英雄伝説 閃の軌跡2.5 ~Trajectory of mavericks~ 作:魔ギア
焦げた地面だけが残り、完全に消滅した魔煌兵。もうその姿がいないにもかかわらず、アルフィンたちは魔煌兵がいた場所をただでじっと見つめて固まっていた。
「や……やったの?」
「……周囲の霊力が安定している。完全に消滅したみたいだね」
不安そうに周囲を探るリアムにウィリアムが答える。その言葉を聞き、エリゼはその場で座り込んでしまう。
「あ、あれ? なんだか、身体が……」
「大丈夫ですか?」
緊張のあまり身体がいつもよりも力んでいたようだ。
座ったまま動けないエリゼに手を差し伸べるオランピア。まだ足がふらつくが、何とか立ち上がったエリゼは手を胸に置いて、深呼吸を繰り返す。
「すみません、オランピアさん」
「緊張の糸が切れたんだと思います。もう大丈夫ですか?」
「えぇ、何とか。オランピアさんの方は大丈夫なんですか?」
「はい。こういったことは何度も経験したことがありますので」
「エリゼ!」
ドンッと誰かがエリゼに向かって勢いよく飛びつき、強く抱きしめてきた。言われるまでもなく、アルフィンだった。
「ひ、姫様!」
「やりましたわ、エリゼ! 私たち、勝ったんですよ!」
「わ、わかりましたから、離れてください。その、皆さんが見ています」
周りを見ると微笑ましそうに見つめてくる視線が集まっており、それに気づいたアルフィンはすぐさま、エリゼから離れた。
「ご、ごめんなさい、エリゼ。少しはしたなかったわ」
「そ、そんなことはありませんよ、姫様。勝ったのは私も嬉しいですから」
「フフフ……」
二人のやり取りにくすくすと笑うオランピア。そんな彼女たちの下にロドルフォたちが集まる。
「さっきの戦い、妙な感覚が走ったな」
ロドルフォは先程の魔煌兵との戦闘を思い返す。それに対してカグヤも同調する。
「そうですね。何というか、皆さんの行動がわかったような……」
「シャーリィも感じたね。おかげでどう動けばいいのか、はっきりわかったけど」
戦いで感じた違和感はここにいる全員が感じ取っていた。そこでオスカーがあることを思い出した。
「そういえば、戦う前に《ARCUSⅡ》が光っていたような……」
「そういえば、そうだったね」
オスカーの言葉にウィリアムも思い出す。メイ《ARCUSⅡ》を一瞥した後、隣にいるリアムに視線を向ける。
「お前、何か知ってんのか?」
「はい。と言っても、僕もこの目で見るのは初めてです。たぶん、《ARCUS》に搭載されている機能だと思います。確か名称は……」
「《戦術リンク》だ」
リアムが何かを言う前に、エリゼたちから少し離れたところに立っていたリィンが彼女たちに歩み寄る。
「《ARCUS》に搭載された機能《戦術リンク》。《ARCUS》を経由して、使用者同士の感覚を共有することで高度な連携を可能にした機能だ」
「へぇ、便利な機能だね。つまり、これがあれば、より高度な戦術も簡単にできちゃうってわけか。さすがは軍事大国エレボニアだね」
猟兵であるシャーリィは興味深そうに、手でぶら下げる《ARCUSⅡ》を眺める。
「そんなことよりも、さっきのあれは何だ?」
全員が《ARCUSⅡ》に興味を持つ中、メイだけがリィンを睨みつけていた。
「あのデカブツは事故なのか? それとも、今回のオリエンテーリングの一環か? あれはどう見ても、素人がどうこうできるもんじゃねぇだろう」
「それは……」
「それについては、俺の方から説明する」
階段の方から聞こえてきた声に全員が顔を上げる。そこには赤い髪を揺らしながらゆっくりと降りてくるグランの姿があった。
「本来ならば、あそこに設置されていたガーゴイルが相手になるはずだった。戦力は素人一人で倒すのは厳しいが《戦術リンク》を駆使すれば、難しいことではない」
「あの壊れた石像はガーゴイルだったのですか……」
アルフィンたちは広場で最初に見た崩れた石像に振り向いた。
「魔煌兵については、こちらも想定外の事態だ。一週間、何か異変がないか調査をしたが、特に何も異常はなかった。問題ないと判断して今日を迎えたが、まさか当日になって起きるなんてな。それに関しては、こちらの不手際だ。申し訳なかった」
「……別にいい。ガーゴイル程度じゃ物足りなかったと思うからな」
メイはそれ以上の言及はしなかった。それを見たリィンはアルフィンたちから離れてグランの隣に立つ。グランは一度、リィンを見た後、アルフィンたち新入生たちに視線を向ける。
「去年、発足された特科クラスⅦ組は《ARCUS》を運用するため、それに適合した者たちが集まったクラスだ。そして、今年もその発展型である《ARCUSⅡ》との適合率が高い、君たち十名が選抜された。貴族と平民でわかれていないのはそれが理由だ。だが、貴族クラスと平民クラスとは違う特別なカリキュラムが組まれており、特科クラスⅦ組は他のクラスよりもハードなカリキュラムとなっている」
「特別なカリキュラムだと?」
「去年、リィンさんたちが各地を回った《特別実習》のことですね」
眉を潜めるオスカーにアルフィンが横から補足する。
「帝国は去年の内戦をきっかけに緊張状態が一気に高まった。一見、平和そうに見える帝国もその中身は思っている以上に混沌に満ちている。おそらく、去年の《特別実習》よりもハードなものになるだろう。それを承知の上でⅦ組に参加するかどうか、今、ここで決めてもらう」
グランの目つきが鋭くなる。それにアルフィンたちの何人かは息を呑む。
「参加するかどうかは自由だ。だが、生半可な覚悟や、やる気のない者を参加させるほど甘くはない。覚悟がある者だけ名乗りを上げろ。ちなみに拒否した者は本来所属するクラスに行ってもらう」
それにアルフィンたちは互いに顔を見合わせる。グランとリィンはそんな彼女たちの様子をただ静かに見守るのだった。
沈黙が続く中、一人の少女が前に出る。
「アルフィン・ライゼ・アルノール。特科クラスⅦ組に参加致します」
エレボニア帝国皇女、アルフィンだった。
「殿下……」
「覚悟はあるんだな」
「はい。そのために来ましたから」
リィンとグランの視線にアルフィンは臆さずに見つめ返す。
「内戦を通して、この国の歪さをこの目で見てきました。そして、今の私にはそれを変えられる力を持っていないということも思い知らされました」
「殿下、そのようなことはありません。殿下は内戦で俺たち《紅き翼》が最大限に活動できるように尽力してくださいました」
「ありがとうございます、リィンさん。ですが、私はそう感じたのです。リィンさんたちを戦場に立たせて、私は安全地帯でただ見守ることしかできませんでした。本来ならばセドリックを、弟を助けるのは私の務めだったはずなのに」
アルフィンの双子の弟、セドリック・ライゼ・アルノール。本来なら、アルフィンと同じく、今年にトールズを入学するはずだったが、去年の内戦で心身を崩してしまい、入学を見送られることになった。
「弟を助けられる力があれば、最悪の事態を避けられたかもしれない。何よりもリィンさんたちの大切な"仲間"が亡くなることはなかったかもしれません」
「っ……」
その言葉にリィンは俯き黙ってしまった。
『お前らは……前を……歩いて行け……ただひたすらに……ひたむきに……前へ……』
仲間が自分たちに残した最後の言葉がリィンの脳裏に過った。
「ただ後ろで見守るだけの存在にはなりたくありません。そんな自分を変えるためにここに来ました。そして、このクラスならば、ここにいる皆さんとならば変われると、先程の戦いで確信したのです」
アルフィンの決意に誰もが押し黙る。その時、一人の少女がアルフィンの隣に並び立った。
「エリゼ・シュバルツァー。参加させていただきます」
「エリゼ……」
振り向くアルフィンに優しく微笑むエリゼはグランとリィンに向き直る。
「私も姫様と同じ意見です。私は今よりも強くなりたい。そのためならば、どんな苦難も乗り越えて見せます」
彼女に続いて、他の者たちも前に出る。
「オスカー・シュライデン、参加させてもらう。殿下の護衛はもちろん、《シュライデン流》を極めるにはまさに絶好の場所。ここを逃さない手はない」
「カグヤ・アトソン、私も参加いたします。ここならより刺激的な体験ができると思いますので」
「シャーリィは仕事もあるけど、面白そうメンツばかりだから、参加するよ」
「これで半分か……。他はどうだ?」
グランは残った五人に顔を向ける。すると二人の男が同時に前に出た。
「メイ・ルグィン、参加する」
「ロドルフォ・ソレイユ、参加させてもらう」
同じタイミングで参加表明する二人。言葉が重なり、両者は互いを睨みつける。
「二人とも落ち着け。それで参加理由はなんだ?」
「俺は別に普通のクラスでも構わないが、……そこにいる朴念仁を変えたⅦ組とやらに興味がわいた」
「朴念仁って、俺のことか?」
「他に誰がいる」
首を傾げるリィンを見て、呆れるようにため息を吐くロドルフォ。彼だけでなく、アルフィンとエリゼも密かにため息を吐いていた。
「メイ、君はどうなんだ?」
「そいつと被るのは癪だが、あの戦いを乗り越えたトールズ。それを率いたⅦ組に興味がある。……あの《放蕩皇子》が一体、何を期待しているのかも含めてな」
(《放蕩皇子》って……)
(お兄様と何か関わりが?)
メイの言動にエリゼとアルフィンが疑問に思う中、今度はウィリアムが前に出た。
「僕も参加します。僕もエマ姉さんが参加していたⅦ組に興味があります」
「エマ姉さんって……、まさか君は委員長の……」
驚いた目でウィリアムを見つめるリィン。それに気づいたウィリアムは静かに頷いた。
「エマ姉さんとセリーヌが言っていました。リィン先輩は無茶をするから、目を離さないでねと」
「うっ……」
図星なのか、リィンは頬を書きながら目線を逸らしてしまう。
「リアム・H・ルサージュ、参加します。《ARCUSⅡ》に興味がありますし、ここにいる人たちなら上手くやっていけそうなので」
「そうか、最後は……」
グラン、リィン、そして、アルフィンたちは最後の一人、オランピアに視線を集める。
「君はどうするんだ、オランピア」
オランピアはそっと自分の首に付いている、星の刺繡が入ったチョーカーをそっと手で撫でる。しばらく、目を瞑って考え込む彼女は、ゆっくりと口を開いた。
「……参加します」
はっきりとした口調で参加表明する。
「私もアルフィンさんやエリゼさんと同様に変わるために、そして、強くなるために来ました。胸を張れる自分になるために精進します。……あの人のために」
「……そうか」
全員の参加を確認したグランは頷き、アルフィンたち新入生たちと向き合う。
「それではここに、特科クラスⅦ組の発足を宣言する。全員、日々精進して、有意義な学院生活を過ごしてくれ」
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エレボニア帝国 首都ヘイムダル バルフレイム宮
日が落ち、赤い夕陽が帝都を覆いつくす。
その光景をある一室から悠然と眺める一人の男がいた。
「今日の夕日は一段と赤いな。新たな門出を祝福しているのか、それとも次なる波乱の前兆か」
どこか楽しそうに口角を上げる強面の男。そこにドアをノックする音が響き渡る。
「閣下。アランドール少佐がお見えです」
「入りたまえ」
男が許可すると入り口から赤髪の男が入ってきた。
「よぉ、元気だったか、オッサン」
赤髪の男――レクター・アランドールが軽薄な態度で男に近づく。男はレクターの態度に咎めるようなことはしずに、振り向いて彼の報告を待つ。
「トールズの入学式が終わったぜ。ついでに新しいⅦ組も発足したみたいだ」
「そうか。アルフィン殿下は?」
「Ⅶ組に参加している。シュバルツァーの妹と一緒にな。それと、意外な奴らも参加していたぜ」
レクターはデスクに資料を広げる。そこに書かれているのはアルフィンたちⅦ組のプロフィールだった。レクターとデスク越しで向き合っていた男は、資料に目を通して、オランピアとシャーリィのプロフィールに目を止める。
「ほぉ。彼女たちも参加しているのか」
「あぁ。一人は結社に入ると思っていたんだがな。もう一人の方も法国で動けないあいつと一緒に行動していると思ったが、こいつは予想外だったぜ」
「フフフ……、それに他にも面白いメンツが揃っているようだ」
「……何か楽しそうだな、オッサン」
他の者たちのプロフィールを見て、笑みをさらに深める男にレクターは眉を潜める。
「レクター。この者たちには注意するようにな」
「は? 何だよ、いきなり」
「この者たちは、おそらく指し手ですら制御できない荒くれ者の駒たちだ。気を抜けば、噛まれるのはこちらかもしれんな」
「……あんたがそこまで言うとはな」
目を開いて男を見つめるレクター。それを受け流して男――ギリアス・オズボーンは再び、夕日を眺める。
「オリヴァルト皇子が始めた特科クラスⅦ組。その次の世代たる二代目がこの"激動の時代"をどう潜り抜けるのか、見定めさせてもらおう」
最後に発売前日の水曜日に軽いキャラ紹介を投稿します。
そちらの方もどうかお楽しみにしてください。