男が放つ拳が飛び猫を壁まで吹き飛ばした。壁に叩きつけられた飛び猫は小さな悲鳴を上げて消滅する。
「ダァアア!!」
背後から迫り来る飛び猫に対して、男はその場で半回転して回し蹴りを放った。足がめり込み、飛び猫は苦しそうな声を上げて地面に叩きつけられた。
「す、すごい……」
エリゼは不良男の無双ぶりに言葉を失っていた。助太刀など一切不要。男は魔獣に取り囲まれながらも、たった一人で圧倒していた。
「グンターさんの《崑崙流》でも、ジンさんの《泰斗流》でもなさそうですね」
「《TOP》、どうかな?」
『データベースを検索しましたが、彼の動きは東方三大拳法のどれにも当てはまりません。おそらく、彼の我流だと思います』
「我流であそこまで……」
兄のリィンほどではないが、武に通じているエリゼから見ても、不良男の動きは見事なものだ。おそらく武術を嗜んでいたら《中伝》に当たるレベルだろう。
「取ったぁあ!」
男はスライム型の魔獣――ドローメの頭に生えている触覚を掴んで、力いっぱい自分の方へと引っ張った。
「オォラァァァァ!」
すると、男は鞭のようにドローメを振り回して、取り囲む魔獣たちにドローメをぶつけるのだった。
「魔獣を武器に?!」
「無茶苦茶だ……」
武の心得などあったものではない。もはや喧嘩といってもいい男の戦い方に全員が唖然とする。
「ラストォ!」
取り囲んだ魔獣を全て倒した男は、最後に残った、鞭として振り回したドローメを地面に思いっきり叩きつけた。強い衝撃に魔獣は原形を保てなくなったのか、そのまま崩れて消滅していった。
「フゥーー、……おい」
振り向いて鋭い目でエリゼたちを睨みつける男。その姿には思わず息を呑むが、その場にいても仕方がないので男の方へと向かった。
「お見事でした。お強いのですね」
「フン、あんな雑魚ども、肩慣らしにもならねぇよ」
「そ、そうですか……。えっと、申し遅れました。エリゼ・シュバルツァーと申します」
「オランピア・エルピスです」
「リアム・H・ルサージュといいます」
「そうか。……で、後ろのテメェは?」
男はエリゼたちを一瞥した後、後ろから遅れてやってくるロドルフォを睨みつけるが、それに対して、ロドルフォも男を睨み返すのだった。
「ロドルフォさんです! ロドルフォ・ソレイユと言うんです。あ、貴方のお名前は何でしょうか」
険悪な雰囲気を肌で感じ取ったエリゼは二人の間を割り込む。男はロドルフォからエリゼへと視線を変える。男の睨みにいまだに慣れないエリゼは少し震えるが、男はすぐに視線を外した。
「メイだ。メイ・ルグィン。ラマール州から来た」
男――メイの名前、いや、姓名にエリゼは目を開く。
「ルグィンというと、まさかルグィン伯爵家の?」
「一応、当主の弟って立場になっている」
「当主というと……、オ、オーレリア将軍の?!」
メイの口から出てきた内容にエリゼは大声を上げてしまう。なぜなら、エリゼの口から出たルグィン伯爵家の当主は、武を尊ぶエレボニア帝国ならば一度は耳にしたことがある人物だったからだ。
《黄金の羅刹》オーレリア・ルグィン。
ラマール州の領邦軍を束ねる女当主であり、帝国二大剣術である《ヴァンダール流》と《アルゼイド流》の二つを免許皆伝した剣豪。《雷神》、そして《光の剣匠》にも並ぶ帝国最強の剣士の一人だ。
「まさか、オーレリア将軍に弟がいらしていたなんて。でも、剣らしきものが見当たりませんね」
「俺は俺だ。俺の武器はこいつだ」
拳を前に突き出すメイ。風を切る音と共に、放たれた風圧にエリゼたちの髪がなびいた。
「しかし、メイか……。女みたいな名前だな」
「ちょっ! ロドルフォさん!」
「別にいい。もう慣れた。……で、俺に何のようだ? ないんだったら、俺は先に行くぞ」
メイはポケットに手を突っ込んで、ケースを取り出して、その中から葉巻のようなものを一本取り出した。
「ちょっと! 何をやっているんですか!?」
口に咥えようとする前にエリゼはメイから葉巻を奪い取る。
「……何しやがる」
「何がじゃありません! 未成年が喫煙なんて!」
メイは不快そうに眉を潜める。その後、彼は深くため息を吐いて、すぐさまもう一本取り出して口に咥える。再び没収しようと前に出るエリゼだったが、なんとメイは咥えた葉巻を口の中へと吸い込み、ゴリゴリと音を出しながら噛み砕いたのだ。
その様子に固まるエリゼだったが、メイが持つケースを覗いて気が付いた。
ケースの表紙にデカデカと「ココアシガレット」と書かれてあった。
「あいにく、葉巻なんて一回も吸ったことはねぇよ」
そう言って、メイは再び、葉巻型のココアシガレットを咥えるのだった。
「す、すみません。間違えてしまって……」
「気にすんな。もう慣れっこだ。……そいつはやる」
下を向いてメイから奪い取ったココアシガレットをリスのように静かに食べるエリゼ。勘違いのあまり恥ずかしくて俯いてしまう彼女にメイはさり気なく気遣いを送るが、そのまま彼女を見続ける彼の様子にエリゼは戸惑いを見せる。
「あの……何か?」
「お前は何でここに来た」
「え?」
「お前も、あのお姫様もどちらかといえば、帝都にあるお嬢様学校の方だろう。何でこの学院に入ったんだ?」
「それは……」
「言っておくが、俺は何もしねぇ弱者を守る趣味はない。自分の身は自分で守れ。それができないなら、とっとやめて、お嬢様学校に行きな」
「メイさん、その言い方は……」
リアムがメイの物言いに詰め寄ろうとするが、その前にエリゼが手を前に出して彼を制止する。
「メイさん。私も姫様も生半可な気持ちでここに来たつもりはありません。私たちは確固たる決意を持ってここに来ました」
前に出て、メイを見上げるエリゼ。
思い出すのは去年の内戦。
燃え広がる故郷と血を流して倒れた父の姿。
獣のごとく暴走する兄と、天に向かって自分に手を差し伸べる兄の姿。
あの時、もしも自分にもっと力があれば、何かが変わっていたのかもしれない。
「もう弱いままの自分は嫌なんです。そんな自分を変えるために、私はここに来ました」
「お前が思っているほど、甘い道じゃねぇぞ」
「望むところです。私は決して諦めません」
睨み続けるメイを逆に睨み返すエリゼ。その様子をオランピアたちは見守り続ける。
「……ふんっ」
すると、メイは踵を返して、奥へと向かうのだった。
「あの……」
「そこまで言うなら、貫いて見せろ。その意志が本物なら、力を貸してやる」
そう言い残して、メイは奥へと消えていった。その姿に呆然とするエリゼだったが、ロドルフォは口角を上げて、彼女の肩を叩いた。
「お前の強さを認めたということだ」
「そう、なのでしょうか?」
「きっとそうだと思います」
オランピアがエリゼに近寄り、彼女に向かって強く頷いた。
「メイさんは何もしない弱者を守る趣味はないと言っていました。ですが、エリゼさんはその立場に甘えずに戦う道を選びました。たぶん、先程の発言もエリゼさんを試すものだったんだと思います」
エリゼは前を向いて、すでにいないメイが進んだ道を見据える。見た目から素行の悪い不良と思っていたが、根はそうではないのだと、エリゼは密かに感心するのだった。
「それよりも先に進むぞ。あと少しで終点だ」
「どうやらボクたちが先のようだね」
「そうみたいですね。アルフィンさんたちも後で追いついてくるでしょう」
「えぇ、メイさんと合流して、先に進みましょう」
その後、エリゼたちは奥へと進んだメイと合流して、最奥部を目指すのだった。