仮免提督といじわる空母・改二   作:萩原 優

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ガール・ミーツ・おっさん回の後編です。漠然とした不安が明日への期待に変わる瞬間ってツボなエピソードです。

ところで提督のチェキって誰が喜んで撮っていったんだろう? 「こいつじゃね?」って思える艦娘がいれば教えてください。


第102話「浦風の着任、姉妹との再会(その2)」

●16時35分 丹賑(ニニギ)島埠頭

 

『ヒトロクサンゴ、みなさん物資の提供乙です。ご褒美の件は漣からちゃんとお願いしておき……なあに潮ちゃん? えっ、本当にこんなに来たの? これみんなご褒美目当てで? ……うわぁ。ええとその……ご主人さまごめんなさいっ!(放送切れる)』

 

Starring:浦風

 

 津田さんはうーんと背伸びして、腕時計をのぞき込み、言った。

 

「こりゃ駄目だな。諦めるしかないか」

「そうじゃろ? ここまでしてくれただけでも嬉しいけえ」

 

 ところが彼が、手品に引っかかった観客を見るような目で浦風を一瞥し、楽し気に携帯を取り出す。

 

「津田です。直前に無理を言ってすみません――本当ですか!? いやありがたい。今からそちらへ軽トラをやりますので――はい? いえそう言うわけにはいきません。大丈夫ですよ。今回はちゃんと予算組んであるので。今度秘蔵の一本を持っていきますので、職員の方と皆様で――そんなことありませんよ。こちらは無理を聞いて頂いたんですから」

 

 津田さんはパントマイムでもするように、携帯電話を耳に当てて虚空にお辞儀をしている。

 

(人間も、大変じゃな)

 

 人の体を得るまで、砲火をくぐっていることが誇りだったが、それだけが偉いわけじゃないと、今では思う。

 

「ふっふっふ。見よ俺様の交渉力!」

 

 携帯を握りしめ、津田さんはどや顔で胸を張る。何かを自慢する、というより、ボウズの鬱憤を晴らしている感じで、大変子供っぽい。

 

「と言うわけで、宴の準備は整った。行こうぜ」

「えっ? 何のことじゃ?」

 

 津田さんは上機嫌で携帯を操作してから、ポケットに収めると、釣り具を片付け始める。

 

「地元の業者さんにお願いしたら、熟成中の肉をまるまる一頭分卸してくれたのさ。曙が緊急で釣ってきた分を合わせれば、艦娘と基地職員分のご馳走はなんとかなるわけだ」

 

 自慢げに彼は言うが、ここの人たちは艦娘が着任するたびにこんなことをやっているのだろうか?

 

「そう難しい顔をしなくてもいい。ここは遠隔地だからガス抜きがいるんだ。基地職員にも旨いもの食べてもらって、艦娘と交流してもらえば、娯楽のない毎日を紛らわせられるってもんだろ?」

「つまりはお祭り好きなんじゃね?」

 

 端的にそう返したら、津田さんは「正解!」と人差し指を立てた。なんだか笑ってしまう。この人、面白い。

 

「お、来たな」

 

 暫く話していたらクラクションの音がして、軽トラ……ではなく陸戦隊の〔くろがね四起〕がこちらに走って来る。浦風も横須賀でお世話になったが、軍の偉い人がよく乗っている、それっぽさ満点の自動車である。しかし真の実力は別にあると説明を受けた。これ一台あれば、悪路を踏破して前線の拠点まで艦娘の艤装を運搬できる……そうだ。

 でも問題がある、この車は二人乗りである

 

「お待たせしました。浦風さんもいらっしゃい」

 

 運転席から顔を出したのは妙高さんだ。どうやらここの彼女は運転をこなすらしい。

 

「ごくろうさん。おお、こりゃ立派な肉だ」

 

 津田さんが幌の中を覗き込み、嬉しそうに言う。なんだかんだ理屈をつけても、この人も食いしん坊なのだろう。

 

「さあさ、浦風ちゃん。ここに座って」

 

 助手席から降りてきた漣がシートをパンパン叩く。主賓だから、と言うことらしい。

 

「あ、ありがとう」

 

 浦風のお辞儀を受けた漣は、車をぐるっと回って、荷台に足をかけた。

 

「おい、それは道交法違反」

「公道じゃないからタイーホはされませーん」

 

 しれっと言い放ち、ひょいと荷台に上がってしまう。

 

「そもそも何で二人乗りなんだよ」

「荷台付きがちょうど出払ってたんですよ。それより、内地からの荷物も、受け取っておきましたから」

「あ、了解。……なんで不機嫌そうなんだ?」

「今月の()たちの進水日プレゼント、だそうですね?」

 

 津田さんが妙高さんの顔色を窺うように一歩下がる。それでも彼は何かの自覚があるのか、ばつが悪そうに付け加えた。

 

「べ、別にいいだろ? 高いもんじゃないし」

「そうではなく、随分罪作りなことをなさいますねと言うことです。足柄は四月ですよ? かわいそうに、十ヶ月も待たせるなんて。漣さんだって」

 

 何故か漣の名前と、ここにいない足柄さんの名前が出てきた。本当に分からないらしく、津田さんは首をひねっている。

 

「妙高さん、もういいですから」

 

 荷台から顔を出した漣は、何故か苦笑顔だ。いろいろ言いたいことはあるけれど、この場では絶対言えない。そんな顔。

 

「なんで足柄がかわいそうなんだ? たかだがキーホルダーじゃないか」

「そのキーホルダー、中に入ってる音楽を厳選なさってるでしょう? それぞれの子のイメージに合った音楽だとか」

「ああ、横須賀にそういう店があってな。結構選ぶのも面白くて、最近のささやかな楽しみだよ」

 

 妙高さんはそれが問題なのですとばかり、頭に手を当てた。それで浦風も、何となく「事情」が呑み込めてきた。

 

「つまりプレゼントが問題なんじゃね? あかんよ提督さん(・・・・)、八方美人は」

 

 あっけなく正体が分かって、楽しくなってそう言ってしまう。ここの提督さんはとっても好かれてる。そして優しい人。着任する艦娘が何より気にする重要な問題が、早々に解決されたようだから。 

 

「なんかよく分からんが、分かったよ。希望者は抽選とかで対応するで良いか?」

 

 ああこれはいけない。問題の本質が全く分かっていない。これは漣も、まだ会った事のない足柄さんも苦労するだろう。

 案の定妙高さんはため息をつきかけ、流石に失礼だと首を振る。

 

「よろしくおねがいしますね」

 

 提督さんは何でここまで言われるのか全く分からない様子だが、特に深く考えない様子で、荷台に向けて歩いてゆく。

 

「じゃあ漣、お前次の休み空けとけ」

「えっ?」

 

 再び漣が、荷台からぴょこりと顔を出す。その表情は不意打ちを食らった証明だった。

 

「何で……漣に?」

「たかがキーホルダーで大騒ぎする理由が分からんが、お前なんか我慢してるみたいだし。久しぶりに二人で遊ぶのもいいかなって」

 

 漣はしばらくフリーズした後、視線を逸らし、つぶやいた。

 

「まあ、いいですけど」

 

 それだけ言うと、彼女は幌に頭を引っ込める。乙女じゃねえ。

 妙高さんも「足柄もお願いしますね?」と念を押し、上げた腰を運転席に腰を下ろす。

 

「そうそう、肝心なもんを忘れてた」

 

 彼は荷台をごそごそ漁って、取り出した包みをかかげ、浦風にパスしてきた。

 

「これ、うちに?」

 

 完全に不意打ちだったが、彼の照れた表情を見るのが面白かった。まだ明けてないけど、きっと素敵なものが入っている。

 

「進水日じゃないけど、まあ着任祝いだ。開けてみてくれ」

 

 包みの中には、音符記号のキーホルダー。確かに高いものではないと思うけれど、このシンプルさは好きな感じだ。

 

「裏側にボタンがあるだろ。押すと曲が流れる」

「うん」

 

 唱歌とか、恋の歌とかを予想していたが、流れてきたのは素朴だが品の良いメロディーライン。何の曲かは分からないが、多分船だった頃には縁がなかった音楽だと思う。

 

「ショパンの『別れの曲』って言うんだ。俺たちにしてみたら縁起でもないタイトルかも知れないが、これが流れる映画が大好きでな。別れの後に素晴らしい出会いを予感させて終わるんだ。あのラストは解釈が分かれるけど、すっごい前向きなもんだと俺は思ってるんだ。親友二人が『あばよ』の台詞の後に一切出て来なくなるのも寂しいけど、あれも未来を匂わせる演出で……」

 

 提督さんは言うだけ言って、ようやくしゃべり過ぎたことに気付いたようだ。気まずそうに咳払いするが、大分手遅れだ。でもそこまで気にすることは無いと思う。妙高さんも苦笑するだけで窘めたりはしなかった。

 

「まあともかくどうだ? 新しい出会いを得た艦娘っぽいだろ?」

 

 艦娘っぽいと言うか、すごく素敵なエールである。

 

「その映画は、広島出身の名監督が撮ったやつだから、まあ同郷のよしみだ」

 

 爆笑してしまったのは、人が悪いと思う。でもこんなに自分達のために頭をひねってくれる人から、簡単なことが抜けているのが楽しかったのだ。

 

「提督、浦風さんは広島ではなく大阪出身ですよ?」

 

 同じく苦笑した妙高さんの指摘で、提督さんは青ざめる。大阪出身で広島弁を使う自分も紛らわしいのだが。

 

「ごめん、なんか別のに」

 

 出してきた手を避けるように、キーホルダーをひょいと持ち上げた。こんな嬉しい着任祝い、返すわけがないではないか。

 浦風はキーホルダーを握りしめた手を胸に当て、着任の挨拶をした。それが儀式でもあるかのように。

 

「うち、浦風じゃ、よろしくね!」

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