仮免提督といじわる空母・改二   作:萩原 優

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第11話「特訓! 五航戦!(その2)」

※25.11.1 改稿

 

Starring:加賀

 

数日後 一航戦・五航戦合同演習

 

「今日は、びっくりさせてあげる!」

 

 びしっ、と指を向けられ、一航戦加賀は首を傾げかけた。

 

「悪い物でも食べたのかしら、五航戦」

 

 それを聞いた瑞鶴はぎーっと歯を見せた。良かった。いつもの五航戦である。

 

「こら瑞鶴。失礼でしょ?」

 

 妹を窘める翔鶴を前に、赤城さんと顔を見合わせた。最近の二人は、瑞鶴よりむしろ翔鶴の思いつめた表情を心配していた。それがどうだ。今日はいつもの世話好きで温和な彼女だ。瑞鶴と二人弓道場に籠りっぱなしだったから、何か気付きがあったのかも知れない。

 

「楽しみにしていますね」

 

 にっこり笑う相棒の顔は、本当に楽しみにしていると分かる。そして実は、自分もそうだ。

 

「よぉ、やってるな?」

 

 工廠に入ってきた津田少佐に顔をしかめかける。今いい所なのだが。彼は何故か、自慢げな表情だった。五航戦たちが、なんと彼に頷いて見せた。それはぶっきらぼうな仕草だったが、赤城さんの表情がかすかに引き攣って行く。

 

「約束通り今日勝つ事が出来れば、少佐を”提督”と呼ばせて頂きます」

 

 翔鶴の宣言に、瑞鶴もまた首肯した。これはどう言う事だろう?

 加賀としても、津田と言う軍人にわだかまりはある。木葉提督が行方不明になった経緯も疑惑だらけで、以前聞いた良くない噂(・・・・・)もそれに拍車をかけている。高雄を筆頭に、彼を警戒する者は多い。硫黄島作戦の変更とそれについての情報を開示しない事も悪印象であるが、これは上からの命令だと言われれば仕方がない。疑惑は疑惑でしかないし、加賀としては木葉提督と同じなどと高望みはしないから、ただ無難な泊地運営をしてくれればいいと思ってもいる。

 同時に前任の件が黒だったり、艦娘の誰かを傷つけたりすれば、その時は断じて許さないつもりでもいるが。もちろん五航戦たちの事も同様である。

 

 相棒の赤城は、言うほど彼を嫌っていないように思える。少佐を下らない賭けでやり込める姿が、妙に楽し気だからだ。では何故そこまで不愛想に接するのか? 実は自分にも分からない。”他所の赤城”は知らないが、自分のパートナーは、何か隠し事をしている。それには気付いているし、赤城の方も気付かれていると知っていて打ち明けられずにいるのだろう。ならば加賀の方も尋ねる事はない。

 

「では、艤装を受け取ってきます」

「おう、テストは念入りにな」

 

 五航戦たちを送り出して、少佐はにやりと笑った。赤城さんの引き()った顔が仏頂面に変わって行く。

 

「と言うわけだ、今日は勝たせてもらうぜ?」

 

 少佐は宣言する。鉄火場のチンピラのように笑って。この人は、こう言う振る舞いで信用を無くしているのではないかと思う。

 

「いいでしょう。何を賭けますか?」

「そうだな」

 

 また始まった。この二人は何でこんなに楽しそうにいがみ合うのだろう。彼女が楽しいなら何も言えないが、頼むから赤城さんの品位を落としてくれるなよと思う。というかこの男を始末する時がくるなら、硫黄島うんぬんではなくそっちが理由と言う気がしてきた。

 

「じゃあお前これから24時間、語尾を『ですぞ』にして、『デュフフフ』と笑え」

「は? 何ですかその気持ち悪いの?」

「いいんだよ。令和の最新流行だ」

 

 この男、赤城さんに「一航戦の誇りですぞ。デュフフフ」などと言わせる気か! 訂正、彼女がいくら楽しくても、やはりこの男は今この場で解体しよう。

 

「加賀さん、大丈夫ですよ?」

 

 窘める赤城が、いつも通りの表情をしている事に気付いて、悔しく感じている自分に気付いた。

 

「じゃあ、少佐は誰かの名前を呼ぶ時に『ママ』と付けて話してください」

「変態じゃねぇか! 容赦なさすぎるだろ!」

「それはお互い様ですね」

 

 赤城さん、最近楽しそうに考え事をしていると思ったら。

 

「じゃあ指令室で結果を見届ける」

「どうぞ。どうせ絶望に変わるでしょうが」

 

 くっくっと含み笑いしながら、提督は行く。何やら頭が痛くなってきた。

 

「少佐」

「何だ加賀?」

 

 本来これは言うつもりが無かったのだが、子供のように軽薄な物言いに少しだけ腹が立った。だから別に彼女たちを心配しての事ではない。

 

「もしあなたがあの子たちに余計な事を吹き込んで、事故でも起こしたら」

 

 最後まで言わなくても理解したらしい。軽薄な笑いは消えていた。

 

「もちろんだ。相応の責任は取る。だが彼女たちに入れ知恵したのは、それが必要だったからだと思っている。そこに嘘偽りはない」

「その言葉、忘れないで」

 

 それだけ言い残し、赤城と供に鶴姉妹を追いかける。むろんいくら彼女たちが成長しようが、勝たせてやるつもりはない。一航戦は厚い厚い壁でなければならない。決して五航戦に負ける事などあってはならない。彼女たちが、本当の意味で自分達を越えるその日まで。

 

 そんな事を思っていたから、二人を見送る津田少佐が、つぶやいた言葉を完全に聞き逃していた。

 

「ほんと、優しい先輩達だ」

 

 大きく苦笑し、その後微笑むと、彼もまた中央指令室に向かっていたのだった。

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