私はゆんゆん。紅魔族族長のひとり娘で、やがては長となる中級魔法使い。
私にはライバルがいる。その名はめぐみん。魔法学校でライバル宣言をして以来の付き合い。本当は、友達…になりたかったんだけど…。でも、ライバルとしての関係も悪い気がしないし、いずれは本当に親友同士になれたらなぁ、って思ってる。
だけど、ある日。めぐみんは紅魔の里からいなくなってしまった。現場にいたこめっこちゃんの話だと、目の前で忽然と消えてしまったらしい。……さすがに「忽然」なんて難しい言葉は使わなかったけど。でも大人達は、こめっこちゃんの証言を話半分にしか聞いていない。もちろんそれは、こめっこちゃんが幼いから。
でも私は、こめっこちゃんがとても頭がいいことを理解してる。子供だから知識にないことは仕方がないけど、見たことをきちんと伝えることは出来るはずだ。つまりめぐみんは、本当に消えてしまったんだろう。だけど、一体どうして? テレポートが使えないめぐみんじゃ、自分からいなくなったとは思えないし。それじゃあ誰かがめぐみんにテレポートをかけた? でも、誰がどうやって?
私はしばらくの間、めぐみんの失踪、その方法について調べていたけど、結局は何の答えも出ずに、無意味に時は過ぎていった。
そんなある日、里の中を歩いていると、占い師をしているそけっとさんとバッタリと出会った。
「ゆんゆん、よかった…。ねえ、私のお店に来てくれる?」
突然の申し出にビックリしたけど、私は頷いてそけっとさんの後をついて行く。
お店に着くと中へと通される。そういえば少し前に、めぐみんと一緒に占ってもらったっけ。
「……実はね、ゆんゆん。以前占ったときに、水晶玉の映像に変な陰が差し込んでいたの」
そういえばあの時、なにか首を傾げていたような気がする。
「それで、めぐみんが行方不明になってからもう一度占おうとしたんだけど…、その未来が見えないの」
「え?」
未来が、見えない? 占っているそけっとさん本人と関わってたらそういう事もあるかも知れないけど、さすがに可能性としては低いはず。……まさか!?
「安心して。死んだという風には出ていないから」
私の心配を見越していたんだろう、そけっとさんが安心させるためにそう言った。
「それでね。私にも占い師としての意地があるから、何度か挑戦してみたの。そうしたらかなり不鮮明だったけど、あなたとめぐみんがアクセルの街に一緒にいる映像が映ったのよ」
「!!」
私と、めぐみんが…!
「ゆんゆん。旅に出なさい。あなたが望む未来は、きっとそこにあるから」
「はい! そけっとさん!」
それから私は、めぐみんの実家からちょむすけ…ううん、クロちゃんを連れ出して旅に出た。連れだした理由は3つ。
1つ目は、クロちゃんはめぐみんの使い魔だから。
2つ目に、めぐみんの実家に残したままにすると、いつかこめっこちゃんに食べられてしまうのでは、という不安に駆られたから。
そして3つ目。クロちゃんを高額で引き取ろうとする謎の女性が現れたから。
特に3つ目は、かなり怪しい。たかが黒猫に30万エリスも払おうというのだ。その時は家にこめっこちゃんしか居なくて、「ひじょうしょくを取り上げる気だー!」とか騒いだおかげで退散したらしいけど。
そんな理由が重なったため、私はクロちゃんを連れ出したのだ。
最初に立ち寄ったのが、水と温泉の都アルカンレティア。ここのアクシズ教徒には、散々悩まされた。危うく入信書にサインをするところだったけど、私の心の中のめぐみんがストップをかけてくれた。さすが持つべきものはお友だ…ライバルだ。
だけどアクシズ教の人達には助けられもした。
更に色々とあって、アクセルまでの旅費も手に入れることが出来た。考え方は紅魔族以上にとんでもないけど、良いところもちゃんとあるんだということはわかった。だからといって、極力関わり合いにはなりたくないけど。
アクセルへ向かう乗り合い馬車。その馬車をモンスターが襲う。乗り合わせた私は頼まれて、モンスターを退治した。みんなに感謝されて、気分がよくなる。こんなに頼られたの、生まれて初めてかも。
それからも何故だかひっきりなしに現れる、様々なモンスター。その度に頼られて、断り切れずに退治していく私。そして今し方も戦闘を繰り広げ、最後の1匹を倒したところでついに魔力が底をついた。倒し終わった後でよかった。そう思ったのも束の間。
「『カースド・ライトニング』!」
魔法の雷が馬車を襲う。
馬車を襲ったのは、アーネスだった。護衛のみんながアーネスにかかっていくが、軽く一蹴されてしまう。やがて立っている者は私ひとりになってしまった。
「いい加減、ウォルバク様を渡してくれないかしら?」
やっぱり目的はクロちゃんか。
「いいえ、それは出来ないわ! それにウォルバクじゃなくて、クロちゃんよ! クロちゃんはめぐみんの使い魔。私がめぐみんを探し出して、必ず手渡してあげるんだからっ!」
そうだ。絶対にめぐみんと再会するんだ!
「……そう。まあいいわ。素直に渡してくれたら見逃そうかと思ったけど、さっき感じた神聖な気配も気になるし、殺してから奪うことにするから」
「わ、私が簡単にやられると思って?」
私は魔力切れを悟られないように強がって見せた。だけど。
「強がっても無駄よ。連日のモンスター達との戦闘で、あなたの魔力が空っぽなのはわかってるから」
「まさか、あれはあなたが!?」
「わかってもらえたようで嬉しいわ。……じゃあ、死になさい」
そう言って、魔力を練り上げるアーネス。まずい。どうする。どうやって切り抜ける。
絶体絶命と思われた、その時。
「……やれやれですね」
聞き覚えのある、その声。私は振り返り、そして驚きのあまり言葉を失ってしまった。
「……やれやれですね」
「「!?」」
私が発した言葉に、ようやく二人は私の存在に気づく。特にゆんゆんは、とても驚いた表情をしている。
「まったく、その黒い毛玉の名前はウォルバクでもクロでもなく、ちょむすけです。そんな事も忘れたんですか、……ゆんゆん?」
「うそ…、めぐ、みん? 本当に…?」
「私以外の何者に見えるのですか?」
不敵な笑み浮かべ、ゆんゆんに返す。
「あなた、何者よ?」
悪魔が尋ねる。まさに絶好のチャンス!
「我が名はめぐみん! 紅魔族随一の魔法の使い手にして、爆裂魔法を操る者!」
高らかに名乗りを上げポーズをとる。ローブや杖があればもっと格好良く決まったのに、とは思うが無い物ねだりをしても始まらない。
「爆裂魔法、ですって!?」
驚愕する悪魔。それはそうだろう、神や悪魔ですらダメージを与えることが出来る、人類が扱えし最強の攻撃魔法なのだから。
私は右手を悪魔に向けて突き出す。
「くっ! しかし呪文の完成はこちらの方が…」
甘い!
「それは始まりの焔 それは終わりの焔
現在過去未来 万象を超える禁断の力
焔よ我は破壊者 無慈悲なる者
我が血、我が肉をもって
古き神々の戒律を今破らん」
「な、速い!?」
「詠唱だけじゃない! 魔力を練り上げるスピードも、以前とはまるで違う!」
私が向こうの世界で行っていた鍛錬、これがその集大成だ!
「くっ、『カースド…』」
「『エクスプロージョン』ッッッ!!!」
悪魔の魔法よりも速く、私の爆裂魔法が炸裂する!
「う…ウォルバクさ…」
その呟きを最後に、悪魔は爆焔の中に消えていった。
魔力を使い果たした私は、大地へ大の字になって倒れ込む。……頭打った。痛い。
「うそ…。里にいた頃より、遥かに強力になってる…」
ゆんゆんが呟く。しかしそれも致し方ない。何しろ、放った私自身が驚いているのだから。おそらくは、マナの集束・収束技術が向上したことで、魔法のコントロールも向上したのだろう。向こうでは実験したことがなかったので、それに気づくこともなかったわけだが。
「なーう」
ゆんゆんに抱えられたちょむすけが鳴く。それで現実に引き戻されたのだろう、ゆんゆんが私に近づき、膝をつき覗き込むようにして言った。
「本当に、めぐみんなんだね?」
「さっきから、そう言ってるじゃありませんか」
私がそう返すと、ゆんゆんは涙をこぼしながら私に抱きついた。
「めぐみん…今まで、どこ行ってたのよぉ…」
「……やれやれ、私のライバルたるものが、この程度で泣いてどうするんですか」
「だって…だって…」
「……ですが」
私はまだ力が入らない腕を懸命に上げて、ゆんゆんの事を抱きしめ返す。
「私も、あなたに再会できて嬉しいですよ、ゆんゆん」
自分でも驚くほど優しい声で、ゆんゆんに言った。きっと私は今、とても優しい
「めぐみんが優しい!?」
「おい待て、なんだその反応は」
「だってめぐみん、私に優しい言葉なんて、ほとんどかけてくれたことないじゃない」
……いや、まあ、思い返してみれば確かに。とはいえ半ば、ゆんゆんが悪い。あの時ライバルではなく、素直に友達と言ってくれれば…って、いかん。どうも私自身、感傷的になってるらしい。そもそもあの頃の私なら、「友達など必要ありません」とか言っていたに違いない。
「……めぐみん?」
「いえ、私もいつの間にやら丸くなっていたらしい、と思っただけです。……そういえば私が紅魔の里からいなくなって、どれくらい経ちましたっけ?」
「え? 精々数ヶ月程度だけど…」
そうか。奇しくも年齢との時間的差は、あまり無いらしい。
「おい、めぐみん! 大丈夫か!?」
そんな私達の許に和真が駆けつけてきた。
「え、誰?」
ゆんゆんが疑問を浮かべているが無視しよう。
「和真、慌ててどうしたのですか」
「どうしたって、あんなすごい魔法ぶっ放したかと思ったら突然倒れたからビックリしたんだよ」
ああ、それもそうか。
「我が必殺の爆裂魔法は、人類が扱えし最強の攻撃魔法。それ故、莫大な魔力を消費するのです」
「……つまり魔力切れで倒れた、と?」
「YES!」
「い、いえす?」
当然ゆんゆんには英語がわからないが、やっぱり無視する。
「……あー、なんだ。今回は強敵だったみたいだし仕方ないが、普段は他の魔法で頑張れよ?」
「無理です」
「うん、そうか。……今、なんて言った?」
「無理だといったのです」
そして一瞬躊躇いつつも、その理由を告げる。
「……私は、他の魔法は一切使えません」
「……マジか?」
「「マジです」」
って、おいコラゆんゆん、私の返事に被せて同意するな。自分で言うならまだしも、他人に言われたくはない。
「めぐみんは獲得したスキルポイントを他の魔法修得には一切使わず、貯めに貯めて、爆裂魔法のみを修得したんです」
「ゆんゆん! 何故あなたが説明してるんですか!」
「ま、まあ落ち着け、めぐみん」
和真が宥め、私は矛先を納める。
「それで、なんで爆裂魔法?とやらしか覚えなかったか、理由を聞いてもいいか?」
「それは…」
私は躊躇する。あの時のことは、今でも鮮明に覚えている。でもそれは、気安く他人に話したくはない、大切な想い出でもあるのだ。
「……昔、幼い頃に爆裂魔法を見たことがあります。その時に魅せられた、とだけ言っておきましょう」
「……そうか。まあ、これから大変だと思うが頑張れよ」
「なんですか。私を捨てる気ですか」
「人聞きの悪い言い方はよせ! 俺はまだ何の職業にも就いてないからな。生憎、めぐみんの力にはなれそうもないと思ったまでだ」
「アクセルに着いたら冒険者になるのでしょう? なら、上級職の魔法使いなんて引く手数多の優良物件です」
「残念だが駆け出し程度の俺じゃ、お前のような高火力魔法は使いこなせないよ」
むう、知能の高い紅魔族相手に、なかなか上手く躱してくるではないか。……では、攻め方を変えてみよう。
「……どうしてもダメですか、……先輩」
かわいい後輩キャラが、うるうると懇願してみせる。倒れてなければ上目遣いで見つめるところだ。……もちろん演技だが、これなら落とす自信がある! ……いや、恋愛的意味合いは無いが。
「と、とりあえずは自分で頑張ってみてくれ。もしダメだったらその時は、そっちの子と一緒なら考えてみるから」
「ゆんゆんと一緒ですか。まあ、言質は取れたから良しとします」
とりあえず内定は取れた。どうやら和真は結構チョロいらしい。
「めぐみん、私と一緒じゃ不満なの!?」
「不満というか、ライバルが同じパーティーに入るのもどうかと思っただけですよ」
……いけない。つい昔の癖で、ゆんゆんには素っ気ない対応になってしまう。以前のままの自分なら、ぼっちを改善させるためにわざと突き放す、という選択は普通だった。しかし向こうで人と接するうちに、それではむしろ悪化するのでは、と考え方を改めた。改めたのにこの態度。……実は私、ツンデレだったのだろうか。
「そ、そうね。ライバルだもんね!」
……う。またゆんゆんにそんな顔をさせてしまった。
「あー、いやでも、遠くから見てただけだけど、キミの魔法とめぐみんの魔法は棲み分けが出来てるから、二人一緒で問題無いと思うぞ。むしろもし俺とパーティーを組むことになっても、二人一緒じゃなきゃダメだかんな?」
「あ…、はい!」
和真の説明に、ゆんゆんは笑顔で返事をした。……なんだかむしゃくしゃする。ゆんゆんが取られた気がするのだ。もう間違いない。私は自分がツンデレである事を自覚した。
「……あ、それからキミ」
「ゆんゆんです」
な、紅魔族流の名乗り上げは…っていけない。こういう態度がむしろ問題あるのだ。まずは少しずつ自信を付けさせて、そうしてから外向的になるように持っていかなければ。
「それ、本みょ…あ、いや、なんでもない。それじゃゆんゆん、俺とめぐみんの旅の連れが、馬車の所でみんなを介抱してるから手伝ってやってくれないか? 連れは水色の髪をした、アクアって女性だ」
「……アクシズ教の女神様と同じ名前ですね」
心底いやそうな顔をするゆんゆん。アクシズ教団と何かあったのだろうか。……まあ、あの教団なら何かあってもおかしくはないか。
「……あ、すみません。ええと、アクアさんですね。わかりました。それじゃあ、えっと」
「和真だ。佐藤和真」
「カズマさん、めぐみんのことお願いします」
「ああ、任された」
サムズアップをする和真を確認してから、ゆんゆんは馬車に小走りで向かっていった。
「……それで和真、人払いまでして何の用ですか?」
「なんだ、気づいてたのか」
「当然です」
そもそも介抱するなら、和真が戻れば済む話である。
「……まあ、たいした話じゃないが。あのゆんゆんって子に随分冷たい態度をとってるな、なんて思って」
「やはりそう思いますか」
私はため息をひとつ吐く。
「……ゆんゆんは、人付き合いの苦手なぼっちな子です。そんなあの子は勇気を出して、私とライバルになると宣言しました。……本当は友達になりたかったのだと思いますが。そんな彼女を見かねて、もっと自立できるようにと冷たい態度をとっていたのですよ。日本に跳ばされる前は。
……ですが、あちらでの生活で、今までのやり方はよくないと考え方を改めました。改めたのですが…」
「今までの癖が抜けなかった?」
「……はい」
消え入るような声で答える。
「……ツンデレかよ」
「言わないでください。つい先程、自覚したところですから」
……私達紅魔族が里の外の人達から見れば変わり者なのは、日本での生活で理解した。もちろんこちらとは別の世界だが、たまに里に訪れる者の反応を見れば、概ね同じなのはわかる。
そんな紅魔族の中でも、ゆんゆんは変わり者である。いや、正確に言えば、里の外の人達に近い感性の持ち主である。
……そして私はおそらく、ゆんゆんとは別方向に変わり者なのだろう。里の者達は格好良い言動をとる、いわゆる中二病な集団だが、私が他人と馴れ合わなかったのはそれらではなく、私自身の資質である。
お互い変わり者で、理由は違えど共にぼっちだ。それ故に引かれ合ったのだろうが、同時にお互い、他者との接し方がわからなかったのだ。これは、日本で他者と接するようになったからこそ気づいたことである。
つまりは私も、ある意味拗らせていたということだ。
「ま、『三つ子の魂百まで』って言うしな」
「それで済ませるのも、どうかと思いますけどね」
私は小さくため息をつき言った。
「……それでめぐみんは、いつまでそうしてるんだ?」
「そうは言われても、立ち上がれる様になるまでは、まだしばらくかかります。……あの、厚かましいお願いなのですが、私を背負って連れていってはくれませんか? ……先輩?」
後輩モードでお願いする私。
「おまっ、先輩扱いすれば何でも言うこと聞くと思っちゃ…。ああもう、わかったよっ!」
やはり和真はチョロかった。
その後是非お礼にと、私達はアクセルの街まで、タダで馬車に乗せてもらえることになった。さすがに座席には着けずに、床に直接座ることにはなったが、歩いて行くことを考えれば大変有難い事である。
そして。
「お客さん、見えてきやしたぜ。あれがアクセルの街でさあ」
御者のおじさんが言う。その視線の先には、先程丘の上から見た、外壁に囲まれた街が更に大きく視界に映る。
「あれが『始まりの街アクセル』…」
「そうです。私達が新たな一歩を踏み出す、その街です」
ゆんゆんの呟きに応える私。かつてそけっとに占ってもらってから、8年もの遠回りをしてようやくたどり着いた。感慨もひとしおである。
そんな中ゆんゆんが、「そうだ」と言って自身の荷物を漁り。
「めぐみん。これ、ふにふらさんとどどんこさんから。もしめぐみんに会えたら渡して欲しいって」
そう言われて渡されたのは、大きな青い宝石がはめ込まれた立派な杖だった。てっきりゆんゆんのものだと思っていたが、そういえば先程の悪魔、アーネスと戦っていたときにはこの
「本当はめぐみんが旅立つときが来たら渡すつもりだったらしいけど、行方不明になったからこんな感じになっちゃったって」
「私の責任ではありませんが、それでも悪い事をしましたね」
まったく、謎の人物許すまじ!
「それで、同じ理由であるえから」
「これは、あるえの眼帯ではないですか!」
あるえがオシャレで着けていた眼帯!? まさかこんな素晴らしい物を貰えるとは!
「そしてこれが、私が用意していた物。ライバルであるあなたに似合うと思って」
そう言って鞄の中から取り出したのは、紅魔の里謹製の立派なローブ。
「……そうですか。ありがとう、ゆんゆん」
つい皮肉が出そうになるのを必死に抑え、素直にお礼を述べた。
「……めぐみん、やっぱり少し変わった?」
「そうですね。跳ばされた先で、少々考え方を改める出来事がありました。その影響でしょう」
7年前のあの日、私を諭してくれたさだ子さんを思い浮かべながら答えた。私が周りに歩み寄る切っ掛けを、彼女が作ってくれたのだから。
「……ええと、ゆんゆん。その…、と、共に頑張りましょう」
くっ。自分の顔が真っ赤になっているのが、鏡を見なくてもわかってしまう。ゆんゆんに対して優しく接するのが、こんなに恥ずかしいとは。どうやら自分が思っていた以上に、彼女に対する感情は屈折していたようだ。
……けれど。
「めぐみんっ!? ……うん、そうだね!」
彼女の晴れやかな笑顔を見て、私もまた嬉しい気持ちが込み上げてくる。
「……フッ」
「……よぉし、そのケンカ買おうじゃないかっ!」
私達のやり取りを鼻で笑った和真に、私は食ってかかっていくのだった。
……どういうこと? 何故、あの女がいるの? 確かに、刻と空間の彼方へと跳ばしたはずなのに。
……まさか、世界の修正力? 世界は、魔王に滅ぼされる歴史は許容するというのに、私は許容できないというの? ……いいわ。それならば、私は私の力で、私が倒される未来を変えてみせましょう!
ちょっと思いついたので、あとがき劇場
これは少し先のお話。
私は屋敷に引き籠もる和真を連れ出すため、水と温泉の都アルカンレティア行きを提案した。もちろん、日本人は温泉好きが多いこと、そして和真ならすぐに混浴を思い浮かべるだろうと予測してのことである。
当然、私の意見は受け入れられることとなった。ゆんゆんは最後まで渋っていたけれど。……本当に、アクシズ教団と何があったのだろう?
それはともかくも、旅行当日。私達は乗り合い馬車の停留所へと向かった。和真が先に来て、人数分のチケットを手配するはずだったのだが、当の和真は遅れてやって来た。背中にはぐったりとしたウィズが背負われている。何でも、バニルの怒りを買ってお仕置きを受けた彼女を、和真はそのバニルから押しつけられたらしい。
そんなこんなで人数が増えた中、アクアが選んだ馬車が、奇しくもこの世界に戻った日に悪魔を退治したお礼にただで乗車させてくれた、あの馬車と御者のおじさんであった。
私は馬車の中を覗く。すると一席分のスペースを使って籠が置いてあり、その中には…。
「あれは、なんですか?」
籠に入れられた赤い生物。だがそれは、今まで一度も見たことないものだった。
「ああ、あれは物凄く珍しい生物で、[ニュウサンキン]?とか言うらしいですよ」
「乳酸菌!?」
いや、待ってほしい。乳酸菌と言ったら、腸内の善玉細菌の一種。あんな大きさ、形ではないはずだ。
私は籠の中の「乳酸菌(仮)」を見つめた。
『にゅ~』
「!?」
『にゅ~、にゅ~』
「ほわあああ! か、可愛いです!」
「「めぐみん!?」」
今まで様子を窺っていたのだろう、和真とゆんゆんが驚きの声を上げる。
「和真和真! この馬車で決まりです! いいえ、この馬車以外、絶対にありえません!!」
「お、おう。わかった…」
私の勢いに圧された和真が、少し引き気味に返事するのだった。
という取り止めの無い話でした。
いや、TVで「はたらく細胞!!」を見てたら、乳酸菌(アカ)の役が高橋李依さんだったものでつい。
因みに乳酸菌(アカ)が登場した4話では、カズマ役の福島潤さん(ピロリ菌)やゆいゆい役の能登麻美子さん(ナレーション)も共演してました(おまけで、ナツキスバル役の小林裕介さんが「はたらく細胞!!」4話からのメインキャラクター(一般細胞)です)。
さて。という訳でこの話はこれでお終いです。はっきり言って謎の人物は魔王討伐後の話なので、とても完成に持って行けないので、こんな終わり方になった次第です。