コードギアス反逆のルルーシュ ロストカラーズ 短編集 作:アシッドレイン
一気に突っ込んでくる白いナイトメアを面白くなさそうに目で捉えて狙う。
帰国したらノネットに文句を言おう。
そう思いながら……。
それはあまりにも作業的な正確すぎる動作。
ハドロン砲を牽制に発射し、回避ポイントに砲火を集中させる。
それだけで終わりのはずだった。
勝利を確信していたアーニャにとって、この模擬戦はもうどうでもいいことでしかなかったはずだった。
しかし、それは間違いと思い知らされる。
ハドロン砲を回避すると思われていたライのナイトメアは、シールドを展開するとその直撃を受け流して一気に懐に飛び込んできたのだ。
「え?!」
予想とは違う動きに一瞬、反応が遅れる。
その隙をライは見逃さなかった。
右手に握られた短めのMVSが振り下ろされる。
コックピットに鳴り響く警戒音と破損を表示するディスプレのサイン。
今のでハドロン砲破損…。
だが、さすがはナイトオブラウンズ。
すぐにハドロン砲を放棄すると前方にシールドを展開する。
予想通り、MVSが返す刀で切りつけられた。
シールドとMVSの衝突で火花がおこり、機体が振動する。
だが、被害はない。
しかし、メイン火力のハドロン砲を失ったのは痛手だった。
やられた……。
そう、さっきまでの繰り返しの単調な攻撃は、こういう事だったの。
くすっ……。
悔しいはずなのになぜか微笑が漏れる。
ほんのさっきまで心を支配していた虚しさと悲しさが一気に喜びに変わっていく。
強い……。
ノネットの言うように、彼は強い。
心に湧きあがる喜びと興奮。
そう、こうじゃないと……。
こんなに楽しい気分で戦うのは、初めてだ。
そう、今、アーニャは、楽しかった。
そして、うれしかった。
自分の思っていたとおりのライの姿に……。
「す、すごいっ」
ハドロン砲の一撃を受け流しての攻撃に思わず声を上げてしまうセシル。
「うひょっ、やるねぇ~」
ロイドも実に楽しそうに歓声を上げた。
クラブのMVSの一撃を受けて、モルドレットがぐらついてハドロン砲を手放す。
だが、返す刀で放ったニ撃目はシールドで完全に防がれた。
「おしいっ」そんな声が二人の口から漏れる。
だが、そんな中でスザクはただ無言で見続けていた。
メイン火器のハドロン砲を潰したのはいい。
だが、今のでシールドはもう使えないはずだ。
だがまだ強固なシールドと多彩な火力は健在。
それに、今のでアールストレイム卿も本気になっただろう。
そうなると同じ手は使えない。
やはりニ撃目を防がれたのは痛いな。
自分だったらどう対処するか考えていく。
だが、うまい手が浮かばない。
本当にどうする気だ、ライ。
さすが、ナイトオブラウンズ。
さっきまでとは格段に違う動きと反応。
機動性の低いモルドレッドがまるで普通のナイトメアと変わらない、いやそれ以上の動きを見せる。
それにさっきの攻撃も破損したハドロン砲を放棄し、ニ撃目をシールドを展開して防いだ判断力の速さ。
間違いなく決まったと思った攻撃が防がれたのには驚いた。
強い……。
彼女はとてつもなく強い。
そう再認識させられた。
どうしたっ……。
どうしてしまったんだろう。
すごく……。
すごく楽しい。
胸の奥に押し込んだわくわくした気持ちがまた顔を出してくる。
くそっ……。
こんな楽しいのは、初めてだ。
そして、戦う前までの嫌な思いが払拭されていく。
このままずっと戦いたい。
そう思ってしまうほど、この戦いに魅了されてしまいそうだった。
「なんかさ、あの2機の動き、踊ってるみたいに見えちゃうよ」
激しさを増していく2機の動きを見ていたロイドがぽつりと呟く。
「えっ、ロイドさんもそう感じたんですか?」
セシルが驚いた様にそう言った。
あの1撃が決まってからというもの、モルドレッドの動きが格段によくなった。
そして、クラブの動きもそれにあわせるかのようにより速くなっている。
くるくると攻防が入れ替わり、2機のナイトメアが空中を舞っている。
そう、それはまるで息のあった剣舞を連想させるような動き。
だから、二人がそう思えたのも仕方ないのかもしれない。
そして、もう一人。
実はスザクもそう感じていた。
まるで長年のパートーナー同士のような動きに驚き、見入ってしまう。
「なんか……楽しそう……」
セシルの呟きが口から漏れる。
「そうだねぇ。なんかさ、お互いの事を貪欲に知りたがっている恋人のようだねぇ~」
その言葉にセシルは驚く。
ロイドの口からそんな言葉が出てくるとは思いもしなかったからだ。
「あのねぇ~、僕だって、一応、人だよぉ~」
そんな態度のセシルに"一応"というところに力を入れてロイドがふくれっ面で文句を言う。
その言葉と態度に、スザクもセシルも吹き出していた。
模擬戦でこんなに楽しく笑う事になるとは思いもしなかったと感じながら……。
模擬戦開始から20分が経とうとしていたが、一向に勝負が付く気配はない。
まるでお互いに相手の動きが見えているかのような攻防が続いている。
はぁはぁはぁ……。
息が切れる。
身体中がGによって引き起こされる疲労で悲鳴を上げていた。
だが、どうしてだろう。
身体はこんなにもくたくたなのに、心の中で沸き起こったワクワクした気持ちはますます大きくなっていく。
だが、何ごとにも終わりはある。
エネルギー残量の少なさを知らせるランプが点滅する。
エナジーフィラーの残量が20%を切っている。
まぁ、フルパワーに近い戦闘を20分も続けていれば消耗も激しいだろう。
あと5分もしないうちに終了か……。
なら……。
僕は、追加されたコンソールを調整する。
簡単なプログラムを入力していき、それが終わると無線のスイッチを入れた。。
「アールストレイム卿、そろそろエネルギー切れです。これで最後にしませんか?」
向こうも状況は同じなのだろう。
「うん。…OK……」
短くそう返事が返ってくる。
相変わらずの無表情の顔だったが、どことなく楽しそうに見えたのは気のせいだったのだろうか……。
ともかく、これで最後だ。
僕は、汗で滑るスティックを握りなおすと、一気にクラブを加速させた。
彼から無線が繋がる。
彼の方もエネルギーの残りが少ないみたいだ。
私は申し出を受ける事にした。
まだ、少し物足りなかったが、終わりはある。
それに何やら仕掛けてくる。
彼のあの楽しそうなわくわくした表情がそれを物語っている。
さぁ、何が来るの?
何を見せてくれるの?
心の中が期待感で満たされていく。
失望させないで……。
私は、そう呟く。
そして、それと同時に彼のナイトメアが一気に距離を詰めようとしてきた。
火線を幾重にも放ち牽制する。
その砲火をまるで曲芸のように潜り抜けて接近してくる彼のナイトメア。
そして、牽制なのだろう。
左右の腰の部分からスラッシュハーケンが発射された。
2本のハーケンのうち、1本を回避し、もう1本を弾き返す。
しかし、それでもかまわず彼のナイトメアが近づいてくる。
シールド展開っ……。
MVSの攻撃を防ぐため、前方にシールドを展開しょうとした。
その時だ。
後方警戒のブザー音が響く。
え?!
すばやく後方モニターを展開する。
そこには、避けたはずの1本のスラッシュハーケンが向きを変えてモルドレッドに向かってきているではないか。
そんな……馬鹿な……。
スラッシュハーケンが方向を変えて向かってくるなんて……。
とっさに回避しょうとするが間に合わない。
激しい破壊音と衝撃がコックピットに伝わってくる。
フロートユニットに命中したらしく、ガクンとモルドレッドが高度を落す。
そして、その隙をライは見逃さなかった。
一気に近づくとMVSを振り上げる。
そして、モルドレッドのコックピットに振り下ろす。
避けられないっ……。
そう思ったら身体が勝手に動いていた。
それは、訓練された者だけが出来る動きだ。
ピーーーーッ。
それと同時にけたたましいブザー音が鳴り響き、両方のナイトメアの動きが止まった。
コンピューターが強制停止させたのだ。
そして、ディスプレに映し出される判定は、「両者撃墜」だった。
そう、ライがMVSを振り下ろそうとした瞬間、アーニャも無意識のうちに打てるだけの火力で攻撃していた。
その結果、両者相打ちとコンピューターは判断したのだった。
戦いが終わり、僕は心地よい疲労感に満たされていた。
ふう……。
勝てなかったのは残念だけど、すごく楽しかった。
そう思っていたら、モルドレッドの方から無線が入ってきた。
「あの……聞いていい?」
少し覗き込むような表情がモニターに浮かぶ。
「はい。かまいませんよ。アールストレイム卿」
僕は、そんな表情を見せる彼女が少し可愛いかなと思ってしまう。
無表情の様に見えて、けっこういろいろ違ってくるものなんだな。
そんな事を考えながら…。
「あのハーケンって……」
やっぱり、それか……。
僕は、微笑みながら説明する。
「あのハーケンは、小型のバーニアみたいなのが付いてまして、事前にプログラムする事で発射後に方向を変えることが出来るようになっているんですよ。
もっとも発射後は新たに入力しての軌道変更は出来ませんから、ある程度の先読みしてのプログラム入力とそれにあわせた相手の誘導は必要ですけどね」
そう、ただ発射し回収するという直線的な動きしか出来ないハーケンをもっと活用できないかと考えた僕がロイドさんに相談していろいろやってみた結果が今回のものだったのである。
そして、今回の模擬戦で牽制や翻弄させるには十分な役目を果たす事が実証された。
発案者の僕としてもすごくうれしい結果だった。
「ふーん……」
僕の説明にそっけない返事が返ってきたが、彼女の無表情のように見える表情の中には、興味とうれしさが含まれているように見えた。
そして、しばらく無言が続く。
無線を切らずにただ、考え込む彼女の姿だけがモニターに写っている。
うーーん……。
どうしたんだろう。
すごく嫌な予感がするのは気のせいだろうか…。
「あの……、そろそろ戻りませんか?」
沈黙に耐え切れずそう声をかける僕。
だが、その言葉を言い終わらないうちに彼女から話を切り出される。
「賭けの事……だけど……」
ああーっ、それがあった。
だけど、この場合は無効が一番無難だよなぁ。
しこりも残したくないし……。
だが彼女の口から出た言葉はまったく違っていた。
「お互いに……相手を撃墜した。……両者……勝ち」
「えーーっ」
思わず、そう反応してしまう。
普通、そういう風にはしないと思うのだが……。
それにそれじゃあ、再戦を言いづらいじゃないか……。
僕としては、また彼女と戦いたい。
そして、もっとわくわくしたいという思いが強く心に残っている。
だが、これでは……。
彼女は、また戦いたいと思わなかったのだろうか……。
この気持ちは僕だけなんだろうか……。
そんな事を考えて、僕は言葉を返せないでいた。
「これ……決定」
きっと迷う僕を待っていたら決まらないと思ったのだろう。
彼女は強く断言した。。
こうなったら仕方ない。
観念するか……。
「はい。わかりました。アールストレイム卿」
諦めてそう答える。
だが、沈黙のみが返ってきた。
どうしたんだろう。
そう思って再び声をかける。
「アールストレイム卿?」
するとすぐに言葉が返ってくる。
「それ……嫌……」
「へ?!」
どういう意味だ?
「アーニャ……」
不満そうな表情がかすかに出ている無表情で彼女は言った。
「は?!」
「だから……アーニャ」
つまり、アーニャと呼べという事らしい。
「えーっと……」
じーっと覗き込むように顔がモニターに映る。
あー……言うの待ってるよ。
しかし、なんかドキドキするじゃないか……、こういうのはっ……。
柄にもなく緊張してしまう。
こんなところをスザクやユーフェミア様に見られたらなんて言われるか……。
えーいっ、男は度胸だ。
少し開き直り気味に僕は言った。
「あ、アーニャ……」
その瞬間だった。
ほとんど大きく表情を出さなかった彼女の顔が、頬を染めてうれしそうに微笑んだのは……。
その可憐さに、僕は言葉を失って思わず見とれてしまっていた。
やばいよ……。
無茶苦茶かわいいじゃないかっ。
ドクンと心臓が高鳴る。
収まれ僕の心臓……。
だがそんな僕にお構いなく、彼女は……いや、アーニャは恥ずかしそうに頬を染めて聞いてくる。
「次、ライの番……」
え?!
その言葉で浮ついた僕の心は一気に現実に戻される。
そうだった……。
お互いに勝ったのならそうなる。
えーい、何を言うべきなりだろうか……。
迷う僕を楽しそうに見ているアーニャ。
その笑顔を見ていたら、迷うのが馬鹿馬鹿しくなった。
そうだ。
何をいろいろ考えている。
素直に思った事を言えばいいんだ。
そうだよ。
僕は、そう決心すると口を開いた。
「あ、アーニャ……」
「うん……」
にこりと僅かに微笑んで聞いてくる。
その楽しそうな表情。
普段がほとんど無表情なだけに強烈すぎる。
うわーーっ…かわいいっ……。
その笑顔だけで心が満たされて、思わず言葉を失ってしまいそうになった。
おちつけ……。
落ち着くんだ。
深呼吸を数回して、落ち着かせて言葉を続けた。
「僕の願いは……」
モニター越しだがアーニャの視線が熱い。
「君と……また戦いたい……」
そして、一気に思っている事を言い続けた。
「こんなに楽しい戦いは、初めてだった。だから、もっともっと戦いたいと思ってしまったんだ。
それに、もっとアーニャの事が知りたい。そう思ってしまった。だから、また僕と戦ってほしい……」
カーーーッと顔が赤くなるのが自分でもわかる。
まるで、これじゃあ、告白みたいじゃないかっ。
そんな事が頭に浮かぶ。
えーーい、何を考えている、僕はっ……。
そんな僕に彼女は恥ずかしそうに返答をしてくれた。。
「うん……。私も楽しかった。だから……ライの事、もっと知りたい。また戦いたい……」
その返事を聞いて、感謝の言葉が自然と出る。
「ありがとう、アーニャ」
すごくうれしかった。
アーニャも僕と同じように感じてくれてたんだ。
また、戦える。
そう思うだけで、わくわくしてしまう。
だが、その気持ちは、無線に入ってきた言葉で一気にかき消されてしまった。
「あの~、いいかなぁ~」
そう、ロイドさんだ。
そして続けて「駄目ですよっ、ロイドさんっ、雰囲気読まないとっ」というセシルさんの声。
それって……つまり……。
「えーーーっ、ちょっと待ってくださいっ。もしかして、今の会話……筒抜け?」
「うん……」
苦笑したようなスザクの声。
「ごめん。なんかさ、言うタイミング逃しちゃって……」
そんなーーっ……。
僕は、絶句するしか方法を知らなかった。
別れの時、彼女の言った「また……」という言葉に、僕も「ああ、またね……」と返事をする。
そう、これは別れじゃない。
再会をするための儀式なのだ。
彼女の手が僕の手と重なり何か握らせる。
そこには小さな小さな紅い石があった。
すべすべとしていて綺麗な紅。
そして、キーチェーンのようなものが付けられている。
彼女が愛用の携帯を見せる。
そこには同じような紅い石が付けられていた。
「私だと思って……」
僕は頷いた。
そして、アーニャは帰国していった。
2日後の昼前、僕の執務室にユーフェミア様がスザクを連れてやってきた。
そして、入ってくるなり実に楽しそうに聞いてくる。
「聞きましたよっ、ライっ。アールストレイム卿に告白したんですってね」
どうやら、あの会話は行政特区の行政府中に広まっているようだった。
まぁ、今までどんなに迫られても女性に見向きもしなかった男があんな事を言ったのである。
そりゃ、話のネタとしては最高なんだろう。
だが、そのネタの本人としては、こう話が広がっていくのは勘弁して欲しいものだ。
くそーっ、誰だよ、広めてるのはっ……。
そんな事を考えながら、何とか話を収めようとした。
「いや、告白じゃなくて……」
実際にそうなのだが、どうもあの台詞では告白に聞こえてしまっているらしい……。
だから慌てて言い返そうとしたが、すぐにユーフェミア様の言葉で遮られた。
「もっと君の事が知りたいだなんてっ…。もう~、すごく熱々です~っ。ライって情熱的なんですねっ」
実にうれしそうです。
生き生きしてますよ、ユーフェミア様。
そんな事を考え、他人の噂話でここまで楽しんでしまうとは…と感心してしまう。
いや、感心するところが違うっ…。
自分で自分に突っ込みを入れながら、何とかこの状態を打破すべくユーフェミア様を落ち着かせようとする。
「いや、あのですね……」
しかし、僕が再びなんとか言い返そうとするものの、その度にユーフェミア様の言葉に遮られてしまい何も出来ない。
もう一方的に言われまくっている状態だ。
なんとかしてくれよ。
そんな儚い望みを持って横にいるスザクを見るものの、スザクは苦笑だけしか返してこない。
えーいっ、僕の事を親友と思うなら、自分の彼女ぐらい何とかしろ。
そう言いたかったが、だが…無理だろうなぁ…。
彼の性格と、ユーフェミア様との関係を考えれば……。
そう判ってしまうのが悲しい。
そんな事を思っていたのだがすぐにユーフェミア様の新たな言葉で現実に戻された。
「そうそう、昼食はご一緒してくださいね、ライ。新しくエリア11に来られた方をご紹介したいですし……」
「えっ? 新しく赴任された方ですか?}
それは初耳だった。
いきなり決まるなんて……。
僕の表情から、読み取ったのだろう。
ユーフェミア様が説明する。
「ええ…。中華連邦が最近、特に活発な動きを見せています。その為に急遽派遣が決まったそうなんです」
「そうでしたか……」
つまり、僕が担当した視察団もその為の予行演習みたいなところか……。
それなら、急な視察も納得できる。
「では、時間ですし食事に参りましょう」
ユーフェミア様に言われ、僕らは行政府のレストランへと向かった。
そして、レストランに来たものの、準備されたテーブルには……………誰もいなかった。
「あら?」
ユーフェミア様がきょろきょろと周りを見回している。
その様子は、手違いが合ったようで少し焦っているように見えた。
ユーフェミア様が焦るような人物か……。
誰だろう……。
そんな事を考えていると、いきなり後ろから抱きつかれた。
「うわぁぁっ……」
思わず声が出た。
そして、僕が後ろを見て相手を確認するのとその人物からかけられた言葉が耳に入るのは同時だった。
「只今……、ライ」
そう、そこには2日前に再会の約束をして帰国したはずのアーニャの姿があった。
「えっ?!えぇぇーーーーーっ、なんで……」
僕の驚く顔をじろじろと覗き込むアーニャ。
相変わらずの無表情だが、心なしか笑っているように見えた。
「正式に…エリア11に派遣された……。また……しばらく一緒……」
頭の中が一気に真っ白になってしまい、言葉を失う。
そんな僕に不安を覚えたのだろう。
「ライは……嫌?……うれしくない?」
すこし悲しそうな感じで聞き返される。
そんな悲しい感じて聞かないでくれ。
そう思って、すぐに答えた。
「そんなわけ、あるもんかっ。うれしいよ、アーニャ」
そして、無意識のうちに彼女を抱きしめた。
きゃしゃな身体が僕の腕の中にある。
ほのかに漂う彼女の体臭が僕を興奮させる。
こんなにうれしい事が起こるなんて……。
腕の中に感じる彼女の確かな感触と湧き上がってくる彼女への思いが僕を幸せにしていた。
だが、痛いまでに突き刺さる熱い視線。
その視線で僕は我に返った。
そう、ここは行政府の中にあるレストラン。
そして、今は……お昼時。
つまり……。
大勢の人たちがいるという事。
そんな中で、僕はアーニャを抱きしめている。
その認識で一気に体温が上昇し、僕の顔は真っ赤になった。
そして、慌てて離れようとしたのだが、アーニャはしっかり僕に抱きついており、離れようとはしない。
さらに、くすくすという声がする横を向くと、小悪魔的な表情で笑いを堪えているユーフェミア様とニコニコしているスザクの姿があった。
「よいものを見させていただきましたよ、ライ」
そんな事を言うユーフェミア様。
「よかったね、ライ」
もっとも天然のスザクは、そう言うだけだったが……。
そして、僕はその二人の態度でわかってしまった。
こうなると知ってたな、二人ともっ。
くそっ、謀られたっ…。
だが、そう思ったのもつかの間、さらに拙い事に気が付いた。
よく回りを見渡すとこっちを見ながらこそこそと喋る人が多い……。
つまり、あの噂話がよりいっそう真実として広がっているのであった。
ああーっ、なんでこうなるっ。
な、なんとか、なんとかしないと……。
焦る僕の思考が空回りを続ける。
多分、混乱気味なんだと思う。
だが、そんな中、アーニャは抱きついたまま顔を上げると少し頬を染めて言った。
「また……二人で楽しもうね……」
その言葉が、響き渡る。
僕は、もう観念するしかなかった。
終わり