~アビドス高等学校 屋上(夜)~
「はぁ・・・。何やってんだろ、私・・・」
夜の学校の屋上で、夜風に吹かれながら先生はフェンスに凭れながら物思いに耽っていた。
ヘルメット団との戦いから帰還し、勝利の余韻に浸りながら騒いでいるなかで、私はずっと心ここに非ずだった。
「絶対みんな私に気を遣ってたよねぇ・・・」
そう呟いて、ある物をポケットから取りだして私はそれを眺める。
あの人が”いつか現れる持ち主に渡してあげて”と、サムズアップと共に幼かった自分に渡してきたお守りを。
「生徒の・・・子供の命が簡単に消える場所、か・・・・・・」
元居た場所でも、紛争地帯や戦争をしている場所はあった。
でも私にとってそれは、所詮テレビの向こう側での話だった。それがどうだ?
キヴォトスへ来て早々に、銃弾や爆弾の雨霰にさらされて常に命の危機と隣り合わせだ。
・・・自分の命が危険な分には構わない。・・・いや、正直に言えばもちろん恐怖だってある。私だって、死にたくはない。
だけど、子供達の命が掛かっているとなると話しは別だ。
子供達には未来がある。その存在そのものが可能性の塊なのだ。それを使い潰す?
・・・ふざけるな!財団だかなんだか知らないが、大人が子供を利用した挙げ句に殺すなど、あっていいわけがないッ!!
「・・・あの人みたいな大人になるって決めたのに!今まで、頑張ってきたのに・・・!こんなにも簡単に心を乱されて・・・!」
ワカモちゃんがガイアメモリについて説明をしてくれていた時に、私の心はぐちゃぐちゃだった。
怒り、恐怖、不安、etc.etc.etc・・・・・・。私の心は真っ黒な感情に支配された。それこそ・・・・・・
ーそいつらを殺してやりたいと思うほどに。
「・・・私は、なんで先生になったんだっけ?私の覚悟って、なんだったんだろう・・・」
そうやって思考の海に溺れかけていたら、ふいに声を掛けられる。
「あ、いたいた!先生、探したぞ?」
「ソウゴさん・・・?」
「うわっ、どうしたんだよ!?顔色、真っ青だぞ?これ、羽織って!」
「・・・あったかい」
「砂漠の夜は冷えるからね。暖かくしないと」
先生の顔色を見て、寒さにやられたと思ったソウゴは自分の上着を先生に羽織らせる。
しばらく無言でいると、先生がソウゴへ声を掛ける。
「あの、ソウゴさん・・・質問しても、いいですか?」
「・・・車での事?」
「あはは・・・。お見通しでしたか・・・」
「先生の顔を見てるとね・・・。まあ、無理もないさ」
「・・・ソウゴさんは、凄いですよね。生徒達に心から信頼されて、頼られて、この人がいるなら大丈夫って思わせることが出来て・・・。私なんかより、よっぽど先生してますよ・・・」
「先生・・・」
「私、分からなくなったんです。ワカモちゃんの話を聞いて、心の中が真っ黒な気持ちで塗り潰されて。自分の、今まで生徒のために、子供のためにって決めてた覚悟がぶれちゃって・・・。正しく、人を導ける大人になろうって決めてたはずなのに・・・」
溜まっていた気持ちを全て吐露するように、あるいは懺悔するように、先生は言葉を続ける。
「私、子供の頃に苛められてたんです。それで毎日一人で、近くの海辺で泣いてました。なんで私だけがこんな目に遭うの?意地悪な皆なんか、消えちゃえっ!て毎日毎日、真っ黒な感情で叫んでました」
「それは・・・」
「そんなある日、ある人に出会ったんです。その人は、世界中を旅してるって言ってました。そして偶々見つけた私に、どうしたのって声を掛けてくれたんです」
今でもハッキリと思い出せる私の大切な思い出・・・。
「それで話しました。苛めの事、いじめっ子や助けてくれない同級生や先生、皆消えてなくなればいいと思ってたことも。私の話を最後まで聞いたその人は、私にこう言いました・・・」
『なら、聞いてみればいいじゃない。なんで苛めるの?って、それで納得いくまで気持ちをぶつけ合って、話し合ってみれば、お互いに分かり合うことが出来るんじゃないかな?』
「それに対して私は怒りました。そんなに簡単に済めば、今みたいな事にはなってない!って。あなたは何も知らないからそんな無責任なことが言えるんだ!って。そしたら今度は・・・」
『でも、悲しいじゃない?聞いてくれないから、意味がないからって、せっかく言葉があるのに話し合わないで、傷付けあって・・・。それでどっちも分かり合えないまま、関係が終わるなんてさ?そんなの、どっちも救われないじゃない?』
「そんな言葉に反発するように、私は言いました。”あなたの言っていることは、全部綺麗事だ!第一、そんなことで私の苦しみも、痛みも消えやしない!そんな耳障りの良い言葉で何が変わるんだ!”って。そしたら・・・」
『・・・うん。そうだね、君の言う通りだ。でも、綺麗事で良いじゃない!だって、嫌なことを
「・・・て、サムズアップしながら腹立つくらいの良い笑顔で言うんですよ。なんだよ青空ってって思いながらも、不思議と心は晴れ渡ってきてて・・・。で、その日はそれで別れて次の日からも同じ場所で何日か会って、いろんな話をして遊んで、その人とお別れする前日に私は勇気を出していじめっ子と対話したんです・・・拳で」
「えぇっ!?」
「あはは!その人も今のソウゴさんみたいに驚いてました!」
「そりゃ驚くでしょうよ・・・。暴力はダメだみたいな話をしてたのに、拳で解決してきたら・・・」
「その人にも言われましたね!・・・でも、私はこう言ったんです。”言葉を尽くしたけど、聞かなかったから
けらけらと笑う先生に、”少し元気が出てきたかな?”と笑顔を向けるソウゴ。・・・決して、引きつった笑いではない。
「私はなんやかんやで、その人の名前を聞いてないのを思い出して、最後に名前を教えてほしいと頼みました。そして、教えてくれた・・・」
『俺の名前?・・・俺は、2000の技を持つ男!五代 雄介!今は、世界中を旅してる冒険家さ!』
『冒険家って危なくないの?危ないとことかも行くんじゃないの?』
『大丈夫!だって俺、クウガだから!』
『クウガ?なにそれ?』
『俺の考えた、理想の自分!ってやつかな?まあ、そんな感じで!』
『ぷっ!なにそれ!・・・ねぇ、私もなれるかな?クウガに』
『!!・・・なれるよ、君なら絶対!俺が保証する!だって、俺は・・・』
『『クウガだから!・・・ぷっ!あっははははははは!』』
(ああ、そうか。私は、私を救ってくれた雄介さんになりたかったんじゃない・・・。私なりの”クウガ”を見つけて、私も彼のように誰かを、子供を導きたかったんだ・・・!)
「そっか、先生はあの人に会ってたのか・・・」(ボソッ)
「・・・あ~!昔話してたら、思い出しました!自分の原点、自分の想いを、覚悟を。ソウゴさん!ありがとうございました!!」
「俺は何もしてないよ。先生の話を聞いてただけだし」
「それが私にとっては、とっても大切なことだったんですよ!自分を取り戻すための!・・・あ、そうだ!」
先生はポケットから何かを取り出すと、ソウゴにそれを手渡してきた。
「これって・・・!」
「雄介さんが別れ際に、私に渡してきたんです。いつか持ち主が君の前に現れるはずだから、その時に渡してあげてって」
「え、でも、何でそれで俺に?」
「ん~・・・何となくですけど、今までの話をしているうちに、ソウゴさんに渡すのが正しいって思うようになってて。受け取ってくれます?」
「・・・うん。ありがとう、受け取るよ」
ソウゴは先生より、「クウガライドウォッチ」を受け取ると青空の下で、サムズアップで微笑む男を幻視した。
「・・・いよっし!明日から、また頑張るぞ~!ソウゴさん!私、この辺りで失礼しますね!お休みなさい!」
元気に走り去っていく先生を見送りながら、ソウゴは呟く。
「まったく・・・励まそうと思ったら、勝手に自分で立ち直るんだもんな・・・。あなたは十分あなたの目指す大人として、立派にやれてますよ、先生」
翌朝、いつも以上に元気な先生に、皆は心の中で大きく安堵するのだった。
うちの先生は子供の頃に、五代 雄介に会ってたんですね!
時々、己の闇に呑まれそうになるけど、持ち前の優しさと気持ちの強さで闇を晴らします。
ちなみにその度に、先生のメンタルは強化されます。