英雄伝説 閃の軌跡2.5 ~Trajectory of mavericks~ 作:魔ギア
少しスランプ気味で金の軌跡よりも更新は遅いですが、完結できるように頑張ります。
それでは、第一章、ご覧ください!
第七話 クラブ活動
入学式から二週間の時が過ぎた。
本年度に《トールズ士官学院》を入学した新入生は、それぞれ用意された学生寮に泊まり、忙しくも充実な日々を過ごしていた。
「ふん、ふん、ふ~ん♪」
学院から遠く離れたトリスタ駅の隣に建てられた第三学生寮。その三階のとある一室でアルフィンは鏡の前に立っていた。
「うん、バッチリですね」
髪を整えて、身嗜みを確認したアルフィンは満足そうに笑みを浮かべる。
「淑女たるもの身嗜みは大切に、ですね」
昨年まで通っていた女学院での教訓を思い出しながら、アルフィンは部屋を出るのだった。
「姫様」
アルフィンが出る同じタイミングで向かいの部屋のドアが開いた。自分と同じく赤い制服を着ていたエリゼが声をかけてきた。
「おはよう、エリゼ。あなたも今から?」
「はい。姫様もこれから?」
「えぇ。よかったら一緒に行きませんか?」
「お供します」
二人は階段を下りて、学生寮のエントランスへと向かう。
「あら、オランピアさん?」
エントランスに着くとそこにはオランピアの姿があった。彼女はエントランスに設置されていたポストの前で佇んでおり、何やら下を向いていた。
「オランピアさん?」
「ひゃっ! あ、アルフィンさん?!」
アルフィンたちに気づいたオランピアは慌てて手に持っていたものを後ろに隠して、振り返る。
「い、いらしてたんですか?」
「はい。今から出ようと思っていましたが……」
エリゼは咄嗟に彼女が隠したものに思わず目がいってしまう。
「誰かからの手紙ですか?」
オランピアの手には綺麗に折りたたまれていた手紙があった。
「法国にいる知り合いからの手紙です」
「お知り合いと言うと、もしかして、一緒に旅をしていたという?」
「はい。ただの近況報告のようなものです」
オランピアは手紙を制服のポケットへとしまった。
「これから学院に行くんですよね? よかったら、一緒に行きませんか?」
「えぇ、かまいませんよ。エリゼもいいわね」
「もちろんです」
学生寮から出たアルフィンたち三人はトリスタの町を歩く。
入学式の時に咲いていた満開のライノの花はすでに大半は散っていたが、まだ少しだけ残っていた花は今日も元気よく咲いていた。
「そういえば、お二人は学院生活には慣れましたか?」
広場を抜けたところでアルフィンが二人に話しかける。その話にエリゼは少し苦い顔をしてしまう。
「そうですね。女学院とは違うと覚悟していましたが、ここまで忙しいとは思いませんでした」
「女学院というと、帝都にあるという《アストライア女学院》のことですか?」
オランピアの質問にアルフィンは目を丸くする。
「その通りですね。オランピアさん、よくご存じですね」
「ここに来る前に教えてくれた人がいたんです。私は学校いうものは初めてですが、そんなに違うんですか?」
エリゼは頷き、過去を思い返しながら話し始める。
「女学院では礼儀作法と言った淑女としての心得を学ぶことが多かったので、運動系はほとんどありませんでした」
「そうなのですか……。確かにトールズとは気色が違いますね。もっとも、士官学院というから実技が多いと思っていましたが、まさか座学の方があそこまで高いとは思いませんでした」
「そうですね。私も姫様もアストライアにいた頃はそれなりに成績を収めていたのですが。油断しているとすぐに置いてかれてしまいますね」
「《トールズ士官学院》は文武両道をモットーにしていますからね。そこは協力し合って一緒に勉強するものよ、エリゼ」
教会を通り抜けて三人は三叉路へと辿り着く。足を止めたアルフィンたちは左右に続く道から来る生徒たちに目を向ける。
「貴族生徒たちが住んでいる第一学生寮と平民生徒たちが住んでいる第二学生寮」
「気になっていたのですが、どうして私たちの寮だけ遠いのですか?」
生徒たちが出て行った建物を見上げるアルフィンにオランピアは問いかける。その問いを代わりにエリゼが答える。
「兄様の話では、去年Ⅶ組が発足したのに合わせて古い空き家だったものを改装したそうです」
「学院から少し距離はありますが、雰囲気は悪くありませんので、私は嫌いではありませんよ」
「お風呂場が一人しか入れないのが、少し心残りですが……」
女性三人は小さくため息をつくと、学院からチャイムが鳴り響く。
「いけないわ! 二人とも早く行きましょう!」
アルフィンたちは慌てて学院へと向かい、慌ただしい学院生活の一日が始まるのだった。
~~~~~
士官学院はアルフィンたちの言う通り、かなりハードなカリキュラムだった。
帝国軍のエースであるナイトハルト教官、三高弟の弟子であるマカロフ教官など、帝国内で名のある人物たちからの直接指導もそうだが、一つの分野に覚える内容がとても多く、目まぐるしい時間が続いていた。
学院に通ってすでに二週間くらいは経つが、学院生活にまだ、慣れていないアルフィンたちは、休む暇もない怒涛の忙しさに翻弄されていた。
しかし、そんな彼女たちにもとうとう休みの日が訪れるのであった。
「明日は月に一度の『自由行動日』になる」
放課後。
窓から夕日の光が差し込む中、Ⅶ組の教室でグランが机に座っているアルフィンたちに語り掛ける。
「この日は厳密に言えば、休みというわけではない。だが、文字通り、自由に活動することができる日となっている。部屋で授業の復習をするのも良し。クラブ活動に参加するのも良し。何もしずに丸一日寝るのも良しだ」
最後の冗談に何人かが小さく笑う。そんな中、カグヤが静かに挙手した。
「あの、先輩方から聞いたのですが、帝都に行くこともできるのですか?」
「あぁ、問題ない。買い物やイベントの参加も自由だ。ただし、士官学院生としての自覚と規則を守るようにな」
「わかりました」
理解したカグヤは頷いて手を下ろした。グランは他に質問がないか周りを見渡すと、ロドルフォが腕を組んで唸っていた。
「どうした、ロドルフォ。体調が優れないのか」
「違う。帝都に行くかどうか悩んでいるだけだ」
「え、ロドルフォさん、帝都に行くのですか?」
隣に座っているオランピアは彼に視線を送る。その視線にロドルフォは小さく頷いた。
「食材の下見にでも行こうかと考えている。トリスタも悪くないが、売られていないものもあるからな。ふむ、ついでにケルディックに行ってみるのもいいかもな」
「ケルディックですか?」
「あぁ。ユミルにいた頃はいつもケルディックで食材を調達していたからな」
「え? ユミルならば、ルーレの方が近くありませんか? そこまで遠出する必要があるのですか?」
話を横から聞いていたアルフィンが疑問を浮かべる。
ユミルはノルティア州にあるのに対して、ケルディックは隣のクロイツェン州にある町だ。アルフィンの言う通り、州を跨ぐほどの距離だ。
「あそこの方が品揃えが豊富だ。ルーレはどちらかと言うと、調理道具で訪れることが多い」
「ロドルフォさん、たまに《鳳翼館》で料理を作っているのですよ」
エリゼが横から入ると、その内容にオスカーは目を開いた。
「《鳳翼館》といえば、ユミルにある旅館ではないか。そこに訪れる観光客に料理を振舞っているのか?」
「はい。ロドルフォさんの料理は料理長のヴェルナーさんも認められているほどですから」
「なんか納得だな。ロドルフォが作ってくれる料理はどれもおいしいもんね」
ウィリアムの意見にロドルフォ以外の全員が頷いた。
入学してから今日まで、ロドルフォは朝、昼、夜と一日三食の料理を人数分、用意していたのだ。しかも、どれも一流の料理店に出してもおかしくない絶品の品ばかりだった。
「ま、ケルディックに行くのは自由だが、人との交流も大切にするものだ。これからトリスタで暮らすんだ。付き合いも良くした方が今後のためになるぞ」
「……ふん」
グランの言葉にロドルフォは沈黙するのだった。それに苦笑いするグランは視線を戻す。
「最後に一つ。『自由行動日』が終わった次の水曜日には『実技テスト』と本年度から組み込まれた『機甲兵教練』が行われる。全員、体調には気を付けるようにな。HRは以上だ。エリゼ委員長、挨拶を」
「はい」
「――起立、礼」
HRが終わり、何人かが教室に出ていく中、アルフィンは教室内に残っていた。彼女が座る席の周りにはエリゼとオランピアが集まっていた。
「ふぅ……。ようやく、羽を伸ばせますね」
「姫様、皇女という立場を忘れないでください。あまりだらしない姿を見せるものではありませんよ」
「まぁ、まぁエリゼさん。そんなこと言わずに」
厳しくするエリゼにオランピアが中に入る。
「アルフィンさんも疲れる時はあります。皇女としての立場も大切だと思いますが、時には素の状態を出すのも悪くないと思います」
「その素のままが少し問題なのですが……」
女学院時代、さんざんアルフィンのからかいや、いたずらの被害を受けていたエリゼは懸念を感じずにはいられなかった。
「アルフィンさんはこの後、どうしますか?」
「そうですね。このまま帰るのもありだと思いますが、折角なのでクラブ活動を覗いてみようかと」
「? アルフィンさんはまだクラブに入っていないのですか?」
「えぇ、オランピアさんはすでに?」
「はい。写真部に入りました。確か、エリゼさんもどこかに入っていましたよね」
「私は水泳部に入りました。ユミルには泳ぐ場所がありませんでしたので」
エリゼとオランピア以外のⅦ組メンバーもすでに別のクラブ活動に所属していた。
「ふぅ~~、いまだにクラブ活動を決めていないのは私だけですか」
「あ、いえ。たしか一人だけまだ、入っていませんでしたね」
「え? それってどなたですか?」
「たしか……」
「おい」
三人が話を盛り上げると、離れた席に座っていた男が声を上げる。
「メイさん!」
白縹のオールバックに眼帯を付けた男、メイ・ルグィンがアルフィンたちの方を睨みつけていた。
「ど、どうしたのですか?」
「どうしたもこうしたもあるか。人がいないと思って、俺の話をしてどういうつもりだ?」
「……え?」
疑問を浮かべるアルフィンにエリゼは遠慮がちに答える。
「まだクラブ活動に入っていない最後の一人がメイさんなんです」
「あ、あ~~」
思わず声を上げるアルフィン。それに反応してメイの睨みが鋭くなる。
「……おい、何だ、その納得感は」
「あ、いえいえ! 別にそういう意味じゃ……」
「ふん。別に誤魔化さなくていい。もう慣れっこだ」
メイは引き出しから一枚の紙を取り出した。
「あいにくだが、クラブ活動は決まっている。今日から出る予定だ」
「え、そうなのですか」
アルフィンたちは差し出された紙を覗き見る。
「これは入部届ですね」
「書かれているクラブは……え?」
淑女らしからぬ声を出してしまったエリゼ。だが、彼女だけではなかった。
「これは……」
「意外……ですね」
オランピアとアルフィンは戸惑いながら、紙とメイを交互に視線を送る。それにメイはそっぽ向くのであった。
~~~~~
「何で付いてきやがる」
メイはクラブ活動をしている教室に向かっていたが、後ろを振り向いて訝しげに睨みつける。そこにはアルフィンが苦笑いを浮かべていた。ちなみにエリゼとオランピアはクラブ活動へと向かい、教室で解散した。
「私は最初に言った通り、クラブを見学するつもりだったので。まずはメイさんが参加するクラブからと。……ダメでしたか」
不安げに見つめるアルフィンにメイはため息を吐くのだった。
「……好きにしろ」
「はい♪ 好きにさせていただきます!」
メイの許可ももらい、アルフィンは彼に付いて行き、目的の場所へと辿り着く。
「それにしても意外でした。まさか、メイさんが
教室前のプレートには「音楽室」と書かれていた。
「メイさんはご実家で音楽を嗜んでいらしたんですか? たしか、オーレリア将軍はそちらの方面にも顔が広いとか」
《黄金の羅刹》と呼ばれている伯爵家の現当主であるオーレリアは剣だけでなく、音楽や美術といった分野にも精通しており、展示会にも出席しているほどだ。
「……いや、これといった縁はない……はずだ」
「はず?」
曖昧な物言いに首を傾げるアルフィンだが、メイはそれを無視してドアをノックする。
「どうぞ」
「失礼します」
ドアを開けて、二人は中に入る。そこには、部員だと思われる生徒とブロンズのロングヘアーをした女性教官が集まっていた。
「アルフィン殿下に、確かⅦ組のメイ君だったわね」
「活動中に失礼いたします。メアリー教官」
士官学院の芸術科目を担当する女性教官――メアリーは柔らかな笑みを浮かべて、二人を迎える。
「今日はどのようなご要件かしら? 確か、二人はまだ、クラブを決めていなかったと聞いていますが」
「はい。実はそのクラブのことで参りました」
アルフィンたちの会話を立ち聞きしていた生徒たちは密かに盛り上がっていた。
「アルフィン殿下が吹奏楽部に?!」
「皇女殿下と一緒に活動できるなんて!」
今年に入った新入生たちは嬉しそうに話にはしゃぎ始めた。それを注意したメアリーはアルフィンたちの方に顔を戻す。
「お話はわかりました。では、入部届をお願いします」
「はい。……メイさん」
メイはメアリーの前に移動して、彼女に入部届の紙を渡す。その光景に周りの生徒は言葉を失う。
「もしかして……」
「メイ・ルグィン。今日から吹奏楽部に入部させてもらう。……よろしくお願いします」
腰まで曲げて、頭を下げるメイ。丁寧なお辞儀に全員が目を丸くするが、メアリーは笑顔で迎え入れた。
「えぇ。吹奏楽部へようこそ、メイ君。早速だけど、何か楽器を演奏した経験があるかしら?」
「そいつは……」
メイは言葉を濁して黙ってしまった。その様子にアルフィンとメアリーは心配そうに見つめるが、
「あのような男が吹奏楽部に?」
「身の程を弁えてもらいたいものだ」
男の新入生からは蔑んだ言葉が出てきた。
「殿下じゃなくて、彼が入るの?」
「私、怖いよ……」
メイの外見に怯える女性の声が聞こえた。
そんな言葉が耳に入ったアルフィンは眉を潜ませた。
「っ、あなたた――」
「――ピアノを」
アルフィンが口を開く前にメイが先に出る。
「ピアノを……弾かせてください」
真剣な眼差しでメアリーを見つめるメイ。
数秒経ち、
「わかりました。ブリジットさん、よろしいかしら?」
「はい」
ピアノの前で座っていた吹奏楽部の部長――ブリジットが快く返事をする。
「頑張ってね」
「……うす」
ブリジットからの密かな応援をもらい、メイはピアノの前に座る。
「…………」
ピアノの前でメイは呆けた顔を浮かべていた。心ここにあらずと言わんばかりに、ただ、ピアノの鍵盤をじっと見つめていた。
「おい、いつになったら弾くんだ?」
「はやく聞かせてくれませんかね、ルグィンさん?」
白い制服を着た新入生の男二人がメイを煽る。それに眉を潜ませるアルフィンだったが、
「コラーー!! 静かにしなさい!」
緑髪の活発そうな女子生徒、吹奏楽部副部長のミントが二人に注意を呼びかけ、メイに声援を送る。
「頑張れーー! メイっち! 君ならできるよ!」
メイっちって何だ、と誰もが思う中、メイはゆっくりと鍵盤に手をかける。
「……いくぞ」
音が音楽室に広がる。メイはゆっくり、力強く鍵盤を叩く。
「これは……『星の在り処』?」
アルフィンはピアノの音色から曲名を呟く。
暖かくもどこか切ない。だけど、心を安らかにしてくれる優しい曲。
険悪だった雰囲気はいつの間にか消え失せてしまい、誰もがメイが奏でる演奏に心を惹かれていた。
「……ふぅ」
気づいた時には演奏が終わっていた。
静寂に包まれた音楽室。だが、その時、小さな拍手が鳴り響く。
「素晴らしい演奏だったわ」
メアリーは演奏を終えたメイを褒める。彼女に続いて、アルフィンも拍手を送り、気づけば全員が拍手をしていた。
「まだ、音程が外れたり、タイミングがずれている部分はあるけど、練習すればいくらでも改善できるわ」
「……うす」
照れくさいのか、そっぽ向くメイ。そこには先程までの怖いイメージはなく、新入生たちはメイの入部を受け入れるのであった。
〜〜〜〜〜
「メイさんの曲、とてもお綺麗でしたね。私、胸を打たれてしまいましたわ」
活動が終わり、音楽室から出て行ったアルフィンはメイと共に廊下を歩く。彼女はメイの演奏に感銘を覚えて、彼を絶賛していた。
「……あぁ」
しかし、メイはどこか上の空で、自身の手をじっと見つめていた。
「メイさん?」
「……ピアノを弾いたのは、あれが初めてだ」
「え、初めてなのですか?」
アルフィンは思わず、聞き返してしまう。メイが奏でた演奏はとても素人というレベルではないものだったからだ。
「ただ漠然と、指が勝手に動いたんだ。……まるで、身体がそう覚えているような……」
「メイさん?」
「……いや、何でもねぇ」
珍しくしおらしい態度を見せるメイにアルフィンは戸惑いを見せる。だが、意を決して彼に踏み込む。
「メイさん。何か悩みがあったら、お聞かせください」
「あぁ?」
「私はメイさんがどういう人なのかわかりません。まだ、二週間しか経っていないので、当たり前のことなのですが。……でも、今の私たちはⅦ組の仲間です」
力強い視線でアルフィンはメイを見上げる。
「これから学院に通う友人として、同じⅦ組の仲間として、私はあなたの力になりたいんです。押しつけがましいと思うかもしれませんが、それが私の気持ちです」
メイの姿にアルフィンはいてもたってもいられなかった。
まるで何か大切な落とし物を必死に探そうとしている姿。誰にも助けを求めずに一人で解決しようと無茶をする姿に、アルフィンは彼の力になりたいと思ったのだ。
「……ふん」
メイは速度を上げて、アルフィンから離れる。慌てて彼女は彼の後を追う。
「あの、メイさん!」
「こいつは俺の問題だ。俺自身が解決しなきゃいけねぇ問題なんだ。お前がどうこうして何とかなるものじゃねぇ」
「で、ですが……」
「お前は何のために来た? 自分を変えるためにここに来たんじゃねぇのか? 他人の気遣いをする暇があんのか?」
メイの追及にアルフィンは押し黙ってしまう。
「別にお前がそれでいいなら勝手にしろ。だが、俺には不要だ」
そのまま、メイはアルフィンの元から立ち去ろうとする。
「……それでも!」
だが、アルフィンはメイの元まで走り、彼の腕を掴む。
「それでも、力になりたいんです!」
「お前……」
「確かにあなたにおっしゃる通り、私は自分を変えたいと思って、ここに来ました。ですが、それは、他の人を放っておいていい理由にはなりません!」
掴んでいた手を離して、メイの正面に立つ。
「目の前で悩んでいる人を、困っている人を見過ごすことはできません。この手に届くのなら、私は何度でも手を差し伸べます。それで自分が変われるのだと信じて」
実際、それを証明してきた者たちがいることをアルフィンは知っていた。
自分の兄は身分を偽って他国へと渡った。危機に瀕したその国を兄は仲間と共に立ち向かった。結果、国は救われ、兄は己の指針を決めることができた。
親友の兄は自分を見つけるために士官学院に入った。仲間と共に困難に立ち向かい、絆を育ませた。結果、卑屈になっていた自分を受け入れ、内に秘める力を御することができた。
仲間と共に行動して絆を深めること。単純なことだが、それが自分を変えられるきっかけになるのだと、アルフィンは考えていたのだ。
「あの兄貴にしてこの妹あり、か……」
頭をかいて、懐からココアシガレットを取り出したメイはそれを咥えて、再び歩き出した。
「メイさん?」
「もう勝手にしやがれ。だが、俺がそんな簡単に口を開くなんて思うなよ」
「! はい! 勝手にやらせていただきます!」
満面な笑みを浮かべて、メイの隣を歩くアルフィン。メイは鬱陶しそうに顔を歪ませるが、彼女を振りほどくようなことはしなかった。
界の軌跡。色々と真相が明らかになりましたが、まだまだ謎が多いですね。
それに合わせて、金の軌跡も色々と見直す必要が出てきました。
後、定期的ではありますが、閃の軌跡に沿って、人物ノートを後書きに書き入れようと思います。
いずれ、専用のページも作ろうと思います。
人物ノート
メイ・ルグィン
①『覚えのない旋律』……本人曰く、ピアノを弾いた経験はない。だが、身体が覚えているとのこと。それに対して、メイ自身、思う所があるようだ。