仮免提督といじわる空母・改二   作:萩原 優

110 / 119
先週は失礼しました。今日明日と、連続で投稿いたします(`・ω・´)b

佐世保は行けませんでした(´;ω;`)


第110話「好敵手の来訪(その4)」

●12時11分 ホテル閑閑(かんかん)亭 一階レストラン

 

『ヒトフタヒトヒト。大和です。本日の閑閑亭は、アメリカ艦の皆さんとの交流のため、ちらし寿司を作ります。艦娘、職員さんだけでなく、町民の方の分もあります。任務中の方もご心配なく。第二回も企画中です』

 

Starring:アトランタ

 

 あれからアイオワは、大和の秘密をさぐると称して、ずっとつけ回している。ストーキング的なそれではなく、工事現場で働く大人を興味津々で見ている男の子とか、そんな(てい)である。

 

 大和の方は、それを邪険にするでもなく、にこにこと笑いながらあれこれ説明している。自分がこんなのやられたら、開始30分でキレている。

 

「ねえ? What’s is this?」

「これはですね、照り焼き用の串ですよ。こうやって、タレにくぐらせるんです」

「Amaizing! これは、あなたの強さの秘密なの?」

 

 大和はこまったようにあははと笑う。

 

「多分違うと思いますよ。でも照り焼きは美味しいです」

「Wonderful!」

 

 アトランタは別に、それに付き合う必要ないのだが。駆逐艦がなんか寄ってくるし。まあ仕事だから仕方がないけど。ちらし寿司うまいし。

 

 それにしても、大和の不調説はどこへ行ったのだ。自分が知る限り、彼女は終始楽しそうで、訓練結果も悪くないどころか、むしろ良い。

 

「今日はカニ汁もやりますよ。提督が苦労して手配してくださったんです」

「Realy!? YamatoがCookingするの?」

「鳳翔さんと一緒にですけど。室蘭の毛ガニは格別らしいですよ」

 

 あ……。大和は一瞬身を固くするアイオワに気付き、すぐに話題を切り替えた。

 室蘭という町は、アイオワにとって特別な意味がある。悪い方にだけれど。大和が沈んだ後だから、彼女はあれ(・・)を知らない。

 

 そう、アトランタにしてみれば、実はアイオワの方が心配だと思っている。実際訓練結果もよろしくない。彼女のハイテンションは、自分が立ち直るきっかけを、大和に求めているのかも知れない。演習で大和に負ければ負けるほど、アイオワは彼女に依存して行く。

 

 で、その不調の原因は恐らく検討がついている。彼女の艦歴は、アトランタとは重ならない。それでもプライドの高いアイオワが苦しんだことは、自分にも分かるのだ。でもアトランタは、そこまで踏み込まない。踏み込めないと言うべきか。この件は本当にどうしたらいいかもわからない。

 

「ふわぁ」

 

 目の前で大あくびする津田提督も含め。

 

「いいの? 提督さんが遊んでて」

 

 そう言っても、彼は特に悪びれる様子はない。

 

「上から色々難癖をつけられてから交代制にしてるんだ。休めるときに休んどかないと体がもたんからな」

 

 そんなことを(うそぶ)いて、アイスコーヒーをちゅーちゅー吸っているのが、この泊地の責任者である。

 この津田と言う男、実績から見て多分有能で、彼を慕う艦娘を見ればそれは分かる。しかし何というか、威厳とか権威とか、そう言う軍隊に必要なものを、無意識に距離を置いている節がある。自分とは何もかも違うのに、何故か親近感がわいた。

 

「大和、何があったの?」

 

 どうせ自分には腹芸など無理だから――いや、面倒くさいからと言うべきか――いきなり本論を切り出した。

 

「聞いてたのと違う。魔法でも使った?」

 

 津田大佐が苦笑する。そして言った。

 

「そんな魔法あれば、毎回使ってる」

 

 その通りだが、前任の色が付いた泊地を、短期間でここまで一枚岩にする。魔法以外の何物でもない。

 

「別に良いんだけどね。前にうちのAdmiralがそう言ってた」

 

 魔法使い云々は、自分達の提督、タネンバーグ少将の評である。

 最近柄にもなく、政治っぽい話をしている。艦娘たち生存圏がどうなどと、地図とにらめっこしているが、それは横須賀や、この津田大佐も一枚かんでいるらしい。

 自分大好き、自分一番のわれらがAdmiralも、彼のことは認めている様子。そうでなけれな大事な艦娘を預けたりはしないし、自分に彼を見定めろなども命じたりしない。

 

「大和はホテル扱いを嫌う艦娘だと聞いたけど、あれは何なの?」

「”あれ”は酷いな」

 

 津田大佐は苦笑して、コーヒーをかき回す。カカオ豆なんて嗜好品、上質のものが普通に飲めるわけがない。恐らく入れ方が良いんだろう。

 最近この閑閑亭で散財してるのは、他に娯楽が無いからで、別に大和の料理を気に言ったわけじゃない。ないったらないのだ。

 

「別にあいつはホテルが嫌なんじゃなく、皆が戦ってる時に(おか)にいる事を揶揄されるのが嫌なだけなんだろう。腹を割って話したら解決したぞ」

洗脳(brainwash)したわけ?」

 

 してねーよと津田大佐は言う。まあ実際にやろうとしたら、彼は既に消し炭にされていると思うが。

 

「大和の時は抑止力の話をした。お前がどんと座ってるから皆が頑張れるってな」

「それだけじゃ軽すぎると思うけど?」

 

 軍艦は抑止力。フリート・イン・ビーイング――すなわち軍港から敵に圧力を与え、戦いを躊躇させる思想――こそ最高の使い方。自分たちもAdmiralから、そう教えられてきた。おそらくこの泊地でも変わるまい。

 

「そうだな。だからまあ一生懸命言い方を考えたんだよ。それはもう柄にもなく」

「日本には”(さや)の内”と言う言葉がある」

「さや? sheath?」

「そう、その鞘」

 

 津田大佐は、コーヒーのお代わりを注文し、ゆっくりと話し出した。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。