漆原カグヤが暴れたり暴れなかったりする短編集   作:とうゆき

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為政者相手に項羽の劇を演じるのってかなり政治的なメッセージが含まれてない? ってお話。




捲土重来

 

 レッドウィンターから招いた賓客と共に京劇部の舞台を鑑賞していた竜華キサキは人知れず衝撃を受けていた。

 劇の内容は覇王と謳われるほどの武威を誇る王が次第に孤立して人望溢れるもう一人の王に敗死するというもの。

 覇王は死の間際に叫ぶ。『自分が負けたのは天命である』と。けれど実際は有能な部下を遠ざけた覇王自らが引き寄せた結果である。

 この筋書き、山海経に住む者なら知らない者はいないだろう。

 

 これはすなわち劇を借りた諫言である。

 『貴女は我が身に降りかかる苦難を天命だと考えているだろうが本当は人災である。これを避けたいなら部下との信頼関係をしかと築け』

 

(カグヤ、其方はそこまで……)

 

 京劇部部長漆原カグヤ。彼女には今の玄龍門の在り方が酷く危うく見えたのだろう。

 改革の前に部下に対して胸襟を開き足場を固めよという忠告を授けてきたのだ。

 

 ──なんとか体が動く間に山海経の排他的な慣習を変えたかった。

 それが叶わずとも遺される友の為にせめて先鞭をつけておきたかった。

 だが、自分は焦りすぎていたのだろう。隙を見せれば先代のように"食われる"のではないかという恐れもあった。それが初日の歓迎の際の行き違いを生んだ。

 手本となる先例がない中で他校の要人と相対せねばならない不安や重圧。良き変化に期待するばかりで自分は部下の心情をあまりにも軽視してしまった。カグヤの劇を見てその独りよがりさに気付かされた。

 

(されど……)

 

 異例の門主就任から始まり独断での申谷カイ追放。そして今回の交流会。

 ことごとく山海経の伝統を破り続ける自分に対してこの劇を披露する。そこにはどれほどの覚悟が必要だっただろう。不興を買って京劇部が潰されたかもしれないのに。

 カグヤは、自身の命と同等かそれ以上に大事な京劇部の命運を山海経の未来を案じて差し出したのだ。

 

 部員も彼女の決断に従い、見事舞台の上で舞ってみせた。

 隣にいる異邦の幼き君主は劇に見入っている。迷いを抱えた演技では人の心を動かす事は出来ない。協調こそが道を切り開くのだと言外に語る。

 

(其方らの忠言、確かに受け取った)

 

 カグヤは頑固で融通の利かない女だ。新たな劇を作るより古くからある劇を演じるのを好む保守派であり、外部から新たな技法や食材をどんどん取り入れる玄武商会を快く思っていないという話も小耳に挟む。

 しかし山海経を想うという点では紛れもなく同士だった。それが分かっただけでもキサキは病身が癒えるような心地になった。

 

 

 




多分この時空のカグヤはカイに対して「貴殿が京劇を語る方が屈辱だ」くらいは言うし、2度目の劇をやるにしても「燕雀安んぞ鴻鵠の志を知らんや」ではなく「王侯将相いずくんぞ種あらんや」の方を言う。

自分は中国文化や京劇ニワカなので「別に為政者に項羽の劇は問題ないよ」って事だったら申し訳ない。
その際は「キヴォトスでは!」の精神でお願いします。
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