仮免提督といじわる空母・改二   作:萩原 優

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なんか次のイベントの雲行きが怪しくなってますね。お手柔らかにお願いしたいところです 

さて、週分を更新します。更新頻度を増やそうかと思いますが、まだ具体的にどうするかは未定です。色々試行錯誤することになると思います。


第114話「約束の海へ、再び(その3)」

Starring:提督

 

『ザザッ! ……こちら、イタスカ。KHAQQ、KHAQQ、現在地……を送信し……ザッ…ください。どうぞ? ザッ……聞こえ……か? こちら……ザッ……QQ、答えて下さ……ザッザザ』

『こち……ら……KHAQQ、あな……たが、ザザッ……見えませ……』

 

 アオが取り出したのは、深海棲艦の記録媒体だ。人間のものとは互換性が無いから、正直こちらとしては面倒な存在なのだが、その中身は有用な技術や情報の塊だ。人類各国のお役人や技術者も、人間の機械でこいつを閲覧するために四苦八苦しているらしい。うまくはいってないようだが。

 

 それにしても、だ。

 流れてくる音声は、通信記録。それは、人間が存在を知りながら、音声データは残っていないはずのやりとりだ。

 

「イタスカ? これはあの子の通信なのですか!?」

「それにKHAQQ! アメリアのコールサイン!」

 

 神威が身を乗り出す。イタスカは米国籍の沿岸警備艦だ。いまのところ艦娘として目覚めてはいないが、アメリア・イアハートの飛行支援を行い、彼女の遭難後は神威やレキシントンと共に捜索に参加した。神威からすれば旧知の艦だろう。

 

「アメリアが遭難した時の音声記録ってこと? そんなもの残ってないはずよ!」

 

 そう、当時の沿岸警備隊は、録音装置の設置は必須ではなかった。今残るアメリアの最後は、紙の記憶のみだ。つまり、この音声は本来なら存在しない。

 

「もし疑うなら、声紋を調べて欲しい」

 

 俺は迷わず壁の受話器を手に取る。

 

「大淀はいるか? ああ、すまんな。忙しいところ悪いが、海軍のアーカイブからこれから言う音声データを照会してくれ。多分米軍から提供されてるはずだ」

 

 ドキュメンタリー番組で見た記憶がある。アメリアの肉声はインタビューの音声が残っていたはずだ。海洋遭難の記録は、深海棲艦の暗躍も考えられるから、人類軍は可能な限りの情報共有をしている。今戦場になっている海域で、過去に遭難しているアメリアは、その最たるものだろう。

 

「信じられないが、そう言うことだ」

「……嘘でしょ?」

 

 時間は40分ほどかかった。これほど古く劣化した音声を、それだけで照会してしまうのは、流石は妖精の技術と言うところだが。

 結論を言うと、50%の確率で、声紋は一致した。普通なら疑問符がつく数字だが、つじつまが合い過ぎる。そしてアオに嘘をつくメリットはない。少なくとも今のところは。

 

「女王のアーカイブは、ある海域で”何者か”からこの記録を受け取ったと言っている。でも詳細は分からない。女王も代替わりした」

 

 行ってみるまで分からないってことか? それはあまりにも……。

 

「それはどこだ?」

「トラック島北東。とある」

 

 トラック島か。敵の勢力圏ではないが、競合地域ではある。ぶっちゃけ危険はある。

 

「それは何のための情報ですか? 友好の証でしょうか?」

 

 サラトガが穏やかに問う。だが一切警戒を解く様子はない。

 

「そうではない。これは賭け」

「賭け? Gamble? 何をbetするの?」

 

 話が見えない中、アイオワだけは余裕そうに水を向ける。悩んでいても、米海軍の柱は伊達ではない。

 

「……人間、そして艦娘たちとの和解」

 

 その言葉に、俺たちは順番に顔を見合わせた。和解、というのは、多分和平とは違う何かだ。

 

「アメリアの記録は、現存する最古の深海棲艦と人間のコンタクトである可能性が高い。そこで私たちは知ることが出来る。私たちは何なのか。人間と艦娘は敵なのか」

 

 おいおい、やめてくれよ。その話はでかすぎる。なんで俺のところに持ってくるんだ? 神威やレキシントンやコロラドは、この太平洋で何人も戦ってるんだぞ?

 

「ツダヒロム。女王はあなたを立会人に選んだ。見届けて欲しい、本当の歴史を」

 

 久しぶりに胸ポケットに手が行った。これは政治の話じゃない。彼女たちのありかたの問題。アイデンティティの話だ。

 

「もし深海棲艦が俺たちの天敵に過ぎなければ、お前たちはどうする?」

「それはそれでいい。交渉は継続する。でもきっと、艦娘たちの不信感は消えないまま」

 

 それはまるで脅しじゃないか。そうも思ったが、放置しても問題の先延ばしではある。かと言って罠の可能性も皆無ではない。

 

「ワタシも同行させてもらう。そしてセイイを見せる」

「誠意? 何するつもりよ?」

 

 不信感一杯で瑞鶴が問うが、彼女はそれを受け流し、ネクタイをずらしシャツのボタンを外した。思わず目を逸らす。

 そして視線を戻した時、胸から取り出したらしい小さな球体。彼女の瞳と同じ、赤と青に輝いている。アオはそれを握りしめると。それはひび割れ、赤い輝きが強まる。そして、彼女の瞳から色素が失われ、弱まって行く。

 

「いまワタシは”破砕”した。耐久力を失い、極めて無防備な状態」

 

 翔鶴が俺を見た。これは頷いて返すしかない。海軍の情報とも合致するからだ。

 

「ワタシが裏切ったと思うなら、いつでも撃っていい」

 

 とんでもないことを言いやがる。確かにこいつは、俺たちに賭けを挑んできている。そして彼女は、自分の命をベットした。

 それを受ける価値が、俺にあるかどうかだが。

 

「提督さん、やろうよ!」

 

 敵意をむき出しにしていた瑞鶴が、前のめりに賛同した。

 

「駄目よ瑞鶴!」

 

 たしなめる翔鶴を振り切る顔は、戦場を駆ける五航戦の瑞鶴だ。

 

「命をかけて教えてくれたんでしょ? なら少しだけ信じるべきだよ。一度だけは」

「そうね。nestに入らないとtigerはgetできないわ!」

 

 それにアイオワも、乗った。

 

「私も、行きたいです。手遅れだとしても、アメリアにたどり着けるなら。」

「そうね。和解とか分からないけど、私もけじめをつけたい。」

 

 とりあえず綾郷さんを呼び出して、と考えてやめた。結果次第で講和交渉のノイズになる。望まない結果が出た場合、俺の胸にしまい込むしかない。どうせやることは変わらんのだから。

 後は俺の決断次第だが。

 

 目を閉じて思い浮かんだのは、赤城や漣、泊地のみんな。俺は、彼女達を信じたからここにいる。俺もアオを一度だけ信じてみよう。それに、不測の事態に備えて策を練るのが提督じゃないか。

 

 俺も士官の端くれ。一度覚悟を決めると、あとは早い。

 

「演習室へ行こう。あそこなら話は洩れないし、情報も全部閲覧できる」

 

 艦娘たちは神妙にうなずき、片づけを始める。とんだレクリエーションになっちまったな。映画見るつもりが、本当の宝探しとは。

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