仮免提督といじわる空母・改二   作:萩原 優

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昨日に続き、更新です。

佐世保行けないから、なんかうまい物食べてくりゅノシ


第111話「好敵手の来訪(その5)」

Starring:提督

 

 数日前。

 

 俺が大和を半ば無理やり連れ出した時、案内した『ホテル(・・・)閑閑亭』と言う看板に、彼女は失望をを隠さなかった。

 決戦は何時やって来るか分からない。だから俺は、力技に出ることにした。

 

「私は、またここ(・・)ですか?」

 

 大和ホテルに武蔵(たけぞう)旅館。大和型姉妹に張られた、不名誉なレッテルだ。彼女たちの開発経緯も偏見を助長した。これからは空母の時代だが、抑止力として戦艦も必要。だから思い切り強いのを少数造っておこうと言うコンセプトは、先見の明があったと思う。彼女たちを活躍させる石油(アブラ)が枯渇したことに目をつむれば。

 よって大和型は温存され、現代においても役立たずの代名詞と言った扱いをする者もいる。とんでもない誤解だ。

 

「確かに1940年代の日本だと、お前さんは活躍しにくい状況だったかもしれんが、この時代は違う。お前の為にあつらえたような戦場が待ってる」

「ではなぜ、ここに私を?」

 

 大和は不信感一杯に問う。無理もないと思うが、俺は今回の件で割って話すなら、とことん食らいつくことに決めている。

 

「お前、料理は興味あるんだろ? 周りから色々言われて、好きなことが好きじゃなくなった。違うか?」

 

 そこで初めて、彼女は俺を見た(・・・・)

 やっぱりそうか。大和は抑止力であることを恥じているんじゃない。仲間たちが戦っている間、母港で待っている自分を不甲斐ないという自責の念を抱いていたのだ。そして周囲は、山本五十六長官ですら、彼女に辛らつだった。

 

「俺も経験あるからだよ。戦わなきゃいけないのに心や体が動かないのは、とてもつらい。だから提案なんだが、戦いのない時、ここで皆に料理を振舞ってくれないかな。鳳翔も間宮も伊良湖も、色々忙しくてな。うちは食事周りの属人化が酷い」

「しかしそれではまた……!」

 

 大和ホテルと呼ばれてしまう。もっともな危惧だ。内地にはうるさい上層部やメディアがいるからな。だが、大和には大和の戦い方があると思うのだ。だから俺は、無理やりに本題を切り出した。

 

「真に強いサムライは、むやみやたらと剣を抜かない。ただ(つか)に手を当てるだけで、敵は恐れをなして逃げて行く。それが彼らの理想だ。戦わずに敵を退け、流血を避けることこそ最も困難だが有益な戦い方だ」

「それは、抑止力の言い換えでしかないのでは?」

 

 それを言っちゃ身もふたもないのだが、この話のキモはこの先にある。

 

「ひとつ違う事がある。国家の軍事力は目に見えるけど、剣の腕は見た目じゃわからない。サムライが力を誇り、戦わず敵を退けるには、ひとつだけ条件がある。それは名だ」

「しかし私は、そのような名誉を持ちません」

 

 確かにその通り。ただしそれは、「これまでそうだった」ことに過ぎないと思う。

 

「深海の連中が俺たちを恐れるには、最強の深海棲艦を一刀のもとに斬り伏せる、そんな最強を越える最強がいればいい」

 

 大和が目を見開く。考えてもいなかったようだ。随分思い詰めていたのかも知れない。

 

「……そして敵は戦いの無意味さを悟り、和平を申し出てくる。実にカッコいいじゃないか。連合艦隊の象徴に相応しい」

 

 南洋艦隊は徹底抗戦の構えらしい。であるのなら、話し合いはもう少し先だ。まずは恐れを与えなければならない。そしてそれは卑劣な暴力であってはならないあくまで正面から正々堂々と、そして完膚なきまでに叩きのめさねばならない。

 

 軍隊は争いを遠ざけるための武力。刀を研ぐだけではなく、いつでも使えるぞ、と言うポーズが必要。そして俺たちがその刀がなんとか使い物になると証明されたのは、深海の攻撃を受け大被害を出した後だった。敵を恐れさせねば、抑止力は成立しない。

 

「だが我が艦隊には、最強の剣が来てくれた。だから俺たち艦隊の(・・・・・・)のために、最強の敵を倒してくれないか?」

 

 大和は、驚いたように俺を見る。そして、閑閑亭の看板をそっと撫でた。

 

「あなたは、私が最強の存在になれると信じますか?」

 

 俺は頷いた。それだけは確信をもって言えることだからだ。環境と作戦を整えてやれば戦艦大和は無敵だからだ。

 

「俺もガキの頃、お前に憧れた男の子だからな」

 

 苦笑する。日本人であれば、もっとも有名な戦艦の名を知らぬ者はいない。そして船乗りを目指す少年に憧れを与える存在である事も。

 そして彼女は、静かに敬礼した。

 

「戦艦大和、これよりあなたの指揮下に入り、最強の深海棲艦を倒し、最強になります」

 

 頷く俺も、実は胸が躍っていた。最強の戦艦が最強である事を証明しようとする。少年漫画さながらの胸熱展開じゃないか。

 俺は無言で答礼し、にっと笑って見せた。

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆

 

 

 とまあ、そんな話があったわけだ。

 

 アトランタは「ふぅん」と、見定めるように俺を見た。こいつも俺を見た(・・・・)のはこれが最初かも知れない。当てずっぽうだが。

 

 ことりと、アトランタの目の前にスープが置かれた。大和に聞かれていたようだ。隠すつもりならここで話したりはしないので、別に良いのだが、なんかその仕草に熱を感じる。

 

「提督はおっしゃってくれました。『この俺《・・・》のために、最強の敵を倒してくれないか?』と」

 

 あの日のやりとりをかたる大和の顔は、妙にきらきらと輝いている。ついでに俺は、美化されまくっている。

 

「”この俺”なんて言ってない。”俺たち艦隊の為に”だ」

「そうでしたか? しかし私は思ったんです。まだ出来ることがあると。坊ノ岬は戻ってこなくても、大和は必ず祖国と、この泊地に平和を取り戻します。津田提督の名のもとに」

 

 大和は拳を握って演説する。頼むから最後のはやめてくれ。いい加減な覚悟で言った言葉じゃないが、それでも口八丁(くちはっちょう)手八丁(てはっちょう)で丸め込んだみたいで罪悪感がする。

 アトランタを横目で見ると、ひたすらスープを口に運んでいる。行儀よく飲んでるんだがなんか子供みたいに見えるのは、彼女がどこか幸せそうだからだろう。

 

「この閑閑亭も、提督の優しい思いが込められているのです。それは赤城さんと漣さんの絆で――」

「分かった。俺が悪かったからその話やめような」

 

 何でその話を大和が知っているんだろうか。動物園のアレは、我ながらかっこつけすぎた。漏洩は痛恨事なのだ。ってか恥ずい。

 

「照れることないですのに」

 

 照れるとかそう言う問題じゃねぇんだよ。そう言う色恋沙汰はな……そうだ色恋沙汰だったな。ほんとちゃんとしないと。

 

「なんで提督さんが落ち込んでんの?」

「きっととても素晴らしい深謀遠慮があるのです。こうしている間にも、提督の頭の中には全人類の幸せを守るための知恵が練られて……」

 

 やめて!

 

「ふーん。あ、今日は魚料理で」

「はい、かしこまりました」

 

 大和はにっこり微笑み、空になったスープ皿を片付ける。

 

「ねえ、提督さん」

 

 大和が立ち止まり、俺は顔を上げる。急にアトランタの声色に影が差した。迂遠な問答が終わり、本題に切り込むタイミングが来たらしい。そして、彼女は言った。

 

「アイオワをさ、助けてやってくれない?」

「助ける? そこまでやばい状況なのか?」

 

 声を抑えて問い返す俺に、今度は大和がはっきりと言い切った。

 

「今の彼女なら、リハビリ中の私でも楽に勝てると思います。下手をすると」

 

 彼女はそこで言葉を止める。アトランタもまた、言い切った大和に抗議せず、静かにうなずいた。

 

 これより、事件は螺旋(らせん)図のように絡まり合い、集束してゆく――。




閑閑亭のエピソードは第46話・47話の「三人の動物園(その1・その2)」というお話で語られています。未読の方は( ゚д゚)つ ドゾー
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