走者がガバったら(世界が)即終了チャート はーじまーるよー!   作:私は地を統べる

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「昼間にだって、雲に覆われた空にだって、必ず星がある。見えぬけれどもあるんだよ。」
「なあ時灘、俺は─







見えない星へ手を伸ばす。

 

 藍染惣右介が尸魂界へと帰還したその日、旋界門を抜けた先には、白い布で顔を覆った者達が待ち構えていた。詳しい説明もなく連行された彼は、激しい胸騒ぎを覚えながら、冷たい廊下を進むしかなかった。

 

「■■月■■日、藍染総司が綱彌代時灘様へ襲い掛かり、それに応戦する形で斬り合いに。結果、藍染総司は命を落とし、綱彌代時灘様の奥様である綱彌代歌匡様は重傷を負われました」

 

 押し込まれた薄暗い部屋の中で、一息つく間もなく告げられたその言葉に、惣右介は身体を硬直させた。

 

(父が、死んだ…?)

 

 惣右介は最初、言葉の意味が理解出来なかった。しかし、「綱彌代」という名前を認識した瞬間、鈍っていた思考が急速に動き出す。

 

(綱彌代時灘…歌匡…まて、それは、その話は…)

 

 混乱する惣右介をよそに、彼らは粛々と取り調べを続けていく。表情の見えない白い布越しに、淡々と、しかしどこか責めるような声色で投げられる質問。断崖へと追い詰められるようなその詰問に、惣右介の精神は徐々にすり減っていった。それでも、彼はその憔悴を顔に出さず、努めて冷静に言葉を返していた。

 隙を見せたら最後、この連中につけこまれると理解していたからだ。

 

「藍染総司が不貞を働いていたのは知っていましたか?」

 

 そんな惣右介の様子が気に障ったのか、嫌みたらしい口調で言われたその一言に、惣右介は目の前が真っ赤に染まるような激情に駆られた。

 

(あんなに母を愛していた父が、そんなことをするはずがない!)

 

 惣右介は机の下で拳を握りしめ、内心で叫ぶ。いっそ、この拳を相手に振るってしまおうかと本気でそう考えた。

 しかし、藍染惣右介としての理性が、短慮な行動に出るのを許さなかった。彼は荒れ狂う霊力を、煮えたぎる怒りを強固な理性で押さえつけ、毅然とした態度でその問いを否定したのだった。

 

 

 

 

 

「お疲れさま、惣右介くん」

 

 長い取り調べを終えた惣右介を出迎えたのは、上司である京楽春水だった。

 その手には、取り調べの際に取り上げられた惣右介の斬魄刀が握られている。鑑化水月を受け取った彼が、その鞘を撫でると気遣うように刀が震えた。それを感じて、彼は張り詰めていた空気を四散させたのだった。

 

「話があるから、ついてきて」

 

 

 そうして通された隊長室には、重苦しい空気が漂っていた。京楽のいつもの飄々とした態度は影をひそめている。彼はひどく億劫そうに口を開き、事の顛末を語り始めた。

 

 丁度、惣右介が現世へ赴いたその日の晩、件の事件が発生したらしい。綱彌代家の圧力により裁判すら開かれない可能性があったが、京楽が異議を申し立てたことで裁判沙汰となり、つい先日、綱彌代時灘に判決が下されたのだと、そう教えられた。それを聞いた惣右介に、一つの疑問が浮かぶ。

 

「裁判は終わったのですよね?僕の取り調べには意味があったのですか?」

 

 惣右介の問いかけに、京楽の表情が険しくなる。

 

「…君たち家族が、今回の事件に関与しているんじゃないかって疑われていたんだよ」

「右乃ちゃんも尋問を受けたんだけれどね、精神的に参ってしまったのか、倒れてしまって…」

 

「…!母は、大丈夫なんですか?」

「うん、精神的なもので命に別状はないよ。大事を取って今は入院しているけれど」

 

 全て手遅れ。

 そんな言葉が惣右介の脳裏を過った。まるで、手の中から大切なものがこぼれ落ちていくような、強い喪失感に苛まれた。

 そんな惣右介を見つめながら、京楽は固い声でさらに言葉を続けた。

 

 

「惣右介くんを、八番隊から五番隊へ移籍させることになった」

「は」

 

 亡くなった藍染総司の穴埋め。

 辻褄は合う、だが、それ以外に何か理由があるのだと、京楽の苦々しい表情から惣右介はそう確信した。

 

(大方、上からの圧力でもかかったのだろう。僕と京楽隊長が共謀するとでも思ったのか、もしくは、京楽隊長個人への単なる嫌がらせか。…馬鹿らしい)

 

 黒く淀んだ何かが、胸へと積もっていく。キーンと耳鳴りがし、頭がズキズキと痛み出す。そんな不快感から逃れるように、惣右介はゆっくりと視線を下ろした。

 

「ごめんよ」

 

 色褪せていく視界の中で、京楽のその一声が彼の耳に届いた。伏せていた顔を上げ、惣右介は正面を見る。

 京楽の掌は固く握りしめられていた。対面に座る惣右介にまで、ギリギリと音が聴こえるほど、強く、その拳は握られていた。死神にとっては一瞬の時間でありながら、決して短くはない時間を共に過ごしてきた惣右介だが、ここまで感情を露わにする京楽の姿を見たのは初めてだった。

 惣右介は、胸の中で塞き止めていた感情が焼け、焦げ付いていくような感覚を覚えた。世界に失望していた彼にとって、ただの友人として、藍染総司の死を悼む京楽の存在はひどく温かいものに思えたのだ。

 

 

 

 

 

 京楽の計らいにより暇を貰った彼は、人気のない場所を目指して歩いていた。

 父と鍛練を積んだ、木々の開けた場所。

 思い出深いその場所で彼は切り株へと腰掛けた。そうして、両手を組むとそれに頭をつけるように前屈みになる。その姿は、端から見れば神に祈るような、そんな姿をしていた。

 

(何故、父が原作に関わっている?)

 

 BLEACH Can't Fear Your Own World。

 千年血戦篇から半年後に発生した騒動について書かれたスピンオフ小説。今回の事件は、その騒動に纏わるものだった。

 

 東仙要と、綱彌代時灘の因縁。綱彌代時灘と歌匡の関係。そこに繋がる、綱彌代家の計画を知った死神。

 

 その死神については「親友として時灘や歌匡と繋がっていた平民上がりの死神」としか描写されていなかった。所属する隊も、家族関係も明らかにされていない。もし仮に、この死神が五番隊に所属していたとしても設定に矛盾は生じないだろう。しかし同時に、惣右介は一つだけ大きな違和感を覚えた。

 

(藍染惣右介の父が時灘の親友だった?そんなはずはない)

 

 藍染惣右介と綱彌代時灘の間にそこまでの深い因縁があるとは考えにくい。そのような唐突で不自然な設定は原作には馴染まないはずだ。惣右介はそう結論付けた。

 

 しかし、彼の心の奥底で、ある事実が引っかかっていた。藍染総司の死を契機に、自身が五番隊へ移籍したという紛れもない事実。その一連の出来事には、単なる偶然とは言い切れない、何か大きな意思の介在を感じずにはいられなかったのだ。

 

(まるで、歪んだピースを無理矢理嵌め込むために、パズルそのものが形を変えていくような)

 

 世界の修正力。或いは、運命の強制力。

 

 己の存在が関係の無い人々を巻き込んだ。懸念していた事象がついに起こってしまったのだと考えて、惣右介は絶望した。息が詰まり、腹の中から何かがせり上がってくるような感覚。バクバクと煩い鼓動が耳をつんざく中で、彼は深く呼吸をする。

 

(落ち着け、鑑化の言葉を思い出せ。仮にそうだったとしてもおかしいだろう)

(あの場で命を落とすはずだった歌匡が、意識不明ながらも生存している。これは明らかに原作とは異なる展開だ)

(もしかしたら、この世界ではこの流れが正しいのかもしれない)

 

 そんな言い訳染みた考えを思い浮かべ、惣右介は自嘲気味に口許を歪ませる。

 

(この問いに意味はない。僕の知識も、記憶も、この世界の表層をなぞる程度のモノでしかないのだから)

 

 それでも、惣右介は思考を繰り返した。答えの無い自問自答を繰り返すことで、父の死や、自身を取り巻く現状から目を逸らす。これは彼なりの現実逃避の形だった。

 

 

 

 

 

 

 翌朝、惣右介は中央四十六室に立っていた。

 証人尋問という名目で呼び出された彼だが、綱彌代時灘の判決が下った今に話を聞く理由など無いだろうと考え、この喚問の目的は全く別のものだろうと予測していた。

 

 部屋には無機質な数字だけが並ぶ室内、顔の見えないそれらから無神経な視線が向けられる中で始まった裁判に、惣右介は心底呆れてしまった。

 

 彼らは横柄な態度で、的外れな質問ばかりを投げかける。さらには「()()()()に逆らった汝の父が悪いのだ」とまで言い放った。惣右介はこの瞬間、この裁判の真の目的を悟った。この茶番は、父を喪った彼に対して、余計なことをしないよう釘を刺すためのものだったのだ。

 

(何が賢者だ)

(己の地位と名誉だけを求め、この世界に腐敗をまき散らすだけの有害な存在だろうに)

 

 惣右介は内心で毒づいた。身体の奥底からどす黒い感情が沸き上がる。

 

 惣右介は、侮蔑の感情を抱きながら、表面上は従順な態度で応答し、面従腹背の姿勢を貫いていた。

 そんな彼の様子に満足したのか、あるいは単に退屈してしまったのか、予想外に早く退出を許された惣右介は背中に刺さる視線を感じながら静かに部屋を後にした。扉が閉まる音と共に彼は小さく息を吐いた。

 

 

 こびりついた不快な感情を拭うように胸元を擦りながら、惣右介は足早に通路を歩く。早々に、この不愉快な場所から逃げ出したかったのだ。

 

 そんな彼の耳に、何かを激しく打ち付けるような打撲音が入る。いぶかしみながら門をくぐったその先で目の当たりにした光景に彼は思わず立ち竦んだ。

 

 頭を抱え蹲る青年。そんな無抵抗な彼に向け、門番達は何度も何度も棒を振り下ろしている。長い時間、暴力を振るわれていたのであろうその青年からは、至る所に血が滲み出ていた。

 

 目の前で行われる非道な行いを止めようと、門番達に声をかける。そうして、青年の顔を見た時、彼は漠然と理解した。

 

(ああ、そうか。彼が藍染惣右介と出会ったのは…)

 

 大きな流れに身を任せるよう、藍染惣右介はその青年─東仙要へと声を掛けたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

彼が僕の手を取った時、僕は心の底から安堵した。繋がれたその手。それは僕が、藍染惣右介に成りきれている証明だと思ったからだ。

予定調和。シナリオ通り。そんな言葉を思い浮かべた頭の片隅に、ふとよぎる控坐村での出来事。

 

(何だ、僕もあの虚と同じことをしている。差し伸べたその手で、彼を地獄へ引きずり込もうとしている)

 

締め付けるように身に纏わり付く自己嫌悪。腹の中でぐるぐると渦巻き、込み上げてくる吐き気。それでも、それでも、

 

(僕はもう止まれない)

(この汚濁も、嫌悪も、絶望も、惣て飲み干して進むしか無いんだ)

 

 

 

 

 





藍染 総司【あいぜん そうじ】
この世界における藍染惣右介の父親。
彼の始解は「始解を見せた対象の過去や未来を読む」能力であり、見えた未来に対して無抵抗で流れに身を任せる性質を持つ総司は、定められた未来を変える決意を持つことが条件の卍解を取得するには至らなかった。
綱彌代時灘の大親友(自称)
霊術院時代に総司が時灘に積極的に近づいたのが交友の始まり。交友関係は、時灘を起点に浮竹、そして京楽という順番で繋がった。総司が時灘に近づいた理由は「将来自分を殺す存在がどのような人物か知りたかった」為である。
後に妻となる右乃とロミジュリばりの大恋愛の末に結婚。そうして産まれた息子の藍染惣右介を腕に抱いたとき、彼は自身の役割を悟った。

最後の最後に卍解を習得し、分岐する未来を読み取って選ぶ能力を手に入れた総司は、自身の死が世界に必要であると読み、友人である歌匡の運命だけを変え、その生涯を終えた。


小話
裁判を終えた綱彌代時灘が門の前に居たのは、親友(笑)の息子を慰める(煽る)ため。でも東仙要に愉悦したから満足して帰った。ニアミス
主人公に会ってたら…どうなってたんだろうね。


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