仮免提督といじわる空母・改二   作:萩原 優

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第10話「特訓! 五航戦!(その1)」

※25.11.1改稿

 

Starring:瑞鶴

 

8:43(マルハチヨンサン) 工廠

 

「お疲れお二人さん」

 

 演習前、鶴姉妹を抱迎えたのは、軽空母龍驤だ。二人からすれば大先輩に当たるが、気さくな彼女は、暗い雰囲気を払しょくしてくれる。とはいえ頼ってばかりなのも、申し訳ないし負けた気もする。それが姉妹の共通認識である。

 

「お疲れ様です!」

「こんにちは、お疲れ様です」

 

 龍驤はうんうんと頷き、何か思いついたように言った。

 

「そういえばやなぁ。うちの司令官(・・・)、また赤城に負けたらしいで。昨日から語尾に『~でんがな』をつけとるわ」

 

 彼女は楽しそうに笑う。その姿に正直うんざりする瑞鶴である。

 

「龍驤さん、それ全然面白くない」

「そうかなぁ?」

 

 どうもあの少佐が来てから、何かが噛み合わない。ずれた歯車のようにしっくりこない。木葉提督(提督さん)がいた頃は、もう少しで一航戦に勝てると言う、根拠のない自信にあふれていたものだが。

 

(提督さん、本当に死んじゃったのかな?)

 

 「絶対生きてるから大丈夫」と笑い飛ばす者もいる。自分もその一人なのだが、不安を感じないわけがない。

 

「龍驤さんは少佐の事、”司令官”と呼んでるんですね」

 

 姉に指摘され、龍驤さんは「あ、気付いた?」とでも言わんばかりに笑った。

 

「裏にあるモンはともかく、飛鷹や隼鷹があれだけ入れ込んどるんや、とりあえず信じて見るよ。暫定やけどな」

 

 翔鶴は黙って頷いたが、自分と同じく不満なのだろうなと思う。

 

「それにうちの経験上言うけど、赤城がああ言う絡み方をする相手は初めてなんよ。信頼してもええかなぁって思う」

 

 自分にしてみれば、あの温厚な赤城さんがあれだけ不機嫌を表明する相手にである。信用できたものではないと思うのだが。

 

「まあまかしとき、司令官が無茶苦茶やりだしたら、赤城加賀の尻を叩いて三人がかりで放り出すから」

 

 そう言って龍驤さんは行ってしまう。結局彼女の言葉は、自分達姉妹の悩みに寄り添ってくれるものでは無かった。感じた肩透かしはわがままでしかないのだが、それを知っていても気が晴れるわけでは無い。

 

「行きましょう、瑞鶴」

「うん、翔鶴姉!」

 

 姉の方も割と張り詰めている。だから自分がしっかりしなければ。

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆

 

 

Starring:提督

 

 「魔弾」ってもんがあるなら、こんなのを言うんだろう。

 

 五航戦は、決して練度の低い部隊ではない。それどころかすぐに艦隊の支柱としてやって行けるだけの実力がある。技量だけで言えば(・・・・・・・)だが。

 それがどうだ、今は猛爆の中逃げ回るだけ。いや逃げられてもいない。多分艦攻の攻撃ポイントに誘導されてる。

 

「さすが一航戦でんがな」

「ご主人さま。もう24時間過ぎてますから、普通にしゃべってください」

「そうでんが……そうか」

 

 漣にジト目で言われ、ごほんと咳払いする。航空母艦赤城。並びに加賀。二人の連携は完璧。水一滴漏らす隙は無い。片方が攻撃に入る時、もう片方は最善の位置・高度に直掩機(ちょくえんき)を展開させながら、自身も次の攻撃隊を準備する。頭を回線でつないでいるかと思えるほどだ。

 

「どうです? うちの一航戦は」

 

 漣が何故かドヤ顔で聞いてきた。確かにここは、こいつの古巣だ。俺は今日も泊地の指揮所で、演習を視察している。個々のデータは事前に受け取っているが、実際に見て見なければ分かるものも分からない。名将と言われた先輩が手ずから育てた艦隊だから、俺がどうこうしなくても、ただちに指揮を執れる。そう思っていたんだが、これはちょっと問題だ。

 

「先輩め、完全に甘やかしてやがる」

「え? これだけ出来て駄目なんですか? kwsk(詳しく)!」

 

 俺は胸ポケットから煙草を取り出し、ここが禁煙だと気づいて泣く泣く仕舞った。寮も執務室も禁煙だから、これからは吸いたきゃ外に出るしかないな。諦めて机からタブレットを取り出す。指紋認証と網膜認証の提督専用品だ。

 

「天才には天才で穴はあるって事だな」

「それ、答えになってませんよ?」

 

 先輩だって完璧(かんぺき)でじゃない。俺にも出来る事がある。目下の問題は――。

 

 

 

 演習終了後。“彼女たち”と話をするため工廠に下りて来た俺は、早速回れ右したくなった。現場は良い感じに修羅場っていた。

 

「五航戦、あなたたちの戦い方は、ただの自己模倣よ」

「私たちだって訓練量は負けてない! 努力してます!」

「なら、どうして私たちに勝てないのかしら?」

 

 言い争う加賀と瑞鶴の前に、翔鶴が進み出て頭を下げた。

 

「先輩! もう一度! もう一度お願いします!」

「駄目よ。意味がないわ。それにもう駆逐艦の訓練時間よ」

 

 彼女は奥歯を噛みしめる。空母の演習時間と資材を、低練度の駆逐艦に割り振ったのは俺だからな。さぞ恨まれている事だろう。

 

「えいっ」

 

 ぷにっと。何の前触れもなく赤城の指が加賀の頬をつっつく。

 

「ぷあっ? 赤城さん、何を?」

 

 なんか変な声が出てたが、武士の情けで忘れよう。彼女の顔を見た加賀は、自分もまた熱くなっている事を自覚したのだろう。一歩下がって彼女に場の主導権を譲る。

 

「駄目ですよそんなに焦っては。二人なら乗り越えられます。加賀さんが認めた後輩たちじゃないですか」

 

 信頼の言葉は、俺に対するのとは真逆の穏やかさだ。

 

「いいですか? こういう時こそ慌ててはいけません。講評はお昼ごはんを食べながらにしましょう」

 

 どやぁと胸を張る赤城を前に、三人も矛を収める。流石空母部隊のボスだ。先輩がいなくなった不安も、こうして彼女が吸収してきたのだろう。本人も不安だろうに。

 赤城は二人を間宮に誘うが、翔鶴たちは昼食まで弓道場で訓練をすると言う。それに遠慮したのか一航戦は工廠を出て行く。何となく気付いた。彼女たちは五航戦に足りないものを認識しつつ、それをどうやって気付かせるかを分かりかねているようだ。

 だったら、俺にも出来る事はある。

 

「よう。優しい先輩達だな」

 

 顔を出した俺をきっと睨む翔鶴。瑞鶴も明白にむっとしている。

 

「あなたに、先輩たちの何が分かるんですか?」

 

 別に皮肉で言ったのではない。赤城と加賀を本当に優しいやつらだと思ったからなのだが、どうやら言い方が悪かったようだ。

 

「何の用?」

 

 睨む瑞鶴に、目を合わせてくれない翔鶴。最近六駆に引っ付かれて忘れがちだが、これがこの泊地でデフォだよな。俺への対応。

 

「お前ら、一航戦に勝てない理由、知りたくないか?」

 

 すっと、俺への視線に「冷たさ」が加わる。神聖なものに触れるなとも言いたげに。しかし瑞鶴はともかく、ここの翔鶴も鼻っ柱強いな。

 

「訓練が修行が足りないに決まってます。木葉提督のコーチがあれば、何か掴める気がしていたのに」

 

 翔鶴は拳を握る。やっぱりそう考えるよな。艦娘とは言っても感性は普通の若者なんだと理解する。改めてだが。そして彼女たちにとって、先輩が如何に大きな存在か。それを見せつけられた。

 

「そうだよ! 今からでも駆逐艦の子たちを酷使するのを止めて、私たちにやらせてよ」

 

 だが俺は首を横に振るしかない。作戦は変えられないし、変えるつもりはない。それに、新人たちに「酷使」という言葉を使うのは、彼女たちを舐めすぎだ。

 

「代わりに一度、ほんの一度だけだ。俺の作戦で戦ってみないか?」

「少佐の?」

 

 思いっきり胡散臭そうな目で見られた。案の定信用無いね。

 

「そんなものは時間の無駄です。もう宜しいでしょうか?」

 

 さっさと行ってしまいたい態度を隠さない翔鶴。だが、俺は引き止める。

 

「おや? 赤城と加賀に勝ちたいって言う気持ちはその程度だったか? 俺なら溺れている時は、藁でも掴んで浮き上がろうとするがな」

 

 明確に苛立っていたが、俺の言葉をそれなりの真剣さで受け止めてくれたらしい。早く言え。表情がそう語る。

 

「いいか? お前らに足りないのは、ちょっとした意識(・・)だ。だが俺のやり方で一航戦に勝てば、その枷も吹き飛ぶ」

「前置きは良いから」

 

 瑞鶴が話を急かす。結構食いついてるなこいつら。

 

「お前らが身に着けるべきは”戦術”だ」

「戦術? そんなもの教本でいくらでも」

「そうかな? 今日やった赤城と加賀の連携は、教本に載ってたか?」

「!!」

 

 二人とも流石は武士(もののふ)である。俺の言葉に何がしかを感じ取ったようだ。

 

「戦争は流動的なもんだ。そこに対応するには状況に埋没しちゃだめだ。戦場を俯瞰する、もしくは俯瞰してくれる誰かが傍にいてくれないとな」

「確かに、筋は通ります」

 

 そこまで理解したなら、後は体で覚えるだけだ。

 

「よし、じゃあ具体的な作戦だが」

 

 二人の視線が集中する仲、俺は一見ぶっ飛んだ宣言をした。

 

「瑞鶴、お前艦爆と艦攻から、爆弾も魚雷も下ろせ」

「はあぁ?」

 

 やはりあなたは胡散臭い。そう言われる前に、俺は即興で考えた作戦を開陳した。

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