走者がガバったら(世界が)即終了チャート はーじまーるよー!   作:私は地を統べる

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⚠挿し絵あり




神様を初めてみた日。 後編

 

「ひひ、ヒヒヒヒヒヒヒヒ!!」

「前の死神と同じ…無意味で無様な死に様だ!」

 

 金属が擦れるような耳障りな笑い声をあげ、その化物は、足のないツルリとした下半身を引き摺り、まるで巨大な蛇のようにとぐろを巻きました。そして、ピクリとも動かない藍染様の亡骸を冷ややかに一瞥し、吐き捨てるようにそう言ったのです。

 

「あ、な、なんで、斬られたハズじゃ」

 

 恐怖と混乱の中、私は思ったことをそのまま口に出していました。緩慢な仕草で動き出したそれは、暗闇のような巨大な影で私を覆い尽くし、邪悪な光を放つその瞳で私を見下ろす。蛇に睨まれた蛙のように動けなくなってしまった私に、どこか愉悦の色が混じった声色で化物は言いました。

 

「そこに倒れてるのは、()()()()()()()()()()さ。オレのカスが残ったソレをちょっとだけなら操れるんだよ」

 

 告げられたその残酷な事実に、深い絶望の闇が私を包み込んだのです。それでもなお、みっともなく這いずりまわりながら逃げようとする私。そんな私を見下ろしながら、化物はひどく優しい声で、まるで子供をあやすかのように問いかけたのです。

 

「オイオイ、逃げるなよ。オマエら人殺し一族とオレはずうっと仲良くしてきただろ?」

「え?」

 

 人殺し?

 

「ああそっか、オマエはまだ知らないんだなぁ。そっかそっか、なら教えてやるよ」

 

 駄々を捏ねる子供に寝物語を聞かせるかのように、化物は語り出しました。

 何故でしょう、逃げ出したい気持ちよりも先に、その声に耳を傾けることを止められなかったのです。けれど、その先を聞いたら取り返しが付かなくなると、私は予感していました。

 

「この村はなぁ飢饉が酷くて、オレが来た当初はほとんどの村民が飢えに苦しんでいた」

「そこに、それなりの霊力を持っていたオマエら一族の先祖が、オレに話しかけてきたんだ」

 

「『神様、お助けください』ってな」

 

「最初は食ってやろうと思ったんだが、慈悲深いオレはそいつらにこう言ってやったのさ」

「『オレが周りの村ぜぇんぶめちゃくちゃにしてやるから、その隙をついて食料を奪え。その代わり、オマエらはオレに生け贄を寄越せ』ってな」

「オレの巨体で地震を起こし、その隙をついてアイツらは他所の村を襲った。…上手くいったさ! 笑えるほどに」

 

「その後、アイツらにこう言われたんだよ。『貴方様を神として奉り、一生を貴方様に捧げます。ですからどうか、この村を御守りください』ってな」

 

「笑えたぜ。いつの時代も人間の醜さは変わらねぇ」

「アイツらはオレを恐れているが、同時に頼りにもしている。何度か起きた地震は、オマエら一族がオレに頼んできたからさ」

「だから今でも、神託を盲信するバカな村人達が生け贄を用意するんだ、他所の村から人間を連れてきてなぁ」

「あ、嘘でもねぇか、生け贄を貰わなきゃオレがこの村をぶっ壊すのは事実だし!」

 

 化物と一族の間に交わされた協定。

 村の者が人の命を奪っていたという事実。その罪に荷担していた私達一族。

 あまりにも度し難いその行い。

 私にはもはや、冷えきった身体を動かす気力はありませんでした。

 ただ、何も考えたくありませんでした。耳を覆って目を閉じて、口から漏れ出る嗚咽を、吐き気を押さえて床に額をつけていたのです。

 

 そんな私を慰めるように化物は言いました。

 

「なに、ただお前は俺に身体を明け渡せば良いんだ」

「そうすりゃ、オレが神様として村人全員に罰を与えてやれるから。ちゃあんと残さず食い殺して全員一緒の地獄に送ってやる」

 

 怒り、恐怖、嫌悪。ぶるぶると震える身体で、化物を睨み付ける。

 お前のせいでこうなったのに。お前のせいで、お前の、

 恨み、憎しみ、ありとあらゆる負の感情が心の底から沸き上がり、しかし、私はそれをぶつけることは出来ません。ただ拳を握り、その耳障りな笑い声を聞くことしか出来なかったのです。

 

 

 

「それは君とその甘言に乗った者の話で、その子は関係ないだろう」

 

 ふわりとした浮遊感の後、私は誰かの腕に抱かれていることに気がつきました。目を開けると、そこには信じられない光景が広がっていました。

 

 藍染様でした。鮮血を流し息絶えたはずの彼が私を優しく抱きかかえているのです。

 

「な、何故、何故生きている!?トドメは刺したハズだ!!」

 

 化物の絶叫が辺りに響きわたりました。

 私は先ほどまで藍染様が倒れていた場所へ目を向けると、そこには一つの灯籠が倒れており、それは粉々に壊れていました。

 

「まさか、身代わりか…!?」

 

 化物の声には、驚きと恐怖が混ざっていました。

 藍染様は静かに私を地面に降ろし、その身体で私を守るように後ろへ下げました。彼の表情は無感情そのものでしたが、化物を見つめる瞳の奥には何かが蠢いているように見えました。

 

「まあ良い、どんなからくりかは知らねぇが、もう一度オマエを殺せば済む話だからなぁ!」

 

 化物の声が再び響き渡り、その巨体が藍染様めがけて襲いかかってきました。しかし、彼は静止したまま、刀を構えることも、身構えることもなく、ただじっと化物を見つめるだけです。

 

 そうして、化物の怪腕が振り下ろされました。しかし、次の瞬間には信じられない光景が広がっていたのです。

 

 化物の体が、まるで一瞬で斬られたかのように、真っ二つに切り裂かれました。血しぶきが舞い、化物の断末魔が本堂に響き渡る。藍染様は相変わらず無表情のまま、叫び声をあげる化物を見つめるだけ。

 

 二つに引き裂かれた巨体。その隙間から、人影が姿を現しました。そうして現れたその人物に、私は自分の目を疑ったのです。

 そこに立っていたのは、もう一人の藍染様でした。

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

「な、何故だ…何故、二人に!一体どういうことだ…!?」

 

 二つに裂かれ地に伏せてもなお言葉を放つ化物は、己に何が起きたのか理解できず、ただ混乱と疑問を吐き出しています。その問いに、私の前に立つ藍染様が静かに答えました。

 

「複製を作るのが君だけの特技だなんて、思い上がりも甚だしいな」

 

 その言葉と共に、化物を切り裂いたもう一人の藍染様が砕け散りました。パラパラと散らばる破片は、まるで空に溶けるように淡くなり、やがて何も残さず消え去ったのです。

 

「バカな!オマエの力は視覚を操るものだろう!?それに対象も一人であるハズだ!オレはオマエが傀儡を壊す姿をみていた!」

「君は僕の斬魄刀、鑑化水月の能力を根本的に勘違いしているようだね。対象が一人だなんて、僕は一言も言っていないよ?」

 

 諭すように、しかしながらその声は氷のように冷徹でした。藍染様はゆっくりと化物に歩み寄りながら言葉を続けていきます。その姿は、罪人へ刃を振り落とさんとする処刑人のようでした。

 

「オマエ…まさか、オレが貫いたのは…」

 

「僕の複製というわけさ。もっとも、貫かれる前に姿を隠したけれど。君が見た僕の死体は、ただの灯籠の残骸に過ぎない」

 

 

「いつから、いつからオレに気付いていやがった!」

 

「話す義理は無いが…まあそうだな」

 

「初めからさ。初めから君の本体が、背後の女性にいると見抜いていた」

「そのまま君を斬ると彼女を巻き込みかねないからね。複製を用いて策略を巡らせてみたが、上手くいって何よりだ」

 

 藍染様はこの化物を掌で転がし、自分の策略通りに操っていたのです。私は圧倒されました。彼の底知れぬ強さ、その力の使いどころに、ただ驚愕の念を抱くばかりでした。

 

ああ!しんでたまるか!!こんなところで死んでたまるか!!

 

 ワナワナと体を震わせ、負の感情を渦巻かせる化物の目は底無しの暗闇のようで、二つに分かれても尚、生にしがみつこうと床でのたうち回るその姿は、蜘蛛の巣にかかる虫のようでした。

 そんな化物の様子を藍染様はひどく冷たい表情で見下ろし、一つ溜め息をつくと、何かを唱えました。

 すると、四角い半透明の箱のようなものが現れ、その化物をぐるりと包み込むと、箱は徐々に収縮し、掌ほどの大きさに小さくなっていきます。コロンと床に転がったその箱を拾い上げ藍染様は静かに懐に仕舞いました。

 その瞬間、彼はまるで独り言のように呟いたのです。

 

「君の本体が背後の女性にあると見抜いた理由はね、君の傷にあるんだよ」

「その右手の傷、そこから霊圧が漏れ出ていた」

「君が無駄死にだと断じた死神。その死神につけられた傷が君の敗因だ。…まあ、もう聞こえてはいないだろうが」

 

 

 

「怪我はないかい?」

 

 ゆっくりと私の方へと歩み寄ってきた藍染様から掛けられたその言葉に、私は素直に頷くことが出来ませんでした。

 拳を握ったときに傷ついた掌には、血が流れていました。そんな小さな痛みよりも、私はずっとずっと、胸の方が痛かったのです。沈黙が続く中、私は藍染様を見上げ、彼の目を見つめました。

 

「すまない。僕達がもっと早く虚を対処していれば、こんなことには…」

 

 痛ましいものをみるような目で私をみた後、彼は顔を伏せそう言いました。その言葉に私は首を降ったのです。いいえ、いいえ、貴方達は何も悪くない。だけど、

 

「私は、どうすれば良いのでしょうか」

 

 思わず漏れたその泣き言。藍染様にこんなことを言っても意味がないと分かっているのです。それでも私は、心中にこびりつくやるせない気持ちをどうしても吐き出したかったのです。

 私が守りたいと思ったもの、私の生き甲斐は、全てが嘘で塗り尽くされた、おぞましいものでした。

 私の今までの人生は、無意味どころか、拭いきれない罪に犯された酷いもの。非道な現実に打ちのめされ、私はその場で泣き崩れました。

 

「知らなかった…知らなかったんです……!」

 

 生け贄として殺された幾人もの犠牲者。

 その人たちのことを思うと、血に染まった幾人もの手が私の身体に巻き付いていくような、そんな感覚に陥りました。

 もし私が、サクヤ様の正体に気付いていれば。一族の、村人の凶行を止められていれば。そんな後悔が、私の心を蝕んでいくのです。

 

「君がアレの正体を知ったとしても、この惨劇は避けられなかっただろう。虚は、君達のような人間が敵うような存在じゃない」

 

 嗚咽を漏らす私の背を撫でながら、藍染様は、静かに、しかしキッパリとそう断言しました。

 

「君の先祖は、地獄に垂れ下がる蜘蛛の糸を手繰り寄せた。それが血で赤く染まった糸だと気付いても尚、彼らは手を離すことが出来なかった」

「悲しいことに、全ての生物は、自分より優れた何者かを信じ、盲従しなければ生きてはいけない」

 

 藍染様の言う通り、それが地獄へ繋がる赤い糸だと気付いても、私の村は他所の村から略奪し、人を殺しました。

 罰せられるべきなのです。いっそ、滅んでしまえば良いとさえ思うのです。…ああ、それでも私は、この村が好きなのです。穏やかな風が吹き、田畑の香りが鼻を擽る。子供たちが走り回り、村民たちの笑い声が響く控坐村が、私はどうしようもなく愛おしいのです。

 

「僕が村人を罰することはない。僕達の存在は世界の均衡を保つ調停者に過ぎないからね」

「だが、これ以上、この村が罪を重ねないように策を講じることは出来る」

 

 その言葉に、私は顔を上げました。

 希望を掴もうとするかのように、藍染様の手に縋りつき、彼の目を見つめたのです。彼は私の手を握り返し、真っ直ぐな目で静かに、しかし力強くこう告げました。

 

()()()()()()()()()()()()()

 

 唖然とする私に、藍染様は淡々と言葉を繋げていきます。

 

「村長からは霊圧を感じなかった。つまり彼は、サクヤ様の正体を知らない筈だ。君がサクヤ様を演じるにあたり支障はない」

「そして、()()が村の運営を担っていたとは考えにくい。実権を握っていたのは村長だろう。君はただ、サクヤ様として神託を言い伝えるだけで良い」

「重要なのは、村人が神託を絶対視しているという事実だ。君がサクヤ様の神託だと宣言すれば、彼らは疑うことなくその言葉に従うだろう」

 

「…そんなに、上手くいくでしょうか?」

 

 私のようなただの娘が、神に成り代わり、村を導いていく。あまりの大役に、私は不安に胸を押し潰されそうでした。そんな私の肩を一つ叩くと、藍染様は軽々しくこう言ったのです。

 

「そんなに気負うことはないさ。神は皆、人のまがいものだ」

 

 堂々と、「神は居ない」と断言する彼に、私は呆気に取られ、そして全てがバカらしく思えたのです。

 そんな私の心中を察したのか、藍染様はフッと静かに笑みを浮かべると、私の手を取り、傷口に手を翳しました。淡い光が傷口を覆うと、みるみるうちに傷が塞がっていったのです。

 驚く私を尻目に、彼は小指を差し出してこう言いました。

 

「この夜の出来事は僕と、君だけの秘密だ」

 

 指切りげんまん。

 子供じみたそのおまじないに、張り詰めていたものが切れ、私はついに声を上げて笑ってしまったのです。

 

 

 

この世には、人間に都合の良い、窮地から、絶望から救い上げてくださるような神は居ないのでしょう。それでも、闇を切り裂くように現れ、救いの道を示してくださった藍染様のことを、愚かにも私は、

 

 ()()のようだと、そう思ってしまったのです。

 

 

 

 

 






─そう遠くない未来の話。

「なんで高校生にもなって『住んでる場所をよく知ろう!』なんて課題が出るんだよ」
「つべこべ言わずに資料を探せ!学びは学生の本分だろうに。」
「へいへい…お、あった。」
「む?旧控坐村方資料…」
「この旧控坐村ってのが、昔の空座町なんだってよ。」
「ほう、初耳だな。」
「この本一冊借りれば、課題はどうにかなるだろ。…ん?控坐村で信仰された土産神サクヤ…へぇ、知らなかったな。」
「何々?サクヤ様は黒い装束を纏い、光輝く刀を携えていたとされる…?一護!サクヤ様とやらは死神のことかもしれんぞ!」
「何でもかんでもそっち関連にするんじゃねぇよ。ただの伝承だろうが」
「何おう!現世の歴史と死神は密接に結び付いているのだぞ!一説によると、平将門の討ち取られた首が動き回ったという伝承は、半虚と化した平将門が飛び回ったことに由来していると言われていて─




Q.因習村破壊してなくね?
A.ホモは嘘つき。

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