めぐみんが異世界に行って戻って来る話   作:猿野ただすみ

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少年少女の異世界転生(リインカーネーション)

≪めぐみんside≫

そして刻は流れ。……うむ、我ながら格好いい出だしだ。あ、いや、それは置いといて。

現在の私は中学校の2年生、年齢で言えば13歳である。そう、この世界に跳ばされる直前と同じ歳になった。相変わらず元の世界に戻る算段はついていない。こめっこは元気にしているだろうか。自称ライバルのゆんゆんは、あれ以上ぼっちを拗らせてはいまいか。いや、そもそも、である。このままあの世界に戻ったとして、そこは私のいた時代なのだろうか。

この世界には異世界ファンタジーというジャンルの物語がある。その話の中には、この世界の人間が異世界へと移動してしまうというパターンが一定数あり、典型的な例としては単純な異世界転移、異世界召喚、異世界転生の三つが有名だろう。

そしてこれらにSF的な要素が加わり、元の世界と異世界とでは時間の流れが違うという作品も多い。これは古典にも見られ、浦島太郎の物語などが該当する。

何が言いたいかといえば、こちらと向こうとでは時間の流れが違う可能性があるという事だ。こちらより向こうの方が時間の流れが遅ければ、運が良ければ私の年齢に見合ったタイミングで戻れるだろうが、逆の場合は最悪、知り合いは全て亡くなっている、という事も考えられるのだ。

それに、だ。私をこちらに跳ばした謎の存在は、私の刻と世界の繋がりを棄却した。ならばそもそも、跳ばされた先が元の世界と同じ時間軸だったのかさえわからないのだ。

……いけない。考えれば考えるほどにマイナス思考へと落ち込んでいく。うう、こめっこを愛でたい。我が使い魔の黒き魔獣をもふもふしたい。

 

『どうした、めぐみん。随分と落ち込んでるじゃんか』

 

クラスメイトのちひろが、軽い感じで聞いてきた。

 

『……少しネガティブシンキングに陥っていただけです』

『いや、だけですって問題じゃないっしょ。少しくらいなら相談に乗るよ?』

 

まったく。相変わらずお節介な子だ。

 

『……いえ、生憎と「私の明かせない秘密・その1」に関わる事なので』

『出た。めぐみんの脳内設定!』

『脳内設定じゃありませんよ。とはいえ、明かしたところで信じてはもらえないでしょうが』

 

明かせない秘密・その1。要は私が異世界転移者だということだ。私だって体験前なら信じはしなかっただろう。

 

『そんなの、言ってみなきゃわかんないじゃん』

『いいえ、わかりますよ。……まあ、証明する方法はありますが、それは「私の明かせない秘密・その3」を明かさなくてはならないので却下です』

 

その3は、私が魔法使いで爆裂魔法の使い手だということだが、さすがにそんなものを街中で使うわけにはいかない。

……爆裂魔法はマナの少ないこの世界でも、長年鍛錬したマナの集束と収束によって、理論上は発動可能と思われる。だが生憎と実験は出来ていないし、発動しても良くて爆発魔法、想定以下なら炸裂魔法程度の威力しか出せないだろう。何故この世界…というか日本には、誰の目にも触れないほどの荒野というものが存在しないのだ! 私に爆裂魔法を撃たせろっ!!

……いや、つい取り乱してしまった。

因みに「私の明かせない秘密・その2」は、中身はすでに21年生きていることだ。もっとも見た目の年齢に引っ張られてか、知識量は増えたものの精神的には、1度目の13歳の頃とあまり変わりはしないが。

 

『因みに、その秘密っていくつあんの?』

『今のところ、その8までです。今後も増えるかもしれませんが』

 

まあ、異世界が直接関わるのは今のところあとひとつ、紅魔族についてで、それ以外は黒歴史的な事だけど。なお、精神が昂ぶったときは目を閉じ、心が落ち着くまで目を開けない様にしているので、私の紅い瞳が(かがや)くことは誰にもバレていないが。いや、紅魔族的にはそっちの方が格好いいのだが、そんなのがバレたら変な研究機関に拉致されかねない。……マンガの見過ぎだろうか。

 

『ふーん。……でもさ、そんな隠し事してて、後ろめたくはならないの?』

『何を言ってるのですか。ちひろにだって…いえ、人間誰しも隠し事はあるものでしょう? 私の場合は、「隠し事がある」事を「隠す」のをやめただけです。それに秘密めいた美少女というのも格好いいですが、こういう風にのらりくらりと躱していくのも格好いいと思いませんか?』

『なるほど。そういう方向性かー』

 

ちひろは半ば呆れながら言った。やはりこの世界では、紅魔族の感性は理解されないようだ。……まあ、こちらにも中二病は存在しているが、私は一度もお目にかかったことはない。

そんな事を話しているうちに、リンゴーン、と予鈴が鳴った。

 

『おっと、もうSHRの時間か。そんじゃめぐみん、話の続きはまた後で』

『……まだ引っ張る気ですか』

 

思わず愚痴がこぼれる。……しかし、沈んでいた気持ちはだいぶ浮上した。そういう意味では、ちひろには感謝だ。

 

 

 

 

 

放課後、田舎道を歩いていると、深緑色のジャージを着た少年が向こう側から歩いてくるのが見えた。手には大きな紙袋を下げている。

彼のことは知っている。同じ中学の2年先輩だった、佐藤和真さんだ。普段は面倒くさがりのくせに、いざという時はその行動力でみんなを引っ張るムードメイカー。やっかむ人もいたが、概ねみんなから慕われていた。

所がある日を堺に、学校で姿を見ることはなくなってしまった。噂によると、失恋による引き篭もりになったらしい。もちろん真実かどうかはわからないが。

一応受験は受け、しっかり合格もしたらしいが、高校には一度も顔を出していないという。今のあの姿を見た限り、そちらの噂は正しかったようだ。おそらく何か買い物があって、久しぶりに外へ出た、といったところだろうか。

私との距離が近づくと、ギョッとした表情で視線を逸らす。おそらく、私の制服を見て現在の自身を振り返り、いたたまれない気持ちになったのだろう。

……まあ、知り合いのニートよりは、自身を省みられるだけまだマシな方だろう。そんな彼を思い、歩道のない道で大きく内側に膨らむように避け、進路を開けてあげる。……後方の確認もせずに。

 

ブオオオオオン!

 

大きなクラクションの音。思わず振り返るが、視認せずともわかる。この特徴的なクラクションは、トラックのもの。視界には、大きく映し出されたトラックの正面。ああ、もう避ける間もないだろう。何故こんな田舎道に大型トラックが走行してるんだ! という怒りも込み上げるが、きっと現実逃避をしているんだう。私は死ぬ、という事実に対して。

 

『あぶないッ!!』

 

その声の直後、視界の片隅に人影が映り込み、そこで意識は途切れた。

 

 

 

 

 

気がつくとそこは、暗くて明るい空間だった。椅子に座った状態の私は周辺を見渡し、隣にも似た状態の人物がいることに気がついた。私達の視線がばっちりと合う。

 

「……佐藤先輩」

「……鈴木。って、俺の事知ってるのか?」

 

鈴木は戸籍を作るにあたり付けられた、私の苗字である。日本で2番目に多い苗字なのはムカつくが。

 

「……はい。先輩は中学校でも有名人でしたから。むしろ、よく私のことを知ってましたね?」

「お前こそ有名人じゃねえか。神秘的な紅い瞳と、変わった名前を持つ美少女だ…って……」

「ほう? 私の名前に文句があるなら、聞こうじゃないか」

 

私は拳を鳴らしながら、自身の顔を先輩の顔に近づける。

 

「ちょ、こわっ! って、瞳が紅く光って…!?」

 

! し、しまった! 私は慌てて顔を逸らす。くそっ、油断した。今まで上手く隠し通せていたのに!

 

「……もういいかしら?」

「「え!?」」

 

突然かけられた第三者からの声にそちらを見れば、長い水色の髪のお姉さんがこちらを見ていた。……おや? 何か頭の片隅に引っかかるものが?

 

「いいみたいね。では。

佐藤和真さん、鈴木めぐみんさん、死後の世界へようこそ。あなた方は先程お亡くなりになりました」

 

……あ。やはりそうなのか。それじゃあ隣にいる先輩は、私を救おうとして…。

 

「先輩、すみませんでした。私のために…」

「……いや。俺も助けてやれなくてすまない」

 

そしてしばらく沈黙が続き。

 

「……ええと、あなた達。随分といい雰囲気を作り出してるけど、あんたはこの子を救おうとして飛び出したはいいものの、途中で蹴躓(けつまづ)いてすっころんだ所をトラックに跳ねられたのよ?」

「え?」

 

お姉さんに真実を伝えられた先輩は、顔を真っ赤にして押し黙ってしまった。いや、確かに恥ずかしい死因だが、私の命を救おうとしてくれたその行動を、とても笑う気にはならない。しかしお姉さんは「ちょーウケるんですけど」とか言って、プークスクスと笑っている。どういう性根(しょうね)をしているのだろうか。

 

「あー、笑ったわ。さて。改めて、私の名はアクア。死んだ者を導く、日本担当の女神よ。本当はひとりずつ導くのだけど、二人はほぼ同時に亡くなったから、今回は特例よ。ひとりずつだと面倒くさいしね」

 

それでいいのか? しかし女神か。私は本当に死んでしまったんだ。……おや、アクア? ……女神…アクア!?

 

「な…! まさかアクシズ教が崇める、水の女神アクアなのですか!?」

「あら、日本人なのに何故その事を知っているのかしら? ん? その紅い瞳、それに人間にしては非常に高い魔力量…。あなた、もしかして紅魔族?」

「ええ、そうですとも! 8年前に日本に異世界転移させられた上、肉体を5歳まで逆行させられましたが、紅魔族一の天才と名高かっためぐみんとは私のことですっ!」

 

って、しまった! 勢いに任せて格好いい名乗り上げをスキップしてしまった。くっ! これが8年のブランクかっ!

 

「異世界、転移? え? それってラノベとかでよくある?」

「ええ、そうです。普通とは逆で、異世界から日本への転移ですが」

 

先輩もどうやらこういう話には精通していたようで、話が早くて助かった。

 

「なんかそれ、憧れるんだけど。俺も異世界行って活躍してみたい」

「あら、それなら丁度いいわ」

「「はい?」」

 

またもや先輩と被ってしまう。

 

「いつもなら、生まれ変わるか天国へ行くかを聞くとこだけど、実は3つ目の選択肢があるのよ」

「まさか…」

 

先輩が期待を込めて聞き返す。

 

「そうよ。姿はそのままに、異世界へ転生してもらうの。しかもすぐ死んじゃわないように、特典のチートをひとつだけ付けてあげるっておまけ付き! 魔王も倒してくれるとありがたいけど、それは出来たらで構わないわ。どう?」

 

なるほど、確かに丁度いい提案だ。

 

「それに、めぐみんだっけ? あなたにも好都合だと思うわよ」

「……え?」

「私が送ろうとしている世界は、本来あなたが暮らしていた世界なんだから」

「……!」

 

私は息を呑む。本当にこんな事があるのだろうか。気がつくと、私の目からは涙がこぼれ落ちていた。

 

「……よかったな」

「はい…!」

 

元の世界とは言っても、私がいた時代ではないのかも知れない。それでも、もう日本では暮らせないのなら、もうみんなと会えないのなら、私が本来居るべき場所(せかい)に帰りたい。

 

「どうやらめぐみんは決まりみたいね。それで、あんたは?」

「鈴木が行くなら、俺も一緒に行こうかな。特典ももらえるみたいだし」

「あんたは欲望に忠実ね。まあ、いいけど」

 

アクア様は少し呆れ気味だが、まあいいけどで済ますのもどうかと思う。と、少し落ち着いた私はひとつ疑問が浮かぶ。

 

「ところでアクア様、言葉はどうなるんですか? 私は向こうの言語もしっかり憶えてるので問題ありませんが、先輩はそうはいきませんよね?」

 

そうだ。私だって日本に転移したあと、がむしゃらに勉強したのだから。

 

「それなら大丈夫。脳に直接負荷をかけて、一瞬で言語習得させるから。運が悪いとパーになるかもだけど

「……今、なんと言いました?」

「パーになるとか言わなかったか?」

「言ってない」

 

なんとも白々しい。さすがはアクシズ教の御神体。

 

「……まあいい。俺は自分の運の良さに賭ける」

「潔いのは好きよ。それじゃあ次は特典を選んでちょうだい」

 

そう言って、分厚いカタログを手渡そうとするアクア様。

 

「いえ、私は特典は結構です。そのかわり、私が日本に跳ばされてきた時の持ち物と、下着と財布以外の日本での持ち物を交換してください」

 

下着はやはり新しい物がいいし、財布は誕生日にプレゼントされ大切に使っているものなので、手放したくはなかったのだ。

 

「本当にそんな物でいいの? それじゃああんたは後ろ向いてて」

「あ? なんでだよ」

 

言われた先輩は反発する。が。

 

「服が入れ替わるとき、一瞬だけめぐみんが下着姿になるのよ。謎の光で目立たないようにはするけど…」

「わかった。さっさと済ませろ」

 

さすがに私達を敵に回す気はなかったようだ。

 

 

 

 

 

私の服装が、向こうで着ていたものに替わった。時々引き出しから出して体に当ててはいたが、袖を通したのは8年ぶりだ。とんがり帽子とグローブ、ブーツと脚に巻いたオシャレ包帯も懐かしい。

 

「おお、魔女っ子だ」

 

「っ子」というのが気になるが、今は気分がいいので許してあげよう。

 

「さあ、次はあなたの番よ。まあ、あんたじゃ何選んだって同じだと思うけど」

 

そう言うあなたは、どうして煽る。……おや、先輩が不敵の笑みを浮かべている?

 

「何を選んでも同じか。うん、それじゃああんたにするわ」

 

先輩は、アクア様を指差しながら言った。……って、え?

 

「ん。それじゃあ二人とも、その魔法陣から出ないよう…今、なんて言った?」

 

言ってる途中で気がついたアクア様も尋ねる。しかし、先輩がそれに答えるのよりも先に。

 

「承りました。今後のアクア様のお仕事は、わたくしが引き継ぎますので」

 

耀く(しろ)き光と共に、純白の翼を持ちたる天使現れん。……いや、ブランクがあるので、少しリハビリ的に言い回しを格好良くしてみたのだが。

などと思っているうちに、私と先輩、そしてアクア様の足元に魔法陣が現れる。

 

「え、ちょっと、嘘でしょう!? こんなのおかしいから! 女神を連れてくなんて反則よぉ!!」

 

いや、受諾されてる段階で有りなんだろう。

 

「行ってらっしゃいませ、アクア様。後のことはお任せを。魔王を倒された暁には、迎えの者を送ります」

「待って! 私、癒す力はあっても、戦う力なんて無いんですけど!」

 

確かに、アクア様は水と癒しの女神だったと記憶している。

 

「佐藤和真さん、鈴木めぐみんさん。あなた方をこれから異世界へ送ります。……めぐみんさんの場合は元々の世界ですが、日本で亡くなられたので他の転生者達と同様の権利が与えられます」

 

権利?

 

「魔王を倒した暁には、どんな願いでもひとつだけ叶えて差し上げます」

 

おお! それはなんと魅力的な提案!

 

「ねえ待って! そういうのって私のセリフなんですけど!」

 

……ふと、疑問に思う。

 

「先輩は何故アクア様を特典に?」

「俺だって馬鹿じゃない。鈴木が着替え中で待たされている間に、もっとも有用に使えそうな特典を考えてたら、そもそも人外の能力を持った神様がいいんじゃないかと思いついたわけだ。最後の決め手はあいつの煽りだったが」

 

どうやらアクア様は、自ら地雷を踏み抜いたようだ。

 

「いやあああ! 異世界に連れてかれるなんていやよおおおお!」

「勇者よ! 願わくば、あなた方が魔王を討ち倒すことを祈っています。……さあ、旅立ちなさい!」

「ああああああ! 私のセリフううう!!」

 

アクア様はわめき続けるが、私を含めて誰も聞く耳を持たない。そして私は、皓い耀きに包まれるのだった。

 

 

 

 

 

気がつくと私達は、広大な荒れ地の小高い丘の上にいた。丘の向こうには外壁に囲まれた街が見え、反対側の丘を下った先には大きな街道があり、小さく乗り合い馬車が停車しているのが見える。どうやらモンスターに襲われているらしく、街道の更に向こう側で魔法の弾ける様も確認できるが、まあ、あの様子なら大丈夫だろう。

 

「ちょっと! ここ、本来の送迎ポイントからかなりズレてるじゃないの!」

「どうした女神、さっきまで泣いてたのに、随分とお怒りであらせられるな?」

 

先輩のこれは、敬ってるのではなく皮肉だろう。多分。

 

「今だって泣きたい気持ちよ! あと、私のことは女神じゃなくアクアって呼んで。私のかわいい信者達に知られると大騒ぎになるから」

「りょーかい」

「では私も、敬称は付けずに呼び捨てにしましょう。元々そちらの方が性に合ってますし。それから先輩、私のことはめぐみんと呼んでください。鈴木は向こうで付けられた苗字なので」

「わかった、めぐみん。じゃあ俺の事も和真でいいぞ。そっちの方がいいんだろ?」

「ありがとうございます、和真」

 

そんなやり取りをしてから先輩、もとい和真はアクアに向き直る。

 

「それで、送迎ポイントがどうとか言ってたが?」

「あ、そうよ! 本当なら向こうに見える『始まりの街アクセル』に出現するはずだったのよ! まったくあの子は、転生業務もまともに出来ないのかしら」

 

あの天使も、アクアには言われたくないだろうに。

……アクセル? そういえば以前、里でそけっとに占いをしてもらったとき、アクセルでの出会いがどうとか言われていた気がする。それって、和真やアクアの事なのだろうか。いや、しかし、そけっとのニュアンスと今のシチュエーションには齟齬がある様に思えるのだが。いったい…。

その様なことを考えていたとき。ビシャリと激しい音が響き渡り、黒い雷が奔り馬車が一台横転する。

 

「な、なんだ!?」

「カースド・ライトニング!? 和真、あれは強力な攻撃魔法です!」

「ちょっと、マズいじゃない! 早く助けてあげないと…」

 

言動はアレだが、こういう所はちゃんと女神であるようだ。

 

「ですが、何の職業にも就いていない今のアクアには、戦う手段が無いのでは?」

「あう…。一応、ゴッドブローくらいは出来るけど」

 

おそらくは、神かアクアの固有スキルだろう。とはいえ、一気に消極的になってしまったアクア。

 

「今、まともな攻撃手段を持っているのは、アークウィザードである私だけです。二人は危険なので、ここで待っていてください」

「……いや、俺も行くよ。あの馬車の人達を介抱することくらいは出来るだろ?」

「そ、そうね。戦闘はめぐみんに任せるから、馬車の人達は任せてちょうだい」

 

なるほど、確かに彼らは今、パニックに陥っていることだろう。そう考えれば、介抱する人がいてくれるのはとてもありがたい。

 

「わかりました。では二人とも、お願いします」

 

話がまとまり、私達は街道へと向かっていった。

 

 

 

 

 

「だ、大丈夫、ですか?」

 

駆けつけた私は、息を切らせながら尋ねた。

 

「あ、あなた方は?」

 

キャラバンのリーダーと思われる男が尋ね返してくる。

 

「俺達は、通りすがりのものです。それより、一体何があったんですか?」

「実は…」

 

彼が説明を始めようとしたところで、私は戦っていた人物に気がついた。

 

「ゆん…ゆん!?」

「ゆんゆんさんをご存知で? そういえばあなたの紅い瞳、もしや紅魔族では?」

「ええ。しかしゆんゆんが戦っている相手、アレはもしや…」

「悪魔よ」

 

アクアが低い声で言う。さっきまでとは違い、物凄く殺気立っている。

 

「……ええっと、アクア? さすがに空中の相手には、攻撃は届きませんよね?」

「非常に残念だけど、そのとおりよ。だからお願い、私の代わりにあの悪魔を葬って」

 

なんだか、とんでもないお願いをされてしまった。……しかし、私の中の紅魔の血が、この状況に心を昂ぶらせていた。

 

「いいでしょう。この紅魔族随一の天才が、あの悪魔を屠って差し上げましょう!」

 

そう高らかに宣言をすると、悪魔と戦うゆんゆんに向かって足を踏み出した。

 

「……めぐみんって中二病だったんだ」

 

和真、呟いたつもりでしょうが、しっかりと聞こえてますよ?

 

 

 

 

 

ゆんゆんに近づくに従って、悪魔との会話が聞こえてくる。

 

「いい加減、ウォルバク様を渡してくれないかしら?」

 

ウォルバク? 誰の事だろうか。

 

「いいえ、それは出来ないわ! それにウォルバクじゃなくて、クロちゃんよ!」

 

クロちゃん…ちょむすけのことか!

 

「クロちゃんはめぐみんの使い魔。私がめぐみんを探し出して、必ず手渡してあげるんだからっ!」

 

……ゆんゆん。

 

「……そう。まあいいわ。素直に渡してくれたら見逃そうかと思ったけど、さっき感じた神聖な気配も気になるし、殺してから奪うことにするから」

「わ、私が簡単にやられると思って?」

「強がっても無駄よ。連日のモンスター達との戦闘で、あなたの魔力が空っぽなのはわかってるから」

 

連日の戦闘!?

 

「まさか、あれはあなたが!?」

「わかってもらえたようで嬉しいわ。……じゃあ、死になさい」

 

そう言って、魔力を練り上げる悪魔。

 

「……やれやれですね」

「「!?」」

 

私が発した言葉に、ようやく二人は私の存在に気づく。特にゆんゆんは、とても驚いた表情をしていた。

 

 

 

 

≪third person≫

少しだけ刻を戻す。

死者を導く間。光は収まり、魔法陣は消え。その場にはひとり、天使のみが残されていた。

ふう、と天使は溜息をつく。

 

「……創造神様に言われたとおり、出現ポイントを変更しましたけど、これって一体どういうことなのでしょうか」

 

そう言ってから、顎に手を当てて考え込み。

 

「確か、『世界の修正力で及ばない部分での歴史修正の補助』と仰ってましたが…。あれ? これはもしかしたら、時を司る神も関わってるのでしょうか?」

 

神々の思惑に触れそうになったのを感じ、天使はそれ以上の推測を放棄した。




ちなみに爆裂魔法の威力が炸裂魔法程度でも、消費魔力は爆裂魔法のままです。完全に威力とコスパが見合ってません。

3話は18:00更新
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