英雄伝説 閃の軌跡2.5 ~Trajectory of mavericks~   作:魔ギア

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第九話 自由行動日

 早朝、ポストを開いて中身を確認するアルフィン。そこには丁寧に封がされている手紙が置かれていた。アルフィンは手紙の封を切って、中に入っていた依頼書を取り出す。

 

・食材の配達

・導力機の配達

・旧校舎の調査

 

「リィン先輩は毎回、このようなことをしていたのですね」

 

 三つの依頼書に目を通して呟くアルフィン。ほぼ雑用と言ってもいい依頼内容。それをリィンは自由行動日の日に毎回、手伝っているという。

 

「先輩のためにも、頑張らなくてはですね!」

 

 早速、アルフィンは活動を開始する。まず彼女が向かったのは、学院の学生会館。

 最初に引き受けた依頼は食材の調達。学生食堂にいるラムゼイからの依頼だった。

 

「新入生貴族の奴らはどいつもこいつも味にうるさくてな。昨日のうちに帝都からいろいろと食材を注文してきたから、それを取ってきてほしい。俺は連中らの対応で手が離せなくてな。代わりに頼むわ」

 

 そこから話を進めると、どうやらラムゼイの所だけでなく、トリスタにある喫茶店《キルシェ》と第一学生寮にも食材を届けてほしいとのこと。初端からかなりハードな依頼内容だった。

 

「では、こちらの食材は預からせていただきますね」

 

 だが、責任感のあるアルフィンは与えられた仕事を投げ捨てるようなことはしなかった。彼女は注文の食材を取りに行くために、食品と雑貨を売っている《ブランドン商店》に足を踏み入れた。

 

「これは……、結構、重たいですね」

 

 三つの袋に積まれた食材の量にアルフィンは苦い顔を浮かべる。

 運ぶとなると自分の力では一つしか持っていけない。

 

「ですが、他の依頼もありますし……」

 

 少なくとも商店を二往復しなくてはならない。だが、そんなに長く時間を取ることもできない。どうしたものかと悩んでいたその時、

 

「アルフィン、こんなところで何をしてるんだ?」

「え……」

 

 店の入り口からアルフィンを呼ぶ男性の声。聞き覚えのある声だった。

 

「ロドルフォさん」

 

 そこにいたのはアルフィンと同じⅦ組の一人、ロドルフォ・ソレイユだった。

 

 

 ~~~~~

 

 

「すみません、ロドルフォさん。手伝っていただいて」

「食材は鮮度が命だからな。特に魚といったものはすぐに冷凍する必要がある」

 

 ロドルフォは今日、クラブに参加しようとしていたが、あいにくの休みで暇を持て余していた。冷蔵庫の中身を思い出した彼は食材を買うために店に入ったが、そこにいたアルフィンの事情を知り、手伝うことにしたのだ。

 

「しかし、生徒会の手伝いか。皇女というわりには物好きな奴だな」

「ですが、意外と楽しいですよ」

 

 今、二人は《キルシェ》に食材を送り終わり、第一学生寮へと向かう途中だった。

 

「マルガリータ部長から聞いたんだが、リィンは去年、生徒会の手伝いをしていたみたいだな」

「はい。今年もやると聞いていたので、私の方からパトリック会長にお願いしたんです。少しでもリィン先輩の負担を減らしたいと思ったので」

「そうか」

 

 自分が参加している調理部の部長との会話を思い出すロドルフォは、アルフィンの歩調に合わせているが、素っ気ない反応だった。

 

「ロドルフォさんはユミルに暮らしているのですよね」

「だったら何だ?」

 

 しかし、アルフィンはロドルフォの態度にまったく気にしている様子はなかった。むしろ返事をしてくれるとわかり、積極的に彼に話を持ち込む。

 

「去年、ユミルに訪れたことがありましたが、あなたの姿を見なかったので」

「入学式の日にエリゼにも言ったが、その時は料理の見聞を広めるために外国に行っていたんだ」

「そうだったのですか。でも納得ですね。ロドルフォさんが作ってくださる料理はどれも絶品でしたから」

 

 アルフィンたちⅦ組が住む第三学生寮では掃除、洗濯を当番制でローテーションに回していが、炊事に関してはロドルフォが一人で請け負っていた。

 

「エリゼから話は聞いていましたが、あそこまで美味だったとは思いませんでした。うちで雇っている宮廷料理人にも負けないくらいです」

「皇女にそこまで言われるとは光栄だな」

 

 特に嬉しそうな素振りを見せずに淡々とした口調で言うロドルフォ。

 話がまったく弾まない。会話をしてくれるのはありがたいが、ここまで無愛想だと逆にやりづらい。今まで、そういった経験をしたことがなかったアルフィンは、今までにないタイプの相手にどう話せばいいのかと戸惑ってしまう。

 

「そ、そういえば、ロドルフォさんのご家族ってどういう方なのですか? あれほどの料理を教えてくれるのなら、さぞ素敵なご家族なのですね!」

 

 とりあえず、アルフィンは当たり障りのない、よくある話題を彼に振る。共に暮らす仲間だから、少しでも彼のことを知りたいアルフィンは積極的に話し込む。

 だが――、

 

「あんな奴らなど知ったことか」

 

 今まで顔に出さなかったロドルフォが急激に顔をしかめるのだった。

 

「俺を、そして、妹を道具としか見ていない奴らなど知らん。それに、もうとっくに女神の所に……、いや、煉獄に落ちているだろうからな」

 

 あまりに物騒な発言に固まってしまうアルフィン。どうやら、触れてはいけないものを引っかけてしまったようだ。

 

「す、すみません」

「……いや、いい。悪気がないのはわかっている」

「えっと、妹さんがいらっしゃるのですか」

「あぁ。俺のたった一人の肉親だ。あちこちを転々と移住して、最後はユミルに腰を下ろした」

「移住って……、それはつまりロドルフォさんたちは」

「ユミル生まれではない。さらに北。ノーザンブリア自治州から来た」

 

 ノーザンブリア自治州は、帝国の北にある小さな自治州。かつては公国と呼ばれていたほどの大きな国だったが、今はとある理由で大貧困に陥ってしまい、自治州になってしまった。

 

「故郷を離れて、さ迷っていた俺たちをシュバルツァー男爵閣下は快く迎え入れてくれた。男爵閣下には多大な恩がある。トールズに入った理由の一つがそれだな」

「それって男爵閣下に頼まれてトールズに? もしかして、リィン先輩とエリゼの事ですか?」

 

 アルフィンは問いかけるが、ロドルフォは口を閉ざすのだった。

 

「ロドルフォさん?」

「アルフィン、誰に対しても区別せずに話すことができるのはお前の長所だろうが、無闇矢鱈に手を差し伸べるのはやめておいた方がいい」

「えっと、それはどういうことでしょうか?」

「人助けも結構だが、全員がお前が思っているような奴とは限らない。表では善人面しているが、裏では良からぬことを考えて、周りの奴らを利用しているのがほとんどだ。それは内戦を通して知っているだろう」

「それは……」

 

 口を噤んでしまうアルフィン。彼の言う通り、そういう人物に心当たりがある。そして、それを見抜くことができなかったから、昨年の内戦が始まってしまった。

 

「今回のように自分の力では足りない仕事を押し付けられることがあるかもしれない。最悪、犯罪に加担されるケースもあり得る。皇女ならば、その者が信頼できるかどうか、それを見抜く力を養っておけ。でなきゃ、手ひどい裏切りをくらって、お前だけじゃなく、お前の周りの者にも被害が及ぶぞ」

「……お優しいのですね」

「何?」

 

 予想外の返答にロドルフォは眉を潜める。アルフィンは真っ直ぐ、ロドルフォを見つめる。

 

「ロドルフォさんがエリゼ以外の私たちと距離を取っているのは何となくわかります。本当なら、私たちのことはどうでもいいと考えているのではないですか?」

「…………」

「ですが、こうして、私を手伝ってくださったり、気を遣って助言をしてくださる。入学式の時もあなたは私たちに被害が及ばないように率先して魔煌兵に立ち向かいました。ロドルフォさんはあなた自身が思っている以上に優しい人だと思いますよ」

 

 微笑んでくるアルフィンにロドルフォは目を見開いてしまう。しばらくすると、深いため息を吐くのだった。

 

「男爵閣下といい、リィンといい、俺の周りにはお人好ししかいないのか?」

「はい?」

「何でもない。ただ愚痴だ。……忠告はしたからな」

「うふふ……。はい、ありがたく受け取りますね」

 

 その後、二人は第一学生寮、学生会館へと食料を配達して、アルフィンは最初の仕事を終える。

 ロドルフォと別れた彼女は次の依頼へと取り掛かる。依頼内容は技術練で修理した導力機の配達。毎月、町や学校で故障した導力機を技術部の生徒たちが修理をしているのだ。

 

「失礼します」

 

 アルフィンが訪れたのは学生会館二階に部室を置いている写真部。そこには、備品の整理をしていたオランピアがいた。

 

「アルフィンさん? どうしたんですか?」

「あぁ、オランピアさん。実は生徒会の手伝いで写真部にお届け物を持ってきたんです」

「技術部からですか? レックス部長からそのようなことを聞いていませんが……」

 

 事情を聴かされていないオランピアは首を傾げるが、アルフィンから届け物の箱を受け取り、中を開けた。

 

「やはり、導力カメラですね」

「ですが、これは旧式の物ですね」

 

 中に入っていたのは、導力カメラ。だが、オランピアが言う通り最新モデルの方ではなく、一つ前の旧式のカメラだった。

 

「おーー、オランピア。悪いな、備品の整理を任せちまって」

「レックス部長、お疲れ様です」

 

 入り口からニット帽をかぶった二年生、写真部の部長レックスが入ってきた。オランピアに礼を言うレックスは隣にいるアルフィンの存在に気づき、度肝を抜く。

 

「あ、アルフィン殿下?! ど、どうしてこちらに?」

「はい。技術部に修理してもらった導力カメラをお届けに来ました」

「そ、そういえば、今日だったか。いけねぇ、忘れてたぜ」

 

 頭をかくレックスにオランピアは修理した導力カメラを差し出す。

 

「レックス部長、これで間違いありませんか?」

「あぁ、間違いない。フィデリオ先輩から譲り受けたカメラだ」

 

 レックスは大事そうにカメラの調子を確かめる。

 

「フィデリオ先輩というのは、もしかして、先月に卒業した?」

「あぁ。写真部の先代部長だった人だ。入部したばかりの頃から俺をいろいろと気にかけてくれてな」

 

 昔を思い出しているのか、レックスはカメラを見ながら笑みを浮かべる。

 

「俺、女の子の写真を撮るのが好きでな。一時期、撮った写真を売りさばいて、金稼ぎをしていたことがあった」

「えっと、それって……」

「あぁ。危うく退学処分にされるところだったけど、リィンと部長に止められて、何とか免れたんだよな」

 

 そう言って笑うレックスだったが、聞き手の二人はまったく笑えなかった。気づかずにレックスから少し距離を取る。

 

「内戦の時、俺は鉄道憲兵隊に同行したりして、戦場カメラマンみたいなことをやっててな。内戦で起きたものを何枚もカメラに収めてきたんだ。内戦で起きた真実を写真にして、皆に伝えるためにな」

「それは……とても立派だと思います」

 

 士官学院生とはいえ、入学する前までは争いとは無縁な生活を送っていたレックス。女の子の写真ばっかり撮っていた彼が、内戦では戦場カメラマンとなって戦場を駆け回るなど、当のレックス本人も想像していなかった。

 

「だけど、ちょっと無鉄砲っていうか、命知らずとでも言うべきか、リィンたちの誘いを断って、西部に行こうとしたことがあったんだ」

「え、でも、確か西部は……」

 

 初耳だったのか、アルフィンは驚いた表情を見せる。当時、帝国西部は《貴族連合》の主力が集結しており、アルフィンたち《紅き翼》が活動していた帝国東部以上に危険な激戦地だった。

 

「あの時、俺は戦場カメラマンとしての使命だとか言って、ちょっと舞い上がってたんだよ。そんな俺を止めてくれたのがフィデリオ先輩だった」

 

 当時、フィデリオも戦場カメラマンとして、レックスと同じように内戦の光景を写真に収めていた。

 

「先輩は俺に言ったんだ。『”内戦の決着”というこの上ないシャッターチャンスをものにして、人々に真実を伝える。俺たち士官学院生じゃなくちゃできないことじゃないか?』ってな。そいつを聞いて、正直、嬉しかったな。写真を撮ることしか取り柄のない俺が必要とされているってわかって。もしかしたら、戦場カメラマンとして帝国中を走り回ってたのもそれが理由だったかもしれなかったかもな」

 

 レックスはカメラを構えて、アルフィンとオランピアの写真を撮る。

 

「写真は自分が見た光景を写し、真実を伝えるもの。俺は先輩からそう学んだ。内戦を終えた今の帝国がどんな道を進もうとしているのか、俺はトールズ(ここ)を足場に、俺なりに真実を突き詰めるつもりだ。そして、卒業したら、このカメラを先輩に返すつもりだ。俺が見てきたものを、真実を先輩に伝えるためにな」

 

 清々しさを覚えさせる笑顔。自信に溢れた写真部部長の笑みにアルフィンは感銘を覚えていた。

 

「とても素敵です。私も応援いたします」

「で、殿下に応援されるなんて、恐縮ッス」

 

 照れるレックスにアルフィンは微笑む。すると、彼女は下を俯いているオランピアの姿に気づく。

 

「オランピアさん?」

「あ、いいえ。部長の話に少し思う所がありましたので」

「それはオランピアさんも誰かから何かを?」

「はい。とても大切なものを預かっています」

 

 振り返るオランピアの視線の先には、彼女の武器である黄金の太刀。それをどこか寂しそうに見つめるオランピアはレックスの方に振り返った。

 

「レックス部長。私にも見せたい人がいます」

「お、おう」

「ですが、今の私はまだ、人に見せられる程、写真を撮る技術は上手くありません。ですから、どうかご指導の方、よろしくお願いします」

 

 頭を下げてお願いするオランピアにレックスは目を開くが、すぐに笑みを浮かべた。

 

「あぁ、任せろ! 俺が手取り足取り、しっかり教えてやるからな」

「えっと、セクハラは勘弁してください」

「ちょっ! しないって、そんなこと!」

「でも、先程、盗撮した話を聞いてしまいましたので」

「いやいや! 確かに可愛い子ちゃんは好きだけど。節度はしっかり守ってるから! そこは安心してくれ!」

「そうですか。でしたら、先程、撮った写真をこちらに渡してください」

「え?!」

「私とアルフィンさんの写真です。許可のない撮影は盗撮ですよ?」

「そ、それは……」

「わ・た・し・て・く・だ・さ・い」

「……はい」

 

 諦めてオランピアに写真を渡すレックス。本気で落ち込んでいた。

 その後、オランピアはクラブ活動を終えて、アルフィンと一緒に導力機の配達を手伝うことにした。

 

「オランピアさんの太刀、あれは預かりものだったのですか?」

 

 配達を終えて技術部に戻る道中、アルフィンは先程の会話を掘り返す。

 

「はい。エリゼさんにも言ったのですが、元々、私は小太刀を使っていたんです。あれから四年も経って身体の方もそれなりに成長しましたので、トールズを入るのを機に太刀に変えたんです」

「そうだったのですか。では、その時にその人から太刀を?」

「……そう、ですね。そんなところです」

 

 少し言い淀むオランピアにアルフィンは不審に思ったが、とりあえず話を続けるのだった。

 

「今、その人はどちらに?」

「アルテリア法国にいます。今はちょっとした事情でその場から動けないので」

「法国の方なのですか。もしかして、その方は巡回神父なのですか? 大陸中を旅していると言っていましたが」

「いえ、エドさんは教会には所属していません。祖父と母は所属していたみたいですが、彼はどうも肌に合わないみたいで」

 

 話し込むオランピアだったが、アルフィンが急に微笑みながら、こちらを見ていることに気づく。

 

「えっと、何か?」

「エドさんって言うんですね。オランピアさんの大切な人は」

「あ……」

 

 知らない間に名前を呼んでいたことにオランピアは顔を赤くする。

 

「どんな人なのですか?」

「え?」

「オランピアさんがそこまで想うような人ですから、とても素敵な人なのですね」

「それは……」

 

 一瞬、戸惑うオランピアだったが、観念したのか、小さく呟いた。

 

「……優しい人です」

「え?」

「行く宛てもなく、一人さ迷っていた私をあの人は助けてくれました」

 

 静かに思い出を語るオランピア。その顔はとても穏やかなものだった。

 

「弱くて守られるだけだった私をずっと守ってくれました。一緒の旅をすることになって、その中で彼から強さを、勇気を、友達を、たくさんのものをもらいました。エドさんと出会わなければ、今の私はここにいなかった。」

 

 頬をほんのりと赤くするオランピアの姿にアルフィンは息を呑んだ。その姿はまさに恋焦がれる少女そのものだった。

 

「暗い道を進み続けていた私の手を無理矢理、掴んで引っ張り上げてくれた。そんな強くて、優しい人。……あの人との旅は私にとっては何よりも大切な、一番の宝物なんです」

「そうなのですか。……もっと、その人のことを教えてくださいますか?」

「……はい。喜んで」

 

 ニッコリと優しく微笑むオランピア。彼女の幸せを噛み締める笑顔にアルフィンも自然と笑みがこぼれる。

 その後、配達を全て終えたアルフィンはオランピアと共に旧校舎へと向かうのだった。




 先の話を書きたいけど、オリキャラが多いから、書かなきゃいけないことがたくさんあって、中々、先に進めない。
 ですが、めげずに頑張ります!

人物ノート
オランピア・エルピス
①『黄金の太刀』……彼女の師であるエドの太刀。入学前に彼から預かったものらしい。その太刀を見るたびに、彼女はどこか悲しげな表情をする。
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