仮免提督といじわる空母・改二   作:萩原 優

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最新話はお約束の浦風回です。なんか萩風が無駄にキャラ立ちしましたが、そうなっちゃったのでしょうがない(;・∀・)

なおこのお話は、硫黄島作戦の前日談になります。あの時、津田と木葉の勝負を真剣に見つめていた彼女の胸の内は……。

どうぞお楽しみください。




第101話「浦風の着任、姉妹との再会(その1)」

話はさかのぼり、硫黄島作戦より半月前

 

●14時13分 泊地講堂

 

『萩風です。ヒトヨンヒトサン。非常事態を宣言します! 司令より、緊急物資の供出(きょうしゅつ)依頼です。缶詰やお菓子など、何でも構いませんが、私は低糖のものが望ましいと思います。協力してくれた艦娘は司令と”ちぇき”ができるそうです……漣、このちぇき、てなぁに? えっ、ええっ! ちょっと待ってそれ聞いてない私も……!(以後聞き取れず)』

 

 

 

Starring:浦風

 

 どういう理由かは分からないが、同じ容姿名前を持つ艦娘は、一人の提督に二人以上配属することはできない。浦風が目覚めた時、横須賀の全艦隊には既に「彼女」がいて、しかるべき艦隊に配属されるべく、まずは訓練を積むように言われた。この流れを一部の人間たちが「解体」などと言う言葉を使って揶揄しているらしいが、まさか本当に艦娘を解体するわけにもいかないし、乱暴ではあるものの配慮された措置だとは思う。

 

 そんなわけで、駆逐艦浦風はこの丹賑(ニニギ)島にやってきた。既に十七駆の面子は着任を終えていて練成中だ。実際にここの磯風たちとは、離島で不便ながら何度もやりとりしている。あとは感動の再会……となるはずだったのだが。

 

「え? どないなこと?」

 

 意気揚々と上陸した波止場に人の気配はなく、出迎えなんか一人もいない。確か磯風が迎えに来てくれるという話だったのだが。ひょっとしてうち、いじめられとる?

 

『いやあすまない。実は浦風の歓迎会を準備していてな』

 

 波止場に設置された有線電話を繋いだら、すぐにばつの悪そうな磯風が声がした。

 

「それはありがたいけぇど。何で誰もいないんじゃ?」

『それはちょっと事故が……な』

「事故!? だいじょうぶなん!?」

 

 要領を得ない回答に、食い気味に問いかけるが、返答の代わりに別の艦娘の大声が聞こえてきた。たぶん霞だ。

 

『遊んでないで早く片付けるわよ! ったく、七輪を使う場所くらい考えなさいよね!』

『すまん、浦風に新鮮な焼き魚をだな』

『それで歓迎会場を水浸しにしちゃ世話ないでしょ!?』

 

 だいたい事情が分かって、浦風は苦笑する。自分の為にやってくれたことだろうから、怒れないな、これは。しかし、スプリンクラーのあるような部屋で、煙を焚いたのか……。

 

『浦風ですか? こういう状況なので迎えが少し遅れます。誰かに車を出してもらいますので』

 

 磯風から受話器を取り上げたのか、電話の向こうが浜風の落ち着いた声に代わった。展開されているであろう惨状を想像してしまい、これはあまり早く到着しない方が良さそうだと、浦風は判断した。

 

「えええよええよ。自分で基地まで向かうけえ」

『しかし、この基地は横須賀と違いますよ?』

 

 目の前に並ぶ基地施設は、レンガ造りの横須賀鎮守府と比べ、ほとんどがプレハブの急造。ぶっちゃけどれがどんな建物なのかさっぱり分からない。

 

「大丈夫じゃろ。誰か捕まえて聞くけえ」

『そういうことでしたら。ではお待ちしてます』

 

 電話を切る。お待ちしてはいても、今行ったら多分みんな困ると思う。それでも浦風は、姉妹たちとの再会に胸躍らせて、埠頭を歩き出した。誰か見つかる頃には、きっと片付けも済んでいるだろう。

 

 その「誰か」は、麦わら帽子と汗まみれのTシャツで、かったるそうに釣り糸を垂れている男性だった。煙草を咥えてぶつぶつ言っているが、何故か火をつけていない。

 

(ここ、軍事基地の中じゃろ? 何で普通のおじさんがおるんかね?)

 

 浦風は話しかけようかそのまま通り過ぎようか迷って、結局会話を選んだ。他に誰も居そうもないし、思いっきり怪しい男性が何者か、ちょっとだけ気になったからだ。場合によっては憲兵さん案件でもあるし。

 

「あの……」

 

 男性はこちらをちらりと見やり、破顔した。初めて彼の顔を見たが、特にうさん臭さは感じなかった。ただ疲れていそうとか、覇気がないとかはちょっと思った。こっちの時代に来てから、周囲を軍人で囲まれていたこともあるのかもしれないが。

 

「今日来る予定の浦風だよな? 誰も迎えに来てないのか? そりゃちょっと酷いな」

 

 男性は苦笑して、胸ポケットから煙草の箱を取り出し、浦風に向けた。断ろうとして視線を落とすと、煙草の形をしたラムネ菓子のようだ。火をつけていなかったのは、そもそも煙草ではなかったかららしい。一本だけご相伴に預かる。

 

「あんた、基地の人なんかね?」

 

 男性はきょとんとして、何か思い出したように自分のシャツとだぼだぼのズボンを見下ろし、ぽりぽりと頭をかいた。

 

「ああそうそう。俺基地の人。津田ってんだ」

 

 「基地の人」とだけ言われても、どこの誰なんだろう? 普通警務科とか整備科とか階級とか、名乗るものではないのだろうか。

 

「もう事情を聞いたんだろうから話すけどな、お前さんの歓迎会がちょっとばかし大変なことになって、俺は今、代わりの食材を調達している」

 

 思いの外騒ぎになっているようで、基地の職員まで駆り出されているみたいである。どうするべきか少し考える。断るべきだとは思うが、ここまでやらせて無下にするのもそれはそれで失礼なのではないかと。

 

「今のところの戦果はどうなんじゃ?」

 

 津田さんは再び頭をかき「ボウズ」とだけ答えた。これはやはりもう、中止で良いんじゃなかろうか。

 

「磯風な」

「うん?」

 

 いきなり磯風の名前を出されて、浦風は目を丸くする。個人的な知り合いなんだろうか?

 

「谷風も浜風もなんだが、お前が来るのが決まってから嬉しそうなのが全く隠せてなかったからな」

 

 なんか、三人の顔が浮かんだ。磯風と谷風が暴走し、浜風は一応窘めはするが基本止めないというか、欲望に忠実。結局自分が場を纏めることになる。なんとも騒がしいが、大切な姉妹だ。そして、津田さんは続けた。

 

「だからまあ、最後までやらせてやってくれ。他の奴らも、もうやめようなんて一人も言わないんだ。ここは、最高なんだぜ?」

 

 照れくさくなったのか、津田さんは釣り竿のリールをぐるぐる回して、話題を中断する。そして、海草がからみついた釣り針を見つめ、言った。

 

「これ、食えると思う?」

「さ、さあ」

 

 津田さんは肩を落とし、コンクリートにどっかりと腰を下ろした。それが可笑しくなってしまって、笑いが漏れてしまった。津田さんもにやりと笑う。

 

 最高かどうかは分からないけれど、確かにここは、いいかもしれない。

 

 陽炎型の姉妹や艦娘たちの歓迎が、目に浮かんだ。その時磯風は、まだ乾ききっていない黒髪を揺らして、よくきたなと自慢げに頷いて見せるだろう。

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