走者がガバったら(世界が)即終了チャート はーじまーるよー!   作:私は地を統べる

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主人公、ずっと悩んでばっかりだからそろそろ無双させたいな→因習村破壊RTAやろう!→合計1万文字越え→こんなハズでは…

本筋にはほぼ関係ない話ですが、これからについてのフラグは申し訳程度に立てておきました。この話を終えたあと、事を大きく動かす予定です。この話は箸休め…カナ!


某Xでこの小説のタイトルを検索したところ、紹介ブログや読了報告を見つけとても嬉しく思いました!この場を借りて感謝を申し上げます。



神様を初めてみた日。 前編

 

 その御方をお見掛けしたのは、夏の終わりにしては珍しい、辺りを照らす太陽が目に痛いほどの快晴の日でした。

 

 

 私は控坐村内にある神社に代々勤める一族の者でした。私達一族は神社の管理を担っており、その日も、暑さに苛まれながら毎朝の日課である境内の掃き掃除をしていました。すると、石段の方からサッサッと草履と石畳が擦れる音が聞こえてきたのです。

 

 この神社は、一族の者や村長でなければ境内に入ることすら許されていません。また、この時間帯に私以外の一族の者や村長が訪れるのは極めて珍しいことですから、訝しんだ私は、箒を動かす手を止め階段の方へと視線を向けました。

 

 そうして現れたその御方は、黒い装束を纏い、腰帯に日本刀を佩いておりました。

 一歩一歩進むごとに弛む茶色の髪の毛は綿毛のように柔らかそうで、前髪から覗くその瞳は初夏の大葉子のように深い色合いをしていました。そうして、その御方は私の横を通りすぎ、本殿の方へと足を進めていったのです。

 そこで私はハッとし、急いで声を掛けました。

 

「もし、そこの御方。失礼ですが、ここは限られた者しか出入りできませぬ故、この場から去っていただきたいのですが」

 

 装いから、村の者ではないと察していたため自然とそのように言葉が出たのです。

 

 すると、その御方はピクリと肩を動かした後、ゆっくりとこちらを振り返りました。私の顔を見るや否や、その美しい目を見開きこう仰ったのです。

 

「驚いた。君には僕が見えるんだね?」

 

 その厚みのある艶やかな声は物柔らかで、私の耳にやさしく響き渡りました。

 しかし、はて、見えるとはどういうことなのか?私は心の中で疑問を抱きましたが、その御方はまるで私の疑問に答えるかのように、ゆっくりと語り始めたのです。

 

 曰く、この御方─藍染様は、"あの世"の役人であり、成仏することなく現世をさ迷う者たちを浄土へと導く使命を担うため、現世へ訪れたそうです。

 通常であれば、あの世の者である藍染様は現世の者に認識される事は無いそうですが、私は霊力とやらが多いため、彼を認識することが出来たそうです。

 

 胡乱な話だと思いましたが、控坐村には産土神であるサクヤ様もいらっしゃいますので、私は藍染様の言葉をすんなりと受け入れました。

 彼の持つ、まるで人間らしくない神聖さが何かしら特別な存在であると感じさせたせいでもあります。

 私は、周りの者に認識されないのであれば、境内に居させても良いだろうと判断し、彼との会話を楽しみました。お勤めに忙しいあまり、人と話す機会の少ない私にとってその時間はあまりにも満ち足りたものでした。

 

「この村で信仰されている、『サクヤ様』について詳しく教えて貰っても良いかい?」

 

 談笑をしている最中、藍染様は真っ直ぐと私を見つめながら、そう訪ねてきました。

 

 本来であれば、村以外の者にサクヤ様のことをお伝えするのは許されません。しかし、藍染様の穏やかな表情と優しい声色、そしてあの甘い笑みに私の警戒心と責任感は溶けてしまい、つい彼の問いに答えてしまったのです。

 

 

 

 

 

✳✳✳

 

 

 

 

 

「私が次の神託者に…?」

 

 突然告げられた、継嗣の話。

 通常であれば、先代の神託者が亡くなった後に継嗣を決めるのです。

 それなのに、先代が健全である今、私を神託者に選ぶという話がどうして出るのでしょうか?疑問に思う私をおいて、村長は神妙な面持ちで「サクヤ様からの神託じゃ」とだけつげるのでした。

 

 

 村長との対話を終えた後、私は藍染様に会いに行きました。

 藍染様は未だこの村に滞在しており、一体何処で寝泊まりしているのかは分かりませんが、彼はよく境内にある神木の下に姿を現すのです。そこで私達は交流を続けていました。

 いつもの場所で、軽く雑談を楽しんだ後、私は「お役目を承ったのでもう会うことは出来ない」と伝えました。

 その言葉に、藍染様は眉を潜めると「そうか…残念だな」と呟きました。その言葉に目を伏せた私へ彼は「君が役目を果たせるよう、応援しているよ」と言い、その優しい眼差しと温かい言葉は、不安で揺れ動く私の心をじんわりと解しきったのです。

 そうして、後ろ髪を引かれる思いで藍染様と別れた後、やはり先のことを不安に思いました。それでも、彼からいただいた言葉を思い出し、この村のためだと自分を奮い立たせたのです。

 

 

 

 

 

✳✳✳

 

 

 

 

 

 村長から神託を伝えられ、藍染様に別れを告げた翌日。

 支度を済ませ本殿へと赴くと、そこには先代の神託者である母の姿がありました。

 

 神託者と定められた者は、一生を本殿で過ごすしきたりとなっています。

 一族の中でも限られた者だけが、神託者の世話をすることを許されており、食事や睡眠、入浴以外の時間は全てサクヤ様との繋がりを強くするために祈りを捧げるのです。

 

 ですから、私が母と顔を合わせるのは、実に十年ぶりのことでした。本殿へと向かう母と私の間には深い沈黙が流れ、張り詰めた空気の中、足元から伝わる冷たい廊下の感覚だけが、この場に私が確かに存在していることを教えてくれているように思えました。

 

 

 母に連れられ、重厚な扉の先に続く本堂へと足を踏み入れた先には、一つの人影がありました。…一目で分かりました。

 

 ─この御方こそが、私達の仕えるサクヤ様であると。

 

 陶器のように透き通る白い肌。私より一回り大きい身体には、純白の斎服を纏っています。まるで絵画から抜け出してきたかのように整ったご尊顔には、穏やかな笑みが浮かんでおりました。

 

「初めまして」

 

 その声は、鈴の音のように澄み渡り、心を落ち着かせる不思議な力がありました。

 私達は互いに向き合い、言葉を交わしました。世間話や、これからのことを。

 

 そうして緩やかに続いていく談笑の最中、話題の中心は神託を授ける手順の説明へと移り変わったのです。

 

 曰く、サクヤ様からの神託を授かるためにはサクヤ様と神託者が深く繋がらなければならないそうです。その為には神掛という儀式を行う必要があり、それを今から行うのだと教えられました。

 

「恐れることはありません。ただ私に身を任せれば良いのです」

 

 諭すように、しかし、どこか強さを感じさせる声色。

 私は歓喜しました。私達一族が代々受け継いできた、神と繋がる神聖な儀式。こんな誉れがあるでしょうか。

 しかし、私は神に見初められた喜びと同時に、どうしようもない恐怖も抱いていたのです。

 

 サクヤ様の表情は、確かに穏やかで美しいのです。しかし、それはまるで、精巧に作られた仮面のように感じられました。感情が欠落した人形のような不気味さ。人より遥かに上位の存在にその様な感情を抱くのは平常なのかもしれません。それでも私は、何かが違うと感じていました。

 まばゆい光に隠された、白い体躯から放たれる禍々しい気配。足元にまとわりつくような、底知れぬ闇。

 「違う」私の心が、体が、そう叫んでいました。そうして私は罰当たりにもこう思ってしまったのです。

 

 ─こんなに恐ろしいものが神であるはずがない、と。

 

 私へと近寄ってくるサクヤ様。恐怖から後ずさる私の肩を、母が掴みました。ギチギチと音を立て、母の指が私の肩に食い込んでいく。その鋭い痛みに思わず身動ぎした私を、さらに押さえつけるかのように、母は力を込めました。

 恐怖と痛みで視界が滲む中、私の元へと伸ばされるその白い手から目を逸らしたその瞬間、

 

「成る程、そういうからくりだったのか」

 

 突如、辺りに私たち以外の声が響きました。

 

「誰だ!」

 

 神像の影から現れたその人は、昨日、最後の挨拶をした藍染様でした。

 静かに佇む彼は、まるで闇を纏うかのような装いで、爛々と輝く瞳が私たちを貫いていました。太陽の下で晴れやかに笑っていた姿とかけ離れたその雰囲気に、私はただ驚いていたのです。

 

「死神…!」

「神託や神掛などと美辞麗句を弄し、人を欺きながら生き長らえてきた…随分と狡猾な虚だ」

 

 その端麗な顔を歪めながら、忌々しそうに吐き捨てるサクヤ様。しにがみ?ほろう?

 理解の追い付かない私を置いて、二人は話を続けていきます。

 

「君の霊圧が観測できなかった理由が漸く分かったよ。人間に寄生することで霊圧を隠していたんだね」

「…なんの事だか」

「誤魔化す必要は無いさ。もう全てを見通しているから」 

 

 狡猾。寄生。

 私はひしひしといやな予感を感じていました。信じてきたもの全てを裏切られるような、そんな予感を。

 

「…ハァ」

 

 サクヤ様は溜め息をつき、ゆらりと立ち上がりました。

 先程までの穏やかな様子は一変し、藍染様を睨み付けながら、荒々しい口調で言い放ったのです。

 

「あーあ、オマエが何も言わなければコイツはなんにも知らずにいられたのにな」

 

 何も、知らずに?

 動揺を隠しきれない私を一瞥した後、サクヤ様は嘲笑うように続けました。

 

「そうだよ、オレは霊力を持つモノに寄生し、その身体を乗っ取ることが出来る」

 

「やはり、その身体も君自身のモノではないね?」

「ああ、やっぱり分かんのか…オマエの言う通りこの体は歴代の神託者の身体を継ぎ足して作ったモンだよ!」

 

 甲高い声をあげ、高らかに嗤う化物。

 私にはサクヤ様が何を言っているのか、全く理解できませんでした。いや、むしろ理解したくなかったのです。

 サクヤ様は神などではなく、人に害なす化物。

 藍染様の言っていた悪霊、それが私達の遣えてきた神の正体。

 座り込んだままの私の肩には、相変わらず母の指が食い込んでいました。その痛みだけが、これはどうしようもない現実なのだと認識させたのです。

 ああ、母はどう思っているのだろう。この化物に騙され一生を捧げた私達一族を。

 今どんな気持ちなのだろう。私と同じように恐れているのか、悲しんでいるのか。

 そんなことを頭の片隅で考えながら、私はただ呆然と、目の前の非現実的な光景を眺めることしか出来ませんでした。

 

「ここに、僕以外の死神がいた筈だ。彼はどうした?」

 

「ああ、アイツか……

 ふざけやがってあのクソ死神!アイツのせいでオレの大切な器に傷が付いた!そのせいで霊圧が漏れ出て死神連中に勘づかれたのも許せねぇ!…。でもまあ、ちゃあんと食ってやったさ、小腹満たし程度にはなったよ」

 

「あの死神は無駄死にだったなぁ」

「…そうか」

 

「まあ、バレちまったもんは仕方ねぇ。オマエを殺して小娘に移りゃあ済む話だもんなぁ!」

 

 その言葉とともに、化物の視線は、私と藍染様を捉えました。

 思わず背を震わせた私に化物はニタリと口を歪めると、その白く細い腕を上げました。

 次の瞬間、まるで弾けるように翳された腕の皮膚が裂け、中から鋭利な刃物が浮かび上がったのです。そして、そのままの勢いで、化物は藍染様目掛けて襲いかかりました。しかし、藍染様は驚く様子もなく、ただ静かに刀を抜き、悠然と構えます。

 

  スラリと抜かれたその刀身は、近くの灯籠の光を浴びて、まるで鏡のようにキラキラと輝き、辺りを照らす。私は、恐怖で押しつぶされそうになりながらも思わず息を呑みました。その光景はこの世のものとは思えないほど美しく、場違いにも綿は見惚れてしまったのです。

 

「砕けろ、鑑化水月─」

 

 藍染様の口から紡ぎ出された言葉と共に、辺り一面に鏡のような破片が散りました。無数の破片が宙を舞い、その破片に写し出された藍染様の横顔。視線は冷酷に冷えていました。

 

 そうして振り落とされた化物の怪腕は、まるで意図的に藍染様を避けるかのように、轟音と共に地面へと突き刺さりました。大地が震え、土煙が立ち昇る中、藍染様はそこから一歩も動じることなく立ち尽くしています。

 それでもなお、化物は叫びを上げ、狂ったように何度も同じ場所に腕を振り落としています。その光景は、まるで見えない敵と戦う狂人のようでした。

 

(もしかして、藍染様の姿が化物には見えていないの…?)

 

 そう気づいた瞬間、藍染様は静かに動き出しました。刀身が一瞬きらめき、惑う化物の首を目掛けて鮮やかな弧を描いて振り落とされました。

 

 ゴロリと落ちる巨大な頭部。その無残な光景を尻目に、藍染様は優雅に刀を鞘に収めます。あまりにも呆気なく終わった化物退治に、私は拍子抜けしてしまいました。

 ああでも、これで村は救われる…私がそう安堵の息をついたその時。

 

 

 

 突如として、何かが藍染様の腹を貫きました。

 

 灯籠の揺らめく光に照らされ、艶々と不吉な光を放つ赤黒い何かが、藍染様の腹部を残酷に貫いていたのです。その赤黒いものは、まるで生きているかのように蠢き、先に刺さる藍染様を振り払うかのようにブルリと激しく動くと、そのまま無慈悲に床へと彼を叩きつけました。

 

 ピクリとも動かないその体躯からは、大量の鮮血が流れ出し、床を真っ赤に染めていきました。その凄惨な地獄絵図をボンヤリと見つめ、私の意識は現実から遊離していくようでした。きっと、彼はもう生きてはいないだろう。ひどく冷たい思考が、非情なまでに冷静にそう判断したのです。

 

 そして、私はふと気付いたのです。

 その赤黒いものが、私の後ろから伸びているという事実に。震える手で、バクバクと嫌な音を立てる胸を抑えながら、私はゆっくりと、まるで悪夢の中にいるかのように後ろを振り返りました。

 

「ああ」

 

 私の目の前に広がる光景は、想像を絶するものでした。私の母の、大きく歪に開かれた口から、太く長い赤黒いものが突き出していたのです。花開くように母の口から伸びるそれは、間違いなく藍染様を貫いたものでした。

 

 ─人間に寄生することで。

 

 頭の中に二人の会話が鮮明に甦り、私は全てを察してしまいました。この一連の騒動の中、一度も私の肩から手を離すこともなく、何も言葉を発さなかった母。嗚呼、母様…母様はもう、

 

 言葉を紡ぐ間もなく、母の口が更に大きく開き、生々しい音と共に口から首へと皮膚が裂けていきました。まるで蛹が羽化するように、その化物は母の皮を破り捨て、おぞましい姿を現したのです。

 

 その巨体は、異形のものでした。大きく裂けた口からは先端の尖った赤黒い舌が覗き、能面を張り付けたような死人のごとき白い顔に、ぽっかりと空いその穴からは新月のような黄色い瞳が覗いておりました。

 この恐怖の化身を前に、私の体は震え、声すら出せませんでした。目の前に広がる悪夢のような現実に、私の精神はついに崩れ落ちたのです。

 

 

 

 

 

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