コードギアス反逆のルルーシュ ロストカラーズ 短編集 作:アシッドレイン
「すみません、ミレイさん。もし時間があるようなら、僕のバイト先に来てもらえませんか?」
そんな電話がかかってきて、私は不思議に思いながらも必死なライの声から言われた場所に向かった。
そこは、ライがリヴァルの紹介で短期バイトとして入っているハンバーガーショップだった。
しかし、なんでいきなりバイトとか始めたんだろ?
そう思いつつ、お店の中に入る。
「いらっしゃいませ」
そう呼びかけられ、カウンターを見るとバイト服を着て笑顔でお客を向かいいれるライの姿があった。
さわやかそうなスマイルと元々の美形ぶりで一際目立っている。
カウンターfは3箇所あるのだが彼のところだけ列になっていた。
もちろん、並んでいるのは若い女性客ばかりである。
「あちゃー…」
思わずそう口から言葉が漏れる。
声をかけるかどうか迷っていたら、ライの方から気が付いたみたいだ。
指でそこで待っててというジェスチャー。
そして、テキパキとお客を裁いていく。
しかし、それは適当に対応して、ただ流しているわけではない。
実にうまく対応しており、お客様に尽くしている感じさえするほどだ。
中には赤面し、ぼーっとしたままライに見とれている人までいる。
ああ、ライ…結婚詐欺とかやったらすごい数の女性騙せそうだわ…とかそれを見ながら思ってしまう。
そして15分程度で列がなくなると、すぐに別の店員に変わり奥に引っ込む。
その鮮やかな手際は、ライ目当てに再度並ぼうとしていた女性客を煙に巻くほどであった。
うーん・・・確か…このバイト初めて3日目だと聞いたんだけど・・・どうみてもバイト歴が長いベテラン並だと思うのは気のせいかしら。
唖然としていると後ろから肩を指で突付かれる。
「お待たせ、ミレイさん」
私服に着替えたライが後ろに立っていた。
早い・・・。早替わりの術でも使ったかのようだ。
ライ・・・手品師にもなれそうよ・・・貴方は…。
「あ・・・うん、大丈夫よ。
でも話は出来れば別の場所でお願いできない?」
私は、呆気にとられながらもそう言った。
いい加減、ここから離れたかったのだ。
いくら神経図太いと自覚していても、あまりにも居心地悪すぎである。
だって、店内の女性客の敵意にも似た視線を全身に浴びているのだから…。
「あ、うん…」
そう言うと彼は店から出て、私を店の裏口に案内する。
「ミレイさん、申し訳ないけど僕の話に合わせて下さい。お願いします」
短くライがそうささやく。
私は、「なぜ?」と聞きたかったが、その疑問を飲み込んだ。
なぜなら、裏口には、女性店員ばかり8人ほどがこっちを見ていたから。
全員の視線がとてもきつい。
店内の女性客の敵意とは比べ物にならないほどの鋭さだ。
そんな彼女らの前にライは私を連れて行くとにこやかに微笑んで私を紹介した。
「僕の婚約者でミレイさんって言います。学校卒業したら結婚するんだ」
えーーーっ、聞いてないわよ、そんな事…。
そりゃ、私もそうなったらいいなぁとかちょっと思ったりした事あったけど、これはいきなりすぎるわよ…。
そんな事を考えてしまったけれど、彼女らのきつい敵意が私を舞い上がらせてはくれなかった。
そして、それでピンときた。
あー、さてはバイト先の女の子たちに言い寄られたな。
だから、私を恋人役にして諦めさせようとしてるのか…。
もう、本当にライは優し過ぎるんだから…。
私は、心の中で溜め息をひとつすると彼の作ったシナリオに合わせることにした。
ライ・・・、この借りは高いからね。
そう思いながら…。
「皆さん、こんにちわ。私、ライさんの婚約者のミレイ・アッシュフォードと言います。
彼がいつもお世話になってます」
華麗におしとやかにお嬢様らしく振舞う。
まぁ、こういう演技はお見合いで何度もやっているので手馴れたものだ。
もちろん、意味深に「婚約者」と「アッシュフォード」の部分を強調する事を忘れない。
まぁ、落ちぶれたとはいえアッシュフォード家の名声と権力は、ここエリア11ではそこそこ有名である。
もっとも、本国ではたいしたことは無いんだけどね。
どうやら、私の言っている意味がわかったようだ。
バイトの女の子たちの敵意が消えていく。
「ごめんね、こういうわけだから、付き合えないんだ。
ほんと、ごめんね」
ライがすかさずそう言って謝っている。
どうやら、うまくいったようだ。
ライのホッとした姿を見て、私もなぜかホッとしてしまっていた。
30分後、公園で私たち二人はベンチに座っていた。
「本当に助かったよ、ミレイさん」
ライがさっきからペコペコと頭を下げている。
「もう、いいわよ。でも、これ・・・借りだからね」
にたりと笑ってそう言うと、ライは苦笑する。
「お手柔らかにお願いします」
そして、二人で笑いあった。
ひとしきり笑った後、私はどうしても聞きたかったことを聞いた。
「なんでバイトなんて始めたの?
必要な物があるなら言ってくれればお金渡すのに・・・」
私の顔を見て、彼は真剣な表情で答えた。
「どうしても自分で働いたお金で買いたいものがあったから。
でも心配かけてごめん」
そう言われてしまえば、私は何も言えない。
「いいわ。ライが自分で決めたことだもの。
応援するから、がんばるんだぞ」
そう言って励ましたが、寂しい想いが私の心に湧き上がる。
確かにライの婚約者役が出来たことはすごく嬉しかったのだが、なんだろう・・・この終わったあとの寂しさというか虚しさは・・・。
そして私は考える。
私は、ライをどうしたいのだろう・・・。
そういう思いに私の心は囚われてしまっていた。
《おわり》