仮免提督といじわる空母・改二   作:萩原 優

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遅くなりまして申し訳ない。最新話を公開します。一見アイオワから離れる展開ですが、ここから色々集束して行きます。

現在執筆は最終章に入ってます。どうぞお楽しみに(`・ω・´)ゞ


第112話「約束の海へ、再び(その1)」

●十時零分 泊地会議室

 

Starring:提督

 

『ヒトマルマルマル 大淀です。只今より提督は待機シフトに移行します。急ぎでない用事は、執務室まで

お願いします。なお明日の秘書艦は金剛さんです』

 

 待機時間。何と素晴らしい響き。くそいまいましい書類の山が無くなってから、今度こそ映画をきっちり楽しむ時間がやってきたのだ。しばらく内地に帰ってないからビールは無いが、そんなことは問題ではない。なぜならそこにでかいディスプレイとプレイヤーがあるからだ。

 

「そうだなぁ。せっかく日米合同のレクリエイションなんだから、両方が喜べるものがいいな」

「もちろん『Imperial Navy』よ! Yamatoの戦いをこの目でLookしたいわ!」

 

 アイオワが自信たっぷりにリクエストしてくる。そんな映画あったっけ、と思案して思い出した。戦争映画の『連合艦隊』の英名だ。あれレイテだのエンガノだのやった後に坊ノ岬で終わる縁起でもないやつじゃないか。却下だろ、面子的に。

 

 なお、彼女は演習明けの参加である。スランプ、というアトランタや大和の言葉が、どうにも信じられなかった俺だが、確かに戦い方が手堅い。彼女の持ち味が生かされず、小さくまとまっている印象だ。旧軍風に言うなら、「敢闘精神が足りない」と言った感じだろうか。

 無駄に明るく振舞うのも、その辺りが原因かもしれない。指摘されないと分からない程度のものだが、これからの大変な時期に、不安は感じる。

 どうしたものか。

 

 思考は明後日の方向に向かう。それを止めたのは、レキシントンのハイテンションな無茶ぶりである。

 

「そうよ。何が悲しくて翔鶴と瑞鶴が沈むところを見ないといけないのよ。珊瑚海は無いの? 珊瑚海は」

「あのさぁ、別に私達記録フィルム観に集まったわけじゃないんだけど?」

 

 勝手にだしにされた瑞鶴が、ノリノリの彼女に待ったをかける。

 

「そうですね。サラはなにか心が安らぐような映画がいいと思います」

「私はなにか、元気で楽しい映画がいいですね」

 

 サラトガと翔鶴から、ようやくまともな意見が出てきた。俺はふむふむと頷きながら、サブスクの配信動画やらセミハードケースのDVDやらを確認する。西部劇もいいが、こちらがアメリカ艦をお迎えする立場だから、むしろ日本のチャンバラ映画とかがいいかも知れない。いや、ジェームズ・ボンドが日本に来る話があったな。あれ荒唐無稽だけどどちらの視点でも楽しめる映画だし。いや待て、古い東映アニメなんかも……。

 

「はいはい。この状態になった提督さんは長いから、私達で決めちゃおう?」

「ちょっおま、鍋奉行の邪魔をするとはいい度胸だ」

「鍋奉行なら肉が固くなる前に、ちゃんと映画選んでよ」

 

 それもそうだなと。結局無難に宮崎アニメをチョイスした。

 大淀から「映画を見ながら交流するのもいいかもしれませんね」、なんて意見が出たのは昨日のことだ。俺の趣味が映画だと知っている彼女は、息抜きの意味もあって提案してくれたのだろう。嬉しいこと言ってくれるじゃないか。それじゃあとことん映画を見てもらうからな。

 

 と言うわけで、アイオワとレキシントン姉妹が手を挙げた。日本艦は、レキシントンの強い希望で呼ばれた鶴姉妹だ。大和は残念ながら夜の仕込みがあるそうだが、アイオワから彼女を迎えて第二回を是非と要望されている。嬉しいこと言って(以下略)

 なおアトランタにはにべもなくお誘いを却下された。悲しい。今回演習で不在の摩耶は、次回開催時にはアトランタを引っ張ってくると息巻いていた。なんか彼女も思うところあるらしい。

 

 そんなわけで、円盤をプレイヤーにセットしようとした時、会議室の戸が叩かれた。

 

「お休み中にすみません提督。神威をお呼びとか」

 

 ひょいとドアから顔を出したのは、補給艦神威だ。彼女は海防艦たちをお供に内地まで行ってもらってたんだが、いいタイミングで帰ってきてくれた。

 

「おう、一緒に映画観ようぜ? お前も旧交を温めたいだろ?」

 

 神威は「旧交?」と首を傾げようとして、鳳翔が自作したポテチをぱりぱりやっているレキシントンと目が合った。そして二人の顔がぱっと華やぐ。

 

「神威じゃない! 久しぶりね! 朝凪たちは元気?」

「”あの時”の仲間で目覚めたのはまだ私だけなんです。でもレックスさんとお会い出来てうれしいです。コロラドさんは?」

「彼女は今ニュージーランドよ。今ハワイに帰還中だから、ここに来るのは無理かも。でも、じきに会えるわ。私たちはもうSister in armsじゃない!」

 

 二人ともえらいはしゃぎようだ。Sister in arms――戦友なんて言葉を選ぶとは、レキシントンもなかなか粋である。実は瑞穂から「神威さんが帰ってきたらすぐレキシントンと引き合わせてあげてくださいね」と、珍しく強めにお願いされたのだ。

 それでまあ、事情はググったら簡単に出てきた。神威やレキシントンたちが立ち会った事件は、何らかの思いを彼女達に残していったことは想像に難くない。

 

「どういうことですか? お二人は船の頃会っていたんでしょうか?」

 

 翔鶴の疑問はもっともで、日本艦たちは皆うんうん頷いて、二人の説明を待っている。

 

「そうですね。ふふっ、とても懐かしいわ」

「あの時は大変だったわね。必死だったし」

 

 二人はとある事件を懐かしみなつつ、どこからどう説明したものか迷っている様子。それも無理はないのだが。

 

「神威もまあ座れ。もし二人が辛くないなら、映像で観てみるか? “あの人”の伝記映画があるんだ」

「Really!?」

「そうですね。是非見たいです」

 

 俺はよしと頷き、一枚のディスクを取り出した。

 

 映画の名は『アメリア 永遠の翼』。2009年公開だ。伝説の冒険飛行家、”アメリア・イアハート”が歴史の表舞台に燦然(さんぜん)と現れ、太平洋に消えて行くまでを描いたドラマだ。

 

 行方不明となったアメリアを捜索したのは神威・レキシントン、そしてここにはいないコロラドだった。他の捜索メンバーはまだ艦娘として生まれ変わってはいない。

 なにより大切な事は、1938年、欧州で大戦争が始まり、太平洋に飛び火する直前の事だ。アメリカの、いや大空の英雄を救出するため、日米両国はこの瞬間だけ対立を忘れた。莫大な予算をかけて、彼女達は南洋を探し回ることになる。しかしその努力は実らなかった。捜索は打ち切られ、二つの国のフネたちは、戦場で相まみえることになる。今は知る者も少なくなった悲劇だった。

 

 感受性の強い鶴姉妹は、アメリアの活躍に一喜一憂し、アイオワはアメリカのヒーローに胸熱している。そう言えばこの映画、水上機がいっぱい出てるんだったな。今度日向にも見せてやろう。

 

 画面の中で操縦桿を握る、エネルギーにあふれた女性飛行士を見て、二人は何を思うだろうか。無念? 懐かしさ? 悔しさ? 俺には判断できない。

 

 それでも俺は、画面を観る二人が抱えた何か。それをなんとなく感じ取ることができた。それは寂寥(せきりょう)だと思う。

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