走者がガバったら(世界が)即終了チャート はーじまーるよー! 作:私は地を統べる
本当は分かっていた。
父に言われるまでもなく、本当は気付いていたんだ。
僕を起点に、何かが致命的にズレていく。
ハッピーエンドの物語が、勧善懲悪の物語が、歪んでいく。
僕という異物が存在している時点で、この世界は原作と違う世界なのだと、気付いていた。
そんな正史から逸れた世界で、僕が藍染惣右介として振る舞おうと、そうして黒崎一護が産まれようとも、原作の通りに世界が救われるなんて、そんな夢みたいな話があるわけが無いと、本当は気付いていた。
─でも僕は見ないふりをした。
自分のせいでこの世界に住む人々が、この世界自体が終わってしまうかもしれない。そう考えたとき、僕は身を引き裂かれそうになるほどの恐怖に襲われ、気が狂いそうになった。
僕が歪めてしまった物語。なら僕が、歪めた張本人が正しい方へと直さなければならない。
だから僕は、その恐怖を責任感へとすり替えて、藍染惣右介を全うしようとしたのだ。世界を救う為なら必要な犠牲なのだと殺人すらも割りきって、覚悟して、でもその行為すら、覚悟すらも無駄だと言われたのなら、僕は、
─僕はどうすれば良い?
「…ひとつ、言えることがあるわ」
「貴方が藍染惣右介になってしまったせいで黒崎一護の存在は不明瞭になったかもしれない。でもね」
「あなたの父親は、黒崎一護が存在する未来を読んでいただけで、この世界の全てを読んだ訳じゃない」
「もしかしたらこの世界は、貴方が存在する前から、原作から逸脱した世界なのかもしれないわ」
「あなたの父親は、京楽春水と浮竹十四郎の同期だと言っていたけれど、原作でそんな描写あったかしら?」
「まあ、登場人物のすべての過去が明かされているわけでもないし、そういう裏設定が原作にはあったのかもしれないと言われてしまえばおしまいなのだけれど」
「それでも、あなたの出生で歪んだものなのか、最初から歪んでいたのかは分からない。そんな世界の全てをあなたが背負う謂れはないわよ」
「だからね」
そうして、鏡花水月は華やかな笑顔を浮かべてこう言ったのだ。
「もう辞めましょう。藍染惣右介なんて役を捨てて、
捨てる?藍染惣右介に成らなくても良い?
蜘蛛の糸のように垂らされたその言葉。
ああそれは、きっと楽だろう。見ない振りをして、もし世界が終わったとしても僕は責められないだろう。だって皆は何も知らないのだから。分からないのだから。けれど、僕のせいで世界が滅ぶなら…
「こう考えちゃえば良いのよ」
「
僕に寄り添う鏡花水月がそう囁いた。その酷く優しい言葉は、ゆっくりと僕の中へ染み込んでいく。
そういう運命だった。藍染惣右介が居ようが居まいが、この世界は滅ぶ運命だった。ああそれは、それだったら僕は悪くない。そうだね、そうだろう、
ああでも、それは、
─それは無責任だろう。
「藍染惣右介が居ても居なくてもこの世界は滅ぶ運命でした」なんて、そんな無責任な話があって良い筈がない。
滅びるかもしれない世界を前に、そういう運命だからといって役割を放棄するのはあまりにも無責任で無情だ。そんな選択を選んで良いわけがない。
この世界には霊王の意思というものが存在する。大局を導く大きな世界の意思。
黒崎一護が産まれるのは必然だったのだろう。黒崎一護が霊王に辿り着くのも、ユーハバッハを倒すのもきっと必然だったのだろう。しかし父親の言うことが正しいのであれば、その運命を、定めを、必然を異物の僕がめちゃくちゃにしてしまったのだ。それなら僕はその責任をとらなければならない。
「責任?」
「迷い込んだあなたの魂魄は、ただ居場所を求めて藍染惣右介に入り込んだだけ。今のあなたにその責任はないわ」
─確かに、僕が藍染惣右介の中へと混ざる、そこに僕の意思はなかったかもしれない。
それでも僕が藍染惣右介の席を奪ったのならそれを全うする義務がある。
「藍染惣右介にこだわる理由は何?
あなたが藍染惣右介に成らなくても世界を救う方法が、人を傷つけないで済む最良の方法があるかもしれないわ」
「黒崎一護が産まれなくたって、世界を護る方法なんていくらでもある筈よ」
「浦原喜助なら最善の策を練ってくれるかもしれない、山本元柳斎重國ならユーハバッハを殺せるかもしれない。なのにどうして?」
─世界がより良い方へと進むために、黒崎一護は存在しなければならない。
例え、僕がユーハバッハを倒し結果的に人を大勢救えたとしても、僕は世界を変えうる英雄には成り得ない。黒崎一護という英雄が世界を救うことに意味がある。
大勢の人が黒崎一護の善性と覚悟と勇気に心を動かされ、時代遅れで保守的な尸魂界が良い方向へと進み始めた。全ては黒崎一護のおかげだった。
その英雄を生むためにも、僕は藍染惣右介でなければならない。
それに、酷いことを言ってしまえば、滅却師と死神の戦いも必要だったのだ。
千年血戦篇では大勢の死神が死んだ。だから、人手が少なくなった護廷十三隊は復興のために流魂街の人達の行き来が簡略化され、更に適性のある人には死神への引き抜きも行われるなどの改革が進んだんだ。
その改革を進めた阿万門ナユラも、藍染惣右介が四十六室を皆殺しにしなければ中央四十六室の一人につくことはなかった。
人を殺すという悪行を肯定するつもりはない。それでも、数多の犠牲を出しつつ結果的に世界はより良い方へと向かったのはまぎれもない事実だ。
…ああでも、これだけ言葉を並べても結局のところ僕には勇気がないのだ。
人を傷つけるのは嫌だ、怖い。でもそれ以上に原作から逸れる方が何倍も怖いのだ。僕は臆病で、クズ。
けれど鏡花水月の言う通り「僕が何をしたところで世界が救われるとは限らない」その予想は、事実は変わらない。
─だから、少しだけ抗ってみようと思う。
藍染惣右介の全ての行いが原作に必要だったかと考えたならそうとは言えない。だから、無血とまではいかないけれど、正史より少しでも犠牲のない、そんな未来を掴みたいと思う。
ただ、世界を護るために必要だと判断したら僕は友人でも、両親でも、大切な人を切り捨てる。そう覚悟した。
「そう、結局そういう結論になるのね」
「原作に沿いつつ、救える人は救いたい」
「それは、地獄に続く道のりよ」
─うん、そうだね。
いっそ、全て投げ出せたら良かったのかもしれない。けれど、僕は臆病者だからそれはできない。
「助ける者は助けて、必要だと断じたら、無垢な人を殺すのね」
「傲慢、すごく傲慢だわ」
─うん、分かっている。
人を殺すときがきたら沢山苦しむだろう。きっと心臓が引き裂かれるような痛みに、罪悪感に襲われるかもしれない。
「そこまでして護るような世界かしら。貴方が思うよりずっとこの世界は醜いわよ?」
─そうだね。
流魂街の住人達の暮らしも、貴族の現状も、世界の成り立ちも思うことがある。それでも僕は、大切な人が暮らすこの世界を護りたいと思うから。
それに、これは希望論でしかないけれど、黒崎一護を中心にこの世界の淀みが漂白されていくと思っている。…勝手な期待だ。おおよそ高校生に背負わせるようなものではない。
だから、僕は僕に出来ることをやりたいと思う。
「…良いわ。その選択を肯定してあげる」
「藍染惣右介というロボットに成りきるより、きっとマシな選択だと思うから」
「私の屈服条件は『受け止めること』」
「ずっと目をそらし続けてきたものを受け入れ、それにどう向き合うのか」
「そうしてあなたは受け止めた。だから、私の名前を教えてあげる」
「私の名前は
「精神世界、あるいはミラーワールドといった、あなたの内面を表した世界から、刀身を媒介にあなた自身を現出させる能力。簡単に言うなら自分のコピーを作る能力よ」
─嗚呼やっぱり、そうだよな。
斬魄刀は、浅打と寝食を共にすることで自身の魂の精髄を写し取り創り上げていくものだ。
藍染惣右介の魂魄に僕という異物が混ざったのなら、藍染惣右介の鏡花水月が発現する筈がない。
困ったな、悪い能力ではないのだけれど、ヨン様通りに動くのなら鏡花水月の完全催眠が必須だ。
どうしようかと頭を抱える僕に、鑑化は言った。
「最初に自己紹介したでしょう?私たちの名前は
「あなたの魂魄は藍染惣右介の中に入り込み、藍染惣右介の魂魄を飲み込んだ」
「そうして、その飲み込まれた藍染惣右介の魂魄の残滓は、斬魄刀の一部へと変質したの」
「その残滓を、私は
「私─鑑化の力は複製、水月の力は完全催眠。つまり、私たちは二刀一対の斬魄刀」
「
─それって、つまり、
「ふむ、私を打ち砕いた者が…まさか、これほどまでに退屈な存在だったとはな。期待外れもいいところだ。失望したよ」
突如、僕と鑑化水月だけの空間に響く、速○奨ボイス。
ああ、うそだろ、ええ……?
冷や汗をかきながら僕はゆっくりと後ろを振り向いた。暗闇の中からゆっくりと輪郭を見せる人影。
そうして姿を現した人物は、僕とそっくりな姿をしていた。
─藍染惣右介…。
「彼。あなたに飲み込まれても尚、自分の意思を失わずにあなたの中に居座ってたのよ」
「すごいわよね…、産まれて数年もたってない魂魄が、自分より一次元も格上の存在に押し潰されず己の自我を保つなんて」
それ、藍染惣右介は産まれながらの化物ってことになるんじゃ……
「運命の遷移を恐れ、世界の歯車に成り下がる。実に滑稽だ、救いようがない」
悠然と立つ彼は、酷く冷たい表情で、そう淡々と言い放った。猛禽類を思わせるような鋭い視線は、僕の存在を全て否定されているような気分にさせる。
初対面早々に容赦がないな。
ああ、でも、彼の言う通りだ。僕はどうしようもない臆病者で中途半端な人間だ。
「開き直るか…、尚更腹立たしいな。己の弱さを自覚しながら、改める気が全くない。私が最も唾棄すべき存在だ」
─どれだけ嫌われようと構わない、それだけのことを僕は貴方にしてしまったのだから。それでも、僕には貴方の力が必要だ。
「…君と私の意思は到底交わることはない。議論など無意味だ」
「さあ、私をどう屈伏させる?」
─八番隊六席、拳で。
「…なるほど、暴力か。実に単純かつ原始的な手法だ。しかし、悪くない。…良いだろう、君の提案を受け入れる」
「どちらが真に藍染惣右介に相応しいのか…決してみせようじゃないか」
この後めちゃくちゃ屈服させた。
主人公→藍染惣右介として振る舞えば、結果的に世界は救われると考える。
しかし、鑑化水月との対話により、現実と向き合ったことで、藍染惣右介チャートを元にしつつ、救えるところは救うオリチャーを時々発動させるという考えに至った。その考えに至る前は原作通り全員殺すつもりだった。だって原作から逸れるの怖いし。
完全なオリチャーを走らないのは主人公が基本的に臆病で、原作という確定された勝利の道筋から大幅にズレた場合に起こり得る弊害を恐れているため。黒崎一護が居ないBLEACH世界とか怖すぎる(本音)
斬魄刀→あなたという存在が藍染惣右介に成り代わっている時点で、ここは原作とかけ離れた世界になってしまっているのだから、原作通りに事を進めたとしても世界が原作みたいに救われるとは限らない。だから藍染惣右介に成りきるのをやめよう!もうやめちゃおう!嫌なことはやらなくて良いよ!逃げなよ!
斬魄刀はずっと主人公のことを思って警告している。それを受け止めて主人公が至った結論が「原作沿いつつ助けられるところは助けるぜ」なので、どうしてそうなっちゃったかな~!と思っている。その先は地獄だぞ……
でも一心同体なので一緒に頑張るよ。なんてたってあなただけの斬魄刀だからね。健気。
藍染惣右介(オリジナル)→勝者のくせに世界の理を受け入れる弱者の理論を持ってるの許せない。この世界を改革するのは自分ではないと諦めているのが何よりも許せない。
一生分かり合えないし、一生交わらない。
しかし、主人公がこの世界で誰とも分かち合えない原作知識という孤独を持っているという点に関しては共感を抱いている。
だとしても分かり合えない。無理。生理的に無理。
この男に負ける自分も許せないが、斬魄刀として力を貸すのもイラつく。だから全力で戦ったが、本来の⅓もない力+残滓だけの存在だったので力を使い果たし消滅した。その後、鑑化水月によって再吸収。
主導権どうのこうの言っていたが、もう体の支配権も魂魄も主人公に上書きされていたため戻ることはできない。藍染惣右介はそれを理解していたし、主人公も察していた。
消える最後の最後まで主人公に悪態をついていた。……本当に消えたよね?
鑑化水月
「鑑化」の自分を複製する能力と「水月(鏡花水月)」の五感の完全催眠が混ざりあった能力。
上二つの能力を個別に使うことも出来るが、二つの能力を組み合わせることで、「水月」を掛けた相手に対して、「鑑化」によって現出させた自分をまったくの別人に見せることができる。
これによって、ヨン様完コピハゲを用意せずに、自身の能力でカバーすることが出来る。時短。
鑑→「人の手本」「模範」を意味する言葉
化→他のものに姿をかえること。異なる物質が結合して新しい物質になること。
裏話(鑑化の本心)
「ヤッホ主~♡覚悟決まってるね♡捨てちまえよそんな覚悟」
「うわ、主人公と会話してから藍染惣右介の残滓が暴れ始めた。分けよう分けよう」
「ヴァーッ!完全催眠持ってかれた!副産物(水流の流れがどうのこうの)しか残ってない!!返せ…!オラ返せ!!うわ強い!!!かてなぃ……」
主人公「始解始解始解始解始解始解」
「ウルセーッ!オラ!!とりあえずこれで満足してろ!!つ【副産物】」
「くっそ取り敢えず押さえつけとくか…この、残滓のくせに強すぎる。数年生きてこの自我…?怖……」
主人公「僕の存在とは…?」
「ウワーッ!主が病んだ!!あのアマ何してくれとんねん!!パッパもとどめ刺すなや!!!対話対話対話!!!」