仮免提督といじわる空母・改二   作:萩原 優

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【お知らせ】
3/21開催の足柄さんオンリー即売会「足柄山の狼さんリターンズ」にて、カタログ兼合同誌に小説を寄稿させていただいてます。

単品で楽しんでいただけるよう書きましたが、本小説と世界観は繋がってます。

https://wolf-ashigara.net/

私は法事が重なり行けません(´;ω;`)

参加される方、良ければ手に取って頂けたら嬉しいです。

※エピソードのナンバリングが狂ってました。修正しましたが、何かあればご指摘ください。


第106話「大和の帰投(その3)」

●14時53分 泊地展望台

 

『ヒトヨンゴサン、マイクチェック、ワンツー。霧島です。サンマル分後に湾内で大和さんの演習が開始されます。任務外の艦は積極的に見学しておくようにと通達が出ています。お誘いあわせの上、ふるってご参加ください』

 

 

 

Starring:提督

 

「……宜しくない」

 

 俺は高台から訓練風景を望み、難解極まりないなぞなぞに頭を抱えた。

 最強の戦艦が演習するから、任務の無い者が何人か見学に来ているが、皆釈然としない表情だ。

 

 控えめに言って、大和の訓練ぶりはまったくもって身が入っていない。泊地の資源事情を考えてもかなり痛いが、それも艦隊最強の戦艦のメンタルが不安定な事に比べれば些末な問題ですらある。

 訓練相手を務めてくれている長門も、正直戸惑っている様子だ。彼女が大和に苦言しないのは、恐らくだが大和に「何かある」事を感じ取っているのだろう。

 

 しかし、出来る限り時間を取って視察しているが、ここ数日は眠気が眠い。内地からは、相変わらず下らない書類仕事が飛んでくる。全財産賭けてもいい。あいつら俺たちが必死こいて書いた書類、絶対見てないだろ。

 

「そうねぇ。確かにこれはまずいわねぇ」

 

 背中越しに陸奥が話しかけてきた。彼女も大和に続く新顔だ。最強の戦艦に比べればインパクトの薄い陸奥はおざなりに……されるわけなどありえず、気さくな彼女はあっという間に皆の信頼を勝ち得ている。実際今も、陸奥に気付いた艦娘たちが笑顔で挨拶をし、彼女も手を振ってそれに応える。

 ちなみにすぐに演習に加わってもらうつもりだったが、彼女用の艤装がどうもマッチングが悪いと、明石と夕張が判断。不具合解消まで使用すべきではないと断固主張し、俺もそれを受け入れた。職務に関する限り(・・・・・・・・)、あいつらには全幅の信頼を置いている。職務に関する限り。

 

「お前は何か分からないか? 大和を坊ノ岬から解放する方法」

 

 不本意な戦線離脱を遂げたと言うなら陸奥も同じ、というかより酷い。それでも彼女は、何か引きずった様子もなく、長門や仲間たちとの時間を大切に過ごしている様子だ。

 

「多分ね。答えを簡単に教えてもらうのって違うと思うわ」

「えっ?」

 

 着任直後、赤城の謎かけに戸惑う俺に、漣が同じような事を言っていた。俺は振り出しに戻ったのだろうか?

 

「上手く行かんなぁ。もうちょっとは艦娘たちに寄り添えるようになったと思ったんだが」

 

 それなりに真剣な言葉だったのに、陸奥はぷっと吹き出した。

 

「それ、長門に言わないでね。きっと難しい顔するから」

「なんで?」

「自虐はだーめ。あと感謝の心を無下(むげ)にするのもだめよ?」

 

 理由を尋ねる前に、陸奥は手をひらひらさせて行ってしまう。

 

「提督なら大丈夫よ。お姉さんが保証してあげる」

 

 冗談なのか本気なのか、そんな言葉を言い残して。そう言えば、夕方から艤装のマッチングテストだったな。

 

 久しぶりにタバコが欲しくなってきたかも。

 そして俺は、タバコを吸う代わりに巨大ななま欠伸(あくび)をするのだった。

 

「大和、どうかしら?」

 

 入れ違いに展望台にやってきたのは、対潜哨戒明けの矢矧だった。資源が無いから、新任の海防艦は彼女に現場で鍛えて貰っている。もちろん後方での任務だから残敵掃討と言うより、海域の安全確認と言う意味合いが強い。

 そして彼女は手すりにつかまり演習場をのぞき込み、肩を落とした。矢矧なら、一目見れば大和の不調も分かるだろうな。

 

「まあ任せろ。何とかするから」

 

 完全なる虚勢だが、矢矧は特に心配する様子もなく、頷いてくれた。

 

「私もね、分かるのよ。皆沖縄の米軍を退けるために出撃して、そこで何もできずに沈んだわ。きっと大和の心はまだ坊ノ岬にいるの」

 

 そうだろうと思う。何とか救い出したい。そうじゃなきゃ、あのくそったれな戦いから、もう一度チャンスを得た甲斐がないじゃないか。

 

「お前は、どうやってそう言う物を乗り越えたんだ?」

 

 配属時、矢矧の振る舞いは、凛としていて豪胆。だがその裏には激情のようなものを感じていた。今もそれは変わらず、和らいだようには思えない。ただその激情の源泉は、焦りではなくなった。何か前向きなものになったと言う感触があった。俺はそれを、彼女がここに馴染んでくれた証だと判断していたわけだが。

 そして予想通り、彼女は微笑む。

 

「阿賀野姉や能代姉もいたし、酒匂とも会えたから」

 

 そっか、艦娘にとっては、そう言う絆が特効薬なのかも知れないな。大和のあれも、自分で解決できる問題なのかもしれない。ただ俺たちには、時間が不足している。南洋艦隊の反撃があれば、呉の鎮守府解体派は、躊躇なく俺たちを矢面に立たせるだろう。

 正直、大和の力は喉から手が出るほど欲しい。だが彼女に無理な戦いを強いるなら、それは本意ではないし、誰一人幸福にならない。

 

「坊ノ岬の時は、やさぐれてたのかもね。姉が二人ともいなくなって、酒匂だけは守らないとって。捨て鉢になってた」

 

 俺は必死に言葉を選ぼうとして、結果答える事を諦めた。恐らく彼女も俺の感想は望んでいないだろうから。

 

「でも心配するな。前線で撃ち合ったりは出来ないが、こう言うことを何とかするのが提督の仕事だ。お前は心配せず、今は大和を気遣ってやってくれ」

 

 矢矧はやっと微笑んでくれた。艦娘たちは、みんな笑っていてくれた方が良い。それを言ったら人間もそうだが。

 

「ええ。頼りにしてるわ」

 

 頼りにしてる、か。とんでもねぇよ。俺はいつもお前らに救われてるんだからな。

 

 と、感じに自分自身の言葉に酔っぱらっていた俺は、赤城に事務仕事を押し付けて出てきた事をすっかり忘れていた。彼女は何故か矢矧とのやりとりを把握していた。まあ悪意なしとか良かれと思ってとかで、ぽろっと話しそうなやつは何人かいるから、それは別にいい。頬に空気をいっぱい溜めた赤城に睨まれた。別に嫉妬される要素無いと思うんだが。

 

「なぁ、俺矢矧にそんな悪い事言ったか?」

「いいえ、むしろ最高の対応をされてたと思います。だからむくれてるんです」

 

 赤城は頬を膨らませたまま、ぷいと顔を逸らす。こいつ、こんな拗ね方するやつだったっけ?

 

 わけわかんないよ!

 

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